仮面ライダーレクイエム   作:リョウギ

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第4話「15の逆位置:『悪魔』の証明」

ハング・ノーワンの拳の一撃で吹き飛ばされたレクイエムが地面に叩きつけられ思わず仰反る

 

【コレで終わりだァァァァァァ!!!】

 

ハング・ノーワンが両腕を解き、一つに纏めて巨大な拳を作り出す

 

振り下ろされんとするそれを見上げたレクイエムはなんとか懐から取り出したスマホ端末を起動し、画面に指を走らせる

 

ーブォンッ!!!

 

ガードレールにめり込んだまま動きを止めていたグレイブースターのエンジンが再点火し、ハング・ノーワンに突進し、何度もその車体をぶつける

 

【ぐっ、くっ、このォオ!!!】

 

グレイブースターの攻撃にハング・ノーワンが気を取られた隙を見てレクイエムはよろよろと立ち上がり、手にしたアニマライターを点火して黒炎の弾丸を周囲に放つ

 

たまらず腕を戻して防御したハング・ノーワンが視界を取り戻すと、そこにはグレイブースターもレクイエムもいなかった

 

【逃した…クソォオッ!!!】

 

破壊し尽くされた道路に更に巨腕を叩きつけ、ハング・ノーワンが絶叫を上げる

 

『落ち着きなさいな。あんたの力は、あの仮面ライダーすら退けるものなのはよくわかってよかったじゃない』

 

暴れるハング・ノーワンをシャンデリアが宥める

 

ふーっ、ふーっ、と荒い息を漏らしながらもハング・ノーワンは怒りを収め、自身の胸に手を当てる

 

そこから《女教皇》の絵が透かしに映る水が溢れ出した《杯》が描かれたカードが灰色の炎を払いながら現れ、ハング・ノーワンの巨体が人間のものに変わる

 

シャンデリアも胸からアルカナを取り出して人間体に戻りながら、ハング・ノーワンだったその人間の頬を撫で、舌なめずりしながら微笑む

 

 

「あんたはあんたのやりたいように死を振りまけば良いわ。あんたの最高にイカす死を、ね♪」

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

変貌したランタンを冷たく睨みつけながらキャンドルは胸をなぞると、そこから浮かび上がるアルカナが灰色の炎に包まれる

 

 

《シックス:ラバーズ》

 

 

アルカナが胸に沈み込むと共にキャンドルの姿が怪人のものに変貌する

 

『キヒヒ♪ そこのお嬢さん、この前からずーっと一緒だネェ』

 

ランタンが不気味に微笑んだかと思うと瞬間、輪音(りんね)の目前に姿を現し思わず息を呑む

 

『ーキミをノーワンにしたらァ…十三(じゅうぞう)やキャンドルはどんな顔するかなぁ…?』

 

「あ、あー」

 

伸ばされる手を前に震えることしかできない輪音(りんね)

 

が、その細指が届く前にランタンの腕は掴まれ、捻り上げられる

 

 

『ー私の愉しみに、手を出すな…‼︎《愚者(フール)》!!』

 

 

今までに聞いたことのない底冷えのする声がランタンに浴びせられる

 

ランタンは体をぐねぐねと動かし脱出するとやれやれと肩を竦めながら捻られた腕をぷらぷらと回す

 

『ジョーク、ジョークよ。怒らないでくれヨ〜』

『お前のジョーク、死ぬほどつまらないのよ』

『こいつは手厳しい…』

 

あちゃーと額に手を当てながらランタンが大袈裟に仰反る

 

仰け反った姿勢のままぐりんと首を回し、輪音(りんね)をランタンが見据える

 

『ふーん、へー、ほー、キャンドルのお気に入りネェ…』

 

ランタンは姿勢を戻し、錫杖をトンと突き立てる

 

『まぁじゃあ今日はお暇するヨ。それに、ワタシはシャンデリアやトーチみたいなノーワン作らない主義だしィ』

 

紳士のように一礼しながら灰色に揺らめく炎が覗く伽藍洞の口を歪ませてランタンが笑う

 

『ではでは、アデュー♪』

 

ランタンが灰色の炎に包まれ、その姿を消す

 

残されたキャンドルはふぅ、と息を吐きながら人間体ー六黒(むくろ)の姿に戻ると隣に立つ輪音(りんね)にウインクを向ける

 

「災難だったねぇ、輪音(りんね)ちゃん」

「……あれが、ジョンドゥ…」

 

言葉を失う輪音(りんね)の頭をぽんぽんと叩くと六黒(むくろ)は伸びを一つする

 

「さてと、面倒なヤツの足止めのせいでやらかしたけど…多分愛しの十三(じゅうぞう)がヤバいから私は帰るけどー」

 

キャンドルの何気ない言葉に輪音(りんね)は目を見開く

 

十三(じゅうぞう)さんが、大変なんですか!?」

 

 

平坂(ひらさか)霊園内の小屋にたどり着いたキャンドルが扉を開き、慌てて入った輪音(りんね)の前には椅子に深く身を沈めた生傷だらけの十三(じゅうぞう)がいた

 

「‼︎」

 

見知った人の大怪我を見たショックに思わず輪音(りんね)が顔を覆う

 

「これまたこっぴどくやられたな、十三(じゅうぞう)

 

ニヤニヤと笑いながら声をかけた六黒(むくろ)に気づき、十三(じゅうぞう)が机に手を突いて立ち上がりながらその白衣の襟首を掴み上げる

 

