仮面ライダーアクト   作:志村琴音

43 / 115
第40話です。
今回、戦闘シーンがありません。
かなり書くのに手こずりました。
宜しくお願いいたします。

※本作品では、2020年より新型コロナウイルスの感染が拡大しなかったフィクションの世界が描かれております。そのため史実と異なる記述がありますが、ご了承頂けますよう宜しくお願いいたします。



【イメージOP】
Roselia - 閃光

【イメージサウンドトラック集】
https://open.spotify.com/playlist/23xA5ZAHZfdUR77F4JZ9lB?si=07c60fc3a3934b45&pt=97747cf874e1c0b08fb8e40c52da1ec2


EPISODE 14 偶像(IDOL)
Question040 What means "idol"?


?????

 いつもの部屋の中に配置されていたのは、先日まで八雲が使っていたのと同じセットだ。同じ椅子に同じデスク、同じモニターや同じパソコン。何から何まで同じだ。

 

 その椅子に座っているのは、一人の女性だった。

 柄の無い白いTシャツに紺色のジーンズと、まさにシンプルと言う言葉が良く似合う格好だ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 そしてセンター分けになっている黒いボブカットから、水色の触手と呼ばれる髪周りにある短い髪の毛が生えている。

 首元には黒いヘッドフォンが掛かっていて、頭頂部には赤いカチューシャが着けられていた。

 

「お姉ちゃん」

 

 後ろから声をかけられた。

 女性──大野花奈が振り向くと、そこに立っていたのはクロト(彼女の弟)だった。

 

「何?」

「お願いがあってさ。僕のガシャットが壊れちゃったから、新しいのを作ってくれないかな?」

 

「そのくらい自分でやりなさい。他の誰かを犠牲にするか、それとも自分の身を削ってやるか」

 

 冷たく言い放ち、花奈は椅子から立ち上がった。

 そしてデスクの端っこに置かれているコーヒーメーカーの方まで歩いた。

 

「そんなこと言わないでよ! 僕だって戦いたいんだよっ!」

「私は忙しいの! 作らなきゃならない物が2つもあるの!」

 

 二人の声が部屋の中に響き渡る。

 だがクロトはニッコリと再び笑った。

 

 何となく嫌な予感がしたが、どうせ杞憂であると思ってコーヒーメーカーからサーバーを取り出して、置かれている白いマグカップの中にコーヒーを注ぎ始めた。

 

「……それは、()()()()()()()()()()()()のために作るの?」

 

 動きが止まった。

 止まってしまったがために、コーヒーを入れる手が動かなくなってしまい、マグカップからコーヒーが溢れて白一色だった表面は茶色で覆われてしまう。

 それに気がついた花奈は、慌ててサーバーを置いて、布巾でデスクの上を拭いた。

 

「違う! それじゃないし、()はそんなんじゃ無い! ……そんなんじゃ無いから……」

 

 最後の言葉は殆ど聞き取ることが出来ない。

 見れば花奈の頬は紅潮している。

 

 そんな姉の様子を見て、クロトはニヤニヤと微笑んでいた。

 だが彼の目線に気が付くことは無く、花奈は静かに椅子に腰掛けた。

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.02.03 08:57 東京都 新宿区 SOUP

 始業時間の10分前。

 室内には全員が集まっていた。

 

 八雲はスマートフォンでゲームを行い、圭吾は同じくスマートフォンでアニメを観ている。

 薫は机上にあるポテトチップスを食べ、碧はパソコンと睨みっこをしている。

 

 そして深月は、スマートフォンで何かをじっと見つめていた。

 ゴクリと唾を呑んで、親指で画面をスクロールする。

 その先にあった画面を親指で押した。

 

 そこに書かれていた文字は──。

 

 

 

落選

抽選の結果、チケットをご用意することが出来ませんでした。

 

 

 

「嘘だぁぁぁぁぁっ!」

 

 深月の大声が響き渡る。

 何事かと全員が深月の方を見た。

 

「何何何?」

 薫が驚く。

 

「朝からどうしたんですか?」

 圭吾も訊いた。

 

「あの……その……」

「「「「「?」」」」」

 

江戸川ミソラ(みーたん)のライブ……全落ちですよ……。本会場も駄目でしたし、芝浦パークでやるパブリックビューイングも駄目でした……」

 

