デミグラス・デッドコード   作:peg

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言霊

「喰らいやがれー! ハァー!」

「ギャー!」

 

 敵に片腕を向けた浴衣姿の塵子から青白い光線(謎の魔法)が放たれ、触れた敵が爆発四散した。

 

 塵子はその後も死体の山。もとい、異形な生命体から奪った遺物の山を築いていた。

 

 鬼、百足、鯉、白い不定形の人型、大蛇、獅子、蓑を着た化け物、御光挿す漁船、白いワニ、蜘蛛、蠍、エトセトラ。

 

 腕を突き出すたびに、巨大で明らかにボスモンスター級の風情をした敵が、閃光と伴に爆散していく。

 

「……」

「……」

 

 頭上に掲げた障壁魔法の傘下。

 声を掛けることを諦めたみのりと御影は、膝を抱えて座った姿勢で夜空を眺めていた。

 鳴り響く音は、爆発音やSF映画のようなレーザービーム音、そして敵が空間を割って入ってくる異音が途切れることなく鳴り響いた。

 

「……っ!」

「訓練には、ちょうど良かったかもなァ。普段ならナ……」

 

 みのりは偶に飛んでくる肉片を、舞劔魔法と名付けた思念操作型霊剣で迎撃していく。

 後々、みのりの持つ霊子操作を基本とした遺物を扱うために、塵子がみのりの為に選んだ魔法だった。障壁魔法と平行して、一本だけ扱えるようになっているのだった。

 

「ヒ。こりゃあれだなァ。周りの区画からも来ているナ」

 

 死体の数を数えた御影が、ぽつりと呟いた。

 

「そんなに密集しているんですか? ランダムに沸くっていう話だったのに」

 

「普通は、な……」

 

 みのりの言葉に御影は呆れたような声を返した。

 

 塵子はこの閉ざされた空間内で、我欲のままに魔法を使っていた。

 それには、敵を吸い寄せる魔法等という良く分からないものまで含まれたいる。

 本来であれば、呪法・魔法問わず、儚畏比良坂(クライヒラサカ)内で空間に働きかけるのは、神薙の一族でもなければ無理筋な話だった。

 しかし、神薙の一族によって条理を捻じ曲げる(死んでも一度だけ蘇る)魔法を掛けられた塵子は、異能相克が発動し、いつも以上に強烈なバフが掛けられた状態と言って良かった。むしろ、今の力は儚畏比良坂(クライヒラサカ)にいる神薙の一族に匹敵しているだろう。

 

「モウ、いらんこと喋らせないようにしなきゃナ……」

 

「何故です?」

 

「異能相克の力が反魂呪と共振しやガッたンだ。今のチリは、言葉だけで条理を捻じ曲げかねんゾ」

 

「えぇ……」

 

 今の塵子が言葉を放つと、下手をすれば、それが条理を捻じ曲げて現実になりかねなかった。

 

「アハハハハ! もっと財宝を置いていけー!」

 

 二人が視線を戻すと。

 塵子は妖怪財宝置いていけと化していた。

 みのりと御影は半眼でそれを眺めていたが、高速フラグ回収ウーマンである塵子は、調子に乗って大声で叫んだ。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()() ()()()()()()()()() ()()()()()()()()()()()()()()

 

「あ」

 

「あっ」

 

 言った傍から、御影達が危惧していたことを塵子はやらかした。

 みのりと御影が凍りついた時、儚畏比良坂(クライヒラサカ)中に轟音が響き渡った。

 

 

 

 所変わって、青々とした竹林。

 配置された要石は、竹林の中にひっそりと存在する神社の御神体といった風情。

 そんな中、寛ぎ系戦闘装束(カジュアルアーマーコーデ)をした赤い髪の少女が、巨大な蟲に襲われていた。

 塵子の弟子である桃城杏奈だ。

 

 地を這う蟲は、ダンゴムシやサソリが融合したような生理的嫌悪を催す姿をしていた。

 他にも、宙を舞う蟲、蟲、蟲――。

 

 宙を舞う蟲は、羽蟲の体に不釣り合いな金属質の鎌を幾つもぶら下げている。巨大な羽蟲は、竹林を高速で躱しながら杏奈へ迫った。

 

