異世界トレーナー録 ハンチョウ   作:秋乃落葉

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第二話「トレーナー」

 宮本から告げられた事実に、思わず声を上げる大槻。

 

 

 

 

「ワシらがトレーナーって・・・どういう・・・」

 

「おいおい・・・大槻までどうしたんだよ?そろって記憶喪失にでもなったのか?」

 

「記憶喪失っていうか・・・異世界に来ちゃったみたいなんスよね、俺ら」

 

「お、おい・・・!石和・・・!」

 

 

 

 

 石和のもらした言葉に、焦るように言う大槻。宮本からしたら、普段から知る人物が突然異世界から来たと言い出している状況・・・。悪ふざけでもしているか、気でも狂ったかと思われるのが関の山・・・!

 

 

 

 

「異世界ってお前・・・。そんななぁ・・・。いや、でも今日のお前らの様子がおかしいのも事実だし・・・」

 

 

(お・・・!?意外・・・!笑い飛ばされるものかと思いきや・・・)

 

 

 

 

 まさかの宮本、信じる余地あり・・・!都合のいい展開・・・!

 

 

 

 

「・・・にわかには信じがたいと思うが・・・。石和が言ったことは事実。ワシらは・・・ウマ娘がいない世界から来た・・・!だから・・・教えてほしい・・・!この世界のワシらの立ち位置・・・!」

 

「・・・わかった。大槻がこんな無意味な嘘をつくとは思えないし・・・。信じることにする」

 

 

 

 

 ご都合展開・・・!圧倒的ご都合展開・・・!だが、大槻らにとって好都合。ひとまず大槻らは、元の世界での自分たちの境遇を宮本に説明・・・。帝愛に借金のかたに取られ、地下強制労働施設に収容されていたこと。ペリカを使って一日外出を楽しんでいたこと。その外出時に、目を覚ましたら、この世界にいたこと・・・。

 

 

 

 

「・・・以上が、ワシらのこれまでの境遇・・・!」

 

「地下労働って・・・。随分ヤバいことさせられてたんだな・・・。まあこっちでも半ば強制的に働かせてるのは同じようなもんだが・・・」

 

 

 

 

 大槻の話を聞き、宮本は軽く引いている様子・・・。どうやら元の世界より扱いはいいとみて、沼川は胸をなでおろす。

 

 

 

 

「それで・・・こっちの世界でのワシらは・・・」

 

「ああ、お前らは借金のある債務者・・・これは変わらない・・・。だが、お前らの言う帝愛という組織・・・これは存在しない。無論、俺も帝愛の職員ではない」

 

「え・・・!?帝愛が存在しないって・・・じゃあ俺たちはどこに借金を・・・!?」

 

「お前たちの債権を有するのはシンボリグループ・・・。トレセン学園現生徒会長のシンボリルドルフを始め、多くの名ウマ娘を輩出している名門・・・。グループの金融会社、シンボリファイナンスに多額の借金を作ったお前らは・・・類まれなトレーナーという身分を使って借金返済を求められている・・・!」

 

 

 

 

 帝愛が存在しない・・・。大槻たちにとっては考えられないことであるが、この世界ではそれが普通・・・。

 大槻が軽く調査しただけでも、この世界にはウマ娘に関係する企業や名家が存在する。宮本の言うシンボリグループ、メジロ家、サクラ軍団、サトノグループなど・・・。こういったウマ娘と密接に関りがある巨大組織が社会を牛耳っているからこそ・・・ウマ娘産業が成り立っている。とどのつまり、元の世界とは全く違う社会であって当然・・・!

 

 

 

 

「なるほど・・・。ワシらはトレセン学園に強制収容され・・・借金返済のために労働させられている。これはこちらでも同じということでいいですか・・・?」

 

「いやいや・・・!人聞き悪すぎ・・・!別にお前らを閉じ込めたりしてないし、返済分を差っ引いた給料も出してる・・・!」

 

「えっ・・・!じゃあ俺たち、一日外出券買わなくても外に出られるんですか!?それにペリカは・・・!?

