燃え盛る研究所の中で男は呆然と立ち尽くしていた
ーねぇ、
その目前に立つ傷だらけの女性が口を開く
その体には所々から灰色の炎が上がっていた
ー私が、私でなくなったら……
弱々しく吐息をこぼしながら女性は微笑む
ーあなたが、私を殺してね
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2022年
ある研究が発表され世界がザワついていたのは記憶に新しい
生と死、その概念の固定化
プラズマ学などの研究からたどり着いたその研究成果により、人々の体の中には魂と呼べる概念結晶が見出された
白くゆらめく炎のようなそれは「アニマ」と名付けられた
生の概念があるのなら、死の概念ももちろん存在した
白いアニマに鏡合わせになる形で存在した黒いアニマ
人が死ぬその一瞬に顕在化する「死の概念結晶」
そこで研究者はある仮説にたどり着いた
『生の概念と死の概念。混ざり合わされば、生と死の概念境界を無くして永遠に生きることができるのではないか?』と
その研究の結果はー
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休日である故に多くの人に溢れ、楽しげに会話したりショッピングを楽しんでいた
そんな中突如大きな爆発が起き、人々が驚き立ち止まる
『ヒハハハハハハハハハハッ!!ショーウターーイム!!!』
爆発の中心部から爆煙を払い、異形が姿を現した
一人は抉れたカボチャに刺さった灰色の炎揺らめくロウソクのような装飾がついた大きな錫杖を手にしたスーツを纏う男のような異形
一人はどこかの令嬢を思わせる短いスカートドレスを着て全身にアクセサリーのように小さいキャンドル台を身につけた小柄な異形
一人は崩れた塔のような大柄な鎧に身を包む大筒じみた巨大な左腕を持つ背の高い異形
それぞれの異形たちは体のどこかしらにあるロウソクのような装飾や瞳の中に灰色の炎を揺らめかせていた
響き渡る悲鳴
逃げ出す人々を見渡し、肩を竦める異形が一人
『ダッサいヤツらばーっか。あたし好みの死ここにはいないじゃーん』
令嬢のような異形ージャクリーン・シャンデリアがそう呟き、退屈そうに髪のような装飾をいじいじと指に絡ませて体を揺らす
『……貴様の嗜好など知らん。ただ死を作ればいいだけだ』
大柄な異形ージャック・トーチはそう呟くと大筒型の左腕から灰色の火球をそこかしこに放ち始める
派手な音を響かせ、ショッピングモールが崩れていく
「きゃああああああああああああああ!!」
崩れた瓦礫の下敷きになる人々、爆発に巻き込まれる人々
さまざまな形で死に向かう人々が溢れ出していく
「……あ…死に……たく…ない…」
瓦礫の下敷きになった女性がか細い声を漏らす
『おんやぁぁ?』
そこをスーツ姿の異形ージャック・ランタンが覗き込む
目前に現れた異形に思わず「ひっ」と息を呑む
『素晴らしい!「死にたく無い」!そりゃ当然だ。いつまでも生きていたいのは人間の永遠の夢だ!!!』
天を仰ぎ、芝居がかった様子でランタンが立ち上がる
そしてぐりんッと首を後ろに回し女性を見下ろして微笑みを溢す
『だから、一足先にそれを叶えたワタシがその夢を叶えてあげまショウ、マドモアゼル♪』
踊るように振り返ったランタンが手にした錫杖をくるくると回しながら女性の鼻先に突きつける
ーバァン!!!
