仮面ライダーレクイエム   作:リョウギ

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第8話「6の正位置:キミのくれた名前」

キャンドルが手を広げ、周囲に飛び回る蝶たちを集めて灰色の火球として投げ放つ

 

レクイエムは一部をアニマライターの炎の刃で薙ぎ払うが、灰色の炎蝶の凝集した弾丸は一部の炎蝶を落としただけで残る大部分の炎蝶が炎刃を避け、レクイエムの体に衝突し連鎖爆発を起こす

 

「ぐっ…⁉︎」

 

よろめき座席に倒れたレクイエムが反撃に苦し紛れの弾を放つが、キャンドルは炎蝶を集めた壁を作りそれを防ぐと、その体を炎蝶に分解しレクイエムに何度も突進をぶち当て、そのまま窓に叩きつける

 

「ぐあっ⁉︎」

 

加速する電車から半身投げ出されたレクイエムの首を再度実体化したキャンドルが掴み、見下ろす

 

「なんのつもりだ…キャンドルッ⁉︎」

『……セリフまでつまらんな、レクイエム』

 

はぁ、とキャンドルが大きなため息を吐き出す

 

レクイエムの首を掴んだまま車内に引きずり戻すと手を広げた胸から炎蝶の群れを放出し、攻撃

レクイエムの体で小爆発が起き、吹き飛ばされ床を転がる

 

『さっきも言ったはずだ。今のお前は私にとって死ぬほど退屈だ』

 

 

『ー退屈なお前は、要らないんだよ』

 

 

どこまでも冷淡な言葉でキャンドルが言い放った

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「おわっとと⁉︎な、なんかどんどんスピード上がってる…⁉︎」

 

座席に倒れながら(かなえ)が呟く

輪音(りんね)は不安そうな様子で大人しく座っている

 

その脳裏ではヴァジュラ・ジャスティスが撃破した後、何事もなかったかのように蘇ったノーワンの姿を思い出していた

 

(あのノーワン…なんで倒せなかったんだろ…)

 

首を傾げている輪音(りんね)を見て(かなえ)が口を開く

 

「……さっきのなんだかよくわからない怪物…?のこと、輪音(りんね)ちゃんはなんか知ってるんだね」

 

「へ…⁉︎いや、いいえ何も知りませんよ…⁉︎」

 

(かなえ)の確信をついた発言に輪音(りんね)が目を泳がせる

その様子を見た(かなえ)が悪戯っぽく微笑む

 

輪音(りんね)ちゃん、嘘吐くの下手だねぇ。バレバレだよ」

「あ、あう…その…」

 

「…五月(さつき)ちゃんが学校に来なくなったのも、あの怪物に関係してたりするんだね」

 

(かなえ)の言葉に輪音(りんね)が目を伏せる

 

「……はい、詳しくは、話せませんが…」

 

それを聞いた(かなえ)は座席に深く座りながらふぅと息を吐く

 

「どうせ今縛られてて何もできないし、退屈になってきたし…少しボクの昔話をするね」

「は?はぁ…」

 

唐突な(かなえ)の切り出しに輪音(りんね)が思わず首を傾げる

 

「ボクさ。昔犬飼ってたんだよね。ラブラドールレトリーバーの大きくて可愛いやつ。名前はそのまんま、ラブ」

 

「小さい時にめちゃくちゃ可愛がってて、お兄ちゃんみたいな家族の一員だった。とっても大切な家族」

 

(かなえ)が懐かしむように、それでいて哀しげに目を伏せる

 

「中学に上がるちょっと前に、ラブは老衰で亡くなったんだ」

 

「………ッ」

 

輪音(りんね)も目を伏せる

 

「めちゃくちゃ泣いたなぁ…母さんが言うには3日は泣いてたって」

 

(かなえ)は哀しそうな目をしていたが、薄く微笑み続ける

 

「どうしてもラブのこと忘れられなくて、忘れたくなくてさ。家族と一緒に並んだラブの絵を描いたの。それが、ボクの絵描きの始まり」

 

(かなえ)輪音(りんね)の方を見る

 

輪音(りんね)ちゃんの見てるあっちの世界って、あんな怪物がいるくらいだからボクとラブみたいなのと比べ物にならないくらい辛いこととか、哀しい別れとかいっぱいあると思う」

 

「忘れた方がいいってことも、たくさん」

 

輪音(りんね)(かなえ)の言葉から正義(せいぎ)の言葉を思い出す

 

 

『哀しみすがるくらいなら、跡形もなく忘れた方が救いになる』

 

 

実際、五月(さつき)東吾(とうご)の想いを知り、それが届かなかったのを見た輪音(りんね)はその通りかもしれないとも思いかけていた

 

こんな辛いなら、忘れた方がいいのかも、と

 

 

「でも、忘れちゃうってもっと辛いと思うんだ」

 

「だから、絵に込める。心に残った思い出を、幻じゃなかった想いなんだって、残すために」

 

 

(かなえ)の言葉に輪音(りんね)が目を見開く

 

「まぁ、これはあくまでボクの描く理由だけどさ」

 

ニッと笑う(かなえ)

その言葉を聞いて輪音(りんね)もいつの間にか微笑んでいた

 

 

3号車に吹き飛ばされた正義(せいぎ)はなんとか立ち上がり、切った口内に滲む血を吐き出す

 

「ジョンドゥ、ジャクリーン・キャンドル…‼︎何故このタイミングで現れた…⁉︎」

 

電車の壁面を殴りつけながら歯を噛み締める正義(せいぎ)

そこに通信が入る

 

「こちら正義(せいぎ)。どうした?」

『どうしたじゃないでしょ…突入しといて長らく報告も無しだからこちらは何もしようが無いじゃない』

 

