魔法科高校の諜報員   作:2階から目出た鱗

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入学編 2

 二〇九五年 四月四日 国立魔法大学附属第一高校

 

 

 

 学生生活二日目、ヒロトは高校生としての日常を謳歌している。昨日の入学式は監視対象かつ前世で読んだ小説の主人公である司波達也とのファーストコンタクトということもあって、そこそこ緊張していた。

 

 しかし二日目ともなれば元来の適応能力も功を奏して、今生初の学生生活を満喫することができている。もちろん周りに自身の異様な経歴がばれない範疇で、ではあるのだが。

 

 学校に登校したヒロトは、早速クラスメイト二十四人のほとんどと自己紹介を交わしていた。その中には原作にも登場する、光井ほのか、北山雫、森崎駿といった人物もいた。

 そう、ヒロトは彼ら彼女らや深雪と同じ一年A組だった。昨日のIDカード配布時にわかっていたことではあるのだが。    

 

 A組は成績優秀な生徒が多いということもあってか、殆どの学生が自信に溢れ、活発に交流している。

 

 そういう状況の中で、男女問わず注目を惹きつけてやまない美貌の持ち主がいたらどうなるかは自明だろう。

 深雪の周りには、常に複数のクラスメイトの男女、さらに昼休みや専門課程の見学では一科生の別クラスの人が取り囲んでいた。

 

 流石にそこに無理に割って入っていくのは周りの不況を買うだろうし、何よりヒロトは気が引けた。そんなわけで授業時間中は他のクラスメイトと過ごしていた。

 

 ヒロトは達也たち原作の主要人物が関わらなければ、普通の一般生徒であるかのように学校生活を楽しめるようだ。

 

 ちなみに今日は授業はなく、オリエンテーションと履修登録とガイダンス、あとは専門課程見学の自由時間のみである。

 

 そういうわけで特段深雪たちと関わることなく授業時間が終わり、放課後になった。事前にA組の担当カウンセラーに呼び出されていたヒロトはカウンセリングルームに向かう。

 この時代のカウンセラーとはヒロトの前世で言うところの担任と呼ばれるようなものだ。

 

 そこで伝えられたのは風紀委員の教職員推薦枠に推薦されているということだった。

 

 原作通りに状況が展開したとしたら達也が風紀委員になることを知っていたヒロトは、風紀委員の仕事や役割について説明されると、少し悩んだふりをしつつも了承する。

 

 その後はカウンセラーの先生と軽く雑談をした後、事務室で預けているCADを返却してもらい、下校するために校門に向かった。

 

 ──原作通りに出来事が生じるようなら、確かこのくらいの時間に校門で……。

 

 ヒロトの予想通り、校門近く、ぎりぎり校内であるところで、クラスメイトの森崎を筆頭に授業時間中深雪の周りに集まっていた人たちと美月やエリカ、そして初対面の西条レオンハルトが言い争っていた。

 それを見てヒロトは事前に予想していた以上に原作知識が役に立ちそうなことを知る。

 

 ──さて、どうしたものか。

 

 ヒロトは原作通りに事が進むようであれば、是非ともそうなってほしかった。原作では、この場面で達也が真由美たちに起動式を分析する能力があることを明かし、それが達也が風紀委員に所属することになる遠因になる。

 せっかく達也に近づくために風紀委員に所属したのだから、それを無駄にしないためにもぜひ達也には風紀委員に所属してほしかった。

 

 とはいえここで関わりたくないとばかりに達也たちを無視してしまうとヒロトが築きつつある自身のキャラクターにそぐわない。

 ヒロトは達也たちに近づきながら、いくつかのパターンを思案し、方針を決める。

 

 そして深雪とともに傍観に徹している達也に話しかける。

 

「よっ、達也。これはどういう状況?」

「ヒロトか。それはだな……。」

「志那さん……」

 

 達也はこの状況を深雪を傷つけないように説明する方法に窮しているようだった。そして深雪は物憂げに俯く。ちょうどそのとき、ヒロトにエリカとレオの静かに抑えられつつも迫力のある声が届く。

 

「ハン! そういいうのは自活中にやれよ。ちゃんと時間が取ってあるだろうが」

「相談だったら予め本人の同意を取ってからにしたら?

