リアライズ・オンライン  ~バグ技が大好きなゲーム廃人は、人外の腕前でeスポーツ界を蹂躙する~   作:熊乃げん骨

39 / 47
EP6 小さくて大きな勇者《リトルビッグヒーロー》

 このタイミングで昔話? いったいどういうつもりなんだ?

 

「私は小さい頃、病気でずっと寝たきりの状態だったとお話ししましたよね」

 

 ああ、確かに言っていた。

 奇病「眠り姫病」に罹り、五歳から八歳までの三年間、彼女はずっと病院のベッドにいた。

 

「目を覚ました私には友人などいませんでした。ずっと寝てたのだから当然ですよね。そんな私が出会ったのがリアルワールド・オンラインでした。あの世界は私にとって『救い』になりました」

 

 その気持ちは痛いほどわかる。現実世界で上手くいってなくても、あの世界に行けばそんなしがらみから解き放たれる。俺にとってもそうだったように、彼女にとってもあそこは特別な場所だったんだろう。

 

「幼い頃の私はその世界でたくさん遊びました。まだ幼い私はうまく戦うことが出来ず、最初の街周辺を探検するだけだったんですけどね」

 

 第一エリア付近に出てくるモンスターはどれも素手で倒せるほど弱い。ゲーム開始時に武器も貰えるから、子どもといえど苦戦はしないだろう。

 

 しかしその先に進むとグッと敵も強くなる。

 

「でもある日……私は好奇心から強いモンスターの出る森に入ってしまったんです。そこには怖いモンスターがたくさんいて、私は泣きながら逃げました。おかしいですよね、ログアウトすれば済む話なのに。ですがあの時の私は、恐怖のあまりそんなこと思いつきもしませんでした」

 

 銀城さんはおかしいと言っているが、別段変な話ではない。

 リアオンは現実世界と区別がつかないほど精細《リアル》に作られている。子どもであれば尚更現実と区別がつかなくなるだろう。

 

「暗い森の中を一人で泣きながら逃げ惑ったのを、今でも鮮明に覚えています。怖くて、心細くて。『もう二度とゲームなんてやるもんか』と思ったものです」

「それは……大変だったな」

 

 同情する。

 にしてもそんな目に遭ってよくゲームを続けられたな。

 

「何時間も森を彷徨って疲れ果てた私は、とうとうモンスターに追い詰められました。狼のモンスターは私に近づくと鋭い牙を剥き、涎を垂らしながら襲いかかって来ました。『もうダメだ、死んじゃう』そう思った私ですが、とあるプレイヤーが突然現れ私を助けてくれたんです」

「……へえ」

 

 そんな事があるんだな、と感心する。

 ヒーローというのは意外といるものなのかもしれない。

 

「そのプレイヤーは……小さな男の子でした。その子は狼に何度も吹き飛ばされて涙目になりながらも、私を守りながら果敢に戦ってくれました。自分もボロボロになって泣きながら、その子は私を助けてくれたんです。……ここまで聞けばもう分かるんじゃないですか?」

「……なにがだ」

 

「あの時、私を助けてくれたのはあなたです。私たちは八年前に一度会ってるんですよ」

 

 息が止まる。

 銀城さんを助けたのが、俺だって?

 

 確かに俺は小さい時からヒーローの真似事をしていたけど、そんな偶然あり得るのか? とてもじゃないが信じられない。

 

「……そんなに昔の話じゃ本当に俺か分からないだろ」

「ふふ、分かりますよ。あなたはあの時から何も変わっていません。背は大きくなりましたけどね」

 

 銀城さんは楽しそうに言う。

 

「青い服の小さな勇者。幼き頃の私にとって彼は本物のヒーローでした。その気持ちは今も変わっていません」

「……悪いけど俺はヒーローなんかじゃないよ。銀城さんもあの人を見ただろ? かっこよくて、頼り甲斐があって、この人なら全て任せられるって信頼感がある、ああいう人のことをヒーローっていうんだ。俺のはしょせん真似事。所詮ヒーローもどきだよ」

「……いくらあなたが自分を卑下しようと、私の気持ちは変わりません」

 

 銀城さんはそう前置き、言う。

 

「私のヒーローは今も昔もあなただけです。他の誰が否定しようと、例えあなた本人が否定しようと、私のこの気持ちだけは誰にも否定させません」

 

「……っ!!」

 

 目頭が、熱くなる。

 もうヒーローになんてなりたくない、そう思っていたのに……なんでこんなに嬉しいんだ。心が熱くなるんだ。

 

「……っ、ゔぅっ」

 

 声にならない声と共に、大量の涙がこぼれる。この涙がなんの感情から来る涙なのかは分からない。だけど熱い涙がこぼれる度、冷え切っていた心の奥底が熱く沸き立つのを感じる。

 

「ヒーローになろうとする必要はないんですよ。あなたはとっくにもう、私のヒーローなんですから」

 

 両手で顔を抑えるが、隙間から涙が溢れて止まらない。

 そうか……そうだったんだな、怜奈さん。ありがとう、あんたのおかげで全部分かったよ。

 

「……こうしちゃいられないな」

 

 胸の真ん中に熱く燃える火が灯る。

 その炎は立て、歩け、戦えと俺を強く焚きつける。うるせえな、わかったよ。

 覚悟を決めた俺は涙を拭き、立ち上がる。

 そして扉を開いてその向こうにいる彼女と顔を合わす。

 

「空さん……」

「ぷっ、ひどい顔してるぞ怜奈さん」

「それを言うなら空さんこそ」

 

 ぐずぐずの顔をからかい合って、俺たちは笑う。

 まるで昔からの友人のように。

 

「行くよ怜奈さん。俺はあの人と戦う」

「……無理しなくてもいいんですよ。別にあの人に勝たなくてもあなたが私のヒーローであることに変わりはないんですから」

 

 怜奈さんは心配そうにする眉をひそめる。どうやらかなり心配をかけてしまったようだ。

 

「大丈夫、もうそんなつもりはない。ただ……俺は今、純粋にあの人と戦ってみたいんだ。憧れて追いかけた背中にどれだけ近づけたか知りたい。それに……俺のことをヒーローだと言ってくれる人に、良いところ見せたいしな」

 

 怜奈さんは俺の言葉に驚いたように目を丸くした後、嬉しそうに微笑む。

 

「それでは、止めるわけには行きませんね。頑張ってください、応援してます」

「ありがとう。じゃあ、これを預かっててくれるか?」

 

 そう言って俺はある物を彼女に渡す。

 

「これは……預かってしまって本当によろしいのですか?」

「うん。もう俺には必要のないものだから」

「そうですか、ならばこれは私がしっかりと預かっておきます」

 

 その言葉に頷いた俺は、彼女と別れ一人試合会場に向かうのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。