デミグラス・デッドコード   作:peg

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安奈2

「うわ降ってきた」

 

 商業施設ビルの最上階のエントランスで、窓に両手と顔を押し付けた塵子が言った。

 周囲がガラス張りのこの階は、街の様子が一望できる。

 

 既に正午を迎え、異界顕現(マテリアライズ)のAI予測時間が迫っていた。暗示するように、朗らかだった陽気は急な雨で陰りを見せ始めている。

 

 塵子の紫色をした髪の毛は、枯れ草が綺麗に除かれており、久々に洗濯されたセーラー服もどきは輝きを取り戻していた。

 

「ポイントが定まってきました。あそこに見える廃ビルですね」

 

「あの重機の先に鳥が止まってる、解体途中のやつかな?」

 

「鳥……? あ、そうです」

 

 一回二百円の双眼鏡を覗きこんだみのりの声に、塵子が振り返らずに返事を返した。

 

 みのりの隣では、お金を入れたが背の届かない杏奈が、必死に双眼鏡を覗こうと背を伸ばしている。

 そのまま、取手を掴んで腕力だけで浮き上がった杏奈は、上を向いたまま戻ってこない双眼鏡を覗き込んで、悲しみに暮れた。

 

(……見えない)

 

 ここには、異様な視力を発揮している塵子へ、ツッコミを入れる存在は居なかった。

 

「地味に遠いなぁ……。御影さんさぁ、うちもドローンで行ってビューって見れないの? 偶に飛んでんじゃん」

 

「ぁー、ムリだな。ヒヒ、避難アラートを鳴らす手前、場合によっちゃ、自治体やら警察と災害協定結んだりしないといけない。それと、悪目立ちが過ぎる。出来ても下部組織だが……名目が甘いなァ」

 

 塵子の疑問に、みのりの肩に居座った御影の人形が腕組みして答えた。

 

「面倒くさ。……ぬぁんで、そんな風にしたの」

 

「まァ、それについちゃぁ日本のカスみてェーな法制度のせいだな。手の届かない癖に過剰なんだよ……。ヒャハ。それに、昔は隠れて空飛べるやつも多かったんだ」

 

「なんだそれ。じゃあ、隠れて飛べばいいんじゃない? 照ちゃんに言っとこ」

 

「前言ったぞ。写真取られてUFO扱いされるのは、お役人も辛いんだとよ。ヒャハハ」

 

 海外のエージェントは良く空を飛ぶ。これには、目撃者の記憶を容赦なく消す事が理由として挙げられた。

 超法的措置である。

 日本では、異世界産の技術によって、集団に記憶の再構成等を与える事象を第一種異世界災害類(カテゴリーA)として分類している為、大っぴらに動けない理由があった。

 これは、過去、集団認識阻害を引き起こした生物(なまもの)が、賞金首となった事案に起因する。

 

 ただし、緊急性を伴う場合、DCPは極個人に向けては記憶操作等が許可されている。

 もっとも、後に各省からその影響についての報告書を多量に請求される、と但書きが付くが。

 

 そんな世知辛い会話を後に、一同は廃ビルへ向かうことになった。

 

 

 

 

 

 

 塵子たちは廃ビルの前に立っていた。

 安全のためフェンスで区切られ遊歩道には、チラチラと光るLEDチューブライトが光っている。

 

「工期完了まであと、一週間」

 

 解体現場の看板の前に立ったみのりが、廃ビルを透明な傘越しに見上げた。雨粒が傘の表面を弾き返り、長い黒髪がビニール傘の中で揺れた。

 

「ふーん。全然終わらなさそうね」

 

 みのりの呟きを、赤い髪の毛をゴーグルで留めた杏奈が拾った。

 

「杏奈ちゃん、くっついたら暑いよぉ。あちぃ~」

 

 妹弟子にえばっている姉弟子に、くっ付かれた塵子が文句を垂れた。湿気と暑さでグロッキー気味だ。

 

「雨に濡れないためです!! 風邪引きますよ!! もっとくっ付いて下さい!!」

 

 杏奈が食い気味に吠えた。

 

「ヒヒ。馬鹿は風邪引かねェよ」

 

 みのりが背中に背負った鞄から、顔だけ出した御影が呆れた声を出した。

 

 土砂降りの中、傘を買うお金がなかった塵子は、杏奈のススメで同じ傘に入っていた。

 しかし、矢鱈くっ付こうとする杏奈によって、塵子のやる気は既に7割方削られていた。

 