 深雪の意思を無視して相談も何もあったもんじゃないの。それがルールなの。高校生にもなって、そんなことも知らないの?」

 

 森崎たちはその気迫に気圧されるも、それが余計にプライドを刺激したのか激情して反論している。ヒロトは大体の事情はわかったとばかりに達也に言う。

 

「大体の状況はわかったけど、ねぇ」

「正直、双方売り言葉に買い言葉状態で手がつけられん」

 

 ヒロトは呆れた表情をみせつつ、肩をすくめてみせた。しかし、そうこうしているうちに事態は急変していく。

 美月が森崎に対して言った、一科生のがどれほど優れているのか、という言葉に対して森崎が威嚇とも最後通牒とも取れる言葉を発している。

 

「どれだけ優れているか、知りたければ教えてやるぞ……」

「ハッ! ぜひとも教えてもらおうじゃねえか」

 

 レオが返したその一言に森崎は懐から拳銃型の特化型CADを取り出しながら叫ぶ。

 

「いいだろう! 教えてやる!」

 

 森崎のその行動は素早く、手慣れた行為であることをうかがわせた。その行動だけで、森崎が並々ならぬ努力を重ねていることが理解できる。

 だが、特化型CADは起動式を読み込んでいる最中に、エリカが振り下ろした警棒に吹き飛ばされた。

 

「この距離なら手動かしたほうが早いのよね」

 

「おい! 森崎! 千葉さんも、、」

 

 その様子の一部始終を目撃したヒロトは、流石に見過ごせないとばかりに、森崎を怒鳴り、森崎とその周囲を睨みつけながら威圧的に近づいていく。森崎はヒロトの姿にはじめて気がついたのか目を見開き、驚愕を示す。

 するとその一触触発の空気にあてられたのか、森崎の周囲にいた一人の女子生徒がCADを操作し起動式を展開する。今朝ヒロトとの自己紹介で光井ほのかと名乗った原作登場人物の一人だ。

 

「光井さんっ」

 

 ヒロトが慌てた様子でほのかに呼びかける。ヒロトの呼びかけに自身の愚策に気づき、ほのかは起動式の展開をキャンセルしようとする。しかし起動式のキャンセルが実行されるよりも先にどこからか飛来してきたサイオンの塊が起動式を砕く。

 ほのかはその衝撃でよろめくが、その隣にいたこれまた原作キャラクターである北山雫に受け止められる。

 

「やめなさい! 自衛目的以外の対人攻撃魔法の行使は校則違反である以前に犯罪行為ですよ!」

 

 そう言って近づいてきたのは左手を前に掲げ、魔法を待機状態にした上で近づいてくる真由美だった。その横には同様に魔法を待機状態にしている風紀委員長、渡辺摩利。

 

「一年A組と一年E組の生徒ですね。事情を聞きます。ついてきなさい」

 

 摩利が魔法の違反使用の当事者たちにそう呼びかける。ヒロトの周囲の生徒は、しかし雰囲気にのまれたのか硬直していた。摩利の鋭い視線に泰然と視線を返しつつも、ヒロトも周りに倣い突っ立ったままである。

 

 その様子を確認し自身が動くしか無いことを悟ったのか、達也は摩利の前に悠然と足を運ぶ。深雪は達也の一歩後ろをしずしずと歩く。

 

「すみません。悪ふざけが過ぎました」

「悪ふざけ?」

「はい。森崎一門のクイックドローは有名ですから。後学の為に見せてもらうだけのつもりだったんですが、あんまり真に迫っていたもので、思わず手が出てしまいました」

「ではその後にそこの一年A組の女子が攻撃性の魔法を発動しようとしたのはどうしてだ?」

「驚いたんでしょう。また攻撃、といっても彼女が発動しようとしたのは目くらまし目的の光波振動系の閃光魔法ですよ。威力も失明や視力障害が発生しない程度に抑えられていました」

「ほぅ、どうやら君は展開中の起動式を読み取ることができるらしいな」

「ええ。実技は苦手ですが分析は得意です」

 

 淡々と説明する達也に摩利は訝しげな目を向ける。どこか白々しさを感じ取ったのだろう。ヒロトも達也の発言に空々しさを感じていた。

 とはいえ好都合な展開であったし、思っていたよりうまく状況が展開し原作通りの展開になったことに、ヒロトは安心していた。

 

「……誤魔化すのも得意のようだ」

 

 摩利はそう言うと、会話をしていた達也から視線をはずし、ヒロトに向ける。

 

