結構大事な回ですが、読みにくい可能性があるので「おい! これはどういうことだよ!?」というのがありましたら、お気軽にお申し付けください。
感想や読了報告等くださると筆者の励みになります故、何卒宜しくお願いいたします。
【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2
2022.06.16 12:24 東京都 新宿区 SOUP
「え、これが、最後の切り札?」
呟いた碧だけではない。他の皆も同じような反応だ。
確かに見た目はそれっぽいが、本当に大丈夫なのか心配になってしまう。
「ああ。その名も『オールマイティーサーバー・ビヨンド』。これを使えばとんでもないことが起こる」
「とんでもないこと……?」
「ヒュージルーフを消す、強制的にアール達の世界への道をこじ開ける、余ったエネルギーでその世界を破壊する。この三つだ」
あまりにも現実味の無いことに春樹達は収集が付かない。
「えぇっと、一から解説してくれないか? 全く理解できないんだ」
森田にそう言われたので、八雲は仕方無さそうに話し始めた。
「このサーバーに強大なエネルギーを注ぎ込んで、まずはヒュージルーフを消す。そしてアール達が潜伏している世界への道を切り開いて、そこに零号を送り込んで倒してその世界ごと奴を消滅させる、って算段だ」
八雲は森田の席の隣に配置された、白色のキャンバスが映るモニターに、大きなタッチペンで纏め始める。
①エネルギーを注ぎ込む
②ヒュージルーフを消す
③零号と一緒に向こうに行く
④倒して世界ごと消滅させる
突飛過ぎるものではあるが、一応筋は通っているし、もしそれが可能なのであればかなりの即戦力になる。
けれども物理に一応は携わっている人間の圭吾は、ある一つのことに引っ掛かった。
「けど、それを実行するには莫大なエネルギー量を消費しなくてはなりませんよね……?」
「……まさかとは思いますけど、それを零号から貰い上げるってことですか……!?」
右手の指を鳴らした後、薫に向かって指を差す。表情や仕草からして、どうやら正解らしい。だとしたらそれはそれで驚くべきことなのだが。
「そう! アイツが一時的に弱体化するくらいに力を放出させて、その力を吸収し利用する。更には春樹と碧が使っているサーバーの力も取り入れて、諸々をするってわけだ。ただ、アイツが力を取り戻すのと、世界が崩壊するのの二つが行われる前に倒さなきゃいけないから、タイムリミットは20分ってとこだな」
「つまり、俺と碧であっちの世界で奴を撃破すれば良いというわけか」
「じゃあお兄ちゃんはアールをお願いね。多分私達だけで大丈夫だから」
「ああ。……ん?」
春樹と碧の発言に疑問を抱いたのは、八雲だけではなかった。
三人でやった方が格段に良い筈なのにどうして……?
