ウルトラマンゼロの使い魔
第二十二話「魔の眼鏡 スケベ心にご用心!!(後編)」
謀略宇宙人マノン星人 登場
「やはり侵略者の一員だったか!」
正体を現したマノン星人に、アニエスが改めて銃を向けて発砲した。しかし弾丸は、マノン星人がどこからか取り出した刀身が柄の両方にあるレーザー剣にはたき落とされる。
マノン星人は剣を振るった流れで一方の切っ先をアンリエッタに向けて、そこから赤い光弾を発射した。
「陛下ッ!」
「きゃあ!」
アニエスはすぐにアンリエッタをかばい、伏せさせた。光弾はアンリエッタの頭上を越えて、背後の壁に当たって爆発を起こした。
この隙に、マノン星人が走って地下牢から逃げ出していく。
「待てッ!」
アンリエッタをかばったアニエスに代わって、才人がその後を追いかけていく。
「きゃあッ!?」
「うわあぁッ!」
才人から逃げるマノン星人は城内を走り回り、すれ違った人たちを一様に仰天させた。その内に、人気のない行き止まりに差し掛かって立ち止まる。
「追い詰めたぜ……。まさか、王宮で宇宙人と出くわすなんてな」
才人も立ち止まると、振り返ったマノン星人は哄笑を上げた。
『ハハハハハ! 愚か者め! お前は誘い込まれたのだ!』
「何だって!?」
そのまま才人に、自身の目的を語り出す。
『私はウルトラマンゼロであるお前の暗殺のために、この国に潜入した。そして一人になったところを狙って近づいたのだ。原住民に正体を見破られるとは予想していなかったが、貴様のウルトラマンゼロへの変身を不能にすることには既に成功している!』
「! さっきぶつかった時に、ゼロアイを……!」
先ほど懐から何かをかすめ取られたことを思い出す才人。
『その通り! 見ろ! これがなければ、貴様は変身できない! 私の勝ちだ!』
豪語したマノン星人は、才人から奪い取った、『メデューサの眼鏡』の残骸を堂々と見せつけた。
『……何!? 何だこれは!? ウルトラゼロアイではない! おのれッ!』
「あれは……ふッ、盗るものを間違えたみたいだな。ゼロアイはこっちの手にあるぜ!」
才人は懐から、本物のゼロアイを取り出して、顔に装着した。
「デュワッ!」
才人の姿が一瞬でウルトラマンゼロのものに変わり、王宮の廊下で二人の異星人が対面した。
『へへッ、お生憎様だったな! ウルトラマンゼロ、ここに見参だぜッ!』
『おのれ、偽物を用意していたとは……! 思ったよりも抜け目のない奴だ』
勝手に誤解したマノン星人は、再びレーザー剣を取り出す。
『こうなれば、直接対決だ!』
『望むところだ!』
ゼロは頭部からゼロスラッガーを両手に取り、ガチンと鳴らした。そして互いに飛び掛かり、刃を交える。
「シェアッ!」
「ムォォン!」
ゼロスラッガーとレーザー剣がぶつかり、激しく火花を散らす。ゼロの両手のスラッガーを、マノン星人はふた振りの刀身で弾き返す。
右手のスラッガーの横薙ぎを、頭を下げてかいくぐったマノン星人はゼロの脇をすり抜け、背後に回った。そこから背中を斬りつけようとするが、振り返ったゼロの刃に止められる。
