仮面ライダーアクト   作:志村琴音

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第二十二話です。
因みに、歌詞を使用した「Good Morning to All」という曲は、皆さんご存知「Happy Birthday to You」の原曲です。下書きに添付したWikipediaのページで原曲が聴けますので、是非聴いてみてください。
よろしくお願いします。



【イメージOP】
PEOPLE1 - 銃の部品

【歌詞使用楽曲】
Good Morning to All
(作詞:Mildred J. Hill, Patty Smith Hill)
久保田早紀 - 異邦人
(作詞:久保田早紀)
Happy Birthday to You

【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


EPISODE 08 ハッピーバースデイ(HAPPY BIRTHDAY)
Question022 Who is that loud man?


2021.12.12 20:01 東京都 新宿区

 その室内には最低限の家具しか置かれていない。

 テレビ台の上に置かれたテレビからは、懐かしい歌謡曲を紹介する番組が流れていた。

 派手なスーツを身に纏った男性が歌う8年程前の映像が映されており、テロップには「松本康生(当時50歳)」と書かれている。

 

 派手な衣装に身を包んだ彼のことを無表情で見つめる老年の女性。

 虚な表情でテレビを見ていた彼女はテレビを消すと、後ろにある棚を見つめ始めた。

 

 棚の上には数冊の本と写真の入った写真立てがあった。

 写真に写るのは、3人の人物。左には学生服を着た青年。真ん中には今写真を見つめている女性。そして右にはリクルートスーツに身を包んだ若い女性。三人とも屈託のない笑顔で写っている。

 

 写真の頃とは似ても似つかないほど老けた女性は、立ち上がって写真立てを手にとる。

 

「何処にいるの……? 二人とも」

 

 絞り出すような声で呟く。

 

 番組が次に出したVTRでは、女性歌手がオルガンを弾きながら切ない声で歌う様子が放送されていた。

 周りを取り囲むコーラス隊の美しいハーモニーに乗せて放たれる歌声が、静かな部屋の中で響いていた。

 

 

 

 サヨナラだけの手紙

 迷い続けて書き

 あとは哀しみをもて余す異邦人

 

 あとは哀しみをもて余す異邦人

 

 

 

────────────

 

 

 

?????

 いつもの暗く広い室内に、何故か大量のカーテンが吊り下げられていた。

 赤色。黄色。緑色。灰色。青色。

 色とりどりのカーテンの中、男は熱心にケーキを作り続ける。生クリームを塗り終え、後は装飾を加えるだけだ。

 

 その様子を不思議そうに見つめるアールたち三人。

 当然だ。今ケーキを作っているのは、可愛い女の子でも、コック帽を被った料理人でもない。

 赤いスーツを着た老年の男性なのだから。だがその腰はまっすぐに伸びており、側から見れば30代か40代にしか見えない。

 

 全ての装飾が終わったようだ。

 満足そうな顔を見せてケーキを眺める男性。

 

 すると突然、後ろに置かれていたレコードプレーヤーを点けた。

 円盤がくるくると回り、荒い音質の音が部屋中に流れ始めた。

 

 大音量の好きな曲に囲まれ、さらに笑みを浮かべる男性。

 一緒に口ずさみながら、余韻に耽っていった。

 

 

 

────────────

 

 

 

2021.12.13 06:00 東京都 中野区 トキワヒルズA 601号室

 Good morning to you,

 Good morning to you,

 Good morning, dear children,

 Good morning to all.

 

 あまねのスマートフォンから柔らかいピアノの音と、力強いテノールの声が聞こえてきた。

 一周目が終わり、二周目に入り始めたところで目を覚ますあまね。

 だが体が重く、動くことが出来ない。

 

 それもそうだ。

 ()()()に訪れたあまねは、折角ならと賃金をもらうことなく店を手伝った。接客業など初めての経験であったが、店主である新井夫妻や日菜太が優しく指導してくれたため、なんとかやり遂げられた。そして夫妻の厚意で、店に泊まらせてもらったのだ。

 そして翌日。学校が終わり家に帰ると誰もいなかったため、再び店に赴き手伝いをした。

 そしてその翌日も同じように手伝いをし、夕方に春樹と碧が迎えに来たので、三人で夕食を食べて帰ったというわけだ。

 だが、ここに来て皺寄せがきた。慣れない接客業。しかも数時間立ちっぱなしだったため、脚がパンパンなのだ。

 