『Oh!?』
が、その肩口に銃弾が突き刺さりランタンが女性から離れながらよろめく
異形たちの目の前には深い青色のプロテクターを装備した特殊部隊のような集団が現れ、一同に銃を向けていた
その右肩のプロテクターには一様に棺桶のようなマークが刻印されている
『………
肩口を押さえわざとらしく痛がるランタンにトーチとシャンデリアが並び、部隊と相対する
その先頭に立つ硝煙のくすぶる小銃を構えた青年が異形たちを睨む
「ージョンドゥ、今度こそ貴様らを《埋葬》する!」
青年の言葉を号令とし、部隊が手にした小銃を乱射する
が、それはランタンが振り翳した錫杖から溢れ出した灰色の炎の障壁に全て弾かれる
「ーチッ‼︎」
『クヒヒヒ、キミたちも飽きないねぇ。そんな
芝居めかした仕草で肩を竦めるランタンを青年は再び睨む
『あーあ、興が冷めちった。シャンデリア、トーチ、帰ろうか』
「⁉︎ 待て!!」
『待たなーい♪んじゃ、サリュー♪』
トン、とランタンが錫杖で地面を突くと三人の異形の姿が陽炎に揺らめくかのようにして消失する
それを見た青年は一つ、大きな舌打ちをするとインカムに指を当てる
「こちら
通信を終えた青年ー
「ージョンドゥめ…‼︎」
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少女ー
どこに目を向けても人、人、人
さらに目につく建物も大きく高い
「な、なんてとこなの…い、息が詰まる…」
目を回しながらもなんとか人ゴミを掻き分け進んでいく
どうにか歩みを進めてきた輪音はふと、人の気配がほとんどしない場所に来ていることに気づく
街路樹の並木が続く道
木々の葉が日差しを遮り、柔らかな灯りに包まれた静かな場所
「……ここは?」
その場所の雰囲気を不思議に思いながらふと、街路樹の向こうに見えるものに気づき、少し心音が早まる
「お墓……」
街路樹と鉄柵を挟んだ向こうには花崗岩の白や灰色の墓標が並んでいた
霊園に続く道だったのか…と少し気味悪く思いながらふと、そのお墓の違和感に気づき、思わず柵に近づいてジッと見始める
そこに並ぶお墓たちは、何故か皆装飾が施されていたのだ
あのよく見る灰色の墓石、その周りにごちゃごちゃと花以外にも色んなものが並べられているのだ
あるお墓には色んなお菓子の袋が
あるお墓には様々な洋服やそれを着たマネキンが
あるお墓には超合金のロボットファギュアがたくさん
「な、何このお墓……」
思わず輪音は首を傾げる
海外のお墓にはこんな感じに飾り付ける文化があると聞いたことあるような気もするが、日本で、しかも全てのお墓がここまで飾り付けられているのは見たことも聞いたことも無かった
「気になる?ここのお墓」
あまりにも怪しい光景に首を捻っているとふと背後から声がかけられる
ビクッと肩を揺らしながら振り返った輪音の目前には不思議な雰囲気の女性がいた
高くも低くもない身長でタイトスカートに革のブーツ、ヘソを出した赤のキャミソールと扇状的な格好に黒いロングコートを着た女性だった
肩口をくすぐるくらいの長さの燻んだ灰色の髪に灰色の瞳がどこか人間ではないような雰囲気を感じさせる
女性は髪を少しかき上げ、右耳に付けられた炎の形をした紅いピアスを揺らすとこちらに歩み寄ってくる
「あ、あ、えっとその…⁉︎ わ、わたし…ただ、道に迷って…⁉︎」
お墓を覗いていたことを咎められる、と勘違いした輪音は泡を食って手を振るが、その肩を掴みながら顔を寄せた女性は形のいい唇に指を一本当てながら「しー……っ」と囁く
「大丈夫、怒りゃしないよ。私も、あいつも」
とそれだけ告げ、悪戯っぽく笑うと女性は輪音の手を掴みどこかへと引っ張っていく
一瞬、握られた女性の手がゾッとするほど冷たいことにぎょっとした輪音だが、すぐさま慌てて女性に引っ張られる形でついていく