「その名を、呼ぶなと言ったはず、だ…ッ‼︎」

 

げほげほっと咳き込む十三(じゅうぞう)

 

十三(じゅうぞう)さん!?」

 

その体を案じた輪音(りんね)が肩を貸し、再び椅子に腰を下ろす

 

「反論できる程度には、無事みたいで何よりだ」

 

救急箱をどこからか取り出してきた六黒(むくろ)輪音(りんね)を側の椅子に座らせると手際よく十三(じゅうぞう)の怪我に処置をしていく

 

「どういうつもりだ、キャンドル…‼︎」

「……何がだ?」

 

十三(じゅうぞう)がギロリと六黒(むくろ)を睨み上げる

 

「とぼけるな…‼︎ノーワンの気配の連絡をしなかった…加えて、お前の渡してきたアニマアルカナは役に立たなかった…‼︎」

 

はぁ、と六黒(むくろ)がため息を吐く

 

「やはりな。だから言っただろう?アニマアルカナは持ち主のアニマに共鳴しなければ起動しないと」

「……俺に、資格が無いということか…?」

 

六黒(むくろ)十三(じゅうぞう)の顔を両手で掴み、引き寄せる

 

「はっ、見くびるな。私が持つ『置き土産』を忘れたか?お前に合わないアニマアルカナならくれてやるワケが無いだろう?」

 

妖艶にその指を十三(じゅうぞう)の傷口に這わせる

 

「己の内を覗け。お前の、《(デス)》以外のアルカナの『運命』を掴んでみせろ。そうすれば…それは使える」

 

十三(じゅうぞう)六黒(むくろ)の手を振り払う

 

「……アルカナはそうだとしても、連絡を怠っていたのはどういうことだ…?お前の下らない退屈しのぎか⁉︎」

「違うよ。珍客の対応で手一杯だったんだ。そこの輪音(りんね)ちゃんも守らないとだったし」

 

肩を竦めながら答える六黒(むくろ)を睨む十三(じゅうぞう)

 

「そ、それは本当です…‼︎」

 

そこに割り込んできたのは座ったまま声を上げた輪音(りんね)だった

 

「……輪音(りんね)ちゃん」

 

輪音(りんね)十三(じゅうぞう)を見据えながら続ける

 

「私を、守ってくれたのも本当です…‼︎六黒(むくろ)さんは…あのランタンって人たちとは違うはずだから…」

 

 

「ーキミに、何がわかる」

 

 

心の底から冷えるような声色で十三(じゅうぞう)が突き放す

 

膝の上に置いた鞄を掴みながら輪音(りんね)はもう一度口を開く

 

「……あのノーワン…私たちの学園にいるんですよね…」

「………」

「私も、私も力になります…‼︎ きっとー」

 

「必要ない。キミには関係のない話だ」

 

十三(じゅうぞう)は椅子を回し、輪音(りんね)に背を向ける

 

「……もう、こちら側には関わるな。キミが来る所じゃない」

 

その言葉を聞いた輪音(りんね)は力無く立ち上がり、一礼だけして去って行った

 

背もたれに身を預けた十三(じゅうぞう)の側の机にタロットが一枚滑り込んでくる

 

「ーふむ、《悪魔》の逆位置だな」

 

なんの変哲もないタロットを持ち上げる

 

逆さになった松明を構える《悪魔》のカードを見た十三(じゅうぞう)が眉根を寄せる

 

「それがどうした?」

「タロットも知らないのかお前は。それが今のお前だよ」

 

タロットの紙束をシャッフルしながら壁にもたれかかる六黒(むくろ)がつまらなそうに告げる

 

「…なんのつもりだ?」

「自分で調べたらいいだろう?私はそんなつまらんことに興味はないんだから」

 

六黒(むくろ)の言葉を聞いた十三(じゅうぞう)は背もたれに深く身を預け、目を閉じる

 

その様にため息を吐いた六黒(むくろ)は手にしたタロット束に灰色の火を灯し燃やしてしまう

 

そこに残る2枚のタロットを見遣り、六黒(むくろ)は目を細める

 

(《法王》と《運命の輪》、どちらも正位置)

 

フッ、と薄く笑いながら六黒(むくろ)はカードで口元を隠す

 

「……退屈はしなさそうだが、どう回るかな?」

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

家に帰り着いた悠美(ゆみ)は1人部屋に閉じ籠り、布団を被って震えていた

 

(嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ…‼︎死にたくなんかない‼︎)

 

心配する母が何度かノックに来ていたが、それも無視して肩を掴んでただただ震える

 

ーコンコン

 

再びのノックにぎり、と歯を軋ませる

 

「うるせーんだよババァ!!!今は1人にー」

 

 

【ー罰を受けるときが来たぞ、羽柴(はしば) 悠美(ゆみ)

 

 

底冷えのする声に思わず後退りベットから転げ落ちる

 

ドアが派手に吹き飛ばされ、あの異形が姿を現した

 

その手にはロープが伸びている

 

「いや、いやいやいやァァァァァァ!!!来るなよォ‼︎」

 

【お前は、生きるに値しない】

 

同じことを繰り返すハング・ノーワンを震えながらも睨み、悠美(ゆみ)が吠えた

 

「ざけんな、ざけんなぁ!!ただちょっと遊んでやっただけだろうがァ!!!なんで、なんで死ななきゃなんねぇんだよ!?」

 

