ウルトラマンゼロの使い魔   作:焼き鮭

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第六十話「疑心の雪山(前編)」

ウルトラマンゼロの使い魔

第六十話「疑心の雪山(前編)」

氷超獣アイスロン 登場

 

 

 

 空飛ぶ大陸に存在する国家、アルビオン。『白の国』の異名を持つこの地は、冬の季節、一年の始まりである始祖ブリミルの降臨祭を間近に迎えようとしている時節であった。

 そのアルビオン大陸に連なる山脈に白い冠を被せる吹雪の中を、ハルケギニアの文明には存在しないはずの複葉機が飛んでいた。これは才人がシエスタの一家から譲り受け、コルベールに修復してもらったゼロ戦である。

「……ちょっとサイト、指定の場所への進路から、少し左にずれてるみたいよ。修正して」

 ゼロ戦のコックピット内で、ルイズが地図と計器を見比べて指示した。ゼロ戦は本来単座だが、コルベールの改造によってルイズが収まる後部座席を加えてもらっている。

 しかし、操縦席で桿を握る才人はボーっとしていて、聞こえていないようだった。

「サイト! 聞いてるの!? 右に軌道修正してって言ってるの!」

 ルイズが強く呼びかけて、ようやく才人は我に返った。

「あ、ああ、ごめん……風が強くてさ……」

「言い訳しないで! しっかりしてよね! これからわたしたちは、とても重要で名誉な任務を遂行するのよ。あんたのせいで失敗なんかしたら、承知しないわよ!」

 謝った才人だが、ルイズの強い語調のなじりでムッと顔をしかめた。

「おい、そんなに言わなくたっていいだろうが!」

「口を動かしてないで、操縦に集中してなさい! それがあんたの仕事でしょう! 使い魔なら使い魔らしく、役目に集中なさい!」

 言い返すも、ルイズは更に語気を強めた。取りつく島もない態度に、才人は不承不承に顔を前に戻す。

「へいへい、分かりましたよ、ご主人さま。……ったく……」

 不機嫌に舌打ちする才人に、ルイズもまた苦虫を噛み締めた表情になった。

 

 トリステイン・ゲルマニア連合軍は二週間前、遂にアルビオン大陸への進撃を開始した。連合軍はまず上陸を行うために、空軍基地ロサイスを占領した。もちろん敵軍の重要拠点だったので、容易なことではなかった。しかし連合軍は、女王直属の極秘エージェントという立場になったルイズの『虚無』の魔法により、第一次攻防戦に快勝した。『イリュージョン』で作った幻の艦隊を別のダータルネス港に近づかせ、敵空軍を陽動したことで、空戦力に劣る連合軍は大勝を飾ることが出来た。

 その後連合軍は、ロサイスに陣地を構えてアルビオン軍の反撃に備えた。しかし予想に反して、アルビオンの攻勢は全くなかった。アルビオン軍主力は、首都ロンディニウムに立てこもったままだったのだ。

 連合軍に具体的な損害は発生しなかったものの、無駄な陣地構築によって兵糧を無駄にしてしまった。財政がギリギリのトリステイン・ゲルマニア両国にとっては、兵糧の浪費はかなりの痛手だ。連合軍は迅速な進軍を求められた。しかし、途中の敵拠点を無視して一気にロンディニウムまで進撃するのは危険が大きい。

 そこで、シティオブサウスゴータという古都を占領する作戦が立てられた。サウスゴータはアルビオンきっての大都市であり、街道の集結点である。ここを取れれば、他の拠点を見張りながらロンディニウムまで進軍可能だし、持久戦もやりやすい。現状では最良の手と言えるだろう。

 しかしそれだけの重要地点、当然敵の守備が厚いことが予想される。なるべく安全にサウスゴータを奪取するために、またルイズに白羽の矢が立った。主力に先行してサウスゴータに赴き、『虚無』の力で敵に大打撃を与える。ルイズと才人は、その作戦の真っ最中であった。

 幸い、トリステイン側の士気は非常に高い。それは、女王アンリエッタがこの戦地に赴き、自ら兵士たちを鼓舞しているからだ。先の上陸戦の勝利の勢いもある。これならば、ルイズの攻撃があまり効果を発揮しなくとも、占領自体は失敗しないだろう。そう考えれば、気が楽になるかもしれない。

 だが、しかし……才人の心持ちは、意気揚々としている兵士たちとは逆に暗かった。

(みんな、どうしてそんなに活気があるんだよ。命の奪い合いをするんだぞ……!?)

