リアライズ・オンライン  ~バグ技が大好きなゲーム廃人は、人外の腕前でeスポーツ界を蹂躙する~   作:熊乃げん骨

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EP10 勝利、そして逃走《ヒーローズ・エスケープ》

 試合終了のゴングが鳴り響いたのを確認した俺は、マスクの下のi-VIS(アイヴィス)の電源を切る。すると役目を終えた俺のキャラ、シャドウブルーの姿が消え去り、電子の海へと帰っていく。

 

「ふう、疲れた。慣れないことはするもんじゃねえな」

 

 そう一息ついた瞬間、とてつもない衝撃が俺の体を包み込む。

 その正体は歓声。さっきまで静かだったってのに観客はみんな大声を上げ喜んでいる。そしてその歓声は俺に向けられてのものだった。

 

「は、はは。ども」

 

 手を振って応えると、歓声は一層強くなる。

 んー……まあなんだ、歓声を浴びるのも意外と悪くない、かな? 本当にヒーローにでもなった気分だ。

 

「うう、くそ……」

 

 歓声の中、悔しげな声が混ざって聞こえてくる。その声の主はさっき倒したryoとかいう選手だ。

 

 余程ショックだったのかその場に膝をつきうなだれている。チャラついたいけすかない奴だがこの試合にかける想いは本物だったようだな。可哀想ではあるがこれも真剣勝負の結果だ。

 

 俺が励ましても惨めになるだけ、そう思いクールに去ろうとするが、そんな俺の行く手を阻むように人が現れる。

 

『ヘイヘイヘイヘーイ! 忍者ボーイ、すごい試合だったじゃねえか! インタビューしてもいいか?』

「うおっ!」

 

 突然話しかけてきたのはサングラスをつけたチャラい兄ちゃんだった。派手な目立つ服装をしていて手にはマイクを持っている。

 

 この人、何度かネット記事で見たことがあるな。……そうだ、最近人気のRe-sports実況者だ。

 

 つまりこれはヒーローインタビューってやつだな。ヒーローに憧れる者として悪い気はしないが、ここに長居するつもりはないからとっとと逃げるか。

 

「いや、インタビューとかはやらな」

『君はプロライセンスは持っているのかい? あんな動き国内の選手で見たことないぜ!』

 

「え、あ、いや。プロではないです。はい」

 

 ついつい押し切られて答えてしまう。これが実況者の力か侮れん。

 

『WAO! アマチュアなのにプロであるryo選手を倒してしまうなんて実にアメイジングッ! こりゃRe-sports界隈も盛り上がるぜぇ!』

「あいつプロだったんだ……」

 

 あんな動きの奴でもプロライセンスを取れるんだ……と思うが、そういえばプロライセンスはゲームの腕前は関係ないんだっけか。確か大会の実績や動画の再生数、SNSフォロワーの数なんかで決まるんだったな。そりゃ強くないプロも生まれる。銀城さんが強い選手集めに苦労する訳だ。

 

『ところでプロライセンスは取る予定はあるのか? 今後の大会出場予定は?』

「ちょ、質問が多いっ……」

 

 圧の強いインタビュアーに捕まり身動きが取れなくなってしまう。窮地に陥った俺を救ってくれたのは何を隠そう俺をここまで連れてきた張本人だった。

 

「申し訳ありませんが、それくらいにして頂けますか?」

 

 リングに上がってきた銀城さんがそう言うと、今までしつこく絡んできた実況者は急に態度を改めすごすごと下がっていく。さすが銀城コーポレーションご令嬢、発言力が違う。

 

「お疲れ様です。素敵な試合でしたよ」

「そらどーも。それよりもう帰っていいか? 本物のヒーローは戦いが終わったらインタビューを受けずに帰るものなんだぜ、たぶん」

「ええ、もちろん帰っていただいて大丈夫です。お疲れ様でした」

 

 銀城さんはやけにあっさり帰してくれる。こんなにすんなりいくと逆に怖いな。

 

「ほ、本当にいいんだな? このまま直帰しちゃうぞ?」

「はい、大丈夫です。後の始末は任せてください」

「そうか、じゃあまた……学校で?」

「そうですね、また学校で」

 

 笑みを浮かべる彼女に別れを告げ、俺は観客の視線を浴びながらすたこら退場する。

 ひい、注目されるのも楽じゃないぜ。

 

 その後俺は人目の無いところでマスクを脱ぎ鞄に押し込むと、一人リニア地下鉄《メトロ》に乗って帰った。

 ちなみにネットニュースは見てない。もし俺のことが書かれてたら外で悶絶してしまいかねない。

 

「はあ、それにしても疲れた……」

 

 試合自体はそこまで疲れるものではなかったが、人前で戦うというのは想像以上にプレッシャーだった。ま、もうこんな思いをすることはないだろう。俺はゲーム内でヒーロー活動するくらいが丁度いいということがよぅく分かった。

 

 明日からはまたいつも通り過ごそう、そう決めて俺は座席で深い眠りに落ちていくのだった。

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