 モゾモゾと布団の中を動き、なんとか起き上がると寝室を出た。

 

 リビングのドアを開けると、春樹と碧が食卓を囲みながらテレビを観ていた。

 この時間、テレビでは朝のニュースがやっている。ポップなスタジオの中で女性キャスターが情報を伝えていた。

 

 右上に書かれていた見出しは、

「都内マンションで夫婦死亡

 冬の脱衣所で注意しなければならないこと」

 

『昨日午前、東京・千代田区のマンションで、マンションに住む会社員の神田(かんだ)一郎(いちろう)さん・37歳と、妻の圭子(けいこ)さん・34歳が死亡しているのが見つかりました。

 警察によりますと、二人は脱衣所で心肺停止で倒れているところを同居していた圭子さんの母が発見し、119番をしましたが、すでに亡くなっていたということです』

 

 画面が切り替わった。

 次に映し出されたのは第一発見者である母親で、顔から下しか撮られていない。

 

『二人とも、音楽が好きで……。今度もなんか、好きなアイドルのライブに行ってくるとか言ってましたね……』

 

 声を絞り出して取材に応じた母がテレビに映し出されたのは、僅か数秒であった。

 その後は死因の原因となったと思われるヒートショック*1について、専門家の解説とコメンテーターの薄いコメントが続く。

 

 何処かやるせないような気持ちを抱えながら、あまねは食卓に来た。

 

「おはようあまね」

「おはようあまねちゃん」

「おはよう」

 

 軽く挨拶を済ませると、机上には春樹の作った朝ごはんが乗っているのが見えた。

 お茶碗に装われたご飯。白い器の上に乗っかる焼き鮭。小鉢の中にある焼き海苔。葱と豆腐の入った味噌汁。小皿に入った人参と何かの和物(あえもの)

 

 手を合わせて目の前の食事に手をつけていく。

 一口口に入れただけで舌鼓を打ってしまう。春樹と碧の作る料理は絶品であるが、特に春樹の作るものは格別であった。いつも退職したら料理人にでもなってよ、とよく分からない勧誘をしているのだが、いつも断られるためもったいなく思ってしまう。

 

「そういえばさ」

「?」

()()、カミングアウトして良かったの?」

「別に()いんじゃないのか? 問題無さそうだし」

 

 何のことだか分からないあまねを他所に、春樹と碧は神妙な面持ちをする。

 朝っぱらからするものではない顔をするのには、理由があった。

 

 

 

 

 

「言い忘れてたんだけどさ……。俺たち、フォルクローなんだよ」

 

 SOUPの全員に自身らのことを白日のもとに晒したのは、昨日のことだった。

 その言葉に全員が驚愕したのは言うまでも無いだろうか。誰も言葉が出ず、暫く沈黙が続いた。

 

「ど、どういうことですか、それ……?」

「そのままの意味だよ。私たちはクロトみたいな()()()()()()()()()()()()ってこと」

 

 ますます理解が出来ない。

 自分たちが異形の化け物と戦うための最大の戦力であり、信頼出来る仲間のうちの二人が、同じ異形の化け物である。

 その事実を簡単に受け入れることが出来ないのだ。

 

「だから()()()()()を作り出すことが出来たんですね……」

 

 薫の言葉に全員がハッとする。

 クロトのような人形(ひとがた)のフォルクローには、自身の身体から物体を生成することが可能である。

 確かにクロトは新たなガシャットを作り出し、春樹もカードにいきなり謎のパーツを生成した。

 

 これで全ての合点がいった。

 何故、彼らが仮面ライダーに変身出来るのか。

 何故、深傷(ふかで)を負ってもすぐに回復出来たのか。

 何故、怪物を倒した時にあんなに悲しそうな目をしているのか──。

 

「じゃあ、その端末はお二人の身体で作ったということですか?」

 

 恐る恐る圭吾が二人に訊いてみる。

 

「いや。この端末は人工的に作られたもの。ただ誰が作ったのか全く分からないんだよね」

 

 端末を眺めながら答える碧。

 そんな碧を春樹は不思議な眼差しで見ていた。後ろめたさのようなものを感じる目をしながら、息を一つ吐いた。

 

 

 

 すると次の瞬間、春樹が突然咳き込んだ。同時に口を右手で押さえたため、飛沫が飛ぶことはない。

 

 手の中を確認すると、その手には()()()()()()()()()()()。血を吐き出した口の周りにも赤い細かい点が付いている。

 目の前で起きた現象に、春樹と碧以外の全員が驚愕する。

 

