仮面ライダーレクイエム   作:リョウギ

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第6話「14の逆位置:不器用な親娘を繋ぐもの」

「ダメェェェェェェェェ!!!!」

 

正義(せいぎ)が放つ純白のエネルギー弾の前に輪音(りんね)が飛び出す

 

「ーッ!?(つなし) 輪音(りんね)!?」

 

驚愕した正義(せいぎ)が絶叫する

しかし、放たれたエネルギー弾はもう止めることはできない

 

「クッ!?」

 

トーチの巨腕に捕まり縛り上げられていたレクイエムはもがきながらもなんとかドライバーに手を伸ばし、アニマアルカナを交換する

 

『ガハハハハ‼︎オラァ!!!』

 

トーチは豪快に笑いながら縛り上げたレクイエムをそのまま近くのビルの壁面に力任せに叩きつける

 

衝撃で壁面が大きくヒビ割れ、陥没する

 

「ぐっ……あっ……!?」

『オイオイどうしたお前?手品はもう無いのかよ⁉︎』

「いいや…あるねッ‼︎」

 

《リバース・テンパランス》

《MAXイグニッション》

 

『ーあん?』

 

テンパランスフォームに変身したレクイエムがブラストロフィーをドッキングさせトーチの胸に押し当て、ゼロ距離で放つ

 

『グッ、おぉッ!?』

 

派手な火花を散らしながらトーチが爆炎に包まれ、拘束が外れる

 

 

《リバース・デス》

《ラスト・エクスキューション》

 

「ーはぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」

 

 

緩んだ拘束から離脱したレクイエムがそのまま逆噴射の勢いを利用し、デスフォームに変身しながら輪音(りんね)の前に降り立つと、エネルギー弾に向け断頭台が出現、右脚の先に現れたギロチン刃を装填し黒い炎を纏うあびせ蹴りを放つ

 

白い稲妻と黒い炎がぶつかり合い火花を散らし、しばらく拮抗するがレクイエムの蹴りが打ち勝ち、エネルギー弾を霧散させる

 

「…無茶をするなって言った側から…キミってヤツは…」

 

レクイエムがよろめき、膝を突く

 

「じゅーレクイエムさん⁉︎」

 

その体をなんとか輪音(りんね)が支える

 

 

『ガッハッハッハ‼︎今のは効いたぜぇ‼︎』

 

 

燃え上がる爆炎を描き消しトーチが姿を現す

レクイエムの必殺の一撃をゼロ距離で受けたにも関わらずその体には目立った損傷がなかった

 

「バケモノめ…‼︎」

 

レクイエムが悪態を吐き出す

 

『本当ならもうちょい遊びてぇが、バーナーのヤツはまた不安定化して逃げちまったみてぇだし…今日はお開きだな』

 

炎上する町工場の方を振り返り、いつの間にか消えていたバーナー・ノーワンを確認して去ろうとするトーチの背に声が投げかけられる

 

「なんで、なんであの人にこんなことを⁉︎」

 

叫んだのは輪音(りんね)だった

 

『あン?あの人?バーナーの生前のことか?』

「あの人は……自分を抑え込んだんじゃない‼︎未来のために道を選んで、今の幸福を掴んだんです‼︎それなのに、それなのにその幸せをあなたは…ッ‼︎」

 

トーチが頭の炎を揺らめかせる

 

 

『幸せぇ?押さえ込んだもん噴き出して暴れんの最高に気持ちいいだろうがよ』

 

 

「ーは?」

 

『押さえたモン吐き出しまくって暴れて、押さえ込んだ「オレ」をのうのうと生きてきた連中の脳に刻み込む‼︎ガハハハハ‼︎最高のショーだろう?なぁ⁉︎』

 

トーチが愉快そうに語るその言葉に輪音(りんね)が首を振る

 

「…ランタンもシャンデリアもそうだったが…お前もやはりジョンドゥだな…」

 

荒い息を吐き出しながらレクイエムがトーチを睨む

 

「お前も…あの2体に負けないゲス野郎だ…‼︎」

 

『はっ、知るかよ。お前らの価値観なんざ』

 

トーチが肩を回す

 

『ったく、シラけちまった』

 

拳を打ち合わせたトーチの体の各所から廃棄熱の水蒸気が吹き出す

手甲を巨大砲塔に戻したトーチの頭部の炎が一回り小さくなる

 

『……また会おう。仮面ライダー』

 

先程までの荒々しい言葉とはうって変わった無感情な声で告げ、トーチが大砲で地面を盛大に吹き飛ばし、土煙に紛れて姿を消した

 

 

呆然としていた輪音(りんね)を通り過ぎ、隣にいたレクイエムに向け正義(せいぎ)が機関銃を向ける

 

レクイエムはまだダメージが残っているのか立ち上がれないでいた

 

「非死者0号、今ここでお前をー」

 

その銃口の間に輪音(りんね)が両手を広げて割り込む

 

「……(つなし) 輪音(りんね)、どけ。それは滅ぼすべき化け物だ」

 

輪音(りんね)は唇をギュッと噛み締め、首を振る

 

「どきません‼︎この人は、化け物じゃない‼︎」

「以前問いただした時、君は非死者0号とは関わりが無いと言っていたと思うが……あれは虚偽だったのか?」

 

