仮面ライダーレクイエム   作:リョウギ

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第10話「12の正位置:グレイトフル・ワンナイト」

銃口を向けるムエルトをレクイエムが睨む

 

【ぐうッ、うううッ!!!】

 

その後ろで立ち上がったエレクトリック・ノーワンが逃走する

 

「!?待て!!!」

 

追おうとしたレクイエムをムエルトが押さえる

 

『行かせねぇよ先輩ッ!!』

 

「お前…⁉︎何をしてるかわかってるのか⁉︎」

 

レクイエムの怒声を受け止めたムエルトが口を開く

 

 

『ああ、わかってらぁよ。体験済だかんなぁ』

 

 

「……なんだと…⁉︎」

 

突如ムエルトが力を抜き、レクイエムの手を離す

いきなり解放されつんのめるレクイエムの前でムエルトは変身を解く

 

元の姿に戻った(のぞみ)がマスクを脱ぎ、素顔を見せる

 

「私たちからの誠意」

「……は?」

 

呆けた声を漏らすレクイエムに希が手にしたアニマアルカナの顔がハァ、とため息を吐く

 

『顔バレしてやったんだ。それが誠意だよ』

「誠意…?なんのために?」

 

(のぞみ)が口元をアニマアルカナで隠しながら告げる

 

「私たち兄妹と共犯者は、あなたと敵対しない証明」

『約束反故にしたら、いつでも黙らせられるようにってな』

 

「………」

 

レクイエムはその言葉を聞くと、彼らと同様にアニマアルカナを取り外して変身を解除する

 

『あ…?なんでお前さんまで?』

 

十三(じゅうぞう)が嘆息しながら答える

 

「俺もお前たちと事を交える前提の話はしたくないから、だ。少なくともキミらの目的はわからなくとも、埋葬部隊ほど話のわからない連中じゃないことはわかる」

 

『……いいのかよ?』

 

「いいさ。わざわざ顔見せまでしてくるバカ正直な連中をいきなり敵視するほど俺も血の気があるワケじゃない」

 

そう言いながらも十三(じゅうぞう)(のぞみ)の腰に収まるデスサイズドライバー・ガロットを見て少し目を伏せる

 

「……まぁ、聞きたいことは山ほどあるが、な」

 

十三(じゅうぞう)の言葉を聞いた(いずみ)が愉快そうに笑う

 

『ガッハッハ‼︎ なるほどな、いい性格してやがる‼︎』

 

 

薄暗い部屋の扉が開けられ、1人の人物が部屋に入ってくる

 

「中々味なことをしてくれるじゃないか、どこの誰かは知らんが」

 

部屋に入り込んだキャンドルは人間体の炎蝶を羽ばたかせて構え、薄暗い部屋の真ん中に座る人物を見据える

 

その人物の前にはパソコン。ディスプレイの明かりが部屋を照らしており、画面には暗くなった画面とヒートアップしているコメント欄が見える

 

パソコン前の人物はシュー……と呼吸音を漏らしながら立ち上がって振り返る

ガスマスクに覆われた不審なその顔を見たキャンドルは片眉を上げる

 

 

『……大分印象変わりましたね。誘波(いざなみ)博士』

 

 

ガスマスクの男ースカルはシュー…と呼吸音を漏らしながらキャンドルに軽く頭を下げ、会釈をした

 

それを見たキャンドルは訝しむ顔を見せながら首を傾げた

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

逃走したエレクトリック・ノーワンは高架下に逃げ込み、人間体ー綺羅星(きらほし) ヒカリの姿に戻ると苛立たし気に壁を殴りつける

 

「クソッ‼︎逃した…あの男も、殺さなきゃいけないのに…‼︎仮面ライダー、仮面ライダー…‼︎邪魔ばかりしてきて…‼︎」

 

髪を掻きむしる中、髪飾りが解けて落ち、ツインテールになっていた髪型が下ろされる

 

 

「メッキ剥がれてるわよ。エレクトリック」

 

 

くすくすと響く笑い声を聞いた「ヒカリ」が顔を上げる

 

現れていたのはゴシックドレスを纏う少女ーシャンデリアだった

 

灰色の瞳を煌めかせながら歩み寄ってきたシャンデリアは「ヒカリ」の顔を撫でて笑う

 

「今あんたは『綺羅星(きらほし) ヒカリ』でしょう?綺羅星(きらほし)ヒカリは、そんなコト言うのかしら…?」

 

悪戯っぽくシャンデリアが告げる

それを黙って聞き入れたシャンデリアは髪飾りを拾い、髪を束ねはじめる

 

「……言わない。ヒカリは…『ヒカリ』は、最高に輝く一等星だから。『私』みたいに、モノにあたらないから…‼︎」

 

髪を再びツインテールにセットし、弾けんばかりの笑顔と共に顔を上げてそう答えた『綺羅星(きらほし) ヒカリ』を見てシャンデリアは恍惚とした笑みを浮かべる

 

 

「そうよ。それでいいの。あんた、最高にクールで面白いわぁ」

 

 

シャンデリアは自分もろともヒカリを灰色の炎に包み込み、その姿を消し去った

 

 

十三(じゅうぞう)(のぞみ)の案内に従い、八七(やしち)兄妹が住む部屋に来ていた

 

薄暗いリビングに電気をつけると、そこにいた人物ともう一人見慣れた顔を見て十三(じゅうぞう)が眉を寄せる

 

「キャンドル、お前…」

「やぁ、十三(じゅうぞう)。奇遇だな」

 

キャンドルがニヤニヤと悪戯っぽく笑う

 

その対面のソファに腰を下ろしたガスマスクの人物も十三(じゅうぞう)に視線を向ける

 

『まさかいきなりここまでのコンタクトに応じてくれるなんてな』

 

