ウルトラマンゼロの使い魔   作:焼き鮭

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第八十六話「怪獣は動く」

ウルトラマンゼロの使い魔

第八十六話「怪獣は動く」

不動怪獣ホオリンガ 登場

 

 

 

 トリステインの一地方の、小さな農村。背景に野山が並ぶ、のどかな空気が流れる平和な土地である。

 ここの畑の一つを耕している農夫に、通り掛かった農夫仲間が呼びかける。

「おーい、今日はいい天気だっぺなぁ~」

「ああ、そうだっぺなぁ。ほんに畑仕事日和だっぺ」

 鍬を振るう手を一旦止めた農夫が、仲間と立ち話をする。

「それにしても、戦争が終わってからほんに平和になったっぺなぁ。重くなる一方だった税金も軽くなって、はぁ~、まさに女王陛下さまさまだっぺぇ」

「ほんとになぁ。ウチの兵隊に出ていった息子も無事帰ってきたし、ひと安心だっぺよ」

「……けど、ここのところは刺激的なこともすっかりなくなって、何だか退屈だっぺよ。来る日も来る日も変わり映えのない畑仕事ばっかり。ここらで何か面白いことでも起こらんもんだっぺかな」

「おいおい、そんな贅沢なことを言うもんじゃねぇっぺ。何をおいても、平和が一番! 今度の戦争でそれがよく分かったろうよ?」

「まぁ、そうだどんけどな」

 アハハハと朗らかに笑い合う農夫たち。こんな風に他愛ない話で楽しめるのも、平和である証だ。

 しかし、ふと背景の山々に目を向けた農夫が、訝しげに目を細めた。

「んん~……?」

「おい、どうしたっぺ?」

「なぁ……何か、山が多くないっぺか?」

「はぁ?」

 おかしなことを言う農夫に、仲間はすっとんきょうな声を上げた。

「何を言うっぺか? 山が多いって……そんなことあるはずなかろうて」

「いやいや、あそこ! いつも見てる景色と、今日はなーんか違う気がするっぺよ!」

 農夫が指差す方向に、仲間も顔を向けた。

「そうかぁ? 気のせいだろうよ。落ち着いて考えろよ。山が増えるなんて、いくら何でもある訳ねぇっぺ」

「けんど……」

 もう一度山地に視線を送った農夫が、ギョッと目玉を剥いた。

「お、おい!」

「あん?」

「今、山が一つ動いたっぺ!」

 その言葉に、農夫仲間はとうとうおかしくなったのかと心配になった。

「おめぇ、頭大丈夫っぺか? 山は生き物じゃねぇど。動くかよ」

「け、けど、あれ!」

 農夫がしきりに指を差すので、仲間はやれやれと肩をすくめ、指の先へと視線を戻した。

 そして彼も、表情を驚愕に染めることになった。

「な、な、な……なぁぁぁぁ――――――――――――!?」

「や、山が動いとるだよぉぉぉぉぉぉ――――――――――――!!」

 二人が目撃したのは……野山と野山の間から、「山のような何か」がズズズズ……とゆっくり移動している現場であった。

 

 毎度お馴染みのトリステイン魔法学院、寮塔のルイズにあてがわれた部屋。

「なぁルイズ……クリスのことなんだけどさ」

「何よ、いきなり改まって」

 才人が神妙な面持ちで、ルイズに話を振っていた。

 ちなみに二人が座っている場所は、畳の上。そして囲んでいるのはちゃぶ台。何故西洋風文化の世界のハルケギニアに、こんな不釣り合いのものがあるかと言うと、先日復学したタバサが持ち込んできたところを発見した才人が、日本にいた頃を懐かしんで譲ってくれるように頼み込んだからだ。タバサの方も、畳とちゃぶ台をどうしようか少し悩んでいたというので、快く受け取ることが出来た。そしてルイズの部屋に運び込み、以前寝床にしていた藁を敷いていた部屋の隅に設置し、才人のスペースにしたのであった。

 しかしタバサがどういう経緯でこんなものを手に入れたのかはよく分からなかった。里帰りしていた時に、色々あったみたいだが。

 それはともかく、才人はまだ椅子を使わずに直接座ることに慣れていない様子のルイズに言った。

「今日もクリス、独りぼっちだったな。話しかける奴は、俺らだけだった」

「……そうね」

 コクリと、ルイズは小さく首肯した。

 クリスが学院に編入してから数日が経過していたが、クリスは現在のところ、ルイズと才人以外に全然友達が出来ていなかった。それどころか、誰も近寄ろうとしない。やはり、クリスの格好や言動、振る舞いが他と違いすぎるから敬遠されてしまっているようだ。