正義(せいぎ)の冷たい瞳が輪音(りんね)を睨む

 

「…それについては謝ります。でも、私はこの人を怪物だなんて思いたくないんです‼︎」

 

毅然と輪音(りんね)が言い放つ

 

「この人は…レクイエムは、ノーワンやジョンドゥと戦っています‼︎そんな彼が、ノーワンたちと同じなはずがないじゃないですか‼︎」

「人智を超えた力を振るっている時点でそいつは悪だ‼︎どんな理由があれ、怪物と類似した力を振り回すそいつも排除することが正義のはずだ‼︎」

 

機関銃にかけた指に力を込め始める正義(せいぎ)と未だに立ち上がれないほど消耗したレクイエムを見て輪音(りんね)は叫ぶ

 

 

「こんな、こんなボロボロになってまでノーワンたちと戦うこの人に、銃を向けることがあなたの『正義』なんですか⁉︎」

 

 

輪音(りんね)の言葉に正義(せいぎ)が目を見開く

 

機関銃の銃口が下げられる

言葉が届いたのか、と輪音(りんね)が手を下ろしかける

 

ギリッ、と歯を噛み締めた正義(せいぎ)が機関銃で輪音(りんね)を押し退ける

 

「きゃっ⁉︎」

 

尻餅を付いた輪音(りんね)の前で正義(せいぎ)は今度こそレクイエムに銃口を突きつける

 

「……一般人の女の子を突き飛ばすのが、お前の正義なのか」

「黙れ‼︎怪物が…ッ‼︎」

 

機関銃の引き金が引かれる

 

瞬間、正義(せいぎ)の横から飛んできた灰色の炎を揺らめかせる蝶が肩口に止まり、小爆発を起こし正義(せいぎ)を吹き飛ばす

 

「がはっ!?」

 

驚く輪音(りんね)の目前に大量の灰色の蝶が舞う

 

『ああ、確かお前にはまだ言ったことがなかったかな?埋葬部隊のイノシシくん』

 

炎の白衣と蝋の髪を揺らめかせ、コツコツとヒールを鳴らしながら怪人の姿になったジャクリーン・キャンドルが姿を現す

 

 

『ー私のお気に入りに傷を付けたら、灰すら残さないぞ』

 

 

いつもの妖艶さを纏いながら、いつも以上に殺意をみなぎらせてキャンドルが正義(せいぎ)を見下ろし告げる

 

キャンドルが手をかざすと灰色の蝶の群れが周囲に渦巻き、輪音(りんね)とレクイエムを包み込むといくつかの爆発の火柱を残し3人の姿が霧散する

 

降り始めた雨が町工場に燻る炎を弱めていく

 

一人残された正義(せいぎ)は、感情のままに拳を地面に叩きつけた

 

 

「怪物は……皆殺さねばならないんだッ‼︎」

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「ヒラさん今日は来れないってよ。ギックリ腰やらかしたらしくて」

 

翌日の部活

(かなえ)がそんなことを報告しながらキャンバスや画材を用意していく

 

(あの傷と疲労でしたし、仕方ないですよね…)

 

 

あの後退却した3人はすぐに平坂(ひらさか)霊園に戻っていた

変身解除した十三(じゅうぞう)はかなり消耗しており、肋骨もいくらか折れていたらしい

キャンドルー六黒(むくろ)が治療をするとのことで輪音(りんね)はすぐに家に帰った故にそれ以降のことは知らなかったのだが、やはりすぐに快復とは行かなかったようだ

 

 

「…………」

 

五月(さつき)は肩を落としてじっと無地のキャンバスに向かっていた

活発な五月(さつき)には似合わない様子に輪音(りんね)が唇を噛む

 

(東吾(とうご)さんは、ノーワンになってしまっている…もう元には戻れない。十三(じゅうぞう)さんが倒しても、正義(せいぎ)さんたちが倒しても、どのみち五月(さつき)さんのお父さんは帰ってこない…)

 

輪音(りんね)の脳裏に入院中の母の顔が過ぎる

 

輪音(りんね)は覚悟を決めて五月(さつき)の隣に座る

 

輪音(りんね)…なんだよ急に…」

五月(さつき)さん…東吾(とうご)さんとお話はしましたか…?」

 

輪音(りんね)の言葉に五月(さつき)は目を見開いて固まる

 

「……親父と話、したんだろ…でも、あんたには関係ない…」

「関係あります」

 

輪音(りんね)は首を振る

 

「ーッ、あんたのとこの優しい母さんとは違うんだよッ‼︎」

「私のお母さん、突然倒れていたんです。中学校から帰ってきて、いつも通りおかえりって笑ってくれると扉を開けたら、キッチンで倒れてたお母さんがいた…」

 

輪音(りんね)の言葉に五月(さつき)が目を見開く

 

「そこから私のいつも通りは、なくなってしまった。家でおかえりなさいって言ってくれる人はいなくて、お母さんもいつ急変してもおかしくなくなって…」

 

輪音(りんね)五月(さつき)を真っ直ぐ見つめてその手を取る

 

「当たり前でも、こんな簡単に壊れてしまう。たった1人の家族だからこそ、本当に突然無くなることがあるんです…‼︎だから、だから五月(さつき)さんには、目を逸らさないで欲しい…押さえ込まないで欲しいんです‼︎」

 