「……あんたは、誰だ?」

 

ガスマスク男ースカルはシュー、と呼吸音を漏らしながら答える

 

『オレはスカル。そこの兄妹の共犯者…だけだと誠意もクソもないな。うん』

 

スカルは十三(じゅうぞう)の方に顔を向けたままガスマスクに手をかける

 

 

『本名は……十二川(とにがわ) 雄也(ゆうや)、らしい。情けねぇ話だ。オレがオレの名前に、「らしい」なんて付けにゃならんとはな』

 

 

スカルがガスマスクをめくり、素顔を見せる

十三(じゅうぞう)は思わず一歩退いていた

 

ガスマスクの下にあったのは、醜く焼け爛れた黒焦げの顔

かろうじて目と鼻の穴と、焼きついた皮膚を切り開いて無理やり開けるようにした口が彼を人間だと証明していた

 

「……な。ひでぇ顔、だろ?どうにももう、治せねぇがな」

 

スカルのしゃがれた「肉声」が響く

ガスマスク故の歪んだ声だと思われていたそれが、彼の「地声」でもあったことが嫌でもわかった

 

ガスマスクを元に戻すスカルを眺めていた十三(じゅうぞう)が何かを思い出し口を開いた

 

十二川(とにがわ)…?まさか、あの十二川(とにがわ) 雄也(ゆうや)…なのか⁉︎」

『……なるほど、あんたも忘れないでいてくれる側なんだな』

 

スカルが自嘲気味に笑う

対面のキャンドルが代わって口を開く

 

十二川(とにがわ) 雄也(ゆうや)誘波(いざなみ) 六美(むつみ)の研究チームの一人としてアニマ研究に着手していた男。まぁ、末端も末端だったようだがな」

 

キャンドルの言葉は正解だった

六美(むつみ)に会いに行く際に度々挨拶や談笑をしていたことも十三(じゅうぞう)はしっかり覚えていた

 

「なんでそんな…十二川(とにがわ)くんが…」

 

十三(じゅうぞう)は驚きながらもスカルに促され、キャンドルの隣に腰掛ける

(のぞみ)(いずみ)の声が響くアニマアルカナをスマホスタンドに立てかけ、机の上に置いてスカルの隣に座る

 

「…スカルのこと、知ってくれてる人なんだ」

『ああ、そうらしいな』

 

(のぞみ)の言葉にスカルは頷き、ガスマスク越しに頬をかく

 

 

『………正直、涙が出るほど嬉しいよ』

 

 

スカルの言葉を聞いて十三(じゅうぞう)は毒気を抜かれ、肩の力を抜く

キャンドルも見定めるような目を緩め、少し頬を緩めて頬杖をついていた

 

『あぁ、悪い。待たせてしまったな』

「構わないよ俺は。とにかく、事情は聞かせて欲しいけど」

 

スカルはコホンと咳払いをして話始める

 

 

『まぁまずは、オレの方の話だが。オレは半年前のあの事件の時に零楼院(れいろういん) 咲也(さくや)…今はジャック・ランタンだったか?あいつの灰色のアニマの炎に、顔を焼かれた』

 

火傷が疼くのか、重々しく告げたスカルがガスマスクに爪を立てる

 

『ヤツ曰く、「実験」だとさ。他人のアニマに干渉する力を手に入れた自分が、どれくらい干渉ができるのかの』

「実験……」

 

スカルの告げたランタンの言葉を聞いた十三(じゅうぞう)が拳を握る

 

『その結果オレは、生きてはいても誰の記憶にも残ってない男になったワケだ。オレ自身の記憶にも…』

「……どういうことだ?」

 

スカルが顔を少し俯ける

 

『手元に焼け残ってた職員証でオレの名前を知った時、色々混乱したがすぐに結論に辿り着いたよ』

 

 

『顔を焼かれたオレは、「オレという表層記録」がアニマの薄皮と一緒に燃え落ちて消滅したんだ、ってな。研究も、学んだことも、もちろんメシの食い方も歩き方も知り合いや家族の顔も解る。なのに、「オレ」のことだけどれだけ頭を抱えても、オレ自身も思い出せない。まいったもんだ』

 

 

十三(じゅうぞう)はその言葉に思わず唇を噛み締める

自嘲気味に笑い、スカルは額に手を当てる

 

『こうなってから家族にも会いにいって、それとなく「一人息子」の話を聞こうとした。これが傑作でな』

 

スカルはより深く顔を俯け、シュー…と息を漏らす

 

 

『「うちには息子なんていませんけど」だとよ。まぁオレ自身、家と家族との思い出が思い出せねぇからそこまで悲しまなくて済んだのはありがたかったがな』

 

 

そう語るスカルを十三(じゅうぞう)はただ見つめることしかできなかった

 

『まぁそこから、オレはこの計画を始めていた。オレなりの復讐の計画ってヤツを…な』

 

スカルが隣の(のぞみ)に視線を送ると、(のぞみ)はギターケースを開いてデスサイズドライバー・ガロットを取り出す

 

シュー……とスカルが呼吸音を漏らす

 

 

咲也(さくや)…ランタンが、「実験」を繰り返すなら、それを悉く失敗させてやる。ヤツが生み出したノーワンを死に戻して、オレのようになるヤツらを忘れられなくしてやろうってな』

 

 

コンコン、とデスサイズドライバー・ガロットを指で叩きながらスカルはそう告げ、ばつの悪そうに隣の兄妹を見やる

 

『……まぁ、オレのダチとその妹を巻き込んで、尊敬してた博士の研究を横から掻っ攫ってやっとだがな…しかも、仮面ライダーの先輩までいる始末だし』

 

スカルは十三(じゅうぞう)の顔を懐かしむように見る

 

『それがキミだってのも、納得しかない話だ』

「俺は……偶然選ばれただけだよ……」

 