 パブリックビューイングとは、街頭にて大型スクリーンを使って観劇をするサービスだ。

 2年前の2020年に行われた東京オリンピック・パラリンピックでも、同じ仕組みで多くの国民が一緒に観戦を楽しんだ。

 それを江戸川ミソラのライブでもやると言うことだ。

 

「それ何人が集まるやつ?」

 碧が訊く。

 

「ざっと250人です」

「その、パブリックビューイングは?」

 八雲も続いた。

 

「大体、65000人です」

 

 それでも当たらないのか。

 全員がミソラの人気に驚く他無かった。

 

 すると、森田のデスクの上の固定電話が鳴った。

 深月が落胆する中、森田は電話に出る。

 

「はい未確認物質解析班。……え?」

 

 普段、森田は電話で受けた内容には全てイエスを出す。生粋のイエスマンだ。聞き返すなんてことなまず無い。

 だが聞き返したと言うことは、それだけとんでもない内容と言うことだ。

 

「……分かりました」

 

 それでもイエスを出す。

 流石は生粋のイエスマンだ。

 

 そして電話を切ると、全員にいつものように声をかけた。

 

「皆さん、出番です」

 

 全員が準備を始める。

 こうなれば何処かの現場に行って、化け物退治をするのが彼らの仕事だ。

 

「で、今回は何処に現れるんです?」

 

 碧が訊くと、何故か森田は苦い顔をした。

 

「それが……」

「「「「「?」」」」」

 

 

 

「事故死の捜査、だそうです」

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.02.03 09:20 東京都 千代田区 警視庁 17階

「お待ちしておりました。捜査の指揮をとっております、桜井(さくらい)と申します。宜しくお願いします」

 

 桜井(つよし)警部はもうすでに40代も後半に差し掛かる年齢の筈だが、それを感じさせない程に若々しかった。

 嘗て未確認生命体に前線で戦った桜井。その後は池袋署に勤務をしていたが、警部に昇級する際に警視庁本部に移動となり現在に至る。

 当時は正義に燃える熱血漢であったが、今はその面影は少なくなり、落ち着いた様子となっている。

 

 そんな彼によって案内をされたのは、広い会議室のような場所だった。

 椅子が大量に置いてあり、その前には大きなスクリーンがある。

 

 それぞれのメンバーが椅子に座り、桜井はモニターの横に立った。

 そして手元にあるiPadを使って、モニターに画像を表示した。

 

 表示されたのは、居酒屋らしき店内の写真だ。美味しそうな枝豆や鯵の開きが乗った器の前で、ぐったりとした人々が写っている。

 

「先週の土曜日、港区の飲食店で11人が亡くなる事故が起こりました。死因に関しては、全員が窒息死です」

「窒息死!? 11人もの人が一斉に窒息なんてするんですか?」

 

 あまりにも現実離れした出来事に深月が思わず声を上げてしまった。

 

 それもそうだ。

 同じ飲食店内で11人もの人間が一斉に死亡する。これが何かのテロならばさておき、その死因が窒息死と言う現実離れした現象が起きたのだから。

 

「えぇ、あり得ませんよ。ただ、もっとあり得ないことがありまして……」

「?」

 

「彼らは、どうやらパソコンを使って八戸、名古屋、徳島、福岡にいる計5名とビデオ通話をしていたらしいんですが……その方々も、ほぼ同じ時間に亡くなっています。死因は、やはり窒息死でした」

 

 想像の範囲を優に超えているため、誰もリアクションをとることが出来ない。

 どれだけ知識を蓄えた者でも、考えられない事象に対しては太刀打ちの仕様がないと言うわけか。

 

「フォルクロー、ですか?」

「我々はそう考えています。そのために、皆さんにご意見を頂きたいなと」

 

 そうは言われても、何をどうすれば良いのか分からない。

 手探りにでも始めるしか無かった。

 

「八雲君に訊きたいんだが、そんな能力を持ったフォルクローはいるのか?」

 森田が早速訊く。

 

「いや。遠距離から人を同時刻に殺す能力を持ったやつはいない」

 

 八雲の発言でこれから進む話は、振り出しどころかマイナスの方に進んでしまった。

 

「実は、これと同様の事が去年の11月から起こっているんです」

 

 さらなる爆弾発言に、全員はまた驚く。

 そんな彼らを他所に、桜井は画面を切り替えた。今度表示されたのはスーツを着た男性のバストトップだった。

 

