ウルトラマンゼロの使い魔   作:焼き鮭

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第六十二話「悪鬼ヤプール」

ウルトラマンゼロの使い魔

第六十二話「悪鬼ヤプール」

異次元人ヤプール人 登場

 

 

 

 ヤプール人は恐ろしい奴だ。残忍な奴だ。ハルケギニアを征服するためには手段を選ばない。何だってやるのだ! それがまさに、ヤプール人なのだ。

 ハルケギニアに数々の侵略宇宙人を引き入れた後、ヤプール人は『レコン・キスタ』のクロムウェルを抹消。己の手駒とすり替えて、アルビオン大陸を裏から支配することに成功した。そしてトリステインに戦いを仕掛け、その結果トリステインとゲルマニアの連合軍がアルビオンに攻めてくることとなった。しかし、侵攻の際にはあの手この手を駆使してトリステインを苦しめたにも関わらず、防衛に回ったら一転、いやに消極的な態度を見せた。連合軍に大きな打撃を与えようともせず、遂にはロンディニウムの手前のサウスゴータを明け渡した。わざわざ敵に勝利の美酒を振る舞って、ヤプール人は何をたくらんでいるのか? 何をするつもりなのか?

『誰にも分からない……分かるはずがないんだよ! ハルケギニアの馬鹿どもめッ! フハハハハハハハハ!!』

 

 トリステイン・ゲルマニア連合軍が放棄されたシティオブサウスゴータを占領した直後、タイミングを図ったかのようにアルビオン側から一時的な休戦の申し出があった。ヘンリーの予想した通り、見捨てられた市民に兵糧を分け与えた連合軍はどの道動けず、これを受諾。戦線は硬直状態のまま、始祖の降臨祭が行われようとしていた。

 始祖ブリミルの降臨祭。それは地球で言うところの、クリスマスと元旦が一緒になったような祝日である。この日を境に年が変わり、十日近くのめや歌えのお祭りが連日開催される。戦闘行為も、その期間は一切行われないのが通例だ。

 アルビオン大陸に上陸した連合軍も、その祭りをサウスゴータで迎えようとしていた。

 

「……そういう訳で、サイトを元気づける方法の知恵を出してほしいのよ」

 今年の終わり、始祖の降臨祭の前夜のサウスゴータの宿の一室で、ルイズがデルフリンガーと姿見の中のミラーナイト相手に相談を持ちかけていた。

 雪山での二大超獣との戦闘後、ゼロの足を引っ張った才人は未だに塞ぎ込みがちであった。初めは見放していたルイズも、だんだんと心配するようになって、こうして二人に相談をしているのである。

「何でえ。娘っ子、何だかんだで相棒のことがすげえ気がかりなんじゃねえか。初めっから素直になっときゃ、こんなお祭りの目前まで険悪のまま過ごさなくてよかったってのによ」

 デルフリンガーが呆れたように言うと、ルイズは真っ赤になって否定した。

「ち、違うわよ! あんな分からず屋のことなんて、本当はどうだっていいのよ! でも、いざ決戦って時にゼロが本領を出せなかったら大変じゃない! だから仕方なく、ご主人さまが励ましてあげるってだけ! そ、それだけなんだからね! 誤解しないでよ!?」

「へいへい」

 デルフリンガーもミラーナイトも呆れ返って流した。ルイズはあまりにも分かりやすすぎるが、天性の意地っ張りなので付き合っていたら夜が明けてしまう。

「コホン……話を戻すけれど、私はやっぱり、貴族の価値観というものをサイトに受け入れさせるのが一番だと思うのよね。デルフ、あんたはサイトを説得できないの? 相棒でしょ?」