 そんな中で、春樹は冷静に語りを始めた。

 

「こんな風に、俺たちのような人間態のあるフォルクローが物体を生成する時、こんな代償が生じる。

 その代償は生成する物質の持つ力が強大であれば強大であるほど大きくなる。

 ()()()()()を生成したら、多分俺は死ぬだろうな」

 

 端末を血の付いていない左手で握りしめる。

 何とも言えない顔で端末を見つめる春樹と、その横にいる碧に今度は森田が質問をする。

 

 

 

「肝心なことを尋ねたい。君たちは生まれつきフォルクローだったのか? それとも、何かのきっかけでそうなったのか?」

 

 その時、二人の様子が突然変わった。

 二人とも唇を噛み締め、拳を力強く握りしめている。

 何かへの後悔、懺悔、そして怒り。二人の表情からはこれらで埋め尽くされていた。

 

「……。それはまだお伝え出来ません」

「……。そうか」

 

 これ以上何も訊くことは出来なかった。

 流れる重い空気。

 なんとかしようと、深月が話題を切り替えた。

 

「ところで、輸送の情報を流したのって、誰なんでしょうね」

「さぁな。カードを輸送していることだけを知らなかったのであれば、ここにいる以外の班員の可能性があるな」

 

 SOUPのメンバーは、ここにいる六人と岩田室長だけではない。民間企業から厳選された科学者たちや技術者たち等が見えないところで活躍している。実際、新たな武器の開発やメンテナンスは彼らが行なっていて、また遊撃車の運転手も陰で動いてくれている。言わば春樹たちが戦う上で欠かせない縁の下だ。

 そんな彼らを疑うことは、どうしても出来ない。

 だがあり得る可能性を一つずつ潰していくしかないのだ。

 

「念の為、審査委員会*2が今後調査を行うらしい。このことはくれぐれも内密に頼む」

「「「「「はい」」」」」

 

 

 

 

 

「え、じゃあ話したの?」

「別に隠すことじゃないからな」

「それで、大丈夫なの? 気まずくならない?

「分からない。でも早めに話した方が楽だし」

 

 食事ももう終盤にきていた。春樹は冷蔵庫から全員分の牛乳を取り出し机上に置く。

 全員が飲み干したところで、あまねは手を合わせてその場を後にした。

 

 

 

 見届けた碧は台所へ行く。

 そろそろ今日のあまねのお弁当を作らなければならない。幸い昨日、新井夫妻から焼肉を貰ったため、それを弁当箱に詰めれば良いだけの話だ。もちろん毎日の弁当作りを苦に思っているわけではないが、圧倒的に楽なので思わず鼻歌が出た。

 

 だがその必要は無さそうだ。

 すでにあまねがいつも使っているピンク色の弁当箱にはすでにご飯と焼肉、サラダが入っていた。白、黒、緑の三色だけという単調な中身にも関わらず、全くそれを感じさせないほど鮮やかになっている。

 

「え!? これ、春樹が作ってくれたの?」

「? 何を?」

「このお弁当、春樹が作ったんでしょ?」

「え。お前が作ったんじゃないのか? 俺が起きた時にはもう用意されてたぞ」

「え?」

 

 春樹でも碧でもない。ましてや、あまねはさっき起きたばっかりだ。作る余裕はない。

 じゃあ、誰が……?

 

 軽いホラーのような現象に、若干背筋が凍る二人。

 だが結局、どっちかが作ったものの、疲れて記憶が飛んでしまったということで話は落ち着いた。

 

 

 

「あ! お弁当ありがとね」

 

 制服姿に着替えたあまねが弁当箱を風呂敷に包んで、自身のスクールバッグの中に入れた。

 バッグの中には今、筆記用具と弁当箱に水筒という最低限の荷物しかない。

 

「行ってきまーす!」

 

 いつもより軽いバッグを肩にかけ、あまねは元気良く部屋から飛び出して行った。

 

 

 

────────────

 

 

 

2021.12.13 08:51 東京都 新宿区 SOUP

「あの、一昨日のことなんですけど……」

 

 突然薫が話を切り出した。

 まだ春樹と碧が来ていないことが好都合だと考えたのだろう。

 

「皆さんは、どう思いますか?」

「と言うと?」

 

 森田が逆に薫に訊く。

 

