PCも当方も溶けそうになっている今日この頃、みなさま、いかがお過ごしでしたでしょうか?
どうも、弱音御前です。
ドールズフロントライン系二次創作の新連載、本日よりスタートとなります。
あらすじでも書いているように、まぁ、そんな感じのお話ですので、今回もどうか温かい目でお付き合いいただければ幸いに思います。
それでは、ごゆっくりとどうぞ~
ドールズフロントライン ~テレコ・メンタル~
呼吸は小さく緩やかに、一定のリズムで。
歩みは静かに確かに、床の感触を吟味しながら。
まるで、下半身と切り離されているかのように、構えた銃口は微動だにもせず、真正面に狙いを定め続ける。
そんな、お手本のような姿勢でコンクリート造りの廊下を進むのは、年端もいかない見た目の
少女。
花のように鮮やかな彩のブロンドに、赤と青、左右で違う色の瞳が少女のチャームポイント。
同じ毛色をした大きな耳をレーダーのようにせわしなく動かしている、その様子は誰しもが愛らしさを感じずにはいられないだろう。
しかし、そんな少女が携えている得物を目の当たりにすれば、愛らしさ以上の恐怖を抱くに違いない。
アサルトライフル〝G41〟。5.56ミリの鉛玉を高速でもって巻き散らすこの凶器からは、例え死神から許しを得たものであっても逃れることはできない。
「ぁ、あの~・・・ここから先はどちらに進めばいいのですか?」
そんな大層な武器を携えているものの、当人の迫力がいささか追い付いていない様子だが、まぁ、それも〝ギャップ萌え〟ということでご容赦していただきたいところである。
『えっとねぇ~・・・突き当りを左に曲がって、30メートルくらい進んだら、左にドアがあるはず。その先がお目当ての部屋だよ』
「ありがとうございます、9さん。頑張ってみますぅ~」
数多くの仲間たちの中でも、抜きんでて信頼できるお姉さん分からの声を聞き、委縮し始めていた気分が少しだけ持ち直してくれた。
蛍光灯の白い光が明滅する廊下を、先ほどよりも速い歩みで進んでいく。
廊下の突き当り。角から先の様子を覗き込んでみるが、左右とも、誰かが居るような様子は無い。
ここは、鉄血が占領している施設であり、今、41がいるのはその最深部だ。本来であれば、
こんなに警備が手薄であるはずはない。
『おい、チビ助。そちらの様子はどうだ? あとどのくらいかかる?』
突然、無線から飛んできた乱暴な言葉に、41は身体をビクリと飛び上がらせて驚いてしまう。
寂しさから、無線をシークレットモードにしていなかったのが原因なのだが、まったくもって、近くに敵がいなかったのは幸運というほかにない。
「えと! あの! あと、5分くらいで目標を回収できると思います! もう少しだけ陽動を
頑張ってください、ドラグノフさん」
『ふん、人の心配をする暇があれば、まずは自分の心配をするんだな。総員、あと10分だけ凌ぎきれ! だが、別に、奴らを根こそぎヤッてしまっても構わんぞ! 小生意気な45達に目にもの見せてやれ!』
ドラグノフの声に銃声が混じり、そこで通信が切れる。
今回の任務は、2部隊による合同作戦だ。
この施設を占拠している鉄血は大部隊であり、真っ向から対峙すれば、グリフィンは負けないにしても、損害は免れない。
よって、ドラグノフが率いるX-rey小隊が敵を引き付け、手薄になった施設内に、UMP45
率いるZephyr小隊が潜入、目標を回収するという手筈である。
損害を抑えつつ、陽動であるという事を悟られないように立ち回るのは非常に難しいものである。いくらドラグノフ率いるベテラン揃いの部隊とはいえ、そう長くは凌げないと41も理解している。
10分。そこが、今回のタイムリミットである。
依然として周囲に敵の気配は無く、トラップが張られている様子も無い。
慎重さを犠牲にしても、今は急ぐべき状況だ。
早足に廊下を進み、9から指示のあった扉に手をかける。
ギィ、と重苦しい音をたてて扉が開くと、耳障りな機械音が耳をくすぐる。
41から見れば背丈以上の金属の箱とケーブルが至る所に這うこの部屋は、鉄血が集めているデータが保管されているサーバールームである。
本作戦の目標が、ここのサーバーのどこかに眠っている。
「データが保存されているサーバーは・・・」
ここのサーバーはセキュリティの観点から、各々が独立して稼働している。41の目標を保存しているサーバーを、幾つもの独立機から探すのは、本来は至難の業だ。
しかし、そこは綿密な計画を以て作戦を立案計画するグリフィンの指揮官である。すでに、どのサーバーにデータが保存されているのかは調査済み。本機に刻まれているシリアルから割り出すのだ。
「ZRX75901・・・ZRX75901は・・・・・・ありました!」
