ハング・ノーワンの拳の一撃で吹き飛ばされたレクイエムが地面に叩きつけられ思わず仰反る
【コレで終わりだァァァァァァ!!!】
ハング・ノーワンが両腕を解き、一つに纏めて巨大な拳を作り出す
振り下ろされんとするそれを見上げたレクイエムはなんとか懐から取り出したスマホ端末を起動し、画面に指を走らせる
ーブォンッ!!!
ガードレールにめり込んだまま動きを止めていたグレイブースターのエンジンが再点火し、ハング・ノーワンに突進し、何度もその車体をぶつける
【ぐっ、くっ、このォオ!!!】
グレイブースターの攻撃にハング・ノーワンが気を取られた隙を見てレクイエムはよろよろと立ち上がり、手にしたアニマライターを点火して黒炎の弾丸を周囲に放つ
たまらず腕を戻して防御したハング・ノーワンが視界を取り戻すと、そこにはグレイブースターもレクイエムもいなかった
【逃した…クソォオッ!!!】
破壊し尽くされた道路に更に巨腕を叩きつけ、ハング・ノーワンが絶叫を上げる
『落ち着きなさいな。あんたの力は、あの仮面ライダーすら退けるものなのはよくわかってよかったじゃない』
暴れるハング・ノーワンをシャンデリアが宥める
ふーっ、ふーっ、と荒い息を漏らしながらもハング・ノーワンは怒りを収め、自身の胸に手を当てる
そこから《女教皇》の絵が透かしに映る水が溢れ出した《杯》が描かれたカードが灰色の炎を払いながら現れ、ハング・ノーワンの巨体が人間のものに変わる
シャンデリアも胸からアルカナを取り出して人間体に戻りながら、ハング・ノーワンだったその人間の頬を撫で、舌なめずりしながら微笑む
「あんたはあんたのやりたいように死を振りまけば良いわ。あんたの最高にイカす死を、ね♪」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
変貌したランタンを冷たく睨みつけながらキャンドルは胸をなぞると、そこから浮かび上がるアルカナが灰色の炎に包まれる
《シックス:ラバーズ》
アルカナが胸に沈み込むと共にキャンドルの姿が怪人のものに変貌する
『キヒヒ♪ そこのお嬢さん、この前からずーっと一緒だネェ』
ランタンが不気味に微笑んだかと思うと瞬間、
『ーキミをノーワンにしたらァ…
「あ、あー」
伸ばされる手を前に震えることしかできない
が、その細指が届く前にランタンの腕は掴まれ、捻り上げられる
『ー私の愉しみに、手を出すな…‼︎《
今までに聞いたことのない底冷えのする声がランタンに浴びせられる
ランタンは体をぐねぐねと動かし脱出するとやれやれと肩を竦めながら捻られた腕をぷらぷらと回す
『ジョーク、ジョークよ。怒らないでくれヨ〜』
『お前のジョーク、死ぬほどつまらないのよ』
『こいつは手厳しい…』
あちゃーと額に手を当てながらランタンが大袈裟に仰反る
仰け反った姿勢のままぐりんと首を回し、
『ふーん、へー、ほー、キャンドルのお気に入りネェ…』
ランタンは姿勢を戻し、錫杖をトンと突き立てる
『まぁじゃあ今日はお暇するヨ。それに、ワタシはシャンデリアやトーチみたいなノーワン作らない主義だしィ』
紳士のように一礼しながら灰色に揺らめく炎が覗く伽藍洞の口を歪ませてランタンが笑う
『ではでは、アデュー♪』
ランタンが灰色の炎に包まれ、その姿を消す
残されたキャンドルはふぅ、と息を吐きながら人間体ー
「災難だったねぇ、
「……あれが、ジョンドゥ…」
言葉を失う
「さてと、面倒なヤツの足止めのせいでやらかしたけど…多分愛しの
キャンドルの何気ない言葉に
「
「‼︎」
見知った人の大怪我を見たショックに思わず
「これまたこっぴどくやられたな、
ニヤニヤと笑いながら声をかけた
「その名を、呼ぶなと言ったはず、だ…ッ‼︎」
げほげほっと咳き込む
「
その体を案じた