だがマノン星人は逆回転すると、反対側の刃をゼロの足元に振るう。それを跳んでかわしたゼロは、マノン星人の顎を蹴り上げた。
「ムォォン!」
二、三歩後ろによろめくマノン星人。すかさず斬りかかるゼロだが、素早く立ち直ったマノン星人の剣がそれを止め、ゼロの腹部に膝蹴りが入れられる。速い蹴りをよける暇はなく、ゼロは息を漏らす。
『ぐッ! 体術も出来るみたいだな……面白いじゃねぇか!』
ハルケギニアではあまり出会わなかった、純粋な体術が優れた相手との戦いに、ゼロの戦士の血が騒ぐ。
「シェアァッ!」
「ムォォン!」
二人は剣戟を繰り広げながら、城内を移動していく。途中で戦いを目の当たりにした城の人間たちは、皆悲鳴を上げて部屋や城の奥に引っ込んでいった。
「あれは、ウルトラマンゼロ!」
そんな中で、地下から上がってきたアニエスが戦いの場に駆けつけ、状況をひと目見るとマノン星人に銃口を向けた。
「援護する!」
すぐに発砲するが、マノン星人は軽々と跳躍して、弾丸をかわした。そして着地すると、ゼロに告げる。
『邪魔が入ったようだな。場所を移そうではないか!』
マノン星人が身を翻すと、辺りの景色が一瞬で切り替わり、ゼロはいつの間にかマノン星人とともに歌舞伎で使うような板を張った舞台の上に立っていた。
『あッ!? 何だここ!?』
桜の花びらが舞い踊り、わずかな照明が照らす部隊の中で、急に場所が変わったことに動揺するゼロ。一方のマノン星人は、姿勢を低くしてレーザー剣を両手で握り、構え直す。
『……専用の戦場って訳か。ますます面白いじゃねぇか!』
自分たち以外の人間が一人もいなくなったことで、状況を呑み込んだゼロも、ゼロスラッガーを逆手に握った右手を肩の上に、左手を脇の下に構え直して、マノン星人と向かい合った。そのままジリジリと動いて、間合いを測り合う。
『……ハァッ!』
花びらが一層多く舞い散り、床にハラリと落ちたその瞬間に、二人は前に出て刃を交える。
ゼロスラッガーがレーザー剣の両方の刀身を受け止め、両者とも一瞬硬直する。その後に二人とも前蹴りを繰り出し、それもぶつかり合って互いに足を引っ込めた。
刃と刃で押し合いながら、その場でワルツを踊るように回るゼロとマノン星人。しかし埒が明かないと見たか、一旦離れて構え直す。
戦いの間、どこからか小鼓が囃子を奏で続ける。
仕切り直してから、改めて剣戟を始める二人。繰り出されるマノン星人の剣を、スラッガーがいなす。スラッガーの斬撃も、剣で受け流される。
マノン星人の鋭い蹴りをゼロが横にそれてかわし。
スラッガーの斬り上げを、マノン星人はバク宙で鮮やかに回避した。
マノン星人の飛び蹴りからの剣の振り下ろしは、ゼロは横に回転して逃れる。
ゼロの足によるすくい上げでマノン星人は背中から床に倒れ込んだが、すぐさま身体を起こして持ち直す。
お互いに、なかなか有効打を与えられない。
「デャッ!」
ゼロとマノン星人は再度刃を交えて、押し合いになる。だがその瞬間、マノン星人が右手を剣の柄から離し、素早くゼロの喉を鷲掴みにした!