輪音(りんね)の言葉に五月(さつき)が視線を迷わせる

 

「……押さえ込むって…なんでわかるんだよ…」

「…描けないなら、キャンバスを用意してもらうことはしないはずです。でも、五月(さつき)さんは美術展用の、『家族との思い出』を描くためのキャンバスを用意してもらって、こうして向かってるじゃないですか」

 

輪音(りんね)が優しく微笑む

 

「……あたし、親父の部屋でさ…見たことあるんだよ。古い絵筆が飾ってあるところ…」

 

五月(さつき)がぽつぽつと吐露し始める

 

「結構使い込まれててさ、あたしはそれが親父のモノだったって気づいて、親父も絵が好きだったのにやめなきゃならなかったんだって気づいちまったんだよな」

 

はは、と自嘲気味に笑う

 

「だから、親父の果たせなかった夢も果たしてやりたいから親父に伝えたのに、絵なんかで食って行けるかって怒鳴られて…親父のためにやろうとしたのにって腹が立っちまってさ…」

 

五月(さつき)が泣きそうな声で続ける

 

「バカだよなあたし……イラスト描くの、本当に好きなのに…恩着せがましい理由付けて勝手にキレて……」

 

輪音(りんね)五月(さつき)の手をぎゅっと握る

 

五月(さつき)さんは本当にイラストが好きなんですね」

「……昔、なんとなく描いたイラストで親父がめちゃくちゃ褒めてくれてさ。それが本当に嬉しくて。あたしが描いたイラストで、誰かが笑ってくれるのが、めちゃくちゃ嬉しいんだ」

「やっぱり、五月(さつき)さんは優しい人です」

 

五月(さつき)輪音(りんね)のその言葉に微笑み、鉛筆を取る

 

 

「描くことあったわ、大切な思い出」

 

「思い出させてくれてありがとうな、輪音(りんね)

 

 

その言葉を聞いて輪音(りんね)も満足げに頷いた

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

埋葬部隊本部

 

「独断専行なんて何を考えてるのよ正義(せいぎ)‼︎」

「あの場ではあれが最善だったと言っている‼︎」

 

正義(せいぎ)九留美(くるみ)が声を上げて口論していた

先日のバーナー・ノーワンの事件で正義(せいぎ)は部隊から外れて単身で先行していたのだった

 

「最善だって…それでも結局ノーワンは逃しているじゃない…‼︎」

「それはー」

 

脳裏に輪音(りんね)の顔が浮かぶ

 

 

『こんな、こんなボロボロになってまでノーワンたちと戦うこの人に、銃を向けることがあなたの『正義』なんですか⁉︎』

 

 

あの時の言葉を思い出し、目を伏せながらかけた眼鏡を直す

 

「……想定外のアクシデントが、あっただけだ」

 

九留美(くるみ)はハァと大きなため息を吐きながら頭を抱える

 

「そういうことにも対処するために、部隊があるのを忘れないで」

 

背を向けて立ち去ろうとする正義(せいぎ)九留美(くるみ)が呼び止める

 

「あなたの気持ちはよくわかる。でも、そんな命を張るやり方はー」

 

振り向いた正義(せいぎ)九留美(くるみ)の胸ぐらを掴む

 

 

「わかる、だと…?」

 

「お前に、ただの同僚のお前に俺の何がわかるんだ…ッ‼︎」

 

 

怒りを込めた言葉を吐き捨て、正義(せいぎ)が立ち去る

捻り上げられた襟元を直し、九留美(くるみ)が胸に手を当てる

 

「わかるわよ…」

 

 

『ー■■■さん』

 

 

九留美(くるみ)の脳裏に誰かわからない若い声が響き、自分と手を繋ぐ黒塗りの何者かの姿が過ぎる

 

「私だって、ノーワンに焼かれた過去があるはずなんだもの…」

 

 

「キミが私の方を直接訪ねてくるとは意外だねぇ」

 

平坂(ひらさか)霊園の小屋の一室

その中の仕切りカーテンの中に腰掛けたキャンドルがニヤニヤと愉快そうに笑う

 

「で、聞きたい話とはなんだい輪音(りんね)ちゃん?」

 

キャンドルの向かいに腰掛けた輪音(りんね)がキャンドルを見据える

 

「……ジョンドゥのキャンドルさんなら、ノーワンを人間に戻す方法を知っているんじゃありませんか…⁉︎」

 

輪音(りんね)の問いにキャンドルが笑みを消し、真剣な表情になる

 

東吾(とうご)さんが、あのままどのみち死ぬしかないなんて、そんなのあんまりです…どうにか、どうにか人間に戻す方法を…もしくはノーワンでも変身しないままにする方法は、ありませんか⁉︎」

 

キャンドルは深く背もたれに身を預け、長いため息をこぼす

 

「はっきり言おう。不可能だよ、そんなことは」

「……ッ‼︎」

 

無情な答えに、予期していたこととは言え輪音(りんね)が悲痛な顔を見せる

 

「ノーワンという存在は、ヒトの生の概念である白のアニマと死の概念である黒のアニマを混ぜ合わせた灰色のアニマを魂として生まれくる怪物、ヒトならざるものだ。混ざり合うアニマはデスサイズシステムで分断してそれぞれを正常化するか、アニマ干渉波で消滅させるしかない」

 