 才人はアルビオンへ発つ前に、コルベールの死を目撃した。人の“死”に慣れるなという、彼の想いを知った。そのために、いつもよりも人の生死に過敏になっていた。

 また、上陸作戦の際にも、人の死に直面した。『イリュージョン』の効果を最大にするために、自分たちが直接ダータルネスに乗り込んだのだが、その際に護衛の名も知らぬ少年竜騎士たちが、敵の攻撃からの盾となって次々と撃墜されていった。彼らの、死を目前とした者のみが出来る諦めの境地の笑顔が、才人の脳裏から離れない。

 もっとも、彼ら自体はどういう訳か、一週間も経ってからひょっこり帰ってきたのだが……。どうやって助かったのか、一週間どこに隠れていたのか、彼ら自身が何も覚えていないという、何とも摩訶不思議な事態であった。その謎は、今も解き明かされていないままだ。

 ともかく、こういったことで才人は人の命を奪うことに強い疑問を抱き、戦争に荷担している現状にも消極的な気分でいるのだった。侵略者を撃退するのとは、訳が違うのだ。

(俺は、どうしてこんなところにいるんだろう? そりゃあ、ヤプールと宇宙人に支配されてるアルビオンを放っとくことは出来ないってことは分かる。でも……他に方法はなかったんだろうか。人が人を殺す以外の解決手段が……)

 才人が塞ぎ込みがちなので、ルイズがきつく言って命令を言い聞かせるありさまなのだった。

 しかし、ルイズが才人に厳しく当たるのは、それだけが理由ではないのだった。ルイズも本当はそんなことはしたくない、根を詰めている彼に優しくしてあげたいとは思っているのだが……。

(サイトは、直にこの世界からいなくなるのよ……。優しくしたって、しょうがないじゃない……)

 ルイズは、先日のことを回想する……。

 

 グレンが傭兵として連合軍に参加していると耳に挟んだルイズは先日、彼に挨拶をしようと足を運んでいた。しかしその時はちょうどグレンとミラーナイトが会話をしているところであり、ルイズは意図せずして二人の話を盗み聞きしてしまったのだ。

 その内容が、才人のことだったから。

『ところでよぉ、いつになったらサイトの命は再生するんだろうな? ランの時は、割とすぐに再生したのに』

『サイトは命の損傷が非常に大きかったそうですからね。その分、時間が掛かるのでしょう。あなたが助けたウェールズさんと同じですよ』

 グレンと鏡の中のミラーナイトは、そう話し合っていた。

『ゼロに聞いたところ、二人の分離は今年中には間に合いそうにないとのことです』

『そうか……。ってことは、ヤプールとの決戦でも二人は合体したままってことになるだろうな。決戦までサイトを巻き込むってのは、気が引けるが……』

 ヤプールとの決戦は、連合軍がロンディニウムに乗り込む降臨祭の前後までに起こるだろうとの予測が立てられた。わざわざ国一つを乗っ取っておいて、奪還されるのを指をくわえて見ているだけとは到底思えない。その時点に、何らかのアクションを起こすはずだ。

 敵の攻勢は、こちらの攻勢のチャンスでもある。ウルティメイトフォースゼロは、これ以上ヤプールの魔手にハルケギニアを侵させないためにも、無理矢理にでもその際に決着をつける腹積もりでいるのだった。

『ですね……。しかし、こればかりは仕方ないことです。それに、決戦を無事に乗り越えさえすれば、ようやくゼロとサイトは分離できるでしょう。ヤプールさえ倒せば、ゼロが一旦この宇宙を離れるのにも問題はないはずです。その時こそ、やっとサイトをチキュウに帰してあげられますね』

『ようやくかぁ。サイトの奴も、故郷が恋しいことだろうな。あいつが無事に帰れるように、俺たちがしっかりとサポートしてやんなきゃな!』

 それを聞いて……ルイズは、あまりにも大きなショックを受けた。

(サイトが……帰る!?)