九留美(くるみ)の不満そうな声が響いてきた

 

 

暴走し、線路から火花を散らす電車に装甲車ーハーミットダイザーが併走する

 

その操縦席で九留美(くるみ)ーヴァジュラ・ハーミットは通信を繋げていた

 

「ひとまず進路上の駅には避難指示を送ってほぼ完了してるわ。内部のノーワンの様子は?」

『まんまと逃走された。加えて非死者0号とジャクリーン・キャンドルまで乱入してきている』

「なんですって…⁉︎」

『だが幸い、0号とキャンドルが戦闘を始め、ノーワンには妨害者がいない状態だ。その間に俺がノーワンを埋葬する。九留美(くるみ)はなんとか電車を止めてくれ』

 

正義(せいぎ)の指示にヴァジュラ・ハーミットがはぁとため息を吐く

 

「無茶はしないでよ、正義(せいぎ)

『余計な心配だ』

 

一旦通信を止め、加速する電車にハーミットダイザー後部を変形させ、大砲を延伸する

 

「ひとまずアンカーワイヤーで動きを止めないと」

 

ヴァジュラ・ハーミットが操縦席のボタンを押し、砲門からワイヤー付きのアンカーが放たれる

 

車体に命中する瞬間、紙テープが這い上がり車上に灰色の人影を作り出していく

 

【遊びの邪魔、しないでよ‼︎】

 

ツインズ・ノーワンXが両手を広げるとその体に取り込まれていたオモチャたちがミサイルのように放たれ爆発、アンカーを撃ち落とす

 

「ノーワン‼︎あんな場所に…‼︎」

『ノーワンが見つかったのか。ならば都合がいい』

 

通信が再開され、正義(せいぎ)の声が響く

 

『ー電車の上だな?』

 

その声が早いか、ノーワンのすぐ側の天井が車内から青白い稲妻に貫かれ穴が開く

 

驚くツインズ・ノーワンXの目前にヴァジュラ・ジャスティスが着地する

 

はぁ、とヴァジュラ・ハーミットがため息を吐く

 

 

「だから無茶するなって言ってるのに…」

 

「始末書なら俺が書いておく。手間はかけさせん」

 

 

【こ、怖いおじさん…‼︎あっちいけ‼︎】

 

ツインズ・ノーワンXが腕を振り回し、オモチャ爆弾を放つが正確無比なヴァジュラ・ジャスティスの射撃が撃ち落とす

 

ドライバーから取り出したアニマアルカナをヴァジュラズハンマーにリードする

 

EXECUTE(エグゼキュート) FORCE(フォース)

 

ヴァジュラズハンマーにエネルギーが充填される中、ヴァジュラ・ジャスティスはヴァジュラ・ハーミットに指示を下す

 

「あのノーワンは先程ヴァジュラの攻撃で埋葬できなかった。そちらからもう一撃、合わせてくれ」

「了解したわ」

 

ハーミットダイザーを自動操縦に切り替え、ヴァジュラ・ハーミットが運転席のドアを開いて上に登る

 

背中に装備されたヴァジュラズハンマーとヴァジュラアームズを取り出し、変形させ長く伸ばしたヴァジュラアームズをヴァジュラズハンマーとドッキングする

 

MODE(モード):RIFLE(ライフル)

 

ライフルモードとしたヴァジュラアームズを持ち上げ、ヴァジュラズハンマーのリーダーにアニマアルカナをリードする

 

EXECUTE(エグゼキュート) FORCE(フォース)

 

膝を立て構えたヴァジュラアームズをツインズ・ノーワンXに向ける

 

 

PANISHMENT(パニッシュメント):JUSTICE(ジャスティス)

PANISHMENT(パニッシュメント):HERMIT(ハーミット)

 

 

ヴァジュラ・ジャスティスとヴァジュラ・ハーミットが同時に必殺の一撃を放つ

 

青白い稲妻弾と紫と白の稲妻弾が同時にツインズ・ノーワンXに直撃

間違いなくツインズ・ノーワンXが灰色の炎を上げて爆発する

 

「これならー」

 

が、爆炎の中からツインズ・ノーワンXが傷ひとつなくよろめきながら立ち上がるのを見て、ヴァジュラ・ハーミットは目を見開く

 

「嘘でしょ…⁉︎」

 

 

「化け物め…‼︎」

 

ヴァジュラ・ジャスティスはヴァジュラズハンマーを油断なくツインズ・ノーワンXに向ける

 

【なんで、なんでなんでなんでなんでぇ!!!!】

 

頭を抱えたツインズ・ノーワンXが地団駄を踏みながら叫ぶ

 

 

【なんで遊んじゃダメなの⁉︎なんで痛くするの⁉︎なんで、なんでなんでなんで‼︎ランタンの人は、もうたくさん遊んでいいって言ってくれたのにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!】

 

 

絶叫するツインズ・ノーワンXの体から紙テープが何枚も何本も吹き出し、電車にがんじがらめに巻き付き始める

 

その何本かが窓を破り砕いて中に入り始め、乗客が悲鳴を上げ始める

 

【嫌い嫌い嫌い嫌い‼︎おじさんも嫌い‼︎みんな嫌い‼︎痛いだけの世界なんか大っ嫌いだァァァァァァァァ!!!!】

 

さらに叫んだツインズ・ノーワンXの体から分離したオモチャがヴァジュラ・ジャスティスに迫る

 

灰色の炎を纏うそれは先程までよりもっと大規模に爆発し、ヴァジュラ・ジャスティスをよろめかせる

 

「くっ⁉︎厄介な…‼︎」

 

