ウルトラマンゼロの使い魔   作:焼き鮭

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幕間その八「ウルトラマンだった男たち」

ウルトラマンゼロの使い魔

幕間その八「ウルトラマンだった男たち」

伝説魔獣シャザック 登場

 

 

 

 アンリエッタの命により、ティファニアをトリステインに案内するためにアルビオンに発ったルイズたち。途中、才人の感情の改竄が発覚したり、ガリアからの刺客怪獣に襲われたりと問題に見舞われたが、結果的には無事に全員で帰りのフネに乗ることが出来た。後はティファニアをアンリエッタの元まで連れていけば、任務は達成だ。

 そのフネの中で、ルイズたちの任務に協力したタバサは、鏡に向かって自分の髪をいじっていた。

「……」

 女の子なのだから髪くらいいじるものだろう、と思うなかれ。タバサは『タバサ』になってからこの方、お洒落のような女の子らしいことには全く興味を示すことがなかった。ジョゼフに復讐を果たすまでは、そういったことは全て切り捨ててきた。

 それが変わったのは、アーハンブラ城で才人に救われてからだった。あの時、タバサは才人に『勇者』を見た。それからタバサは救われた命を才人に捧げ、ウルトラマンゼロとして世界のために戦う彼を支える騎士になることを心に誓ったのだ。

 しかし……タバサの変化はそれだけに留まらなかったのだった。才人の顔を見ていると、才人を意識していると、変に心が高鳴るのを感じる。どこかそわそわとしてしまい、無意識に髪を整えたり、彼の姿を目で探したりする。ゴブニュに襲われていた時の危機的状況で、才人にキスしてルイズの嫉妬を招くという手段を咄嗟に思いついたのも、もしかしたらそれも関係しているのかもしれない。

 そんなタバサの変化に目敏く気づいたシルフィードは、タバサが恋をしているのだときゅいきゅい騒いでいた。しかし、タバサはそれを否定する。自分は勇者に仕える騎士なのだ。分不相応に、恋心を抱くなんて許されない。仮に自分が気を向けたところで、勇者が好きな人は……。だから、迷惑になるに違いない。

 タバサは熱に浮かされそうな自分の思考を冷ますために、意識を別のところに向けた。

 勇者といえば……疑似空間で自分とイザベラを助けてくれたウルトラマンダイナと、それ以前に……ファンガスの森に現れた、あの名前も知らないウルトラマンは今どうしているだろうか。それがふと気になった。

 才人とウルトラマンゼロは、別の世界からやってきたという。ならば彼らも別の世界にいるのか。そこで、どんなことをして過ごしているのだろうか……。

 

 ――無限に広がるマルチバースに浮かぶ次元宇宙の一つ。その中の地球は、かつて宇宙の彼方から悪意を持って攻めてくる「根源的破滅招来体」という存在の脅威に見舞われていた。だが地球は、人間と、怪獣と、そして『二人』のウルトラマンの力によってその脅威を打倒したのであった。

 それから数年後……二人のウルトラマンの片方『だった』青年は、とある研究施設の格納庫にて、カナダのアルバータ州に広がる樹海に建つログハウスにいる女性と電話していた。

「キャス、エントの調子はどうだい?」

『バッチリよ! もうプログラムには何の欠陥もない。ガム、あなたやみんなが手を貸してくれたお陰でね』

 女性の名はキャサリン・ライアン。実際に根源的破滅招来体に立ち向かい、地球を守った天才児集団アルケミー・スターズの一員であり、自然循環システム・エントの開発者である。彼女の発明したエントにより、人間により伐採されてきた森林は徐々に回復していっているのだった。

『プアァ――――――――!』

『キュウー!』

 テレビ電話に映る、ログハウスの窓の外の樹海の光景を、背中にヤマアラシのようなトゲを生やした巨大怪獣が、四匹の子供をぞろぞろ引き連れて横断していった。怪獣の名はシャザック。かつてこの樹海で人食いの伝説の魔物として恐れられていたが、実際は温厚な性質の怪獣だ。キャサリンはエントの起動実験を巡ってシャザックと争ったこともあるが、その時のエントには致命的な欠陥があり、シャザックはそれを止めようとしていただけということを知って、己の過信を深く反省したキャサリンはアルケミー・スターズの仲間の手も借りて、今度こそエントを完成させたのであった。シャザックも、もう攻撃してくることはない。

 そしてその仲間の一人が、今通話している青年……かつてウルトラマンガイアであった、この高山我夢である。

「よかった。君のエントで自然が復活したら、人間と怪獣は本当に共存できる世界に近づくかもしれない」

『私も、その世界が一日でも早くやってくることを望んでるわ。怪獣も人間も、地球の自然の一部。一緒にこの地球で生きていくのが、あるべき姿だわ』

 根源的破滅招来体を倒したのは、アルケミー・スターズだけの力でも、ウルトラマンだけの力でもない。人間と怪獣、そしてウルトラマン。この地球に生きる全ての命が手を取り合うことで勝利と未来を掴めたのだ。