 

「当たり前だろ・・・!強制収容とか、完全に人権侵害・・・!ペリカについては知らん・・・!なんだその独自通貨は?使え・・・!日本円・・・!」

 

 

 

 

 宮本から説明を聞く限り・・・強制労働ではなく、住み込みで働いているようなもの。待遇も帝愛のそれとは雲泥の差・・・!

 そもそも・・・トゥインクルシリーズ、現実の競馬で言う中央競馬のトレーナー資格というものは、非常に難関な資格であるという。それを有する大槻たちは、貴重な人材・・・。そのため、トレセン学園に送られ、シンボリグループからの監視役兼サポート役の宮本と共に、借金返済を目標に働かされているとのこと・・・!

 

 

 

 

「なんというか・・・真っ当・・・!闇金も真っ青な帝愛の取り立てとは大違い・・・!」

 

 

 

 

 沼川、感動・・・!劣悪な地下で数十年の労働を強いられる帝愛と違い、あまりにも有情なシンボリファイナンス・・・!どうせ異世界に来たなら借金も帳消しにしてほしかったと思わないではないが・・・贅沢は言わない・・・!この際・・・!

 

 

 

 

「う~ん・・・。トレーナーか・・・」

 

「どうしたんです、班長?」

 

「いや・・・トレーナーという身分があるのはいい。担当のウマ娘が活躍したら相応の報酬が入ってくるようだし。だが実際問題・・・ワシらにはトレーナーの知識がない・・・!果たしてトレーナーとしてやっていけるかどうかは、この世界での資格があるかとは別問題なんだ・・・!」

 

「うっ・・・!確かに・・・!」

 

 

 

 

 そう・・・。大槻たちには、ウマ娘の世界の知識がない。トレーナーという肩書は用意してあっても・・・それに見合う知識があるわけではない。

 

 

 

 

「それはこちらとしても困る・・・。シンボリファイナンスとしても、お前らのトレーナー資格があるからトレセン学園で働かせている。それができなくなっては・・・債権とりっぱぐれ・・・!」

 

「ぐ・・・!何とかならないんですか、宮本さん・・・!」

 

「何とかって言っても・・・。するしかないだろ・・・猛勉強・・・!本部には何とか理由をつけて返済を待ってもらうようにするから・・・お前らは遅くとも来年の新入生が入ってくる四月まで・・・約十か月でトレーナーとしてやっていける知識をつけてもらう・・・!」

 

 

 

 

 こうして宮本を通してシンボリファイナンスと話を付けた大槻たちは・・・トレセン学園で生活を送りながら、トレーナーとしての技能を身に着けることとなった。この歳から新しいことを覚えるのは、と思う大槻たちだが・・・ウマ娘世界の体が学んだことが残っているのか、不思議とするすると学習が進んでいった・・・!あの石和でさえも・・・!

 

 

 

 

     ◇     ◆     ◇     ◆

 

 

 

 

 大槻たちがウマ娘の世界に転移して一か月・・・。寝食を惜しんで猛勉強を進める大槻たちは・・・覚えるというよりも、まるで忘れていたことを思い出していくかのように知識や技能を身に着けていた・・・。

 

 

 

 

「いやぁ、最初はどうなるかと思ったけど・・・何とかやって行けそうですね、班長!」

 

「ああ・・・。この世界の体が覚えているのか、ありえんスピードで学習が進むからな・・・。石和が高速で参考書を読み進めている光景は、脳が混乱するがな・・・!」

 

「こんなに勉強が進むの、人生で初めてっス・・・!」

 

 

 

 

 実際、一年弱で0からトレーナー試験を合格するレベルまでの勉強をするというのは無理難題に等しいスケジュールだったが・・・今のペースならばそれも不可能ではない。

 

 

 

 

「これがチート能力ってやつっスかね・・・!?」

 

「チート能力っていうなら最初から知識欲しかったけどな・・・!」

 

「いや・・・沼川、石和・・・。ワシらにはあるだろ。この世界で絶対的な優位と言える、圧倒的チート能力・・・!」

 

「えっ・・・?」

 

「圧倒的・・・チート能力っスか?」

 

「そう・・・!ワシらがトレーナーとしてほぼ確実に成功できる、圧倒的チート能力・・・!『原作知識』・・・!」

 

「「あっ・・・!!」」

 

 

 

 

 沼川と石和に電流走る・・・!