ヴァジュラ・ジャスティスはツインズ・ノーワンXに銃口を向け、追撃を加えながら肉薄し組み付いた

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

ガタンッ‼︎と車体が大きく揺れる

よろめきながらも立ち上がるレクイエムをキャンドルは退屈げに見下ろしながら再び炎蝶弾を出現させる

 

『あのイノシシはノーワンたちをただの死者と割り切り力を振るっている。正義かどうかはさておき、そこに迷いなぞない』

 

キャンドルがレクイエムを指差す

 

『だがお前は?レクイエム、ノーワンを死に直させる黒き死神。既に死に、彷徨うだけの死者を送るのがお前だろう?そんなお前が、情に絆されて引き金を緩めて何が死神だ』

 

炎蝶弾がレクイエムに直撃し爆発

なんとか腕を交差して防御する

 

「ーッ⁉︎絆されてなどいない‼︎」

 

『ならばなぜバーナー・ノーワンをすぐに倒さなかった?お前が倒していれば、二度も死ぬことにはならなかったのに』

 

レクイエムが言葉に詰まり顔を伏せる

キャンドルがはぁ、と大きなため息を吐く

 

 

『私の愉悦は、《愚者(フール)》どもの享楽とは違う。「ヒトが苦悩し、選び、その道を歩むこと」そしてその決意の中での苦悩と犠牲の選択に直面しながら前に進む姿。それを特等席で眺めるのが私の悦楽だ』

 

 

もう一発の炎蝶弾が放たれ、レクイエムに直撃する

 

『あのイノシシにお前は言ったな。「その名前(仮面ライダー)を騙るな」と。はっ、笑わせるな』

 

レクイエムよろめくレクイエムの胸ぐらを掴み壁に叩きつける

 

『今のお前は、誘波(いざなみ) 六美(むつみ)の願ったヒーローの一つも満たせていない。その最期の願いすらも、未だに叶えられていないお前が』

「ーッ!!」

 

今度はレクイエムがキャンドルの胸ぐらを掴み、ドライバーのレバーに手をかける

 

が、レバーを下ろすことはできなかった

 

キャンドルがつまらなそうに首を振る

 

『そら、できないだろ?私程度なら、殺せるはずだというのにな』

 

 

『お前にもその名前は相応しくない。お前は、あの女のヒーローになることなんか、できやしないんだよ…‼︎』

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

「何描いてるんだ?」

 

白衣を着た小さな背中越しに覗き込む

彼女はコピー紙の裏紙に何やら落書きをしていた

 

バッタに似たマスクの人物

緑と黒のツートンカラーをした怪人

宇宙服を着たような姿をした三角頭

炎の剣を構える赤い竜騎士

 

そこには色とりどりの不思議な人物が描かれていた

 

「これ?『仮面ライダー』っていうんだって」

 

彼女は笑顔でそう答える

 

「仮面ライダー…?」

「そう。人知れず誰かのために、世界のために、自分の正義を信じて戦い抜く孤高のヒーロー。って都市伝説になってるヤツなんだよね」

 

手元のタブレットを操作し、電子版の雑誌の1ページを見せる

 

 

『仮面ライダー現る⁉︎』

『風都タワー崩壊‼︎街はヒーローに救われた⁉︎』

『天の川学園高校の仮面ライダー部に迫る‼︎』

『激写‼︎謎の剣士と怪人物‼︎』

 

 

「これが全部、仮面ライダーが現れた事件なのか?」

「まぁほとんど眉唾だと思うけどね。でも、風都の大事件とかは結構ホントっぽいんだよ〜」

 

ふふん、と鼻を鳴らしながら得意げに話す彼女の様子に思わず笑みがこぼれてしまう

 

「ちょっと、今子供っぽいって思ったでしょ?」

「いいや、キミらしいなって思ったんだ」

 

頬を膨らませて抗議してくる彼女ー誘波(いざなみ) 六美(むつみ)平坂(ひらさか) 十三(じゅうぞう)はそう答えた

 

 

誘波(いざなみ) 六美(むつみ)

 

大学3年の頃偶然に知り合い、その1年後に交際を始めた十三(じゅうぞう)の最愛の人

理学部で人体や生物の研究をしていた彼女と芸術学科で美術を学んでいた十三(じゅうぞう)、と何やら不思議な組み合わせだが今となってみると自分たちでも不思議な取り合わせでよく「なんでこんな相性よかったんだろうね」と2人して笑い話にしている

 

とにかく不思議な女性だった

陳腐な言い回しだが、彼女は所謂「天才」だった

生物分野の知識にも当然優れていながら彼女は「人を研究するなら人体のことももっと知らないと」と言って医学・解剖学の知識もみるみる吸収していった。今や彼女主導の「魂の観測・結晶化」なんて途方もない研究に着手するほどに

それでいながら彼女は美術やら占いやら都市伝説やら、おおよそ理学的な話とは無縁なことにも明るかった

特にタロット占いが好きで十三(じゅうぞう)もよく占ってもらっていた

 

とにかく十三(じゅうぞう)にとって隣にいて居心地のいい女性だったのだ

 

 

テーブルの向かいに座った十三(じゅうぞう)六美(むつみ)が話しかける

 

「『仮面ライダー』ってなんか科学者にも通じるとこあると思うんだよね」

「そうかな?その心は?」

「科学者も人知れず、誰かのため世界のために、自分の信念と正義で研究して謎と戦うってとことか、それっぽいと思うんだよね」

「なるほど、言われてみると確かに」

「でしょ〜?だからより一層憧れちゃうんだよね」

 

にゃはは、と愉快そうに六美(むつみ)が笑う

いつものように取り出したタロットカードをシャッフルしてカードを並べていく

 

