ウルトラマンゼロの使い魔   作:焼き鮭

92 / 147
第八十五話「泣くな失恋怪獣」

ウルトラマンゼロの使い魔

第八十五話「泣くな失恋怪獣」

硫酸怪獣ホー 登場

 

 

 

 ……ウチのクラスにルイズが転校してきてから、一日が経った。第一印象が最悪だったんで、一時はどうなることかと思ったが……ルイズはきついところはあるけれど、意外と気さくで人当たりのいいところがあって、案外すぐ打ち解けられた。いやぁよかった。どうしてかそれと前後してシエスタが妙に不機嫌になっているが……。

 何はともあれ今日も登校すると……校舎の玄関口で、そのルイズが一人の男子といるところを目撃した。あいつは、確か……同じクラスの、中野真一って奴だったっけな?

 ルイズは中野に対して、バッと頭を下げた。

「ごめんなさい!」

 何故か謝られた中野は、思いっきりショックを受けているようだった。

「そ、そんな!? ルイズさん、せめてもう少し考えてくれても……!」

「えーと、何て言うか……わたし、あなたをそういう風には見られないんです! だから……ほんと、ごめんなさい!」

 もう一度謝ったルイズが校舎の中へ逃げるように駆け込んでいく。何だ何だ?

「そんなぁ……ルイズさ~ん……」

 置いていかれる形になった中野は、ガックシと肩を落としうなだれた。

 呆気にとられる俺とシエスタ。これってまさか……。

「朝から賑やかなことだな」

 と言いながら俺たちの元に現れたのはクリスだ。

 ……あれ? クリスって……この学校にいたっけ? 昨日はいなかったような……。

 まぁいいや。俺はクリスに何事だったのかを尋ねる。

「クリス」

「ああサイト、おはよう」

「おはよう。クリス、今さっきルイズと中野が何やってたのか知ってるか?」

「ああ。あの男子が、ルイズに自分とつき合ってほしいと告白をしたんだ」

 告白! 俺とシエスタは目を丸くして驚いた。

「しかし、あの様子ではきっぱりと断られたみたいだな。かわいそうに」

「ナカノさん、ルイズさんは転校してきてまだ一日なのに、大胆ですねぇ……」

 シエスタが呆けながらつぶやいた。確かに、大胆というか急ぎすぎって感じはするな。

「彼の気持ちがそれだけ真剣だったのだろう。真剣な気持ちに時間は関係がないということ、師匠も言っていた」

 クリスはそう語った。弓道部主将にして剣の達人でもある、女侍といってもいいクリスの師匠……どんな人なんだろう。

 ん? つい最近教えてもらったんじゃなかったっけ? でも、記憶には全然ない。また何か変な思い違いをしてるのかな、俺……。

 俺たちが話している一方で、中野は依然として肩を落としながらトボトボと校舎の中に入っていった。その背中からは哀愁が漂っている……。確かにかわいそうだが、俺たちに出来ることなんてないよな。せめて、早く失恋から立ち直ってくれることを祈ろう。

 おっと、授業が始まる時間が近づいてきた。俺たちも教室に行こう。

 

 教室に入り、授業が開始される寸前に、ルイズが俺に呼びかけた。

「ちょっと……」

「ん? ああ、また教科書持ってきてないのか?」

 俺はまだルイズが教科書をそろえてないのかと思ったが、そうではなかった。

「違う! ……これッ!」

 と言ってルイズが俺に突き出したのは、布にくるまれた箱型のものだった。

「何だこれ?」

「これは……その……あの……!」

「あの?」

「お、お、お、お弁当よ!」

 弁当? どうしてそんなものを、こんな時間に出すのか。

「そうか、弁当か。随分でかいな。こんなに食ったら太るぞ」

「わ、わたしのじゃないもん!」

「じゃ、誰の?」

「あ、あ、ああああんたに決まってるでしょ!」

 ……え?