 まずデルフリンガーに言いつけるルイズだが、彼はあっさりと答えた。

「そりゃ無理だね。俺っちは坊さんじゃねえんだ。説教を説くなんて無理な話よ。第一、時間もなさすぎるさね」

「そう……じゃあ、ミラーナイトはどうかしら? お願い出来ない?」

 今度はミラーナイトに頼む。理知的な彼ならば何か良い意見をもらえるかも、と思ってこの場に呼んだのだ。

 しかし、彼もまた首を横に振った。

『私でも、それは難しいですね。全く異なる価値観を理解させるというのは大変困難なこと。ましてや言葉だけでは如何ともしがたいものです』

「そうなの……残念ね」

『そもそも、その貴族の価値観というものが本当に根づいているものなのか……』

 ミラーナイトのぼやきに振り返るルイズ。

「何? あなたまでそんなことを言うの?」

『いえ……この話をここで論じても仕方ないことです。それより今はサイトのこと。そちらに注視しましょう』

 とミラーナイトが言うので、本題に戻る。すると、デルフリンガーがこんな提案を出した。

「いっそのこと、別方向から相棒を攻略してみるってのはどうだ?」

「べ、別方向?」

「相棒はお前さんを好いてる。お前さんの実家で告白されたの、忘れた訳じゃあるめえ」

 その時のことを思い出し、ルイズは耳まで真っ赤になった。

「それなのにお前さん、相棒の気持ちになーんも応えてねえじゃねえか。好きな相手から袖にされ続けて、それなのに嫌なことに駆り出されてこき使われて。それじゃ嫌になっちまうのもしょうがねえな」

「だ、だってそれは、あれからずっと忙しかったからだし……何よりシエスタとか、他の子にデレデレするじゃない!」

 ルイズの言い分に、はあ、とため息を吐くデルフリンガー。

「相棒がギーシュとかって坊主みてえに自分から誰かとベタベタしたってのなら話は別だが、そんなんねえよ。俺が保証する。それなのにお前さんは、ちょっと他の女が近づいただけであーだこーだ、わがままが過ぎるよ」

「う……」

「いい女ってのは、もっと心が広いもんだぜ? そこで、だ。そろそろ相棒の気持ちに応えてやったらどうだ。相棒も好きな女に頷いてもらえたら、頑張れるだろうよ」

 と勧められるのだが、ルイズはもじもじしてはっきりとしない。

「そ、そんなこと言えないわよ……」

「嫌いなの?」

「そ、そうじゃないけど……」

「じゃあ好きなんじゃねえか」

「そ、そうじゃないの! とにかくそんなこと言えないわ!」

 意固地なルイズは、ミラーナイトにも意見を求める。

「ミラーナイトはどう思う……?」

『あなたの気持ちの是非はともかく、サイトの心の糧を作るのはいいことだと思いますよ』

 ミラーナイトもデルフリンガーの味方なので、孤立無援のルイズは散々悩んだ挙句、こう聞いた。

「……も、もっと別の言い方ないの?」

 と言うので、デルフリンガーは代案を出した。

「そばにいて」

「なにそれ?」

「いい言葉じゃねえか。微妙に気持ちを伝え、それでいてどうとでも取れる。これならお前さんも言いやすいだろ?」

 ルイズはふむ、と考え込んだあと、頷いた。

「……言われてみればもっともかもしれないわね。あんた、剣のくせに妙に人間の機敏に通じてるわね」

「何年生きてると思ってんだよ。さて、あとはあれだ、言い方と状況だな……」

 

 しばらく後、ルイズはデルフリンガーの指導により、宿屋の召使に買ってこさせた品々を前に並べていた。

「ちょっとぉ! ふざけないでよ!」

 が、ルイズはデルフリンガーを怒鳴りつけていた。

「なんで黒ネコの格好しなきゃいけないのよ! しかもこんないやらしい! わたし貴族よ貴族! わかってんの?」

 ルイズの前にあるのは、黒ネコの仮装。しかも際どい。

 そのことについて、デルフリンガーはこう弁解する。

「その高飛車がなあ、いけねえんだ。甘えた感じで、下手に出るのが一番効果的ってもんよ」

「そんでわたしが使い魔のフリするっていうの?」

「そうだよ。いい作戦じゃねえか。祭りの席で『サイト、今まで意地悪言ってごめんね。今日は一日わたしが使い魔になってあげる』それから『そばにおいてください』なんて言ってみ? たぶん相棒は単純だから、舞い上がってお前さんにメロメロになっちまうだろうなあ」