「うっ、また《死神》だ…」

「また俺のこと占ってくれてるのか?」

「うん。十三(じゅうぞう)ってばホント《死神》に好かれるよね…しかも毎回逆位置だし…なんか妬けちゃう」

 

六美が引いた《死神》のカードを逆位置のまま額に当てながら言う

 

「《死神》に好かれるって言うのも嫌な話だけどな」

「ああ、でも逆位置の《死神》は悪い暗示ばっかりじゃないんだよね。生を終わらせて新たな生に導くってイメージで、『再生』とか、『創造』とか…『運命』なんて意味もあったりするんだよね」

 

六美(むつみ)が得意げに告げる

その顔を見つめながら十三(じゅうぞう)六美(むつみ)からタロットカードを借りる

 

「毎回俺ばっかり占われてばっかりだったから俺も占ってみようかな」

十三(じゅうぞう)はタロットカード分かるの?」

「実はあんまり。だから、色々これから色々教えてくれよ」

「ふふん、任せなさいな」

 

シャッフルした中から十三(じゅうぞう)が一枚カードを抜いて机におく

 

「ーあっ」

 

《恋人》の逆位置

 

そのカードを見た六美(むつみ)が突然呟き暗い顔を見せる

 

その様子を見た十三(じゅうぞう)が訝しげにその顔を覗く

 

「……あれ?もしかして、なんかマズい配置…だったり…?」

「あー、えっと…《恋人》の逆位置は…『恋愛の危機』とか、『よろめき』とかそんな感じの暗示だね」

「えっ、そうなのか……?」

 

不吉な暗示に気づき、十三(じゅうぞう)も顔を伏せる

六美(むつみ)はブンブンと手を振り苦笑いする

 

「あはは、ないない。私と十三(じゅうぞう)が別れたりとかあり得ないって。十三(じゅうぞう)以外の恋人なんかあり得ないもん」

 

あっ、と声を上げて六美(むつみ)十三(じゅうぞう)に悪戯っぽい笑みを向ける

 

「もしかして、十三(じゅうぞう)はそうでもなかったり?」

 

十三(じゅうぞう)はぷっ、と吹き出し苦笑する

 

「それこそあり得ないよ。俺も六美(むつみ)以外の恋人なんか考えられない」

 

当たり前のようにそう答えた十三(じゅうぞう)に思わず六美(むつみ)が頬を赤らめる

 

「あはは、面と向かって言われたら恥ずかしいな…」

 

あははと朗らかに笑う六美(むつみ)に釣られて十三(じゅうぞう)も微笑む

 

 

研究に忙しい六美(むつみ)とたまに過ごす暖かな日々

いつまでも続くと思っていた

 

その幸せは、長く続かないとも知らずに

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

六美(むつみ)!!どこだ六美(むつみ)ィ!?」

 

燃え盛る研究所の中を十三(じゅうぞう)が走る

鳴り響くサイレンの音が煩わしい

 

 

今日は研究の成果を確かめるための重要な実験の日だと六美(むつみ)から聞かされていた

 

六美(むつみ)が見つけ出した概念結晶。生の象徴たる白のアニマ、死の象徴たる黒のアニマの2つ。ある意味で「魂」とも言えるそれの「混合実験」

 

「死んでいる」だが同時に「生きている」状態にすることができ安定させることができるなら、人の永遠の夢である「不老長寿」もなし得るかもしれないという

 

 

「私は十三(じゅうぞう)と生きておじいちゃんおばあちゃんになって生を全うできたらいいし、永遠の命とかまでは興味ないけど、科学者としてその証明はしないとね」

 

そんなことを言って出かけた六美(むつみ)から先程尋常じゃない様子で電話がかかってきた

 

『実験、失敗しちゃった…ちょっとヤバいかも』

 

それを聞いた十三(じゅうぞう)六美(むつみ)の研究所に駆けつけた

燃え上がる研究所を前に、何人かの同僚たちが呆然と佇んでいた

 

その1人ーたしか星影(ほしかげ) 十七(じゅな)が告げた

 

「む、む、六美(むつみ)さ、んが…ままままだ、中に…‼︎」

 

それを聞いて十三(じゅうぞう)は燃え盛る研究所に飛び込んでいた

 

 

六美(むつみ)!!!」

 

六美(むつみ)がいたはずの実験棟にようやく辿り着く

 

十三(じゅうぞう)!!」

 

六美(むつみ)の声が響く

割れたガラスの向こう。炎の中に六美(むつみ)がいた

 

六美(むつみ)‼︎待ってろ、今そっちにー」

 

 

「来ないで!!!」

 

 

六美(むつみ)が絶叫する

その背後からコツコツと靴音を鳴らしながら新たな人物が現れる

 

「つれないなァ。六美(むつみ)クンの恋人でショ?」

 

現れたのは線の細い眼鏡をかけた少し背の高い男

この状況の中、男は愉快そうな笑みを浮かべていた

 

咲也(さくや)…‼︎あなた、なんで…ッ‼︎」

 

六美(むつみ)が男を睨み怒鳴る

 

零楼院(れいろういん) 咲也(さくや)

 

六美(むつみ)の研究所のナンバー2として研究を補佐していた男だ

 

「なんで?簡単なことですヨ。アナタの研究が、つまらないカラ」

「なんですって…⁉︎」

 

ヒヒヒ、と咲也(さくや)が笑う

 

「白と黒を混ぜた灰色のアニマ。不老不死となる最高の発明‼︎それをアナタは危険だからと封印するって…そんなのありえないでショ‼︎」

 