「志那ヒロトだな。彼のこれまでの説明で事実と異なる点はあるか?」

 

 ヒロトはそう問われると数歩前に出て、もちろんだと言わんばかりの顔でこたえる。

 

「自分は途中からしか目撃していないので詳細は知りませんが、少なくとも自分が見た状況に矛盾するものではありません」

 

 ヒロトはそう説明したが、達也と同様に言葉の節々に白々しさが隠しきれない。そのことに気がついた摩利は目を細める。

 

「志那、風紀委員の証言は原則として証拠として採用される。ゆえに風紀委員の偽証が発覚すれば、一般生徒の場合よりも厳罰に処されることを忠告しておく」

「……ご忠告ありがとうございます。()()()()()()()()()()()、注意してまいります」

 

 摩利の言葉に一瞬言葉をつまらせた様子をみせつつも、ヒロトは返答する。摩利は『風紀委員になりましたら』の部分があえて強調されていることに眉をひそめている。ヒロトの言わんとしていることを理解したのだろう。

 ヒロトは現在教職員推薦枠で風紀委員に指名されてはいるものの実際に風紀委員に就任したわけではない。ゆえに自分は一般生徒である。ヒロトは言外にそう主張したかったのだ。

 

 達也と摩利とヒロト、その三すくみでにらみ合いとまではいかずとも剣呑な雰囲気を漂わせていると、深雪が割って入る。

 

「兄と志那さんの申した通り、本当に、ちょっとした行き違いだったんです。

 先輩方のお手を煩わせてしまい、申し訳ありませんでした」

 

 達也やヒロトとは違い、深雪の言葉は真に反省していることを感じさせた。さらに真正面から深々と頭を下げられれば摩利も追加で追求はできなかった。

 

「摩利、もういいじゃない。

 達也くん、本当にただの見学だったのよね?」

 

 真由美はそう言うと、達也には貸一つとでも言いたげな顔を向け、顔をヒロトに向けると慈母のような表情で頼りになる先輩の顔を見せる。真由美の性格がよくわかるワンシーンだった。

 そして今度は生徒会長然とした顔に戻るとこの場にいる一年生全体を見渡して、発言する。

 

「生徒同士で教え合うことが禁止されているわけではありません。

 しかし魔法の使用には厳密に制限が課せられいます。このことは一学期の内に授業で教わる内容ですから、それまでは生徒同士での自習活動は控えたほうがいいでしょう」

「生徒会長もこうおっしゃられていることであるから、今回は不問とする。以後このようなことがないように」

 

 真由美に続き摩利が格式張った口調で裁定を告げると、一年生全員が頭を下げる。それを落ちついた様子で受け止めた摩利は、達也の方を向く。

 

「君の名前は?」

「一年E組、司波達也です」

「そうか、覚えておこう」

 

 達也は苦々しい表情をしつつも、頭を軽く下げる。また摩利は最後にヒロトに対して言葉をかける。

 

「志那ヒロト、風紀委員の任命手続きと仕事の説明を明日行う。明日の放課後、風紀委員会本部まで来てくれ」

「承知しました」

 

 それだけ伝えると摩利は振り向いて去っていった。真由美はにこやかな笑みを浮かべたまま去っていった。

 

 

 

 ●  ●  ●

 

 

 

 森崎が達也に宣戦布告のようでありつつも、負け犬の遠吠えのように「お前を認めない」という趣旨の発言をしているとき、ヒロトはレオと自己紹介を交わし、エリカと三人で喋っていた。レオとエリカは正直、もう森崎に興味が無いようである。

 

 ヒロトとしては森崎とはこれからクラスメイトとして付き合って行く以上、ある程度は仲良くしていきたいと考えていた。だが森崎は同じ考えではないようだ。森崎はヒロトのほうに向き直り、呼び捨てで話しかける。

 

「志那。お前、風紀委員に指名されたのか」

 

 それは疑問ではなく、ただの確認のようだ。

 

「そうだよ。ちょうどさっき教職員推薦枠で指名された」

「……そうか。」

 

 森崎の顔には不満がありありと浮かんでいる。森崎家はボーディーガード業を営んでおり、森崎自身もそれに関わるうちに実戦の腕に自信をもっていたのだろう。

 しかし、その自信はエリカによってCADを吹き飛ばされたことで揺らぎ、風紀委員への指名を同級生に掻っ攫われることで崩れかかっているようだ。森崎の表情にはどこか不安な様子も見て取れた。