 

 グダグダと歩き回りながら、建物の外周部を見回ったが入り口は一か所だった。

 入口はチェーンで封鎖されている。

 

「ほいっ」

 

 塵子は手刀であっさりと南京錠で留められた鎖を断ち切った。

 解体現場は、作業が止まっているらしく、機械の動作音は聞こえなかった。

 

「うーーーん。雨で仕事終わったのかな?」

 

「ヒヒ。さぁてな」

 

 そんなことを言う塵子の前に、ヘルメットを被った男が現れた。

 

「は?? チェーン切れてるんだけど。……駄目だよ嬢ちゃん達。危ないよ!」

 

 中から出てきたうだつの上がらない男に、道の先を遮られた。

 

「あー」

 

(どうすっかなぁ。面倒くさいのに見つかっちゃった)

 

 解体現場の安全管理担当に捕まってしまった。有り体に言えば現場監督だ。

 塵子は、高所で薄いベニアを踏み抜いて思わず死んでしまいそうな、そんな薄幸さを男から感じ取った。

 The平凡。そんなうらぶれた男が、ヘルメットを被って歩いていた。

 

「まったく……。急に作業員飛ぶし、工期間に合わねぇし、変なの沸くし……。どうなってんのうちの会社……あ、もしもし? いや、事件とか事故じゃないんですけど……。工事現場に変な学生さん来てるんですけど、引き取ってもらえません?」

 

 大抵の場合、ちょっとした催眠で誘導するのだが、ここは大通りに面しており、人目があって憚られた。

 まごついている間に、ブツブツ文句を垂れた男が流れるように110番通報してしまった。

 

「あちゃ~」

 

 顔面に皺を寄せた塵子は、額を押さえた。

 

「……」

 

 その時、3台の特殊端末が、一斉に地震警報を鳴り響かせた。

 

「え?? うわ! やばい!! 離れて離れて!」

 

 安全管理担当の男は、電話途中で塵子の手を取り、急ぎ足で走り去った。

 

「いってらっしゃ~い♪」

 

『ご安全に!』

 

 男が手にして走っているのは、空気で膨らんだ安全標語が書かれたマスコット人形だった。

 塵子がいつの間にか発動した幻惑魔法(イリュージョン)によって、認識をずらされた男が善意で連れて行かされた。

 

「行きましょう!」

 

 特殊端末を手に、地震アラートのダミーを鳴らしたみのりが塵子に声を掛けた。

 

「おぉー、サンキューみのりん♪」

 

 みのりの謎AI操作によって、特殊端末が共鳴したのだ。

 遅れて道行く人たちの携帯が鳴り始めた。

 報告書の多い魔法を使う手間の省けた塵子が、スキップしながら転落防止シートに包まれた廃ビルに入っていった。

 

「や、やるじゃない。あ、チリ先輩! 濡れますよぉ!!」

 

「え? あ、はい」

 

 傘を振り回した安奈が、慌てて塵子を追いかけた。

 下部組織で情報戦の薫陶を受けていたみのりにとって、塵子や安奈が褒めていることは良く分からなかった。

 できて当たり前だからだ。

 

(これはいったい……?)

 

 思えば先日から、期待とかけ離れたことが起きていた。端末のAIを使いこなせない師匠に先輩。借金だらけの師匠にボロい事務所。

 

「あーミノリ。ヒヒ、敢えて言うが、これが標準じゃねぇからな。こいつら……。特に塵子がおかしいだけだぞ」

 

「えぇ……」

 

 みのりは胡乱な顔になった。

 メンター制度を遂に後悔し始めた。

 

 

 

 

 

 廃ビルの中は薄暗かった。

 

「なんかヒンヤリしてるねぇ」

 

 傘を畳んで、ようやく離れることができた塵子は、服の裾を掴んで扇いだ。

 

 解体途中なこともあり廃ビルは、伝った雨でそこかしこに水溜りができていた。

 

「ヒヒ。水溜り踏むなよ。上階だと滑って死ぬゾ」

 

 元々オフィスビルだったのだろう。未だタイルが貼られたままのツルツルとした床は、水が乗って所々滑りやすくなっていた。

 みのりの鞄から移動した御影の人形は、杏奈の頭にあるゴーグルに捕まるように乗っている。

 