「バカ言わないで‼︎灰色のアニマから生まれたのは人間なんかじゃない怪物だった…死にはしてない、でも生きてもいない、死んだ苦しみを抱いたまま「活動する」だけ‼︎しかも、アニマ干渉波で消滅させた場合、その存在の記憶までなくなるなんて、あんなものは悪魔の発明よ‼︎」

 

「ーその綺麗事に愛想を尽かしたのサ」

 

咲也(さくや)は両手を広げる

 

その胸の中央に灰色の《愚者》のタロットカードが現れ、胸に入り込むと同時にその体を灰色の炎が包み燃え上がらせる

 

 

ヤツの姿が変わった

 

 

灰色の蝋を固めた体。ランタンを飾りにぶら下げた異形の怪物

杖を突きながら現れたその姿を見た六美(むつみ)がよろめき尻餅を突く

 

「あなた……自分のアニマを混ぜ合わせたの⁉︎」

『イグザクトリィ‼︎とてもいい気分だヨ六美(むつみ)クン』

 

ギャハハハハハ‼︎と咲也だった怪物が笑う

煙を吸い込んでいたのか六美(むつみ)がゴホッ、ゴホッと苦しげに咳き込むのを見て咲也(さくや)はその口角を上げる

 

『キミにもすぐにお裾分けしてあげヨウ』

 

咲也(さくや)は手にした錫杖を六美(むつみ)に向ける

 

六美(むつみ)の体から白と黒の火の玉が飛び出してきた

六美(むつみ)が前に見せてくれた概念結晶ーアニマだった

 

六美(むつみ)!!!!」

十三(じゅうぞう)クンもそこで見ていたまえ。何、キミもじきに死に瀕するからスグに同じモノにしてあげヨウ』

 

咲也(さくや)六美(むつみ)の白と黒のアニマを混ぜ合わせ、灰色となったそれを六美(むつみ)に落とす

 

六美(むつみ)が胸を押さえ、その体から灰色の炎が上がり始める

 

六美(むつみ)ィィィ!!!」

 

割れたガラスを飛び越え、炎を突き破りながら十三(じゅうぞう)六美(むつみ)に駆け寄る

咲也(さくや)はケラケラ笑いながら2人から少し距離をとる

 

 

六美(むつみ)‼︎しっかりしろ六美(むつみ)…‼︎」

 

体を十三(じゅうぞう)に預けながら六美(むつみ)が力無く笑う

 

十三(じゅうぞう)…離れて。私、咲也(さくや)と同じ化け物に、なっちゃうから…」

「バカなこと言うな…‼︎今ここから運び出すからなー」

 

六美(むつみ)を持ち上げようとする十三(じゅうぞう)の手が押さえられる

 

六美(むつみ)は側に転がしていたアタッシュケースに手を伸ばし、開く

 

中には一枚の黒いカードデバイスとギロチンを模した構造のデバイスが入っていた

 

「そのカード…持って、白いサークルのところ…親指で押して…」

 

六美(むつみ)の指示に従って十三(じゅうぞう)は困惑しながらもカードデバイスを手に取り、ボタンを押す

 

黒い画面に心電図のような波形が波打つ

 

 

《サーティーン:デス》

 

 

ガイド音声が響いたのを見て六美が微笑む

 

「やっぱり…十三(じゅうぞう)は《死神》のアルカナに好かれてる…」

 

ケースの中のデバイスを掴み、十三(じゅうぞう)の腰に当てる

 

《デスサイズドライバーギロチン》

 

自動的にベルトが巻かれたそれに十三(じゅうぞう)の手にしていたカードデバイスーアニマアルカナを差し込む

 

「なんなんだよ、これ……」

「デスサイズシステム。アニマ研究の副産物でストッパー…かな?アニマ干渉波では消滅させることしかできない、灰色のアニマを分断して、元の形に『死に直させる』システム……」

 

六美(むつみ)の体はほとんど灰色の炎に包まれ、崩れつつあった

灰色に燃える手が十三(じゅうぞう)の頬を撫で、その唇と唇が重なる

 

六美(むつみ)の頬を涙が伝った

 

「それで私を……殺して……」

 

「な、に、何を、言ってるんだ…」

「干渉波でアニマが消滅したら……みんなに忘れられちゃう……生きていた記憶も記録も……無くなっちゃうの……」

 

「私…二度も死にたくない……十三(じゅうぞう)に、忘れられたくないから……」

 

六美(むつみ)がドライバーのレバーを倒した

 

「その力なら…私以外も助けてあげられる…咲也は多分…まだまだ私みたいなのを……作り出すと思うから……」

 

六美(むつみ)は満面の笑みでニッと笑う

 

「ごめん、十三(じゅうぞう)。私の代わりに…誰かのヒーローになってあげて」

 

「私の、誰かの鎮魂歌(レクイエム)になって。こんな変わり者の私のことを支えて、一緒にいてくれた、誰より優しい十三(じゅうぞう)なら…その力を正しく使ってくれるって…信じられるから……」

 

 

「お願いね……『仮面ライダーレクイエム』」

 

 

六美(むつみ)が目を閉じる

その六美(むつみ)を優しく横たえ、十三(じゅうぞう)が立ち上がる

 

『アラ?終わった?それならそうとー』

 

 

《エクスキューション・アップ》

《リバース・デス》

 

 

十三(じゅうぞう)の足元から黒い炎の渦が巻き起こり、燃え盛る周囲の炎が黒変してゆく

 

十三(じゅうぞう)の首にギロチン台が現れ、その刃が落ちる

首が落とされ、それを十三(じゅうぞう)が掴む

 

首から溢れ出した黒い炎が十三(じゅうぞう)を包み、その姿を黒いコートを纏う怪人に変えていく

 

