リアライズ・オンライン  ~バグ技が大好きなゲーム廃人は、人外の腕前でeスポーツ界を蹂躙する~   作:熊乃げん骨

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EP10 刃は口ほどに物を言う《トークトークトーク!》

 竜の口から放たれた火炎が大河を飲み込む。

 

「ぐうっ……!」

 

 まるで火炎放射器。炎の威力は凄まじく大河のHPはゴリゴリと削れてしまう。

 堪らず後ろに退き、その場から離れようとするが、空はそれを許さなかった。

 

「――――そこッ!」

 

 すかさず空は接近し、大河の横腹に小太刀を突き刺す。大河は咄嗟にその腕を掴みそれ以上刺さらないようにするが、既に小太刀の半分ほどまで大河に刺さっていた。

 

「「うおおおおおおっっ!!」」

 

 二人は咆哮しながら力を込める。

 その間にも大河の横腹からは大量の血が吹き出し、HPと大河の精神力を削っていた。彼もまたシンクロ率がかなり高くなっていた。まるで本当に刺されているかのような痛みが絶えず襲っている。

 

(このままではマズい! 早く剥がさなければ!)

(逃がさない! 死ぬ気でくらいつけ!)

 

 大河は必死に空を引き剥がそうとするが、空はいくら殴られても離れようとはしなかった。これだけ近距離にいては大太刀の長さは逆に邪魔になる。

 大河は必死に思考を巡らせこの状況を打破する方法を考える。

 

「これなら……どうだッ! 火遁・爆炎掌!」

 

 スキルを発動させ左手に炎を纏わせる。その手で空の頭を掴もうとするが、空はそのギリギリで退避し距離を取る。

 あの技を食らっていたら空の体力は尽きていた。チャンスを逃したのは痛いが、空の判断は間違っていなかった。

 

「ぐ、回復を……」

 

 横腹の出血が激しい大河はメニューウィンドウを開き、回復薬《ポーション》を取り出そうとする。しかし回復薬を取り出した瞬間、突然手にクナイが突き刺さり回復薬を落としてしまう。

 

「痛っ……!」

 

 落ちた回復薬は地面にぶつかり壊れてしまう。

 大河は落ち着いて手の平に突き刺さったクナイを抜き、それを放った空に視線を移す。

 

「くく、そりゃそうだ。悠長に回復しようとした俺が悪い。すまなかったな」

「…………」

 

 空は返事をしない。

 姿勢を低くし、鋭い目つきでジッと大河の動きを確認している。

 その様はまるで獲物を狩る肉食動物のようだった。余分な思考を排除し、ただ、相手を倒すことにのみ特化した生き物。空はそれになっていた。

 

「集中し切っているな。それでいい。全部だ、今まで君が培った全部を見せてくれ。その全部を受け止め、打ち砕いて見せよう。それだけの価値が俺にはあるぞ!」

 

 大河の呼びかけに応じ、空は駆ける。

 この時、お互いに戦いの終わりが近いことを予感していた。

 

 勝ちたい、憧れ続けたこの人に。

 勝ちたい、追いかけ続けて来てくれたこの子に。

 

 理由は違えど思いは同じ。向きは違えど強さは同じ。

 ならば後はどちらの思いがより強いか。それを決めるため二人は激突する。

 

「攻速守強化《トリプルアップ》! 鷲の目《イーグルアイ》! 竜ノ心房《ドラゴンハート》!」

「三重加速《トリプルアクセル》! 致命強化《クリティカルアップ》! 瞬発力強化《クイックスタート》!」

 

 お互い上限までバフをかけ、死地に臨む。

 ここまでの戦いで二人とも極限まですり減っている。全力を出せる時間はそう長くない。

 

「はああああああぁっっ!!」

「おおおおおおおぉっっ!!」

 

 声にならない声を上げながら、二人は斬り、避け、殴り、払い、打ち、刺し、殺し合う。

 その迫真の攻防に観客たちは歓声を送るのを忘れ、手の平に爪を食い込ませながら勝負の行方を見守る。

 

 Re-sportsが好きな人はもちろん、普段ゲームに興味がなくたまたま知り合いに誘われ見学していた人さえも、この戦いを食い入るように見ていた。それほどまでに本気の戦いは人を夢中にさせるのだ。

 

 その熱は会場のみならず全世界に波及していた。ネット配信の視聴者数は国内Re-sports大会の最大視聴者数を更新し、掲示板は荒れに荒れた。

 後に彼らの試合は日本Re-sports界の分水嶺と呼ばれることになるほどに、日本中が彼らの試合に注目していた。

 

 しかし二人はそんなことどうでも良かった。

 

 ただ目の前の試合に全力。それ以外に考える余裕はなかった。

 

(大河さんの再使用時間《リキャストタイム》はまだのはず、ならこう攻めて、こう。ここで避けてスキルを使う……!)