 と囁かれて、単純なルイズはすっかり舞い上がってしまった。

 そしてデルフリンガーに焚きつけられるまま、ポーズと台詞の練習をする。

「き、今日はわたしが使い魔になってあげるッ!」

「うーん、もちっとネコっぽく言ってみた方が愛嬌があるな。後、思い切ってご主人さまって言ってみたらどうだ?」

『あ、あの……』

 そこにミラーナイトが何かを言おうとするのだが、熱中しているルイズたちには聞こえていなかった。

「そ、そこまで言わないとダメなの!?」

「せっかくのお祭りなんだからよ、一日だけバカになってみ。女にはな、そういう愛嬌が大事だよ。うん」

『ルイズ、そこまでサイトと……』

 才人の名前を出して、やっとルイズの耳に入った。

「サイトが戻ってきてるの!? よ、よぉーし……思い切ってやってやるわよッ!」

『そ、そうではなく、サイトとシエ……』

 だが才人以外の言葉は耳に入っていなかった。ドアががちゃりと開くと同時に、ルイズは思い切って言い放った。

「きょきょきょ、きょ、今日はあなたがご主人さまにゃんッ!」

 そして……返ってきたのは、

「な、なにやってんだ? お前……」

 才人の驚き顔と……シエスタとスカロン、ジェシカの面々。唖然としている。ジェシカなんか笑いをこらえている。

「……え? な、何でシエスタたちがここに……」

「慰問隊とか何とかってので、ここに来たそうで……ついでにルイズに挨拶しに……」

 才人が説明した。

 恥ずかしい姿を思い切り他人に見られたルイズは、絶叫した。

「いやぁああああああああああああああああああああああああああああああッ!」

 

 街の一等地に位置した、シティオブサウスゴータの最高級の宿屋のいわゆるスイートルームで、アンリエッタが窓の外を眺めた。

「今、遠くから悲鳴が聞こえたような……。まさか、敵の攻撃でしょうか? すぐに銃士隊を向かわせましょう」

 神経質そうにつぶやくと、同じ部屋にいるグレンが肩をすくめた。

「いや、今のは敵とは関係ねぇよ」

「そうでしたか? それならいいのですが……」

 視線をグレンの方に戻したアンリエッタが、今話していた内容に意識を戻す。

「それで、わたくしたちを何度も苛ませた侵略者たちの元締め……ヤプール人というものたちは、それほどに恐ろしい敵ということでしたね」

「ああ、そうだ。奴らはこれまでの連中とは訳が違うんだ。あんまり恐怖したら逆効果だから今までは話してなかったけど、決戦の手前、どういう連中かアンリエッタ姫さんは知っておくべきってことになってな」

 ヤプール人は表舞台に出てきたのが一度きりなので、ハルケギニア人にはその存在が知られていない。しかし今、遂にグレンがその存在をアンリエッタに明かしたのだった。

「ヤプール人はとにかく卑怯な連中だ。手段という手段を選ばねぇ。生誕祭の人間が一番油断する期間を狙わないはずがないぜ。たとえば、飲み水に毒を投げ込むくらいのことは平気でやる。だから祭りの最中でも、絶対に警戒を緩めないでほしいってお願いしに来たんだ」

 グレンたちが最も危惧していることは、ヤプールもしくはその手の者が連合軍の間に入り込み、内部から崩壊させられることであった。ヤプール人は超獣を使った大規模な攻撃以外にも、そういう卑劣な破壊工作を得意とするのだ。

 しかし、アンリエッタに恐れの色はなかった。

「ご忠告感謝いたします。しかし、ご心配には及びませんわ。わたくしもその危険性を考慮し、厳重に対策しております」

 と語って、内容を説明する。

「停戦の期間中は、わたくしの信頼する銃士隊を中核とした警備網をこのシティオブサウスゴータ全土に隙間なく張り巡らせ、怪しい動きを見せる者は逐一捕縛して正体を確かめるよう徹底して指示しています。ネズミ一匹の謀とて見逃しません。また、いつ何時に怪獣の攻撃があっても対抗できるように、魔法衛士隊他の対怪獣部隊を常時待機させています。わたくしたちの出来得る最善の対策を取っておりますわ」

 一分の隙もない防備態勢。何度も怪獣、宇宙人の脅威を目の当たりにしたアンリエッタは既にそれを敷いていた。さしものヤプール人も、突破は容易ではないレベルだ。

 その力の入れようには、絶対に侵略者に勝利して平和を取り戻すのだという決意が表れていた。

「そっか、ならいいんだ。安心したぜ」

 グレンはそう言ったが、それでも相手が相手なだけに、安堵とまではいかなかった。人間がどれほど頑張ろうと、敵は力に物を言わせて強引に押し潰そうとしてくるだろう。そしてヤプール人はそれが可能な相手なのだ。

