本編は今回で終了という形です。
因みに今日は1分後(21時31分)に最終回を投稿させていただくので、感想はまとめて其方の方にお願いします!
感想や読了報告等くださると筆者の励みになります故、何卒宜しくお願いいたします。
【イメージED】
米津玄師 - 恥ずかしくってしょうがねえ
【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2
2022.07.23 16:22 東京都 新宿区
1ヶ月近くが経った。
1年半近く都市を覆っていた巨大な屋根が突如として消えたにも関わらず、人々はまるで何事も無かったかのように生活を営み始めている。
そのうち、人類を襲おうとしていた未曾有の危機ですら忘れているのではないだろうか。
だが当事者達は忘れることの出来ない。
「今日楽しかったね」
「本当だね。有り難う、連れて行ってくれて」
「こちらこそ」
あまねと日菜太は手を繋ぎながら街を歩いていた。
目の前の景色が歪んで見えるくらいの暑さであったが、二人の手で生まれる熱に比べればどうと言うことは無い。
暫く歩いたところで、二人が着いたのは日菜太が住み込んでいるバイト先であった。
デートに連れて行ってくれたお礼にと、あまねがそこまで着いて来てくれたのである。
「じゃあまたね」
手を振って日菜太が店の中に入って行ったのを確認したあまねは、振っていた左手を下げて家路の方を向いて足を進めようとした。
すると目の前に黒いセダンがあるのが確認出来た。
いつもであれば、何だか変わった車が停まっているな、で終わるのであるが、ナンバープレートを確認したところでその車が誰の物であるのか判ったあまねは、其方の方まで歩いて行って、助手席の窓を叩いた。
窓がゆっくりと開いたところで中を覗き、少々不機嫌そうに言った。
「何してるんですか? 岩田さん」
「デートの帰りだろ。送りに来たんだ」
────────────
「SOUPのオフィスと四谷遺跡は封鎖され、法務大臣や総理の許可が無ければ絶対に入ることは出来ない」
「……じゃあ、ライダーシステムは……?」
「春樹君と葵君の転送が成功した瞬間に全て破棄した。今まで作られたものは全て政府が極秘のところで保管をしている」
もう後数分で自宅に辿り着く。
その間、岩田はあまねに今のところ彼しか知らないであろうことを彼女に教えてくれた。
妥当だと言えば妥当であったことに然程驚くことは無い。
「寂しくはないか? あの二人がいなくて」
「本音を言えば寂しいですよ。……けど、私はいつまでもあの家で待ち続けますから」
「そうか」
二人がこの世界を去った数日後、あまねがふと食卓に置いてあった自身の預金通帳を見てみると、そこには数年分の家賃やこの先6年程必要な分の学費、そして生活費が振り込まれていたのだ。
きっと自身らが帰って来なかった時のためにこのようにしてくれたのだろうと考え、あまねは独りで涙を流したのだ。
だが彼女は家賃以外に一銭も手をつけていない。
幸いにも高校では今何か金が必要な行事等は無いし、生活費の殆どは日菜太と一緒にアルバイトで稼いでいる。
もしも二人が帰って来てくれた時に全額返す。ただそのためである。
「彼等は立派だったと思うよ。本来は自分達の両親を奪った化け物に対して、復讐のようなことをしようと思うだろうに、そうしなかった──」
「多分……あの二人はただ、自分と同じような人達をもう一人も生み出したくなかったんですよ。ただの復讐のためじゃ、あそこまで戦えない」
車はマンションの方に続く商店街の中に入った。
人がごった返しているためスピードは遅く、まだ後数分はかかる。
なのであまねは、訊きたかったことを話すことにしてみた。
きっと、これが最後になりそうな気がしたから──。
「一つ、良いですか?」
「?」
「もし……もし零号を倒した後もサーバーの中にエネルギーが残っている状態だったら、どうなる予定だったんですか?」
作戦の詳細は後日、八雲から教えられた。
