六月末・・・。五月雨続く雨模様の中、大槻たちは・・・宮本の運転する車に揺られ、『一日外出』に繰り出していた・・・!
「宮本さん、休みなのに車出してもらってすみません・・・!」
「おう、俺も出かけたかったし全然大丈夫・・・!」
「でも、久々の外出が雨降りで残念ですね、班長」
「クク、心配するな沼川・・・!悪天候でも楽しめる・・・!」
「お・・・そろそろ見えてくるぞ・・・」
雨天の日曜日・・・大槻たちが訪れたのは、この世界に来た当初、楽しめなかった心残りのスポット・・・東京レース場・・・!
この日は東京で重賞があるわけではなかったが、阪神レース場で宝塚記念が開催される関係で、観客はかなりの人数の入場が予想されていた。
「しかし大槻、出かける先がレース場でよかったのか?お前らの世界では四足歩行の生き物が走るギャンブルだったようだが・・・こっちでは賭けはできないぞ?」
「わかってます宮本さん・・・!勿論今回はギャンブルを目的に来たんじゃない・・・。むしろ・・・この世界の『正しいレースの楽しみ方』を実践しに来た・・・!」
大槻のいう正しいレースの楽しみ方というのは・・・他でもない、ウマ娘のレースを観戦し、ウイニングライブを楽しむ・・・この世界のウマ娘ファンたちが愛してやまない体験である。
トレーナーとしてウマ娘の育成に携わる以上、その興行を見て楽しむ側の経験も理解しなくてはならない・・・というのが大槻のスタンス。息抜きとこれからに役立つ経験の双方を両取りするための外出であった・・・。だが敢えては言わない・・・。息抜きを題目にしているところに、仕事の話を出してしまえば・・・せっかくの外出が台無し・・・!息抜きにならない・・・!
「競馬に行くっていうかどっちかっていうと・・・フェスに行くみたいですよね。前は色々衝撃的過ぎて、ウイニングライブはほとんど覚えてないんで、楽しみです」
「俺は飯が楽しみっス!」
「石和はどこでもそうだろ・・・!」
ワイワイと車内での会話を楽しみつつ・・・到着・・・!
東京レース場・・・!
大槻たちは入場口で入場券を購入し、入場・・・。金額、500円・・・!格安・・・!
「入場料、安いっスね・・・!競馬の入場料と同じくらい・・・!」
「うむ・・・。馬券という集金システムがない以上、入場料は高くしてあるかと思ったが・・・かなり良心的・・・!」
「その分グッズとかで稼いでるんですかね・・・?GI出走メンバーのグッズとかはかなり売れそうですよね・・・」
レース場の門をくぐった大槻たちは、人の流れのままに・・・スタンドの方に歩いていく。道すがら名物だというウマ娘の銅像などを見ながら場内を歩いてくと・・・。
「さあいらっしゃい・・・!welcomeチャンスの引き換えはここ・・・!当選された方はこちらへ・・・!」
「班長・・・!なんかやってますよ・・・!」
「うむ・・・。何やら抽選のようだが・・・」
「ああ、ありゃレース場に来場した時にスマホアプリでグッズの抽選ができるキャンペーンだな・・・。無料でできるからやってみたらどうだ?」
「ほう・・・!」
宮本に手順を教わり・・・大槻たちは各々のスマホにアプリをインストール・・・。抽選・・・welcomeチャンス・・・!
「あちゃ~!外れだ・・・!」
「俺も外れっス・・・!」
「お、俺当たった・・・!一番下のE賞だけど・・・!」
沼川と石和、外れ・・・!宮本は辛うじてE賞当選・・・!獲得・・・ウマ娘ステッカー・・・!
残る大槻は・・・。
「ククク・・・!持ってる・・・!今日のワシ・・・!」
「おっ!まさか大槻お前・・・」
「フフフ・・・!見てください宮本さん・・・!当選・・・!A賞・・・!」
大槻、豪運・・・!引き当てた・・・!特上の結果・・・!A賞・・・!