 しかし、そんな時にこそ自分たちがいる。人間の努力を無為にしてはならない。ヤプールめ、来るなら来い! 俺たちウルティメイトフォースゼロは絶対に負けねぇぜ! グレンは胸の内に、そんな熱い思いを抱いていた。

 

 あのあと、ルイズがものすごい勢いでへこんで閉じこもってしまったので、才人とシエスタは彼女が落ち着くまでわざわざ別の部屋を借りて、そこで時間を過ごしていた。そしてゼロ、ジャンボット、ミラーも交えて話をする。

『なるほど、ルイズのあの珍妙な振る舞いは、そういう理由だったのか』

 ミラーから説明を受けたジャンボットがつぶやくと、ミラーが取り成す。

「珍妙とか言わないであげて下さい。ルイズも、サイトのためを思って必死だったんですよ。サイト、ルイズのその想いだけは分かってあげて下さい」

 ミラーに続いて、ゼロも才人を説得する。

『才人、お前もあれこれ複雑な気持ちだと思うけどさ、何もルイズも悪気があって厳しいこと言うんじゃないんだぜ。この戦が終われば、いつものルイズさ。だからそう思い悩むなって』

「うん……」

 それは分かっているけど……と才人が思った時、シエスタが口を開いた。

「わたしは……ミス・ヴァリエールや貴族の言い分の方が、納得できません」

「シエスタ?」

 シエスタは才人の目をじっと見つめながら語った。

「サイトさんの言う通りです。どんなに言葉を飾っても、結局貴族は自分たちの欲のために人を殺すんです。そんな殺し合いに、サイトさんを巻き込むなんて……。本来サイトさんは、この世界に何の関係もない人なのに……ひどすぎますッ! サイトさんが、死んでしまうかもしれないのに!」

 あまりにシエスタに熱が入っているので、才人はむしろ戸惑ってしまった。おどおどとした様子で彼女をなだめる。

「し、シエスタ、気持ちは嬉しいけどさ……俺にはゼロがついてくれてるんだし、滅多なことにはならないよ。ヤプールだって、ウルティメイトのみんながいればきっと勝てるから」

 シエスタは少々落ち着いたが、小刻みに震えていた。

「すみません……。でもわたし、心配なんです。すぐ下の弟も参戦してるから、他人事じゃないですし……何より、嫌な予感がするんです」

「嫌な予感?」

「はい……。サイトさんに、なにかよくないことが起こるんじゃないかって。そんな嫌な思いがしてならないんです……。今連合軍が勝ってるのも、何か悪いことが起こる前触れとも思えて……」

 それは、ゼロたちも考えていることだ。むしろ、確信を持っていると言ってもいい。ヤプールは絶対に何か謀略の用意をしている。今の快進撃は、その嵐の前兆でしかないと。

 しかし彼らは、シエスタのためにこう呼びかける。

『シエスタ、安心するのだ。サイトの言った通り、我々がいる。こんな勇敢な少年を、ヤプールの餌食にさせたりはしない。我々が何としてでも助け、守り抜く! 鋼鉄武人の名に懸けて誓おう』

「その通りです。私たちが命の盾となります。そのためのウルティメイトフォースゼロです」

『俺たちは何があろうと、絶対に負けねぇ! シエスタ、俺たちを信じてくれ!』

「皆さん……」

 ジャンボット、ミラー、ゼロに続いて、才人もシエスタを軽く抱きしめて、彼女に囁きかけた。

「シエスタ、ありがとう。君を守るためだけでも、俺は存分に戦える気がしてきた」

「サイトさん……」

「どんな敵が相手でも、俺は必ず帰ってくるよ。そして学院に帰ろう。絶対に」

「……はい……!」

 いつしか、窓の外には雪がはらはらと降り始めていた。銀の降臨祭といったところか。

 幻想的な背景の中、サイトとシエスタは約束を交わした。

 

 様々な人たちの、様々な想いが行き交う中、新年の始まり、始祖の降臨祭は幕を開けようとしていた。

 しかし……異次元の悪鬼ヤプールは、そんな人々の想いを嘲笑うかのように、彼らの想像を絶するおぞましき奸計を張り巡らしているのだった!