 

 森崎はそれ以上何も言わずに、身を翻して去っていこうとする。このままさよならするには、流石に後味が悪かったヒロトは背を向けて歩いている森崎に一言声をかける。

 

「森崎、また明日」

 

 森崎は一瞬だけこちらを見たもののすぐに目を逸して、今度こそ遠ざかっていった。

 達也たちは意外そうな目でヒロトを見ていた。

 

 少しの間なんとも言えない空気が達也たちを覆う。

 これを好機と思ったのか、話しかけるタイミングを見計らっていたほのかが雫を連れ添って達也に話しかけた。魔法を発動しようとしたことを謝罪している。

 

 

 雫とほのかはその流れで達也たちとともに駅まで行くことになったようだ。

 ヒロトは帰り道が駅とは真逆とまではいかずとも別方向であるのだが、任務のこともあるので達也たちについていく。このまま別れると精神的な距離が空いてしまう恐れがあった。

 

 ──単純にこのメンバーでどんなこと喋るのかも気になるし……

 

 レオ、エリカ、美月のE組メンバーとほのか、雫、ヒロトのA組メンバー、そして司波兄妹の八人の大所帯で下校していく。話題はさっきのエリカが森崎のCADを吹き飛ばしたときのことである。

 

「さっきは随分と見事な腕前だったな、エリカ」

 

 とはヒロトのセリフである。自己紹介の際、ほのかが達也のことを『達也さん』と呼んだことから、エリカも達也のことを下の名前で呼ぶことを希望したのだ。希望した、と言っても一方的な通牒にすぎなかったが。

 そしてそんな流れの中でヒロトもエリカを下の名前で呼ぶことになっていた。

 

「まあね。起動中のCADを素手で触ろうとしたこの馬鹿の為に人肌脱いだのよ」

「てめえ! 馬鹿っていいやがったな!」

 

 このまま放置していたらレオとエリカの掛け合いは最終ラウンドまで持ち込まれる。それを危惧したのか達也が言葉を挟む。

 

「二人とも、、 それにしても、エリカの得物は特殊な形状をしていたな」

「そう? 警棒って結構ポピュラーな武器だと思うけど」

 

 エリカは折りたたまれた警棒をプラプラさせながら、達也に返事をする。

 

「警棒はポピュラーかも知れんが、警棒型のCADは珍しいんじゃないか?」

「へぇ、達也くんはこれがホウキだってわかるんだ」

「まあな」

 

 その後もレオが警棒に込められた魔法を不思議に思ったりするなど、原作に似た会話が続く。ヒロトがほのかと雫を強く睨みつけてしまったことを謝るというワンシーンもあったりした。そして駅に着くと駅で解散となった。

 

 

 

 駅から家まで一人で歩いているヒロトは思索にふけっている。

 

 ──予想以上に原作通りに物事が進んでいくな……。特に会話、もう原作の字面を一字一句覚えているわけじゃないが、おそらく原作とほぼ同じなんじゃないか? 

 

 ヒロトは一人の人間としてこの世界で生きてきたなかで、前世同様にこの世界でも人々は何ら変わらず、一人一人が生きていることを実感していた。だからこそ、この世界を『魔法科高校の劣等生』という物語の中の世界ではなく、自信が生きている現実だと認識している。

 

 しかしヒロト自身の知っている原作通りに会話までもが進んでいくとなると、人智を超えた存在の気配をなんとなく感じ取ってしまい不安になる。

 

 ──ほんとになんなんだろうな……。原作の修正力とでもいうものか? 一体……。

 まあ、本当に考えても仕方ないな。原作の知識が使えてラッキーだとでも捉えておこう。というかそうするしかない……。

 

 漠然とした不安感に囚われつつも、帰路を歩く。ヒロトは、たかだか学校生活のワンシーンを事細かに意識しするのも馬鹿らしいかと考える。

 そもそも昨日も今日も原作に描かれていない場面ではすべてが当然初めて目にする出来事なのだ。

 

 おそらく日常生活の中での既視感(デジャヴュ)による違和感のようなものだろう。そうヒロトは結論付けた。

 

 

 