 この状況を、才人は苦々しく思っているのであった。

「クリスのこと、どうにかならないかな。あいつ、時々突拍子もないこと言ったりやったりもするけど、根は真面目でいい奴なんだぜ。それなのに、腫れ物みたいに扱われるなんてひでぇよ」

 この才人の意見に対し、ルイズも渋い顔をしながらも返答する。

「気持ちは分からなくもないけど……貴族って、多分あんたが思ってる以上に閉鎖的なものなのよ。自分たちにとっての変わり種は、そうそう受け入れようとは思わない……。わたしだって色々と苦労したものよ」

 経験談を語るルイズ。確かに、会ったばかりの頃のルイズは周りから「ゼロ」と軽んじられ半ば仲間外れにされていて、大変そうだったと才人は思い返した。現在はほぼ対等の立場となっているが、それは『虚無』に目覚めたことでコモン・マジックを扱えるようになってから……貴族にとっての「普通」になってからようやくのことだった。

「他にも、貴族社会のしがらみのこともあるわ。その点においては、クリスが他国の王女だというのが一番のネックになってるのよ」

「他国の王女だってのが問題って……他の国の留学生ならタバサとかキュルケとかがもういるし、何よりクリス、自分のことは王女と思わなくていいって言ってたじゃんかよ」

「クリス自身がそう言ってても、周りが同調するとは限らないわよ。むしろ、クリスに賛同する者の方が圧倒的に少ないでしょうね。本人がどう言おうとも、周囲はどうしても彼女を「王女」、つまり「一つの国そのもの」として見るわ。それに親しくしようとするのは、他国に取り入ろうとしてると見られてしまうって訳。そんなマイナスイメージがついたら、貴族社会で苦しい思いをすることになるでしょうね。……「他国の貴族」と「他国の王女」じゃ、その点が大きな違いなのよ。そしてその意識を変えるのは、所詮一生徒と成り上がり貴族には無理難題よ」

 憮然とした才人に、ルイズは諭した。

「何だよ、それ。くっそ、貴族ってのはいちいちめんどくさいな……」

 大きなため息を吐いた才人は、論点を変えながら話を続ける。

「でも、俺たち姫さまから、クリスのことをよろしく頼まれただろ。それを反故にするのか?」

 アンリエッタのことを出されると、ルイズはうッ、と息を詰まらせた。

「そんなつもりじゃないけど……だからって、具体的にどうしようってのよ。たとえば、あんたの世界だと転校生はどんな風に扱われるの?」

 聞かれて、才人は答える。

「俺の世界じゃ、そもそも身分の違いなんてもんはないし……転校生が来たら、仲良くしようって歓迎するもんだよ。クラスのみんなで、パーティーとかもするんだぜ」

 そう言ったら、ルイズが食いついた。

「パーティー? ……なるほどね。それ、なかなか悪くないじゃない」

「え?」

「貴族の世界も、親交を深める手段として最も用いられるのはパーティーを開催することだわ。一対一だと変な勘繰りをされるかもしれないけど、不特定多数と平等に接すれば、他意があると思われる可能性は少なくなるでしょうね」

 ルイズの言うことは才人には少し難しかったが、同意してくれているということだけで十分であった。

「そっか! ルイズがそう言うんだったら、その方向で行こう! クリスを中心に、学院でパーティーだ!」

 張り切る才人だが、ルイズはそのことで違う問題を挙げた。

「でも、パーティーをやるとして、今度はその内容をどうするかを考えないといけないわよ。何せ、普通のパーティーじゃクリスがまたいらないことを言って、せっかくの席をぶち壊しちゃうかもしれないし。それに、パーティーするなら少なくとも広間が必要よ。そこを貸してもらう許可が下りるかしら」