「ほら、ここだよ」
連れてこられた先は墓地の中にぽつんと立つ小さな小屋だった
「え、えーっと……ここは?」
と振り返る輪音
だが、そこに先ほどまでの女性の姿はなく、ぽつんと墓地に一人取り残される
「……なんでこんなことに……」
涙目になりながらも帰る勇気も、というかそもそも帰り道がわからなくなっていたので小屋の扉に近づきノックする
「あ、あの〜……誰かいませんか?」
か細い声で尋ねる
しばらく静寂が広まり、耐えかねた輪音が離れようとした時にその扉がガチャリと開く
「はーい、どちらさま?」
そこから現れた人物を見て輪音は安堵し、同時に戦慄する
現れた青年は頬や服にべったりと真っ赤な液体が付着していたのだ
「…?キミはー」
「〜ッ!!!!」
青年の問いかけも終わらぬうちに輪音はスマホを取り出し、110番をコールして通報を始める
「ちょっ、待っー」
サイレンの音と共に急行した警察官たち
だが、青年の顔を見てからはぁとため息を吐く
「またキミか…困るよ何度も何度も」
「いやぁ、スイマセン……」
警察官と青年のやりとりを見た輪音は二人の顔を見比べ、目を白黒させる
「え、え⁉︎」
「キミは…彼とは初対面だね?びっくりしただろ」
呑気なことを言いながら警官が見知った風に青年の背中をバシンッと叩き、青年が咳き込む
「こいつはここらでは有名な変人なんだよ。まぁいいヤツだし、嫌われるようなヤツではないけど誤解されるようなことよく言うから見知らぬヤツには通報される時がたまにあるんだよ」
「こほっ、こほっ……そのおかげで
「警察が犯罪者でもないヤツの顔を覚えるなんてよっぽどなんだぞお前…少しはフツーに暮らしてみたらどうだ?」
「善処しますよ…」
やりとりを聞いていると、どうやら青年は悪い人ではないらしいと察した輪音はほぅ、と安堵の息を零す
手を振りながら去っていく淡島を見送り、青年が頰についた赤い液体を拭う
「これ、油絵具。ちょいと仕上げなきゃならない作品があってついつい夢中になっちゃってね」
とはにかみながら青年がこちらに向き直る
「あ、そうだったんですね…」
「悪いね、怖がらせちゃって。でも来客とか予約客とかではないだろうし…そんな子がここにどうしてー」
と、青年の瞳がスッと鋭くなる
「ーお前か、キャンドル」
少し低くなった声で凄みながら小屋の側の木陰を睨む
と、堪えきれなくなったかのような笑いが聞こえてくる
木に寄りかかっていたのは、輪音をここまで引っ張ってきたあの黒コートの女性だった。悪戯っぽく腹を抱えて大笑いしている
「ハハハッ、さっきの驚きよう。偶然だったとはいえ面白いじゃないか。退屈がいい具合に紛れたよ」
「妙な真似はやめろって言っただろ」
「退屈な日常が悪いんだ、仕方ないだろう。そこまで言うならー」
カツ、カツとブーツを鳴らしながらキャンドルと呼ばれた女性が青年に歩み寄り、艶っぽい仕草でその頬を撫でる
「ー今すぐ私の退屈を、お前が晴らしてくれればいいだろう?
十三と呼ばれた青年はその手を強く払い除ける
「その顔で……俺の名前を呼ぶなとも言ったはずだ…‼︎」
突然の剣幕にオロオロと狼狽える輪音を背景にキャンドルはフフッ、と妖艶に微笑む
「まぁ、期待しないで待っておくよ。《レクイエム》」
ヒラヒラと手を振りながらキャンドルは何処かへと去っていく
しばらくその背を睨んでいた十三
「……ごめん、びっくりさせちゃったかな?」
「いえ…あの、さっきの人は…?」
「何でもないよ。ただの居候みたいなものだ」
十三はそう返答する
その顔はどこか寂しそうな、後悔しているような顔をしていた
「……ところで、キミはどうしてここに?」
十三が輪音に問うてきて輪音がハッ、と肩を揺らす
「じ、実はここに越してきたのですが…道に迷ってしまいまして…」