 ヒロトは家に着いてからは、カイナに訓練に付き合ってもらった後、夕食を食べ、今日一日の報告書を書いてから眠りについた。

 ちなみにカイナは通信制の中学の生徒であるから、わざわざ学校に行く必要はない。中学の時点で通信制学校に通うにはある程度の事情が必要であるが、適当に事情を用意しているのである。

 

 

 

 ────────────────────────

 

 

 

 二〇九五年 四月五日 国立魔法大学附属第一高校 

 

 

 

 高校生になって三日目ということもあって、昨日は浮足立っていたクラスの雰囲気も落ち着きつつあった。

 とはいえ今日から早速授業が始まるということもあって、完全に落ちついているわけではない。

 

 事務室でCADを預けようとしたら風紀委員推薦の話が通っていたのか、預けないで構わないと事務の人に言われるという場面があったりしながらもヒロトは登校していた。

 

「おはようございます。志那さん」

「志那さん、おはよう」

 

 ヒロトが登校して教室に入ると、雫の机で話し合っていたほのかと雫が挨拶してくる。

 

「光井さん、北山さん、おはよう」

 

 5✕5で机が並んでいる教室でほのかの机は左前のほうであるが、ヒロトの机は右後ろの隅、雫はその左斜め前である。ちなみに深雪の机は雫の後ろ、ヒロトの左である。深雪はまだ来ていないようだ。

 

 ヒロトは自身の席に着き、携帯端末を取り出す。携帯端末でニュースサイトを開き流し読みしていくと、やはり反魔法主義的な記事が目立つ。ここ数ヶ月強まりつつある傾向だった。

 

 ──これが社会全体の風潮か……ブランシュやエガリテみたいな連中がのさばるわけだ。

 

 朝から面倒な現実を突きつけられながられ、憂鬱だったヒロトは携帯端末から顔を上げる。教室にはすでに全員が揃っていた。ニュース記事を読んでいる間に登校してきていた深雪が、ほのかと雫と席を挟んで雑談している。

 

 ほどなくして、始業のアナウンスが教室前のスクリーンに映し出され、授業が始まった。

 

 

 

 

 ●  ●  ●

 

 

 

 午前中の三限が終わると、昼休みになる。深雪と昼食をともにしたかったらしいほのかだが、深雪が生徒会室で食べることを知り意気消沈していた。そんなほのかを介抱している雫がヒロトに話しかける。

 

「志那さん、一緒に食べない?」

「ぜひ。俺も誘いたいなって思ってたんだ」

 

 ヒロトは雫の行動に少し意外さを感じつつも承諾する。もともと昨日一緒に授業見学を回った人たちでも誘おうかと思っていたのだが、雫に誘われても否やはなかった。

 クラスメイトの男子から嫉妬が滲んだ視線を受けつつ、ヒロトはほのかと雫と食堂に向かった。

 

 

 昼休みが始まったばかりの時間帯、食堂は勝手がわからない新入生で混み合いっていたがしばらくすると落ち着きつつあった。

 

「へー、じゃあ二人も中学の頃は魔法じゃ負けなしだったんだ」

「うん。高校でもほのか以外に負けるとは思ってなかった」

 

 そんな中、食事が終わった三人は食堂の席で喋っていた。

 

「俺も正直自惚れてたけどさ、」

「司波さんを見ちゃうとね」

「同感」

 

 三人は今日の午前中にあった実習での出来事を思い出す。深雪が実習での機器の扱い方を学ぶために練習で訓練用CADを使用したのだ。台車をレールに沿って移動させるだけの魔法で、タイムを取っていたわけではないが、起動式の読み込みスピード、魔法式構築のスムーズさを見れば深雪の優秀さは嫌というほどわかった。

 

「「「はぁ」」」

 

 それに加えて万人を魅了してやまない容姿、欠点が見つからなかった。同じことを考えたのか、三人が同時にため息を吐く。

 それが可笑しかったのかほのかとヒロトがクスクスと笑う。雫も分かりづらいが、口角が少しだけ上がっている。

 

 ヒロトは自分がなんとなく感じていた原作登場人物に対する忌避感が薄れていくのがわかった。

 

 コミュニケーションに長けていて表情豊かなほのかに、一見無愛想に見えるがきちんと人を観察していて時々鋭いツッコミが光る雫、そして言い方は悪いが人に取り入るのが得意なヒロト。この三人の会話は出会った当初のぎこちなさも忘れて、弾んでいた。

 