キャンドルは手すりに頬杖を突きながら続ける

 

「分断したアニマの正常化は白も、黒もどちらもだ。黒のアニマの顕在化はどういう形であれヒトの死を意味する。黒のアニマを制御・利用するデスサイズシステムという例外を除けばな」

 

はぁ、とため息を吐き出しながら膝に両肘を置き身を乗り出しながらキャンドルは続ける

 

「そして、ノーワンに変身しないままというのも無理だ。私たちはともかく、ノーワンの意識は生の喜びと死の苦しみに溺れた状態になっている。そして苦しみ喜ぶが故に、生者を襲い仲間を増やそうとする本能からは逃れられない」

 

「ー私たちのようなジョンドゥにならねば、な」

 

キャンドルが自分の胸に手を置く

 

「それに、トーチのノーワンなら尚更絶望的だ。ヤツのノーワンは人間が押し殺した『自分』を表出させ、主人格を飲み込ませて完成する。主人格に殺され続けた『自分』の殺意・暴力への渇望は、火が付いたら止まらないんだからなぁ」

 

俯く輪音(りんね)を横目に見ながらキャンドルは爪をやすりで磨く

 

「ーたしかに、ジョンドゥがノーワンを生み出しその過程で誰かが必ず命を落とすのは『悲劇』だ。だが、人間はそうでなくともいつ『別れ』が来るかなんてことは分からない」

 

キャンドルは目を細める

 

「だからこそヒトは、『選択』し『覚悟』しなければならない。どんな時でも、どんな辛い場面でも」

 

 

「ー今回はキミに選択と覚悟の時が来た、という訳だ」

 

 

立ち上がるキャンドルを見ることもなく、輪音(りんね)はただ膝に置いた手を握り締めることしかできなかった

 

 

「ーヒトは『選択』し『覚悟』する。その瞬間とその行動、それが私を楽しませるんだよ」

 

 

輪音(りんね)に聞こえない小声で囁きキャンドルが小屋の扉を見据える

 

その外で背を預け、話を聞いていた十三(じゅうぞう)はデスのアニマアルカナを手に取り出しながらただ悲しげな目をしていた

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

制作開始から4日経過

五月(さつき)が鉛筆を置く

 

「下書き、できた…‼︎」

 

五月(さつき)が完成させた下書きを輪音(りんね)十三(じゅうぞう)(かなえ)が覗き込む

 

そこに描かれていたのは、小さな女の子とそれを撫でる父親らしい人物。そして、撫でられた笑顔の少女の背から花や動物たちなど色々なものが溢れ出し大きな翼を作り出していた

 

「すごい綺麗…‼︎」

「ああ、いい出来だ」

「おお…‼︎これは大型新人だねぇ五月(さつき)ちゃん‼︎」

 

賞賛の声を上げる輪音(りんね)十三(じゅうぞう)、そして興奮した様子で肩を叩く(かなえ)

思い思いの反応に五月(さつき)は照れ臭そうに頭をかく

 

「そうかな…?いい感じに、かけてる?」

「はい。とてもいいと思います」

 

輪音(りんね)の言葉に隣の(かなえ)がうんうんと頷く

 

「下書きでこれなら彩色してからはもっといいだろうなぁ…こいつは描き上がりが楽しみだ‼︎」

 

(かなえ)輪音(りんね)の方を見る

 

「そういえば、輪音(りんね)ちゃんはどんな感じ?」

「あはは…私はまだ、構図も上手く決まらなくて…」

 

苦笑いしながら輪音(りんね)はスケッチブックのラフを見せる

 

そこには桜並木やら桜の花やら桜に関連したイラストが描き込まれていた

 

「桜がいっぱいだねぇ〜」

「はい、お母さんと一度お花見に行った時に見た桜並木がとても綺麗だったので、その時の絵を描きたいと思って」

 

(かなえ)もスケッチブックを覗きながら輪音(りんね)に微笑みかける

 

輪音(りんね)ならきっと、あたしより綺麗なの描けるよ」

「頑張ってみます…‼︎」

 

にひひ、と笑う五月(さつき)はカバンからスマホを取り出し、下書きを描いたキャンバスの写真を撮る

 

「親父に見せてやろ。なんて言うかなぁ親父」

 

その言葉を聞いた輪音(りんね)十三(じゅうぞう)が一瞬悲しそうな目を見せた

 

 

部活が終わり、帰路を歩く五月(さつき)

 

「……大丈夫、大丈夫。親父にならきっと伝わる…」

 

自分に言って聞かせながら五月(さつき)は自宅の町工場にたどり着き、母屋に帰っていく

 

リビングまで行くとソファに腰を下ろして書類を整理する東吾(とうご)がいた

すぐに五月(さつき)に気づき顔を上げる

 

五月(さつき)……」

「…ただいま、親父」

 

五月(さつき)はぶっきらぼうにそう告げる

気まずい沈黙がしばし2人の間に流れる

 

五月(さつき)が鞄を置き、東吾(とうご)に近づきスマホから画像を見せた

あの下書きの画像を

 

「……これは?」

「部活で、書いてんだ。市の美術展に出す用の絵でテーマは『家族との思い出』ってヤツで…」

 

スマホを受け取り、じっくり画像を見る

 

「家族との思い出……」

 

不安そうに自分の肩を抱きながら、五月(さつき)は言葉を絞り出す

 