申し訳無さそうに告げる輪音
それを見た十三は少し不思議そうな顔をしていたが、微笑みを浮かべる
「この辺りは迷いやすいからね。送っていくよ」
「い、いえ!?そんなことまでしてもらうわけには…」
「驚かせちゃったお詫びと思ってくれ。俺は十三、
「あ、えっと…十 輪音と言います!さっきはすみませんでした…」
互いに名乗った二人は十三の道案内に従って墓地を後にした
墓標の側に立てられた風車が一つ、くるくる回っていた
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
警察官・淡島はパトカーに乗り十三の管理する墓地から帰っていた
「十三のヤツ、いいヤツなんだが誤解されやすいのはホント損してるよなぁ…」
はぁとため息を零す
なんだかんだ付き合いの長い淡島は度々こうして誤解される十三を気にかけている一人だった
十三のことを人のいいヤツとは言うが、彼もまたお人好しなのだ
日も翳る夕暮れ時、人通りの少ない薄暗い道を行くパトカー
その前に小さな黒い影が飛び出してきたのを淡島は目撃する
「なー」
パトカーの前に飛び出したのは小さな黒猫だった
「ーチクショウッ!?」
淡島は慌ててハンドルをきる
それが不味かった
ハンドルをきり、バランスを崩した車体は電柱に激突。運転席に大きな衝撃と砕けたフロントガラスが襲いかかる
しばらくして目を覚ました淡島は薄れゆく意識の中で車の外を駆けていく黒猫を見る
(あぁ…無事だったんだな…よかったよかった)
ピーポーピーポーと救急車のサイレンが響く
ざわざわとまばらなざわつきも、微かながら聞こえる
(ドジっちまったな……あいつのこと、俺も言えねぇや…)
朦朧とする意識の中で腐れ縁の十三のことを思い出し、自嘲気味に笑う
その脳裏に、愛する妻と娘の顔がよぎる
(……
手放しかけた意識の中で愛しい家族の名前を反復する
(……死にたく、ねぇなぁ……)
『おや?おやおやぁ?』
半壊したパトカーのボンネットの上に現れたスーツ姿の異形が身をかがめ、運転席で正に死に瀕している淡島を愉快そうに覗き込む
突如現れた怪人に周囲の野次馬が悲鳴を上げ、散り散りになっていく
『死にたくない、アナタ今、死にたくないと思いましたね?』
答える力のない淡島を放置し、異形ージャック・ランタンが愉快そうに含み笑いを漏らす
『クフフ…‼︎ アナタはとても運がいい。ワタシには、アナタを「死なせない」ようにできるのだからぁ♪』
ランタンはピン、と指で残ったフロントガラスを弾く
その一撃でフロントガラスは残らず吹き飛び、淡島とランタンを遮るものがなくなる
『ーイッツ・ショウターーーーーイム♪』
ランタンは手にした錫杖を振り、淡島をトンと杖先で叩く
それに合わせて淡島の体から黒い炎と白い炎が飛び出す
ぐるぐるとかき混ぜるようにランタンが錫杖を回すと二つの炎は混じり合い、灰色の炎を形成する
灰色の炎は淡島ごとパトカーを包み、大きな炎を挙げて燃え上がり、その形を徐々に収束させていく
【あ、ぁああぁ……】
収束した炎の中から現れたのは異形の怪人だった
人間の骨格を筋肉のように赤い蝋が覆い、体の各部にはパトカーのパーツがバラバラに組み込まれており、右腕先はボール状になって砕けたガラス片が無造作に突き刺さっている
頭部である骸骨の中では灰色の炎がゆらめき、眼窩からは赤い蝋が滴り続けていた
『ハロー、トラフィック・ノーワン♪いい体に生まれ変わったじゃないかぁ!!キミもその方がイケメンだよクフフフフ♪』
【ぁあ、あぁあぁぁぁぁぁ……‼︎】
淡島だった怪人ートラフィック・ノーワンは苦しむように頭を抱え呻くと、肥大化した右腕を振り回し、逃げ遅れた野次馬を一人叩き潰した
ーきゃぁあぁぁあぁあああ!!!
