リアライズ・オンライン  ~バグ技が大好きなゲーム廃人は、人外の腕前でeスポーツ界を蹂躙する~   作:熊乃げん骨

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EP3 英雄の再来《ヒーローズ・カムバック》

「あ! 見てください! ぬらぽうみさんが相手を追い詰めました!」

 

 その言葉につられ視線をリングの上に移すと、匿名希望のキャラがリング端まで追い込まれていた。リング外に出ると一発退場となる、つまり絶体絶命ってことだ。

 しかしそんな状況にもかかわらず、その匿名の男はニヤリと笑みを浮かべる。

 

「よく、ここまで成長したな」

 

 よく通る力強い声だ。匿名希望の本体は、青いパーカーのフードを目深に被っており、身長は百八十センチを超えている。かなり鍛え上げているのかオーバーサイズの服の上からでも優れたスタイルなのが見て取れる。

 

 どんな顔をしてるだろうかと、フードの下を覗き込んでみるが、かなり深くフードを被っているので口元しか見ることは出来なかった。

 

「もっと楽しみたいところだが……これは試合。そろそろ幕引きと行こうか」

「そうね、終わらせましょうか。貴方の負けでね!」

 

 ぬらぽうみ選手は、巨大な斧を振り上げるとそれを相手選手に思い切り叩きつける。無駄のない強烈な一撃、あんなもの直撃したら防御特化の構築《ビルド》でもHPゲージが大きく削れてしまうだろう。

 

 しかし謎の男はそんな危機的状況にもかかわらず余裕げな笑みを浮かべる。

 

「いい攻撃だが、まだ俺には届かないぜ!」

 

 その宣言通り、斧による一撃を手にした大太刀で受け流してみせた。

 

「うっそ、あれを流せるのか……!?」

 

 信じられない、あんな芸当俺でも出来るか分からないぞ。マジで誰なんだあいつ。

 ……それにしてもあの男の動き、どこかで見たような気がするんだよな。

 ゲームの中で会ったことがあったか? いやそれなら覚えているはずだ。うーむ、いくら考えても分からない。気のせいなのだろうか。

 

「きゃ!」

 

 高い声で悲鳴を上げるぬらぽうみ選手。渾身の攻撃を受け流されてしまった彼女はカウンターをくらい体勢を崩してしまっていた。

 

 当然謎の男はその隙を見逃さず、手にした太刀でぬらぽうみを袈裟斬りにする。

 

「く、そ……!」

 

 そう言い残し、ぬらぽうみ選手のキャラは消える。

 これで俺の決勝戦の相手はあの謎の男『匿名希望』になった。

 

「空さん、大丈夫ですか?」

「ん? 何がだ?」

「あの、顔色が優れないですけど……」

 

 怜奈さんに言われ、俺は自分の体に異常が起きていることに気づく。

 いつの間にか体は指先まで冷え切り、震えていた。ドームの気温は変わってないのになぜ? あの選手と戦うことを怖がってるのか俺は?

 

「大丈夫だよ……問題ない」

「ならいいのですが……」

 

 精一杯強がっては見たものの、体の震えは治まらない。

 くそ、これから決勝戦だって言うのに。俺の体はどうしちまったんだ?

 

『準決勝二回戦を制したのはァ! 謎の超凄腕選手、『匿名希望』だァ! さあさあ皆お待ちかねのヒーローインタビューを始めるぜ!』

 

 Mr.Jはいつも通りの感じで匿名希望に近づくとインタビューを始める。謎の震えはまだ続いてるが、少しでも相手の情報を知るため俺は関係者席に残る。

 

『大会初出場ながらもここまで圧倒的な強さで勝ち上がって来たが、何か感想はあるかい!?』

「そうだな。俺はRe-sports自体まだ初心者だが、こんなに熱く盛り上がるものだとは思わなかった! みんな強いし何よりガッツがある。やってて凄い楽しいぜ!」

 

 謎の男は慣れた感じでハキハキと話す。

 その喋りからは圧倒的な『自信』が滲み出ている。

 羨ましい、それは俺には無いものだし、この先も身につかないであろうものだ。

 他の人から見たらゲームの腕に自信を持っている様に見えるかもしれないけど、それはちょっと違う。

 

 俺は『シャドウブルー』の皮を被って初めて自信を持っているように振る舞うことが出来るのだ。俺個人、青井空という人物には『自信』なんてものは一切ない。むしろコンプレックスの塊だ。

 

『それで匿名希望選手、みんなあんたの素顔がすっげえ気になってると思うんだが、まだ明かすことは出来ないのか? そろそろ教えてくれてもいいんじゃないのか?』

 

「ふむ。そうだな……」

 

 謎の男は少し悩むそぶりを見せると、なぜか俺の方をチラリと見た。

 時間にして三秒ほど、俺と男の視線はぶつかり合う。正確にはお互い顔を隠した状態なので相手の目は見えてないはずだが、目がバッチリ合ってる不思議な感覚がした。

 

 そして俺から目を離した男は、Mr.Jに視線を戻すと口を開く。

 

「……本当は決勝戦直前で明かそうと思ってたんだが、まあいいだろう。丁度役者も揃っていることだからな」

 

 男の言葉に観客は湧く。

 ここまで引っ張るからには有名な人物の可能性が高い。観客が期待するのもよく分かる。

 ありそうなところだと有名配信者とかだろうか? もしくはryoみたいなタレントの線も考えられるな。俺も楽しみだ。

 

「まあ明かすと言っても、俺はそんなたいした人物ではないんだけどな」

 

 男はそう謙遜してパーカーのフードを外す。

 その下から出てきたのは、俺がよく知る……なんて言葉じゃ足りない、意外すぎる人物だった。

 

「どうも、俳優の蒼峰大河だ。代表作は……うーん、どれだろうな。どれもいい役だったから一番は選べないが、人気が出たのは『暗躍戦隊シャドウファイブ』のシャドウブルー役だな」

 

 俺の唯一にして絶対の憧れ(ヒーロー)は、昔と変わらない魅力的な笑みを浮かべ、そう言った。

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