この世界の知識をつける過程で・・・今トレセン学園に在籍している有名ウマ娘を知った大槻たち。例えばシンボリルドルフ等・・・既に大きな結果を残した、誰もが知る名馬の名前が散見された一方で、少なくとも大槻が調べた限りではまだトゥインクルシリーズでデビューしていなかったり、存在自体が見当たらない名馬もいた。

 

 

 

 

「ものの本によれば・・・ウマ娘は別の世界の馬の名前をもって生まれるという。そして、能力も無関係ではない・・・!」

 

「うおっ・・・!てことは・・・!」

 

「ククク・・・!ワシらだけに許された、『史実の競馬の知識』を使うという・・・圧倒的インチキ・・・!もし仮に・・・これからトレセン学園に入学してくるウマ娘の中から、名馬の名を持つ者を見つけ出してスカウトできたなら・・・?」

 

「ぐおっ・・・!最上級の才能を持つウマ娘を見つけ出すことが可能・・・!トレーナーとしての箔が付くばかりか・・・GIを勝てれば・・・手に入る・・・!大金・・・!」

 

「そういうこと・・・!普通のトレーナーたちが、砂漠の中で砂金を探している中で・・・ワシらだけ探知機を持っているようなもの・・・!使わない手はない・・・このアドバンテージ・・・!」

 

 

 

 

 無論、このトレセン学園に入学するだけでも選ばれしウマ娘と言えるのだが・・・その中でも勝利を挙げ、さらには重賞、GIの高みまで届くウマ娘を見つける。それが如何に難しいことかは、言わずもがなである・・・。だが大槻らは、知っている・・・。どの原石が光り輝く宝石になるのかを・・・!

 

 

 

 

「・・・俺、急に知らない世界にきて、色々不安で帰りたいって思うこともあったんですけど・・・何とかやっていけそうでよかったです・・・!班長のおかげで・・・!」

 

「あ・・・?なんだ沼川、そんな風に思ってたのか・・・?」

 

「そうだぞ。俺なんて最近は元々この世界にいたような感じがしてるくらい・・・!」

 

「いや・・・!石和はもっと繊細になれよ・・・!班長も言ってやってください・・・!」

 

 

 

 

 異世界転移した当初は、不安から少しピリピリしていた一行だが、一か月経って環境にも慣れ・・・さらに理外の学習の進みから・・・ようやく生まれる・・・余裕・・・!久々の和やかな会話・・・!

 

 

 

 

「まあ・・・ワシもそういう気持ちにならんではないが・・・。正直・・・帰れるとしても帰る理由ない・・・!地下に・・・!」

 

「確かに・・・。今はトレーナー技能の勉強が忙しくて出かけてないですけど、高いペリカを払わなくても外に出かけられるし・・・。返済分とか引かれて安いとはいえ、給料も円で貰えますもんね・・・」

 

「飯も食い放題で食べさせてもらえますし、地下と違って美味いっス!」

 

 

 

 

 列挙すればするほど、地下ではあり得ぬ厚遇・・・!というか地下が異常ではあるのだが・・・その異常の中にいた大槻たちからしたら、現状は天国・・・!進んで地獄に戻りたいものなどいない・・・!

 

 

 

 

「だがまあ・・・ここのところ多忙で、そういう気持ちを忘れていたというのは事実・・・。知らず知らずのうちにため込んだストレスが負担になっていたのやもしれん・・・!なあ沼川・・・!」

 

「え?それはまあ・・・そうかもしれないですけど」

 

 

 

 

 ニタリ・・・!笑う大槻・・・!

 

 

 

 

「いくか・・・!久々の・・・『一日外出』・・・!」

 

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