 

 その時のことを思い返して、ルイズは悶々とした。

(サイトが故郷へ帰る……それは当然の権利じゃない。そもそもが、不当にこの世界に連れてこられたようなものなんだもの。私に、それを止めることなんて出来ない。むしろ、進んで送り出してあげなきゃ。……でも……)

 才人がいつまでもこの世界にいる訳ではないこと、いずれはいなくなる存在であること。分かっていたつもりであった。しかし、いざ意識してみると……胸の辺りが、いやにもやもやとする。それを認めたくない気分になる。けれど、その気持ちを肯定する訳にはいかない。押し殺さなければ……。その気持ちの矛盾がルイズの心をかき乱し、つい才人に厳しい態度を取らせてしまうのだ。

 それぞれ複雑な心情を抱えた二人を乗せたゼロ戦だが、とうとう目的地が近づいてきた。

 吹雪を抜けた先に、山間の広大な盆地に築かれた白い街並みが見える。あれがシティオブサウスゴータだ。

「ルイズ、見えたぞ! でも、『虚無』の魔法、上手く使えるのか?」

 ここに至って、才人は心配になった。『虚無』は威力が絶大な分、消費する精神力も大きい。実際にルイズは何度か、精神力切れを起こしている。特に最近は、『虚無』を使用することが多かった。今のルイズに、敵陣を壊滅させるだけの『爆発』を起こせるのだろうか。

「任せて! ……思ったよりもずっと、敵影が少ないわ。これなら何とかなるはず……!」

 眼下に見えるサウスゴータの街に在中している敵兵は、ほとんどがオーク鬼やトロル鬼といった大柄の亜人で、それを指揮するメイジが何人かという謎の構成。兵隊の姿は異様に少ないし、亜人だってわんさかといる訳ではない。大都市の守衛としては、いやに手薄な陣営だ。

 実に奇妙だが、隠れている訳でもなさそうだ。それに、敵が少ないならそれに越したことはない。ルイズは風防を開いて、呪文の詠唱を開始する。

 だが、完成する前に一騎、ゼロ戦に急接近してくる竜騎士の影が見えた。騎士の跨る火竜が、炎のブレスを吐こうとしている。

「待った、ルイズ! 敵が近づいてる! そっちを振り切るのが先だ! 一旦風防を閉じろ!」

 才人はルイズをコックピットに戻し、ゼロ戦を駆る。右にそれたゼロ戦は、ギリギリのところで炎のブレスを回避した。あれが当たっていたら、機動力の犠牲に装甲を薄くしたゼロ戦のこと、エンジンをやられていたことだろう。

