リアライズ・オンライン  ~バグ技が大好きなゲーム廃人は、人外の腕前でeスポーツ界を蹂躙する~   作:熊乃げん骨

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Disk1 青き疾風と銀色の転校生《ブルー・ミーツ・シルバー》
EP1 青き疾風《ブルーシャドウ》


 鬱蒼とした森の中を駆ける。

 駆けると言っても地面を、ではない。木々の枝から枝へ飛び移りながら目標を追いかけていた。

 眼下には一人の女性が走っている。彼女の服は擦り切れ、その眼は恐怖に染まっている。よほど今の状況が怖いのだろう。待っていろ、すぐに楽にしてやるからな。

 

「きゃ!」

 

 女性が木の根につまずき、地面に倒れる。どうやら転んだ拍子に足を擦り剥いたようで、足を押さえて苦しそうにしている。これではすぐ追いついてしまうぞ。

 

「いや、来ないで……!」

 

 女性は瞳を潤ませ懇願する。しかし狩人がそんな言葉に耳を貸すことはない。

 むしろ勢いを増し、弱りきった獲物めがけ飛びかかる。

 

「一発で仕留める」

 

 俺は枝から勢いよく跳躍すると、女性めがけ急降下する。右手に光るは鋭利な小太刀。高速で落下しながら、対象めがけて一気に振り下ろす!

 

「――――疾風刃ッ!」

 

 その刃、疾風の如く。超高速で放たれた俺の刃は、目標の首を寸分の狂いもなく切り落とす。

 

「つまらぬ物を斬った……」

 

 俺は今しがた倒した『狼のモンスターの亡骸』を見ながらそう呟く。

 そしてそのモンスターに襲われていた女性は、突然現れた青い忍装束を着た謎の人物である、俺を凝視しながら口を開く。

 

「あ、あなたは……?」

「助けに参った。下がっていろ」

 

 女性を庇うように前に立つ。すると木々の間から漆黒の毛に覆われた狼たちが姿を現す。

 ひぃふぅみぃ……全部で五匹か。これくらいなら彼女を守りながらでも倒せるな。

 

「来るがいい犬公。我が愛刀の錆にしてくれる」

 

 俺の決め台詞が決まったところで狼たちが一斉に飛びかかってくる。本当ならこの後決めポーズもキメたかったのだが仕方がない。ここはカッコ良く仕留めてその分を挽回するとしよう。

 

「参る!」

 

 小太刀を逆手に持ち、突っ込む。

 先頭にいた狼が鋭利な牙を剥き襲いかかってくるが、俺はそれを華麗に躱しすれ違いざまに首を切り落とす。そして動きを止めることなく今度はその後ろにいた狼のもとに駆け、その顎を蹴り飛ばし怯んだところで脳天に小太刀を突き刺す。

 

「あと三匹!」

 仲間をやられながらも狼たちは冷静だった。奴らは連携を取って、俺を囲むようにフォーメーションを組む。中々頭がいい……が、その程度で俺は倒せないぜ。

 

『ギャアアアオウッ!』

 

 一斉に飛びかかってくる狼たち。一匹斬り倒してもその隙に他の狼にやられてしまうだろう。もっとも無難なのは上に跳び回避することだがそれじゃあ面白くない。せっかく観客《オーディエンス》もいる事だし派手に決めよう。

 

「秘技、旋風斬《つむじぎ》り!」

 

 その場で横に回転しながら小太刀を振るう。

 すると狼たちは三匹とも横に真っ二つに斬れ裂かれ、その場に崩れ落ちる。うむ、少しグロテスクだが見事な一撃だった。これはヒーローポイント高いぞ。

 

 満足しつつ、狼が落としたドロップアイテムを拾う。お、黒毛狼の上質牙じゃん、ラッキー。

 

「あ、あの!」

「ん?」

 

 物色していると女性に声をかけられる。そういえばそっちをケアしてなかった、いけないいけない。俺は忍者なりきりモードになり、声色を低くして返事をする。

 

「む。如何したかなお嬢さん」

「えと、助けてくださりありがとうございます、忍者さん。もうダメかと思いました」

「当然のことをしたまで。それよりお怪我は大丈夫ですか?」

「はい、少し擦りむいたくらいで大きな怪我はないみたい、です」

 

 体を見渡し怪我を確かめる女性。年は十代後半くらいだろうか、栗色の髪の毛がかわいらしい人だった。

 俺は尻餅をついたままの彼女のもとにしゃがみ、傷口に回復液《ポーション》をかける。するとみるみる内に彼女の傷は塞がり、体力も回復する。

 

「す、すみません回復アイテムまで貰っちゃって! お金払いますっ!」

「心配ご無用。正義の味方は見返りを求めませぬ。それよりこれを使って早く街に戻るとよい」

 

 俺は紫色の水晶を取り出して渡す。それを手に取った彼女は驚く。

 

「これって街に戻るアイテムですよね? 貰えませんよこんな高価なアイテム!」

 

 彼女に渡したのは『帰還の水晶』という消費アイテム。これを使えば最後に立ち寄った街にワープすることができる。

 確かに高価ではあるのだが、それはあまり進んでいないプレイヤーからすればの話。廃人プレイヤーの俺には痛手にはならない。

 

「この森は深い。今の装備のままでは次の街に行くのは不可能。これを使い街に戻り、今度はちゃんと装備を作り、情報を集め、パーティを組んでから挑むとよい」

「……わかりました」

 