それを皮切りにまばらな人混みにパニックが伝染していく
トラフィック・ノーワンは雄叫びを上げると無差別に辺りの人々を叩き潰していく
叩き潰された人々の血は蝋へと変質
そこからごぼり、と蝋を人型に固めたような怪人が起き上がり、ゾンビのようにうめき声を漏らす
それを見たランタンは帽子を押さえながら踊るように回り、笑う
『クヒヒヒヒヒヒ♪いいよ、いいよぉ。その調子でじゃんじゃんローワンを生み出しちゃってよ!それがキミの苦しみと渇きを癒す方法なんだもんねぇ!!』
『約束が違う?オイオイ契約文は最後まで読みたまえよ。ワタシは死なせないし生きれない体にしてあげると契約したんだよぉ?』
ランタンが無邪気に、悪辣に微笑む
『ーまぁ、全文は読まなかったけどさァ♪クヒヒヒハハハッ♪』
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「存外近くに住んでたんだ、輪音さん」
「私も驚きました…まさかこんなに新居が近かったなんて…」
輪音に新居の住所を教えられて十三が案内した先は十三たちのいた墓地からかなり近いマンションだった
二人並んで歩きながら輪音が口を開く
「……十三さんは、あの墓地の管理人さん…なんですか?」
「ん、まぁそうだね。墓守ってヤツ。亡くなった人の埋葬と警備・管理をしてる感じ。儲かる仕事じゃないからバイトとかもしてるけどね」
頬をかきながら十三が答える
「あのお墓…なんであんなに飾り付けられてるんですか?」
「…あれはまぁ、死んだ人が忘れられないように、向こうで笑っていられるようにって思ってるから、かな。遺族に飾ってもらったり、俺が飾ったり、管理は毎日欠かさずしてる」
十三はその表情を曇らせる
「輪音さん…人はいつ、死ぬと思う?」
「?……死んだ時じゃないんですか?」
「それは、一度目の…生物的な死だ。その人の物語が終わる瞬間みたいなもの」
十三は首から下げたペンダントを掌に乗せ、それを握る
どこか悲しそうな、それでいて決意を感じる不思議な表情だった
「ー人は、忘れられたら本当に死ぬ。全くの無になってしまう」
「だから俺は、死を弔うと共に二度と死なさない為に墓守を続けてるんだ」
十三はそう言って微笑んだ
「ーカッコつけてるとこ悪いけど」
突然、キャンドルの声が響きビクッと輪音が道路の方を見る
そこには奇妙な形状のバイクが停車しており、そのシートにキャンドルが腰掛けていた
(いつの間に…⁉︎)
キャンドルは右耳のピアスを指で弾いて鳴らしながら十三に告げる
「ヤツらが出たよ。すぐそこの道路で暴れてる」
(ヤツら…?)
その言葉を聞いて十三は真剣な表情になる
それを見たキャンドルはフッと微笑み、その胸に何やら複雑な機構のデバイスのようなものを渡す
「さぁ、行くといい《死神》」
「ー言われなくても、それが俺の仕事だ」
バイクからヘルメットを取り出し装着した十三は停めてあったバイクにまたがる
「すまない、輪音さん。急用ができた。あとはその道をまっすぐ行けば辿り着くはずだから」
「は、はい!ありがとうございました!」
ぺこり、と頭を下げる輪音に手を振り、十三はバイクを走らせていく
取り残された輪音の肩に手を置き、キャンドルが囁く
「気になるのか?あいつのことが」
悪戯っぽく囁くその言葉に輪音はすぐに頷けなかった
その反応を見たキャンドルは有無を言わさず輪音を持ち上げ、お姫様抱っこの形で抱き上げる
「ふぇっ!?えっ!?」
「残念、時間切れだ」
トン、と軽く地面を蹴るとキャンドルの体が高く跳び上がり、近くの民家の屋根に着地する
「さぁ、愉快なショーの時間だ。いつも一人で観戦するのも飽きていたところだから、今夜は付き合いたまえ」
月下の妖艶な怪人は、悪魔のように微笑んだ
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
【ぁあぁぁあぁあぁぁぁぁ!!!】
トラフィック・ノーワンはもはや意志の欠片も感じない咆哮を上げながら辺りを破壊し、見かけた人間を見境なく潰していく
ーニィ……
廃墟と化していく街並の中、小さな黒猫が声を上げてしまう
トラフィック・ノーワンは空っぽになった眼窩から揺らめかせる灰色の炎でその猫を見つけ、それを見下ろす
そして、肥大化した右腕が振り上げられー
ーブゥンッ!!