落ちた首を元に戻すと、揺らめく黒い炎がマフラーとなり、骸骨の仮面とギロチン型のバイザーが装着される

 

黒い怪人が振り向く

 

髑髏面の怪人は、灰色の道化を真っ直ぐに睨みつけていた

 

 

零楼院(れいろういん) 咲也(さくや)…お前は許さない…ッ‼︎」

 

 

『な、なんだよそれ…⁉︎そんなもんまで作ってたのーガッ!?』

 

動揺する咲也(さくや)を黒い怪人が黒い炎を纏いながら殴りつけ吹き飛ばす

燃え盛る機材に叩きつけられた咲也がよろめきながら立ち上がる

 

『ぐ、ぐふぅ…これは…ちょっと面倒だ…』

 

咲也(さくや)がトン、と錫杖で地面を叩きその姿を灰色の炎に包んで消える

 

「待てー」

 

逃走する咲也(さくや)を追おうとした十三(じゅうぞう)

 

 

「ーん…ッ、騒がしいな…」

 

 

その背後でゆらり、と人影が立ち上がった

 

そこに立っていたのは、一矢纏わぬ体を灰色の炎で包んだ誘波(いざなみ) 六美(むつみ)だった

 

六美(むつみ)……?」

 

「ん?六美(むつみ)…あぁ、このアニマの元の持ち主、か」

 

ニヤリ、と彼女は決してしない愉悦を溢した笑みを見せる

六美(むつみ)の姿をしたそれがパチン、と指を鳴らすと纏う炎が全身に伸び、黒いタイトスカートとロングブーツ、丈の短いキャミソールに変化しその上から灰色の白衣が纏われる

 

「ん、邪魔だな」

 

パキリ、と顔にかけたままだった眼鏡をへし折り、髪を梳く

短めの髪が少し伸び、炎によってポニーテールに結ばれると共に灰色に変色していく

 

様変わりしたソレは灰色の瞳で十三(じゅうぞう)を見据え、獰猛に笑う

 

 

「私は、生きながら死ぬもの。名前が無いのも面倒だな…ああ、確かこの女は『ジョンドゥ』と呼んでいたかな?ならばー」

 

「ー私はジャクリーン(名無し)ジャクリーン・キャンドル(名無しのキャンドル)とでも名乗っておこうかな、平坂(ひらさか) 十三(じゅうぞう)

 

 

十三(じゅうぞう)はすぐに理解した

理解してしまった

 

それは、六美(むつみ)から生まれたモノだと

 

六美(むつみ)が死んで、生まれたモノなのだと

 

 

『それで私を……殺して……』

 

 

十三(じゅうぞう)は最愛の人の言葉を思い出す

ドライバーのレバーを一度下ろす

 

《スリー:カウントダウン》

 

十三(じゅうぞう)が変じた黒い怪人ーその腕からギロチン刃が伸びる

それを見ていた女はニヤニヤと微笑む

 

「ああ、そうだったな。さぁ…私を殺してみせろ」

 

女が腕を広げる

 

ゆっくりと歩みを進め、女の胸ぐらを掴み壁に叩きつけた十三(じゅうぞう)

 

その腕を、ギロチンの刃を振り上げた

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

ギィィンッ!!!!

 

鋭い金属音が鳴り響く

 

ギロチン刃を展開したレクイエムの腕がキャンドルに振り下ろされ、その眼前で刃は止まっていた

 

「……腑抜けでなんかいない」

 

レクイエムが口を開く

 

「俺のやることは、どういう形であれ人殺しだ」

 

「それを背負う辛さは、とっくの昔に慣れた」

 

キャンドルはその言葉を黙って受け止める

 

 

「だが、ギロチンの刃を下ろすことに慣れることは、あいつが望んだ『仮面ライダー』じゃないッ‼︎」

 

 

キャンドルを解放し、電車の壁面を殴りつける

 

「お前には腑抜けに見えるかもしれない。ただ選択の先送りに思うかもしれない……」

 

「だが、あいつは…六美(むつみ)は、俺を信じてこの死神の鎌を預けてきた」

 

「なら俺は、俺自身の信念は殺さない」

 

レクイエムがキャンドルをまっすぐ見据える

 

 

「時に止まっても、俺は手の届く限り手を伸ばす。何度だって立ち上がって、何度でも背負い続ける…」

 

「それが、俺が預かった『仮面ライダー』としての正義だ…‼︎」

 

 

キャンドルはその言葉を聞くとはぁ、と一つため息を溢し俯く

その肩が小さく震え出す

 

『ハハハッ、全く。お前はどこまでも面倒なヤツだな。こうまでしないと、立ち直れないとはなぁ』

 

キャンドルが怪人の姿から人間体に姿を戻す

 

「お前が余計な気を回さなくともいい話だ」

「おいおい、さっさと立ち直れるように荒療治してやった相棒にかける言葉がそれか?」

「お前は相棒じゃない。ただの共犯者だ」

 

やれやれ、とキャンドルが肩を竦める

 

「2体同時、だ」

 

「……なんだと?」

「色々なツテであのノーワンの起源を見つけてきた。で、あの2体になってるならほぼこれで間違い無いだろう」

「………」

 

無言でキャンドルの言葉を受け入れていたレクイエム

瞬間、電車がまた加速し大きく車体が揺れ出す

 

「ーキャンドル、手を貸せ」

「……お前からそう言うとは、珍しいな」

「向こうも2人。手が足りない今は手段を選ばん」

 

レクイエムがアニマアルカナを取り出したのを見てキャンドルは大人しく怪人体に変身する

 

 