【罪状を覚えているなら、都合がいい】

 

ハング・ノーワンの投げた縄が悠美(ゆみ)の首に巻き付く

 

「いや、嫌だ‼︎ママ、ママぁ!!!」

【お前という罪人を庇った母親なら既に罰した】

 

あっさりと言ったハング・ノーワンに悠美(ゆみ)が呆けた声を漏らす

 

「………はぁ?」

【私はお前たちを許さない…‼︎お前たちの同類も、それを庇うものも全て許さない…‼︎私が、くくり様が全てを裁く‼︎】

「狂ってやがる…バケモンが‼︎人殺しが!!クソ、クソォ!!」

 

 

ーギシッ、ギギッ、ぎちぎちぎち

 

ーギッ、ギギギ……キシッ

 

 

【ー罰は下った】

 

天井からぶら下がり、ぷらぷらと揺れる振り子を見上げたハング・ノーワンが呟く

 

【……みんな、みんな殺した。罰した】

 

【でもまだだ。まだ生きるに値しないヤツらは、生きてる】

 

ハング・ノーワンの体に埋まる骸骨の頭部、その眼窩の奥の灰色の炎が更に燃え上がる

 

 

【ーまだ、殺さなきゃ】

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

翌日 棺ノ宮(ひつぎのみや)中央学園

 

休憩時間に談笑を続ける女子生徒たち

 

「あ、あの…ちょっといいですか?」

 

そこに輪音(りんね)がおずおずと話しかける

 

「えっと…この学校の、七不思議に詳しい人って誰かいない?」

 

女子生徒たちは首を傾げ、知らないと首を振る

彼女たちに頭を下げ、輪音(りんね)は集まりから離れて胸を撫で下ろす

 

「………絶対変な人だって、思われた…」

 

輪音(りんね)がはぁとため息を吐く

 

昼休憩にご飯を早く済ませた輪音(りんね)は教室内の同級生たちに手当たり次第に声をかけ、七不思議ーくくり様の情報を集めようとしていた

 

収穫はゼロ。新入生なのだから当然である

 

 

『必要ない。キミには関係のない話だ』

 

 

十三(じゅうぞう)の冷たく突き放す言葉がちくりと胸に刺さる

 

今、輪音(りんね)のしてることはレクイエムー十三(じゅうぞう)のためのこと

輪音(りんね)には関係のない、危険な世界の話なのは間違いない

 

(……それでも…)

 

きゅっ、と輪音(りんね)が拳を握る

 

それでも、輪音(りんね)は動かなきゃならない気がした

否、やりたかったのだ

 

傷ついた十三(じゅうぞう)、得体の知れない怪人、怪人になっていく人

正直とても怖い。危険なことだと痛いほどわかる

 

そして彼らのことは、輪音(りんね)には何もわからない

 

でも、輪音(りんね)は「だから放っておこう」としたくなかった

 

(どんな小さな事でも、私は…力になりたい…‼︎)

 

輪音(りんね)は新たな聞き込みのために一歩踏み出した

 

 

昼休憩も終わりに近づいた中、ようやく辿り着いた2年生の教室がある階だったが、やはりいきなり踏み込むことは難しかった

 

(さ、流石にいきなり七不思議がどうとか、聞けない…)

 

昼休憩も終わりに近づいていたことに気づき、そろそろと去っていこうとしていると

 

「ーあなた、くくり様の話を聞いて回ってる子?」

 

突然かけられた声に驚き飛び上がりそうになりながら振り向く

 

そこにいたのは眼鏡をしたショートヘアの大人しそうな女子生徒。(かなえ)と同じ青色のリボンが胸元に揺れていることから2年生であることがわかる

 

「えっと…その…はい……」

「そうなのね‼︎ 私、2年の綾辻(あやつじ) 彩奈(あやな)。くくり様のおまじないなら知ってるよ」

 

柔和に微笑みながらそう告げる彩奈(あやな)

 

「……あなたも、殺したい人がいるのね」

「…え?」

 

彩奈(あやな)がそう告げ、どこか虚な目のまま微笑む

 

「くくり様はすごいんだよ。本当に、私の殺して欲しい2人を殺してくれたの。いじめを繰り返して、追い詰めて、飽きたら忘れてたあの2人を…」

 

彩奈(あやな)が手を差し出す

 

「あなたもきっと叶えてもらえるよ。くくり様なら、きっと」

 

輪音(りんね)はその手と彩奈(あやな)の顔を見て、きゅっと片腕を掴む

 

「私には、殺したい人はいません」

「……え?」

 

輪音(りんね)彩奈(あやな)をまっすぐ見据えて口を開く

 

「くくり様が…何者なのかは分かりません…でも、でも誰かを殺すなんてことは、どんな理由でも許されちゃダメだと思うんです」

 

「……死んでしまうって、辛くて、悲しいことだから…」

 

固まる彩奈(あやな)を見据える輪音(りんね)の目はまっすぐだった

 

「私は、くくり様を止めたいんです…‼︎だから、その七不思議を広めた人をー」

 

その時、予鈴が鳴り響き昼休憩の終わりが近づいていることが知らされる

 

「あ!ごめんなさい先輩‼︎ また、どこかでお話聞かせてください‼︎」

 

彩奈(あやな)にぺこりと頭を下げて輪音(りんね)が去っていく

 