『ぐッ!?』
喉を締めつけられるゼロは苦悶の声を上げた。ゼロスラッガーで反撃しようにも、息の苦しい状態では上手く力を出せず、片手のレーザー剣をなかなか押し返せない。
『ぐぐぐ……!』
ギリギリと、喉を締める力は強くなっていく。それにつれてゼロの顔色が青くなっていくが、
『らぁぁッ!』
一瞬の隙を突いたハイキックがマノン星人の胸元を捉え、大きく蹴り飛ばした。それにより喉は締めつけから解放される。
戦況は一気に傾く。肉薄したゼロの斬撃を、剣で弾こうとするマノン星人だが、蹴り飛ばされた際の衝撃が響いて、動きが先ほどまでよりも鈍る。そのため体当たりをするようなゼロの斬撃の連続を止め切れず、少しずつ後ろへ押し込まれていく。
「ムォォン!」
だが意地を見せつけるかのように、不利な状況から脱する。攻撃後の隙を見計らって前転しながら跳躍し、ゼロの頭上を跳び越えたのだ。そして振り返りざまに、切っ先から光弾を発射する。
「ゼアッ!」
しかし光弾は、薙ぎ払われたゼロスラッガーにはね返されて、マノン星人へと戻ってきた。自らの胸部に命中し、大きくよろめくマノン星人。
ここに来て、ゼロがいよいよ勝負を決するために、マノン星人へと駆け出した。マノン星人も逃げも隠れもせずに、迎え撃つために前に出て走る。
「デュワッ!」
「ムォォン!」
ゼロスラッガーとレーザー剣が翻り、一閃した。すれ違ったゼロとマノン星人は、背中を向け合ったまま停止する。
『……』
ゼロもマノン星人も、振り抜いた獲物を手にしたまま止まっている。
……が、やがて、マノン星人がグラリと傾いて、前のめりに倒れ込んでいった。その胸には、スラッガーの刀傷が深々と刻まれていた。
マノン星人は床に倒れ、目の光が消えた。絶命すると同時に、異空間は瞬く間に消え去り、ゼロは元の場所へと戻ってくる。
『終わったか……。静かだが、熱い戦いだったぜ』
戦闘後の余韻に浸り、つぶやくゼロ。そこに、アンリエッタが早足で駆けつける。
「ウルトラマンゼロ! こんなところで出会うなんて……! あなたにはたくさん聞きたいことが!」
「陛下! あまり近づいてはいけません。万一のことがあります故」
ゼロに駆け寄ろうとするアンリエッタを、アニエスが押しとどめた。その様子を見やりながら、ゼロがぼんやり考える。
(アンリエッタ王女、いや今は女王か……。こうして対面するのはこれが初めてだな)
才人の状態なら、数度会っているが……なんて思っていたら、カラータイマーが赤く点滅し始めた。そろそろエネルギーが残り少ない。
『おっと、長居し過ぎたか。アンリエッタ女王、侵略者は倒したぜ! 安心しな! じゃあ俺はこれで!』
マノン星人を倒したことを報告して、アンリエッタたちと反対方向へ走っていこうとするゼロを、アンリエッタが慌てて呼び止める。
「お待ち下さい! せめてこれだけはお答えを! あなた方は、どうしてわたくしたち人間を助けてくれるんですか!?」
その問いかけに、首だけ振り返ったゼロは、次のように答えた。
『理由なんてないぜ。強いて言うなら、俺たちはいつだって精一杯生きる人間の味方なんだ。それだけのことさ!』
「あッ! 行ってしまう!」
言い残したゼロが駆け出し、角を曲がる。アンリエッタとアニエスがすぐに追いかけたが、二人が角を覗いた時には、ゼロの姿はもうどこにもなくなっていた。
「……ふぅ。こんなところで戦いになるなんて思わなかったな」
王宮のアンリエッタたちから離れた廊下で、ゼロは人がいないことを確認してからゼロアイを外し、才人に戻った。才人は早速ため息を吐く。
「宇宙人連合ってどこにでもいやがるな……。今回は運が良かったからいいものの、怪しい奴には気をつけないと」
「サイトぉ!」
神出鬼没な宇宙人の脅威を改めて肌で感じたところで、ルイズが才人の下に駆けつけてきた。
「おッ、ルイズ……おわッ!?」
「馬鹿ぁッ!」
振り返った瞬間に、胸の中にルイズが飛び込んできた。涙目のルイズはそのまま才人の胸を叩く。