『この貸しは高いぞ?』

「お前との貸しなど知らん‼︎」

 

 

《エクスキューション・アップ》

《リバース・デビル》

 

デビルに変身したレクイエムが電車の屋根を突き破り飛翔

キャンドルは自身の姿を蝶の群れに変身させ、他の車両へ移動する

 

 

暴走し、火花を上げる電車の目前に立ち塞がったレクイエムは腕から黒い炎をブースターのように噴射し、その突撃を真正面から受け止める

 

「おお…ッ‼︎」

 

衝撃にレール上を引き摺られながら、レクイエムは先頭車両を持ち上げ浮かせる

 

徐々に推力が減衰し、爆走していた電車が大きく揺れながらも停車

空転していた滑車からは煙が噴き出し、そのまま停止した

 

 

【電車が…止まった⁉︎】

 

驚いた様子で紙テープを束ねながらツインズ・ノーワンYが3号車に実体化して辺りを見回す

 

その肩をキャンドルが捕まえる

 

『はい、捕まえた♪』

 

【あ、ああっ⁉︎】

 

驚き逃げる間も無くツインズ・ノーワンYが炎蝶に絡め取られ、天井を突き破り外に放り出される

 

【あうっ⁉︎】

 

【あ⁉︎おとうと⁉︎】

 

背後に落ちてきた片割れに驚き、目の前のヴァジュラ・ジャスティスから目を離してツインズ・ノーワンXが片割れに駆け寄る

 

「何⁉︎もう一体いたのか⁉︎」

 

ヴァジュラ・ジャスティスが銃口を向けるが2体のノーワンはキャンドルの炎蝶に包まれ、先頭車両の方へ運ばれていく

 

弾丸を放つが炎蝶の壁がそれを通さない

 

『残念だが、今度のノーワンはこちらのエモノだ』

「ジャクリーン・キャンドル…‼︎」

 

キャンドルはヴァジュラ・ジャスティスの攻撃を軽くあしらいながら先頭車両の方を振り返る

 

 

『ーあれだけ啖呵を切ったんだ。逃すなよ』

 

『仮面ライダー、レクイエム』

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

レクイエムの背後に炎蝶に塗れた2人のツインズ・ノーワンが落ちてくる

 

振り返ったレクイエムをツインズ・ノーワンたちが睨む

 

【もうやめてよ‼︎痛いことしないで‼︎】

【嫌い‼︎嫌いだァァァァ‼︎】

 

2人のツインズ・ノーワンがレクイエムに迫る

 

《リバース・テンパランス》

 

レクイエムはテンパランスにフォームチェンジし、2人のノーワンの攻撃をいなしていく

背後からの一撃も振り返らずにいなし、精密に対応していく

 

2人まとめて投げ飛ばされたノーワンがレクイエムの目前に転がる

 

【痛いよぉ…痛いよぉ……】

【なんで、なんで僕たちばかり…‼︎】

 

「痛い、か……」

 

レクイエムがドライバーのレバーを下ろしていく

 

《スリー》《ツー》

 

「……痛いのは苦しいよな。辛かっただろう」

 

再度レバーを下ろす

 

《ワン:カウントアップ》

 

 

「その辛さも苦しみも、こいつで最後だ」

 

「兄ちゃんが、全部白黒つけてやる‼︎」

 

 

《ラスト・エクスキューション》

 

 

ツインズ・ノーワン2人の両側から拘束板が出現し、2人をホールド

 

投げたブラストロフィーが背中のバックパックとジョイント

そのブースターから黒い炎が噴出し、レクイエムが空に飛び上がる

 

空高くから見下ろすツインズ・ノーワンをバイザー越しに捕捉

最速、かつ必殺の飛行経路を計算し、飛び蹴りを構えるとその足先に鋭いギロチン刃が現れる

 

 

「はぁぁぁぁぁッ!!!」

 

 

ブラストロフィーが最大噴射し、一気に加速したレクイエムが真っ直ぐに2人に飛来し、同時にその体を両断する

 

よろめき膝をついたツインズ・ノーワンの姿がぐにゃりと歪み、2つあった体が1つになると共に灰色の火柱を上げて消滅する

 

その中から現れた白と黒のアニマ、その白のアニマが残滓として生前の姿をかたどる

 

 

『あれ…?もう痛くない…』

 

 

そこから現れたのは、病院着をきた1人の少年だった

 

「1人…?2人になっていたのは何故だ…?」

 

「バニシング・ツインってヤツさ」

 

訝しむレクイエムの側に降りてきたキャンドルがその疑問に答える

 

「バニシング・ツイン…それってたしか…」

「双生児として成長した片方がもう片方、もしくは子宮に取り込まれて子宮内から消える現象だ。そしてその事例の一つとして、生まれてきたもう片方に『痕跡』が残ることがある」

「痕跡…まさか⁉︎」

 

レクイエムの驚きにキャンドルがパチンと指を鳴らす

 

「そこの少年は、体の一部に別のDNA型を持っていた。自分とは兄弟になる間柄の、生まれなかったはずのな」

 

「それを親が伝えていたこと、そして難病の長く苦しい治療からの逃避として、イマジナリフレンズならぬイマジナリブラザーが生まれていたってことだ。まぁ、快復はしなかったようだがな」

 

キャンドルからそれを聞いたレクイエムは少年の側に歩み寄ると、その頭を優しく撫でる

 

「……治療、よく頑張ったな」

 

頭を撫でられた少年はくすぐったそうに笑う

 

そんな少年の隣に同じくらいの背格好の子供の影が現れる

 

 

『あ、お兄ちゃん(おとうと)ー』

 

 