その姿を彩奈(あやな)はジッと見つめていた

ゾッとするほど冷たい無表情で、ただその背中を見据えていた

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

目を覚ました十三(じゅうぞう)が部屋を見回す

六黒(むくろ)ーキャンドルの姿はなくなっていた。どこかで昼寝でもしているのだろう

 

動くようになった体の肩を回しながら十三(じゅうぞう)は眠る前のことを思い出す

 

 

『私も、私も力になります…‼︎きっとー』

 

 

輪音(りんね)の言葉、そしてそれを突き放した自分のことを思い出して顔を覆う。思い返すと酷いことを輪音(りんね)に言ってしまったと自己嫌悪に陥る

 

(……だけど、彼女がこれ以上関わる必要は…)

 

ふと、目に止まったものを拾いあげる

 

《悪魔》のタロット

逆さまーつまり逆位置にこちらに向けられたそれを見つめる

 

『タロットも知らないのか、お前は』

 

キャンドルのつまらなそうな言葉が脳裏に響く

 

 

十三(じゅうぞう)の今日の運勢は…あっ、この配置はちょっと…』

『ああ、でもでも‼︎ 私はこれもきっと悪くないと思うんだ』

 

 

同時に、同じ声のーそれでいて別人の声も思い出す

 

(知っているさ。何度も占ってもらったんだ)

 

十三(じゅうぞう)は懐かしむように、それでいて哀しい目を見せる

 

「……『狭量』『弱さ』そして『臆病』、か…」

 

『それが今のお前自身だ』

 

キャンドルの言葉を思い出し、自嘲気味に笑う

 

(間違いない。俺は、臆病者だからな……)

 

タロットを握る手に力がこもる

 

十三(じゅうぞう)は立ち上がり、上着に袖を通す

机の上に置いていたアニマアルカナー起動しなかったそれを手に取る

 

「そうだ、俺は臆病者だ。だから、失った」

 

アニマアルカナを懐にしまい、ポケット越しに叩く

 

「もう、俺は失わない。失わせない」

 

 

ードクンッ

 

 

十三(じゅうぞう)の声に呼応するかのように、懐に収められたアニマアルカナのディスプレイに脈動が映った

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

放課後になり、人が居なくなった教室

夕焼けが射しつつあるそこの一席には花瓶が立てられ、お菓子などが乱雑に供えられていた

 

自殺したことになっている網代(あじろ) 佳奈(かな)の机だ

 

交友関係が広く、色々な友人がいた彼女

 

 

『ねーねー、金貸してよ。あんたどうせ使わないでしょ?』

『生意気。根暗のクセに口答えしてんじゃねぇよ』

 

 

昼間は色んな生徒が泣きながらお菓子やら小物を供えていたりもした

 

 

『あっはは‼︎くっさー。あんたにはお似合いだよ』

『金貸してくんないからこうなるんだよ』

 

 

その前に立つ女子生徒がそれを力任せに床に落とす

 

ガシャ、ガシャン‼︎と派手な音が空の教室に響き渡り、割れた花瓶から水が広がる

 

空いた机に女子生徒は、力任せに彫刻刀を突き立てる

 

何度も、何度も、何度も

 

机を押さえつけ、怨嗟を込めて、その机に深い傷を刻んでいく

 

『死んでしまうって、辛くて、悲しいことだから…』

 

昼間のあの少女の言葉がフラッシュバックし、怒りのままにその机を蹴り飛ばして転ばせて踏みつける

 

「辛い?悲しい?こんな、こんなクズが、ゴミが死んでなんで、なんで悲しむの!?誰も、誰も姉さんの時には悲しまなかったクセに!!」

 

ふー、ふーと肩を揺らす女子生徒ー綾辻(あやつじ) 彩奈(あやな)の瞳に灰色の炎がちろちろと揺れる

 

その胸をかきむしり、どこからか灰色のぼろぼろのアルカナを取り出す

 

 

背景に《女教皇》の透かしが入った、水の溢れる《杯》のカードを

 

 

「あいつも、あいつも腐った罪人だ…殺してやるッ‼︎」

 

 

学園の屋上

給水塔に腰掛けた人影、黒いフリルで彩った学生服を着たシャンデリアは愉快そうにきししと歯を見せて笑う

 

「『生きていたい』、生にしがみつく想いで私たちはノーワンを作っていく。でぇもぉ、それって別に死にかけてるヤツだけの特権じゃないワケ」

 

かりかりと爪を齧りながらシャンデリアは笑う

 

 

「たとえば、『生きてて欲しかった』ってのもさぁ、生にしがみつく強い想いってワケじゃん?」

 

 

「その命を捧げてぇ、呑気に生きてるヤツを引き摺り下ろして絶望させて踏みつける……そういう『死』、最高にイカすわよねぇ♪」

 

 

夕焼けの廊下をのろのろと帰る輪音(りんね)

 

一応、十三(じゅうぞう)たちに会ってみようとしたのだが今日は2人とも休んでいるらしく会うことができなかった。昨日今日で仕方のない話ではある

 

「……さっきの彩奈(あやな)先輩に話を聞いてみようかな…まだ学校にいたらいいんだけど…」

 

と、ふと前を見た輪音(りんね)の目に人影が映る

 

ちょうど探しに行こうとしていた綾辻(あやつじ) 彩奈(あやな)がそこに立っていた

 

「あ、彩奈(あやな)先輩ー」

 