「私たちはフォルクローと戦うことが仕事です。けどじゃあ、もし春樹さんと碧さんが私たちの敵になった時、皆さんはあのお二方と戦えますか?」

 

 暫く流れる沈黙。

 その沈黙は流れて当然のものだった。

 自分が信頼し、仲間として共に助け合ってきた二人を、自分たちはいつか倒さなければならなくかもしれない。

 その事実が彼らの胸を締め付け、簡単に答えることが出来ないようにしている。

 

「私は君たちの意見を最大限に尊重するだけだ。……どうする?」

 

 森田が優しい声で三人に声をかける。

 それが森田なりの最大限の配慮であった。

 

「私は……もしそうなったら、覚悟を決めるつもりです」

 薫は迷ったが、まっすぐな目で答える。

 

「僕は……考えたくもないですね。多分無理だと思います」

 圭吾も同じく迷い、そして頭を抱えた。

 

 回答し終えた三人は残る深月に目線を配った。

 彼はかつて、異形のものによって家族を殺された。

 そして今は、同じような異形のものと戦っている。

 

 そんな彼は一体、どんな結論を出すのだろう──。

 

 

 

「大丈夫ですよ。きっと」

 

 至って単純な答えだった。

 

「僕だって本当は怖いですよ。いつかあの二人と戦わなくちゃならないかもしれないって考えると。

 ……でも、あの二人がそんなことになるはずないですよ。……僕たちが信じないと」

 

 深月は異形のものによって家族を殺された。

 それと同時に、彼は異形のものに守られた。

 だからこその答えであった。

 

「きっと大丈夫ですよ。ね」

 

 深月は三人に向かってサムズアップを向ける。

 その表情はこの場に不相応なほどに爽やかだったため、思わず三人も笑みをこぼす。

 

 すると部屋のドアが開いた。

 

「おはようございまーす」

 

 春樹と碧が入って来た。

 本来、話の話題に上がっている張本人が来た場合は、気まずくて反応に困るはずだ。

 だが今室内にいる四人の顔は晴れやかなものだ。

 

 いつもと変わらない表情。だがどこかが違う。

 その微妙な違和感に春樹と碧は首を傾げた。

 

「? どうしたの?」

「いえ、なんでも」

 

 

 

────────────

 

 

 

2021.12.13 10:24 東京都 渋谷区 恵比寿国立博物館 第1棟

 JR恵比寿駅から徒歩数分のところには、3棟からなる博物館がある。

 第1棟が日本の資料、第2棟が世界の資料、そして第3棟が特別展示コーナーのためのものとなっている。

 

 その博物館にいる客の大半を、学生服を着た学生が埋め尽くしていた。

 今日、城南大学附属高等学校の1年生は社会科見学の一環として、この博物館に来ていた。

 だが殆どの生徒は特に興味が無く、すぐに第2棟へと足を運ぶ。

 

 その中であまねと日菜太だけが第1棟に止まっていた。

 目の前にある大量の史料をまっすぐに見つめる。

 

 二人がいるのは最初の方にある、旧石器時代から弥生時代にかけての史料が展示されたコーナーだ。

 打製石器や土偶にマンモスのレプリカ。石包丁や弥生土器にドングリのパンのレプリカ。

 

 様々な史料の中で一際目を引くのは、最も巨大な一つの壁画だった。正確に言えばそのレプリカだ。

 まるで西洋の油彩画のようなその絵は、とても古代のものとは思えない。

 繊細なタッチで描かれているのは1組の親子だろうか。手を繋いで歩く父親と小さな姉弟。手を繋いで三人仲良く前に歩いて行く様子が描かれている。

 キャプションボード*3によれば、これは11年前に四谷遺跡の入り口で発見された壁画のレプリカらしい。

 

 それをじっくりと見るあまねと日菜太。

 そしてもう一人、その絵を見つめる着物を着た老年の女性がいた。

 

 自然と目線が合ってしまった二組。

 軽い会釈をすると思わず微笑んだ。

 

「貴方たちも、この絵が好きなの?」

 

 女性が優しい声であまねに声をかける。

 

「え、ああ、はい」

「好き、というか何というか……」

 

 突然話しかけられ、すごく驚いてしまった。

 慌てふためく二人の様子に笑みをこぼす女性。

 

「私もね、この絵が好きなの。孫がそばにいないから……」

「……独り立ちされたんですか?」

 

 日菜太の問いに首を横に振った。

 

「実はね、5年前に孫が2人ともいなくなったのよ。突然いなくなっちゃったから、もうびっくりして。

 それでずっと待っているんだけどね〜」

 