 

「あたしさ、小さい頃親父に絵を褒めてもらえたのがすごい嬉しかったんだ。あたしが描いた絵で、笑って驚いて、喜んでくれたのが」

 

「そっから、絵を描くのが本当に好きになった。大好きなんだ」

 

「だから、将来も絵を描く仕事がしてみたい…大変かもしれない、叶わないかもしれない。でも、やってみたいんだ…‼︎」

 

 

五月(さつき)の告白を東吾(とうご)は黙って受け止める

 

「……血は争えんな」

 

観念したように東吾(とうご)は笑う

 

リビングから出てすぐに戻ってきた東吾(とうご)の手には古びた筆が一本握られていた

 

「それ…親父の…⁉︎」

「なんだ、もう見つかっていたのか」

 

参ったな、と東吾(とうご)が頭を掻く

 

五月(さつき)。絵の道は大変で、厳しい。職業とするなら尚更のこと大変な道のりになるだろう。私も、痛いほど思い知ったからな」

 

娘の小さな手に父が筆を握らせる

その筆の柄には『TOUGO.I』と名前が刻まれていた

 

 

「今は心配しなくていい。私がお前を支えるから」

 

五月(さつき)の優しく、美しい絵なら、私が見れなかった景色も形にできるかもしれんしな」

 

 

五月(さつき)は渡された筆を大事そうに握る

照れ臭そうに東吾(とうご)は鼻の頭を掻いていた

 

 

ードクンッ

 

 

「ーん⁉︎ぐぉ……ッ‼︎」

 

東吾(とうご)が突然胸を押さえて膝を突く

 

「親父…?親父ィ⁉︎」

 

五月(さつき)がうずくまる東吾(とうご)に駆け寄り肩を揺する

 

「なんだよ、どこか痛いのか…⁉︎苦しいのか⁉︎」

 

不安そうに問いかける五月(さつき)東吾(とうご)が振り返る

 

灰色の炎が揺れる無機質な瞳に五月(さつき)は思わず尻餅をつく

 

 

『ーいやぁ?すこぶる気分がいいなぁ…‼︎』

 

 

父の姿をして、父のものではない邪悪な顔で笑うそれを睨み、五月(さつき)が声を絞り出す

 

「…お前、誰だよ……⁉︎」

『オイオイ、愛しい親父に聞く口かよ、それが』

 

東吾(とうご)だったものは愉快そうに笑いながら両手を開く

《剣》のアニマアルカナが胸元から体内に入ると東吾(とうご)が灰色の炎に包まれ、焼け落ちた体に新たな蝋の体が再構築される

 

バーナー・ノーワンに変貌し、その頭部の骸骨がカタンと口を開きより濃密な灰色の炎が噴き出し、笑っているような顔に変化する

 

【ーハハハハハ‼︎やっと‼︎やっと体が手に入ったぜぇ‼︎】

 

バーナー・ノーワンが高笑いしながら体のシリンダーを駆動させる

 

「な、ば、バケモノ…⁉︎親父、親父をどこやったァ‼︎」

【あぁん?喧しいガキだなぁ】

 

バーナー・ノーワンが右手のマズルで五月(さつき)の頭を殴りつける

 

「ーッ、あぁ…‼︎」

 

加熱されたマズルに殴られた右目の上あたりが赤く焼ける

 

 

【ここにいるだろぉ?もっとも、今のオレはお前の親父が押さえ込んで殺した過去の自分だがなぁ。こんなしみったれた町工場に押し込めて、オレの夢を否定しやがったこの家を、なくしちまいたくて仕方がなかった時のなぁ!!!!】

 

 

バーナー・ノーワンが家の中に灰色の炎を振り撒く

 

リビングが燃え上がる

昔2人で撮った写真を貼っていたクリップボードが、東吾(とうご)が大切に使っていたパソコンが、五月(さつき)が仲直りのため買ってきていた父の大好きだった2人の大好物のどら焼きが、炎に包まれて消えていく

 

「親父…なんで、なんでこんな…‼︎」

 

恐怖と混乱で身動きすらできない五月(さつき)が絶望の声を漏らす

 

【ハハハハハ‼︎燃えろ‼︎まとめて全部燃えちまいやがれ‼︎】

 

バーナー・ノーワンの腕のバーナーが五月(さつき)に向けられる

 

「はぁッ‼︎」

 

そこに燃え上がる家の壁を蹴り破り、黒い影が飛び込んでくる

影はバーナー・ノーワンを蹴り飛ばし、五月(さつき)の下に降りるとその体を抱え上げ、蹴り破った壁から外に離脱する

 

 

外は夜になっており、工場から少し離れた空き地に怪人と五月(さつき)が降り立つと五月(さつき)が優しく降ろされる

 

五月(さつき)さん‼︎」

 

へたり込んだままの五月(さつき)輪音(りんね)が駆け寄る

 

輪音(りんね)……」

 

呆然としたまま顔を上げる五月(さつき)

 

「親父が…親父がバケモノになっちまった…あんな、あんなの親父じゃない…‼︎親父が、大切にしてきた工場に、あんな……」

 

輪音(りんね)の肩を掴み、譫言(うわごと)のように叫ぶしかない痛々しい様子を輪音(りんね)はただ見守ることしかできなかった

 