「どうせ、行ったら戻って来れないとかあるんでしょ?」
碧の発言に全員が驚いて八雲の方を見る。そこでは彼ら以上に八雲が唖然とした様子をしていた。
暫く固まった後、八雲は観念したようで素直に話し始めた。
「……ああ。いや、出来ないことは無いんだが……こっちの世界に戻って来られるだけのエネルギーがあるのかどうかが、計算上まだ判らないんだ」
「え、でも、零号のあの強大なエネルギーを持ってすれば、大丈夫なんじゃないんですか……!?」
深月の言葉に簡単には首を縦に振らない。
「何せ一つの世界を消滅させるんだ。戻って来られるだけの力が残っている保証は出来ない……」
そうか。
自分達が今から壊そうとしているのはたった1体の生命体だけではない。
嘗てそこに生物が住んでいた場所そのものなのだ。そのために必要なものが足りない可能性があるのはこれまでの経験上理解しているのだが、それでも最悪の場合を考えるとなると話は別となる。
全員が黙ってしまったところで、八雲はその状況を何とかしようと努力し始めた。
「けど、けど大丈夫だ。まだ可能性だしな。それにもし、戻って来られるだけのエネルギーが残ってて、更にまだ余裕があるんだったら、その時は──」
────────────
2022.06.24
決戦まで残り1日となった。
他の地域からの立ち入りが禁止になったことに加えて、34万人もの区民が家や避難所に待機していることから、大都市である新宿からは人の気配は一切無くなった。
代わりに街を歩くのは、武器を持った警察関係者達だ。他の道府県からの応援もあってのべ2000人に及ぶ彼らは、パラレインが現れる四谷三丁目にある国道20号線と都道319号線が交わる大きな十字路を重点的に見張り、その時を待っているのだ。
つまり、今の新宿は華やかな東京のイメージにそぐう街ではない。ただの戦場なのだ。
その中でSOUPのメンバー達は、最後の一日を思い思いに過ごしていた。
薫はこの日、圭吾の家に泊まっていた。明日いつ現れるか判らないことから折角ならば一緒に寝よう、と薫が提案してきたのだ。
リビングを見渡すと、圭吾が大好きな「パンダ・プリンセス」のぬいぐるみやフィギュア、ポスターが大量に飾ってあって、一日の疲れを癒すために最適な環境と言えることが分かる。華やかな見た目の割に部屋の中に学術書の類しか無い薫にとっては、それがとても新鮮なのだ。
ソファに座りながらテレビを見る圭吾と薫。二人とも既に風呂に入ったため、今はラフな部屋着姿だ。
見るのは薫がリクエストした「パンダ・プリンセス」の最終回だ。圭吾の趣味を堪能したいと彼女も見始め、徐々にハマっていったらしい。
今映っているのはエンドロールであった。主人公が幸せそうに終わりを迎えたことに対し、圭吾と薫は涙を浮かべて喜んでいる。
そして物語が終わった。拍手をした二人は余韻に浸っているためか、暫く言葉を出すことが出来ずに座っているだけだった。
「良かったですね……」
「そうですね……」
それ以上何も言うことが出来ない。
今まで見たものが感動的な終わり方を迎えたのもそうなのだが、一番は隣に愛する人がいてドキドキしているためだった。今までにも何度か互いの家に泊まったことはあるのだが、今日は何故だかいつも以上に緊張をしてしまうのだ。
「……あの、薫さん!」
「は、はい!」
向かい合う二人。圭吾の表情は真剣なもので、薫は緊張してしまう。
「これ……なんですけど……」
そう言う圭吾がソファの陰から出したのは、小さな紺色の箱であった。そのサイズと、柔らかさと硬さが入り混じったような質感によって、薫はそれが何なのか察して涙が出そうになった。
けれどもそれを表には出さないようにし、箱を持った圭吾の両手を右手で静止した。
「言うのは、全て終わってからでも遅くはないですよ」
「……そうですけど、やっぱり言わないとと思って……」
「うふふ。そうですね。じゃあ……」
左手を引っ込める薫。その顔はこれまでに無いくらいに晴れやかなもので、圭吾は同じように笑みを浮かべた。
そして中身を開け、思いの丈を優しくぶつけ始めた。
「おじいちゃんおばあちゃんと楽しくやってるか? 奈緒美」
『うん! 今日は一緒にお蕎麦食べたよ』
「そっか……」
森田が部屋の中で通話をしていたのは、娘の奈緒美であった。
新宿区に住んでいる森田は、娘を安全な場所に送ろうと思った末、埼玉にいる亡き妻の実家に預かってもらうことにしたのだ。埼玉の北部であったことから、都心で戦いが長引いても影響は無いだろうと考えたためである。事情を知っている義両親は快諾してくれ、1週間程度面倒を見てくれると言う。