「おりやー!!」

「キシャ」

 

 空中から振り下ろされた鎌を無理やり()()で受け止めた杏奈は、生理的嫌悪感を催す巨大昆虫を地面に叩きつけて破壊した。

 

「38匹目!!」

 

 従事歴の浅い杏奈が割り振られたのは、塵子から言わせると、遺物が出ないハズレの間だった。

 しかし、そんなことを知る由もない杏奈は、塵子に胸を張りたい一心で敵を討滅していた。

 

 蟲達のざわめきに混じって雷鳴が轟いたが、戦いに集中する杏奈は気にせずに次の獲物に取り付いた。

 

 しかしその数瞬後、無数の蟲の羽音に紛れて竹林に佇む大岩が鳴動しはじめた。しかし、杏奈は気が付かなかった。

 天蓋が笹に紛れて見えにくいことも、気が付けなかった理由の一つである。

 

「オォラァ!!」

「キシキシキシ――」

 

 杏奈が39匹目をとどめを刺そうとした時、蟲達が礼賛するように上を仰ぎ始めた。

 

「な、なに……!?」

 

 嫌な予感を感じて振り返った杏奈の眼前で、担当する区画の要石が呆気なく割れた。

 

 

 

 

 唐突な話だが、DCPには序列があった。

 あった。という表現は、DCP損耗率が高く、殆ど形骸化されている制度であるからだ。

 そんな制度を知る、旧態然の軍服を着た壮年の男が空を見げていた。

 

 当時の基準では、数字が少なくなるに従って強さの格付けがされていたものだ。

 その時勢では、この男の序列は8位。

 当時の上位層も既に入れ替わり、生き残っているのはこの壮年の男だけとなっていた。腕利きのDCPである。

 

 為政者が変わるたびに組織は改定が加えられてきたが、類似する組織は幾度も立ち上がっては消えていった。

 儚畏比良坂での永き闘争の歴史において、DPCはほんの百年足らずの組織だ。

 しかし、その百年足らずの半分以上、この男所属している。

 

 塵子達が儚畏比良坂に来た当初。

 人垣の向こう側で、反骨心の強い若人を煙の巨人で叩きのめしていた人物でもある。

 大前勇一郎。

 白髪交じりの黒髪をオールバックにした大前は、ポケットから取り出したタバコに火を着けた。異界産の謎の草が練り込まれており、界隈では15ミリタバコと呼ばれている。

 

異能相克(バリアブル)が随分引っ張っていったな……。ふん、まぁいい」

 

「いいんですか?」

 

 そんな男に従者然として付き従うのは、金髪にフリル付きのワンピースを着た少女だ。背中には、不釣り合いな黒光りする巨大な銃を背負っている。銃型の遺物使いの少女だった。

 

 大前がメンター制度で取っている弟子だ。名前をジュリアという。

 

「ふん。大勢は変わらんよ。大物が来てもな」

 

「そ、そうですか」

 

 巌のような圧がある男にそう言われ、金髪の女児は引き下がった。

 

 大前から燻ぶる煙が、淡く人形を象った。

 使役する異界の神格、カタブゥが姿を表した。

 千夜一夜物語の一幕に出てきそうな、筋骨隆々の魔神だった。

 

 対峙するのは、8刀持ちの巨大な餓者髑髏。

 通常の対処であっても複数人のDCPが派遣される、上位種とも呼べる異界侵略者類(カテゴリーS)だ。

 

「■■■■■■■■――」

 

 その餓者髑髏は、立ちはだかった煙の魔神に直ぐに切り掛かった。

 

「フシュゥゥゥゥゥゥウ」

 

 しかし、魔神の腕による一振りで、大前に立ちはだかった8刀持ちの巨大な餓者髑髏がバラバラになった。

 

 長らく生き残ってきた大前の実力は、かなり高い水準となっている。

 

「ユウイチロウ! あれ!」

 

 金髪のジュリアは、大前が背を向けている空を指さした。敵へ油断なく集中していたせいか、感知するのが遅れてしまった。

 

