仮面ライダーアクト   作:志村琴音

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【イメージOP】
PEOPLE1 - 銃の部品

【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


EPISODE 09 演じていた者たち(THEY WERE ACTING)
Question025 What were they told about?


 むかしむかし、とある世界のお話。

 その世界には、幾度となく人々を恐怖に陥れる脅威が襲ってきました。

 人々はその度に恐怖し、恐れ慄きました。

 

 けど、この世界には人々を守る、言わば正義の味方がいました。

 

 人々の笑顔を守るために、悲しみを笑顔で隠して戦った戦士。

 誰かの居場所を守るために、自身を創り出した「神」に抗った戦士。

 馬鹿げた争いを止めるために、最後の一人になるまで戦い続けた戦士。

 人の夢を守るために戦った異形の戦士。

 友のために自らの運命を犠牲にした戦士。

 若き者たちに自身の背中を見せた戦士。

 家族のために復讐に燃えた戦士。

 時の均衡を守るために異形のものと共に戦った戦士。

 異なる二つの種族の架け橋となるために戦った戦士。

 次元を超えて、ただひたすらに旅を続けた戦士。

 ある街を守るために戦った二人の戦士。

 誰かの欲望の暴走を止めるために奔走した無欲な戦士。

 全ての友のために戦った戦士。

 誰かの希望を守るために戦った華麗な戦士。

 自らを犠牲とし、人類の運命を守った「神」のような戦士。

 異形の友と共に高速で戦った戦士。

 偉人の生き様を学び、死して尚も戦い続けた戦士。

 苦しむ人々を守るために、命と倫理を考え続けた戦士。

 三国の愛と平和のために、ひたすらに知恵を働かせた戦士。

 未来をより良いものに変えるために、時空を超えて戦った戦士。

 

 彼らは全てを犠牲にして、戦い続けました。

 

 

 

 しかし、悲劇は突如として起こりました。

 

 

 

 ある日、空から()()が降って来ました。

 まるで卵のようなものは宙空で突如として割れると、人型の()()現れました。

 

 まるで神のような()()は、次々に街を壊し、世界はあっという間に炎と闇に包まれていきました。

 

 当然、この世界を守っていた戦士たちは()()にひたすら抗い続けました。

 けど、()()は圧倒的な強さを持っていて、誰も彼も敵うことはありませんでした。

 

 

 

 そして、たった三人を残して、その世界は終わりを迎えました。

 

 生き残った三人は()()に連れられて、とある別の世界に辿り着きました。

 そこで彼らは、()()の目的を教えられました。

 

 ()()はただひたすらに、生きとし生けるものを根絶やしにするためだけに、誰かに造られたもの。

 いや、誰かに造られたのか、そもそも自然に生み出されたものなのか、自分にも分からないのです。

 自分は何なのか一切を知らないまま、ただひたすらに何かを滅するしかないのです。

 

 辿り着いた世界は、先程自分が壊した世界とは全く違い、ビルも道路も何も無い更地でした。

 その中で人々は静かに慎ましく生活を営んでいたのです。

 

 早速、この世界も壊そうとしました。

 でも、()()は少し疲れてしまいました。

 少しの間休んで、それから壊すことにしました。

 ただ、寝て回復するという単純なものではありません。誰かを養分にして吸収しなくてはならないのです。

 

 それに吸収するのは誰でも良いというわけではありません。

 自分と同じ、とはいかなくてもいいものの、とにかく強大な力を持った者でなければならないのです。

 でも、この世界にいる人々は皆貧弱でした。とてもそんな力を持っているようには見えません。

 

 ()()は考えに考えました。

 

 するとあることを思い出しました。

 それは、自分が先程戦った者たちのことです。

 彼らは超人的な力を持って、自分に立ち向かっていったことを思い出したのです。

 

 となれば、いつか自分が少しだけでも力を取り戻したのならば、この世界の人々を超人に変えるための物を作って、人々をあの戦士たちのような姿にすれば良い。

 

 ()()はすぐさま行動を始めました。

 誰もいないところに大きな祠を作って、壁に自分たちのことを童話のように書いて後世の人間たちに伝えようとしたのです。

 

 そして()()は、自身の腹部に着いたものを取って、連れて来た三人と一緒に棺の中で長い眠りにつきました。

 

 いつか、誰かが自分たちのことを見つけてくれると信じて──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

2010.12.25 14:03 東京都 新宿区 四谷遺跡

「最深部に到達しました。今から調査にかかります。データはそっちに送りますので、確認してください」

 