スカルの隣で話を聞いていた(のぞみ)が身を乗り出す

 

「巻き込まれてない。私たちも…復讐鬼だから」

(のぞみ)、お前…それはー』

『ー言いっこ無しってのはお前の方もそうだぞスカル』

 

言いかけた言葉を泉に遮られ、スカルが頬を掻きながら引っ込む

 

『さて、スカルが腹割ったワケだし今度はオレらだなぁ』

 

(いずみ)が口を開き、(のぞみ)が頷く

 

「正直、私が一番興味があるのはお前だ。なんだその状態は?六美(むつみ)の記憶でも、そんな事例は見たことが無い」

「…キャンドルと珍しく同意見だ。えっと…」

『オレは八七(やしち) (いずみ)だ』

「ー(いずみ)くんがそんな状態になってる経緯はなんなんだ…?」

 

十三(じゅうぞう)とキャンドルの言葉に(いずみ)が笑う

 

『まぁ、簡単に言えば死に損なったのさ。混ざり損ねた、ともいうかもだがなぁ』

 

 

『オレたち兄妹は早くに親亡くして風都って街の施設で育ったのさ。こことはちょっと離れた場所だが、いい風の吹く居心地のいい街だった』

 

(ひつぎ)(みや)出身じゃなかったのか…」

 

『半年前に越してきたのよ。オレの働き口が見つかって、でも本社が風都の外って話だから単身赴任しようとしたらキー子が泣きついて来ちまってなぁ』

 

(いずみ)の声の響くアニマアルカナを持ち上げ、希が抱きしめる

 

「…セン兄と離れたくないもん…」

『…ありがとよ、キー子』

 

(いずみ)の言葉を継いで今度は(のぞみ)が口を開く

 

「結局、私もこの街の高校を受験して合格したから、2人でこの街に引っ越そうってなって。引っ越しも終わって落ち着いた時に…」

 

アニマアルカナを強く握りしめながら(のぞみ)が告げる

 

 

「ーセン兄が、バケモノに殺された」

 

 

「なー」

「…ほう?」

 

十三(じゅうぞう)が驚愕に口を開き、キャンドルが愉快そうに笑う

俯き言葉を詰まらせた(のぞみ)を見て(いずみ)が代わる

 

『全身にナイフをくっつけたやべー見た目のヤツだったのは覚えてる。オレは斬られて死んで、目の前でそいつはキー子に刃を向けやがった』

 

『オレは無我夢中だったよ。死んでんじゃねぇ‼︎動け‼︎動け‼︎って』

 

 

『ーそしたらまぁ不思議なことに、オレの体が灰色の炎に包まれてバケモノみたいになって立ち上がれたのさ』

 

 

(いずみ)の告げた話に十三(じゅうぞう)が目を見開く

 

「まさか…ノーワンになったのか…⁉︎ジョンドゥにアニマをいじられることなく!?」

『わからん。まぁ奇跡でも起きたんだろうよ』

「バカな…そんなことが…」

『……まぁその、こういうめちゃくちゃなヤツなんだよ、コイツ』

 

思い思いに驚く十三(じゅうぞう)とキャンドルにスカルが頭を下げ、(いずみ)が豪快に笑う

 

『そのナイフ野郎をキー子から引き剥がして、右肩をぶん殴って吹き飛ばしてやったらそいつは逃げてキー子は助かったワケだ。まぁ…オレの体はそのまま崩れちまったがな』

 

フン、とキャンドルが声を漏らす

 

「…恐らく強引なノーワン化の副作用だろうよ。完全に混ざってない生のアニマと黒のアニマが自壊して死んだ。そんなところだろうよ」

『すげぇな。スカルが言ったまんまだ。マジだったんだなぁアレ』

 

ハハッと笑う(いずみ)が続ける

 

『そのあとは、オレが消えてキー子がパニックになってどこかに行っちまって、オレは何故かそこに居残ったまま動けない、キー子や周りのヤツに声も届かなくなっちまった』

 

シュー……とスカルが呼吸音と共に告げる

 

『その(いずみ)を、オレが拾ったのさ。黒のアニマに意識だけ残留した状態のこいつを、手持ちのプロトアニマアルカナにインプットすることでな』

 

スカルが(いずみ)のアニマアルカナを指で弾く

 

「黒のアニマに意識だけ残ってた…?そんなことが…」

『まぁ、こればかりはマジで奇跡だろうよ。それ以外はわからなすぎるしな』

 

アニマアルカナを握ったままの(のぞみ)がゆっくりと口を開く

 

「セン兄が、目の前で炎に包まれたまま立ち上がって、そのまま崩れていなくなって、どうしていいかわからなくて風都の友達や施設の先生に電話したの…セン兄のケータイも、使って……」

 

少女の声は無機質な雰囲気から弱々しく、不安定なものになる

ぽろぽろ、と溢れた雫が手元のアニマアルカナの表面を濡らす

 

 

「……みんな、みんな…セン兄のこと…知らないって……覚えてないって……私は、私は…昔から一人っ子だったって……」

 

 

ほとんど表情を変えていなかった八七(やしち) (のぞみ)が表情を崩し、泣きじゃくりながら告げる

 

「セン兄が…本当はいなかったかもって……思っちゃった……そんな、そんな私が……いやで、どうしようも……なくて……ッ」

 

涙を拭いながら一回り小さく見えた少女がスカルを見る

 

「スカルが、セン兄を助けてくれて連れてきてくれて……セン兄はまだ、いなくなってなかった……って…」

 

震える少女の背を支え、スカルがさする

 

『しばらくはオレのこと離してくれなかったよ。そうなっても仕方ねぇことだがな』

 

2人の顔を見た十三(じゅうぞう)が重い口を開く

 