 明るく振る舞う女性だが、その目の奥が笑っていないことくらい、若輩者の二人にも理解出来た。

 どう対応すれば良いのか分からず押し黙ってしまう。

 その様子を見ていた女性は笑みを崩さずに、ごめんなさいと謝罪した。

 

「だからね、自分の宝物は大切にしておきなさいよ」

「「……はい」」

 

 二人に優しく微笑んだ女性はその場を後にした。

 不思議そうに後ろ姿を見つめるあまねは日菜太に問いかけた。

 

「因みにあまねちゃんの宝物って何?」

「え!? それは……日菜太くんだけど」

 

 頬を赤らめながら答えるあまね。

 問いかけた本人は特に照れることもなく、隣の横顔に優しい目線を送った。

 

「そういう日菜太くんはどうなの?」

「え? 僕は……そうだな……」

 

 暫く考える日菜太。

 空いていく間の中で、あまねの心臓の鼓動がどんどん速くなっていくのが分かった。

 

 そして横の人物は、回答を出した。

 

「あるよ。でも今は手元に無いんだ」

「へぇ……」

 

 なんだか残念そうな顔をして落胆するあまね。

 その様子を笑顔で眺める日菜太に、あまねはもう一つ質問した。

 

「因みにそれって、どんなものなの?」

「そうだね……。詳しくは言えないけど、君も見たことのあるものだよ。どんなものか見たら、きっと驚くよ」

「ふぅん」

 

 

 

 

 

 それから1時間が経過した。

 

 この博物館は3つの棟で成り立っており、その中央には大きな庭園がある。

 いつもであれば昼食を摂る学生たちで溢れているのだが、今日は何故かいない。強いて言うのであれば、大きな池の中で鮮やかな鯉が踊るように泳いでいるだけだ。

 

 今、庭園を埋め尽くしているのは、重厚な服装に身を包んだSATの面々だ。

 後ろには黒い遊撃車と2台のオートバイが置かれており、前線には2人の男女が前を見据えて立っている。

 見つめるその先には赤いカーテンがゆらゆらと揺れていた。

 

 現在、入場客は身の安全を守るために全員が屋内待機となっている。無闇矢鱈に外に出すのではなく、全員を室内に残した方が安全だと考えたのだ。

 

 そして上空に黒い穴が開き、標的が現れた。

 

 だが現れたのは1体だけではない。

 全身がオレンジ色の宝石のような人形(ひとがた)()()は、右手に大きな槍を持っており、左手首にはバングルのようなものが着けられている。

 その中でも一体だけ、黒い軍服を着た個体があり、全員がそれに従っているかのような所作を見せる。

 

「もしかして、アイツがリーダー格か?」

「多分ね。一先(ひとま)ず先に倒した方が良い」

 

 すると遊撃車の中の森田から連絡が入った。

 

『奴らの命名が決まった。全員まとめて、新型未確認生命体第三十九号『シチズン』とする』

『でも全員が『シチズン』だと面倒(めんど)くさいですよね』

『そうですよね。せめてあの服装が違うのだけでも区別しないと……』

 

 薫の言葉に圭吾が悩む。

 若干の沈黙があり、そして深月が口を開いた。

 

『じゃあ、軍服のやつを『市長』、それ以外のやつを『市民』って呼ぶのはどうですか?』

 

 市民(citizen)だけに、か。

 屋内待機を要請したのも賢い選択だったと今に分かることだろう。

 反田深月とはそういう男だ。

 

 全員がそれを承認したところで、春樹と碧が端末と1枚のカードを取り出した。

 

「行くよ、グアルダ」

『了解した。ただいまより、椎名春樹、椎名碧、両名のライダーシステムの使用を許可する』

 

 カードを端末にかざし、ドライバーを出現させる。

 

『『ACT DRIVER』』

 

 そしてもう1枚ずつカードを取り出し、端末に装填しようとした。

 

 

 その時だった。

 

 Happy birthday to you,

 Happy birthday to you,

 

 何処からか耳馴染みのある歌詞が、低音のアカペラに乗って聞こえてきた。

 その場にそぐわない光景に、全員が辺りを見渡す。遊撃車の中にメンバーたちもパソコンのモニターを何度も確認し始めた。

 

 怪人の軍隊たちが、まるでモーゼの伝説のように道を開け、突如として真ん中を向いてその場に跪いた。

 

 Happy birthday, happy birthday,

 

 そこから現れたのは紫色の派手なスーツを着た老年の男性だ。

 押している金色のワゴンの上には、大きな白いケーキが乗せられている。

 

 

 

「あれは……?」

「誰ですかね……?