「去年の11月30日。東京駅の中で出張に行く予定だった男性が突然倒れ、その後死亡しました。原因は同じく窒息死です。

 防犯カメラの映像を確認しても、特に何も以上は無く、結局原因は分からず仕舞いでした」

 

 次に表示されたのは、タキシードを着た男性とウエディングドレスに身を包んだ女性が笑顔で並んで立っている写真だ。

 その二人の顔に、全員見覚えがある様子だ。

 

「次に、12月12日。有楽町近くのマンションで男女の遺体が自宅の浴槽から見つかりました。これも窒息死です」

「それは、ヒートショックが原因だと発表があった筈ですが」

 

 確かにそうだ。

 ニュースでは、ヒートショック現象による心筋梗塞が原因だと報道されていた。

 

 冬場の風呂場では、暖かい風呂場と寒い脱衣所の急激な温度変化によって血圧が急変するために、心筋梗塞や脳卒中が起こりやすい。これが所謂ヒートショック現象だ。

 年間で14000人がこれによって亡くなっており、誰にでも起こり得ることだ。

 

「それが司法解剖の結果、内臓に鬱血(うっけつ)が見られたことや、背中に死斑が多く見られたことから、窒息死と判断されたんです。

 ただ、何故か翌日の報道ではただの心筋梗塞として報道された。はっきり言って、我々も全く分からないんです」

 

「つまり、誰かの圧力がかかった可能性がある、と言うことですか?」

 

 深月の発言に、桜井が静かに頷く。

 ますます意味が分からなくなってきた。

 

「3件目が先月の13日。新橋駅からすぐの居酒屋で、同じように窒息死で4人が亡くなっています。ただこれも、何故か心不全で公表された……」

 

 そんなことをして、誰の何の徳になるのか。

 まるで見当が付かない。

 

「窒息の原因は?」

 今度は碧が訊いた。

 

「横隔膜が麻痺したことによる、呼吸困難だそうです。ただ麻痺の原因は分かっていません」

 

 横隔膜は肺の中にある板状の筋肉で、呼吸をする際にその横隔膜が要となる。

 もしもこれが麻痺を起こせば、正常な呼吸が難しくなり、最悪の場合は自発呼吸が出来ずに死に至ってしまう可能性があるのだ。

 

「横隔膜麻痺の原因は神経障害や筋肉の障害、感染症などが考えられるが」

「それも全て違いました」

 

 森田の考えはもうとっくに調べられていた。

 だがそれも空振りだったらしい。

 

「となると、考えられるものだったら……神経毒?」

 

 薫の発言に全員がハッとする。

 確かに、横隔膜に付いている神経を麻痺させるような毒を使えば……。

 

「それは無いですよ。遺体を念入りに調べても何も出てこなかったんですから」

「いや、あり得る話ですよ」

 

 否定した桜井だったが、圭吾は肯定する。

 

「毒物の検査装置は、それまでの毒物のデータを基に毒物を見分けます。つまり、もしどれにも引っかからない新種の毒物の場合は、検出することは不可能と言うことです」

 

 流石はその手の機械を造ってきた男だ。

 説得力がまるで違う。

 

「じゃあ、フォルクローの犯行じゃない可能性もある、ってことですか?」

 

 深月が一先ずホッとした様子で言う。

 だが

 

「それはあり得ないな」

 

 今度は八雲が否定する。

 

「通常、神経毒は血液中に入ることでしか機能しない。けど、資料を見る限りは、どの遺体にも毒が入ったと考えられそうな穴は無かった」

「じゃあ、飲んだって言う可能性は?」

 

 今度は圭吾が答える。

 

「飲んでも死ぬことは無いですよ。胃酸で溶かされるか、溶けなくても浄化されて尿として排出されるかの2択しか無いですから」

 

「と言うことは、やっぱりフォルクローの犯行ですね……」

 

 結局、自分たちが来て良かったと言うことだ。

 

「もしフォルクローの仕業だったら、そのモチーフは何が考えられる?」

 

 森田の問いに、薫が暫く考えて発言した。

 

「うーん……。例えばテトロドトキシン*1を持っているフグやバトラコトキシンを持っているヤドクガエル科。または……コブラ?」

 

 すると八雲が何かを思い出したようだ。

 

「コブラ……?」

「? あるのか?」

 

 

 

「ああ。あのブラッドスタークがそうだ」

 