「キミらが言っていた『復讐』ってのは、そのナイフのノーワンに対する復讐、なのか?」

『まぁ、半分正解だよ』

「半分?」

『スカル、アレ手に入れてくれたか?』

 

(いずみ)の問いにスカルが答える

 

『さっきの今で無茶言うよ全く。まぁ、それでも用意するのがオレの仕事なんだがな』

 

取り出したのは2枚のチケット。それをスカルは十三(じゅうぞう)とキャンドルに差し出す

 

「これは…綺羅星(きらほし) ヒカリのライブ?」

 

チケットの正体は明日開かれる綺羅星(きらほし) ヒカリのライブのチケットだった

 

 

『悪いが、ここからは見てのお楽しみでサプライズだ。オレたちの「復讐」がなんなのか…見せてやるよ先輩』

 

 

アニマアルカナに表示された顔の口がニヤリと持ち上がった

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

綺羅星(きらほし) ヒカリはどんな明るさの中でも輝くものを持つ、それこそどんな街明かりの中でも輝く北極星のような存在だった

 

吐いて捨てるほどアイドルが溢れる中でも、彼女は特別だった

 

同じステージに立つ、なんて烏滸がましい言い方だがだからこそ私には彼女の特別さと価値が痛いほど理解できた

 

 

なのに、世間はその宝石に泥を塗った

 

 

事務所の社長が言い寄り、突っぱねた彼女のありもしないスキャンダルをでっち上げた

 

彼女を疎ましく思う事務所の先輩アイドルがそのスキャンダルを更に悪様に拡散した

 

聴衆(小バエ)どもは鬼の首を取ったように何の罪もない彼女を攻めた。攻めて攻めて攻めて壊した

 

 

いつか一度だけ顔を合わせた時に、聞いたことがある

何故アイドルを続けるのか、と

 

彼女は簡単なことだとはにかみながら答えた

 

 

ー歌うことが好きだから。私の歌でみんなが笑うのが好きだから

 

 

ああ、敵わない。と思った

こんな、こんな彼女のささやかな幸せも、身勝手な連中が奪っていった。一つも残らず

 

 

綺羅星(きらほし) ヒカリは、最高にクールに死んだわ」

 

 

突然現れたゴスロリ風の女は愉快そうに笑いながら私にそう告げた

 

クールな死?

飛び降りて、高圧板に落ちて感電して死んだあの死に方が?

 

怒りが湧いてきて私はその女の首を絞めていた

 

ちっとも苦しそうな様子も見せないその女は笑みを絶やさず続ける

 

 

綺羅星(きらほし) ヒカリを死なせたくなかった?」

 

 

当然だ。ヒカリは、死ぬべきじゃなかった

死ぬべきなのはーあのバカ(害虫)どもだ

 

クスクスと笑った女は私をビルの屋上に案内し、へりから下を指差して告げた

 

 

「じゃあ、あんたも最高にクールに死を見せなさいな。そうすれば、あんたの死は生を曲げる力を得る」

 

 

女は私に歩み寄り、肩越しに笑う

 

 

「ー本当に死ぬべきヤツを殺すのも、簡単なくらいの、ね」

 

 

へりから下を見下ろす

そこには真っ黒な板がバチバチと電流を放って浮いていた

 

答えなんか、考えるまでもなかった

 

 

私は笑顔でビルから飛び降りた

 

 

その日から私は、『綺羅星(きらほし) ヒカリ』になった

 

 

ヒカリの星を絶やさないために

ヒカリを落としたヤツらを殺すために

 

バカな先輩アイドルは殺した

事務所の無能も殺した

 

なら次は

 

 

星に群がる聴衆(害虫)を、殺さなきゃ

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

『みんなー‼︎来てくれて、ありがとー!!!』

 

ステージに立つアイドルー綺羅星(きらほし) ヒカリの言葉に観客席が沸き立つ

 

それを出入り口近くの観客席から十三(じゅうぞう)とキャンドルは見下ろしていた

 

「中々いい曲じゃないか。たまにはこういう暇つぶしも悪くない」

 

ヒカリが歌い上げる曲を聴きながらキャンドルが愉快そうに笑い、指でリズムを取る

 

「…………」

 

十三(じゅうぞう)は落ち着きなく周囲を見渡し、ステージ上に立つ綺羅星(きらほし) ヒカリを見る

 

『死から蘇ったアイドル』

十中八九昨日取り逃したノーワンが彼女なのだろう

 

死からの蘇りなどあり得ない

 

あり得るとすればそれは、死ななく生きれない体にされただけ

 

隣に座るキャンドルを見やる

その横顔に六美(むつみ)の顔が重なった

 

十三(じゅうぞう)はかぶりを振り、前を向く

 

「……あり得ない」

「何だ?辛気臭い顔をこちらに向けといてため息は失礼だろ?」

「知らん。こちらの話だ」

 

素っ気ない態度を取る十三(じゅうぞう)にキャンドルが愉悦の笑みを漏らす

 

 

ライブがヒートアップする中、ステージ近くの観客席に希はいた

 

《もうそろそろオンエアだ。行けるか?(のぞみ)

 

手にしたスマホからスカルの声が響き、(のぞみ)が頷く

 

(のぞみ)の様子をパーカーの胸ポケットから見ていた(いずみ)が口を開く

 

『心配すんな、(のぞみ)。オレもスカルも一緒だ』

 

(いずみ)の言葉を聞いた(のぞみ)が胸ポケットに触れる

 

 

『オレたちはチームだ。オレという「仮面」、スカルっていう「目」それに加えて…』

 

「私という『手足』」

 

『そうだ、オレたちは3人で1人。風都の都市伝説であった街を守る2色のヒーローになぞって、派手に名乗りをあげてやろうぜ…‼︎』

 