「反論できる程度には、無事みたいで何よりだ」
救急箱をどこからか取り出してきた
「どういうつもりだ、キャンドル…‼︎」
「……何がだ?」
「とぼけるな…‼︎ノーワンの気配の連絡をしなかった…加えて、お前の渡してきたアニマアルカナは役に立たなかった…‼︎」
はぁ、と
「やはりな。だから言っただろう?アニマアルカナは持ち主のアニマに共鳴しなければ起動しないと」
「……俺に、資格が無いということか…?」
「はっ、見くびるな。私が持つ『置き土産』を忘れたか?お前に合わないアニマアルカナならくれてやるワケが無いだろう?」
妖艶にその指を
「己の内を覗け。お前の、《
「……アルカナはそうだとしても、連絡を怠っていたのはどういうことだ…?お前の下らない退屈しのぎか⁉︎」
「違うよ。珍客の対応で手一杯だったんだ。そこの
肩を竦めながら答える
「そ、それは本当です…‼︎」
そこに割り込んできたのは座ったまま声を上げた
「……
「私を、守ってくれたのも本当です…‼︎
「ーキミに、何がわかる」
心の底から冷えるような声色で
膝の上に置いた鞄を掴みながら
「……あのノーワン…私たちの学園にいるんですよね…」
「………」
「私も、私も力になります…‼︎ きっとー」
「必要ない。キミには関係のない話だ」
「……もう、こちら側には関わるな。キミが来る所じゃない」
その言葉を聞いた
背もたれに身を預けた
「ーふむ、《悪魔》の逆位置だな」
なんの変哲もないタロットを持ち上げる
逆さになった松明を構える《悪魔》のカードを見た
「それがどうした?」
「タロットも知らないのかお前は。それが今のお前だよ」
タロットの紙束をシャッフルしながら壁にもたれかかる
「…なんのつもりだ?」
「自分で調べたらいいだろう?私はそんなつまらんことに興味はないんだから」
その様にため息を吐いた
そこに残る2枚のタロットを見遣り、
(《法王》と《運命の輪》、どちらも正位置)
フッ、と薄く笑いながら
「……退屈はしなさそうだが、どう回るかな?」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
家に帰り着いた
(嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ…‼︎死にたくなんかない‼︎)
心配する母が何度かノックに来ていたが、それも無視して肩を掴んでただただ震える
ーコンコン
再びのノックにぎり、と歯を軋ませる
「うるせーんだよババァ!!!今は1人にー」
【ー罰を受けるときが来たぞ、
底冷えのする声に思わず後退りベットから転げ落ちる
ドアが派手に吹き飛ばされ、あの異形が姿を現した
その手にはロープが伸びている
「いや、いやいやいやァァァァァァ!!!来るなよォ‼︎」
【お前は、生きるに値しない】
同じことを繰り返すハング・ノーワンを震えながらも睨み、
「ざけんな、ざけんなぁ!!ただちょっと遊んでやっただけだろうがァ!!!なんで、なんで死ななきゃなんねぇんだよ!?」
【罪状を覚えているなら、都合がいい】
ハング・ノーワンの投げた縄が
「いや、嫌だ‼︎ママ、ママぁ!!!」
【お前という罪人を庇った母親なら既に罰した】
あっさりと言ったハング・ノーワンに
「………はぁ?」
【私はお前たちを許さない…‼︎お前たちの同類も、それを庇うものも全て許さない…‼︎私が、くくり様が全てを裁く‼︎】
「狂ってやがる…バケモンが‼︎人殺しが!!クソ、クソォ!!」
ーギシッ、ギギッ、ぎちぎちぎち
ーギッ、ギギギ……キシッ
【ー罰は下った】
天井からぶら下がり、ぷらぷらと揺れる振り子を見上げたハング・ノーワンが呟く
【……みんな、みんな殺した。罰した】
【でもまだだ。まだ生きるに値しないヤツらは、生きてる】