「俺の? 弁当? お前が?」

「か、勘違いしないでよね! た、ただ、昨日、道でぶつかって謝りもしないままだったから……。ほ、ほんのちょっぴりだけ悪かったなって! だから、お詫びの気持ちよ、お詫びの! ほ、ほんとにそ、それだけなんだからね!」

 弁当……。女の子が俺に弁当を……。

 俺は思わず教室の窓を開け放ち、青空に向かって叫んだ。

「神様ー! 生きててくれてありがとおおおおおお!! 僕は幸せで――――――す!」

「えぇッ!?」

 驚くルイズ。周りの奴らもこっちに振り向いていた。

「ど、どうしたの? 平賀くん、何をやってるんですか?」

「ああ、またサイトが変なことしてるだけ。気にしたら負けよ」

 目を丸くしている春奈に、モンモランシーがそう答えていた。変なことで悪かったな! この感動を表現するには、これくらいのことはしないと駄目だったんだよ!

「ちょっと! 恥ずかしいじゃない! どうして空に向かって雄叫び上げるのよ! みんな見てるわ!」

 慌てふためくルイズに、俺は熱弁する。

「だって、弁当だよ? 手作り弁当だよ!?」

「そ、そうだけど! は、恥ずかしいからやめてよ!」

「お、俺、女の子に弁当もらうのなんて……。う、う、生まれて初めてで……。うっうっうっ……」

 感動のあまり、俺は嗚咽を上げて泣きじゃくってしまった。

「ち、ちょっと泣かないでよ。こんなことくらいで……」

「いやいや、男子高校生三種の神器には、一生縁がないと思ってたから……」

「三種の神器?」

「女の子の手作り弁当、バレンタインデーの本命チョコ、誕生日プレゼントの手編みセーター! この三つを称して、三種の神器と呼ぶのですッ!」

 誰が呼んでいるのかは俺も知らんが、ともかく俺の中ではそうなっている!

「ああッ、今日は最高の日です。お父さん、お母さん。俺を生んでくれてありがとう!」

「ふ、ふーん。よく分からないけど、そんなに喜んでもらえるならよかったわ」

 俺の感動ぶりに、ルイズは満更でもなさそうに言った。

「はッ!? そ、そうか、そうだったのか!?」

「え?」

「ちょっとこっちに来てくれ、ルイズ」

「こっちにって……! もうすぐ授業始まっちゃうってば! サイト!?」

 教室じゃ何なので、俺はルイズを屋上まで連れていった。

「ごめんよ、ルイズ。君の気持ちに気づかないままで……」

「さ、サイト? な、な、何真面目な顔して……」

 戸惑い気味のルイズに、俺は尋ねかけた。

「お前、俺のこと好きなんだろ?」

「なッ!?」

「だから今朝、中野からの告白を断った。そうだろ?」

 そうか、そういうことだったんだな……。俺のことが好きだったから、中野の気持ちには応えられなかったんだな。

「ち、違うもんッ! あれは……!」

「そんな言い訳いらないさ。さあ、ルイズ……!」

「サイト……」

 腕を広げた俺の顔を、ルイズはじっと見つめて……。

 ドゴォッ!

「バカッ!」

「ぐがッ!」

 お、俺の股間に膝蹴りが決まった……。

「ぐおおおおお……! お、俺の股間の夢工場が……!」

「だ、誰があんたをす、す、好きなのよ!? 全く笑えない冗談だわ!」

 苦悶にあえぐ俺に、ルイズは真っ赤になりながら怒鳴りつけてきた。

「一つ教えてあげる! 冗談も過ぎると命取りになるの! 分かった!?」

「……勉強になりました……」

「全く! 馬鹿なこと言ってないで、教室に戻るわよ!」

「ふぁい……」

 すっかり怒ってしまったルイズは、早足で屋上から中へ戻っていった。く、くそう……少し焦りすぎたか……。もっと落ち着いてから質問すればよかった……。ああ、すっげぇ痛い思いをしてしまった……。

 反省しながら俺も教室に戻ろうとした時……扉の陰に春奈とシエスタがいることに気がついた。

 あんなところで、授業が始まる前に二人は何をやっているんだ?