「聞いたわよ、また襲われたんですってね……もうッ! わたしの見てないところで危ないことになって! ご主人様にこんなに心配させて! ホントに馬鹿な使い魔なんだからぁ……」
「……ああ、ごめん」
口では責めながらも泣きじゃくるルイズを受け止めて、才人は頬をそっと緩ませた。
それから落ち着いたルイズは、今日のことを反省して謝る。
「今回は、その……やりすぎたわ。そのせいで大変なことになったし……。悪かったって思ってる……」
「いいよ。お前のプレゼントのお陰で助かったしな」
「? まぁとにかく、もう今回のようなことはしないけど……その代わり、あんたも他の女の子に目移りしちゃ駄目なんだからね! ちゃんと自省するようになること! いいわね!?」
「へーい」
二人の間の話がひと段落着いたところで、アンリエッタがアニエスを伴ってやってきた。
「使い魔さん、それにルイズも、こんなところに」
アンリエッタの顔を見た才人は、先ほどアンリエッタの言っていたことを思い出す。
「そう言えば女王陛下、俺たちに話があるって……」
言いかけた才人を制して、アンリエッタが告げる。
「そのことですが、使い魔さんも牢から出たことですし、場所を移すことにしましょう」
そうしてルイズと才人は、アンリエッタに客間へと通された。三人だけの内密の話ということで、アニエスは席を外すことになった。
「姫さま……、いえ、もう陛下とお呼びせねばなりませんね」
場が改まると、ルイズの表情が引き締まり、恭しく頭を下げた。そうすると、アンリエッタが悲しげに目を伏せて言いつける。
「そのような他人行儀を申したら、承知しませんよ。ルイズ・フランソワーズ。あなたはわたくしから、最愛のおともだちを取り上げてしまうつもりなの?」
「ならばいつものように、姫さまとお呼びいたしますわ」
「そうしてちょうだい。ああルイズ、女王になんてなるものじゃないわ。退屈は二倍。窮屈は三倍。そして気苦労は十倍よ」
深くため息を吐くアンリエッタ。才人にはよく分からないが、より責任のある立場になったことで、早くも苦労することが増えたのだろうと思った。
それからルイズは、黙ってアンリエッタの言葉を待った。戦勝祝いの日に、自分たちに話があるとはどういうことなのだろう。しかし、アンリエッタは自分の目を覗き込んだまま、何も言わない。しかたなくこちらから、「このたびの戦勝のお祝いを、言上させてくださいまし」と言ってみた。当たり障りのない話題のつもりだったが、アンリエッタは思うところがあったらしく、ルイズの手を握った。
「あの勝利はあなたのおかげだものね、ルイズ。タルブ村に赴いて、侵略者の大軍を打ち滅ぼしたあなたの」
ルイズも才人も、驚いて目を見開いた。『虚無』の爆発は、巷ではゼロたちの攻撃だと思われているはずだ。
「ひ、姫さま、何をおっしゃるんですか? 確かにわたしはあの場にいましたが、わたしが侵略者を滅ぼしただなんて、そんなことがあるはずが……」
とぼけようとしたルイズだが、アンリエッタには通用しなかった。
「光が消えた後、ウルトラマンゼロたちがしばし呆然とした様子でいたとの報告を受けています。それが彼らの手によるものならば、戦闘中に立ち尽くしたりはしないでしょう。第一、あれほどの攻撃が出来るなら、もっと早くに同じことをしていたはずです」
「うッ……ごもっともです……」
反論のしようがないほどの推理に、言葉を失うルイズ。
「また、タルブ村の住人に話を聞いたところ、光の起こる直前にあなたが杖を持って長い呪文を唱えているようだったと証言する人がいました。ここまでの状況証拠がそろえば、あれがあなたの魔法であることは簡単に導き出せます」
ぐうの音も出なくなっているルイズに、アンリエッタが告げる。
「多大な……、ほんとうに大きな戦果ですわ。ルイズ・フランソワーズ。あなたの成し遂げた戦果は、このトリステインはおろか、ハルケギニアの歴史の中でも類をみないほどのものです。本来ならルイズ、あなたには領地どころか小国を与え、大公の位をあたえてもよいくらい。……けれどその前に、ルイズ、あなたの魔法について、何か聞きたいことがあるのではないでしょうか?」