ハング・ノーワンの体に埋まる骸骨の頭部、その眼窩の奥の灰色の炎が更に燃え上がる
【ーまだ、殺さなきゃ】
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
翌日
休憩時間に談笑を続ける女子生徒たち
「あ、あの…ちょっといいですか?」
そこに
「えっと…この学校の、七不思議に詳しい人って誰かいない?」
女子生徒たちは首を傾げ、知らないと首を振る
彼女たちに頭を下げ、
「………絶対変な人だって、思われた…」
昼休憩にご飯を早く済ませた
収穫はゼロ。新入生なのだから当然である
『必要ない。キミには関係のない話だ』
今、
(……それでも…)
きゅっ、と
それでも、
否、やりたかったのだ
傷ついた
正直とても怖い。危険なことだと痛いほどわかる
そして彼らのことは、
でも、
(どんな小さな事でも、私は…力になりたい…‼︎)
昼休憩も終わりに近づいた中、ようやく辿り着いた2年生の教室がある階だったが、やはりいきなり踏み込むことは難しかった
(さ、流石にいきなり七不思議がどうとか、聞けない…)
昼休憩も終わりに近づいていたことに気づき、そろそろと去っていこうとしていると
「ーあなた、くくり様の話を聞いて回ってる子?」
突然かけられた声に驚き飛び上がりそうになりながら振り向く
そこにいたのは眼鏡をしたショートヘアの大人しそうな女子生徒。
「えっと…その…はい……」
「そうなのね‼︎ 私、2年の
柔和に微笑みながらそう告げる
「……あなたも、殺したい人がいるのね」
「…え?」
「くくり様はすごいんだよ。本当に、私の殺して欲しい2人を殺してくれたの。いじめを繰り返して、追い詰めて、飽きたら忘れてたあの2人を…」
「あなたもきっと叶えてもらえるよ。くくり様なら、きっと」
「私には、殺したい人はいません」
「……え?」
「くくり様が…何者なのかは分かりません…でも、でも誰かを殺すなんてことは、どんな理由でも許されちゃダメだと思うんです」
「……死んでしまうって、辛くて、悲しいことだから…」
固まる
「私は、くくり様を止めたいんです…‼︎だから、その七不思議を広めた人をー」
その時、予鈴が鳴り響き昼休憩の終わりが近づいていることが知らされる
「あ!ごめんなさい先輩‼︎ また、どこかでお話聞かせてください‼︎」
その姿を
ゾッとするほど冷たい無表情で、ただその背中を見据えていた
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
目を覚ました
動くようになった体の肩を回しながら
『私も、私も力になります…‼︎きっとー』
(……だけど、彼女がこれ以上関わる必要は…)
ふと、目に止まったものを拾いあげる
《悪魔》のタロット
逆さまーつまり逆位置にこちらに向けられたそれを見つめる
『タロットも知らないのか、お前は』
キャンドルのつまらなそうな言葉が脳裏に響く
『
『ああ、でもでも‼︎ 私はこれもきっと悪くないと思うんだ』
同時に、同じ声のーそれでいて別人の声も思い出す
(知っているさ。何度も占ってもらったんだ)
「……『狭量』『弱さ』そして『臆病』、か…」
『それが今のお前自身だ』
キャンドルの言葉を思い出し、自嘲気味に笑う
(間違いない。俺は、臆病者だからな……)
タロットを握る手に力がこもる
机の上に置いていたアニマアルカナー起動しなかったそれを手に取る
「そうだ、俺は臆病者だ。だから、失った」
アニマアルカナを懐にしまい、ポケット越しに叩く
「もう、俺は失わない。失わせない」
ードクンッ
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
放課後になり、人が居なくなった教室