『早くお父さんに会いたいな〜』
無邪気にそう言う奈緒美に森田は笑顔を見せるのだが、それは引き攣った笑顔であった。
もしかしたらこれが最後の通話になるかもしれない。
離れた場所から陣頭指揮をとることになっているのだが、果たして身の安全が保障されているかどうかは明日になってみないと判らないのだ。
「そうだな。もう少ししたら帰って来られるから」
言葉の一つ一つを自分でも噛み締めて言う。
電話越しに聞こえてくる娘の楽しそうな声を胸にしっかりと留め、森田は通話を切った。
深月は特別なことをするわけでもなく、虎視眈々と夕食を堪能していた。
コンビニで買ってきたおにぎりにポテトサラダ、カップの豚汁を並べた彼は、大体10分程で食事を終わらせる。
そして洗い物を簡単に済ませて容器をゴミ箱の中に入れると、キッチンの横にあるところへゆっくり歩いた。
そこは黒い仏壇であった。缶ジュースにポテトチップスといった供物の上に飾られているのは、優しい笑みを浮かべている両親が写った2枚の写真だ。もう朧げになってしまった顔を取り戻すために不可欠な代物である。
両掌を合わせて目を瞑った状態を暫く保つ。隣の部屋から本の少しだけ漏れ出る生活音の中で、彼が動くことは無い。
お父さん、お母さん。
僕は明日戦うよ。
僕を嘗て守ってくれた、あの人みたいに。
皆の笑顔を守るために。
そして両手を下げて目を開けた深月は窓の外を見つめた。
住宅から光は幾つも見えてくるのだが、いつも目障りなくらいに多く光る高層ビルの灯りは全て消えていた。
いつもは若干うざったらしく思えるのだけれども、いざ無くなってしまうと寂しく感じてしまう。
取り戻す。
それが今自分に出来る、唯一のことだ。
八雲は自宅のリビングで一人、神妙な面持ちをしながら立っていた。もしかしたらこんな顔をしたのは、母親の葬式の時と父親を目の前で失った時以来かもしれない。
彼の手の中にあるのは、新聞紙で包まれた何かの物体だ。棚の一番下に仕舞っておいた物である。
新聞紙を取り除いて中身を確認する。それを見てまた、八雲の頭の中では彼女の言葉が嫌と言うほど反復されて、その度にうんざりとしてしまう。
──それは、絶対に使わせないから。
「でももう、お前はいないんだよな……」
残念そうに呟いた八雲は、再びそれを新聞紙で包んで棚の中に仕舞い込んだ。
どのニュースも新宿区が封鎖され、区民達が外出禁止を要請されたことを報じている。
夜のこの時間帯は各局がニュース番組を放送しているのだが、その全ての内容がそればかりであるため、飽きてきたあまねはテレビを消して寝ることにした。
あまねの寝室は春樹と碧の部屋の前を通過しなければ到達しない。なのでいつも通り少しだけ開いているドアの前を通り過ぎようとした。
すると、
「ねぇ春樹」
漏れ出る碧の声が聞こえてきた。
普段はあまねに配慮してかドアを閉めているため、聞こえてくるのは珍しい。なので折角ならばと、あまねは耳をすませることにしてみた。
「明日で全部が終わるね」
「ああ。そうだな」
「……でも、明日の朝であまねちゃんともお別れだね」
「そうか。もしかしたらそうかもしれないな……」
両親の言っている意味が解らなかった。
それは軽い冗談のつもりなのだろうか。それとも……。
「どういうこと……」
──そして、当日の朝を迎えた。
完結まで、後8話。
【参考】
東京の過去の天気 2022年6月 - goo天気
(https://weather.goo.ne.jp/past/662/20220600/)
新宿区の人口:新宿区
(https://www.city.shinjuku.lg.jp/kusei/index02_101.html)
個人的に碧は戦いをしていなかったら教師をしていたと思っているんです。ではもし子供が産まれたら何をすると思われますか?
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教師(そのまま復職)
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翻訳家
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考古学関係の仕事
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専業主婦