 僅かな照明で照らされていく中、六人は各々作業を進めていく。全員の頭部にはヘルメットがかぶさっており、一人が目の前に広がる光景をカメラに収めていく。

 

 

 

 事の始まりは2010年10月9日。

 四谷に新しいビルを建設するために工事を行っていた建築会社が、大量の土器を見つけたのがきっかけだった。

 

 すぐに城南大学の考古学研究室が派遣され、調査が始まった。

 当初、大量の土器と鳥居のような建造物が発見されたことで、何かの宗教施設であることは判明したのだ。

 

 だが、それで終わりではなかった。

 

 地中に人がやっと通れるほどの扉があり、そこを開けて通ると何も無い空間に繋がる。しかしながらよく下を見てみると同じような扉があり、さらにそこを抜けると同じように床に扉の付いた空間が広がっていた。

 どうやらただの宗教施設ではない。恐らくは古代エジプトの王家の墓のような仕組みになっているのだろう。

 ということは、全ての扉を抜けた先には必ず棺やらが置かれているはず。

 

 そう考えた調査チームは必要最低限の道具のみを持って中に進み始めた。

 

 扉を開けて入り、また次の扉の先へと入って行く。もうこのやり取りを30回以上は繰り返したところで、ついに彼らは狭い部屋ではなく広い廊下に辿り着いた。

 片手に持った懐中電灯で目の前を照らしながら、奥へと進んで行く。

 

 ついに彼らは、目的地と呼べる場所へと到着した。

 

 そこはまるで大きなかまくらだ。ドーム状の壁一面に細かい絵が書かれており、三つの棺が並べられている。そして棺の中央には、岩で作られた2メートルほどの卵型のオブジェが置かれていた。

 

 これまでの考古学の常識を覆されるような風景に戦きながら、彼らは調査を進めていった。

 

 

 

「やはり、どの時代の文明とも共通点がありません。()してや、()()()()のものともです」

 

 リント族。

 それは長野県の九郎ヶ岳遺跡でその存在が明らかになった、言わば日本人の祖先とも言うべき民族。

 戦士クウガやゴウラムと、今の人類以上の高度な文明を有していた彼らのものでもないこれら。

 

 ということは、新しい文明や部族の発見、と言うことだろうか……?

 

 全員が期待に胸を躍らせる中、大人に混じって遺跡の中を彷徨く少女に、石川教授が声をかける。

 

「唯。あんまり彷徨くなよ。危ないぞ」

「はーい!」

 

 人気のキャラクターが描かれた水色のパーカーに黒いズボンを着た少女──石川唯は父親に溌剌とした返事をして、他の面子の邪魔にならないよう範囲で歩き回る。

 無邪気に走り回る少女は、真剣に調査をする面々とあまりにも空気感が違っている。

 だが、殺伐とした発掘現場での細やかな癒しとなっていることから、全員が黙認している。

 

 いや、黙認していると言うよりも、それに目もくれないほど真剣に調査に取り組んでいると言うことだろう。

 

 今の彼らにとって最大の謎は、棺やオブジェではなく、壁一面に描かれた絵だ。

 これはラスコーの洞壁画のような抽象的な絵ではない。具体名を出すとすれば、ヒエロニムス・ボスのような作風と色味の絵だ。とても超古代に描かれたものとは思えないほどに繊細で、尚且つメッセージ性の無い。

 メッセージ性の無いと言うのは、古代の壁画としては致命的なのだ。古代人は遥か未来の人々に対して、自分たちの存在等を明らかにするために絵を描いていたのだ。伝えるものが何も無いと言う絵は、死んだも同然なのだ。

 

「まさかとは思いますけど、これ、『何かに触ったら呪うぞ!』とかじゃないですよね……?」

「そんなわけないだろ。ほら、手を進めるぞ」

 

 怯えながら作業を進めるメンバーに、優しく声をかける教授。

 だが内心では教授も少しばかり震え上がっていた。

 実際、九郎ヶ岳遺跡でも「死」「警告」と書かれた棺を開けたことでグロンギ族(未確認生命体)は復活し、前任の夏目(なつめ)教授率いるチームは亡くなったのだ。迂闊に油断は出来ない。

 

 皆が慎重に手足と目を動かす中、唯の目に映ったものは岩で出来た小さなテーブルだ。土で覆われた机上には四角い()()が置かれていた。同じように土でコーティングされたものを見た時、唯は目を煌めかせた。

 