夕焼けが射しつつあるそこの一席には花瓶が立てられ、お菓子などが乱雑に供えられていた
自殺したことになっている
交友関係が広く、色々な友人がいた彼女
『ねーねー、金貸してよ。あんたどうせ使わないでしょ?』
『生意気。根暗のクセに口答えしてんじゃねぇよ』
昼間は色んな生徒が泣きながらお菓子やら小物を供えていたりもした
『あっはは‼︎くっさー。あんたにはお似合いだよ』
『金貸してくんないからこうなるんだよ』
その前に立つ女子生徒がそれを力任せに床に落とす
ガシャ、ガシャン‼︎と派手な音が空の教室に響き渡り、割れた花瓶から水が広がる
空いた机に女子生徒は、力任せに彫刻刀を突き立てる
何度も、何度も、何度も
机を押さえつけ、怨嗟を込めて、その机に深い傷を刻んでいく
『死んでしまうって、辛くて、悲しいことだから…』
昼間のあの少女の言葉がフラッシュバックし、怒りのままにその机を蹴り飛ばして転ばせて踏みつける
「辛い?悲しい?こんな、こんなクズが、ゴミが死んでなんで、なんで悲しむの!?誰も、誰も姉さんの時には悲しまなかったクセに!!」
ふー、ふーと肩を揺らす女子生徒ー
その胸をかきむしり、どこからか灰色のぼろぼろのアルカナを取り出す
背景に《女教皇》の透かしが入った、水の溢れる《杯》のカードを
「あいつも、あいつも腐った罪人だ…殺してやるッ‼︎」
学園の屋上
給水塔に腰掛けた人影、黒いフリルで彩った学生服を着たシャンデリアは愉快そうにきししと歯を見せて笑う
「『生きていたい』、生にしがみつく想いで私たちはノーワンを作っていく。でぇもぉ、それって別に死にかけてるヤツだけの特権じゃないワケ」
かりかりと爪を齧りながらシャンデリアは笑う
「たとえば、『生きてて欲しかった』ってのもさぁ、生にしがみつく強い想いってワケじゃん?」
「その命を捧げてぇ、呑気に生きてるヤツを引き摺り下ろして絶望させて踏みつける……そういう『死』、最高にイカすわよねぇ♪」
夕焼けの廊下をのろのろと帰る
一応、
「……さっきの
と、ふと前を見た
ちょうど探しに行こうとしていた
「あ、
声をかけようとした手を引く
「……死んだら悲しむ?辛い…?あは、あはははッ‼︎」
突如狂ったように笑い出す
怒りのこもった灰色の目が、
「あんなゴミども、死んで当然だろうがッ!!!」
炎に包まれたその体は膨張し、ハング・ノーワンに変貌して新たに姿を露わにする
「
【2人、2人殺した‼︎私が、『くくり様』が‼︎】
ハング・ノーワンは巨腕を振り回しながら慟哭する
【これで、これでもっと、もっと『くくり様』を広めれば、ゴミはいなくなる‼︎生きるに値しないクズを、全部殺せる‼︎姉さんみたいな、犠牲者を生む前に、全部全部全部ゥ!!!】
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ハング・ノーワンー
その手には姉の写真。微笑んで一緒に映る大好きな姉
そんな姉はもういない
自殺したのだ
姉は、いじめられていた
『この度は、私どもの至らなさでー』
黙れ、姉の訴えを聞かなかった癖に
見て見ぬふりした癖に…‼︎
『もっと、あの子の話を聞いてあげたらー』
黙れ黙れ、姉が無駄遣いしていると訳も聞かず怒鳴った癖に
話なんて最初から聞こうとしなかった癖に…‼︎
『ちょっとした意地悪で大袈裟にしちゃってー』
黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ‼︎
人殺しどもが‼︎人殺しどもが‼︎
憧れで、優しくて頼りになる大好きな姉
私にできないことがたくさんできる姉
そんな姉を、奪われた
私以外、姉の死をなんとも思っていない
『生きて欲しかった、のよねぇ?』
突然部屋に響いた声に