「うッ……まだそんなに問題があるのかよ」

 嫌になってくる才人だが、ここで閉口していては先に進まない。

「それじゃまずは、どんなパーティーにするかの案を……」

 と言いかけた時に、ゼロがいきなり声を発した。

『話の途中ですまねぇが、一旦そこまでにしてくれ。才人、怪獣がこっちに近づいてるぜ!』

「えッ!? マジかよ!」

 途端に才人とルイズは身を強張らせた。

『嘘言うもんかよ。気配が異様に静まってるからなかなか気づけなかったが、一度捕捉すりゃはっきりと分かる。もう結構近いとこまで来てるようだ』

「そうか……分かった。どんな奴か知らないが、放っとく訳にはいかないよな」

 気配が異様に静まっている、というのが奇異であったが、そこを考えるのは後からでもいい。才人はさっと立ち上がる。

「怪獣の接近を止めないとな。ってことでルイズ、行ってくるぜ」

「頑張ってね、サイト」

 壁に立てかけていたデルフリンガーを背負った才人を、ルイズはひと言だけ告げて応援した。

「デュワッ!」

 ウルトラゼロアイを装着すると、ゼロへ変身した才人が光に包まれながら学院から飛び出していった。

 

 才人が変身する少し前、タバサはシルフィードに跨って学院から飛び出し、学院に接近しつつある怪獣の姿をひと足先に確認していた。直前に空の散歩をしていたシルフィードが、たまたま発見して彼女に報告していたのだ。

「お姉さま、あれなのよ! ホントに、小山が動いてるみたいでしょ? きゅいきゅい!」

 シルフィードが指す先にいるのは、動く小山……と思わせるような、重量級の怪獣であった。二つの真ん丸とした目玉に、青い胴体からはいくつもの触手を伸ばしている。そして口に相当する部分には、黄色い花をちょこんと生やしている。それがズズズズ……とゆっくりと学院の方向へと移動している。

 花があることから想像がついたかもしれないが、この怪獣は動物型ではなく植物型。名をホオリンガという。

 そしてタバサは、以前に書籍でこのホオリンガの姿形を目にしていた。

「あの怪獣は……トリステインの一地方の伝承を纏めた本の挿絵にあった怪物と瓜二つ」

「お姉さま、あの怪獣のことを知ってるのね?」

 シルフィードの問い返しにコクリとうなずくタバサ。

「……確か、現れた場所から一歩も動かずに、土地に栄養を与えた後に山に変貌するという。その地方では、自然の神として信仰されてたこともあるとか」

「山に変わる? どういうことなのね?」

「そのままの意味らしい」

「……よく分からないけど、そんなシルフィにも分かることが一つあるのね」

 シルフィードは地上のホオリンガへと視線を落とした。

「一歩も動かないって、あの怪獣は明らかに動いてるのね。おかしくないかしら?」

「……わたしにも、そこはよく分からない」

 そう話していたら、ゼロが現場に到着した。実体化した彼はホオリンガの前に着地して、進行を妨害する。

『待ちな! これ以上は学院には近づかせねぇぜ! そこで止まれ!』

 手の平を向けて高々と告げるが、

「キュウウゥゥゥイ!」

 ホオリンガはまるで聞き入れた様子がなく、速度を保ったまま前進し続けている。それを見たゼロが舌打ちした。

『聞いちゃいねぇか。……って言うか……』

 ゼロはホオリンガの眼に注目した。おぼろげにしか光が灯っていない。

『どうも正気じゃなさそうだな。……この前のティグリスもそんな感じだったな……立て続けにそんなのが現れるとは、やっぱり何か恣意的なもんがあるのか……?』

 一瞬考え込んだゼロだが、すぐに意識をホオリンガに戻す。

『とりあえず考えるのは、こいつを正気に戻して元の居場所に帰してからだ!』

 向かってくるホオリンガに飛びかかっていくゼロだが、ホオリンガはティグリスの時とは異なり、自発的にゼロに攻撃を仕掛ける。

「キュウウゥゥゥイ!」

 胴体から生える長い触手がいくつもうごめき、ゼロへと伸びていった!

『おっと!』

 しかしさすがはゼロ、複数の触手を難なく回避。だがホオリンガも諦めず、しつこく触手を振り回す。

『よッ! はッ! とッ!』

 正面からの突きを、首を傾けてよけ、袈裟に振るわれたものはくぐり、足元を狙った横薙ぎは軽く跳び越える。巧みな身のこなしだ。

『へへッ、今度はこっちの番だぜ!』

 そろそろ反撃しようとするゼロ。だがその瞬間に、ホオリンガの花から大量の黄色い花粉が噴き出した!

『うわっぷッ!?』

 ゼロは突然の花粉をもろに浴びてしまった。それにより、

『は、はぁっくしッ! べっくしッ! く、くそぉ……!』

 花粉が呼吸器を刺激し、くしゃみが止まらなくなる。いくら身体を鍛えようとも、こういうものはどうしようもない。

 くしゃみのせいでろくに身動きが取れなくなっていると、地面から触手が突き出てきて、ゼロの四肢を拘束して空中に持ち上げた!