 何故なら、置かれていたものは父親が最近持ち始めたスマートフォンに似ていたからだ。

 中々触らせてもらえないものが今、自分の目の前にある。その事実に興奮しているのだ。

 

 すぐに駆け寄って机上の物を取った時、父親の声が聞こえてきた。

 

「しっかし、(なん)なんだろうな? これ」

 

 教授が遺跡の中央に置かれた卵型のオブジェに、軍手越しに触れた。

 

 次の瞬間。

 

 ピキッ。

 

 何かが割れるような音が聞こえてきた。

 音源は先程自分が触れたものだった。徐々に(ひび)が入っていき、割れ目から白い光が差し込んでくる。

 

 何が起こったのか全く持って分からないまま、その場の全員が腕や手で目を覆う。

 

 次に彼らが見たものは、破られて役目を終えた殻と、この世のものとは思えないほどに美しく、尚且つ醜い姿をした人型の()()だった。

 

 この世のものとは思えないほどに衝撃的な光景の数々に、彼らは驚く声を上げることすら許されない。

 いや。許されてはいるのだが、己が拒否をしてしまっている。

 

 そして、その()()は突如として行動を起こしたのだ。

 

 

 

 

 

 私が警視庁から事件の詳細を聞いた時、とにかく理解をすることが難しかった。

 

 遺跡の入口に無造作に置かれていた遺体には一切の外傷が無く、また胃や血液から一切の毒物の検出がされていないことから、死因の一切は不明。

 現場のゲソ痕*1に関しても、調査チーム以外のものは検出されなかった。

 

 事件にしろ事故にしろ、詳細は全くと言って良いほど分からず仕舞い。

 衰弱死と言うしか道は無かった。

 

 だが一つ、有力な手がかりがあった。

 幸い、亡くなった石川教授の娘さんはまだ生きていたそうだ。

 どうやら遺跡の壁に頭を強くぶつけたそうで、まだ意識は戻らないが、直に回復するらしい。彼女から事情を聞く、と言うのが私の役目だった。何せもし、未確認生命体絡みの事件だった場合は慎重に捜査を進めなければならなくなる。その前に警察庁の私が調査しろ、とのことだ。

 

 3日後。娘さん、唯ちゃんの意識が戻った。

 病院の個室で初めて面会した唯ちゃんの顔は、明らかに恐怖で埋め尽くされていた。

 こういう場合、慎重に話を訊かなければ取り返しのつかないことになってしまう。

 

「こんにちは。唯ちゃん」

「……こんにちは」

 

 私の挨拶に素っ気無く返してくれた唯ちゃん。

 

 まずは世間話で話を紡ぐことにした。

 最近幼稚園で流行っている遊びの話。

 好きなキャラクターの話。

 話していくと、徐々に彼女は持ち前の天真爛漫さを取り戻していった。先程とは打って変わり屈託の無い笑顔を見せる彼女に、ついに訊いた。

 

「あの日、何があったのか、教えてもらえるかな?」

 

 そして唯ちゃんは教えてくれた。

 自分たちの身に何が起こったのか。

 

 

 

 あの日、()()は目覚めるや否や、調査チームの全員に襲いかかった。

 ただ襲いかかったと言っても、食ってかかったと言うわけではない。

 全身から管のようなものを伸ばして一人一人にそれを刺していった。

 するとどうだろう。管を刺し込まれた者たちは、あっという間にその場に倒れてしまったらしい。

 

 そして唯ちゃん以外の全員が倒れたところで、()()は3つの棺に管を刺し込んだ。

 刺し込んだ棺が突如として開き、なんと3人の人が出てきたのだ。一人目は中年の男。二人目は美しい女。三人目は若い青年だったと言う。

 

 彼らが目覚めて自身の周りに集まった時、()()は突然唯ちゃんの方を向いた。怯える唯ちゃんの元へと近づいて来る()()

 だが唯ちゃんはあまりの恐怖で足が竦んで動くことが出来ない。

 

 唯ちゃんの目の前に来た()()はその場に跪くと、男性の声と女性の声が混じったような声で彼女に話しかけた。

 

「君が手に持っている物、それは私にとって大切な物だ」

 

 唯ちゃんが持っている物。

 それは先程、岩のテーブルの上から彼女から拝借した物だ。

 

「いつかこれを貰いに来る。気長に待っていてください」

 

 それだけ言い残すと、()()と3人の男女はその場から姿を消したのだ。

 

 

 