「うわっ!班長すごっ・・・!」
「いいな~!結構いいもんもらえるんだよな、これ」
「フフフ・・・!賞品をもらいに行きましょう・・・!宮本さん・・・!」
大槻と宮本は、抽選結果が表示されたスマホを片手に、賞品引き換えの列に並ぶ。
「お待たせしました・・・!当選画面の提示をお願いします・・・!」
「これ・・・!お願いします・・・!」
「おお・・・A賞当選・・・!おめでとうございます・・・!ではこちら、A賞の特大ぬいぐるみです・・・!」
「えっ・・・」
大槻、獲得・・・!全長八十センチの巨大ぬいぐるみ・・・!これには浮かれていた大槻も困惑・・・。
(このぬいぐるみ、デカすぎ・・・!一応袋に入っとるとはいえ・・・圧倒的手のふさがり・・・!幸運が一転・・・観光の邪魔・・・!くっ・・・どうする・・・!?)
片手に持って回れる程度ならまだしも・・・このサイズとなると、かなり邪魔・・・!このままでは、東京レースを見て回るという主目的が達成できない・・・。
辺りを見回す大槻・・・。コインロッカーでもあれば、と思ったが、そこで目に入る・・・物欲しそうな目でこちらを見るウマ娘の幼女・・・!
「お嬢さん・・・!よかったらこのぬいぐるみ、もらってくれないかい・・・?」
「いいの!?」
「ああ・・・!おじさんにはもったいないから・・・!大事にしてね・・・!」
ぬいぐるみをもらった幼女は、飛び跳ねるように親の元に走っていく。悪いです、何かお礼を、という親御さんの申し出を固辞・・・。ニコニコ顔の子供に手を振り、皆のもとに帰る。
「班長、賞品上げちゃってよかったんですか?せっかく当たったのに・・・」
「ん・・・まあワシぬいぐるみは要らんし・・・。どうする訳でもないからな」
「え〜・・・でも非売品ですし、フリマサイトとかで売れば結構儲かったんじゃ・・・」
「そうかもしれない・・・。だが沼川、幸運に振り回されてはいかんぞ」
「え・・・幸運に、振り回される?」
人には往々にして・・・ある・・・幸運に振り回されてしまうこと・・・。読者の皆さんにも経験があるかと思うが・・・例えば、ショッピングをしている際・・・不意に理外の大安売りに出会うことがある。それを見た時、多くの人は・・・これ幸いと欲しくもないものを買いがち・・・!
そして、ふと冷静になった時に初めて、いらないものを無駄に買ったことに気が付く・・・。
「幸運を掴んだ時人は・・・この機を逃すまいと、正常な判断ができなくなる。そして固執するあまり、自分が本当にしたかったことを見失ってしまう・・・!幸運を掴んだつもりがまるで逆・・・!幸運に掴まれ・・・振り回される・・・!」
「は、はぁ・・・なるほど・・・?」
「仮にあのぬいぐるみを持って歩いたなら・・・手がふさがって買い食いもままならないし、人が多い中で持ち運ぶストレスにもなり・・・せっかく楽しみに来た外出がおじゃん・・・!そうなってしまうくらいならば・・・必要なんだ・・・!いっそ幸運を手放してしまう勇気が・・・!」
「うっ・・・!確かに、この混雑の中ではめちゃくちゃ邪魔・・・!」
「フフ・・・。それにここで恩を売ったあの子供が・・・実は名馬で、将来ワシの元に戻ってきてGIを勝つかもしれない・・・!」
「はははっ・・・!そうなったら最高ですね・・・!」
入場早々そんな出来事もありながら、大槻たちはスタンド内へ到着。元の世界であればずらりと無人の馬券販売機が並んでいるところ、馬券という概念がないため、こちらにはない・・・と思いきや、同じような機械が並んでいるのである。
「あれ・・・?宮本さん、こっちでは賭けは出来ないんですよね・・・?あの機械は何ですか?」