 

 夜空に満開の花火が打ちあがる。シティオブサウスゴータに並ぶ人々は、連合軍、町民関係なしに一様に歓声をあげた。

 遂に一年の始まりを告げるヤラの月、第一週の初日である、降臨祭の初日が始まったのである。

 しかしそれとほぼ同時に、連合軍首脳部には凶報が飛び込んできた。ロンディニウムにいるはずのアルビオン軍主力が、突如としてサウスゴータのすぐ側に出現したと。

 ヤプールの手引きである。異次元人の力をもってすれば、その程度の奇襲は容易いことなのだ。

 だがしかし、通常なら恐るべきことであるこの事態も、アンリエッタたちにはさほど驚くべきことではなかった。何故なら、相手は神出鬼没の侵略者。十分予想できたことであり、実際そのための厳重な防備態勢である。迎撃態勢はすぐに完了した。

 これ以上何も起こらなければ、問題なく迎撃できる計算であった。そのため、連合軍には余裕すらあった。

「侵略者の犬どもめ、その程度で聡明なる女王陛下を出し抜いたつもりか。貴様らを一人残らず返り討ちにして、我々の大々的な勝利で降臨祭の最初の夜明けを飾ってやろうではないか」

 連合軍総司令官のド・ポワチエは冷笑を浮かべながら、黒檀にトリステイン王家の紋章を金色で彫り込んだ元帥杖を振るった。彼はつい先程、元帥昇進が決定したばかりなのであった。最後の決戦を、元帥杖で指揮させてやろうという財務卿の計らいであった。

 そして今にも両軍の激突が始まろうとしたその時、それは起こったのだ!

 

 シティオブサウスゴータの夜空の一画が、バリィィンッ! とガラスのように割れた。そして真っ赤な空間の中から、大怪獣が空の縁をまたいで出てくるところを大勢の人間が目撃した。

「キィ―――キキキッ!」

 緑の怪しく輝く眼球を持った虫型の超獣、アリブンタだ。ヤプールの刺客である。さすがに方々から悲鳴の叫びが起こる。

「超獣が現れやがったか!」

「ええ。私たちの出番ですね!」

 そこに駆けつけたのがグレン、ミラー、そしてシエスタと才人だ。ウルティメイトフォースゼロは、これより超獣撃退のために出撃する。

 それと同時に、ヤプールとの決着をつけるつもりであった。その手段は、ヤプールの潜む異次元に直接乗り込むこと。通る道は、超獣を送り込むためにヤプール自身がつなげるあの空の穴だ! 危険はあるが、強引にでも入り込んでヤプール自体を叩く。虎穴に入らずんば虎児を得ず。その覚悟で挑まなければ倒せない相手である。

『超獣を撃破したら、俺たちの力を合わせて空の穴を固定する。そして一挙に乗り込むぞ!』

「はい!」『了解した!』「おうッ!」

 ゼロの呼びかけに三人が応答し、一斉に出撃しようとする。

 しかしそれを制するかのように、別の方角で空がバリィィンッ! とまた音を立てて割れた。

「ギ―――!」

 今度は腹に丸鋸を、背に翼を生やした直立するトカゲのような超獣、カメレキングである。

「二体目ですか!」

 ミラーが叫んだが、そうではなかった。更にバリィィンッ! と別方角の空が割れ、また別の超獣が出現する。

「カァァァァァコッ!」

 緑色の鱗で全身を覆った魚に似た超獣、ガランである。

 更に別方向からバリィィン! と音が響いた。

「パオ――――――――!」

 ワニの顔面を持った特に巨体の超獣、ブロッケンだ。

「四体出てきたか……! けど俺たちは負けねぇぜ!」

 一気に現れた四体の超獣。だが予想できなかった訳ではない。元より一体二体だけが出てくるとは思っていない。複数の超獣を相手にする気概は既に出来上がっている。

 だが――。

 バリィィンッ! バリィィンッ! バリィィンッ!

『えッ!?』

 バリィィンッ! バリィィンッ! バリィィンッ!

「なぁッ……!?」『ま、まさか……!』

 バリィィンッ! バリィィンッ! バリィィンッ!

「お、おいおい……! これって……!」

 空の割れる音が止まらない。

 ゼロが、ミラーが、ジャンボットが、グレンが、大勢の人間が……その光景に絶句した。

 たちまちの内に、シティオブサウスゴータを超獣が取り囲んだのだ!