「あ? ……は? あ……いつ……?」

 

 大前は振り返って空を見上げたが、空間を割りながら現れた存在を見て言葉を失った。

 力なく開いた口から、燻ぶるタバコが回転しながら落ちていった。

 

 

 

 

 板張りの祭壇。

 新たに儚畏比良坂を強化するために組んでいた、神籬の結界の中で神薙の巫女が立ち上がった。

 要石を起点に空間を割り当てて、何度か発生する冥界からの波を抑えるための結界だ。

 

「えぇぇ! なんですかこれ……! こんなの、初めて……! お、抑えきれない!!」

 

「御子!! くっ……!」

 

 慌てて熊吉と呼ばれていた偉丈夫が駆け寄るが、結界の紫電によって弾かれた。

 

「くぅ……あっ」

 

 大幣を抱き込んだ巫女は、必死に抵抗する様子を見せたが、唐突に抱えた大幣が燃え上がった。

 

「きゃぁぁぁ!」

 

「!? いかん!」

 

 目を見開いた熊吉が背中の大太刀を引き抜き、結界へ袈裟斬りに斬り掛かった。

 大太刀ハバキリ。

 神薙の守り人に伝わる至宝である。

 位相を切断する斬撃が、結界の起点を切断して破壊した。

 

「せいっ!」

 

 熊吉は続け様の二の太刀で、巫女を取り巻く炎の事象を切り取った。

 

「ご無事ですか……?」

 

「えぇ。しかし、結界が……」

 

 二人の目の前で、強化用の結界が燃え尽きた。

 

 

 

 

 

 

 時は、塵子達へ戻る。

 夜空が曇り雷音を伴って、巨大な人間の姿が浮かび上がった。

 儚畏比良坂の結界が悲鳴を上げている。

 

「え、え、えぇぇ!?」

 

「塵子さん!」

 

 あまりに規格外の存在の出現に、塵子は空を見上げて叫んだ。

 

(石が振動している!? 空間が悲鳴を上げてやがるんだ……!)

 

 御影の判断は早かった。

 

「チリ!! 石を守れバカヤロー!!」

 

「はっ!? 待って、割れるなー!?」

 

 御影の声に塵子は肩を跳ね上げて反応した。

 石の湖面を吹き飛ばしながら、塵子は高速で要石に駆け寄る。

 塵子の視界では、要石が不気味に振動している。さらに、徐々にヒビらしきものが広がっていくのが見えた。

 

「ちょちょちょちょ! まってまって!」

 

 不気味に振動する要石に塵子が岩の上にしがみつくと、振動が収まった。

 塵子の意志によって、守りの加護が浸透したためだ。

 

「ほっ」

 

 首を上げた塵子は溜息をこぼした。

 塵子が岩から離れれば、忽ちに割れてしまうだろう。

 

 そんな塵子へ、唐突に落雷が直撃した。

 

「ピャ!?」

「チリ!?」

「塵子さん!?」

 

 敵性存在が現れる際の次元遷移に伴う、位相差を埋めるために発生した摩擦。

 さらに、空気中の分子が激しく入れ替わることで発生した静電摩擦よって発生した電位差が、この空間での基準位にある要石に無駄に誘導されて発生した誘導雷だった。

 つまり、異能を伴わない、天文学的な確率で発生した事故のような物理現象だ。

 先般、火薬で加速した弾丸に弱いという話があったように、物理法則に対してはめっぽう弱い塵子は、岩の上でうつ伏せになったままの煤けた姿を晒した。

 

「ミノリはここで防いでろ!! 塵子ォォ!!」

「えっ!? はい!!」

 

 御影が慌てて塵子の方へ駆け出し、みのりは障壁魔法の出力を上げて盾の数を増やした。

 しかし。

 ズルズルと雷雲と稲光を伴って、塵子が望んだ巨大な暗黒魔神の姿がついに現れ始めた。

 みのりの眼前には塵子が喚びまくった魑魅魍魎。

 

「って! 誰が相手するんですかこれー!!?」

 

 雷音に紛れて、白目を剥いたみのりの叫びが天に轟いた。

 

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