「ああ、あれ?そうだな、実際に見た方が早いから、ちょっと待ってろ」
そういうと宮本は、場内に置いてあるマークシートに書き込み、小銭と共に機械に投入・・・。機械から排出された券のようなものを取り、戻ってくる。
「ほら、これを買うためのもんだよ」
「これ・・・ウマ娘の写真が印刷されたカード・・・?」
「ああ、正式名称『勝ウマ娘投票券』・・・通称『ウマ券』だ」
ウマ券と言われたそれは・・・掌に収まるサイズに、ウマ娘の写真、ウマ娘の名前やレース名などなど・・・裏にはウマ娘のデータ等も記載があるカード。
「こいつを買って、レースに出走するウマ娘を応援するのがレース観戦の基本みたいなもんだな」
「ウマ券ですか・・・。ちなみに当たったら何かあるとか・・・」
「そういったものはないな。言った通り、ウマ娘の応援をするためのものだから、まあコレクションだな」
「ふむ・・・。これもグッズの一環のようなものか・・・」
宮本の購入したそれは、平場のレースのもののため、比較的シンプルなデザインのものだが、これが重賞、GIにもなれば、かなり力の入った装飾になり、デザインのパターンも複数用意されるのだという。
「なるほど・・・。ワシらも買ってみるか?」
「そうっスね。誰が誰かわかんないっスけど」
「宮本さん、出走表とか載ってる新聞って売ってるんですか?」
「あるある。売店があるから買いに行くぞ」
そのまま少し場内を探すと、すぐに見つかる・・・売店・・・!大槻たちは何を買っていいかわからないので、宮本にまとめて買ってもらうよう頼む。
「ほれ、買ってきたぞ。ウマ娘エイト・・・!」
「ウマ娘エイト・・・。完全に俺らの世界で言うところの競馬エイトですね・・・」
「なんだ、エイトは知ってるのか?やっぱりエイトが一番情報量あるからな~」
ウマ娘専門紙・・・ウマ娘エイトを手に入れた大槻たちは、そのままパドックへ向かう。レース前になれば出走するウマ娘たちが出てくるところであるが・・・時刻はまだ午前九時過ぎ・・・。第1レースのウマ娘たちが出てくるにも早い時間。
「ちょっと時間があるな・・・。なんか朝メシ買ってくるか?」
「賛成っス!」
「俺場所とっとくからなんか買ってきてくれ。アイスコーヒーも頼むわ」
「あ、じゃあ俺も宮本さんと残っときます・・・!」
「はいはい・・・!じゃあ適当に軽食買ってくる・・・!石和、いくか・・・!」
「ウッス・・・!」
大槻と石和は、場所取りの二人を残して、軽食を買いに場内を散策・・・。フードサービスの多いエリアにやってきた。
「結構並ぶな・・・。石和、他に食べたいものがあれば買ってきていいぞ。ワシ、ここでサンドイッチとコーヒー買っていくから、宮本さんと沼川のところで合流な・・・!」
「了解っス・・・!」
二人はさらに分散して店に並ぶ・・・。大槻は軽食店にて人数分のコーヒーとサンドイッチを購入・・・。それをもって宮本たちの待つパドックへ戻る。
「お待たせ・・・!コーヒーとサンドイッチ・・・!」
「おっ、サンキュー・・・!」
三人はサンドイッチを頬張りながら、石和を待つ。なかなか戻ってこない石和だったが、ようやく戻ってきたときには、片手にビニール袋を提げ、もう片手にはプラスチック皿に乗った串もの・・・。
「買ってきたっス・・・!銀だこと、串カツ・・・!」
「お前、朝飯で多いって・・・。すぐ昼飯もあるんだぞ?」
「そうっスか?余ったら俺食べるんで大丈夫っスよ?」
石和の食欲に呆れつつ・・・大槻はウマ娘エイトに目を通しながら待つ。そこから少しして、ようやくパドックの奥からウマ娘が登場してくる。
長くなったので次回に続きます。