サーバー本体の裏面を覗き込み、シリアルを確認。早いうちにお目当てを探し当てられた幸運に笑顔を零しつつ、機のパネルを開ける。
サーバーから直接データを抜き取るのは、専門知識を持たない者には難しい事であるが、そこも準備は万端。グリフィン技術部門から受け取った専用機器をポートに差し込めば、誰でも簡単に
目標データの抜き取りが可能となる。
「はやく! はやく!」
少しずつ上がっていくゲージを眺めながら、機器を急かす41。言っても仕方ないのだが、それだけ時間の余裕もない事態なのである。
「もうちょっとで・・・・・・出来た!」
保存完了、のアイコンが表示されるのと同時、機器をポートから取り外す。
すかさず、次はデータを抜き取った機器を自分のメンタルへと接続。こうして、自分の中に
データのバックアップを作っておけば、万が一、機器が損壊してもデータだけは持ち帰ることが
出来る。
これも、お姉さん分である45と9の日頃の教育の賜物である。
「これで、ご主人様に沢山褒めてもらえますぅ。えへへ」
任務完了後のお楽しみ、指揮官のなでなでタイムを想像して頬を緩ませる41。
「敵地の真っただ中なのに、随分と楽しそうにするものだな」
突如、背後から囁かれた声が、そんな41の気分を凍り付かせた。
「っ!!?」
反射的に身体を前方に投げ出す。
床をコロンと一回転。反転と同時に銃を構え、背後に居た何者かに狙いを定める・・・そんな暇すらも無い。
銀色の長髪を靡かせ、狂刃を振りかぶる女との距離は、すでに手を伸ばせば届くほどの距離。
迎撃は間に合わない。咄嗟の判断に従い、構えを解いてその場に伏せる。
人間の子供くらい小さな体格だという事が功を奏した。
標的を見失った敵、鉄血エリートの刃は蜘蛛のように四つん這いで伏せた41の頭上を盛大に
空振り。
その隙をついて、41はすぐ傍のサーバー機へと飛びつく。
さながら、ネズミかリスのような身軽さでサーバー機の上に登り、距離と高さのアドバンテージを得たところで反撃開始。鉛玉の雨を浴びせかける。
視界を焼くマズルフラッシュ。
空気を切り裂く炸裂音。
赤と青、幻想的なオッドアイが特徴のエイムモードに移行した41の射撃精度はグリフィン基地内でもトップクラスと謳われる。
だが、相手もさるもの。そんな41の精密射撃を、身を翻し、サーバー機を盾にして全て躱してのけたのだ。
炸裂音の残響が収まり、周囲に静けさが戻る。
敵の姿は見えない。室内の暗さと遮蔽物に紛れ、再び41襲い掛かる腹づもりか。
『41、そろそろ目標を回収できたんじゃないかと思うんだけど。どうかしら?』
「回収には成功しました。でも、敵襲を受けています。鉄血エリート、アルケミストです」
連絡をしようと思っていた矢先に、45達から連絡をしてくれたのは好都合だ。
どこかに潜んでいる敵、アルケミストに聞き取られないよう、静かに答えを返す。
『マジか。陽動に気づくなんて、目敏い奴ね。あと3分で合流できるわ。それまで1人で耐えられそう?』
「大丈夫です。任せて下さい」
本当は、そんな簡単に済ませられるような状況ではない。
鉄血エリート達の中でも、アルケミストは危険度が特に高い人形としてグリフィンでは認知されている。
長身で大柄な体躯だが、敏捷性は抜群で、このような閉鎖空間での近距離戦闘においては、こちらが小隊編成であっても不覚をとりかねない。
そんな難敵を相手に、1人で3分間も持ちこたえる。
不可能ではないが確実に分が悪い、というのが41の算出した答えである。
・・・しかし、弱音を吐いてなどいられない。
見た目こそ幼子だが、41はれっきとした戦術人形。グリフィンの戦士である。
例え勝算は低くとも、これは毅然とした態度で立ち向かわなければならない壁であり、そんな壁の先にあるからこそ、指揮官による至高のなでなでタイムなのである。
『そうそう、その活きよ。落ち着いて、冷静に対処すればどうという事は無い相手よ。自分を信じなさい、41』
カラ元気だったのは、きっと45にはお見通しだっただろう。
温かい激励をもらい、通信を終える。
(無闇に撃っても消耗するだけ。かくれんぼなら、私も負けていません)
サーバー機から飛び降り、陰に身を潜める。
足元を這うケーブル群に足を引っ掛けないよう、注意しながらサーバー機からサーバー機へと移り進む。
室内は非常灯の微かな光だけで、数メートル先程度しか視認できず、サーバーの唸り声のような駆動音が敵の動いた形跡に霞をかける。
いくら、人間よりも優れた性能を誇る戦術人形であっても、ハイドアンドシークの鬼にとっては、明らかに不利な環境。
・・・少なくとも、おおよその人形にとっては、そうである。
(10時の方向!)