――Alert。

――Error。

――code DD1987 C5639

 

――アラート。

――Error。

――code DD1987 C5639

 

 アラートメッセージ。

 杏奈が覗き込んだ端末に赤い文字が踊り始めた。

 

「チリ先輩、これ……」

 

「ん? あー、杏奈ちゃんこれアレだわ。もうなんか来てるわぁ」

 

 眉根を寄せた杏奈の言葉に、塵子がめんどくさそうに応えた。塵子の頭上では、結ばれ損ねたアホ毛が感電するようにビョンビョン揺れていた。

 

「何なんですか?」

 

「ヒヒ。次元震どころか、もう呼ばれてるってことだ。隠蔽して入ってきたってことは、知性体か」

 

 一行は、廃ビル内の暗い階段を登っていった。左回りの階段だ。階段はそこそこ広く、エレベーターホールに隣接されていた。

 

 人が入ることは想定されてないのだろう。解体しかけの廃ビルは、所々壁が抜けていた。

 

 5階。

 しばらく登り、塵子は、なんとなくビビッと来た階のホールに出た。

 

――DCPは 至急 確認を 願います。

――DCPは 至急 確認を 願います。

――DCPは 至急 確認を 願います。

 

「もぅ。なんか同じことしか言わなくなっちゃった……」

 

 目標の場所を確認しようと取り出した携帯端末を見た塵子は、片眉を上げてバグったAIをポケットにしまった。

 

 みのりも階段の半ばで立ち止まり、自身の端末を確認した。

 

「ぬぉぅ!?」

 

 突然掌の上で変形した特殊端末が、機体の周りにスパイダーウェブのようなアンテナを張った。

 

――照会中。

 

 みのりの意志を勝手に汲んだAIが、赤い文字と独自のアルゴリズムを持ったプログラム言語を凄まじい勢いで流した。

 

――照合。

――異界侵略者類(カテゴリーS)金級(ゴールド)

――ヤバです!

 

 デフォルメされたキャラクターが、画面一杯に青い顔で映し出された。

 

「え゛」

 

(金級? 何でしょうか、これ)

 

 背中にひりつく嫌な予感を感じたみのりは、御影に伝えようと声を上げようとした。

 

 その時だった。

 轟音とともに、閃光が走った(マズルフラッシュ)

 

「あ?」

 

「チリ先輩!!」

 

「伏せろ、ミノリ!」

 

「!?」

 

 ミノリの視界の先、塵子は先を歩く小柄な安奈に突き飛ばされた。

 馬鹿の様に鳴り響く火薬の音に、みのりの鼓膜は音を拾うことを放棄した。異様に銃声の大きな銃だった。開けた廊下からの鉛玉の掃射によって、そこら中が黒い煙に包まれ、穴だらけに変わっていく。

 

「安奈さん!! 御影さん!?」

 

 みのりは階段に伏せながら目を見開いた。

 階のホールの壁に、バラバラに砕かれる御影と玩具の様に揺れる安奈の影を捉えていたからだ。自身が先行すれば、即座にハチの巣にされていただろう。

 

「うわっとっと、と。あ」

 

 隅まで突き飛ばされた塵子は、みのりの視界の端で、半端に開いたエレベータードアの隙間から吸い込まれる様に階下に落ちた。

 

「塵子さん!?」

 

(5階ですよ!?)

 

 伏せながら様子を窺うと、金属製の梯子にぶつかりながら、塵子が人形のように最下層まで落ちた音が聞こえた。ゴンドラの撤去されたエレベーターの穴だった。

 

「あー、ボス。こいつら何だったんですかね?」

 

 硝煙が晴れない中。

 撃たれた杏奈へ寄ってきた山賊風の男達が、動かなくなった杏奈を蹴って仰向けに引き摺り倒した。

 

「……この世界のお偉方が使うお人形だとよ。出て来たここもバレた。すぐにズラかるぞ。宗主様の願いを果たさねば」

 

 みのりの視界の先、鏡面のようなエレベーターのドアに影が写った。

 黒い硝煙の晴れ、山賊のような男が目を細めていた。山のように大きな男だ。普通の人間であれば巨人症が疑われた。

 骨格や格好も現代人離れしている。

 革鎧を身につけ、毛皮のコートを着ていた。

 

「(ギリッ)」

 

 仲間を傷つけられたみのりは、毛が逆立ち、歯を食い縛った。直情的なみのりは、訓練を経ても(さが)を変えるには至っていなかった。

 