「ガガガガガガ!」「バ―――オバ―――オ!」「ガアオオオオオオ!」「ギュウウゥゥゥゥゥ!」「キィィ――――――!」「ギョロオオオオオオ!」「キャ――――――オォウ!」「ホォ―――!」「キュウウウウッ!」「キョーキョキョキョキョキョ!」「グオオオオッ!」「グゴオオオオオオオオ!」「ゴオオオオォォォォ!」「ギャア――――――――!」「カアァァァァァァ!」「キャオォ――――――!」「ブウルゥッ!」「キャアァ――――――!」「キョキョキョパキョパキョ!」「ギギギギギギ!」「ギギャ――――――アアア!」「キュルウ―――!」「グオオオォォォ!」「ゲエエゴオオオ!」「キャア――――オウ!」「キョキョキョキョキョキョ!」「グロオオオオオオオオ!」「キャアアアアア!」「アオ――――――!」「キュルウウウウ!」

 ガマス、ザイゴン、ユニタング、サボテンダー、バラバ、キングクラブ、ホタルンガ、ブラックピジョン、キングカッパー、ゼミストラー、ブラックサタン、スフィンクス、ルナチクス、ギタギタンガ、レッドジャック、コオクス、バッドバアロン、カイテイガガン、ドリームギラス、サウンドギラー、マッハレス、カイマンダ、フブギララ、オニデビル、ガスゲゴン、ダイダラホーシ、ベロクロン二世、アクエリウス、シグナリオン、ギーゴン……!

「ギギャアァァァ――――――!」

 そしてジャンボキング! 総勢三十五体もの超獣にシティオブサウスゴータを囲まれる状態となってしまった!

 

 ウルティメイトフォースゼロは……一つの思い違いをしてしまっていた……。それは、ヤプールの軍勢の規模である。

 今日までに多くの侵略宇宙人を撃破したことで、無意識の内に敵を追い詰めているという考えを持ってしまっていた。また、魔法学院襲撃の際、刺客として差し向けられた超獣が四体だったので、控えの超獣もそう多い数ではないと思い込んでしまった。あの場面で出し惜しみするはずがない、と……。

 だが事実は全くの逆だった! ヤプールは軍団の規模を隠すために、あえて少ない数を出してきたのだ! 宇宙人やベロクロンらは犠牲を前提として送り出されたのだった!

 

 そしてアルビオン軍出現を知る者たちは、恐ろしい考えに行き当たっていた!

 これだけの数の超獣がいるのだったら、アルビオン軍は必要ない。むしろ戦いの邪魔となる存在のはず……。それをわざわざ送り込んできたということは……。

 ああ、何ということだ! 彼らは戦いのためではなく……超獣の贄にされるためにここへ来たのだ!

 

『フハハハハハハハハハハ! 人間どもめぇ、絶望したかぁ!!』

 ヤプールは、異次元の虚空の中でけたたましい哄笑を上げていた……。

『これから始まるのは戦ではない……。貴様らの処刑なのだぁッ! 貴様らは殺されるために、浮遊大陸まで来たのだよぉッ! ハハハハハハハハハハハハハァ―――――――――――!!』

 

 これから、ハルケギニア史上最悪の降臨祭が始まる……!

 

 

 

≪解説コーナー≫

 

※「悪鬼ヤプール」

 

 元ネタは『ウルトラマンA』第二十二話「復讐鬼ヤプール」。隕石とともに現れた宇宙人。それは直接地球攻撃にやって来たヤプール人の一人、宇宙仮面だった。宇宙仮面の攻撃で死の淵に陥った美川を救ったのは坂井という青年。だが、坂井は宇宙仮面の化けた姿で、美川を助けたのも作戦の一環だった……という話。この次回がヤプールとの決戦であり、その前触れとも言える。また、美川は第四話でも男でひどい目に遭っている。何かと男運のない人である。

 

 

※「ヤプール人は恐ろしい奴だ~」

 

 『A』第二十三話「逆転!ゾフィ只今参上」の本編開始の第一声を飾ったナレーション。ヤプール人との決戦を前に、ヤプールがどんな存在なのかを強調するとともに、この後に行われたヤプールの恐ろしい策略を暗示している。

 

 

※「誰にも分からない~」

 