「キュウウゥゥゥイ!」

『うおわッ!? くぅッ……!』

 ホオリンガは捕らえたゼロをそのままギリギリと締め上げる。苦痛にうめくゼロだが、もちろんやられたままではいない。

『しょうがねぇ……ビリッと行くが、勘弁してくれよ!』

 意識を集中し、ツインテールに浴びせたような電気ショックを身体から発した。電撃は触手を通じ、ホオリンガ本体を痺れさせた。

「キュウウゥゥゥイ!」

『よし、今だ!』

 ホオリンガが停止している隙に、ルナミラクルゼロへ変身。素早く浄化技を放つ。

『フルムーンウェーブ!』

 光の粒子を浴びて、ホオリンガの触手がダラリと垂れる。そして二つの目玉に青い輝きが灯った。

「キュウウゥゥゥイ……」

 ホオリンガは辺りを見回すと、クルリと反転して来た道をそのまま引き返していった。

 ホオリンガはもう大丈夫。このまま元々の場所へ帰り、自らの栄養を土壌に与えて野山の一つになり、自然と一体化するその時を待つ、本来の生態を取ることだろう。

 

 その日の夜、才人は学院の中庭を散策しながら頭をひねっていた。

「う~ん……クリスのためのパーティー、どんな内容にしたらいいかなぁ……」

 ホオリンガ出現で中断していたパーティーの考案を続けているのだが、どうにもいい案が一向に浮かんでこないのだった。それで気分転換を兼ねて散歩しているのだが、やっぱり良い考えは出ない。

「先生たちから場所を借りれるかって問題もあるけど、まずはそこを決めないと、どうしようもないよな。けど、普通じゃないパーティーってどんなんだ? そもそも俺、普通のパーティーってのがどんなもんかもよく知らないし……」