蝋燭と金属装飾で彩られた灰色のドレスを纏う怪人がそこにはいた
「ひ、ば、化け物…⁉︎」
『あら、化け物なんてひどいわ。あたしたちは、最高の死に選ばれた民なのにぃ』
怪人は
『あんた、姉さんに生きてほしかったのよねぇ?姉さんを追い詰めたヤツらのこと、死ぬほど憎いのよねぇ?』
怪人の言葉に、不思議と恐怖よりも先に怒りが沸々と再燃してくる
その
そこから黒い炎が浮かび上がり、先端に首が通りそうな輪を作った黒いロープに変化する
『ここにあなたの姉さんの死を形にした縄があるわ。生きていくのに絶望して、苦しんで苦しんで死んだ死の
ぱさり、とその縄が
『ーあんたの生への妄念、それと混ぜちゃえば…あんたもあたしたちと同じ超人になれる。復讐だって、簡単にできるわよ?』
その言葉を聞いた
天井からぶら下げた縄に首を通し、台を蹴飛ばす
「ッ、ぐゥ……ッ!?」
ギリギリギリ、と首が締まり苦悶の声が漏れる
バタバタと足をバタつかせながらもがく
苦しい、苦しい苦しい苦しい
姉さんは、これを選んだ
これを選ぶしかないほど、生きるのはもっと苦しかった
憎い、憎い、憎い…‼︎
姉を地獄に落として、自分たちは生きる連中が憎い‼︎
痙攣が止まり、だらんと
縄が黒い炎を上げて燃え上がり、
溶け合い、複雑な縄細工のように絡み合った灰色の炎がハング・ノーワンの巨体を形作る
【ヴァァァァァ‼︎ゴミには、死を…苦しみと死をォ‼︎】
その胸に燦々と輝く《杯》のアルカナを見た怪人ーシャンデリアが愉快そうに笑う
『ハッピーバースデー♪ハング・ノーワン。とーってもイカす死にっぷりだったわぁ♪』
まずは母親を締め上げて首の骨を砕いて灰の炎で焼いた
姉さんを見ようとしなかった罰だ。当然の報いだ
そして姉さんの担任も締め殺して燃やした
因果応報だ。悪辣教師め、罪人め
死んだ姉さんの代わりに「私が姉さんになった」
学園にはまだゴミが2人いる
逃がさない
その次は、同じゴミども
生きるに値しないゴミは、私が許さない
みんなみんな、罰を受けろ
みんなみんな、私が殺してやる
姉さん以上に苦しめて、地獄に落としてやる…‼︎
私が、ゴミを裁く「くくり様」になってやる…‼︎
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
迫り来るハング・ノーワンに
【辛い?悲しい?そうね、張り裂けるほど苦しかった。姉さんが自殺したって知った時、私の世界は一気に灰色になった】
ガシャンとハング・ノーワンが壁に巨腕を叩きつけ、ひしゃげさせる
【その痛みと、あのゴミどもの死の悲しみが、同じ?そんな訳ない‼︎生きるに値しないゴミたちなんか、死んで当然なんだよォ!!】
ハング・ノーワンが振り回すロープを辛くも避け、転びながらも
それをハング・ノーワンは追い、下り階段に向かおうとしたその目前に伸ばした拳を叩きつける
【逃すかぁ…‼︎】
「ーッ⁉︎」
思わず
案の定、屋上まで出たがそこから逃げる道などありはしない
柵に手を突き、冷や汗を垂らす
「かッ!?」
後方に引っ張られ転倒し、締まるロープを掴むが固く結ばれたそれは解ける気配はない
【ゴミを庇うお前も、罪人だ…‼︎死んで、苦しんで償え…‼︎】
ギリギリ、とロープを引き寄せる度に
「こ、んなこと…もう、やめ…てッ‼︎」
首が締まりながらも
「お姉さんが死んだことは…悲しいかも、しれない…私だっ、て…母さんが死んだ、ら……ッ、きっと辛いから…」
「でも、だから、って…命を奪う理由には、ならない…ッ‼︎そんなことで……、お姉、さんはッ…喜ばない…ッ‼︎」
【うるさい、うるさい‼︎何も知らないお前が、姉さんを語るな‼︎】
ギリリ…と締まるロープ
段々と薄くなっていく意識の中、何かを掴もうと手を伸ばすが何も掴めるはずもなくー
ーブォンッ!!