振り下ろされる寸前で怪人の体は大きく吹き飛ばされた
大型バイクがその巨体を吹き飛ばしたのだ
バイクから降り、ヘルメットを脱いだ人物は側の黒猫を掴み上げ逃す
【ぁあ……ぁぁぁぁぁあぁぁぁぁ……】
トラフィック・ノーワンの前に青年ー平坂 十三が立ちはだかる
「苦しいだろう。待ってな」
十三はキャンドルから渡された機構を取り出し、腰に当てる
ベルトが出現し、機構をバックルとしたメカニカルなベルトがその腰に装着される
《デスサイズドライバー・ギロチン》
トラフィック・ノーワンを睨みながら十三はその手に一枚のカード型のデバイスーアニマ・アルカナを取り出し、その下部のボタンに親指を押し付ける
《サーティーン:デス》
押し付けられた親指から十三の心電図を読み取ったアニマ・アルカナの黒い表面に心電図が脈を打ち始める
それをくるりと上下反転させ、デスサイズドライバーのバックルに装填、そのまま右手を体の左側に伸ばしサムズアップを作ってそれを下に向ける
【ぁあぁぁぁぁぁあ…‼︎】
トラフィック・ノーワンが迫り来るが、その突撃はドライバーから噴出した黒い炎で遮られる
十三はその腕をまるで自身の首を刎ねるように、十字を切る神父のように、スッと横に引く
「変身」
《エクスキューション・アップ》
十三の親指がそのまま下され、ドライバーのレバーを下げる
同時にバックルに装飾されたギロチンが落下、アニマ・アルカナに描かれた心電図を断ち切る
それと共に十三の首を固定するギロチン台のようなものが出現し、無慈悲にその首に下ろされる
ーガシャンッ!!!
派手な音と共に十三の首と胴体が分離、転げ落ちた首を十三はサッカーボールのように脚でキャッチする
切り離された断面から広がる黒い炎が残された胴体を包み込む
【ぁあぁぁぁぁ!!!】
トラフィック・ノーワンの巨腕が燃え上がる体に襲いかかる
が、それは燃え盛る左手に止められた
そこから炎が徐々に晴れていき、その下から黒いスーツの上にコートを纏い、プロテクターを装着したような姿が露わになっていく
「ハッ!!」
頭部を無くした胴体は鋭い蹴りを放ち、トラフィック・ノーワンを吹き飛ばす
同時に蹴り上げた頭部だったものもまた炎に包まれており、それを右手でキャッチし、あるべき場所にそれを乗せ、ヘルメットのバイザーを下ろすようになぞると共に骸骨を模したヘルメット状の「仮面」が現れ、右目を隠すようにギロチンの刃のようなバイザーが降りる
《リバース・デス》
そこに現れたのは夜闇を溶かし込んだような漆黒の怪人
蝋と骨でできたノーワンとは違う
灰色の炎を揺らめかせるジョンドゥたちとも違う
純然たる「黒」を纏う怪人が首から漏れた黒い炎をマフラー代わりにたなびかせ、立っていた
ドライバーのカードは旗を持つ死神のようなイラストを表示している
十三だった怪人はトラフィック・ノーワンを指差し告げる
「ー灰色の生も、死も、ここで終わりだ」
「さぁ、白黒きっちりつけようか」
【ぁあぁぁぁぁぁあ!!!】
トラフィック・ノーワンが雄叫びを上げる
それに触発されたのか、辺りを彷徨っていたローワンたちが一斉に怪人に襲いかかる
怪人はドライバーのレバーを一回下ろす
《スリー:カウントダウン》
それと共に怪人の腕や脚に刃のように研ぎ澄まされた黒い炎が纏われる
一つ、近づいてきたローワンに撃ち込まれた拳が斬り裂き
二つ、次のローワンをハイキックが引き裂き
三つ、最後に纏めてきた数体のローワンを踊るような回し蹴りが両断していく
数いたローワンたちは難なく怪人に切り裂かれ、黒い炎に焼かれて灰になっていく
「こいつは後が大変だな」
【ぁあぁぁぁぁぁあ!!!】
ふぅ、と一息つく怪人に迫る巨腕