 しかし人間と怪獣は生活の大きな違いから、未だに交わって生きていくことが出来ない。互いに不干渉を貫いているのが最善という現状である。だが、我夢はそんな状態もいつかは変え、人間と怪獣が本当に共に生きる世界を作ることを目指しているのだった。

『ガム、私たちが護った地球の未来を、私たちで作っていきましょうね!』

「ああ。がんばろう!」

 キャサリンとの電話を終えると、モニターに飛行機をデフォルメしたかのようなCGモデルのキャラクターが表れた。我夢の作った人工知能、PALである。

『ガム、お客さまです』

「客?」

 格納庫の扉が開かれ、もう一人の『ウルトラマンだった男』が入ってきた。

「久しぶりだな、我夢」

「藤宮!」

 彼の名は藤宮博也。もう一人のウルトラマン、アグルに変身していた。一時は地球を守るためには、自然を壊し続ける人間を滅ぼすしか方法がないと思い込んでガイア=我夢と衝突していたが、挫折と復活を何度も経験したことで、今は迷いを捨て去って最も良い地球の未来を実現する活動を精力的に続けている。

 ウルトラマンとしての最後の戦いを終え、それぞれの道を歩み出した我夢と藤宮。この二人がこうして対面するのは、本当に久しぶりのことだった。

「ガクゾムとの戦い以来じゃないか。今日はわざわざこんなところまで、どうしたんだ?」

「何、お前が最近資金集めに熱を入れて、何かを作っているらしいとの噂を聞いてな。様子見も兼ねて、何をやってるのか少し教えにもらいに来たんだ」

 我夢は大学卒業後、地球防衛機構『G.U.A.R.D.』に就職して、己の頭脳を地球の安寧や再び現れるかもしれない根源的破滅招来体に対する防衛機能構築のために役立てていた。しかし最近は、思い立ったように何かの資金を集め、研究室にこもっている時間が多くなっていた。

「お前のことだ……。何か、大きな事態に対する準備をしてるんじゃないか?」

「さすが鋭いな、藤宮……。まだ完成はしてないけど、同じウルトラマンだった君にも関係することかもしれない。ご希望通り見せてあげるよ、今僕が作ってるもの」

 我夢が壁際のスイッチを押すと、壁の一面がスライドして開いていき、奥に隠されていたものが露わになった。

「これは……」

 そこに鎮座してあるのは、左右に暗緑色のホイールを備えた車両のような、ロボットのようなマシンだった。このマシンを紹介する我夢。

「アドベンチャー二号。出来てるのは外装だけで、肝心の時空移動装置はこれからだけどね」

「アドベンチャー……時空移動機か。この宇宙空間の更に外側、マルチバースを移動するための装置。ある意味では、リパルサーリフトを超えるお前の最大の発明だな」

 アドベンチャー号。我夢はレベル3バース、いわゆるパラレルワールドを股にかける大事件に巻き込まれた際、これの一号で滅びに瀕した世界に自ら突入、その世界を救ったことがあるのだった。

「XIG時代ほどに予算を自由に出来る訳じゃないから、自力で開発資金をやりくりしてるんだよ」

「なるほど。時空移動機ともなれば、安い買い物で作れるものじゃないからな。……しかし、二号機を作るのは別にいいとして、どうして今なんだ? 作ろうと思えば、もっと早くに出来ただろう」

 根源的破滅招来体を地球から追い払ってから、もう数年が経過している。そんな半端な時期に二号機製造に着手したのは何故なのか。

 その理由を、我夢は語り始める。

「……これは誰にも話したことがなかったことなだけど……実はパラレルワールドに旅立って、こっちに帰ってくる途中に、僕はまた別の世界に迷い込んだんだ」

「何だって? つまり、第三の世界にか?」

「どうもそうらしい。もっとも、ガイアに変身してるだけの短い時間で強制的に戻されたし、その世界は特別危機に瀕してるという風でもなかったから、時空移動にはそういうこともあるだろうとあまり気にしてはいなかったんだけど……」

「最近になって、そうじゃなくなった、ということか」

 藤宮の指摘に首肯する我夢。

「最近、同じ夢を連続して見た。それは第三の世界で僕が助けた少女に、姿の見えない恐ろしい闇が忍び寄って、少女を苦しめるという夢だった。その夢を見た直後にエスプレンダーを握ったら……光を失ったこれが、一瞬だけ光ったんだ」

 懐からエスプレンダー……ガイアになるために使用していた道具を取り出す。現在は変身する力を失ったために、ランプに光は灯っていない。かつては頻繁にこれを使っていたものだ。

「これはただごとじゃない。もう夢は見なくなったけど、いつかあの世界で、僕の力が再び必要になる時が来る。そう感じて、こうしてもう一度アドベンチャーを作り始めたんだ。またあの世界に行けるのかどうかは分からないけど……『その時』が来たとしたら、きっとこれが必要になるはずなんだ」

「なるほど、そういうことだったか……」

 理解した藤宮はしばし考え込んだ後、我夢に申し出た。

「分かった。もし俺の力も必要になると感じたのなら、いつでも呼んでくれ。すぐに駆けつけよう」

「いいのか? 藤宮」

「ああ。違う世界のことでも、人間と世界を滅びから守る。それが一度光を失っても、再びアグルに選ばれた俺がするべきことだと思う。それに、お前は一人だと何かと危なっかしいからな、我夢」