消えゆく意識の中でも鮮明な、重い排気音が響いた
【があっ!?】
衝撃音と共に何かが倒れる音が響き、首のロープが緩まる
けほ、けほっと咳き込む
「間に合った…良かった」
そこにいたのは黒い骸骨マスクの怪人ー仮面ライダーレクイエムだった
「十、三さん……」
安堵の息を漏らす輪音にホッと息をついたレクイエムが首を振りながらその額を指で弾く
「っ⁉︎」
「無茶なことをするな‼︎ノーワンの危険性は、よく見てきただろう」
レクイエムが少し語気を強めて告げる
ばつが悪そうに顔を反らして頭を掻く
「………昨日は、悪かった」
「一般人で、関係のないキミを巻き込みたくなかったのは本当だ。だが…それと同じく、キミが力になると言ってくれたことも嬉しかった」
振り向き、
「だが、無茶は絶対するな。俺やキャンドルも、どこにでも来れるワケじゃない」
その言葉を聞き、
【またお前か…‼︎邪魔をするなァ!!!】
立ち上がったハング・ノーワンが腕を震わせながら吠える
「……悪いが、何度でも邪魔するさ」
レクイエムはハング・ノーワンに向き直る
「ノーワンの、非死者の起こす惨劇も、二度目の死も、どんな形であれそれは耐え難い悲しみを生む」
レクイエムは胸の前でその拳を握る
「お前の辛さは分からずとも、それは痛いほどわかってるんだよ」
黒い骸骨面の怪人が非死者に指を突きつける
「ー俺の名は『
それを給水塔の頂上から眺めていたシャンデリアが嗤う
『カッコつけてるとこ悪いけど、あんたハングにパワー負けしてるの忘れたのぉ?あんたじゃ、あたしのお気に入りには勝てないの』
「ああ、そうだな。俺は『弱い』し、『臆病者』だろう」
レクイエムは肩を竦め、一枚のアルカナを取り出す
黒いディスプレイのアニマアルカナを
「ーそんな臆病者の魂一つ、たまには…『悪魔』に賭けてやるのも悪くない」
アニマアルカナの起動スイッチをレクイエムが押す
黒いディスプレイに、脈動する心電図が走る
《フィフティーン:デビル》
『ーなんですって?』
シャンデリアの顔色が変わる
デスサイズドライバーの《
《エクスキューション・アップ》
《リバース・デビル》
レクイエムの首にギロチン台が現れ、今一度その首が切り落とされる
それを右手で力強く掴むと、黒い炎に覆われた全身が変化していく
コートを靡かせるライダースーツのようなスーツから、燕尾服のようなスーツに変化し、腕や足に炎のラインが走り紫に輝く
更に手と足からは鋭い爪が伸び、腰にわだかまる炎を晴らしながら細く長い一対のコウモリのような翼と鋭い鏃のような切先を持つ尻尾が伸びて鞭打つ
マフラーのようにたなびく首の炎の上にヘルメットを被るかのように落ちた頭を戻すと、首元から2本のギロチンが頭頂に向けて下り、悪魔のツノのようなバイザーを完成させる
黒と紫の炎を尻尾で薙ぎ払いながら現れた新たなレクイエムはかちかちと爪を鳴らしながらハング・ノーワンに告げる
「ここからは、悪魔的に行かせてもらう‼︎」
【黙れぇ!!!】
ハング・ノーワンがその巨腕を振るう
レクイエムはそれを避けることもなく、右拳をぐっぱっと開くと強く握り直し、そのまま渾身のストレートで巨拳にぶつかる
強い衝撃音が屋上に響く
