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【イメージED】
フレン・E・ルスタリオ - フラクタル
【イメージサウンドトラック集】
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2022.03.30 15:01 東京都 新宿区 焼肉専門店 ぎゅう
外が曇天になってきた頃、日菜太は独りで店内の掃除を
だが、もう独りではなくなる。
もうすぐあまねが来るのだ。昨日連絡があって、話があるから会いたいとのことである。
彼は何処となく期待を寄せていた。恐らくは自分の望むことを伝えに来てくれるのだろう。そう思うと意図せずとも顔から笑みが止まらない。
木で出来たカウンターを白い布巾で拭いていたその時、引き戸が2回叩かれた。
やっと来たとノリノリで扉を開く日菜太。
だが、そこにいたのはあまねではなく、春樹であった。自身の端末を右手に持ち、レンズを日菜太の方に向けている。
「春樹さん!? どうしてここに……?」
「それがさ、今日あまねが来られなくなったから、俺が代わりに伝えに来た」
「そう、ですか……」
露骨にがっかりした表情を見せる日菜太。だが「ごめんな」と微笑みながら謝る春樹を憎めず、再び笑顔を浮かべた。そして布巾でカウンターを拭きながら彼と話す。
「で、何ですか? 用って」
「お前だろ、零号は」
春樹の言葉に日菜太は一旦手を止めて彼の顔を見る。春樹の顔から微かな笑みは一切消え失せ、真っ直ぐに日菜太の方を見つめている。
何故か吹き出した彼は再びカウンターの方に目線をやって、布巾を持った手を動かす。
「何の話ですか。そもそも何です? 零号って」
そんな彼の様子を無視し、春樹は立ちながら話を始めた。
「ずっと疑問だったんだよ。どうしてあまねがいる場所にフォルクローたちは出現することが出来たのか、って。一番考えられるのはあまねの素性を知る人物がアイツらに情報を流していることだ。
まず身内を疑うとすれば、SOUPの全員が怪しいことになるが、俺や碧以外の
だがここでもう一人、SOUP以外で最も有力な奴が現れた。それがお前だ」
「どうして僕が……」
布巾を動かす手を止めて椅子に座りながら春樹の方を見つめる日菜太。
「お前だけなんだよ。SOUP以外であまねが校外学習に行く日と、俺が昏睡状態になっていた時にいた病院の場所を知っているのは。それに碧に聞いたら、関係者以外でお見舞いに来たのはあまねとお前だけらしいからな」
確かにあまねが校外学習で博物館に行った日に、松本康生が彼女を連れ去った。さらには春樹の眠っていた病院もアールに襲われたのだ。しかも民間人の中で病院の場所を知っているのは、お見舞いに行ったあまねと日菜太だけなのである。
「いくら何でも捏ち上げですよ……! 単なる偶然でしょ」
「それだけじゃないぞ」
春樹の言葉に日菜太は目を見開く。
「3月22日火曜日。この日3体のフォルクローがあまねに襲いかかった。それは一緒に襲われたお前も覚えているだろ。
ここで一つ疑問がある。そうしてこの日を選んだのかってことだ。何日か前から春休みに入っていたんだから別にこの日じゃなくても良かった筈だ。なのにどうして3月22日なのかと。
あの日はな、俺と碧の入院する期間が唯一重なる日だったんだよ。八雲はともかく、もしあまねに何かあったとしても俺たちが来られる筈が無い予定だった」
春樹は少しだけ間を置くと、
「そういえばお前、どうして俺と碧が入院していること知っていたんだ?」
いきなり日菜太に問いを投げかけた。戸惑う日菜太であったが、一先ず答える。
「それは、あまねちゃんに聞いたんですけど……」
「それは無いな。だってあまねには『絶対に言うな』って釘を刺しておいたからな。それに──」
すると春樹はコートの内ポケットから細く折られた白い紙を取り出した。それを広げて中身を見せつける。
そこには春樹と碧が逃亡中に立ち寄ったラブホテルで、あまねを含めた三人が話したことが丸々書いてあった。
「入院していたっていうのは、全くの嘘だから。しかもこの話はあのホテルでしか話していない」
春樹の発言に驚愕する日菜太。だが取り乱した様子ですぐに反論をする。
「だから何なんですか! もしかしたらあまねちゃん以外から聞いたっていう可能性だってあるでしょ!」
「ああ、そうだな。これだけでお前があまねを狙っていたということは決定しない」