 竜騎士から逃れようとするゼロ戦は、サウスゴータの上空からそれて雪山の方へと移っていく。

「街から離れちゃ駄目じゃない! 引き返して!」

「けど、敵が!」

「倒せばいいでしょ!?」

 確かにルイズの言うことの方が確実だ。撃ち落とした敵は、もう追撃してこない。

 しかし……自分にゼロ戦の機銃を、人に向けることが出来るのか? 撃てば……相手は

死ぬ可能性が高いのだ。

 逡巡する才人だが、決断を下す時間の余裕はなかった。山間の吹雪の中に……巨大な怪物の影が見えたのだ。

「!? あれは!?」

「キョォォオオオオオオ!」

 吹雪のカーテンを潜って、青いトゲトゲとした氷像のような巨大怪物が姿を見せた。顔面には、真っ赤な三つ目が荒天の中で爛々と輝いている。

「きゃあッ!? 怪獣よ!」

「いや、あいつは……超獣だ!」

 才人の叫んだ通り、怪物の正体は氷超獣アイスロン。ということは、ヤプールの放った刺客に違いあるまい。自分たちの命を狙っているのか。

「キョォォオオオオオオ!」

 アイスロンは口から、猛吹雪をも上回る猛烈な冷凍ガスを噴射する。狙う先は、当然ゼロ戦。

「危ないッ!」

 あんな冷凍ガスを食らってはひとたまりもない。才人は操縦桿を操り、ゼロ戦を動かしてアイスロンから逃げる。ゼロ戦の飛行速度ならば、不可能なことではない。

 だが、才人たちを追い回していた竜騎士が代わりに冷凍ガスに襲われた。火竜の翼が凍りつき、飛べなくなって山中へ向けて落下していく。

「あぁッ! あの騎士が!」

「サイト! よそ見してるんじゃないわよぉ!」

 才人がそれに気を取られたことで、反応が遅れた。

「キョォォオオオオオオ!」

 アイスロンが吐いた冷凍ガスを、今度は避け切れなかった。ゼロ戦は機体が凍り、バランスを崩してしまう。

「う、うわあぁぁぁッ! しまった!!」

「馬鹿ぁッ!」

 慌てて操縦桿を握り直す才人だが、もう遅い。機体を立て直すのは不可能だ。かと言って、ゼロアイを取り出して変身している暇もない。少しでも手を離したら、その途端にゼロ戦は真っ逆さまである。

「しょうがない……! 不時着するぞ!」

 才人は必死に桿を操って、山間部へとゼロ戦を降下させていく。その機体が、吹雪の中に紛れて見えなくなった。

「キョォォオオオオオオ!」

 アイスロンは消えていくゼロ戦を追いかけて、山の間に引き返していった。

 

 その後、ルイズと才人は奇跡的に助かった。アイスロンに発見されなかったのだ。ゼロ戦を煽っていた吹雪が逆に幸いとなり、不時着の地点をアイスロンの目から隠してくれたようだ。

 しかし、雪山に滑走路はない。着陸してしまったゼロ戦は、もう飛ばせなくなってしまった。そのためルイズと才人はゼロ戦を捨て置き、徒歩でアイスロンから逃れることとなった。

「もう……サイト、あんたがよそ見をするから、作戦は失敗しちゃったじゃない。姫さまに何と申し上げれば良いか……」

 かまくらで一夜を過ごし、吹雪がやんだ雪山の中を移動する中で、ルイズが苦言を呈した。それに才人は顔をしかめる。

「だって、あの竜騎士が俺たちの巻き添えになったんだぞ。無視するなんてこと、出来るかよ」

 との発言に、ルイズは次のように言い聞かせる。

「相手は敵だったじゃない。襲われたからと言って、放っておけばよかったのよ」

 それを聞いて才人は、険しい表情でルイズを見返す。

「な、何よ……」

「それ、本気で言ってるのか? 敵とはいえ、本気で人を見殺しにしろって命令したいのか? お前、そんな冷たい奴だったのかよ」

 と言い返すと、ルイズはバツが悪そうに目を泳がせた。

「わ、わたしだって、本当はこんなこと言いたくないわ。でも……今は戦時中なのよ。冷酷にならなければいけない時だってあるのよ……。戦う相手にいちいち温情を掛けてたら、自分どころか味方も危険に晒すかもしれないのよ」

「……」

 ルイズの言葉を受けた才人は、無言のまま目を伏して前に向き直り、再び歩き出した。

 ルイズの言うことは、もっともかもしれない。戦争は一言で言えば、命のやり取りだ。ちょっとのミスが、死という取り返しのつかない結果に直結しかねない。自分の、味方の命を守るためには、情けを心から消さなければいけないのかもしれない。

 しかし……才人はそれが嫌であった。もっと言えば、そんなことを唱えるルイズを見るのがたまらなく嫌だ。ルイズは高慢なところもあるが、心優しい少女だったはずだ。だから才人は、彼女の側にいるのが嫌にならない。そうだったのに……今の非情なルイズを見ていると、悲しい気分になってくる。人が変わってしまったみたいだ。