「ミノリ! 止めろ!!」

 

 壊れたままの口から、御影の声が漏れた。

 激高したみのりは、御影の制止を聞かずに、踊り場の階下から階段を蹴って登り上がった。

 

「はぁぁァ!」

 

「!?」

 

 みのりは常軌を逸した速度で階段を駆け上り、獣の様に階の上へ飛び出した。

 空中にに踊るみのりに対して、銃口を向ける下っ端は複数人いた。飛び出した勢いのまま、みのりは空中で銃口を確認する。

 26口。

 連装式のマスケット銃のように見える。

 全員が、ボロ布を纏った山賊風の装備に身を包み、現代的に訓練されたようにみのりへ照準を絞っていた。

 

障壁魔法(シールド)!!」

 

 みのりの身体の近くに4つの菱形の盾が展開した。

 塵子との訓練の成果だ。

 訓練では、瞬間的にではあるが、みのりは6つの盾を生成することに成功していた。

 

 飛び上がった階段から、着地するまでの数瞬、みのりの耳朶を銃声が穿った。

 

「ちっ。魔法使いか!? この世界にもいるとはな!!」

 

 みのりの盾は、強靭な意思の元にその役目を果たした。着地した瞬間に、みのりを守った盾は、花開くように外側に吹き飛ぶ。

 

「ガッ!」

 

 13人いた()()()()()の半数が、みのりの盾に接触して、内装の剝がされた剥き出しのコンクリートに叩きつけられた。

 

追加障壁魔法(追いシールド)!!」

 

 着地の勢いのまま、姿勢を低くしたみのりは、魔法の発現語を叫びながら駆け出した。3枚の盾が発現する。狙いは山賊のような大男だ。

 

「いいぜ! 来いやぁ!!」

 

 男は後ろ手に手を回すと、巨大な鉞を取り出した。

 

 みのりの狙いは頭部。

 低く駆け出した姿勢から、恵まれた身体能力で踏み込んだ。

 

 鋭く剃り上げるような、上段を狙った開脚。

 

「甘い!」

 

 鉞を持った男は、余裕をもって太もものような腕でみのりの足を打ち払った。

 しかし。

 

「はぁ!!」

 

 足技はブラフ。狙ったかに見えた足技は、体勢を戻すために回転して格納された。

 みのりが事前に展開した盾の一枚が、踏み込んだ大男の左足を撃ち払った。

 

「な!?」

 

「ふっ!!」

 

 本命の左フックが、バランスを崩して落ちてきた大男の顔面を捉えた。

 

「ボス!!」

 

 残った二枚の花弁が、残った下っ端の放った凶弾から、みのりを守った。集中を切らしたみのりの盾が一枚消えた。

 

「……。いや。あぁ、無事だ」

 

「!」

 

 大男の声に反応したみのりは、バク転しながら壁際まで後退した。

 残党に集中して撃たれたが、最後の盾がみのりを守った。

 

「…………嬢ちゃんやってくれるねぇ。目ぇ覚めたわ。油断したぜぇ」

 

 頭を軽く振った大男は、首を鳴らして居直った。 

 みのりの拳はまるで効いていなかった。

 

「そんな……」

 

(くそ、遺物さえあれば……!)

 

 実際のところ、素手のみのりはかなり善戦していた。

 この山賊風の大男は、金級(ゴールド)

 とある異世界風に言えば、アイアン、ブロンズ、シルバーに次ぐ上位のギルドランカーだった。

 

「あぁ~。嬢ちゃんも、うちの世界に来れば、銀級(シルバー)くらいはあったかもなぁ。最初に死んだゴミどもと違ってなぁ。あっははは!」

 

 黒い硝煙が渦巻く場に、大男の笑い声が冷たく響いた。

 気を失っていない男たちも、下卑た笑いを顔に張り付かせた。

 

「……おい。……チリ先輩が。ゴミだって……? 取り消せよ、その言葉」

 

 小柄な少女が出したと思えないドスの利いた声に、場が集中がした。

 

「誰だ!?」

 

 みのりを撃った銃の硝煙が煙る中。

 ユラリ、と起き上がった安奈が、倒れている下っ端の足を掴んでいた。

 

(撃たれて死んだんじゃなかったんですか!?)