(いずみ)の言葉を聞き、(のぞみ)は微笑んで力強く頷く

 

 

「うん。『仮面ライダー』オンエア」

 

 

(のぞみ)はスマイリーフェイスのマスクを被り顔を隠した

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

八七(やしち)兄妹の部屋に待機していたスカルがトカゲ型カメラガジェットーリザードスコープ越しの画像でライブのあり様を見てマスクの下で笑う

 

 

『ああ、派手にやってこい。「仮面ライダー」‼︎』

 

 

スカルがエンターキーを押しこんだ

 

 

最高潮に盛り上がるステージ縁の装置が稼働し、突然勢いよくドライアイスのガスが噴出する

 

踊っていた綺羅星(きらほし) ヒカリが足を止め、観客たちもどよめきだす

 

 

「チャオ。綺羅星(きらほし) ヒカリ」

 

 

ガスの晴れたステージに突如現れたスマイリーマスクの怪人に綺羅星(きらほし) ヒカリが目を見開く

 

「また、あなた…⁉︎」

「そう、また私たち」

 

挑発的な怪人の様子にギリ、とヒカリが歯軋りを鳴らす

 

「何しに来たの…ここは、ヒカリのライブステージよ‼︎」

 

ヒカリが胸を張ってそう告げる

 

怪人は肩にかけたギターケースを置き、その中から左利き用の大きなギターを取り出し、それを肩にかけヒカリを指差す

 

 

「道場破り。この私、怪人カラベラーナがあなたを『歌で負かす』」

 

 

怪人カラベラーナー(のぞみ)の宣言を聞いたヒカリが唖然とした表情を見せるがすぐに笑みに戻る

 

「笑わせないで。この会場にいるファンは、ヒカリを観にきてるのよ?」

 

ヒカリが手を振ると、ことの次第を見守っていた観客たちが歓声を上げる

 

「この観客たちを、素人のあなたが満足させられるって?」

 

ヒカリが得意げに笑ってマイクを渡そうとするが、(のぞみ)はそれを受け取らず、ギターの準備をしてイントロを弾き始める

 

『わかってねぇなぁ、どれだけ心が向こうむいてようと意味なんかねぇよ』

 

とん、とん、と(のぞみ)が脚でリズムを取り、すぅと息を吸う

 

 

『うちの自慢のキー子は、歌じゃ負けやしねぇ』

 

 

瞬間、掻き鳴らされたギターと共にカラベラーナのシャウトが会場を震わせる

 

マイクなど持っていない(のぞみ)の声が、大きな会場を丸ごと揺らした

 

「…Finger on the Triggerでいいよね、セン兄」

『お前の十八番だろ?当たり前だ』

 

(のぞみ)が頷くとギターをかき鳴らしながらマイクも無しに歌い始める

 

 

遥か後方にいるはずの十三(じゅうぞう)とキャンドルにもその歌声は届いていた

 

「ほう、あの女も中々じゃないか」

「確かに…」

 

十三(じゅうぞう)は歌声に呆気に取られながらも目を細めてステージ上の(のぞみ)を睨む

 

「なにを始めるつもりなんだ…」

 

 

(のぞみ)が歌い終え、荒い呼吸で肩を揺らす

 

会場が静けさに包まれる。が、その静寂は一瞬で破られた

 

 

ーオォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!

 

 

割れんばかりの歓声が観客から上がり、(のぞみ)はぺこりと会釈する

その歓声は自分が歌っていた時のものより大きいことにヒカリは気づいていた

 

「な…んで…⁉︎」

 

呆然と立ち尽くし、辺りを見渡すヒカリに(のぞみ)が向き直る

いつの間にか2人の頭上にはスカルの撮影ドローンが浮かんでいた

 

『確かに、綺羅星(きらほし) ヒカリの歌は大したもんだ。「本物」だったならキー子でも勝ち目はなかったなぁ』

 

どこからか聞こえてきた言葉にヒカリがびくり、と体を揺らす

 

「ヒカリどころか、『本物のあなた』にも多分勝てない。私は、ただの『歌の上手い一般人』だから」

 

(のぞみ)がパーカーのポケットから1枚のCDを取り出して見せる

CDショップで売られているようなものではない、作りの粗い地下アイドルのシングルCD

 

そのジャケットでは黒い長髪の少女が歌っていた

 

『お前の敗因を教えてやるよ。綺羅星(きらほし) ヒカリ、いやー』

 

 

『ー新月(にいづき) ヨミ』

 

 

「!?!?」

 

観客たちがどよめくと共にヒカリと名乗る少女がよろめく

 

「……誰よその子…ヒカリは、綺羅星(きらほし) ヒカリよ⁉︎」

綺羅星(きらほし) ヒカリの一人称は、『ボク』」

『「ヒカリ」って一人称を使わないんだよ、本物は』

 

のけぞる『ヒカリ』を見据えたまま(のぞみ)が自分の耳を指差す

 

 

「それに、歌に乗る『魂』が違いすぎる。今のあなたの歌は、無理やり違う魂を型にはめ込んでるからノイズが酷い」

 

『魂の乗ってない歌に、うちのキー子の歌は負けねぇのさ』

 

 

「…………」

 

『ヒカリ』は立ち尽くしたまま俯く

 

『観念しな。こと音楽でうちのキー子は騙せねぇ』

 

(いずみ)の言葉を聞くが早いか、『ヒカリ』は肩を震わせる

ふふふ、と震える笑い声が漏れ出していた

 

「違う、違うわ‼︎ヒカリは『綺羅星(きらほし) ヒカリ』‼︎死から蘇ったアイドルなの‼︎歌い続けて、みんなにこの歌を届けるために。そしてー」

 

『ヒカリ』の瞳に灰色の炎が揺れ、その姿がノーワンのものと同じ異形に変じていく

 