「……見ましたか、ハルナさん?」

「ええ、しっかりと。これは……由々しき問題ですね。何とかしなければ」

 ……な、何をやってたんだ? まさか……さっきの俺とルイズのやり取りをこっそり見ていたんじゃ……。

 異様な威圧感のあるシエスタたちに対して、俺は知らず知らずの内に怖気づいていた。

 

 教室に戻ると……中野がとんでもなくショックを受けたような顔をしていて、次いで俺に一瞬恨めしい視線を向けた。

 げッ……そ、そういえばルイズに振られた張本人がいるんだった……。さっきの、俺が手作り弁当をもらうところを目撃したに決まっているよな……。き、気まずい……。

 俺は針のむしろにいるような気分になりながらも、その日の授業を受けたのであった。

 

 そして夜遅くに、自室にいたところにゼロに呼びかけられた。

『才人! 外で何か異常が起きてる!』

「えッ、何だって!? 本当か!?」

『外を見てみろ!』

 促されて、窓を開け放つと、俺の住む街に怪しい霧が掛かっていることに気がついた。

「霧……? 今日は晴れだぜ……?」

『ただの霧じゃないぜ。マイナスエネルギーの異様な高まりを感じる……。こいつはマイナスエネルギーの実体化だ!』

 マイナスエネルギー……! 俺も話には聞いたことがある。人間の怒りとか嫉妬とか、負の感情から生じる良くないエネルギーだとか。あのヤプールのエネルギー源でもある。このマイナスエネルギーが高まると、怪獣が出現しやすくもなるらしい。

 ということは……。俺の嫌な予感は的中してしまった。

 街に漂う霧に投影されるように青い怪光が瞬くと、一体の巨大怪獣の姿が不気味に浮き上がったのだ!

「ウオオオオ……!」

「あいつは……!」

 まっすぐ直立した体型にピンと立った大きな耳、手の甲は葉っぱのような形状で、腹には幾何学的な模様が描かれている。生物というよりは、何かの彫像みたいだ。そして二つの目から、何故か涙をこぼしている。

 データには、硫酸怪獣ホーとある!

「またまた怪獣か……! 行こうぜ、ゼロ!」

 俺は怪獣と戦うために変身しようとしたが、それをゼロ当人に止められた。

『待て、才人! あの怪獣、まだ実体って訳じゃないようだぜ!』

「えッ? どういうことだ?」

『奴はマイナスエネルギーの結晶体の怪獣みたいだが、肉体が完全に固形化してないんだよ。いわば中間の状態だな』

 と言われても、俺にはよく分からないが……。

 と、その時、怪獣ホーの姿が一瞬揺らぎ、あの中野の姿が見えたような気がした。

「今のは中野……!?」

『俺にも見えたぜ。気のせいとか幻とかなんかじゃねぇ。あの怪獣はどうやら、中野真一の負の感情が中核になってるみたいだ!』

 な、何だって!? 中野の感情は、怪獣になるまで大きかったのか……! というかそうなると、ホーの出現の原因の半分は俺ってことになるのか!? 俺があいつを尻目に、ルイズから弁当を受け取ったりしたから……。

 さすがに中野の感情の化身を闇雲に倒すのは目覚めが悪い。ホーの核があいつっていうのなら、中野を説得して怪獣を消し去ろう!

「中野に、怪獣を消すように説得をしなくちゃ!」

『ああ!』

 俺は遮二無二部屋を飛び出し、中野の家の方へと大急ぎで走っていった。ホーにまだ暴れる様子はないが、いつまで続くかは分からない!