声をかけようとした手を引く

 

彩奈(あやな)はぐりんと首を不自然に動かし、恐ろしい形相をこちらに向けてきたのだ

 

「……死んだら悲しむ?辛い…?あは、あはははッ‼︎」

 

突如狂ったように笑い出す彩奈(あやな)にたじろぐ輪音(りんね)

 

怒りのこもった灰色の目が、輪音(りんね)に向けられる

 

 

「あんなゴミども、死んで当然だろうがッ!!!」

 

 

彩奈(あやな)が吠え、それに呼応して胸元に灰色のアルカナが現れ、彩奈(あやな)の体を灰色の炎に包む

 

炎に包まれたその体は膨張し、ハング・ノーワンに変貌して新たに姿を露わにする

 

彩奈(あやな)、先輩が……⁉︎」

 

【2人、2人殺した‼︎私が、『くくり様』が‼︎】

 

ハング・ノーワンは巨腕を振り回しながら慟哭する

 

【これで、これでもっと、もっと『くくり様』を広めれば、ゴミはいなくなる‼︎生きるに値しないクズを、全部殺せる‼︎姉さんみたいな、犠牲者を生む前に、全部全部全部ゥ!!!】

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

ハング・ノーワンー綾辻(あやつじ) 彩奈(あやな)の脳裏に浮かび上がるのは先月のこと

綾辻(あやつじ)家の一室、彩奈(あやな)の姉ー沙彩(さあや)の部屋だった

 

彩奈(あやな)は1人声を上げて泣いていた

その手には姉の写真。微笑んで一緒に映る大好きな姉

 

そんな姉はもういない

 

自殺したのだ

 

姉は、いじめられていた

 

網代(あじろ) 佳奈(かな)羽柴(はしば) 悠美(ゆみ)という2人の同級生に金をせびられ、言うことを聞かなかったら生ゴミを被せられたり、トイレに閉じ込められたり、目に余るいじめを毎日受けていた

 

 

『この度は、私どもの至らなさでー』

 

黙れ、姉の訴えを聞かなかった癖に

見て見ぬふりした癖に…‼︎

 

『もっと、あの子の話を聞いてあげたらー』

 

黙れ黙れ、姉が無駄遣いしていると訳も聞かず怒鳴った癖に

話なんて最初から聞こうとしなかった癖に…‼︎

 

『ちょっとした意地悪で大袈裟にしちゃってー』

 

黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ‼︎

人殺しどもが‼︎人殺しどもが‼︎

 

 

彩奈(あやな)は姉と同じ高校に通うのが楽しみだった

憧れで、優しくて頼りになる大好きな姉

私にできないことがたくさんできる姉

 

そんな姉を、奪われた

私以外、姉の死をなんとも思っていない

 

 

『生きて欲しかった、のよねぇ?』

 

 

突然部屋に響いた声に彩奈(あやな)がぐしゃぐしゃに泣き腫らした顔を上げる

 

蝋燭と金属装飾で彩られた灰色のドレスを纏う怪人がそこにはいた

 

「ひ、ば、化け物…⁉︎」

『あら、化け物なんてひどいわ。あたしたちは、最高の死に選ばれた民なのにぃ』

 

怪人は彩奈(あやな)を見下ろし、告げる

 

『あんた、姉さんに生きてほしかったのよねぇ?姉さんを追い詰めたヤツらのこと、死ぬほど憎いのよねぇ?』

 

怪人の言葉に、不思議と恐怖よりも先に怒りが沸々と再燃してくる

 

その彩奈(あやな)の様子を見た怪人はふふん、と微笑み、巻物を広げる

そこから黒い炎が浮かび上がり、先端に首が通りそうな輪を作った黒いロープに変化する

 

『ここにあなたの姉さんの死を形にした縄があるわ。生きていくのに絶望して、苦しんで苦しんで死んだ死の概念(アニマ)

 

ぱさり、とその縄が彩奈(あやな)の前に投げ渡される

 

『ーあんたの生への妄念、それと混ぜちゃえば…あんたもあたしたちと同じ超人になれる。復讐だって、簡単にできるわよ?』

 

その言葉を聞いた彩奈(あやな)は、黒い縄を掴んでいた

 

天井からぶら下げた縄に首を通し、台を蹴飛ばす

 

「ッ、ぐゥ……ッ!?」

 

ギリギリギリ、と首が締まり苦悶の声が漏れる

バタバタと足をバタつかせながらもがく

 

苦しい、苦しい苦しい苦しい

 

姉さんは、これを選んだ

 

これを選ぶしかないほど、生きるのはもっと苦しかった

 

憎い、憎い、憎い…‼︎

姉を地獄に落として、自分たちは生きる連中が憎い‼︎

 

 

痙攣が止まり、だらんと彩奈(あやな)が脱力する

 

縄が黒い炎を上げて燃え上がり、彩奈(あやな)の胸から燃え上がる白い炎と混ざり合って灰色の炎が産声を上げ、彩奈(あやな)の死体を包み込む

 

沙彩(さあや)の『死』と彩奈(あやな)の『生』

 

溶け合い、複雑な縄細工のように絡み合った灰色の炎がハング・ノーワンの巨体を形作る

 

【ヴァァァァァ‼︎ゴミには、死を…苦しみと死をォ‼︎】

 

その胸に燦々と輝く《杯》のアルカナを見た怪人ーシャンデリアが愉快そうに笑う

 