「だったら──」
「言っただろ。『これだけなら』って」
今度は外側のポケットからある物を取り出した。
それは日菜太があまねの誕生日に彼女にプレゼントをしたキーホルダーだった。彼が手作りをした「A」の形をした赤いものである。
「これ、お前の手作りだったよな?」
「はい」
「間違いないな?」
「そう、ですけど……」
彼の言葉を聞いた春樹は、「一応、あまねの許可は取ってあるから」と呟くと自身の端末をカウンターに置き、左手に握ったキーホルダーの表面を右の拳で思いっきり砕いた。
自身の力作を壊された怒りよりも、この男は一体何をしたのかという疑問と驚きだけが頭の中に残った。
春樹の左手から赤色の欠片が少しずつ落ちていく。本体の表面は完全に壊され、中身が丸見えとなってしまった。
すると春樹は部品の中から、銀色の丸い部品を取り出した。市販のリチウム電池の半分くらいの大きさをしたそれを、右手の人差し指と親指で挟んで日菜太に見せる。
「これ、盗聴器だろ」
日菜太はもう何も反論をしなくなった。
「昨日あまねが襲われた時も、朝家で行き先を言っていたから、盗聴出来て場所が分かったんだろ。
だからホテルのやつみたいに罠を仕掛けさせてもらった。その結果、今日オールたちが廃校を探す羽目になったんだ」
そのため、キーホルダーに開けられている充電口は防犯ブザーを充電するためのものではなく、この盗聴器を充電させるためのものであったことになる。
言えることは全て言った。
粉々に砕けた残骸をカウンターに置いて、再びトランスフォンを握って日菜太にレンズを向ける。
「まぁ、これだけでお前が零号かどうかは分からないが、
日菜太の反論を待つことにした春樹。
だが彼は何も言わずに顔をカウンターに伏せている。
すると突然、静かな笑い声が途切れ途切れで聞こえてきた。音源は言わずもがな、日菜太の口である。
顔を上げた彼の顔は理詰めされているとは思えない程の笑顔で、何処か恐れを覚えてしまう。
「一体、いつから
春樹の方を見て声をかける日菜太の声は、間違いなく彼自身の声であった。
だがその話し方は自身が狙っている対象そのものだ。
けれでも春樹は戸惑うこと無く、彼の質問に答える。
「最初に疑いだしたのは、米国の研究者が来日した時にクロトが襲って来た時だ。
アイツは俺たちが何かとんでもないことをしようとしていたのは知っていたが、一体何をしようとしているのかは全く知らなかった」
それは彼らが疑問に思っていた最大の謎であった。
何処から情報が漏れたのかは分からないが、少なくとも彼らの中に内通者がいたわけでもなかったし、フォルクロー側に潜り込んでいた八雲にも情報は隠されていたために真相は謎のままであった。
「そもそも米国から科学者が来ること自体が極秘だったわけだし、何かをしようとしているというのが伝わっているなら、同時に内容も知っている筈だ。だから何であんな中途半端にしか情報が伝わっていなかったのか、全くと言って良い程分からなかった。
けど思い出したんだ。あまねに『大事な仕事がある』と言ったのを。そしてそれを話したのはお前だけだった」
そうだ。
その後この店に来た際、あまねが言っていた。
「パパとママの仕事のこととかを話すのは日菜太くんだけだけど」と。
「それでハッとしたよ。その状況のお前だったら確実にあんな中途半端に情報を伝えることを出来るなって」
「……成程。そうでしたか……」
暫し流れる沈黙。
打ち破るために、今度は春樹が日菜太に質問をした。
「いつからその
「『なった』というのは、少し語弊がありますね。お借りしたんですよ。この身体を」
その言葉に春樹はやっと驚愕の表情を見せた。
ということは本当の七海日菜太は乗っ取られた状態である。さらに言えば零号が使う能力は、コーカサスたちを言葉一つで動かす、所謂「言霊」だけではないということだ。
「ああ、勘違いしないでください。私が使える能力は二つだけ。『憑依』と『譲渡』です」
意味が解らない。
一体その能力でどうやって、コーカサスたちを浮かび上がらせ、江戸川ミソラに発火をし、そして何より、春樹自身の身体を欠けさせたのだろうか。
「彼等にはものを創造出来る能力があります。勿論、貴方にも。それを利用したんです。一種の洗脳状態にして浮かび上がらせたり、発火したりしたんです。
発火や空中浮遊は彼等には一切無かった能力でしたが、そこは私が一時的にだけ能力を与えたんです」