その2人に怪人ーレクイエムが背を向ける

 

「レクイエムさん…‼︎」

 

輪音(りんね)が呼び止め、レクイエムが振り返る

 

 

「……東吾(とうご)さんを、お願いします……‼︎」

 

 

ぎゅっと胸を握り、絞り出した願い

それを聞き届けたレクイエムは、重々しくゆっくり頷き燃え上がる町工場へとバイクに跨り疾駆していった

 

 

埋葬部隊本部

 

「ノーワンのアニマ波動を感知‼︎」

「場所は逸羽(いつは)製作所‼︎エネルギー反応が今までよりも高いです‼︎」

 

オペレーターからの報告を受け、部隊員たちが装備を纏って出動していく

 

機関銃を手に装甲服を着た正義(せいぎ)

その前にプロフェッサー・ジュナが現れる

 

「…プロフェッサー?何の用です?」

「こ、こちらを……あ、あ、あなた、に…」

 

ジュナは手にした大型のアタッシュケースを開いて見せる

そこには純白の機構と付属装備らしいガジェットと拳銃が収納されており、蓋裏には『VAJRA(ヴァジュラ)』のロゴが入れられていた

 

「‼︎完成したのか…⁉︎」

「最終調整段階…です…じ、じ、実戦でのデータを、お願いし、しますよ…隊長…」

 

アタッシュケースを受け取る手に力が篭った

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

燃え盛る工場の中、炎を吹き出し続けるバーナー・ノーワンの前にレクイエムがコートの裾をはためかせながら現れる

 

【また来たのかよ⁉︎しつこいヤツだなお前も】

「何度でもやってくるとも。俺は死神で、鎮魂歌だ」

 

レクイエムが構える

 

 

「貴方の生、無駄にはしない…‼︎」

 

「その灰色の死も、生も、今ここで白黒つけて終わらせる‼︎」

 

 

レクイエムが駆ける

燃え上がる工場の崩れゆく柱を蹴り、バーナー・ノーワンの炎を回避しながら跳躍し、バーナー・ノーワンに拳を打ち込む

 

よろめきながらも炎を吹き出し反撃するのを回避しつつ、レクイエムのパンチやキックが打ち込まれ、バーナー・ノーワンを押し込んでいく

 

【ぐっ⁉︎舐めんなァ!!!】

 

バーナー・ノーワンが吠えると背中から新たなバーナーのマズルが伸び、そこから火炎弾が無数に放たれる

 

バク転やローリングで回避していたレクイエムだが、厚い弾幕全てを回避しきることはできず、いくつかの火炎弾を腕を閉じ防御して受け止める

 

「弾幕には弾幕だ」

 

《エクスキューションアップ》

《リバース・テンパランス》

 

ギロチンにより落とされた頭を蹴り飛ばしぶつけ、バーナー・ノーワンを怯ませると戻ってきた頭をキャッチし被り直し、ギロチン型のバイザーが装着される

 

【吹き飛べぇ!!】

 

バーナー・ノーワンが再び火炎弾の雨を降り注がせる

レクイエムは火炎弾を睨みながらバイザーを指でなぞる

 

ホロディスプレイ上で迫り来る火炎弾が全てロックオンされる

 

「はっ‼︎」

 

ブラストロフィーをマグナムモードで構え、黒炎弾を放つ

放たれた弾丸は狙い違わず全ての火炎弾に命中し、それを撃ち落とした

 

その爆炎の中から飛び出したレクイエムがブラストロフィーをバーナー・ノーワンに向ける

 

正確無比な弾丸が突き刺さり、バーナー・ノーワンを吹き飛ばした

 

 

燃え盛る工場を眺めながらジャック・ランタンが愉快そうに笑う

 

『フヒヒ、中々いいノーワンに育ったねェ。まぁトーチくんってばもう興味ないとかって放置しちゃったけどサ』

 

カツンと錫杖を地面に突き立てる

 

『まぁそのままやられるのは癪だしィ、ワタシも十三(じゅうぞう)くんにちょーっと、ちょっかい出してみようかなァ〜♪』

 

ランタンが愉快そうに笑いながら工場へ歩み始める

が、後方から響く重い足音にその歩みを止めた

 

『おやァ?』

 

振り返った先には2人分の人影があった

 

 

片方は純白のアンダースーツに青い装甲を装着した人物

青い十字の形の複眼が光る「仮面」と左腕のみの厚い装甲、腰からたなびくマントが目立つ

 

もう1人は同じ純白のアンダースーツに紫の装甲を纏っている

菱形の紫に光る大きな複眼の「仮面」と背中から体の前方まですっぽりと覆う深い紫のマントが特徴的だった

 

 

「ジョンドゥ、ジャック・ランタン。貴様をこれより埋葬する‼︎」

 

 

十字目の怪人が告げ、腰に装備していた特殊銃で攻撃する

放たれた白い弾丸をランタンは錫杖で撃ち落とす

 

『乱暴だなァ……しかし興味深い』

 

銃撃を放ちながら突撃してきた怪人をランタンが錫杖で殴りつけようとするが装甲に覆われた左腕で防がれ、ガラ空きになった腹に銃口を押し当て、ゼロ距離から弾丸を乱射する

 

『ぐ、ぶぅっ!?痛いじゃない、かッ‼︎』

 