 

『ハッピーバースデー♪ハング・ノーワン。とーってもイカす死にっぷりだったわぁ♪』

 

 

まずは母親を締め上げて首の骨を砕いて灰の炎で焼いた

姉さんを見ようとしなかった罰だ。当然の報いだ

 

そして姉さんの担任も締め殺して燃やした

因果応報だ。悪辣教師め、罪人め

 

死んだ姉さんの代わりに「私が姉さんになった」

 

学園にはまだゴミが2人いる

逃がさない

 

その次は、同じゴミども

 

生きるに値しないゴミは、私が許さない

 

みんなみんな、罰を受けろ

みんなみんな、私が殺してやる

 

姉さん以上に苦しめて、地獄に落としてやる…‼︎

私が、ゴミを裁く「くくり様」になってやる…‼︎

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

迫り来るハング・ノーワンに輪音(りんね)が後ずさる

 

【辛い?悲しい?そうね、張り裂けるほど苦しかった。姉さんが自殺したって知った時、私の世界は一気に灰色になった】

 

ガシャンとハング・ノーワンが壁に巨腕を叩きつけ、ひしゃげさせる

 

【その痛みと、あのゴミどもの死の悲しみが、同じ?そんな訳ない‼︎生きるに値しないゴミたちなんか、死んで当然なんだよォ!!】

 

ハング・ノーワンが振り回すロープを辛くも避け、転びながらも輪音(りんね)はハング・ノーワンから逃げる

 

それをハング・ノーワンは追い、下り階段に向かおうとしたその目前に伸ばした拳を叩きつける

 

【逃すかぁ…‼︎】

「ーッ⁉︎」

 

思わず輪音(りんね)は上り階段を駆け上がって逃走していく

 

 

案の定、屋上まで出たがそこから逃げる道などありはしない

 

柵に手を突き、冷や汗を垂らす輪音(りんね)の首にロープが巻きつき締め上げる

 

「かッ!?」

 

後方に引っ張られ転倒し、締まるロープを掴むが固く結ばれたそれは解ける気配はない

 

【ゴミを庇うお前も、罪人だ…‼︎死んで、苦しんで償え…‼︎】

 

ギリギリ、とロープを引き寄せる度に輪音(りんね)の首が締まり、苦悶の息が漏れる

 

「こ、んなこと…もう、やめ…てッ‼︎」

 

首が締まりながらも輪音(りんね)はハング・ノーワンー綾奈(あやな)に言葉を投げかける

 

「お姉さんが死んだことは…悲しいかも、しれない…私だっ、て…母さんが死んだ、ら……ッ、きっと辛いから…」

 

「でも、だから、って…命を奪う理由には、ならない…ッ‼︎そんなことで……、お姉、さんはッ…喜ばない…ッ‼︎」

 

輪音(りんね)の言葉にハング・ノーワンは更にロープを引き、その首を締め上げていく

 

【うるさい、うるさい‼︎何も知らないお前が、姉さんを語るな‼︎】

 

ギリリ…と締まるロープ

段々と薄くなっていく意識の中、何かを掴もうと手を伸ばすが何も掴めるはずもなくー

 

 

ーブォンッ!!

 

 

消えゆく意識の中でも鮮明な、重い排気音が響いた

 

【があっ!?】

 

衝撃音と共に何かが倒れる音が響き、首のロープが緩まる

 

けほ、けほっと咳き込む輪音(りんね)が誰かに助け起こされ、屋上端のフェンスに下ろされる

 

「間に合った…良かった」

 

そこにいたのは黒い骸骨マスクの怪人ー仮面ライダーレクイエムだった

 

「十、三さん……」

 

安堵の息を漏らす輪音にホッと息をついたレクイエムが首を振りながらその額を指で弾く

 

「っ⁉︎」

「無茶なことをするな‼︎ノーワンの危険性は、よく見てきただろう」

 

レクイエムが少し語気を強めて告げる

ばつが悪そうに顔を反らして頭を掻く

 

「………昨日は、悪かった」

 

輪音(りんね)を庇うように立ち上がり、背中越しに語りかける

 

「一般人で、関係のないキミを巻き込みたくなかったのは本当だ。だが…それと同じく、キミが力になると言ってくれたことも嬉しかった」

 

振り向き、輪音(りんね)に指差しながらレクイエムー十三(じゅうぞう)が釘を差す

 

「だが、無茶は絶対するな。俺やキャンドルも、どこにでも来れるワケじゃない」

 

その言葉を聞き、輪音(りんね)は力無く苦笑し気を失う

 

 

【またお前か…‼︎邪魔をするなァ!!!】

 

立ち上がったハング・ノーワンが腕を震わせながら吠える

 

「……悪いが、何度でも邪魔するさ」

 

レクイエムはハング・ノーワンに向き直る

 

「ノーワンの、非死者の起こす惨劇も、二度目の死も、どんな形であれそれは耐え難い悲しみを生む」

 

レクイエムは胸の前でその拳を握る

 

「お前の辛さは分からずとも、それは痛いほどわかってるんだよ」

 

黒い骸骨面の怪人が非死者に指を突きつける

 

 

「ー俺の名は『鎮魂歌(レクイエム)』、お前たちの生と死に白黒付けてやる‼︎」

 

 

それを給水塔の頂上から眺めていたシャンデリアが嗤う

 