 しかし思いの外盛り上がってしまった会話のせいで、予鈴がなるまで食堂にいた三人は教室まで駆け足気味で戻り、クラスメイト、特に深雪から奇異の眼差しを向けられることになる。それに対して雫は平然とし、ヒロトは苦笑を浮かべるにとどまったが、ほのかは盛大に顔を赤らめていた。

 

 

 

 ●  ●  ●

 

 

 

 午後の授業が終わり、そのまま放課後になる。一〇〇年ほど前に存在していた終礼はなくなって久しい。

 

 ヒロトはクラスの友人と軽く話してから、生徒会室に向かっていた。昨日来いと言われていたのは風紀委員会本部だが、摩利が深雪にヒロトを達也とまとめて手続きをするから生徒会室に連れてこいと言ったらしい。

 ヒロトの隣には達也が、そしてその隣には深雪がいる。どういう事情があるのか知って入るものの、ヒロトは達也がいることに疑問の表情を浮かべる。

 達也は憂鬱そうな感情をちらちらと浮かばせながらも、風紀委員の生徒会推薦枠で推薦されている、という事情を説明した。

 

「なるほどね」

 

 ヒロトは達也の様子を見て、ともに委員会に入れることを喜ぶのは達也と深雪から不興を買う恐れがあることに気づいていた。そのため簡単に返事をして、言いたいことを言いづらい、といった風な表情を浮かべる。

 

 三人の間に微妙な空気が漂う中、生徒会室の到着する。

 

 三人、いや達也を除いたヒロトと深雪の二人のみを歓迎した服部副会長がヒロトとは握手をするも、深雪とは遠慮するという場面があったりもした。

 

 しかし、その後はトントン拍子に原作通りの展開が進んでいった。達也を風紀委員に推薦することに服部が反対し摩利と口論になる。そして、それに深雪が「兄は実戦ならば誰にも負けない」と反発し、それを宥めつつ深雪をかばうために達也が服部に模擬戦を申し込む。

 その間、ヒロトは猛烈な既視感(デジャヴュ)を感じつつも、困惑した表情を浮かべて場の空気となっていた。生徒会書記の中条あずさと会計の市原鈴音は同情の眼差しを時折向けてくるものの、特に話しかけてはこない。

 

 そのままの流れで達也と服部が三〇分後、演習室で模擬戦を行うことになり、達也と深雪は事務室に達也のCADを取りに行った。

 

 

 

「ヒロトくん、悪いわね」

「いえ、俺もこれから一緒に仕事をするかもしれない達也の実力は気になりますから」

 

 そのような会話をしながら生徒会メンバーと、摩利とヒロトの風紀委員会組は演習室に向かっていた。

 目的地の第三演習室に着くと早速服部は模擬戦の準備に取り掛かる。といっても、服部は生徒会役員であるからもともとCADの常時携帯が許可されているため、ほとんどやることはない。

 

「それでヒロトくんはどっちが勝つと思う?」

 

 ヒロトがこの場で一人だけの下級生ということもあり、気を遣ったのか、真由美はヒロトに話しかけた。

 

「さあ。俺は服部先輩と達也の実力のどちらも知らないのでなんとも言えません、としか……」

「ほう? 達也くんは二科生だが服部は二年の一科生、結果は明白だと思うがね。」

 

 摩利はヒロトのことを値踏みするような目で見つめながら、聞き返す。

 

「魔法実技と実戦は別物でしょう」

「どういうことだ?」

「これは海軍の水陸機動隊に所属していた父から常々言われてきたことなのですが、」

 

 ヒロトは摩利の試すような視線に応えるように、軽く前置きをして話し始める。

 真由美と鈴音と摩利はヒロトの言葉が過去形であることに気がついたようで、あまり考えたくない想像をして顔を曇らせる。

 ちなみにヒロトは戸籍上の父である志那少佐が生きているうちに会ったことはない。真っ赤な嘘であった。

 

「魔法師も人間である。であるから、障壁魔法も何も展開していない状況で銃弾を一発でも喰らえば、死ぬか、最低でも戦闘不能になる。

 今回の場合には適さない極端な例えだったかもしれませんが、一科生でも顎にアッパーカットを喰らえば脳震盪で戦闘不能になるでしょうし……。」

 

 ヒロトの回答が予想の斜め上だったのか真由美、鈴音、服部は目を丸くしている。あずさに関しては物騒な例えに少し怖がっていた。しかし摩利だけは興味深げな視線を強める。ヒロトは主張の締めにかかる。