それであれば彼の説明に合点がいく。
日菜太はコップと透明なポットを取り出すと、ポットから冷えた水を注いで少しだけ口をつけ、コップを静かにカウンターの上に置いた。
「じゃあ、いつから彼の身体を使っているんだ?」
春樹も少し離れた席に座る。目線を日菜太に配ることは無く、ただ正面を見つめていた。
「目覚めてすぐですよ。発掘した彼等を殺めるのと、自らが破壊した世界で潜むための準備をするために、力を限界まで使ってしまいましてね。もう身体を残す余力も無かった。
そこでアールたち三人だけを
淡々と物語る日菜太。
コップを持ったところで気が変わったのか手を離す。
引き戸のガラスからは定期的に赤色の光が差し込むようになり、徐々に騒がしくなってきた。
「それで、あまねのことはいつ分かった?」
「全くの偶然です。中学生の頃に遺跡の近くで情報を集めようとこの店に住み込み始めたんです。幸いにも彼のご両親はこのお店とご縁がある方々でしたので、事は順調に行きましたよ。
そしてある日、彼女がこの店に貴方方と現れた。顔を見た瞬間に彼女が筒井あまねその人だと判りましたよ。しかも幸運なことに彼女がここで受験勉強をしていましたので、私も同じ高校を受験して見事彼女と共に合格しました。
この店だけではなく学校でも距離を縮めていき、
日菜太が非常に残念そうな表情を見せながら、コップを持って中にある水を全て飲み干す。
彼の様子を見た春樹は立ち上がって口火を切った。
「お前を今ここで倒せば、フォルクローを全て倒したとしても何も起こらずに全てが解決する。……だから投降しろ」
同じく日菜太も立ち上がり、春樹を見つめる。
「ではその前に、貴方を今ここで倒せば良いだけの話です。だって貴方は今、一人ですから」
「……じゃあもし、
春樹が後ろを向いて戸を引くと、外の風景が見えるようになって、日菜太は驚いた。
外の通路はパトランプを照らすパトカーが塞ぎ、その中で機動隊員たちが銃口を店の方へと向けている。そしてその後ろでは碧に岩田、八雲、花奈、デネブがあまねを守るように立っていた。
それは、この状況では完全に春樹の方が優位に立っていることを証明するには、十分なものであった。
「もし俺がここで死んでも、この端末で今の会話は全て録画してあるから、どうってこと無い。……どうする? お前にもう勝ち目は無いと思うぞ」
だが、日菜太は何度目かの笑みを春樹に向ける。
「それはどうでしょうか?」
「え?」
「言いましたよね? 私は彼の身体を使っていると。なのでもし今私を倒せば、彼も死ぬわけですが」
日菜太の発言は、この戦況をひっくり返すのにもってこいであった。
会話の一部始終を春樹の端末越しに聞いていた、遊撃車の中の深月が「攻撃は慎重にお願いします」と機動隊員たちに無線で指示を出す。指示に従って、隊員たちは少しずつ後退して行った。
すると日菜太は春樹の前へと立ち、彼の目をじっと見つめた。
見つめられた春樹に襲いかかってきたのは、あの時と同じ恐怖感であった。生命が争うことの出来ない、絶対的な恐怖。それが今、彼の体を直に蝕んでいく。
まるで万華鏡のように美しい模様が、日菜太の黒目に投影されているように感じる。
鳥が舞い、魚が泳ぎ、ラッパの音が響く。その中で人々が一人を囲みながら踊りを踊る。そして獣のような何かが彼等を食らい、私腹を肥やす様だ。
異様なまでに鮮やかなその模様を眺めた後、春樹の視界が黒くなった。
気が付いた時、春樹は店の外で仰向けになって転がっていた。
自分でも一体何が起こったのか、よく理解出来ていない。
いつの間にか。その言葉がよく似合う現象であった。
「変身!」
『Here we go!』
起き上がって見えたのは、碧がリベードへと変身を遂げ、日菜太の方に向かって行く様だった。
変身したのはエグゼイドシェープ。日菜太と零号を分離するのに最適な形態である。
「ハァァァァッ!」
右手で店の外に出た彼にパンチを食らわせようとした。
だが手が日菜太の目の前で止まった。
リベードもまた、彼の目に映し出される異様な光景に釘付けになっていた。
それは青色の数字の束であった。いくつもの数字が縦横無尽に群を成して、人間の口の中にこれでもかと傾れ込んでいく。
「あ……あ……」
右手が下がり、突如として変身を解除した碧。
『おい! どうした!? 碧!』
グアルダの言葉などまるで聞いていない。
碧は後ろを向いた。
虚な表情を見せる彼女はいきなり隊員たちの方へと走り出し始めた。