 全員が驚くと共に、納得した。

 奴は今までの戦いで、ずっと何かを気にしていた。そしてその度に戦いの途中に退散していた。

 その原因はこの殺人にあったのか……。

 

 と、その時。

 

 コンコン。

 ドアが2回ノックされた。

 

 そして開けられたドアの中から入って来たのは、井川だった。

 

「失礼します」

 

 想定外の男の来室に全員が混乱する。

 

「何をしに来た!?」

 

 桜井が訊くと、井川はまるで宥めるかのように左の掌を見せる。

 そうしながら何故か碧の方に近づいた。

 

「え? 何?」

「奥さん、この前私に依頼しましたよね? 常田海斗が何処から研究資金を調達したのか調べて欲しい、と」

「うん。……でも今!?」

 

 あまりにもタイミングが悪過ぎる。

 ただでさえ混乱している彼女たちをさらに混乱に陥れかねない。

 

「私だって忙しいんです。あと10分で次の現場に向かわなければならないですから」

 

 その言葉が本当かどうかは怪しいが、一先ず全員は井川の話を聞いてみることにした。

 

「調べてみたらそれっぽいのが1社ありましたよ。存在しない架空の会社に6年間も巨額の寄付をしていた企業が」

「それ、何処なんです?」

 

「平井ホールディングスです」

 

 再度驚きが走った。

 平井ホールディングスは日本有数の大手企業だ。不動産業から始まり、製薬業や自動車産業、その他様々な分野で幅広く活躍をしている。

 そんな企業があんな怪物創りに加担していた可能性があると言うのだ。

 

「それは、本当ですか?」

 

 森田が井川に訊く。

 

「えぇ。それで代表の平井勝司について調べてみたんです。そしたら、娘が2人いることが分かったんです。

 長女の亜美(あみ)は6年前に交通事故によって死亡。

 一方の美空(みそら)は……」

 

 

 

 

 

「あのアイドルの江戸川ミソラです」

「え、えぇっ!? みみみ、みーたんが!?」

 

 深月が本日2度目の大声を上げた。

 何せフォルクローの秘密に絡んでいるのが、「推し」の父親なのだから。

 

「ちょっと待って。平井ホールディングスって色んな番組のスポンサーになっているよね? だとしたら、多少の圧力をかけることは可能なんじゃない?」

「つまり、スポンサーのハードパワーで報道を操作したと言うことか?」

 

 森田の言葉に碧が頷く。

 

「あれ?」

 

 黙って発言を聞いていた桜井が声を出した。

 

「江戸川ミソラと言えば、2件目、3件目、そして今回と、被害者が同じ物を所持していたんです」

 

 そう言って桜井はモニターに写真を表示した。

 よくあるペンライトの写真だ。全体は白くブレードは透明で、柄の部分には丸いスイッチが設置されている。

 

「あ! これ! 今度のみーたんのライブで配られるペンライトですよ! ただ抽選で、ライブよりも前に送られてくる場合もあるんです」

 

 碧は思い出した。

 そういえば、深月が年明けにこのペンライトを仕入れるためにCDを買って欲しいと言っていた。

 なんとなく流していた情報が、ここで活かされることになるとは──。

 

「と言うことは、このペンライトに何か仕掛けがあって、それで全員殺されたってことですか?」

 

 

 

「なんか、まるでゲームみたいですね」

 

 圭吾の言葉に続いた薫の言葉で、その場の全員の背筋が凍りついた気がした。

 

 「ゲーム」。

 嘗て未確認生命体たちも、そう称して殺戮を繰り返してきた。

 ある者は特定の学校のクラスの生徒たちだけを襲い、ある者は自分と一緒に電車に乗った者を殺害。またある者はフレデリック・ショパンの「革命のエチュード」のメロディラインの音に合わせて殺戮を行った。

 それと同じことを、彼はしていると言うことだ。

 

 ようやく全貌が見えかけてきた。

 彼はどうやらゲームのようにペンライトを持った人間を殺害していっている。

 

 だが、どうして……?