ランタンが錫杖を回すとその周囲にカボチャ型の爆弾が多数出現する

 

『ほぅら‼︎お返しだ‼︎』

 

錫杖を回し、ランタンが爆弾を十字目の怪人に投擲する

 

 

ARMAMENT(アーマメント) CONTROL(コントロール)

ACTIVE(アクティヴ):HERMIT(ハーミット)

 

 

機械的な音声が響くと共に後方に待機していた菱形目の怪人の複眼や全身のラインが紫に発光

マントと思われていた背面のパーツが4枚離脱し、自律機動して爆弾を全て撃ち落とす

 

『なっ、なななっ!?』

 

十字目の怪人がベルトから取り出したカードー白いアニマアルカナを手にした銃の側面にリードする

 

EXECUTE(エグゼキュート) FORCE(フォース)

 

銃身が縦に展開、開いた部分に白と蒼のエネルギー光が漲っていく

 

 

「ー正義、執行‼︎」

 

PANISHMENT(パニッシュメント):JUSTICE(ジャスティス)

 

 

放たれた白と蒼の光弾がランタンに直撃

二色の稲光を撒き散らしながら盛大な爆煙を上げる

 

十字目の怪人は油断なく銃を構えている

 

『ーやれやれ、少し驚いちゃったじゃないかァ』

 

爆煙の中からぐるぐる巻きになったランタンが現れ、自身の体に巻き付けていたストールを引き剥がして肩を竦める

 

「まだ届かないのか…‼︎」

 

十字目の怪人が銃を向ける

ランタンはヒラヒラと手を振りヘラヘラと笑みを崩さない

 

『ヒヒヒッ、まさか六美(むつみ)サンが作り出した以外に仮面ライダーのシステムを完成させるなんてやるねェ。十七(じゅな)クンかな?それとも影斗(かげと)クンかなァ?』

 

 

『まぁいいや。明日からはまた色々面白くなりそうだァ』

 

 

ランタンがパチンと指を鳴らすと2人の白いライダーの周りに無数の燃え盛るカボチャが降り注ぎ、大きな爆発を発生させる

 

菱形目のライダーが十字目のライダーに近づき、自身ごと4基のユニットから展開したエネルギーシールドで防御するが、晴れた爆煙の中にランタンの姿はなかった

 

「逃した…でも、今までの兵装よりはー」

「まだだ」

 

十字目のライダーが振り返り、炎が弱まりつつある町工場を見据える

 

 

「ー埋葬すべきターゲットはまだ残っている」

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

炎に包まれた工場の中、バーナー・ノーワンの火炎を回避しながらレクイエムはブラストロフィーをサーベルモードに変化させ、肉薄して攻撃を続ける

 

「ハァッ‼︎」

 

レクイエムの一閃がバーナー・ノーワンの腕のバーナーを切り裂き、返す刀でもう片方のバーナーも破壊する

 

【な、クソがァ…ッ‼︎】

 

ヤケクソで襲い掛かろうとするバーナー・ノーワンにキックを撃ち込み、吹き飛ばす

 

吹き飛ばされたバーナー・ノーワンが床面を転がり、よろめきながら立とうとするのを見ながら、レクイエムは2挺のブラストロフィーをドッキングしてフィニッシュモードにする

 

「恨むといい、怒るといい。お前の黒いモノは俺が全て引き受けてやる…」

 

いつもよりゆっくりと、武器をバーナー・ノーワンに向ける

ホロディスプレイ上でもバーナー・ノーワンがロックオンされた

 

「………貴方の生は、無駄にさせない…‼︎」

 

レクイエムが引き金に手をかける

 

 

「ー待って!!!」

 

 

レクイエムとすれ違うように燃え上がる工場に入ってきた人影がバーナー・ノーワンの前に立ち塞がり、両手を開く

 

五月(さつき)だった

 

五月(さつき)さん‼︎下がって‼︎巻き込まれちゃう‼︎」

 

追いついてきたらしい輪音(りんね)がレクイエム背後の工場入り口から叫ぶ

 

「おい⁉︎そこは危険だ、早く離れろ‼︎」

「嫌だ、嫌だ‼︎あたしの、あたしのたった1人の親父なんだ…‼︎」

「……キミのお父さんは、もういない‼︎」

「そんなワケがない‼︎」

 

泣き腫らした目で背後のバーナー・ノーワンを振り返る

 

「あんなになっても…あたしのこと忘れても…あたしの親父は…お節介で、一言足りなくて、お人好しで、世界一優しい親父はただ1人なんだよ……」

 

 

「まだ、ありがとうも、ごめんも言ってないんだよォッ‼︎」

 

 

五月(さつき)の叫びにレクイエムは引き金にかけた指を緩める

ブラストロフィーの銃口を一旦下げようとし

 

 

EXECUTE(エグゼキュート) FORCE(フォース)

PANISHMENT(パニッシュメント):JUSTICE(ジャスティス)

 

 

冷淡な機械音声を耳にした

 

「ッ‼︎危ない‼︎」

 

レクイエムは咄嗟に駆け出し、五月(さつき)を抱えて飛び退く

その直後、レクイエムと五月がいた直線上を蒼白のエネルギー弾が螺旋に回転しながら飛来し、延長線上にいたバーナー・ノーワンの胸を貫き、工場奥に着弾・爆発する

 