 唯ちゃんの証言から、これは未確認生命体による犯行だと言うことが分かった。

 だがただの未確認生命体ではない。遺跡の壁画等から嘗て出現したグロンギ族や、その標的であったリント族とは一切の繋がりが確認されなかったため、出現したものを呼称するのだとしたら、「()()未確認生命体」と言うことになるだろう。

 

 これはすぐに発表を出来るものではない。何せ唯ちゃんの命がかかっている。無闇矢鱈に行動しては、彼女の生命の保障は出来ない。

 

 だから私は全てを動かすことを決意した。

 

 まずは唯ちゃんと全く同じ生年月日、体型、血液型の少女の戸籍を乗っ取ることが出来るその時まで待つことだ。

 戸籍が残っていては、いずれ唯ちゃんの居所がバレてしまう可能性があるからだ。

 念の為、唯ちゃんの戸籍は消し、本来学校で習うような教育は全て私が教えた。

 

 次にあの壁画の解読だ。

 ただ、表向きにはただの変死事件として伝えられている事案なので、下手に外部の者を呼んでしまうのは言語道断だ。

 

 そこで事件から6年経ったところで私が呼んだのが、当時大学4年生だった碧君だった。考古学研究の論文でその権威たちから注目を浴びていた彼女を呼んだことで、その全てをすぐに理解することが出来た。

 

 そしてついにその時が来た。

 一つ目に四谷遺跡の周辺の地下に建設を進めていた設備が完成したこと。

 二つ目に唯ちゃん用の戸籍の候補の一人だった、筒井あまねと言う少女が交通事故で亡くなったこと。

 

 これで全てが揃った。

 後は来る「フォルクロー」と名付けられた新型未確認生命体の出現を待つのみとなった。

 

 だが想定外の事態が起こった。

 それはヒュージルーフの出現であった。

 恐らくはフォルクローの仕業だと思われたその現象の影響で、私の作った組織はヒュージルーフの解析も担うこととなってしまった。

 

 そしてSOUPは、現れたフォルクローに対抗することと、巨大な屋根を解析することの両点が職務となった組織となっていったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「以上が、私の知っている限りの全てだ」

 

 あまりの情報量に、その場の全員が言葉を発することが出来ない。

 つまりは、自分たちの戦っていたものは元々人間であり、最終的に戦わなくてはならないのは神のようなものである、と言うことだ。

 

「じゃあ、ここで目覚めたものが『零号』であり、その零号が目覚めさせたのが……」

「ああ。アール、フロワ、ピカロ(あの三人)だ」

 

 薫の質問に対する答えの通りであるならば、あの三人はこの世界とは別の世界から来た者たちであり、何故か自身らの故郷を滅ぼした者に忠誠のようなものを誓っている。

 ますます理解が出来ない。

 そんなのに忠誠を誓う必要性など無いはずなのに。

 自らも殺されるかもしれないと言う恐怖からか?

 それとも、また別の理由からなのか……?

 

 岩田は今度は圭吾の質問に対して淡々と答えた。

 

「まさか……彼らがフォルクローを倒させているのは、言わば主人(あるじ)に対しての生贄を作り出すため……」

「ああ。全てのカードを揃えて、それらをアールの持っているメモリアルブックに装填する。そして唯ちゃんの持っている()()を使えば、零号は完全体になる」

 

「あの、室長」

「?」

「石川唯、いや、筒井あまねの持っていた物は一体(なん)なんですか?」

 

「……。残念ながら君たちに教えることは出来ない。()()が何処にあるのかも、だ。

 零号は今も人間態を持ったフォルクローのように、人間社会の中で生活を営んでいると思われる。何処から情報が盛れるかどうか分からないため、詳細を知っているのは私、春樹君、碧君、そして唯ちゃんの4人だけだ」

 

 森田の質問にはより慎重に答えた。

 それほどの代物と言うことだろう。何せそれを言った方が事がスムーズに進みやすくなるのだから。

 

 これより後に誰かが言葉を発することは無く、冷たく暗い遺跡の中で沈黙が重い空気によって沈んでいった。

 

 

 

────────────

 

 

 

2021.12.14 20:41 東京都 新宿区 焼肉専門店 ぎゅう

 賑やかな店内では、仕事終わりのサラリーマンたちが呑んで食っている。

 日頃のストレスを酒で洗い流し、肉が包んで捨ててくれる。

 

 だが彼らの抱えているものは、たかだか飲食物でどうこう出来る話ではない。

 自分たちが戦っているものはこれまでの脅威とは桁違いのものであり、正直なことを言って全容は何も理解出来ていない。

 

