リアライズ・オンライン  ~バグ技が大好きなゲーム廃人は、人外の腕前でeスポーツ界を蹂躙する~   作:熊乃げん骨

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EP9 亜音速の攻防《ソニック・バトル》

「うおおおおおおっっ!!」

「……っ!」

 

 空の放った気迫に大河は思わず後退りしてしまう。

 自分が退く、今までなかったその反応に大河は嬉しそうに笑う。

 

(誰かに怖気付くなんて初めての経験だ。もっと、もっとだ! 君とならもっと先に行ける!)

 

「来い空! 俺をもっと楽しませてくれ!」

 

 大河の呼びかけに応えるかのように空は駆け出す。そして走りながら小太刀を握っていない左手の指先で空中をトン、と叩く。

 すると空中にメニュー画面が出現し、空はそれをノールックで操作する。

 

 これぞ廃人108技の一つ、『不目視画面操作《ノールックウィンドウ》』。その名の通り画面を見ずに指先の感覚だけで操作する技だ。

 一見簡単そうに見える技だがリアオンのメニュー画面の挙動には独特の癖があるので、これが出来る者はなかなかいない。

 空は画面を見ずにアイテム欄を開くと、忍者が好んで使う投擲用のナイフ『クナイ』を取り出す。

 

 Re-sportsではあらかじめ設定しておいたアイテムを三種類まで使うことができるのだが、アイテムを出す際に大きな隙が生まれてしまうので、実際に使われることはあまりない。

 

 しかし隙を晒すことなくアイテムを使うことの出来る空は違った。

 

「これなら……どうだっ!」

 

 高速で放たれる三本のクナイ。突然襲いかかってきたそれに、ほんの少しだけ大河は動揺するが、すぐに冷静になり大太刀で的確に叩き落とす。

 

「甘い! こんなものでは俺は倒せんぞ!」

「じゃあこれならどうですか?」

 

 空は丸い球を取り出し再び投げる。野球ボールほどの大きさのそれは弧を描いて大河のもとへ飛来する。大河は先ほど同様それを太刀で真っ二つに斬り裂くが、割れた瞬間それは物凄い量の白い煙を撒き散らした。

 

「モンスターの素材で作ったお手製煙玉だ! 忍びの里のより強烈だぜ!」

 

 瞬く間にリング上は白い煙で包まれる。

 この煙に乗じて空は大河に接近しようとしたが、突然吹いた突風により吹き飛ばされてしまう。

 

「なっ……!?」

 

 地面を二回ほどバウンドし、体勢を立て直す。

 そして視線を大河に戻すと、リングに充満していた煙は全てかき消えてしまっていた。

 

「風遁・鎌威太刀《かまいたち》。その程度の煙じゃ俺の障害にはなりえないぜ」

 

 大河はスキルにより風の刃を生み出し、煙を全て吹き飛ばした。冷静な判断力と柔軟な発想力を持つ彼だからこその対処法だった。

 

 やはり勝つのは蒼峰大河か。

 

 観客席にそんなムードが流れ出すが、ただ一人だけ違う考えの持ち主がいた。

 

「空さーーーん! 勝てますよーーーーーーっ!」

 

 観客席から聞こえる自分を応援する声。

 見なくても分かる。その声の持ち主が誰なのかは。

 

「まったく、大声出すキャラでもあるまいに……」

 

 呆れたように。そして嬉しそうに呟いた彼の瞳は強く輝いていた。

 負けられない。空はそう改めて強く思った。

 

「どうやら君にも良いファンがいるようだな」

「はい。初期から支えてくれる、大事なファンです。その人にいい格好する為にも勝たせてもらいますよ」

「格好つける為に勝つ……か。それでいい。ヒーローとは世界一の格好つけの称号だからな」

 

 大河は意味もなく格好良く太刀を振り回すと決めポーズを取る。そのダイナミックな動きに観客たちは興奮し熱い歓声を送る。

 

「貴方はやっぱり最高のヒーローです。でも今日だけは勝ちを譲って頂きます!」

 

 空も負けじとその場でジャンプし空中で回転してアクロバティックな動きをしながら着地する。もちろん着地ポーズも格好つけて。すると大河の時と負けず劣らずの歓声が巻き起こる。

 

「今度こそ決めます、音速超過《マッハ》……ッ!」

 

 現在空が使える中で最も速い移動スキル『音速超過《マッハ》』。

 静止状態から一気にトップスピードに上がるこのスキルは扱いがとても難しく、少しでも操作を誤れば壁に激突し一瞬で体がバラバラになってしまう。

 しかし使いこなせればこれほど強い技はない。相手は何が起きてるかも分からない内に倒されてしまうのだから。

 

「これで――――どうだぁ!」

 

 亜音速の中、空は小太刀を前方に突き出す。その切っ先は大河の腹部に狙いをつけている。この速度で命中すればどんな防具でも貫通するだろう。

 音速の弾丸と化した空の姿は流石の大河も視認することは出来なかった……が、恐ろしいことに反応はしていた。

 

「……ここ!」

 

 視えているわけじゃない。しかし人並外れた超直感を持っている大河は空から放たれる殺気を感じ取り、ドンピシャのタイミングで大太刀を前方に振るう。

 空の小太刀と大河の大太刀ではリーチが三倍ほど違う。このままでは空の刃が届くよりも先に大河の刃が彼の体を真っ二つにしてしまうだろう。

 しかしそれは空が考えなしに突っ込んできていれば、の話だった。

 

「貴方なら反応すると、信じてましたよ! 『バックステップ』!」

 

 大河の大太刀が空の体を斬り裂くその瞬間、空の体がピタリと急停止する。当然大河の攻撃は空振《からぶ》りしてしまう。

 

「そうか、バクステキャンセル……っ!」

 

 空の108廃人技の一つ『バクステキャンセル』。

 これはスキル『バックステップ』を使用した瞬間スキルの発動をキャンセルすることで移動エネルギーを消すバグ技。これを使えば亜音速から一気に速度をゼロに落とすことが出来る。

 

 もちろん急加速からの急停止は体へかかる負担も大きい。シンクロ率の高い空は胃酸が逆流し吐きそうになってしまうが、泣き言を言っている暇は無い。

 

(ようやく出来たチャンス。これを逃したら勝ちはないっ……!)

 

 空はようやく隙を見せた大河に向けて左腕を突き出す。腕には竜の意匠が施された籠手『竜炎の籠手』が装備してある。

 

「竜炎砲《ドラゴ・ブレス》!」

 

 空がそう叫ぶと籠手にある竜の頭の形をした装飾が動き出し、口が開く。

 そしてその口の中から竜の吐息《ブレス》とよく似た巨大な炎が放たれ大河を包み込んだ。

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