 人が変わったといえば……アニエスを思い出す。立派な騎士であったはずの彼女が、仇のコルベールを前にした時は、完全な復讐の鬼と化していた。恨みとは、それほどまでに人を醜く恐ろしいものに変えてしまうものなのか。

 その恨みを生み出す「殺し合い」に参加している現状は、どうなのか……。本当にこれで良かったのか……。その思いが、ずっと才人の心の底に渦巻いている……。

「……サイト、あれ見て! 何だか変よ」

 陰鬱な気分になっていると、ルイズの呼びかけで意識が現実に戻った。

 二人の進行先に、雪の山が出来ている。その下から、何やら赤いものが覗いているのだ。あれは何だろうか。

「ルイズ、下がってろ。確かめる」

 才人はデルフリンガーを抜き、正体を確認しようと恐る恐る近づいていく。近くから見て、火竜が雪に埋もれているのだということが分かった。

「火竜……? ってことは、昨晩の……」

「だあああぁぁぁぁぁぁッ!」

 つぶやいた瞬間、火竜の羽が持ち上がり、下から鎧を纏った青年が飛びかかってきた!

「おわッ!?」

 才人は体当たりを食らい吹っ飛ばされるが、どうにか受け身を取った。

「サイト!?」

「くッ……お前は……!」

 才人は相手の顔を見て、昨晩に自分たちを追いかけてきた竜騎士だと確信した。一瞬だけ見えた、相手の顔つきとほぼ同じだ。

「貴様ぁッ!」

 青年竜騎士は杖となるレイピアを抜き、才人に風の魔法の攻撃を放ってきた。才人は咄嗟にデルフリンガーで吸収して反撃に出ようとしたが、

「うッ……!」

 それきり騎士は攻撃をせずに、グラリとその場に倒れ込んだ。

「ん? 気を失ったのか……?」

 用心しながら騎士に近寄る才人とルイズ。ルイズは騎士の右足に注目した。

「足を怪我してるみたいね……」

 それを知ったルイズは、才人に指示する。

「サイト、彼を背負って」

「え?」

「このままじゃ凍え死んじゃうでしょ? いいから早く!」

 デルフリンガーと騎士のレイピアをルイズに預け、才人は言われるままに騎士を背負いながら、ルイズに問いかける。

「お前、さっきは敵は放っておけって言わなかったか?」

「でも、今は戦闘行為中じゃないわ。わたしだって、出来ることなら見殺しになんてしたくはないわよ。彼も助けましょう」

 その言で、才人はルイズに優しさがなくなった訳ではないと思ってほっとした。……しかし、同時に複雑な気持ちとなる。

(戦いでは殺さなきゃいけない相手を助けようだなんて、矛盾してるじゃないか……)

 ここでこの騎士を助けても、次の戦場では彼を手に掛けねばいけないかもしれない。そうでなくても、助けた騎士が味方の命を奪うことは十分にあり得るのだ。戦場では、人助けも正しい行為にならないかもしれないことを、才人は知ってしまった。

(くそッ……人として正しいことをしてるはずなのに、何でこんなことを考えなくちゃいけないんだ……)

 また才人が憂鬱になっていると、背負っている騎士がかすかに動いた。目覚めたのか。

「死んでも、名誉は守る……!」

「え? うわぁぁぁッ!?」

 才人は背負っている相手から、首を締めつけられる!