「ありがとう、藤宮」

 我夢と藤宮はうなずきあうと、互いの拳を突き出してガツンと合わせる。

 二人のウルトラマンだった男たちが、時を重ねて別々の道を進んでも変わることのない友情を、約束とともに確かめた瞬間であった。

 

 

 

≪解説コーナー≫

 

※キャサリン・ライアン

 

 『ウルトラマンガイア』第三十三話「伝説との闘い」で初登場した、天才児集団アルケミー・スターズの一員。通称キャス。自然循環保護システム・エントの開発者だが、エントの起動をシャザックが妨害していたため、シャザックを自ら倒そうとする肉体派でもある。この件で我夢がガイアであることに勘づき、以降は準レギュラーとして活躍した。

 

 

※アルケミー・スターズ

 

 1980年代に世界各地で誕生した天才児たちによる組織で、XIGと並ぶ『ガイア』の最重要チーム。我夢もこの組織に参加している。彼らの頭脳は様々な場面で我夢や地球を助け、最終決戦においても重要な役割を果たした。

 

 

※エント

 

 キャサリンが開発した自然循環保護システム。自然破壊によって荒れた森林を回復させるための装置だが、当初は重大な欠陥があったのでシャザックに攻撃されていた。自然コントロールマシーンのシンリョクはこのエントと構造が酷似しており、自然コントロールマシーンが未来の世界のロボットであることを示唆している。

 

 

※伝説魔獣シャザック

 

 「伝説との闘い」に登場した地球怪獣。地元の伝説では人食いの魔獣と言われているが、実際にはそんな要素は見られなかった。エントの欠陥に気がつき、一時はキャサリンと対立していた。親子の怪獣であり、子供は後述する第五十話、最終話では四体に増えている。

 最終章となる第五十話「地球の叫び」、最終話「地球はウルトラマンの星」で地球を根源的破滅招来体」から守ろうとする地球怪獣の内の一種として再登場し、ウルトラマンの力を回復させるミッション・ガイアに加わった。

 

 

※高山我夢

 

 アルケミー・スターズの一員の大学生であり、量子実験の際に地球の光と遭遇したことでウルトラマンガイアに変身する力を得た青年。その後大学を休学してXIGにアナライザーとして加入し、地球を狙う根源的破滅招来体の陰謀に立ち向かっていった。

 物語の主人公にして、前線に立つ戦闘要員ではなく科学分析等のバックアップを担当する科学者という役割なのはシリーズ初であった。戦闘訓練など受けていなかったので当初は肉体的に頼りなく、ガイアになっても苦戦が多かったが、中盤から自らの肉体も鍛えるようになって、次第に頼れる男となっていった。

 

 

※PAL

 

 我夢の作った人工知能。元々はガイアに変身している間にXIGファイターEXを飛ばしてアリバイ作りをするための遠隔自動操縦システム。ファイターEXは五十話でゾグに破壊されてしまったが、PALのデータは無事で、決戦後に我夢のパソコンの中で復活していた。

 

 

※藤宮博也

 

 ガイアとは別の、もう一人のウルトラマン、アグルに変身する男。元々は我夢と同じアルケミー・スターズのメンバーだったが、地球を守るための試算中、人類を消去すれば地球が存続するという結果が出たために脱退し、我夢とは違う地球を救う道を進んでいた。そのため我夢とは共闘することもあれば衝突もしていたが、後に行動の拠りどころだった計算結果が根源的破滅招来体に改竄されたものだったことが判明し、アグルの光を我夢に与えて失意のまま姿を消した。本来はそのままフェードアウトする予定だったが、予想外に人気が出たため復活し、再びウルトラマンアグルとなった。

 

 

※ガクゾムとの戦い

 

 OV『ガイアよ再び』を参照。時系列は本編直後。平成三部作はそれぞれ一作ずつOVが制作されたが、ティガは世代が交代、ダイナは本編途中の時系列である。

 

 

※G.U.A.R.D.

 

 対根源的破滅地球防衛連合の略で、エリアルベースを拠点とするXIGが空の守りとするなら、こちらはいわば地上の防衛隊。XIGとの共同戦線で事件に当たり、怪獣と戦うことも多い。時に胡散臭い行いを見せることもあったが、別に後ろめたいようなことは何もなかった。

 

 

※アドベンチャー

 

 正式名称はXIGアドベンチャー。名前はガリヴァーが乗船した帆船アドベンチャー号から。映画『超時空の大決戦』オリジナルのマシンで、簡単に言えばパラレルワールドを行き来する。別の世界に何らかの手段で移動するのは昨今の創作物ではよくあることだが、その手段を自作するところが我夢の腕の高さと言えるだろう。

 

 

※エスプレンダー

 

 我夢がウルトラマンガイアに変身するためのアイテム。と言っても元からあったものではなく、ガイアの光を持ち運びやすいようにするため、我夢が自作したものである。変身アイテムまで自作してしまうところが我夢の個性をよく表現している。


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