 

「碧君と八雲君はその平井勝司に、深月君は念のために江戸川ミソラのところへ、話を聞いてきてください。

 で、薫君と圭吾君はペンライトを作った製造会社の方へ。三者のところには、私が話をつけておくので」

 

 そして一旦、全員が解散をした。

 何か、嫌な予感を感じながら。

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.02.03 09:50 東京都 中野区 トキワヒルズA 602号室

 さて、一方その頃、八雲の言わば部下である三人は、家の中で待機をしていた。

 

 八雲と同じくSOUPの仲間となった彼らだが、正式な仲間では無い。

 何せ八雲が非公式に連れて来た者たちなのだ。

 先方も迂闊に信用することは出来ないと言うことから、出動が出るまでは自宅待機と言う形になったのだ。

 

 そのため、彼らは今、非常に暇なのである。

 

「なぁ」

「ん?」

「流石に暇じゃねぇか」

 

 シドがソファに寝転びながら言う。

 

「同感。もう3日も家出てないからね」

 

 キッチンにいたヨーコもシドと同じ意見のようだ。

 

「私は別に悪くないと思うがね。作りたい物が作れる」

 

 対して食卓を囲む椅子に座るリョーマはノリノリだ。

 手元には三人が使っているのとはまた別の、赤い果実のオブジェが付いたロックシードが握られている。

 

「この先、私たちどうなるのかしらね?」

「どうなるって?」

 

「決まってるでしょ。もし零号を倒したとして、その時には私たちは必要なくなる。そうなったら、どうなるのかって」

 

 ヨーコの指摘に、二人とも俯く。

 暗い表情を浮かべた三人の間に、暫く沈黙が流れた。

 

 すると

 

「まぁなんとかなるさ。気にしない気にしない」

 

 リョーマが脳天気に言った。

 その場の沈黙を掻き消す言葉に、ヨーコとシドは笑みを浮かべる。

 

「そうだな。ま、俺は全部終わったら豪遊しまくるぜ。何たって、世界を救ったナイスガイなベジタリアンになるんだからな」

 

 シドが同じく脳天気に言う。

 

「生きていたら、の話でしょ。そうね、私は普通に就職するかな。行く当て無いけど」

 

 ヨーコも頭の中に何かビジョンを浮かべて発言をした。

 

「私は……まぁ、ゆっくり考えるとしよう」

 

 リョーマは手に持っているロックシードを食卓の上に置いた。

 

 束の間の休息。

 全て忘れて今後のことについて考えを膨らませていた時、ふとヨーコが話を切り替えた。

 

「そう言えば、スタークっていつもどうしてるんだろう?」

「? どうしたんだよ急に」

 

「いやだって、スタークの姿があれしか無いとは思えないし、怪人態だけのフォルクローが人の言葉を話すなんてありえないし……」

「確かに。なんか人間態はあるとか言ってたけど見たことねぇし、会おうとしたら『仕事が忙しい』とかで全然会ってくれねぇし」

 

 シドが釣られて彼に対する愚痴を溢す。

 そのせいで、先程までとは一転し、部屋の中に嫌な雰囲気が立ち込めてくる。

 

 自覚してはいたが、敢えて全員がそれを無視し、その後は普段通りの生活を営み始めた。

 

 

 

────────────

 

 

 

2022.02.03 13:49 東京都 港区 中央テレビ 7階 Cスタジオ

「それでは、また明日お会いしましょう。良い午後をお過ごしくださーい!」

 

 番組のMCを務める中年の男性は挨拶をすると、他の出演者たちと一緒にカメラに向けて手を振る。それに合わせて観覧している者たちが拍手で応え、番組は終わった。

 

 ディレクターの合図で生放送は終わり、全員が観客たちに一礼をして今日の収録は終わった。

 

 舞台袖に去って行く出演者の中に、江戸川ミソラの姿もあった。

 トレードマークの金髪と赤いリボンはそのままに、白いロングTシャツの上からオーバーオールを履いている。いつも華やかな格好をしている彼女とは程遠い格好ではあったが、それでも確かに華があった。

 

「ミソラちゃん。ちょっといい?」

 

 横から眼鏡をかけた男性が話しかけてくる。どうやらマネージャーのようだ。

 ふと疑問に思ったミソラであったが、一先ず彼に着いて行くことにした。

 

 

 

 楽屋で待っていたのは深月だった。

 目の前に推しがいると言う奇跡のような状況を堪能しているからか、異様に浮き足立っている彼であったが、職務中であるために全力で隠す。

 

 そして互いに向かい合うように座って、深月の話を聞いた。

 

「そうは言っても、私は何も知りませんからねぇ……」

 

 まぁ、それもそうか。

 何せいくら自分のグッズから毒物が出た可能性があると言っても、当の本人はそれに関係していないのだから。

 