と聞かれては、ルイズはそれ以上隠し通すことができなくなった。才人はいいのか? といった顔でシャツの袖を引っ張ったが、構わずに切り出す。
「あの何も書かれていない始祖の祈祷書なのですが……姫さまより賜った『水のルビー』を嵌めて開いたら、古代文字が浮かび上がったのです。それがあの光の呪文で……。始祖の祈祷書には、『虚無』の系統を書かれておりました。それは本当なのでしょうか?」
アンリエッタは目をつむったあと、ルイズの肩に手をおいた。
「ご存知、ルイズ? 始祖ブリミルは、その三人の子に王家を作らせ、それぞれに指輪と秘宝を遺したのです。トリステインに伝わるのがあなたの嵌めている『水のルビー』と始祖の祈祷書」
「ええ……」
「王家の間では、このように言い伝えられてきました。始祖の力を受け継ぐものは、王家にあらわれると」
「わたしは王族ではありませんわ」
「ルイズ、なにをおっしゃるの。ラ・ヴァリエール侯爵家の祖は、王の庶子。あなたも、このトリステイン王家の血をひいているのですよ。資格は十分にあるのです」
ルイズははっとした顔になった。それからアンリエッタは才人の手をとり、ルーンを見て頷く。
「この印は、『ガンダールヴ』の印ですね? 始祖ブリミルが用いし、呪文詠唱の時間を確保するためだけに生まれた使い魔の印」
才人は頷いた。
「ルイズ、あなたは間違いなく『虚無』の担い手。そう考えるのが妥当です。そしてこれで、あなたに勲章や恩賞を授けることができなくなりました。理由はわかりますね?」
才人には見当がつかなかったので、正直に尋ねた。
「どうしてですか?」
アンリエッタは顔を曇らせて、答えた。
「わたくしが恩賞を与えたら、ルイズの功績を白日のもとにさらしてしまうことになるでしょう。それは危険です。ルイズの持つ力は大きすぎるのです。今のわたくしたちが束になっても敵わない怪獣、侵略者を上回るほどの力なのです。それが知れたら……、侵略者はルイズの存在を許しておかないでしょう。ルイズを敵の的にすることはできません」
それからアンリエッタは、ため息を吐いた。
「敵は未知の世界からやってくる怪物だけとは限りません。同じ人間にも……、あなたのその力を知ったら、私欲のために利用しようとするものが必ずあらわれるでしょう」
ルイズはこわばった顔で頷いた。才人もアンリエッタの言い分を理解する。ウルトラマンが地球人と必要以上に関わらなかったのと大体同じ理由か。ウルトラマンの力は強すぎるので、その力で地球人の心を惑わさないように、ウルトラ戦士が地球の社会の中に入って防衛の任に就いた時は絶対に正体を明かしてはならなかったとゼロに聞いた。
「だからルイズ、誰にもその力のことは話してはなりません。これはわたしと、あなたとの秘密よ」
と命じられたルイズは、しばらく考えた後に、決心したように口を開いた。
「おそれながら姫さまに、わたしの『虚無』を捧げたいと思います」
「いえ……、いいのです。あなたはその力のことを一刻も早く忘れなさい。二度と使ってはなりませぬ。使えば使うほど、あなたの命が危うくなります」
「神は……、姫さまをお助けするために、わたしにこの力を授けたに違いありません!」
遠慮するアンリエッタに、ルイズが熱弁する。
「わたしは、姫さまと祖国のために、この力と体を捧げたいと常々考えておりました。そして今は、史上最大といってもよいほどの未曾有の危機が世界を襲っています。姫さまはその脅威に立ち向かうために尽力なさっています。そんな姫さまのお力にならないのは、わたしの貴族としての誇りを失うことになります。それでも陛下がいらぬとおっしゃるなら、杖を陛下にお返しせねばなりません」
アンリエッタはルイズのその口上に心打たれた。
