一先ず書きたいことは全て後書きで書かせて頂こうと思います。
長めの感想をくださると筆者の励みになります故、何卒宜しくお願いいたします。
【イメージ主題歌】
上原ひろみ - 上を向いて歩こう(「となりのチカラ」final episode)
【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2
エピローグ
そしてそれから1年近くの月日が経った。
屋根があったこと、怪物が自身らに牙を剥いていたこと、そしてそれに立ち向かう戦士がいたこと。
皆の記憶から抜け落ち始め、そろそろ完全に消え掛かっている。
だがそれで良い。
それで良いのだ──。
「──せい」
「──んせい」
「碧先生!」
意識が戻って来た。
もう少し遅ければ、教卓に頭をぶつけていたのやもしれない。
碧は去年の9月から私立の女子高校にて教師として働くこととなり、今はあるクラスの担任をしている。
春樹やあまねも全く知らなかったことなのだが、実は大学在学中に特別免許状を取得したらしい。
父も兄も失踪した当時の彼女は、ただやけくそに没頭出来るものが欲しく、高校時代の担任に推薦してもらって試験を受け、結果として取得をしたらしい。
取っていた事実よりも、他の勉強や研究があった中でそこまでの成果を挙げられたことに二人が驚き、それに碧はニヤリと笑みを浮かべるだけだった。
「どうしたの先生? 今日滅茶苦茶調子悪いじゃん」
「うーん……そうねぇ……。朝からなのよ……」
「え、何? もしかして、旦那さんに
生徒の発言に思わず咽せて赤面してしまうが、すぐに反論をする。
「き、昨日は別に、何もしてないよ!」
「『昨日は』ってことは、いつもはしてもらってるんだ〜」
図星だ。余計に顔を赤くして、顔を両手で覆う。
それに対して生徒達は声援を送って冷やかすのだ。
だが決して彼女らは碧に舐めてかかっているわけではない。
碧に対して敬意を払い、信頼しているからこそ、そういうことが出来るのだ。
「病院行ったら? 今日土曜日だから、終わったら行く暇あるだろうし」
「そうね……」
「あ、普通の内科じゃなくて、総合内科ね」
「え? 何で?」
「だって、
────────────
小さなワンルームの中では大量の段ボールが積まれていて、導線がようやく確保出来るか否か、と言った具合である。
段ボールの壁の中で、薫と圭吾は大きく伸びをした。
「これで、後は取り出すだけですね」
「えぇ。終わったーっ」
薫と圭吾は戦いが終わった2ヶ月後に入籍をした。
薫の実家はかなり固い家系であったことから、結婚を許してもらえるのか不安になっていたのだが、圭吾の経歴や二人の熱意だとかを知ったことで、何とかオッケーが出たのである。
後日、既成事実を作っておいた方が良かったかもしれなかったですね、とお腹を摩りながら薫が言った時に、圭吾が冗談ではなさそうだと変な笑みしか出来なかったのは二人だけの秘密だ。
そして薫がMITに就職が決まったがために、圭吾も現地の研究施設に就職をし、二人でアメリカに住むことになったのである。
「まずは、ノーベル賞を取らないとですね」
「薫さん、目標が大きいですね。けど、行けると思いますよ」
微笑み合う二人。
そして段ボールの中から同じマグカップを取り出して、コーヒーを入れて口をつける。
「ところで、『パンダ・プリンセス』の2期がアメリカで最速放送されるらしいですよ」
「え!? 本当ですか!?」
「はい」
「……一緒に、観ませんか?」
「はい! 喜んで!」
ここから、二人だけの新しい生活が始まるのだ。
いや、彼等の場合は暫くすればもう少し増えるかもしれないが。
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「ねぇ。常田さんってイケメンじゃない?」
「解る〜! 結構顔良いよね!」
「彼女とかいるのかな? 羨ましいー!」
「けどさ……超ナルシストだよね……」
物陰で八雲の後ろ姿を見つめる女性職員達がぶつぶつと言う。
そんなことなど全く知らず、八雲は只管パソコンにデータを打ち込んでいくのだ。
八雲は圭吾が以前まで勤めていたロボット開発の企業に就職をした。
ライダーシステムを開発したその腕前を買われて、今は災害時に被災者の救出等を行うロボットの開発を行っている。
先程の女性社員の言う通り、彼のナルシストさは社内に知れ渡っているようであるが、それでも彼自身が憎めない性格であることから、嫌に思う者は無いに等しいのだ。
「──よし! 流石、超ナチュラルスーパー天才だな、俺」
パソコンにコードで接続されている銀色の個体の方を見る八雲。
だが彼の目が見つめる先はロボットではなく、その横に置かれた緑色の写真立てだ。
中には何処かの研究室で笑顔を見せながら並ぶ、八雲本人と花奈の姿がある。
「……お前を超える女がいないせいで恋愛も出来ねぇよ……。責任とれ」
誰にも聞こえない声で呟く八雲。
けれどもその顔の口角は上がっていて、彼女を憎んでいる様子は無い。
そして暫く見つめた後、八雲は再びパソコンのキーボードを操作し始めた。
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「班長、ご無沙汰しています」
「『班長』って……。私はもう辞めた身だがな」
警視庁の廊下にて深月が森田に会釈をする。
少し恥ずかしそうに森田はそれをやり過ごした。
「どうだ? 交通課の仕事は」
「順調にやっています」
深月はあの後、警視庁の交通警備課に異動となった。フォルクローとの戦いにおける、作戦立案等の腕前が高く評価されたためだ。
