ダンジョンに神がいるのは間違っているだろうか 作:ほんじゅくバナナ
──人は……"神"を恐れるのではない……
"恐怖"こそが"神"なのだ
◆
響く号令。鈍器と大盾の衝突音。喧騒に包まれるはダンジョン49階層。
『冒険者』と二本角を持つ馬面のモンスター――『フォモール』との戦闘の合図だ。
フォモールが振り下ろした戦斧を、大盾を構えたドワーフの戦士が受け止める。それを囮として、本命の後ろから迫っていた獣人の一撃が敵を屠る。
エルフ達から放たれる矢と魔法を掻い潜りながら、モンスターへと斬りかかるアマゾネスの姉妹。そして、それらをフォローするかのように飛び回る黄金の少女。
彼らの連携は完璧だった。前衛を務める戦士達も、後衛で弓や魔法の援護を行うエルフ達も、誰もが一流と呼べるだけの実力を有している。
だがしかし、それでも……この場にいる者達全員が全力を出し切って尚、その表情には苦悶の色があった。
相手は『深層』のモンスター。戦闘力は勿論、数も知能も『下層』以上のモンスターとは比べ物にならない。
屠れども屠れども途切れることなく押し寄せ、その数をもって飲み込もうと襲い掛かってくる。
じりじりと後退する防衛線。徐々に疲弊していく前衛たち。
そんな状況の中、遂に防衛線の一角が崩れた。
群れの中でも一際巨体を誇る一体が好機を見つけたが如く猛進し、
巨躯の魔獣は前線を突破してなおも突進を続け、前線に空いた穴を埋めようと戻ってきた冒険者たちへと激突した。
不味い。
それまで前衛に守られていた魔導士が青ざめ、動揺で詠唱が途切れてしまう。
すなわち火力の欠如。ただでさえ押され気味だった趨勢は傾こうとして――。
その隙が致命的なものだと認識した瞬間、
ヒューマンや
武器である黄金の棒を肩で担ぎ、背中には四つの太鼓を背負っている。
「任せろ」
返事と同時に迸る一条の雷光。あっという間にフォモールに接近したと思えば、すでに雷光は人の形を象っていた。焦りもなく、油断もなく、男は必殺を叫ぶ。
「
腕を雷に変化させてパンチの要領で放つだけ。
輝きが倍増し、極太の
それが一瞬にして、一体のフォモールを貫き焼き払う。
『オオオオオオオオオオオオオオオオウッッ!?』
直後、雷光と共に爆発的な衝撃波が巻き起こった。衝撃で大地が揺れ、眼を焼かんばかりの光が溢れる。
瞬く間に十体を超える同胞たちが屠られたことでようやく事態を把握したのか、残る数十体のフォモールが一斉に雄叫びを上げて襲いかかる。
だが、それも一瞬のこと。
「ヤハハハハハ!一億V
再び放たれた雷光が今度は全方向に射出され、襲い来る全ての敵を呑み込んでいった。
「……すっげぇ」
呆然と呟いたのは誰だったか。
目の前で行われた圧倒的過ぎる力技に誰もが言葉を失い、ただ立ち尽くす中、その声はやけに大きく響いて聞こえた。
だがそれも仕方ないだろう。
なにせあの一撃は、本来であれば超長文詠唱を必要とする魔法並の威力だ。
それを瞬時に放ったという事は、あの男はそれだけの魔力を一瞬で練り上げたという事であり、それを行使するには膨大な集中力と精神力を要求される筈なのだから。
だというのに男は息一つ乱さず、涼しい顔で立っている。
それはつまり、今の一連の技も彼にとっては容易いものであると証明している訳であって。
「あれだけ強いなら、もっと早く出てくれれば良かったのに……」
そうすれば自分達だってあんなに苦労しなかっただろうに。
思わずそうぼやく仲間の声を聞きながら、団員達は内心同意しつつも苦笑を浮かべるに留めておいた。
確かに言う通りではあるのだが、今回彼が前線に出なかった理由は何よりもまず第一に『成長の促進』である事を彼らは知っているからだ。
実際、この階層に至るまで彼は一切の手出しをしてはいない。
しかしだからといって油断する事なく周囲に目を配り、常に危険の有無を確認していた辺り、その用心深さがよく分かるというもの。
そしてまた同時に、万が一にも自分達が危険な目に遭わないよう最大限配慮されている事も理解していた。
その姿に憧れる者がいる。
助けてもらったことに感謝する者がいる。
至らない己の実力に悔しがる者がいる。
彼の活躍を素直に称賛する者もいるだろうし、彼を妬む者も現れるかもしれない。
だが、それでも……彼は英雄だ。
ちょっとばかし言動に問題があるとしても、彼らにとっての英雄なのだ。
彼の背中に刻まれているのは滑稽な笑みを浮かべる
一柱の『神』と契りを結んだ、『
【ロキ・ファミリア】の最高戦力、Lv.7、【
オラリオ中に名を轟かす、神を騙る傲岸不遜な人間である。
リヴェリア「出番は?」