 そして何より、自分たちは人を殺した。

 正確に言えば、人であったもの、だろうがそんなことは関係無い。

 殺した事実は変わらないのだから。

 

 個室で彼らは静かに酒を呑んでいた。

 肉も頼まずひたすらに喉を潤すその姿に、新井夫婦と日菜太は違和感を覚えた。

 

「どうしたんですか皆さん? 今日は随分暗いですけど」

「そうですよ。皆さんらしくない」

「うんうん。お肉、サービスしますから、元気出してください」

 

 靖子が机上に置いた皿の上には、大量の肉が盛り付けられていた。カルビにタン、ヒレにトウガラシ*2まで。メジャーな部位から滅多にお目にかかれない希少部位まで。様々な種類が並べられている。

 

 軽く会釈をして森田が受け取ったところで、三人は個室を後にした。

 

 だが個室に残された四人は用意された肉に手をつけることはなく、ひたすらにジョッキやグラスの中の液体を空にしていく。

 

「どうすれば()いんでしょう? 私たちがこれまで対峙していたのは元は人間で、しかも倒せば倒すほど敵のボスは強くなっていく……。自分たちのやっていることに意味なんてあるんでしょうか……?」

 

「それに、アールたち三人も大事なもの、だけじゃなくて世界そのものを奪われた、言わば被害者です。……はっきり言って、彼らを倒すことに対して僕はすごく……躊躇(ためら)いを覚えていますよ」

 

「ああ。21年前の未確認生命体も遺伝子情報の99.9パーセントが人間と全く持って同じだった。とは言え当時は害獣として処理されたがな。だが今回に関しては、わけが違う……」

 

 全員が暗い表情で下を向く中、一人トングで肉を取り出す。

 そして網の上に肉を置いた時の音で、全員が顔を上げた。

 

 脂によって網の上に上がった炎の後ろにいたのは、トングを持った深月だった。

 他のメンバーと同じように悩みに悩んでいる表情、と言うより、目の死んだ虚な表情だ。

 

「もう……やるしかないんですよ……。後戻りなんて出来っこない。だって僕たちは、間接的にも人を殺したんですから……」

 

 嘗て、彼の家族は殺された。

 そして今は、間接的ではあるが彼が人を殺している。

 例え脳が理解出来ずとも、心の奥底は確実に深く傷ついているはずだ。

 

 脂が一滴垂れ、再び炎が立つ。

 ゴクリと唾を飲んだ深月は、炎によって裏返さずとも両面の焼けた肉を箸で摘み、一口で平げた。

 

 今まで見たことのない異様な仕草に、その場の全員は言葉を詰まらせ、再び下を向いてしまった。

 

 すると

 

「なんか……おかしくないですか?」

 

 突如として薫が全員に声をかけた。

 重い雰囲気の中で発し出された声に全員が耳を傾ける。

 

「どうして6年経った後で、壁画の解読を始めたんでしょう? 普通、すぐに解読を進めた方が良かったのに」

 

 確かにそうだ、と森田が頷く。

 続けたのは圭吾だ。

 

「それに、9年後に専門家を呼んでって、対策としてはあまりにも遅すぎませんか? しかも僕たちが赴任してすぐにフォルクローたちが現れた。

 まるでいつ現れるか分かっていたかのようですよね」

 

「……だとしたらどうやって知ったんだ? あっち側の状況なんて、スパイを送り込むなり何なりしないと分からないぞ」

 

 森田の言葉に全員が言葉を詰まらせ、そして考える。

 だがどう頑張っても答えは出ない。

 もう何も考えずに物を口の中に放り込むことしか出来なくなってしまった。

 

 

 

────────────

 

 

 

2021.12.14 21:53 東京都 中野区

 東中野駅付近の都道317号線沿いをゆっくりと歩いて行く春樹と碧。千鳥足と言うわけでもなく、はつらつとした足取りだ。

 

 幸いにも傷は深くなかったため、30分ほど前に起きて帰宅し始めたのだ。

 

「岩田室長が、彼らに全てを話したそうだ」

「……そう。そっか」

 

 春樹の言葉に碧が頷く。碧の白く美しい肌に反射する街灯の光が、碧が頷く度に向きを変えていく。

 その横顔を眺める春樹の視線に気がついた碧が、春樹に話しかけた。

 

「何?」

「いや、何でも」

「あそう。いやぁ、それにしても心配だなぁ」

「え? 何が?」

 