一方の森田は警察学校の教官となった。これからの警察組織を担う若者達の育成に努めるようにと命じられたのである。
今日は森田が所用で警視庁を訪れたため、深月が会いに来たのだ。
「何と言うか、立派になったな」
「有り難うございます」
森田の言う通り、深月はかなり成長したと思う。
SOUPに配属をされた時の右も左も判らないであろう時期に比べれば、今の彼は自分の職務に誇りと責任を持って、日々目の前の仕事と戦っている。
全ては、自分の仕事によって誰かの笑顔を守るためだ。
「ところで、春樹君は今どうしている? 警視庁にはいなかったが」
「あぁ。それなんですけど、春樹さん、警視庁辞めちゃったんですよ」
────────────
閑散とした住宅街には異様な緊張感が走っていた。それらは全て、白い一軒家から流れ出ているものである。
けれどもすぐにそれは消え、代わりに出て来たのはスーツを着た6人の男女であった。
「皆さん、本当に有り難うございました」
この家の主婦であろう女性が一礼をしたので、6人も同じように一礼をすると、全員が外に停めてあった黒いワゴン車に乗ってその家を去って行った。
「いやぁ疲れた疲れた」
「無事にストーカー捕まって良かったですね」
「ホント。ウチらのおかげですね」
「あんまり調子に乗るな」
走行中の車内で仲良く談笑をする彼等の職業は身辺警護、所謂SPである。
今回はストーカー被害に遭った女性の警護を行い、犯人を確保して警察に通報をしたというわけだ。
「おい! 折角だし呑みに行こうぜ!」
一人の男性職員の言葉で全員が盛り上がる。
彼等の視線は、前方でスマートフォンをいじる者に向けられていた。
「椎名。お前も行くか?」
視線が集中する先にいる男は言わずもがな、椎名春樹であった。
彼は帰還した後、警視庁を退職した。家族と一緒にいたいから、という理由よりも、任務中にターゲットと私的な関係になった責任を自ら取るためである。
そしてこの民間警備会社に転職をし、今はSPとしてこの五人と一緒に市民の安全を守っているのだ。
公安出身であることは隠していたがために研修中、護身用のレーザー銃の扱いや武道に長け、尚且つ尾行や作戦立案に信じられない力を発揮したため、他のメンバーに驚かれたのはここだけの話だ。
「あー……。それなんですけど……」
「やっぱり、奥さんが厳しいか」
この日は土曜日だ。
休日ならば仕事が終わってすぐに早く帰って来て欲しいと家族が願うと思って、彼等は無理強いをしないつもりではいる。
「実は、これなんですけど……」
震えた手でスマートフォンの画面を見せてくる春樹。
それを見た全員が、表情に出さないメンバーもいたものの、全身に悪寒を感じて少し震え上がってしまった。
何故なら──
────────────
帰って来たらお話しがあります。午後4:24
「これ、大丈夫なやつだよね……?」
「うん。きっと大丈夫だと思う」
同じく震えながらスマートフォンの画面を見せるのは、ぎゅうにてバイトをしている真っ最中のあまねであった。
厨房で特製のレモネードを作っていた日菜太の背中にも寒気が走り始めるが、彼女を落ち着かせるためにそんなことを言っているのだ。
「今までこんなこと無かったからさ……。パパとママが喧嘩したわけでもないし……」
家族のグループLINEにこんなものが送られては、心臓が跳ね上がらない方がおかしいとまで思えてしまう。
「バイトが終わるまで後15分だから、今はそっちに集中しろー」
「そうそう。碧さんのことだから大丈夫だって」
厨房に来た新井夫妻もあまねを宥める。
家路につけるまで残り15分。楽しいバイトの時間が地獄のような時間に変わった瞬間であった。
────────────
「俺、何かやらかしたか?」
「大丈夫。パパはいつも通り理想のお父さんだったよ」
「なら良いんだが……」
エレベーターの中で春樹とあまねは戦々恐々としていた。
一体何を言われるのか。まさか……。
最悪な漢字2文字が脳裏に浮かび上がって来たところで、エレベーターは6階に着いて扉を開いた。
本当に嫌な予感がしてならない。
家の中に入った二人は狭い歩幅でゆっくりと歩き、リビングの中に入る。
「「ただいま……」」
「お帰り」
いつもより声のトーンが低い。
本当ならとびきりの笑顔で出迎えてくれる筈なのに。
──これは、本当に不味いやつだ……!
立ち上がった碧がゆっくりと近付いて来る。
恐怖のあまり春樹とあまねは全く動くことが出来ない。
すると碧は突然二人をゆっくりと抱き締めた。
突然のことに全く対応が出来ない。
「ど、どうしたのママ!?」
「何かやられたのか……!?」
「……お腹、触ってみて」
「「え?」」
「いいから」
恐る恐る碧の腹を触る春樹とあまね。
特に変わったところは無い。
そこでどうしてそんなことを言ったのか、二人は考えを巡らせた。
そしてある一つの答えに辿り着き、碧のことを抱き締め返した。
「そっか……良かった……」
「うん……。やったね、ママ……」
春樹とあまねが涙を流し始めたため、どうして私より早く泣くの〜、と碧は笑い泣く。
更に互いを抱き締め合って、喜びを噛み締めるのだ。
「ねぇ春樹、あまねちゃん」
「「?」」
「幸せになろうね」
This story finished.
But, their life ends.
ここまで読んでくださった皆様、本当に有り難うございました!
おかげさまで約1年続けることが出来ました。
次回作(https://syosetu.org/novel/324255/)の更新は10月下旬になると思われますので、お気に入り登録をしてくださると有り難いです。
宜しくお願いいたします。
では、また何処かで。
志村琴音