 

 みのりは驚愕した。確実に、マスケット銃でハチの巣にされた安奈が立ち上がっていたからだ。

 不滅之体(イモータル)

 安奈が異世界と関わる中で、得てしまった祝福(呪い)の力だった。

 

「取り消せって、言ってんだろ!!! 聞こえねぇのか、あァ!?」

 

 杏奈が身に着けている軽鎧は、異世界産の呪われた遺物。

 装身潰し(ハードシェイカー)だった。

 それは、装備者の身体を顧みず、限界を超えて怪力を発揮させる装備だ。常人が身に付ければ、足の一歩踏み出しただけでミンチになる欠陥遺物である。

 

「オォ、らぁぁあ!」

 

 小柄な体からは想像もできない力を発揮した杏奈は、男の足を掴んだままオーバースローで投げた。

 

「は?」

 

 装備含め80kg超えの人間砲弾が、100マイル(時速160㎞)に等しい速度で飛んできた。

 しかし、安奈へ焦点を向けたままの大男は、条件反射だけで、飛んできた男を鉞で割断した。

 

「!? ……おい、ハッサン。……おい、返事しろよ」

 

 割断され半分だけになった男を見た大男は、肩を震わせた。

 辺りを割断された半身が、血で汚した。

 

「……。……てんめぇぇぇ! 俺の兄弟を殺しやがったなぁ!!!」

 

 自身で分割したにも関わらず、理不尽にもブチ切れた大男が、身体から湯気を出しはじめた。

 ペッ。と鉛玉を吐き出した安奈が、冷たく大男を見定めた。

 

「原始人の分際で、イキってんじゃねぇぞ!! コラァ!」

 

 突如、ヤンキー漫画の様に表情を崩した安奈が、大男に突撃した。地面に浅いクレーターを残して飛び出した安奈の速度は、巨大な大猪の突撃を想像させた。

 

「ガァッ!」

 

「アッ!?」

 

 しかし、安奈の突撃に反応した大男が、鉞を驚異的な速度で取り回し、突撃した安奈の額にぶち当てた。大男身体は、赤く染まり始めていた。

 

「安奈さん!?」

 

 金属同士がぶつかった音が響き、床材が剥がれ、コンクリートが剥き出しとなった床に安奈が刺さった。

 衝撃波が、歯を食いしばったみのりを襲う。

 その時。

 

「アンナァ!!」

 

 御影の声が響いた。バラバラとなった人形は、天蚕糸で繋がれ、浮いていた。

 安奈へ更に追撃しようとした大男へ、まるでポルターガイストの様に御影の人形の破片が殺到した。

 

「いつまで寝てンダ!! さっさと起きろよ、塵子ォ!!!」

 

「ガ!」

 

 不気味な人形の口だけで叫び、青白い極光を放ちながら、御影の人形が砕け散った。

 

(自爆!?)

 

「ぐっ。ぁぁぁ!」

 

 御影の自爆は、凄まじい光と衝撃波を伴った。

 先ほどよりも強い衝撃が飛んだ。

 御影が放った極光から、最後の盾がみのりを守った。

 

「……」

 

 音が鳴りやんだ時、雨が降り始めた。

 耳鳴りが酷かった。

 上階が消し飛び、地面に瓦礫と焦げた跡が広がっている。

 

「おわった……? 安奈さん!」

 

 衝撃を魔法の盾で逸らしたみのりは、煤けているが無傷だった。生き残っていた山賊の下っ端達も消し飛んでいる。

 衝撃で足腰が立たず、四つん這いになりながらも、みのりは安奈が居たと思われる穴を覗き込んだ。みのりの視界は、階下でまんぐり返しになった鎧少女を捉えた。

 胸が上下している。

 

(どんだけ丈夫なんですか……)

 

 呆れて胸を撫で下ろしたみのりの後ろで、火傷で黒い煤を纏った大男が立ち上がった。

 

「え?」

 

「ガァアアア!」

 

 御影の自爆を以てしても、大男は健在だった。

 身体は赤く染まり、血管の浮き出た腕は蒸気を噴出している。

 振り上げた鉞は、男の次元の異なる握力によって赤熱していた。

 

 鉞が振り下ろされる。

 

(――死)

 

「……ちょっとぉ。弟子に何してんだ、お前」

 

 振り下ろされた鉞は、少女の細い右腕によって柔らかく止められた。

 

 みのりが目を開けると、頭から血を流した塵子がそこに立っていた。

 

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