「やめろ碧っ!」
春樹が横から碧に飛びかかる。一緒に地面に転がったところで、碧は正気に戻ったようだ。
「……? あれ? 私何して……え!? ちょっと春樹! 何で抱きついてるの!?」
「仕方ないだろ、非常事態なんだよっ!」
これが日菜太、というより彼の身体を借りている零号の真の能力。その恐ろしさに、春樹と碧は恐怖を覚えた。
「あぁもう! だったら私が行くしか無いわね!」
「花奈ちゃんでも!」
「分かってる! でもやるしかないのっ!」
ベルトを巻こうとする花奈を必死で止めようとするデネブ。だが彼女はデネブの静止を振り切り、ベルトを巻いてチケットを取り出した。
「変身!」
花奈が変身をしたゼロノス。ゼロガッシャー サーベルモードを組み立て、刃を横に振って日菜太の首を刎ねようとした。全員が躊躇をしている最終手段である。
刃が思いっきり宙を移動して、日菜太の首筋に向かっていった──
その時、
「!? ア゛ッ……! グア゛ァッ……!」
大剣が突如地面に落ち、ゼロノスがその場に倒れ込んで、元の花奈の姿に戻った。
胸を押さえて苦しむ彼女のベルトからはチケットが消え、手や首筋に緑色の線がまるで血管のように入っていく。
「花奈ちゃんっ!」
その光景に誰もが驚いたが、真っ先にデネブが彼女に駆け寄ろうとした。
「動くな」
日菜太が呟いた瞬間、その場の全員が一切動けなくなった。全力で身体に「動け」と念じようと、指一本として動くことは無い。
そんな中を、日菜太はゆっくりと歩いて行った。機動隊員たちの間を抜け、その後ろにいたあまねと岩田の前に立つ。
不味い。このままではあまねの身に危険が及ぶ。
全員が彼女を守ろうとするが、どうしようもない。
だが日菜太はあまねではなく、岩田の左肩に左手を乗せた。
「では。私はこれで」
ようやく身体が動かせるようになった。
隊員たちが振り返って銃口を向けるが、そこにいたのはあまねだけで、岩田と肝心の日菜太がいなくなっている。
辺りを見渡すが、二人の姿は一切見当たらない。
残された者たちは自分たちの相手をした者の恐ろしさを身に沁みて覚え、岩田のいた場所をじっと見つめていた。
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?????
「お帰りなさいませ」
「ただいま、アール」
アールが日菜太に対して一礼をする。
日菜太の格好は黒いジャンパーに黒いズボン。零号として現れた時と全く同じ格好である。暗い室内にその格好はよく溶け込み、さらに彼の白い髪の毛を美しく映させていた。
「お帰りなさいませ、ご主人様」
「ただいま、フロワ」
フロワも同じように彼に頭を下げる。
顔を上げた彼女の目は微笑みを向ける日菜太一点を見据えており、彼の顔を見るだけで徐々に頬が熱っていくような感覚に陥ってしまった。
そんな彼女の様子を見たピカロは、面白くなさそうにソファに寝転がって外方を向く。
「ほら、ピカロも挨拶しなさい」
「……」
フロワの呼びかけに応じない。
「……仕方ないわね。今そっち行くから」
ソファの方に行ってピカロの隣に座ったフロワは、彼に抱きついてそのまま動かなくなった。
その隙にアールは日菜太と話を始める。
「後は、
「えぇ。そのために
「そうですね──」
「後はお好きにどうぞ、
新型未確認生命体の残り総数
因みに皆さんは零号が誰だと予想していらっしゃいましたか?
感想にてお教えいただけると幸いです。
【参考】
東京の過去の天気 2022年3月 - goo天気
(https://weather.goo.ne.jp/past/662/20220300/)
盗聴は犯罪行為? 罪に問えるケースと慰謝料請求について解説
(https://okayama.vbest.jp/columns/general_civil/g_lp_indi/6724/)
Le Sacre du printemps / The Rite of Spring - Ballets Russes - YouTube
(https://www.youtube.com/watch?v=YOZmlYgYzG4)
もし碧が闇堕ちするとして、一体どんな髪型が良いですか?
-
ポニーテール
-
ボブカット
-
ストレートヘアー
-
ポニーテール(茶色以外の色)
-
ボブカット(茶髪以外の色)
-
ストレートヘアー(茶髪以外の色)
-
上記以外の髪型