 

【ー星に群がる害虫を、駆除するためにッ!!!】

 

 

変貌したエレクトリック・ノーワンが放つコードが電撃を放ちながら観客席に襲いかかるが、(のぞみ)がギターを振り回してそれを弾く

 

呆然と眺めていた観客たちも異常事態に気付き、悲鳴を上げながら逃げていくが、出入り口が何故か開かず詰め寄せたままパニックになる

 

【あの女と、プロデューサーと社長は殺した…あと駆除すべきなのは、ヒカリに寄り添っておきながら真実を見ようとしなかった観客どもだ!!!】

 

エレクトリック・ノーワンの顔面表示が真っ赤に染まる

 

【逃がさない、逃がさない逃がさない逃がさない逃がさない!!!みんなみんな殺してやる!!!】

 

ヒステリックに腕を振り回しながらエレクトリック・ノーワンが叫ぶ

 

それを見据えていた(のぞみ)は足元のギターケースを裏返し、デスサイズドライバー・ガロットを取り出して装着する

 

 

「させない。ヒカリの、あなたのためにも」

 

『おうよ!それがオレたちの「復讐」だ!!』

 

 

《セブン:チャリオット》

 

起動したアニマアルカナを装填し、左手で首を掻き切るポーズからコルナポーズに繋げる

 

 

「変身」

『変身‼︎』

 

 

《エクスキューション・アップ》

《アッパー・チャリオット》

 

 

(のぞみ)の首に大型のリングが現れ回転

そこから吹き出した炎に包まれ、その体が仮面ライダームエルトのものに変化する

 

【お前も死ねぇ!!!】

 

エレクトリック・ノーワンの電撃鞭を両腕の銃から放つ弾丸で撃ち落としていくが、今回の鞭の勢いは格段に上がっており、勢いを殺しきれなかった数撃がムエルトに命中し火花を散らす

 

『ぐぅっ⁉︎大丈夫かキー子⁉︎』

《…ッ、これくらい、平気》

 

(のぞみ)の体を使った変身故か痛みを共有しているらしい(のぞみ)が返答する

 

『やせ我慢はやめろよ。オレの宝物はお前なんだから』

 

(のぞみ)を励ましながらムエルトは電撃鞭をいなす

が、いなすのに精一杯で近づくことができない

 

『クソッ…‼︎ これじゃあ埒があかねぇ…‼︎』

 

 

《エクスキューション・アップ》

《リバース・デビル》

 

 

「ハッ!!!」

 

後方から飛び出した黒い人影がエレクトリック・ノーワンとムエルトの前に割り込み、鞭を黒紫の炎を纏う一撃で薙ぎ払う

 

「大丈夫か?」

 

振り返り、手を差し出した怪人ー仮面ライダーレクイエムの手をムエルトが見てその顔を見上げる

 

『…どういうつもりだ?』

「どういうも何もないさ」

 

レクイエムは当然のことのように答える

 

 

「キミらの『誠意』を信じてみる。それだけだよ」

 

 

その言葉を聞いたムエルトはレクイエムの手を取り立ち上がる

 

『オレらはオレらの好きにやらせてもらうぜ?先輩』

「結構。俺も俺のやりたいようにすべきことをするだけだ」

 

ムエルトが豪快に笑う

 

『ガッハッハ‼︎敵わねぇなぁ‼︎』

 

2人のライダーが並ぶ前でエレクトリック・ノーワンが体を震わせる

 

【邪魔するなぁ!!!!どいつもこいつもぉ!!!】

 

その言葉にレクイエムが一歩踏み出す

 

 

「ー恨むといい。憎むといい。あんたの黒いものは全て俺が持っていってやる」

 

「ー俺の名は『レクイエム』。お前たちの生も死も白黒付けて送り出す鎮魂歌だ」

 

 

レクイエムのセリフを聞いたムエルトがヒュウ、と口笛を吹く

 

『いいねぇ。そういう決め台詞、サイコーにロックだ』

《たしかに、イカす》

 

ムエルトは傍らに置いていた大型ギターを手に取り、右手に構えてエレクトリック・ノーワンを見据える

 

 

『オレの生も、アンタの生も、忘れられるには惜しい生だ』

 

《死して屍拾うもの無し、でも歌って騒いで弔う者はここにいる》

 

『オレたちはカラベラでマリアッチ。アンタの死を弔い、最期の最期のバカ騒ぎに招待する歌う骨!!』

 

 

《『さぁ‼︎ 真っ暗闇のパーティタイムだ!!!』》

 

 

【ほざけぇ!!!】

 

エレクトリック・ノーワンが新たな電撃鞭を振るうが、レクイエムがグルートマホークで撃ち落とす

 

『スカルの作ったご機嫌なコイツ、試してみるか‼︎』

 

ムエルトは大型ギター、否ー専用武楽器ギターラ・デ・カラベラのボディをネック上でスライドさせる

 

 

《ロックアックスモード》

 

 

飛び出したネックからギターヘッドが、ボディから刃が展開され、それは大きな戦斧のような形状のギターに変わる

 

『行くぜぇ!!!』

 

ムエルトがギターをかき鳴らし、エネルギーを迸らせた斧が振るわれる

 

一撃目が電撃鞭を振り払い、二撃目がエレクトリック・ノーワンの胸部電光板を叩き割る

 

【ぐ、ぁあぁあぁぁあ!?!?】

 

エレクトリック・ノーワンが悲痛な悲鳴を上げながらよろめく

 

『スカル‼︎』

《なんだ?》

『やれんだよな?』

《ーッ》

 

(いずみ)の言葉にスカルが返答を詰まらせる

側で見守っていたレクイエムはその沈黙の理由に気づいていた

 