(そろそろ疾風刃が再使用《リキャスト》出来るはず。俺だったら……そう、ここで使うよな。分かるぜ、俺だってそうする。さて次はこっちのお返しだ……!)

 

 二人の世界には、二人しかいなかった。

 観客の存在も声も何も感じない二人だけの世界。その中で二人は幸せに斬り合っていた。

 積み上げてきた知識、培ってきた経験、磨き上げたセンス。それを解き放つことの喜びを二人は噛み締めていた。

 

(……なんて幸せなんだろう)

 

 空は激しく斬り合いながら心の内でこの幸福を反芻する。

 

(ゲームを本気でやるなんて馬鹿だと思う人もいるかもしれない。でもこの幸せは真剣に馬鹿をやったから得られた物。誰にもそれを否定させはしない――――)

 

 友達付き合いもせず、運動もせず、恋もせず。ただゲームのみに打ち込んだ青春時代。

 このままでいいのだろうか。そう思ったことだって一度や二度じゃない。

 

 でも今は胸を張って言える。

 

(俺はこれに生きて正解だった。子どもだの青臭いだの言われようと構わない。ゲームこそが俺の生きる道。ただ一つ、熱く青臭く輝く、俺の青春――――!)

 

 これほどまでに捧げなければ見えない景色がある。

 空と大河は斬り合うたびに何百回会話するよりも多くのことをお互いに語り合った。

 

 濃密で血生臭い二人だけの会話。死合わせの中にある幸せ。それを二人は堪能していた。

 しかし幸せな時間は永遠には続かない。二人はそのことをよく理解していた。

 

「楽しかったよ空。だがこの試合は俺が貰うぜ――――!」

 

 大河は一瞬の隙を突き、空のお腹を蹴り飛ばす。空は五メートルほど後方に吹き飛ぶが、空中で回転し、しっかりと地面に着地する。

 そしてすぐさま接近しようとするが、大河はそれを許さない。

 

「空、お前の強さに敬意を払い、最強技でトドメを刺す! 火遁・火鼠衣《かそごろも》!」

 大河が大太刀の刀身を指でなぞると、刀身が激しく燃え出す。火鼠衣《かそごろも》は本来自分の体を燃やし、火耐性を上げると同時に体術に火属性を付与するスキルだ。

 

 しかし大河はこのスキルを武器にかけることで武器の攻撃力を大きく上げた。

 そして両手で強く大太刀を握り、軋むまで体を捻る。そして全身のバネを利用し思い切り大太刀を振るう!

 

「固有《オリジナル》スキル、疾風刃・閻魔!!」

 

 大河が大太刀を振るうと、巨大な炎の渦が巻き起こり空を襲う。

 固有《オリジナル》スキルとは、名前の通り自分で作ったオーダーメイドのスキルのことだ。リアオンには莫大な経験値と引き換えにスキルを作る機能がある。

 

 固有《オリジナル》スキルを作る手順は複雑かつ難解。作るのに失敗すれば経験値を無駄にしてしまうこともあってチャレンジする者は少ない。しかしプレイヤーの中にはこれに挑戦し成功する者もいる。大河もその内の一人だった。

 

(この技は……シャドウブルーの奥義! 固有《オリジナル》スキルにしてたのか!)

 

 暗躍戦隊シャドウファイブに登場するヒーロー、シャドウブルー。

 彼の奥義は目にも見えない神速の剣閃『閻魔斬り』。大河はその技をリアオン仕様に改造していた。

 

 空はほんの一瞬、その技に見とれてしまった。

 そのほんの一瞬の隙に炎は彼から逃げ道を奪っていた。

 

「しまっ――――」

 

 逃げようにも上下左右全ての逃げ道を炎は塞いでいた。唯一の逃げ道の後ろはリング外だ。

 使え、頭を。刹那の間に空はこの窮地を抜け出す方法を考える。その間にも炎は迫って、

 

「水遁・みずが――――」

 

 そして、破壊の炎は全てを飲み込んだ。

 

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