「わかったわルイズ。あなたは今でも……、一番のわたしのおともだち。ラグドリアンの湖畔でも、あなたはわたくしを助けてくれたわね。わたくしの身代わりに、ベッドに入ってくださって……」
「姫さま」
ルイズとアンリエッタは、ひし、と抱き合った。才人は相変わらず蚊帳の外で、ぼんやりと頭をかいた。
「ゼロ、これでいいと思うか? ルイズのやつ、安請け合いしやがって……」
小声でゼロに話しかけると、ゼロはこう意見した。
『はっきり言って危険だが……まぁ、ルイズ自身のことなんだ。俺たちがとやかく言ったってしょうがねぇさ。本当に危なくなった時は、俺たちで助けてやろうぜ』
「結局そうなるのか……。ほんと、世話が焼けるな」
はぁ、とため息を吐いていると、ルイズとアンリエッタの話が再開する。
「これからも、わたくしの力になってくれるというのねルイズ」
「当然ですわ、姫さま」
「ならば、あの『始祖の祈祷書』はあなたに授けましょう。しかしルイズ、これだけは約束して。決して『虚無』の使い手ということを、口外しませんように。また、みだりに使用してはなりません」
「かしこまりました」
「これから、あなたはわたくし直属の女官ということに致します」
アンリエッタは羽ペンをとると、さらさらと羊皮紙になにかしたためた。それから羽ペンを振ると、書面に花押がついた。
「これをお持ちなさい。わたくしが発行する正式な許可証です。王宮を含む、国内外へのあらゆる場所への通行と、警察権を含む公的機関の使用を認めた許可証です。自由がなければ、仕事もしにくいでしょうから」
ルイズは恭しく礼をすると、その許可証を受け取った。
「あなたにしか解決できない事件がもちあがったら、必ずや相談いたします。表向きは、これまでどおり魔法学院の生徒としてふるまってちょうだい。まあ言わずともあなたなら、きっとうまくやってくれるわね」
それからアンリエッタは才人に向き直り、ポケットにあった宝石や金貨を取り出すと、それをそっくり才人に握らせた。
「これからもルイズを……、わたくしの大事なおともだちをよろしくお願いしますわね。優しい使い魔さん」
「そ、そんな……、こんなにたくさん受け取れませんよ」
才人は手に持った金銀宝石を見て、あっけにとられた。
「是非、受け取ってくださいな。ルイズの使い魔として、彼女を守る危険な役目を果たすあなたへのせめてもの手向けです。ルイズとともに国に尽くしてくれるのならば、報いるところがなければなりませぬ」
俺はそう誓った訳じゃないんだけど……と才人は一瞬思ったが、ルイズの手前、断ることは出来ない。仕方なく、金貨と宝石をポケットに突っ込んだ。
才人とルイズは、並んで王宮を出た。
「まったく……、お前ってば安請け合いしやがって……」
「どういう意味よ」
ルイズが才人を見上げてにらむと、才人は小言を唱え出した。
「侵略者を相手にすることがどれだけ危険なことか、分かってないだろ。あいつら、ほんと容赦ってものがないんだぞ。変にしゃしゃり出ないで、ゼロたちに任せてればよかったのに」
「そんな言い方することないじゃない! わたしの姫さまへの忠義心を馬鹿にするつもりなの!?」
口喧嘩に発展しそうになるところに、ゼロが割り込んで二人をなだめた。
『まぁまぁ、今更言っても仕方ねぇだろ。それに悪いことばかりじゃない。姫さまからもらった許可証があれば、才人の状態のままでも何かと活動できるぜ』
「そうだな。ある意味じゃ、俺たち、公的機関と同じになったってことだよな。そう考えると、地球防衛隊の一員になったみたいでいい気分だ! 実は憧れてたんだよ」
『このまんま、将来ZAP加入を目指したらどうだ? あそこには俺も何度か世話になったことがあるんだ』
自分を置いて勝手に盛り上がる才人とゼロに、ルイズは頬を膨らませる。二人が頼りにしているのはアンリエッタからの許可証で、自分のことは相変わらずただの女の子と思っているみたいだ。せっかく『虚無』の魔法が開眼したのに……と不満を隠せなかった。
なんてことをしながらブルドンネ街の大通りを歩いていると、才人がふと、道端の露店の一つに目を留めた。