(アニマの完全分離に成功してるのは、デスサイズドライバー・ギロチンだけ…あっちのシステムはまだ試したことすらない…)

 

レクイエムが見守る中、通信機越しにスカルが告げる

 

 

《ーぁあ、やれるはずだ。頼む》

『……待ってたぜ、その言葉ァ‼︎』

 

 

ムエルトがギターを一節かき鳴らし、レクイエムに視線をよこす

 

『今回は悪いが、オレらがキメるぜ?先輩』

 

レクイエムは少し思案する素振りを見せるが、一歩退く

 

「キミらを信じると決めたからな」

 

ムエルトはその言葉にコルナポーズを返し、ギターラ・デ・カラベラを突き立ててドライバーのバックルを二度回す

 

 

《ラスト・エクスキューション》

 

 

『はぁっ!!』

 

ムエルトがワンツーと左右の脚を蹴り出すと、そこから放たれた車輪のようなエネルギーがエレクトリック・ノーワンを拘束する

 

『ロックンロールに、決めるぜぇ!!!』

 

踏み出した脚ともう片方の脚先にオレンジのスパークを纏う黒い炎のエネルギーを具現化させ、ムエルトが疾走

 

一発、二発と打ち込まれた蹴りでエレクトリック・ノーワンの体がスパークし

 

三発、四発と続く連続蹴りがその体を打ち上げる

 

【ぐっあぁあぁあぁあぁあぁあ!?!?】

 

打ち上がり、自由落下を始めるエレクトリック・ノーワンの下でムエルトの背後に黒い炎の車輪が出現。高速回転するそれに飛び乗り、射出されたムエルトの右脚に最大級の炎が纏われる

 

 

『おらァァァァァァァァ!!!!』

 

 

オーバーヘッドキックのような縦回転蹴りがエレクトリック・ノーワンを穿つ

 

くるくると縦回転しながら着地したムエルトが頭のソンブレロ型の装飾の鍔に指を当てなぞる

 

 

『ーアディオス‼︎ アミーゴ…』

 

 

墜落してきたエレクトリック・ノーワンがムエルトの背後でバウンドし、スパークを散らしながら灰色の爆炎と共に爆散する

 

固唾を飲んで見守っていたレクイエムの前で灰色の爆炎は渦を巻いて白い火の玉と黒い火の玉に分かれて浮遊する

 

「成功した…‼︎」

『うしっ‼︎大成功ってヤツだな』

 

会場のロックが解除され、観客たちが逃げ出していく

観客席から傍観していたキャンドルがヒュウ、と口笛を吹く

 

「やるじゃないか。スカルとやら」

 

 

画面越しに中継を配信しながら見ていたスカルも安堵の息と共にソファに背を預ける

 

『成功した…オレたちの「復讐」の一歩目は大成功だな』

 

と、何かを思い出しパソコン画面に戻る

 

『いけね。そろそろ切り替えないとな…』

 

沸き立つコメント欄を横に中継画面が切り替わり、アイドルが歌を歌いながら踊る映像になる

 

 

荒削りながらも光るもののあるそのステージ

最初困惑していた視聴者もコメントを止めて魅入られ始めていた

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

ふわりと浮かぶ白い火の玉ーアニマが揺らめき、その姿を人の姿へと変貌させる

 

現れたのはジャージ姿の長い黒髪の少女だった

 

ムエルトが変身を解除し、(のぞみ)の姿に戻ると仮面を取り、その少女に近づいてしゃがみ込む

 

『何よ……がっかりでしょ…?綺羅星(きらほし) ヒカリだと思ってたヤツが、こんな、こんなただの地下アイドルで……』

 

泣き崩れる少女ー新月(にいづき) ヨミの前で希は彼女にマイクを向けた

 

『……え?』

 

「…歌って。新月(にいづき) ヨミ」

 

(のぞみ)の言葉が信じられないといったようにマイクと(のぞみ)の顔を見比べるヨミ

 

『なんで、なんでよ…私の歌なんか…⁉︎』

 

(のぞみ)は静かに首を振り、一枚のCDを取り出す

 

それは先程も見せた新月(にいづき) ヨミが唯一出したアルバムだった。よく見ると開封されていることに気づく

 

 

「心に響く、いい歌だった。とても好きな歌」

 

 

微笑みながら告げる(のぞみ)の胸ポケットから(いずみ)も微笑みながら告げる

 

『観念しなって言ったろ。こと歌で、キー子は騙せねぇよ』

 

ヨミは力無く首を振る

 

『そんな、そんなことない…私の歌なんか…‼︎』

 

 

『ーヨミちゃんの歌、最高でしょ‼︎』

 

 

ヨミの肩が背後から掴まれる

 

その肩を掴んでいたのは綺羅星(きらほし) ヒカリ

アニマの残滓から姿を現した本物の綺羅星(きらほし) ヒカリの意志だった

 

『え、綺羅星(きらほし) ヒカリ…⁉︎なんで…⁉︎』

『なんでって…前にライブ一緒にしたことあったでしょ?あの時、あなたの歌を聴いてずっと、すごいなぁって思ってたの。CDも買ってたんだよ』

『嘘…嘘だ、そんな訳ない…私の歌なんか…‼︎』

 

首を振りながらパニックになるヨミをヒカリが抱きしめた

 

『あー』

『私の歌なんかって、言っちゃダメだよ。ヨミちゃんの歌のこと大好きなみんなを、裏切らないで』

 

ヒカリの言葉を聞いたヨミは目を見開き、大粒の涙を流し始める

 

泣きじゃくるヨミを抱きしめ、ヒカリは(のぞみ)たちを見据える

 

 

『ありがとう。ヨミちゃんを止めてくれて』

 

『ボクのために怒ってくれたのは、正直嬉しかったけど、でもそのためにヨミちゃんが歌を忘れちゃうのは苦しかったから』

 