 

「つまり、一科と二科を分ける実技試験の結果とは魔法の干渉力、処理速度、キャパシティを数値化したものにすぎず、模擬戦での勝敗に影響するファクターはもっと他にもあるということです」

「ふむ。例えば?」

「武器の性能や実戦を想定した訓練の習熟度、ですかね」

 

 演習室に沈黙が訪れる。想定された反応とはいえヒロトも流石に居心地が悪かった。

 

「すみません。長々と差し出がましいまねを致しました」

「いや、参考になった。感謝する」

 

 ヒロトが軽く頭を下げて形式的に謝罪すると、意外にも服部から返事があった。

 ヒロトの言葉に少し考える素振りをしていた摩利だが、なにか結論が出たのかヒロトに好戦的な笑顔を向ける。

 

「よし、志那。服部たちの模擬戦が終わったら私たちで一戦やらないか?」

「ちょっと! 摩利!」

「いいじゃないか。新入りの片方だけの実力を見て、もう片方を確認しないというのも不平等だろう」

 

 摩利のすでに達也が風紀委員に入ることは既成事実であるかのような発言に、服部は眉を顰める。

 

「あのねぇ、」

 

 真由美は諦観の念をにじませながらも摩利に抗議する。真由美は摩利がこうなると意思が硬いことを知っていた。その抗議の途中で摩利が言葉を挟む。

 

「演習室の利用時間も余裕をもってとってあるし大丈夫だろう。

 それで、志那。あれだけ大口を叩いたんだ。受けてくれるか?」

「構いませんよ」

 

 摩利はヒロトを煽るような発言をし、模擬戦に引きずり込もうとしたが、ヒロトはもともと断る気は無かった。

 

「はあ。生徒会長の権限により、渡辺摩利と志那ヒロトの模擬戦を許可します」

「生徒会長の宣誓に基づき、風紀委員長として、志那と私の模擬戦が校則に基づく課外活動であることを認める」

 

 ため息をつきながら、形式的に口上を述べる真由美と対照的に摩利は乗り気だった。あずさは端末を叩いて、模擬戦の許可証を作成している。

 ヒロトが気になっていることを質問する。

 

「委員長、ノータッチルールを適用するのでしょうか?」

 

 ノータッチルールとは主に女性が参加する模擬戦において適応される、直接攻撃を禁止するルールのことだ。

 

「私は適応しなくても構わないが、志那がやりずらいと感じるのであれば適応してもかまわないぞ」

「では、適応せずにお願いします」

「いいのか? 自分で言っておいてなんだが、私は近接のほうが得意だぞ」

「ええ。俺も近接戦闘のほうが慣れているので」

 

 摩利は近接戦込みの模擬戦ができることが嬉しいのか、非常に上機嫌だった。

 

 達也と深雪が演習室に入ってくる。達也は手にアタッシュケースを抱えていた。今までのヒロトと摩利の流れを少し離れた場所から眺めていた服部が顔を引き締める。

 摩利は上機嫌な様子で模擬戦に使うCADの準備をしている達也に絡みにいっていた。

 

「ヒロトくん。摩利は校内でも実力が三本の指に入る、近接戦闘に関しては一番とすら言われているのだけど、大丈夫?」

 

 真由美がヒロトに私心配です、と言わんばかりの表情で近寄って声をかける。ヒロトが達也の方を見ると摩利も達也にベクトルは違えど似たようなことをやっているのが確認できた。摩利は達也にいわゆる色仕掛のようなことを仕掛けているらしい。

 

「勝てるように頑張るつもりですが、胸を借りるつもりで挑みたいと思います。」

「そっか。頑張ってね」

 

 ヒロトが真面目に返すも、真由美は可愛らしい表情と声色で応援の言葉を告げる。ヒロトが目線を鈴音に向けるも、諦めてください、という表情で鈴音は首を横にふる。

 

 そうこうしているうちに達也の準備が整ったようだ。達也と服部は演習室の模擬戦の際に使われる開始ラインに立つ。審判をやるために真由美が二人の間に入る。

 

 

 達也と服部の模擬戦が始まる。

 

 

 




水陸機動隊は現実では陸上自衛隊の部隊ですが、一〇〇年後の未来では海軍に所属していることになっています。多分

続きは長くなりそうなためここまでで一旦投稿します。
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