 と思い悩んでいたら、背後から声(?)を掛けられる。

「キュー」

「ん?」

 振り返ってみると、そこにいたのはクリスの使い魔、デバンだった。

「デバン。お前、こんなところで一人で何やってるんだ? クリスの傍にいなくていいのかよ」

 思わず尋ねかけた才人だが、すぐに苦笑する。

「って聞いても、人の言葉なんて話せないか……」

「そういう君も一人じゃないの。お互いさまだね」

 そう思った矢先に、返事が来た。しかもかなり渋みのある声。

「……えええええええええ!? デバン、今しゃべったのお前か!?」

「うん、私がしゃべったよ」

「お、お前、しゃべれる怪獣だったのかよ!」

「いや、元々は人の言葉は話せなかったよ。これはお嬢と契約した影響だね」

 お嬢というのは、言うまでもなくクリスのことだろう。

「けど、しゃべれるんだったら何でいつもは『キュー』なんて鳴いてるんだよ」

「それはあれだよ。私はお嬢のマスコットだからね。それが渋い声でしゃべっちゃダメでしょ。女の子の夢が壊れちゃう」

「マスコットって、そんな濃い顔でよく言うな……」

 若干呆れた才人であった。

「まぁそれはいいや。で、お前は俺に何の用だ?」

「ああ、そうだったね」

 デバンは気を取り直して、才人に聞き返す。

「今、お嬢のためのパーティーがどうとかって話してたけど、どういうこと?」

「聞いてたのか。実はな……」

 才人は、クリスが学院で孤立しているのを気に掛けていること、それをどうにかする手段としてパーティーを立案中であることを説明した。すると、デバンはジーンと感動する。

「ウチのお嬢のことをそんなに考えてくれるなんて……君ってすごくいい子だねぇ。さすが、お嬢が見込んだサムライだよ! うん、実に素晴らしい!」

「いやぁ、それほどのことじゃないさ」

 称賛されて少し照れた才人だが、デバンは声のトーンを変えてこんなことを語り出した。

「でも、実はお嬢、この国には勉強をするためだけに来たんじゃないんだよね。お嬢のことを心配してくれてる君には話すけど」

「へ? クリス、留学生じゃないのか……?」

「表向きはそうなってるけどね、本命は別にあるのさ。お嬢は、ある使命を帯びてこの国に来たんだよね」

 突然の重々しい話に、才人は目を見開いて驚く。

「使命って……」

「その使命を終えたら、すぐに国に戻ることになってるの」

「すぐに? そんなに早く帰らなくちゃいけないのかよ?」

「何せ王女だからねぇ。本当なら、そうそう国を空けてちゃいけないんだよ」

 デバンの説明に、才人はクリスもアンリエッタ同様、色んな制約の下に生きているのだということを薄々感じた。

「それで国に帰ったら、ルイズと彼女の使い魔の君ならともかく、ここの学院の人々とはもう二度と会うことはないだろうね」

「そんな……」

「そういうこともあって、お嬢自身周りと馴れ合う気がないんだよ。それに自分の立場ってのもよーく分かってる。だから孤立してるんだよ」

 デバンの言うことを、才人は受け入れがたかった。

「ホントにそれでいいのかよ……。クリスだって、一人ぼっちで寂しいんじゃないのか?」

「本心じゃそうかもしれないけど、すぐにお別れになるだろうからね。後が辛くなるのを考えると、必要以上に仲良くなりたくないと考えちゃうのさ」

「けど……」

「サイトくん、君はお嬢を本当に心配してくれてる。それは私としても嬉しいよ。けど、お嬢の事情も分かってあげてほしい」

 そう言われては、才人に反論の言葉は見つからなかった。代わりに、デバンにこう尋ね返す。

「でも、そのクリスの使命って何なんだよ。この学院に、どんな用があるんだ?」

 しかし、デバンからははっきりとした答えは得られなかった。

「そこまでは私からは話せないねぇ。何せ私はあくまで使い魔だ。そこまで重要なことを、独断で教える訳にはいかない」

「そうか……」

「まぁ、お嬢はサイトくんを友達だと思ってる。君の力が必要だと思ったら、お嬢自らが話すさ」

 それでデバンからの話は終わりであった。

「話、聞いてくれてありがとね。もちろん、このことはお嬢には秘密にしておいてね」

「言われなくても分かってるって」

「ありがと。じゃ、私はお嬢のとこ戻るから。キュー!」

 最後にひと鳴きして、デバンはひょこひょこと中庭から離れていった。

「……すっげーギャップ、あの声……」

 デバンの背中を見送った才人は、ふと考える。クリスの事情ももちろんのことだが、一番気にかかったのはクリスの使命とやらだ。王女自らが果たさなければならないほどの使命とは、一体どんな内容なのか。

 あの気持ちの良いクリスのことだ、まさかトリステイン侵略などを考えているのではあるまい。しかしそうでないのなら、わざわざ他国の学院に何をしに来たというのだろうか?

 その答えは、どんなに考えを巡らそうとも出てくることはなかった。

 

 

 

≪解説コーナー≫

 

※「怪獣は動く」

 

 元ネタは『ウルトラマンX』第十話「怪獣は動かない」。坂根村に現れた怪獣は全く動かず害がないので、坂根村の観光資源にされていた。が、怪獣のバイタリティが低下し続けていることが分かり、Xioによる治療が行われることになる。だが少女、花が怪獣は病気ではないと訴え、栄養剤を打たれた怪獣は突然暴れ出し……という話。その場から動かない怪獣ホオリンガの謎を巡るストーリー。ホオリンガの予想外の生態は実に怪獣らしい。

 

 

※不動怪獣ホオリンガ

 

 坂根村に突然現れた植物怪獣。一番の特徴はその場から全く動かず、根を通して土壌に養分を与え続けること。ホオリンガにとっては正常な生態なのだが、体内の栄養素が低下していくため、Xioからは栄養失調と誤解された。害がないことで坂根村から観光資源として扱われ、栄養を回復する治療弾を打たれたことで体組織が異常活性化して暴れ出した。真の生態は体内の養分を放出し切った後に、野山と化して自然の一部となること。坂根村には歴代のホオリンガが変化した山がいくつもある。

 作中のホオリンガによる村興しが行われているシーンで、ホオリンガを擬人化した美少女キャラクターが作られていることが見て取れる。

 

 

※ホオリンガの噴出する花粉

 

 ホオリンガの攻撃らしい攻撃手段。一時的に別の場所に動かされそうになったホオリンガが抵抗するために噴射した。毒などはないので殺傷力は当然ないが、くしゃみが止まらなくなる。ファントン星人グルマンはこれを「人間に一番効く攻撃」と評し、あまりの量の多さに坂根村が人の住めない土地になるとまで言われた。




 クリスと学院の生徒たちを仲良くさせるためのパーティーの案を考え始める才人たち。クリスの発案で平民向けの舞踏会という内容になるが、またまた怪獣が接近! 学院に近づいてくるのだ! 連続する怪獣出現の原因とは! 次回「怪獣よ地底へ帰れ!」みんなで見よう!

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