『カッコつけてるとこ悪いけど、あんたハングにパワー負けしてるの忘れたのぉ?あんたじゃ、あたしのお気に入りには勝てないの』

 

「ああ、そうだな。俺は『弱い』し、『臆病者』だろう」

 

レクイエムは肩を竦め、一枚のアルカナを取り出す

黒いディスプレイのアニマアルカナを

 

 

「ーそんな臆病者の魂一つ、たまには…『悪魔』に賭けてやるのも悪くない」

 

 

アニマアルカナの起動スイッチをレクイエムが押す

黒いディスプレイに、脈動する心電図が走る

 

 

《フィフティーン:デビル》

 

 

『ーなんですって?』

 

シャンデリアの顔色が変わる

 

デスサイズドライバーの《(デス)》のアルカナを外し、新たに手にしていたアニマアルカナを装填し、下げた右親指を一文字に引き、ドライバーのレバー下ろす

 

 

《エクスキューション・アップ》

《リバース・デビル》

 

 

レクイエムの首にギロチン台が現れ、今一度その首が切り落とされる

 

それを右手で力強く掴むと、黒い炎に覆われた全身が変化していく

 

コートを靡かせるライダースーツのようなスーツから、燕尾服のようなスーツに変化し、腕や足に炎のラインが走り紫に輝く

 

更に手と足からは鋭い爪が伸び、腰にわだかまる炎を晴らしながら細く長い一対のコウモリのような翼と鋭い鏃のような切先を持つ尻尾が伸びて鞭打つ

 

マフラーのようにたなびく首の炎の上にヘルメットを被るかのように落ちた頭を戻すと、首元から2本のギロチンが頭頂に向けて下り、悪魔のツノのようなバイザーを完成させる

 

 

黒と紫の炎を尻尾で薙ぎ払いながら現れた新たなレクイエムはかちかちと爪を鳴らしながらハング・ノーワンに告げる

 

 

「ここからは、悪魔的に行かせてもらう‼︎」

 

 

【黙れぇ!!!】

 

ハング・ノーワンがその巨腕を振るう

 

レクイエムはそれを避けることもなく、右拳をぐっぱっと開くと強く握り直し、そのまま渾身のストレートで巨拳にぶつかる

 

強い衝撃音が屋上に響く

 

一瞬の拮抗の後、弾けたのはハング・ノーワンの巨腕の方だった

黒紫の炎が迸り、爆ぜた拳にハング・ノーワンが狼狽える

 

【は、はぁ!?な、んで…⁉︎】

 

「こいつは…凄まじいパワーだな」

 

思わず呟くレクイエムの言葉をシャンデリアの声が遮る

 

『な、なんなのよそれェッ!!!』

 

観戦していたシャンデリアが降り立ち、巻物からの炎弾を放つ

レクイエムは腰の翼を大きく羽ばたかせその炎弾を掻き消す

 

たじろぎながらも巻物を鞭にした攻撃を放つが、腰を捻って尻尾を向けたレクイエムの尾撃に弾き返され、返す一撃を食らって後退する

 

『ぐううっ!?』

 

レクイエムに纏わりつく黒紫の炎の中から何かが飛び出し、その手に収まる

 

《グルートマホーク》

 

現れたのは柄に回転する円盤の付いた炎のような形の刃を持つトマホークだった

 

「武器まで生み出せるのか。ありがたい」

 

開かれたスロットに気づき、ホルダーに収めていたアニマライターのイグナイターを回し、グルートマホークのスロットに収める

 

《イグニッション:デビル》

 

スロットされると共に炎刃が黒紫に輝く

 

『だからなんだってのよぉ!!』

 

シャンデリアが半ばヒステリックに巻物を振り回す

 

レクイエムはグルートマホークの円盤を回し、刃に纏う炎を噴き上げさせると、襲いくる巻物を炎の斧撃で撃ち落とす

 

鞭撃が緩んだ瞬間、グルートマホークの円盤を何度も回転させる

 

《MAXイグニッション》

 

噴き上がる炎が更に巨大な刃を作り出し、肩に担ぐようにグルートマホークを構えて振り抜く

 

間一髪巻物を展開して防いだシャンデリアだが、その強烈な一撃に堪らず吹き飛ばされる

 

『がぁっ!?』

 

地に伏すシャンデリアをいつのまにか給水塔の上に腰掛けたキャンドルが見下ろしからからと笑う

 

「いい様だなぁ、シャンデリア。実に愉快だ」

『あんた、キャンドル!!』

 

憎々しげに見上げるシャンデリアにひらひらと手にしたタロットカードを見せびらかす

 

 

「なぁ、シャンデリア。《悪魔》の逆位置にはいい意味があるんだ」

 

「屈服された状態からの解放。どうだ?力しか能が無いあのノーワンをぶっ飛ばすにはちょうどいいアルカナだろう?」

 

 

【がァァァァ!!!】

 

弾けた拳を無数のロープに解き、それを鞭のように振るうが、レクイエムはそれをグルートマホークで叩き落として肉薄する

 

反撃に奮われたラリアットも今度は片腕で易々と防ぎ、ぐるんっと身を翻しながら蹴りを浴びせてハング・ノーワンを吹き飛ばす

 

 

「ー憎いだろう、恨めしいだろう。それでいい」

 

「ーお前たちの「黒い」モノは、まとめて俺が引き受ける」

 

 

《スリー》

《ツー》

《ワン》

 

 