 「逆転!ゾフィ只今参上」でのヤプールの台詞。日本全国に怪しい老人が現れ、子供たちを引き連れて謎の説法をするという奇怪な事件が発生。そのどこにでも現れる老人の正体は何なのか、一人なのか複数なのかと問うナレーションの後に豪語した。

 

 

※大蟻超獣アリブンタ

 

 初出は『A』第五話「大蟻超獣対ウルトラ兄弟」。銀座の地下に巣を作り、異次元蟻地獄で好物のO型の女性を次々引きずり込んで食らい、力を蓄えていた。エースが乗り込んでくるとギロン人との連携でエースを罠にかけ、地底に閉じ込めている間に地上に上がって攻撃を開始した。地下鉄を巣に引き込んで、乗客を蟻酸で白骨化させるシーンはトラウマものである。

 それから43年後、『ウルトラファイトビクトリー』にまさかの再登場。ヤプールのジュダ・スペクター復活の作戦の先鋒として地下世界に送り込まれ、ウルトラマンビクトリーと対決した。ウルトランスの連発に耐えてビクトリーを窮地に追い込むなど、耐久力がすさまじく高い。最終的にはウルトラマンビクトリーナイトの力で倒されたが、ウルトランスを解析してエースキラーにコピーさせるという目的は果たされていたのだった。

 『ウルトラマンオーブ』では第六話「入らずの森」に、ジャグラス・ジャグラーがオーブと戦わせるために召喚して登場。何気にオーブの三つの姿と事を構えた。

 『ウルトラマンR/B』では第八話「世界中がオレを待っている」に登場。冒頭で愛染によって召喚され、街を破壊するが、ロッソとブルの合体攻撃ファイヤートルネードによって倒された。

 

 

※古代超獣カメレキング

 

 『A』第二話「大超獣を超えてゆけ!」に登場。古代カメレオンの卵と宇宙翼竜の卵が融合させられて作り出された超獣で、古代アトランティスはカメレキングに滅ぼされたとされている。飛行能力と口から吐くガスを武器にTACを攻撃し、エースとも対決した。古代アトランティスの件で、ヤプールの侵略自体はずっと昔にあったことが分かる。

 

 

※怪魚超獣ガラン

 

 『A』第四話「3億年超獣出現!」に登場。デボン紀の生きた古代魚を奪ったヤプールが、それを超獣化させた。またガランはヤプールと組んだ漫画家・久里虫太郎の描く漫画の内容を現実に反映する能力もあり、これを駆使してTACの武器を突然動作不良に陥らせるなど戦いを有利に進めた。この時恐ろしいのは、アシスタントもつけずに現実の戦況に合わせて漫画を描き進めた久里の執筆速度だろう。

 

 

※変身超獣ブロッケン

 

 『A』第六話「変身超獣の謎を追え!」に登場。ワニと宇宙怪獣を融合することで作られた超獣で、地球に戻るところだった月ロケットのパイロットの小山に乗り移り、TAC内部に潜り込むことで防衛線をくぐり抜け、新型ロケットエンジンを破壊した。ブロッケンに取り憑かれた人は手の平に単眼と口が浮かび上がるので、常に手袋を着用して隠すようになる。戦闘能力も高く、一度はエースを限界まで追い詰めた。

 しかし憑依はしても変身はしていない。肩書きに偽りありではないだろうか。

 

 

※三十五体の超獣軍団

 

 ヤプールとの決戦に相応しい大きな戦いを、ということでやってみた。あまりにも数が多いので、解説は三回に分ける。

 『A』劇中で明確に撃破されなかった怪獣や、人が変えられた超獣は入れていない。

 

 

※忍者超獣ガマス

 

 『A』第九話「超獣10万匹!奇襲計画」に登場。カメラのネガに入り込む超特異な能力を持っており、このネガで写真を焼くと、焼いた分だけガマスが増えるというとんでもない事態となってしまう。初めは超獣分析用の写真に潜んでTAC基地を内側から破壊する作戦だったが、雑誌記者が先にシャッターを切ってそのカメラの中に入ってしまったのをヤプールは逆利用し、10万部もの雑誌からガマスを大量に出す作戦に切り替えた。「忍者超獣」の肩書きにある通り、手裏剣やまきびしといった忍者の武器を使用する。

 

 

※犀超獣ザイゴン

 