一瞬の拮抗の後、弾けたのはハング・ノーワンの巨腕の方だった
黒紫の炎が迸り、爆ぜた拳にハング・ノーワンが狼狽える
【は、はぁ!?な、んで…⁉︎】
「こいつは…凄まじいパワーだな」
思わず呟くレクイエムの言葉をシャンデリアの声が遮る
『な、なんなのよそれェッ!!!』
観戦していたシャンデリアが降り立ち、巻物からの炎弾を放つ
レクイエムは腰の翼を大きく羽ばたかせその炎弾を掻き消す
たじろぎながらも巻物を鞭にした攻撃を放つが、腰を捻って尻尾を向けたレクイエムの尾撃に弾き返され、返す一撃を食らって後退する
『ぐううっ!?』
レクイエムに纏わりつく黒紫の炎の中から何かが飛び出し、その手に収まる
《グルートマホーク》
現れたのは柄に回転する円盤の付いた炎のような形の刃を持つトマホークだった
「武器まで生み出せるのか。ありがたい」
開かれたスロットに気づき、ホルダーに収めていたアニマライターのイグナイターを回し、グルートマホークのスロットに収める
《イグニッション:デビル》
スロットされると共に炎刃が黒紫に輝く
『だからなんだってのよぉ!!』
シャンデリアが半ばヒステリックに巻物を振り回す
レクイエムはグルートマホークの円盤を回し、刃に纏う炎を噴き上げさせると、襲いくる巻物を炎の斧撃で撃ち落とす
鞭撃が緩んだ瞬間、グルートマホークの円盤を何度も回転させる
《MAXイグニッション》
噴き上がる炎が更に巨大な刃を作り出し、肩に担ぐようにグルートマホークを構えて振り抜く
間一髪巻物を展開して防いだシャンデリアだが、その強烈な一撃に堪らず吹き飛ばされる
『がぁっ!?』
地に伏すシャンデリアをいつのまにか給水塔の上に腰掛けたキャンドルが見下ろしからからと笑う
「いい様だなぁ、シャンデリア。実に愉快だ」
『あんた、キャンドル!!』
憎々しげに見上げるシャンデリアにひらひらと手にしたタロットカードを見せびらかす
「なぁ、シャンデリア。《悪魔》の逆位置にはいい意味があるんだ」
「屈服された状態からの解放。どうだ?力しか能が無いあのノーワンをぶっ飛ばすにはちょうどいいアルカナだろう?」
【がァァァァ!!!】
弾けた拳を無数のロープに解き、それを鞭のように振るうが、レクイエムはそれをグルートマホークで叩き落として肉薄する
反撃に奮われたラリアットも今度は片腕で易々と防ぎ、ぐるんっと身を翻しながら蹴りを浴びせてハング・ノーワンを吹き飛ばす
「ー憎いだろう、恨めしいだろう。それでいい」
「ーお前たちの「黒い」モノは、まとめて俺が引き受ける」
《スリー》
《ツー》
《ワン》
「ー俺が…いや俺たちが、お前たちを覚えて生きていく」
レクイエムがドライバーのレバーを下ろす
《ラスト・エクスキューション》
左踵のスロットにグルートマホークを装填、ギャリッと火花を散らしながらその脚を振り上げる
上がった火花は黒い炎となり、ハングノーワンの首を捉えながら大きなカーブを描き、刃が下るレールとなって引き絞られたレクイエムの左脚に固定される
「ー俺の名は、レクイエム」
「ーお前たちへの、《鎮魂歌》だ」
ガチャン‼︎
ロックが外れると共に漆黒のギロチンとなった踵落としがハング・ノーワンを切り裂く
【が、あ、ァァァァ!!!】