 説得の甲斐あって女性は帰還の水晶を受け取り、使用してくれる。

 よかった。これで任務完了だな。

 

「本当にありがとうございました。最後にお名前だけお聞きしてもよろしいですか?」

 

 彼女のその言葉に、俺は渾身のキメ顔で返す。

 

「私の名は……『青き疾風』。またご縁があれば会いましょうぞ」

 

 そう言い残して俺は天高く跳躍し、闇の中に消えていく。

 

 ……よし、もう転移したな。

 

 女性がキチンと帰還の水晶で帰ったのを隠れて確認した俺は、取り逃がしたドロップアイテムがないかを確認し、メニュー画面を開く。

 そしてメニューの一番左下にある『ログアウト』のボタンを押す。すると体が光り始め、細かな光の粒となっていく。

 やがて俺の体は完全に消え、視界は闇に染まる。

 その数秒後、闇の中に文字が浮かび上がる。

 

――――Real World ONLINE――――

―――――LOGOUT NOW―――――

 

 リアルワールド・オンライン。それは俺にとってもうひとつの世界とも呼べるゲーム。

 かけがえなく、何物にも変え難いもうひとつの現実《リアル》。

 

 また直ぐに戻る。

 そう心の中で呟いた俺は現実《クソゲー》へとログインするのだった……。

 

◇ ◇ ◇

 

「あ゛ー、頭がガンガンする」

 

 眠い目を擦りながら、俺こと青井空は頭に装着したヘルメット型の機械を外す。

 

「これ性能はいいんだけど重いんだよなあ。もっと小型でスペックがいいのに買い替えたいけどいい値段すんだよな……世知辛え」

 

 仮想空間に意識を飛ばし複数人で遊ぶゲーム、いわゆるVRMMOは今や一大産業だ。

 俺がさっきまでプレイしていた『リアルワールド・オンライン』もVRMMOの一つだ。

 

 このゲームは剣と魔法のファンタジー世界に突然飛ばされた転生者となり、未知の大陸を開拓するゲーム。世界一プレイ人数の多いVRMMOであり、その奥深さも世界一だ。俺も小学生の頃から八年間、一度もやらない日はないってほどどハマりしている。

 

 もちろんこのゲーム以外にもたくさんのVRMMOは出ており、その市場規模は計り知れない。

 当然それを遊ぶフルダイブ機器も色んな製品が出ている。

 

 俺の持ってるヘルメット型のフルダイブVRマシンも、出た当時はVRギアの最先端だと持て囃されたけど三年経った今じゃ型落ち品。ネット掲示板で「これ使ってます」などと言った日には骨董品扱いされ馬鹿にされるだろう。

 

「バイトはゲームする時間が減るからナシだな。はあ、まだしばらくこの骨董品と仲良くするしかないか」

 

 ため息をつきながら階段を降りてリビングに行く。時刻は七時三十分、これならゆっくりしても学校に間に合うな。

 リビングに行くと朝飯が出来ていて先に起きた妹が食べ終わったところだった。

 

「あ、お兄ちゃんおはよう」

「おうおはよう。相変わらず派手な髪してんな。何色《なんしょく》あるんだそりゃ」

 

 妹の髪色は様々な色に光り輝いていた。前からピンクやらオレンジやら派手な色にしていたが、いよいよいくとこまでいってしまったな。

 かなり昔に流行った『ゲーミング◯◯』と呼ばれた色に似ている。流行は巡るんだな。

 

「この色、今流行ってんだよお兄ちゃん知らないの?」

「俺のクラスの女子連中にそんなケミカルヘアーはいない。そんなのが何人もいたら目が痛くなるわ」

「えー、でもせっかく『ナノカラー』のおかげでいろんな色に出来るんだから遊んでみたいじゃん」

「ナノマシンを開発した人もそんな事に使われたと知ったら泣くだろうよ」

 

 ナノマシン技術の活用で髪色はボタンひとつで自由に変えられるようになった。昔は薬局で買って長い時間かけて染めてたというんだから驚きだ。面倒臭すぎるだろ。

 

「まあお前が何色にしても俺は構わないけど、もうちょっと目に優しい色にしてくれると助かる」

「ぶー、お兄ちゃんもずっと青色じゃなくて他の色も試せばいいのに」

「馬鹿言え、青色は運命に定められし色(マイフェイバリットカラー)だぞ。それを変えるなど言語道断だ」

「つまんないのー」

 

 ぶうたれる妹を無視し朝ごはんをかき込む。

 すると台所から母さんが出てきて「あんたまた朝からVRしてたでしょ」と小言を頂戴するが俺はそれを華麗に流す。ゲーム脳なんて言葉は古い古い。最新の研究ではVRゲームは脳を刺激して逆に頭をよくするという研究結果が出ているのだ。

 

 つまりやればやるだけ得。食べ終えた俺は食器を全自動食器洗浄機(乾燥除菌機能付)に入れると、学校に行く準備をする。

 

「制服よし、カバンよし、弁当よし……おっと、これを忘れてた」

 

 机の上に乱雑に置いてあった腕輪型電子端末『スマートリング』を右手首に装着する。

 これは教科書兼ノート兼サイフの超多機能端末。これを忘れたら何も出来ない。あぶねえあぶねえ。

 

「じゃ、いってきまーす」

 

 気怠げにそう言った俺は、まだVR酔いする頭を揺らしながら家を出るのだった。

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