「ー俺が…いや俺たちが、お前たちを覚えて生きていく」

 

 

レクイエムがドライバーのレバーを下ろす

 

 

《ラスト・エクスキューション》

 

 

左踵のスロットにグルートマホークを装填、ギャリッと火花を散らしながらその脚を振り上げる

 

上がった火花は黒い炎となり、ハングノーワンの首を捉えながら大きなカーブを描き、刃が下るレールとなって引き絞られたレクイエムの左脚に固定される

 

 

「ー俺の名は、レクイエム」

 

「ーお前たちへの、《鎮魂歌》だ」

 

 

ガチャン‼︎

ロックが外れると共に漆黒のギロチンとなった踵落としがハング・ノーワンを切り裂く

 

【が、あ、ァァァァ!!!】

 

ギロチンが降ろされたハング・ノーワンは灰色の炎を上げ爆発

 

崩れる体から白い炎がゆらめき出し、綾辻(あやつじ) 彩奈(あやな)の姿を形取る

 

『あ、あああ……くそ、くそ……』

 

ゆらめく彩奈(あやな)のアニマ残滓は膝を突いて力無く地面に拳を下ろす

 

それを見下ろすレクイエムの隣に、咳き込みながらも立ち上がってきた輪音(りんね)が並ぶ

 

彩奈(あやな)先輩…私もいじめは許しちゃいけないと思います」

 

まっすぐ見据える輪音の目を、泣き腫らした彩奈の目が見上げる

 

「でも、でも…だからって奪い返してしまったら…私たちも同じものになっちゃうとも思うんです」

 

『……‼︎』

 

「………ごめんなさい。解決策でもなんでもないけど、私にはこれくらいしか…」

 

輪音(りんね)の言葉に彩奈(あやな)はぼろぼろと涙を流す

 

『……なんなのよ、もう…これしか、これしかできなかったのに…私が…あんなヤツらと同じに……なってたなんて…』

 

泣きじゃくる彩奈(あやな)の背を誰かの手がさする

そこに現れていたのは、解放された沙彩(さあや)のアニマ残滓だった

 

『姉さん…‼︎』

『ごめんね、彩奈(あやな)ちゃん』

 

泣きじゃくる彩奈(あやな)はそのまま沙彩(さあや)に抱きつく

 

霞んでいく2人の残滓

最後の最後にレクイエムと輪音(りんね)の方を見た沙彩(さあや)は微笑んで頷いた

 

崩れていくアニマの灰をレクイエムは2つの壺に収める

 

隣で鼻を啜る輪音(りんね)にレクイエムが告げる

 

「デスサイズシステムで葬ったノーワンだった人間は、『ノーワンになった死因で死んだこと』になる。ハング・ノーワンとして怪物が暴れたことはなかったことにならないが…どの道この事件は自殺扱い、でなくとも埋葬機関預かりで大きな騒ぎにはならないだろう」

 

「……良かった。2人は、ちゃんと眠れたんですね」

 

微笑む輪音(りんね)にレクイエムは頷く

 

「やったことの清算は、向こうに行ってからだが。まぁ、俺たちにあとできることは、無事を祈ってやることだけだ」

 

綾辻(あやつじ) 彩奈(あやな)」「綾辻(あやつじ) 沙彩(さあや)

2人の姉妹の名が刻まれた壺ー遺灰をたしかに握り、レクイエムが祈りを捧げる

 

それに倣って、輪音(りんね)も2人の遺灰に手を合わせた

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

『キヒヒヒ♪お気に入りが死んじゃったねェ、シャンデリア〜』

 

ランタンが愉快そうに笑いながらシャンデリアの肩を叩く

 

シャンデリアはその手を振り払い、地団駄を踏む

 

『クソッ‼︎クソがッ‼︎あの仮面ライダー…‼︎許さねぇ…‼︎』

 

ランタンに向き直るとヒールで思いっきりその脚を踏みつける

 

『んァア゛…ッ⁉︎痛いすごくッ…‼︎』

『そのアホヅラむかつくんだよ、クソランタンッ‼︎』

 

捨て台詞と共にランタンの脛を思いっきり蹴り飛ばし、ヒステリックに辺りのものを吹き飛ばしながら廃墟の奥に消えていった

 

『おごぉ…めちゃくちゃいたぁい……』

 

脛を抑えてプルプル震えながら倒れ込むランタン

 

それを冷たく見下ろしながらジャック・トーチが立ち上がる

 

『……次はオレが行こう』

『あたた……ンン?トーチくんとうとう動くのかぁい??』

 

悶絶しながらもなんとか近くの廃材に腰掛け直したランタンが首を傾げて問いかける

 

『そろそろ、暴れたくなってきた頃だ』

 

トーチの静かな言葉を聞き、ランタンはその口角を吊り上げる

 

『ほうほう、それは随分と面白そうだネェ♪』




【燃えろ‼︎全部燃えちまえェ!!!】

頻発する不審火
その影にはまたもノーワンの姿が

「クソ親父のことなんか知るかよ」

学園生活を送る輪音にも新たな出会いが訪れていく

「ノーワンもジョンドゥも、記憶さえ残すことは許さない」

ノーワンを追う十三たち
再び衝突する埋葬部隊

そしてそこに《塔》の災いは降り立った

次回
「14の逆位置:『節制』と解放の狼煙」

『さぁ、派手にぶち撒けなぁ!!!』
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