それを笑顔で振り返った少年

それを最後に、アニマの残滓は崩壊し遺灰だけが残った

 

レクイエムが取り出し、蓋を開いた壺の中に遺灰が入り、『相生(あいおい) 祐樹(ゆうき)』という名前を壺に刻み込む

 

「今度はちゃんと、2人とも健康に生まれて来れたらいいな」

 

 

電車の側で少年を見送るレクイエムを見つめていた2人のヴァジュラが変身を解く

 

正義(せいぎ)はレクイエムを睨みながら、どこか葛藤するように目を伏せると背を向ける

 

「……乗客の救助と現場の修復を始める」

「了解」

 

去っていく正義(せいぎ)の背を九留美(くるみ)は不安そうに見た後、すぐに作業と連絡を開始した

 

 

変身を解いたキャンドルがレクイエムの姿を見据える

 

「……私が本当につまらん、と判断したならば。今頃お前は塵すら残されていないよ」

 

フッ、とキャンドルが微笑む

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

女にギロチン刃を向けた十三(じゅうぞう)

だが、刃はすんでのところで止まっていた

 

「……これはどういうつもりだ?」

 

首を傾げる女を解放し、黒い怪人は背を向ける

 

「……咲也(さくや)があの力で死を振り撒くなら、俺も何度だって死神の鎌を振い続けてやる」

 

「それまで俺は…まだ止まれない」

 

怪人は肩越しに女を睨む

 

 

「ーお前を殺すのは、全てを終わらせた後だ」

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「ああ、待つともさ。十三(じゅうぞう)。たっぷり苦悩するといい」

 

キャンドルが心底愉快そうに微笑む

 

 

「ーお前のその苦悩と葛藤、その末の選択が見せる世界。それが私のアニマアルカナを震わせる極上の甘美なのだから」

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

暴走電車事件から数日

棺ノ宮(ひつぎのみや)中央学園美術室

 

「おおっ、できてきたね〜やっぱいいじゃん」

 

輪音(りんね)が描き込んでいた絵を覗きこみ、(かなえ)が微笑む

 

桜が舞う道の中、親子2人組が歩いていく絵

 

まだ下書き段階で塗り始めてもいないが、鮮やかな桜色が見えるような気がするほどに書き込まれていた

 

「あはは…まだまだ手探りで修正中なんですけどね…」

「ふーん……これでもいいと思うけどなぁ」

 

絵を眺めながら(かなえ)が悪戯っぽく笑って耳打ちする

 

「この前の怪物、色々あるみたいだけど秘密なんだよね」

「あ…はい。色々事情がありまして…」

「OK、まぁでも…話したくなったらこっそりボクには話していいよ」

 

(かなえ)の言葉に輪音(りんね)も微笑む

 

「はい。またよろしくお願いします」

 

 

平坂霊園

 

墓所の隅に新しくできた墓石

相生(あいおい)兄弟』と書かれたそれの周りにはミニカーや電車のおもちゃが何個も供えられていた

 

墓石を磨きにきた十三(じゅうぞう)はあるものを見つける

 

「これは…そうか」

 

十三(じゅうぞう)は優しく微笑み、供えられていた小さなキャンバスを持ち上げて眺める

 

 

2人の少年が小さな電車に跨り、それぞれ色違いの車のオモチャを手に楽しげに遊ぶ優しいタッチの絵

 

 

それを改めて供えなおし、十三(じゅうぞう)は手を合わせた

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

夜の棺ノ宮(ひつぎのみや)

 

街明かりが煌めく様を見下ろすビルの屋上

パーカーを着てフードを被った小柄な影がへりに座って足を揺らしてスマホを眺めていた

 

棺ノ宮(ひつぎのみや)中央学園首吊り事件…町工場放火連続殺人事件…暴走電車事件…ほんと色々あるねこの街」

 

独り言のように呟いた言葉にパーカーのポケットから返答があった

 

『へっ、なんとも物騒なことだなぁ。半年前と変わらず』

「うん。相変わらず、死が溢れた街」

 

スマホをしまい、ポケットから一枚のカードデバイスを取り出してボタンを押す

 

 

《セブン:チャリオット》

 

 

起動し、心電図が波打つと共に黒いディスプレイに釣り上がった目と裂けた口が表示される

 

『しっかし、スカルのヤツ…まだアレできねぇのかね?』

「アレ、作ったヤツが天才すぎて再現が難しいらしいから。スカルでも大変っぽい」

『科学畑のこたぁ分からん。小難しい話はキー子に任すわ』

「無茶言うなしセン兄。アタシも化学赤点常習犯なのに」

 

キー子と呼ばれた少女が屋上に脚を戻し、放られていた大型のギターケースを持ち上げてストラップを肩にかける

 

ギターケースに飾り付けられたり、ストラップでぶら下がるデフォルメされた骸骨のマスコットがからからからと騒がしく鳴り響く

 

 

「ーまだあいつは出てきてない。でも、必ずまた現れる」

 

「セン兄を、みんなを殺して……『忘れさせた』あいつは」




「みんなー‼︎来てくれてありがとー‼︎」

今話題のアイドルの歌が響く
「死から蘇った歌姫」という噂に十三は疑念を抱く

『誘波 六美はまだ生きている』

現れる謎の男ースカル

「何故、非死者0号と我々は敵対しなければならないのでしょうか」
「正義とは、秩序の上に成り立たなければならない」

埋葬部隊の中に蠢く影と思惑

「あれが、『仮面ライダー』ね」

現れたストレンジャーは何を見るのか

次回仮面ライダーレクイエム
「12の正位置:エレクトリック・アイドル」

【私は、輝いてなきゃならないの…‼︎】
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