異世界へ転送をされ、且つパラレインが此方の世界へと戻って来ていないということは作戦が成功したのを意味しているのだが、話をしていた彼の表情を見る限りでは、思い描いていたものと違ったらしい。
春樹と碧が戻って来なかったことがその最大の理由だろうが、それでも気になってしまっていたのだ。
「余ったエネルギーでワープホールのようなものを開き、この世界に戻って来る計算だった。そしてもし、もし更に有り余っていたのなら──」
「彼等を人間の身体に戻す予定だった」
車の前に子供が飛び出して来たため、車は急ブレーキをした。
衝撃で顔を下に向けてしまった二人。あまねは前ではなく、前方を見据える岩田の方に見上げた目線を合わせる。その表情は驚愕に満ち溢れており、数秒程言葉を詰まらせてしまう。
「どういうことですか? それ……」
「厳密に言えば、『人間に最も近い状態にする』だ。
どう計算しても完全な人間にすることは不可能だ。見た目は永遠に変わることは無いし、強い攻撃を与えられなければ死ぬことは無い。
だが寿命と、生殖行為によって子を成す能力の二つを身に付けた身体に変化させることは理論上可能だ」
もし、もう二度と叶わないことだったとしても、そのことが聞けただけであまねは涙が出そうなくらいに嬉しかった。
自分よりも早く娘が死んでしまう。それは最大の親不孝である。
寿命が設定されていない彼等よりも先に自分が死んでしまったら。そう思うと彼女はいつも怖かったのだ。
だがそれよりもあまねが気に掛かっていたのは、二人が子供を作ることが出来なくなったことだ。
春樹と碧は自分を本当の子供のように愛してくれる。その愛に偽りは無いことは分かっている。
けれども心の奥底では、自身らの血が繋がった愛の結晶が欲しいと思っているのではないか。それが一つ心残りになっていたのである。
「じゃあ……三人一緒に歳をとることは出来るんですか……?」
「それは、あくまで
そうこうしているうちに、車はあまねが住むマンションの前まで辿り着いた。
車を出たあまねは軽く会釈をして、エントランスホールへと入って行く。
そしてオートロックの扉を通って、エレベーターを使って6階に辿り着いた。
鍵穴に鍵を挿れて回し、ドアを開けて家の中に入った。
どうせ挨拶をしたとしても誰も何も返してくれないのだから、何も言う必要性というのはきっと無いだろう。
なので無言でふと下を向いて、靴を脱ごうとした──。
その時に彼女は気が付いたのだ。
出掛ける時には何も無かった玄関に、2足のスニーカーが置かれていることに。
「え……」
そんなものを出した覚えは無いし、そもそもこれは自分が履いているものではない。
一体誰のものなのかを察した彼女は、半信半疑ながらも靴を乱雑に脱いで駆け、リビングの中に入って行った。
そこにいた二人の姿を見たあまねは一瞬、熱い外気によって見せられている幻覚のようなものではないのかと思ってしまった。
けれどもクーラーが掛かるこの部屋の中でそんなことが起こるのはあり得ないと分かった瞬間、彼女はその場にへたり込んで泣き出してしまった。
顔を両手で覆うあまねに二人は近付き、ゆっくりと抱き締める。
全身に伝わる体温のせいで、彼女は更に涙が止まらなくなってしまうのだ。
だが泣いているのでは、彼等を出迎えるのに失礼にあたる。
だからあまねは両手で涙を拭い、屈託の無い笑顔で口を開くのだ。
「おかえりなさい」
「「ただいま」」
新型未確認生命体の残り総数
完結まで、後1話。
裏話を書かせていただくと、春樹と碧はあまねの下には帰らないで、異次元を旅する某破壊者みたいな感じにする予定だったのですが、どうしてもあまねには幸せになって欲しいと思い、こういう結末になったというわけです。
【参考】
東京の過去の天気 2022年7月 - goo天気
(https://weather.goo.ne.jp/past/662/20220700/)
日の出入り@東京(東京都)令和4年(2022)07月 - 国立天文台暦計算室
(https://eco.mtk.nao.ac.jp/koyomi/dni/2022/s1307.html)