「親父ィィィ!!!」

 

レクイエムに抱えられたままの五月(さつき)が悲鳴を上げる

 

貫かれたバーナー・ノーワンは悲鳴を上げることもなく膝を突いて倒れ、灰色の火柱をあげて爆散する

 

二度の爆発の衝撃で崩落が加速し始めた工場を見たレクイエムが素早く五月と共に脱出し、輪音(りんね)の側に降り立つ

 

レクイエムたちの目線の先に立つ純白のライダーは、エネルギーの残滓がスパークする銃を下ろして崩れ去る工場を前に業務的に告げる

 

 

「ー埋葬、完了」

 

 

「…お前は…ッ‼︎」

 

純白のライダーはゆっくりとレクイエムに向き直り、銃を向ける

が、突如警告音が鳴り響く

 

『せ、正義(せいぎ)隊長……こ、こ、今回は、時間切れ、です……』

「…了解した」

 

純白のライダーは銃をベルトのホルダーに固定し、バックルを開いてアニマアルカナを取り外す

 

OPERATION(オペレーション) COMPLETE(コンプリート)

 

装甲からのエネルギー排気と共に変身が解除され、その中から十一宮(といみや) 正義(せいぎ)が現れる

 

「…命拾いしたな、非死者0号」

 

現れた正義(せいぎ)をまっすぐレクイエムが睨む

 

 

五月(さつき)さん…五月(さつき)さん‼︎しっかりして‼︎」

 

放心状態になっていた五月(さつき)の肩を輪音(りんね)が揺する

しばらくして目を覚ました五月(さつき)は隣の輪音(りんね)を不思議そうに見遣る

 

「あれ?輪音(りんね)…?あたし、なにしてたんだっけ…?」

 

五月がゆっくりと立ち上がり、火傷になった右のこめかみを痛そうに押さえる

 

「なんか、いってぇ…あれ?ここどこ…?」

 

燃え落ちている、とはいえ元自分の家だった工場の後を見て首を傾げる五月(さつき)を見た輪音(りんね)の表情が歪む

 

「ここは…五月(さつき)さんの家じゃないですか…‼︎」

「家って…なんで?あたしべつに工場の娘じゃないんだけど」

「…ッ、五月(さつき)さんのお父さんが、町工場の社長さんじゃないですか⁉︎」

 

 

「…お父さん?誰それ?」

 

 

「ーッ」

 

本当に何も覚えていないと言った顔で不思議そうに首を傾げる五月(さつき)

頬を掻こうとしてその手に握られていた筆に気づく

 

「あれ?あたしいつの間に筆なんか…?」

 

ぼろぼろになった古い筆を不思議そうに見る

何もない柄を眺めていたはずなのに、五月(さつき)の目には涙が溢れ出していた

 

「…あ、れ?あたし…なんで、泣いて…?あれ…?」

 

五月(さつき)の脳裏に記憶がフラッシュバックする

 

自分が描いたイラストを誰かに見せる幼い自分

誰かと喧嘩する自分

誰かに褒められて嬉しくなる自分

 

 

その「誰か」は、黒く塗り潰されてわからなかった

 

 

五月(さつき)が胸を強く押さえて膝を突く

 

「痛い……胸が痛い……なんで、なんで…⁉︎なんで、涙も止まらない、なんでなんだよぉ…⁉︎」

 

錯乱した様子を見せる五月(さつき)を駆けつけた九留美(くるみ)が抱きしめる

隣に呆然と立つ輪音(りんね)を見て告げる

 

「…この子は、ノーワンの関係者として私たちが保護するわ」

 

そのまま九留美(くるみ)は錯乱したままの五月(さつき)の肩を支えて連れて行く

 

それを見送った正義(せいぎ)は口を開く

 

「これが最良だ。あの少女は怪物になった父のことをじきに忘れ去る。そうして、日常に帰るんだ」

 

輪音(りんね)正義(せいぎ)を睨み、唇を噛み締める

 

 

「日常になんて帰れません‼︎」

 

五月(さつき)さんの日常は、東吾(とうご)さんのいた日常は…‼︎もう…‼︎」

 

 

「ーどの道、死んだ命は戻らない。哀しみすがるなら、跡形もなく忘れ去る方が救いになる」

 

「それが俺たちの為す『正義』の形だ」

 

正義(せいぎ)は眼鏡を正し、輪音(りんね)とレクイエムに背を向けて去る

 

残されたレクイエムはただ俯き、拳を握っていた

 

朝焼けの光が、住むものの居なくなった工場の跡地をただ照らしていた




五月が去り、輪音の心に暗い影が落ちる

「よしッ‼︎じゃあ気分転換に行こうか‼︎」

そんな輪音を鼎が連れ出す

【あはは‼︎楽しいなぁ‼︎楽しいなぁ‼︎】

そんな2人の乗る電車に現れるノーワン
朗らかに笑いながら電車を暴走させ始める

「ノーワンは全て埋葬する…‼︎」
「お前の『正義』を、俺は否定する‼︎」

黒と白、異なる正義が今衝突する

《ACTIVATION》
《ELECT:JUSTICE》

次回仮面ライダーレクイエム
「6の正位置:暴走、パニックトレイン‼︎」

「さぁ、おいで」
「キミのその心の棘を、私が治してあげよう」
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