「深月くんのことだよ。自分たちが戦っているのが元は人だったとか、特に彼は傷つくだろうなと思って」

「だろうな。最初は俺もお前も傷ついた、そうだろ」

「まぁ、うん」

 

 深月だけではない。

 彼らもだ。

 彼らも両親を殺された。そして今、人を殺している。

 間接的にではない。彼らは直接的にやっているのだ。

 

 だが彼らはその苦しみを面に出したことは無い。

 出してはいけない。

 誰にも悟られてはいけない。

 理由なんて無い。

 でも、そんな気がするのだ。

 

 すると碧が春樹の深緑のコートの袖を僅かな力で引っ張った。

 気が付いた春樹が碧と同じ方に目をやると、右側に一軒のコンビニが建っていた。

 ちょっと寄ってくね、と碧はコンビニの中に入って行った。

 

 

 

 碧がコンビニで買い物をしている中、春樹は一人店の前で待っていた。

 

 否、二人だ。

 

 春樹の左隣には眼鏡をかけたコートの男が立っていた。右手に持ったキャップ付きのアルミ缶の中のオレンジジュースを少しずつ飲んでいく。

 

「奥さんはお買い物ですか?」

「ああ。ったく、何を買っているんだか。……井川、あのメールどう言う意味だ?」

 

 井川と呼ばれた男は春樹の言葉に鼻を鳴らした。

 

「分かっているんでしょ? 何せ貴方のところにも予兆があったはずだ」

 

 井川がオレンジジュースをまた少しずつ飲み始めた時、春樹が答えた。

 

「焼肉弁当」

「? はい!?」

 

「昨日、(うち)で誰が作ったわけでもない焼肉弁当が出来ていた。()()()の得意分野は料理だったよな? ()()()()()()()

「なるほど」

「その場ではスルーしたが、まさかと思ってな。……で、()()()はいつ来る?」

 

「……12月24日、クリスマス・イブです。全く、最悪なクリスマスプレゼントになるでしょうね」

「ああ。全くだ」

 

 暫く流れる沈黙。

 すると春樹は端末をコートのポケットから取り出して、グアルダを呼び出した。

 

「グアルダ。もし()()()が現れたら」

「ああ、分かっている。碧を変身させなければ良い、だろ?」

「……話が早くて助かる」

 

 グアルダが端末から姿を消したその時、後ろから独特な音楽が流れた。

 同時に、井川は会釈をして退散して行く。

 

 代わりに春樹の右隣に立ったのは、買い物を終えた碧だった。

 両手に握られたレジ袋の中には、パンパンに物が詰まっていた。

 

「お前何買ったんだよ」

「今日の夜ご飯と明日の朝ごはん。ゆで卵にキムチにそれから……」

 

 口頭で買い物の詳細を説明していく碧。

 愛くるしいその姿を春樹はじっと見つめる。

 

「行こうか」

「……ああ」

 

 すると春樹は碧の右手に持ったレジ袋を取って自身の右手で持つ。

 真意を理解出来ない碧だったが、春樹がすぐに行動でそれを示した。

 春樹の左手が碧の右手を繋いだのだ。

 

 笑みをこぼしてギュッと握る碧。

 それに応えるように、春樹も握り返した。

 

 最低気温が約4度の今日、二人の間にだけ熱が生じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから10日後のことだった。

 椎名春樹と椎名碧。

 この二人の関係が崩壊しようとしたのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: What were they told about?

A: About all of truth he knows.

*1
警察の用語で足跡のことを指す。

*2
牛の肩から前脚から取れる肉。牛1頭につき2キログラムしか取れないため、大変希少な部位である。




【参考】
観察力を磨く 名画読解
(早川書房, エイミー・E・ハーマン著, 岡本由香子訳, 2016年)
東京の過去の天気 2021年12月 - goo天気
https://weather.goo.ne.jp/past/662/20211200/
1 発掘調査 その道具 と
http://www.pref.mie.lg.jp/common/content/000883357.pdf
「5歳女の子」の人気ファッションコーディネート - WEAR
https://wear.jp/coordinate/?tag_ids=279460
焼肉の部位で迷ったら確認!部位の名称と特徴一覧
https://nikuzou.jp/blog/yakiniku_parts/
一度は食べておきたい!焼肉で味わう牛肉の希少部位ベスト5
https://www.daikokusengyu.co.jp/1273/

今作のキャラクターたちの日常を描いたスピンオフがあったら、読みたいですか?

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