黒炎の刃がそれを防ぐ
【ぁあぁぁぁぁ…‼︎】
「慌てんな。すぐに眠らせてやる!」
ギィンッと腕刃を弾き、巨腕を吹き飛ばした怪人は返す刀でトラフィック・ノーワンの胸に蹴りを撃ち込み吹き飛ばす
トラフィック・ノーワンは力任せに両腕を振り回しながら怪人に襲いかかるが、怪人はそれをいなしながらドライバーのレバーを押し込んでいく
《スリー》
《ツー》
渾身のアームハンマーを怪人は受け止め、真正面からトラフィック・ノーワンの顔を、赤い蝋を流す空っぽの眼窩を見据える
「憎らしいだろう、恨めしいだろう、許せないだろう」
「ーそれでいい。お前の「黒い」モノは全部俺が引き受ける」
「ー俺が、お前を覚えて生きていく」
《ワン:カウントアップ》
怪人がトラフィック・ノーワンの腕を弾き上げると共にトラフィック・ノーワンの首にギロチンの固定具が嵌められ、そこから断頭台が伸びていき、その地に向かう端が路面に突き刺さり固定される
身を翻した怪人が天に伸びる断頭台の端に飛び乗り、自身の右脚を断頭台へ嵌め込む
脚のプロテクターが展開し、ギロチンの刃へと変貌する
「ー俺の名はレクイエム」
「ーお前の最期を、まっさらに染め直す「鎮魂歌」だ」
《ラスト・エクスキューション》
刃と化した怪人が断頭台を滑走、そのままトラフィック・ノーワンの首を切り落とし、路面を抉って着地する
倒れふすトラフィック・ノーワンはぼろぼろと崩れ、灰の山に変貌する
そしてその灰の山から黒と白の炎が飛び出し、白の炎が人影を形作る
「淡島さん…⁉︎」
変身した姿のまま、十三が驚愕の声を漏らす
ゆらゆらと陽炎のような状態で遺る淡島の意志はその声を聞いて同じく驚く
『お前……十三か⁉︎なんだその格好…』
驚いていた淡島だが、自分の手や体を見て得心がいったような顔を見せた
『そうか…俺は死んで…怪物になって……』
もう一度十三を見据え、淡島は力無く微笑む
『……お前が、終わらせてくれたんだな…』
「………」
十三は力無く頷く
『……ありがとう、十三』
「……淡島さん。何か遺すことは、遺したい言葉はないか?」
十三の問いに淡島はバツの悪そうに微笑む
『妻と娘に、すまないとだけ伝えてくれ』
そうとだけ告げると淡島だった白い炎ーアニマは空気に溶けるように崩れ、残った黒いアニマは地へと帰っていった
十三はどこからか手のひらに収まるサイズの立方体型のツボを取り出し、その蓋を開けて淡島だった灰の山に向ける
残った遺灰はツボの中に吸い込まれ、全ての遺灰を吸い込んだことを確認した十三は丁寧に蓋をする
「淡島
そうとだけ告げた十三は、ツボをベルトサイドのケースに大事にしまった
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
その戦いを、輪音は隣に座るキャンドルと共に近くの民家の屋根から見ていた
驚くことも忘れて見入っていた
「アレがアイツだよ。子猫ちゃん」
キャンドルが愉快そうに微笑みながら告げる
「ノーワンを殺す《死神》であり、迷える存在を送る《
「ーそして、自分の想いも弱さも甘さも、全部仮面に隠したと思い込んでいる《ヒーロー》さま」
愉快そうに、だのにどこかつまらなそうにキャンドルがその名を告げる
「それが平坂 十三。《仮面ライダーレクイエム》さ」
「仮面……ライダー……」
告げられた言葉がうまく飲み込めず、輪音はその名を繰り返すことしかできなかった
ノーワンを葬る仮面ライダー
ノーワンを埋葬する埋葬部隊
両者の平行線な正義は衝突し、死を巡り回り出す
その運命は日常に戻ったはずの輪音をも歯車にする
次回 仮面ライダーレクイエム
「10の正位置:鎮魂歌の意味」