ギロチンが降ろされたハング・ノーワンは灰色の炎を上げ爆発
崩れる体から白い炎がゆらめき出し、
『あ、あああ……くそ、くそ……』
ゆらめく
それを見下ろすレクイエムの隣に、咳き込みながらも立ち上がってきた
「
まっすぐ見据える輪音の目を、泣き腫らした彩奈の目が見上げる
「でも、でも…だからって奪い返してしまったら…私たちも同じものになっちゃうとも思うんです」
『……‼︎』
「………ごめんなさい。解決策でもなんでもないけど、私にはこれくらいしか…」
『……なんなのよ、もう…これしか、これしかできなかったのに…私が…あんなヤツらと同じに……なってたなんて…』
泣きじゃくる
そこに現れていたのは、解放された
『姉さん…‼︎』
『ごめんね、
泣きじゃくる
霞んでいく2人の残滓
最後の最後にレクイエムと
崩れていくアニマの灰をレクイエムは2つの壺に収める
隣で鼻を啜る
「デスサイズシステムで葬ったノーワンだった人間は、『ノーワンになった死因で死んだこと』になる。ハング・ノーワンとして怪物が暴れたことはなかったことにならないが…どの道この事件は自殺扱い、でなくとも埋葬機関預かりで大きな騒ぎにはならないだろう」
「……良かった。2人は、ちゃんと眠れたんですね」
微笑む
「やったことの清算は、向こうに行ってからだが。まぁ、俺たちにあとできることは、無事を祈ってやることだけだ」
「
2人の姉妹の名が刻まれた壺ー遺灰をたしかに握り、レクイエムが祈りを捧げる
それに倣って、
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
『キヒヒヒ♪お気に入りが死んじゃったねェ、シャンデリア〜』
ランタンが愉快そうに笑いながらシャンデリアの肩を叩く
シャンデリアはその手を振り払い、地団駄を踏む
『クソッ‼︎クソがッ‼︎あの仮面ライダー…‼︎許さねぇ…‼︎』
ランタンに向き直るとヒールで思いっきりその脚を踏みつける
『んァア゛…ッ⁉︎痛いすごくッ…‼︎』
『そのアホヅラむかつくんだよ、クソランタンッ‼︎』
捨て台詞と共にランタンの脛を思いっきり蹴り飛ばし、ヒステリックに辺りのものを吹き飛ばしながら廃墟の奥に消えていった
『おごぉ…めちゃくちゃいたぁい……』
脛を抑えてプルプル震えながら倒れ込むランタン
それを冷たく見下ろしながらジャック・トーチが立ち上がる
『……次はオレが行こう』
『あたた……ンン?トーチくんとうとう動くのかぁい??』
悶絶しながらもなんとか近くの廃材に腰掛け直したランタンが首を傾げて問いかける
『そろそろ、暴れたくなってきた頃だ』
トーチの静かな言葉を聞き、ランタンはその口角を吊り上げる
『ほうほう、それは随分と面白そうだネェ♪』
【燃えろ‼︎全部燃えちまえェ!!!】
頻発する不審火
その影にはまたもノーワンの姿が
「クソ親父のことなんか知るかよ」
学園生活を送る輪音にも新たな出会いが訪れていく
「ノーワンもジョンドゥも、記憶さえ残すことは許さない」
ノーワンを追う十三たち
再び衝突する埋葬部隊
そしてそこに《塔》の災いは降り立った
次回
「14の逆位置:『節制』と解放の狼煙」
『さぁ、派手にぶち撒けなぁ!!!』