才人が見つめているのは、地面に並べられたアルビオン軍からの分捕り品であった。おそらく捕虜を管理する兵隊が、商人に流したものであろう。その中の一着の服を手に取った。
「服が欲しいの? どうせ着るんならそんな敵が着ていた中古じゃなくて、もっといいの着なさいよ」
ルイズの言葉を、才人は全く聞いていない。服を手にしたまま、ぷるぷると震えている。
「お客さん、お目がたけえ。それはアルビオンの水兵服でさ。安いつくりだが、便利にできてる。こうやって襟を立てれば、風をみることだってできる」
水兵服の価値など、ルイズとゼロには分からなかった。だが、才人は違った。彼の頭の中には、この服の利用価値がしっかりと存在した。そしてそれは、ハルケギニアにはない形のものだった。
「いくら?」
「三着で、一エキューで結構でさ」
ルイズはあきれた。こんな中古、お金をもらったっていらないぐらいである。
しかし才人はそれを、言い値で買い込んだ。
この時買い取った水兵服……要するに『セーラー服』が、とんでもない事態を招くことになるとは、この時誰も、才人にだって予想は出来なかった。
≪解説コーナー≫
※レーザー剣
マノン星人の等身大時の武器。また等身大時には鎧のようなものを着用している。が、巨大化するとどちらも使用していない。装着物は大きくできないのだろうか。
※懐のウルトラゼロアイ
ゼロアイはウルティメイトブレスレットから出てくるのだが、何故かこの時だけ懐にしまっている。……まぁ、話の都合ということで。
※ゼロアイと間違われる『メデューサの眼鏡』
眼鏡といえばウルトラアイなので、やりたかったネタの一つ。変身アイテムを間違えるというのは『セブン』にはないが、『ウルトラマン』ではハヤタがベーターカプセルとスプーンを間違えている。かなり有名なネタ。
※舞台のような場所
『ウルトラマンティガ』第三十七話「花」では、ティガとマノン星人の対決中、突然板張りの舞台に画面が転換し、そこで戦闘を続行した。この異常事態についての説明は劇中に一切ないが、マノン星人は歌舞伎役者をイメージした宇宙人で、戦いまでも歌舞伎をイメージしたのだ。また、天井より吊るされたザルから桜の花びらが散らされるシーンがある。これも意図的な演出なのだが、当時は「撮影ミスではないのか」という問い合わせがあったという。
ちなみにこの話の監督は、かの鬼才、実相寺監督。実相寺さんは昔からこういう一風変わった演出が好きだった。
※「いつだって精一杯生きる人間の味方」
ウルトラマンは何故、はるか彼方の地球の人間のためにわざわざ戦ってくれるのだろうか。その問いに、歴代の主人公たちはそれぞれの答えを見出してきた。しかし共通している答えは、彼らは常に、諦めずに生きようとする人に手を指し伸ばすということだ。
※ウルトラマンが地球人と必要以上に関わらなかった理由
ウルトラマンが地球人を助けることは、必ずしもいいことばかりという訳ではない。ウルトラマンがいつも怪獣を倒して事態を解決すると、人間の自立心が育たない。この点は、シリーズで何度も言及された問題である。
また『ティガ』や『ダイナ』では、道を違えた人間が歪んだ心のままウルトラマンの力を手に入れようとして、大変な事態を起こしてしまったことまである。
大き過ぎる力は、正の面が大きいのと同様に、負の面もまた大きいのだ。
※ZAP
正式には「ZAP SPACY」。『ウルトラギャラクシー大怪獣バトル』時代の、いわゆる防衛隊ポジション。「SPACY」の名前の通り、宇宙開拓時代を迎えた地球のスペースミッションを担当する組織。時系列を同じとする『ウルトラマンゼロ』シリーズにも何度か関わっている。
ルイズがおかしくなった!? 誤って惚れ薬を飲んでしまったルイズを元に戻すため、才人は解除薬の材料を求めてラグドリアン湖へ。しかしそこでも怪奇事件が起こっていた。水底からの脅威が、才人たちに襲い来る! 次回「ラグドリアン湖のひみつ」みんなで見よう!