「そうですよね。有り難うございました」

 

 これ以上訊いても何も出てこないだろう。

 そう思った深月は立ち上がって一礼すると、楽屋の引き戸を開けた。

 

「あ、そうだ」

「?」

「あの……ライブ、応援してます」

「! 有り難うございます!」

 

 屈託の無い笑顔でミソラが礼を言う。

 その笑顔に昇天をしそうになりながら、深月はゆっくりとその場を後にした。

 

 

 

 それから少しして、ミソラは廊下の角にある自動販売機で飲み物を買っていた。

 

 すると

 

「ミソラちゃん」

 

 横から声をかけられた。

 見るとそこに立っていたのは、先程共演していた男性アイドルだった。ツーブロックの黒髪で結構ガタイの良い。

 

「この後、飯行かない?」

「いや、結構です」

 

 毎週欠かさず声をかけて来るこの男。はっきり言って迷惑だ。

 

「そんな硬いこと言わずにさぁ」

 

 軽々しく右腕を掴んできた。

 恐らく、体格差で勝てると思っているのだろう。

 

「……じゃあ、ちょっと来てくれませんか?」

 

 

 

 

 

 テレビ局の地下駐車場では、多数のロケバスや事務所の車が置かれている。

 だがこの時間は、ロケに行くスタッフが少ないことから、人気は特に無かった。

 

 その中で、ガタイの良い男の荒い息の音が響いた。

 車に身を預けながら倒れ、口と鼻からは多量の血が流れている。

 

 そんな彼のことを、ミソラは見下していた。

 睨みつける彼を笑顔で見つめる。

 

「駄目ですよ、私に手ぇ出しちゃ」

 

 いつもの可愛らしい声を出しながら、ミソラは膝立ちになって男の目線に合わせる。

 

 そして、男が意識を失う寸前に聞いた声は──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何たって()は、みんなのアイドルだからな」

 

 その可愛らしい見た目では想像がつかないような、低い男だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q: What means "idol"?

A: It means who is admired and respected by everybody. But, it has the other meaning.

*1
所謂フグ毒のこと。




【参考】
小説 仮面ライダークウガ
(講談社, 荒川稔久著, 2013年)
東京の過去の天気 2022年1月 - goo天気
https://weather.goo.ne.jp/past/662/20220100/
Tamaki Matsumoto(@tamaki0207matsumoto)・Instagram写真と動画
https://www.instagram.com/tamaki0207matsumoto/
コーヒーを淹れる|おいしいコーヒーの淹れ方|知る・楽しむ|コーヒーはUCC 上島珈琲
https://www.ucc.co.jp/enjoy/brew/drip.html
山手線の路線図・地図 - ジョルダン
https://www.jorudan.co.jp/time/rosenzu/%E5%B1%B1%E6%89%8B%E7%B7%9A/
警視庁と警察庁の内部、ホントのところ
https://www.fbijobs.jp/police/keisityou-keisatutyou
警察の階級とは?警察官の階級で就ける役職にも違いがある
https://www.police-ch.jp/keisatsu_kaikyuu.html
2023年版 警視庁と捜査一課管理官
https://www.fbijobs.jp/police/keishityou/kanrikan
冬場に多発! 温度差で起こるヒートショック|済生会
https://www.saiseikai.or.jp/medical/column/heatshock/
窒息 - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%e7%aa%92%e6%81%af
死斑 - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%e6%ad%bb%e6%96%91
ヘビ毒 - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%98%E3%83%93%E6%AF%92
横隔膜麻痺について|メディカルノート
https://medicalnote.jp/diseases/%e6%a8%aa%e9%9a%94%e8%86%9c%e9%ba%bb%e7%97%ba
神経毒 - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%e7%a5%9e%e7%b5%8c%e6%af%92
劇中放送局一覧表 - テレビ資料室 - テレビる毎日
https://cozalweb.com/ctv/shiryo/broadcaster.html
IDOL|意味, Cambridge 英語辞典での定義
https://dictionary.cambridge.org/ja/dictionary/english/idol

そう言えば、椎名夫妻とSOUPのメンバーの出会いを書いていなかったのですが、読んでみたいですか?

  • 本編で読みたい。
  • スピンオフ形式で読みたい。
  • どっちでも読んでみたい。
  • そんなに読みたくない。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。