 『A』第十話「決戦!エース対郷秀樹」に登場。新宿に突然現れ、街を攻撃。その時は再び姿を見せた郷秀樹に退けられるが、実はこの郷はアンチラ星人の変身であり、信用を得るための狂言だったのだ。後にアンチラ星人の正体が暴かれると、本当に街で暴れてエースと戦った。犀だが赤いものを見ると興奮する習性がある。

 

 

※くの一超獣ユニタング

 

 『A』第十一話「超獣は10人の女?」に登場。TAC基地のレーダーを次々破壊して回った超獣。肉体のパーツが十に分かれて、それぞれがサイクリング部の女子大生に化けることでTACの目を欺くというかなりの変わり種の変身能力を見せた。女子大生に変身している時には平田隆夫とセルスターズの「ハチのムサシは死んだのさ」を歌っていた。

 

 

※さぼてん超獣サボテンダー

 

 『A』第十二話「サボテン地獄の赤い花」に登場。サボテンとハリネズミを合体させた超獣で、番組開始からエースと戦うが、力不足と判断されヤプールに撤退させられる。その後は小さなサボテンに身を扮し、夜な夜なニワトリや人を食らってエネルギーを蓄えていった。TACによって捕まり、宇宙空間でミサイルを撃ち込まれるも、そのエネルギーも吸収して復活した。この時、『帰ってきたウルトラマン』のノコギリンの事例が触れられている。

 『ウルトラマンタロウ』第三十話「逆襲!怪獣軍団」では改造巨大ヤプールによって復活させられた改造サボテンダーが登場。改造ベムスターが海野の特攻で窮地に陥ったので、海野一人を抹殺するために繰り出された。しかし援護のはずなのに、改造ベムスターを思いきり突き飛ばしている。危うく海野が殺されかけるが、そこにタロウが登場して交戦となった。この時「行くぞベムスター!」と言ったのに終始サボテンダーと戦っていて、改造ベムスターと再戦することはなかった。

 

 

※殺し屋超獣バラバ

 

 『A』第十三話「死刑!ウルトラ5兄弟」と第十四話「銀河に散った5つの星」に登場。ヤプールの罠によってウルトラ兄弟がゴルゴダ星に囚われている間に地球に送り込まれた超獣。右手が鉄球、左手が鎌、頭部に剣と攻撃的な外見をしており、ヤプールが降らせた放射能の雨に守られながら戦うことでTACを苦しめた。エースとの初戦でもウルトラ兄弟を人質にすることで彼を敗退させた。エースキラー敗北後の二戦目では特に説明なく放射能の雨がなくなる。ちなみにエースキラー戦で合成が多くなったからか、二戦目ではエースは一切光線技を使用していない。

 暴君怪獣タイラントの腕はこのバラバのものだが、どうしてか左右が逆になっている。

 

 

※大蟹超獣キングクラブ

 

 『A』第十五話「黒い蟹の呪い」に登場。カブトガニの超獣で、海を汚す人間への怨みで人を食らう。特徴的なのは数々の怪獣の中でも特に長い尻尾で、タイラントのパーツにもなっている。ちなみにカブトガニはクモやサソリに近い生物であり、蟹ではない。

 

 

※大蛍超獣ホタルンガ

 

 『A』第十七話「怪談・ほたるヶ原の鬼女」に登場。TACの新兵器・V7ミサイルを破壊することが目的で、輸送ルート上のほたるヶ原バイパスで民子に飼われる蛍に化けながら車を次々襲っていた。尻尾の中に民子と夕子を閉じ込め、北斗との変身を防ぐという知能犯的なところも見せた。

 

 

※大鳩超獣ブラックピジョン

 

 『A』第十八話「鳩を返せ!」に登場。鳩の帰巣本能を利用してTAC基地を攻撃させるために、三郎少年の伝書鳩の小次郎の脳を移植して作られた超獣。しかしそのために、三郎の鳩笛の音に引きつけられ、ヤプールの命令を聞かずに地球に出現するようになってしまった。特に強い設定はないのだが、劇中で単身、小細工なしでエースを極限まで追い詰めたので、超獣最強として名を挙げられることがある。




 遂に始まったヤプールの大攻勢。大超獣軍団の恐るべき魔の手の前に、人々はなす術もない。次々と倒れる仲間たち。人間たちは超獣に追われ、皆逃げ惑うばかり。その時、気力を失っている才人は何を見るのであろうか。次回、「超獣総進撃」。

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