 

 しかし中野の家にたどり着く前に、夜の街の中で肝心の中野を発見した。何故か、矢的先生と一緒にいる。

「真一、聞こえるか? あの怪獣の鳴き声は、お前の声だ! 夢の中でお前が作ってしまった怪獣だ! 憎しみや悲しみ、マイナスの感情を吸収して、あそこで泣いてるんだ!」

 先生は中野に向けてそう告げた。先生もホーの正体を見抜き、俺よりひと足先に中野を説得して、怪獣から解放しようとしているのか? 民間人のはずの先生が、そんなことまでするなんて……。そんなにも生徒のことを考えているのだろうか。

 話がややこしくならないように、俺は物陰にこっそりと隠れながら話の行方を見守る。

 そして矢的先生は、中野に対して語り出した。

「愛しているから、愛されたい。愛されなければ腹が立つ。でも、本当の愛ってそんなちっぽけなものなのか? 人のお返しを期待する愛なんて、偽物じゃないかな」

 ……矢的先生……。

「想う人には想われず! よくあることだぞ。先生だってそんなことあったよ」

「先生も?」

「うん。……故郷にいた頃、本当に好きな女の子がいてなぁ、その子のためなら、何でもしようと思った。その子、楽器欲しがってたんだ。先生どうしても買ってあげたくてさ、必死になってバイトした! だけどな……二ヶ月目にやっと手に入れた時には、遅かったよ。その子には、新しい恋人が出来てたんだ。悲しかった……。悔しかった。憎かったよ! だけどな、先生そのままプレゼントしたよ! その楽器が、先生の本当の心を、鳴らしてくれると思ってな。それで終わりだよ……! 今はもう懐かしい思い出だ」

 先生に、そんな苦い思い出があったんだな……。

『……何だ? どこかで聞いた話のような……』

 何故かゼロが首をひねっていた。

 自分の過去を話した先生は、改めて中野に呼びかける。

「真一、あの怪獣を作った醜い心が、お前の本当の気持ちなんて先生思わないぞ。今にきっとお前にも分かる!」

 しかし、中野は、

「分からないよ! 俺、憎いんだ! 悔しいんだよぉーッ!!」

 その絶叫に呼応するように、とうとうホーが完全に実体化して暴れ始めた!

「ウアアアアアアアア!」

 地団駄を踏むように行進して、近くの建物を薙ぎ倒す!

「くそッ、結局こうなっちまうのか……!」

『仕方ねぇ! 才人、怪獣を止めるぜ!』

「ああ! デュワッ!」

 俺は街を守るためにゼロアイを装着して、ウルトラマンゼロに変身した!

『やめろ、ホー!』

 巨大化したゼロはすぐさまホーに飛びかかっていって、押さえつけて街の破壊を食い止めようとした。

「ウアアアアアアアア!」

 けれどホーは暴れる勢いを止めようとしない。その両眼から涙がボロボロと飛び散り、一滴がゼロの手に落ちる。

 途端に、ゼロの手がジュウッと焼け焦げた!

『うおあぁッ!? あぢッ、あぢちちちッ!』

 反射的にゼロは手を放してしまう。

『ゼロ、ホーの涙は硫酸なんだ!』

『くそッ、何て迷惑な奴なんだ……!』

「ウアアアアアアアア!」

 ホーはわんわん泣きわめき、辺り一面に硫酸の涙をまき散らす! 何て危険な!

『や、やめろ! くそぉッ!』

 阻止しようにも、涙の勢いは雨あられで、ゼロも容易に近づくことが出来ない!

 そして涙の一滴が、ホーを生み出した中野にまで飛んでいく!

『あッ……!』

「危ない真一ッ!」

 それを助けたのは矢的先生だった。けど中野の身代わりに、先生が肩に硫酸を浴びて火傷を負ってしまう。

「先生……俺のために……!」

「そんなことより……怪獣を見ろ……! 奴は、ルイズの家の方に向かってる……!」

 何だって!? 確かに、ホーはどこかに移動しようとしているように見える。まさか、ルイズを殺そうってのか!? くそッ、それだけは絶対にさせるものか……!

「お前の潜在意識が、怪獣をルイズのところに行かせるんだ! お前は本当にルイズが憎いのか!? いいのかそれで!」

 先生は大怪我を負ってもなお、中野を説得しようとしていた。矢的先生……!