「くッ! この野郎!」

 当然才人は抵抗して、取っ組み合いとなる。その際の勢いで、騎士の懐からロケットが飛び出してルイズの足元に落下した。

「あッ……」

「何しやがるんだぁッ!」

 才人は騎士に頭突きを食らわせて、弾き飛ばした。

「ぐぅッ!!」

 騎士は足の負傷もあり、立ち上がることが出来ない。その間に才人はルイズよりデルフリンガーを受け取り、騎士に突きつけた。

 勝負は決したが、騎士は才人に要求する。

「殺せ……! 敵に情けを受けるくらいなら、死んだ方がマシだ……!」

「……断る」

 だが才人は、切っ先を下ろした。それに騎士は憤りを見せた。

「僕が怪我をしてるからか? これくらい、怪我の内に入らん……!」

 騎士は無理に立ち上がろうとするが、すぐに崩れ落ちた。才人は彼の胸倉を掴むと、怒鳴りつける。

「俺は人殺しなんてしたくねぇ! ただ、ルイズを守り、無事に帰りたいだけだ! どうしても暴れたいのなら、ふもとに着いてから、別の奴を相手にしろ!」

 そう言って突き飛ばすと、騎士は毒気を抜かれて、大人しくなった。才人はデルフリンガーをルイズに返し、騎士を再び背負う。

 と、その時、山の向こうからアイスロンの咆哮が聞こえた。

「キョォォオオオオオオ!」

「! 昨日の奴の鳴き声だ……。俺たちを探してやがるのか?」

 どうやら、アイスロンの気配はこちらに近づきつつあるようだった。危険を感じた才人は、すぐにその場から離れようとする。

「森に紛れて、身を隠しながら逃げよう。お前も、もう暴れるんじゃないぞ。お前だって、超獣の餌になって死ぬのは嫌だろ?」

「あ、ああ……」

 騎士を背負った才人とルイズは、逃げる寸前に騎士に覆い被さっていた火竜を見やった。

「あの竜は、お前を助けてくれたのか?」

「ああ……かけがえのない相棒だった。僕が凍死しなかったのは、あいつが温めてくれていたお陰だ。……だが、もう……」

 騎士の言葉で、才人たちは火竜の息が既にないことを知った。

「……行こう」

 今の自分たちでは、火竜の遺体までは連れていけない。罪悪感は覚えるが、超獣が闊歩する雪山の中に置き去りにすることを選択する。

「ウィンザー……ありがとう」

 騎士は才人に背負われながら、最後に火竜にそう告げた。才人とルイズも黙祷してから、森の中へ逃げ込む。

 

 ふもとの連合軍の陣地までは、まだ大分距離がある。雪山の逃走劇は、まだ先が流そうだった。

 

 

 

≪解説コーナー≫

 

※「疑心の雪山」

 

 元ネタは『ウルトラマン』第三十話「まぼろしの雪山」。夏でも雪が積もっている飯田山に怪獣が現れ、スキー客の足が遠のいて困っているという通報で出動した科特隊。しかし飯田山でハヤタたちはユキという少女の妨害に遭う。孤児の彼女は雪女の子と呼ばれて迫害されており、怪獣ウーはユキを助けようとして出現していたのであった……という話。ウルトラマンの正義に疑問を投げかけたエピソードの一つ。『怪獣を倒す』『だけしか出来ない』ウルトラマンの限界がここに表れている。

 

 

※「ランの時は、割とすぐに~」

 

 映画『ウルトラマンゼロ』でゼロは死に行くランの命を一体化することで救い、映画の終わりで分離しても大丈夫なほどランは回復していた。ハヤタと一体化した初代ウルトラマンは、ゾフィーが命を持ってこなかったら分離できなかった。この違いは何だろう。実際に死亡したかどうかだろうか。

 

 

※氷超獣アイスロン

 

 『ウルトラマンA』第四十二話「神秘!怪獣ウーの復活」に登場した、ヤプール亡き後の野良超獣の一体。飯田峠を根城にしており、良平と小雪の親子を襲って良平を殺害した。その後はTACや小雪を攻撃するが、小雪を守るために死んだ良平が変身したウー、そしてエースと激突した。四十一話から四十三話は「冬の怪奇シリーズ」と銘打たれており、続く四十三話も雪山が舞台で、氷雪系の超獣が登場する。




 アルビオンの騎士ヘンリーを連れ、雪山の逃走劇を繰り広げるルイズたち。しかしとうとう追い詰められる。変身する才人。だがその時、ゼロに異変が起こる。果たしてゼロに、才人の身に何が起きたか? 次回、「疑心の雪山(後編)」。

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