 

微笑むヒカリを見据え、(のぞみ)は親指を立てて見せる

 

「私は、忘れない。ヨミの歌も、ヒカリの歌も。私以外にも、きっともっとたくさんの人も」

『水臭い言い方やめろよキー子。そこは、「オレたち」だろ?』

「ん、そうだった」

 

(のぞみ)(いずみ)のやりとりにヒカリが吹き出す

 

『あなたたち、とても愉快な人たちだね』

 

泣きじゃくっていたヨミが顔を上げ、(のぞみ)に近づいてその手に持つマイクに手を添える

 

そして(のぞみ)に柔らかい笑みを向けた

 

 

『ありがとう、カラベラーナ』

 

 

そう告げたのを最後に、2人のアニマの残滓は消え去り、その足元にアニマの遺灰が積もった

 

風に流されながら飛んできた残り火を(のぞみ)は手にした2体のカラベラ人形のキーホルダーで受け止める

 

 

「ーアディオス、アミーゴ」

 

 

(のぞみ)は大切にそのカラベラ人形を抱きしめる

 

隣に立つレクイエムは遺灰を壺に納めて静かに祈りを上げる

 

「2人は、俺の霊園でも弔う。いつでもお参りにきてくれ」

 

そう告げるレクイエムに(のぞみ)が頷く

 

『これにてオレたちの「復讐」は一つ完了だな‼︎』

「復讐…?これがか?」

 

レクイエムの問いに(いずみ)は笑いながら答える

 

 

『怪物たちのせいで歪む死や、覚えてもらえない死が増えるなら、オレたちがそうさせねぇ。歪んだ死も、覚えてもらえない死も、全部オレたちが馬鹿騒ぎして弔って、生きたヤツの記憶に焼き付ける』

 

 

ハハッ、と笑いながら(いずみ)は締めくくる

 

『元々オレたちには湿っぽいのは似合わん。最高にロックに行った方が、オレたちらしいのさ』

「そう、最高にメタルなやり方」

 

(のぞみ)がコルナポーズを作ってみせる

 

それを見たレクイエムは静かに頷いた

 

「おかしな連中だな、本当に」

 

 

そのやりとりを見ていたキャンドルは観客席のバーに腰掛けながら脚を組んで微笑む

 

「いやはや、面白くなってきたじゃないか」

 

懐からタブレットを取り出し、ある画面を映し出す

 

そこにはアニマアルカナの一覧表があった

 

何個かは黒く暗転しているその中をスクロールし、末端まで到達する

そこには5枚のアニマアルカナが黒枠で囲まれていた

 

「……何やらランタンやら埋葬部隊も怪しい動きが増えてきたし、そろそろこいつも解明しないと、つまらん終わりになるかもな」

 

キャンドルは画面を再びスクロールし、その中で2枚のアルカナをタップして拡大する

 

 

一つは《恋人(ラバーズ)》のアルカナ

何故かこれだけは紫の表示になり、LOSTと表示されている

 

そしてもう一つは

運命の輪(ウィール・オブ・フォーチュン)》のアルカナ

 

 

「…考えておくかな、《恋人》らしいプレゼントでも」

 

 

タブレットで口元を隠しながらキャンドルは妖しく微笑んだ

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

カラベラーナー希たちの配信を見ていた八十八(やそや) 影斗(かげと)は深刻な顔をしてその画面を閉じた

 

「……中々厄介なことをする羽虫が現れたみたいだね」

 

影斗(かげと)は立ち上がり、デスクの引き出しを引いてその中の小さなスイッチを押し込む

 

影斗(かげと)の背後の壁が開き、強化ガラスの「窓」が現れる

 

「私の計画の完遂のために、ノーワンたちの存在はギリギリまで秘匿しておきたいんだがね…妙なパニックや勘繰りは嫌だし。何よりそんなリスクは許せない」

 

振り返り、「窓」に手を当て恍惚の笑みを漏らす

 

「キミと、これから『選ばれる』人間たちの世界に、『黒ズミ』は不要だからね。たった一点だとしても」

 

 

「ーなぁ、『セカイ』」

 

 

ーかごめ、かごめ、カゴの中の鳥は

 

ーいついつ出会う

 

ー夜明けの晩に、鶴と亀が滑った

 

 

歌声が響く

 

「窓」の奥の空間

たくさんの本が積み上げられ、乱雑にノートや筆記用具が散らばる部屋の中央で体育座りのようにして座っていた小さな人影が、その歌を紡いでいた

 

 

ー後ろの正面、だぁれ?

 

 

ぐるりと、人影が振り向く

白銀の頭髪を揺らす、銀の瞳の少女

 

 

その手に握られたアニマアルカナには《21》の数字が刻まれていた




『キー子、お前はやっぱ学校行くべきだ』
「嫌。セン兄とスカルがいれば十分だもん」

休学していた希を学校に行かせたい泉
十三たちにも相談する中、輪音に出会った彼は思いつく

『なぁ嬢ちゃん、キー子のダチになってくれよ‼︎』

妹想いの兄の「大作戦」
その裏で渦巻く「思惑」

『さぁて、どこに行ったかなぁ?「彼」は』

『あのクソ仮面…‼︎最高にクールな私の芸術を…‼︎』

奔走する泉と輪音たちの前に現れる新たなノーワン

【嫌だ‼︎1人で死にたくなんかない‼︎みんな一緒に‼︎】

騒がしくなる日常の中で因縁は衝突する

「お前は逃さないぞ、咲也ァ‼︎」
『さぁ、踊ろうか⁉︎仮面ライダーくん‼︎』

次回仮面ライダーレクイエム
『8の正位置:泉の友達大作戦』

「セン兄なんかもう知らない」
『キー子、キー子ォォォォォォ!?!?』
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