「本当にそれでいいのか!? 真一ッ!」

 先生の呼びかけに……中野も遂に応えた。

「消えろー! お前なんか俺の心じゃない! 消えろーッ!!」

 中野は自分の憎しみを捨てた!

「ウアアアアアアアア!」

 ……けど、ホーは消えない! それどころか、ますます凶暴になって暴れ狂う!

『ど、どうしてなんだ!?』

『ホーはもう、あいつの心から離れて独立した存在になっちまった! こうなったからには、倒す以外にないぜ!』

 くっそぉ……! だったら、とことんまでやってやるぜ! 俺たちは気持ちを重ねて、ホーに立ち向かう!

『おおおおおッ!』

「ウアアアアアアアア!」

 今度は硫酸にもひるまず、正面から間合いを詰めて打撃を連続で入れていく! が、ホーはゼロの身体を掴んで軽々と投げ飛ばした!

『うッ!』

「ウアアアアアアアア!」

 地面に打ち据えられたゼロに馬乗りになったホーは、両手の平で激しくゼロを叩く。

『ぐッ……! 調子に乗るなッ!』

 自分の上からホーを振り払ったゼロだが、起き上がった瞬間にホーの口から放たれた火炎状の光線をまともに食らってしまった!

『ぐああぁッ!』

 痛恨のダメージを受けるゼロ! カラータイマーもピンチを知らせる!

『今の光線の威力……何てパワーだ!』

『人の心から生じたマイナスエネルギーを直接吸収して、力と憎しみが膨れ上がってるってところか……!』

 マジか……! 人間の憎しみは、それだけのパワーになるってことなのか……! 同じ人間として、恐ろしい気分になる……。

『だからこそ、負ける訳にはいかねぇぜ! とぉあッ!』

 勇んで地を蹴ったゼロは、そのままウルトラゼロキックをホーにぶち込んだ! この必殺キックはさすがに効いたようで、ホーに大きな隙が出来る。

「シェエアッ!」

 そこにワイドゼロショットが発射される! 直撃だ!

「ウアアアアアアアア……!」

 しかし、ホーはワイドゼロショットを食らっても倒れなかった! ほ、本当にとんでもない奴だ……!

『だが、こいつで今度こそフィニッシュだぁッ!』

 ゼロはひるまず、ゼロツインシュートを豪快に放った!

「ウアアアアアアアア!」

 それが遂に決まり手となった。ホーの全身が赤い炎のように変わり果て、身体の内側から輪郭の順に飛び散って完全に消え失せた。

 やった……! ゼロの勝ちだ。ゼロは恐ろしい、人間の憎しみの心にも勝ったんだ……!

 

 ……今日もまた、才人は覚醒して身体を起こした。

「……本当の、愛……」

 またしても夢のことはほとんどを忘れ去ってしまった才人だが……誰かが熱く語った「本当の愛」についての内容だけは、記憶に残っていた。

 

 そして日中、

「こらぁーサイトッ! あんたまた、わたしの見てないところでメイドとイチャイチャしてたそうね! しかも今度はクリスともだそうじゃない! この節操なしの犬! 一辺教育し直してあげようかしら!?」

 ルイズはまた何か変な誤解をしたようで、怒り狂って才人に詰め寄ってきた。いつもの才人なら、彼女の怒りから逃れようと必死に言い訳を並べていることだろう。

 だが、今の才人は違った。

「なぁ、ルイズ」

「な、何よ? 今日はいやに落ち着き払って……どうしたっていうのよ? 何か変よ」

「愛しているから、愛されたい。愛されなければ腹が立つ……。本当の愛って、そんなちっぽけなもんじゃないだろう?」

 困惑したルイズに、才人は夢で覚えた言葉を、すました態度で告げた。

「人のお返しを期待する愛なんて、偽物。お前もそう思わないか?」

 ふッ、決まった……と言わんばかりに、格好つけた様子でルイズと目を合わせる才人。果たして、ルイズの反応は、

「……知った風な口を利くんじゃないわよぉッ!」

 余計に怒らせて、ドカーンッ! と爆発をお見舞いされた。

「ぎゃ―――――――――ッ!!」

「ふんッ! どこでそんな言葉覚えてきたんだか……!」

 ツカツカとその場を離れていくルイズ。後には、黒焦げになった才人がバッタリと倒れ込んだ姿だけが残された。

「ど……どうしてこうなるんだ……」

 ピクピク痙攣した才人は、そうとだけ言い残して力尽きた。

 