「何で、ケーキ?」

 

 突如として現れた男に困惑する遊撃車のメンバーたち。さらにその両手は、ケーキの乗ったワゴンがあるため、さらに意味が分からない。

 だが森田だけは、それとは別のことで困惑していた。

 それに気がついた三人が声をかける。

 

「? どうしました?」

 

 

 

 

 

「あれ……歌手の松本(まつもと)康生(こうせい)じゃないのか?」

「え? ……誰ですか、それ」

 

 

 

 殆どがキョトンとする一方、対峙する春樹と碧はそんなことを気にも止めず、目の前の標的を睨んでいた。

 

 Happy birthday to you.

 

 歌い終えた松本は、満足そうな顔で二人に笑みを見せる。

 二人も理解が追いつかないのか、思わず身構えてしまう。

 

「やぁ。二人とも」

「おい。今日は誰の誕生日でもないぞ」

「分かっているよ。けれど誰かの誕生日ということに変わりはないだろ?」

 

 笑みを崩さずに前に出た松本。

 

 すると松本はポケットから黒く細長い物体を取り出した。

 それを腹部に装着すると、ベルトが腰に巻きつき、まるでドライバーのような状態となった。

 

 

 

「……まさか……」

 

 

 

 深月の予想はどうやら当たりそうだ。

 

 松本はドライバーの右側に付いたケースから、赤色、黄色、緑色の3枚のメダルを取り出した。

 ドライバーにある3つのスロットに、右側から1枚ずつ装填していく。

 

 そしてドライバーを斜めに傾けると左側にある円形のスキャナーを取り外し、事を起こすために必要な、()()()()()を威勢良く叫んだ。

 

 

 

「変身!」

 

 スキャナーをドライバーに通しメダルを読み取らせる。

 読み取らせたスキャナーを胸に当てると、松本の周りを円形のオーラが取り囲んだ。

 

『タカ! トラ! バッタ!』

 

 その中から3つが選択されると、それは一つとなって松本の体に重なる。

 その瞬間、松本の体が突如として変化。目の前に残ったのは異形のものだけとなった。

 

 赤い頭部。黄色い両腕。緑色の両脚。

 凛とした佇まいを醸し出す()()は、真っ直ぐに正面を見ていた。

 

『タ・ト・バ、タトバ、タ・ト・バ!』

 

「ハッピーバースデイ! ……私」

 

 仮面ライダーオーズ タトバコンボ。

 三色の王は誰がためでもなく、自分のために祝福の言葉を放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: Who is that loud man?

A: He is the king of medals.

*1
短時間の気温の変化によって、血圧が上下することによって、心臓や血管に疾患が起こること。これによって心筋梗塞や脳梗塞といった症状が出、最悪の場合には命の危険もある。

*2
警察官が何かしらの不正や公務員としての規約に違反したとされる場合、その審議をするために設置される委員会のこと。

*3
博物館等で作品を紹介する際に使用される説明文のこと。




春樹と碧が観ているニュース番組は「ZIP!」がモチーフです。そして女性キャスターは日本テレビの水卜麻美アナウンサーがモデルです。
毎朝観ているのでモチーフにしました。
それから、恵比寿国立博物館のモチーフは国立科学博物館です。
子供の時に何度も行ったので、もとにしてみました。



【参考】
「仮面ライダーオーズ/OOO」第1話『メダルとパンツと謎の腕』
(脚本:小林靖子, 監督:田崎竜太, 2010年9月5日放送)
ハッピーバースデートゥーユー - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F%E3%83%83%E3%83%94%E3%83%BC%E3%83%90%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%83%87%E3%83%BC%E3%83%88%E3%82%A5%E3%83%BC%E3%83%A6%E3%83%BC
Happy Birthday to You - Wikipedia
https://en.wikipedia.org/wiki/Happy_Birthday_to_You
冬場に多発! 温度差で起こるヒートショック|済生会
https://www.saiseikai.or.jp/medical/column/heatshock/
【ホームメイト】警察組織内を審査する審査委員会
https://www.homemate-research-police.com/useful/12930_facil_033/

今作のキャラクターたちの日常を描いたスピンオフがあったら、読みたいですか?

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