 

 

≪解説コーナー≫

 

※「泣くな失恋怪獣」

 

 元ネタは『ウルトラマン80』第三話「泣くな初恋怪獣」。生徒の中野真一の喧嘩を止める矢的。真一は恋人のみどりを取られてしまい、その相手と喧嘩してもみどりの心は戻らなかった。真一の失恋の悲しみ、怒りはマイナスエネルギーの霧と結びつき、怪獣ホーが誕生してしまう……という話。学園編のテーマを最も表現している一作。思春期の少年の失恋を通して、矢的先生が本当の愛を教えてくれる。

 

 

※中野真一

 

 「泣くな初恋怪獣」のゲストであるE組の生徒の一人。恋人のみどりをサッカー部の柴田に取られたことで生じた負の感情が、ホーを生み出す原因となった。『ウルトラマンメビウス』の「思い出の先生」でも、この話を蒸し返されている。

 

 

※硫酸怪獣ホー

 

 「泣くな初恋怪獣」で初登場した、マイナスエネルギーの結晶体と言える怪獣。真一の失恋によって生じた負の感情がきっかけとなって誕生した。そのためか、目から硫酸の涙を流し続ける。この涙を武器に使い、口からはマイナスエネルギーを光線として発射。サクシウム光線が直撃しても倒れないなど、意外な強敵であった。

 『メビウス』第四十一話「思い出の先生」で再登場。矢的が受け持っていた一年E組の同窓会が行われていた際に、会場の桜ヶ岡中学校の校舎から発せられたマイナスエネルギーによって出現した。このホーの出現により、かつての生徒たちと会わないつもりだった80が駆けつける。この再登場は、マイナスエネルギーに直接関係する怪獣だからだという。

 映画『ウルトラ銀河伝説』ではベリアルの怪獣軍団の一体として登場。後の方まで生き残ったが、ウルトラマンゼロによって倒された。

 『ウルトラゾーン』では訪問業者として登場。またドラマ「いつも隣にホーがいる」では、タイトル通り主役級に抜擢。失恋の悲しみを抱える人間の側に現れるという設定で、劇中では二体が登場した。悲しみの度合いで色の濃さや大きさが変化する。

 『ウルトラマンオーブ』では第七話「霧の中の明日」に登場。ここでは従来の失恋からではなく、不幸な予知夢を見続ける少女ハルカの絶望から誕生している。首からマイナスエネルギーを吸収し、爆散したように見えても光の攻撃でないとすぐに復活するという能力が追加された。

 

 

※矢的の真一への説得

 

 矢的はホーを作ってしまった真一の負の感情を晴らそうと、己の経験談を交えて説得を行った。この時語った故郷とは、ウルトラの国のことであろうが、ウルトラの国にもバイトの制度があるのか、地球の文化に合わせて話をアレンジしているのかは不明。

 

 

※ゼロツインシュートで消滅するホー

 

 ホーは劇中で初めてサクシウム光線が通用しなかった怪獣であり、80は初使用となるサクシウム光線よりも強力な技、バックルビームでホーを倒した。その際、ホーは元々実体を持たなかった怪獣故か、合成エフェクトとともに消え失せた。




 学院で浮いていて、独りぼっちでいるクリスを気に掛ける才人。何か出来ることがないかとルイズと相談していたら、学院に怪獣が迫ってきた! それも本来動かない怪獣が、動いている! 何が起こっているのか!? 次回「怪獣は動く」みんなで見よう!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。