暗闇に銃口を向け、41がトリガーを引く。
3連×3回のストロボフラッシュ。その間に照らし上げた光の中、アルケミストの姿を確かに
視認できた。
(右手のサーバー機に移って・・・更にその隣。周りこもうとしても、そうはさせません)
アルケミストの行く先に周りこむよう、41が影から影へと渡る。
室内のサーバー機が発する駆動音の大合唱は、アルケミストの足音を完全に覆い隠してしまっているが、41の耳はそれらの音を確実に捉え、精査し、必要な音だけを抽出できる。
お飾りにも見えるだろうこの大きな獣耳は伊達ではない。
目論見通り、41はアルケミストの側面へと回り込むことに成功。
射線はクリア。スコープのレティクルに捉えるや、間髪入れずにトリガーを引く。
完全にアルケミストの死角に位置取った。この射撃を躱すことなどできやしない。
フラッシュの中、弾丸がアルケミストの身体を抉るのが視認できた。
たまらず、アルケミストは再び遮蔽物に逃げ込むだろうが、その時はまた先回りして先手をとってやればいい。その繰り返しで、少しずつアルケミストを消耗させ、45達が来た時にトドメを刺す。
必勝のシナリオを書き上げた41だったが・・・しかし、そんな簡単な話が通るほど現実は甘いものではなかった。
遮蔽物から飛び出してきたアルケミストは、ダメージを嫌って逃げ隠れるどころか、被弾したまま41の方へ向けて突進してきたのだ。
(う、ウソ!?)
内心、驚きながらも攻撃の手は止めない41。
肉薄するつもりなら、近づかれる前に倒しきってしまおうという考えにシフトするが、アルケミストは肝心のコア部分だけはガードしているので、なかなか致命打を与えられない。
「っ! 弾切れ!?」
銃声がピタリと止み、ボルトが後退したままロックする。
リロードにかける時間など、それこそ3秒足らずのものだが、今は、その3秒が生死を分ける
瀬戸際である。
一旦、サーバー機に身を隠し、リロードを行う。
空のマガジンを落とし、新しいマガジンを差し込む。すかさずボルトのロックを解除。
41の自己新記録となる、2秒弱の早業だったが、しかし、それでもアルケミストの動きの方が速かった。
「それで隠れたつもりか!」
耳を劈くアルケミストの声。同時に、背後からの強烈な衝撃で身体が弾き飛ばされる。
「きゃあ!?」
宙を舞い、視界が流転する。
突然の事だったが、持ち前の反応速度ですぐさまリカバリー。猫のように空中でクルリと身体を反転させ、見事に着地してみせる。
(遮蔽物を蹴って私ごと吹き飛ばした? 滅茶苦茶すぎます)
今しがた、41が身を隠していたサーバー機だけが大きくひしゃげ、明後日の方向を向いている。
まともに蹴り飛ばされなかった幸運に感謝しつつ、ここで仕切り直し。今のやりとりで見失ってしまったアルケミストの気配は・・・
「しぶとさも煩わしさも害虫以上だな」
3時の方向、1メートルもない致命的な距離だった。
「くっ!?」
咄嗟に体を反転させるが、今度ばかりは間に合わない。
頭を鷲掴みにされ、宙に持ち上げられたかと思えば、そのまま床に向けて叩きつけられた。
「~~~~~!!?」
あまりの衝撃に、まともな声すらもあげられない。意識を失ってもおかしくないくらいの勢いだったが、なんとか繋ぎ止められたのはラッキーだった。
「やれやれ、一体、何の情報が欲しくてこんな所に潜り込んだのか知らんが、ご苦労な事だ」
銃を持つ手も押さえられ、床に磔にされてしまう。
アルケミストが本気になれば、41の頭と手を握り潰すのも簡単だろうに、それをしないのは、いたぶって楽しむつもりか。それとも、グリフィン側の情報を集める為か。
「壊すのなら、さっさとやればいいです。私は絶対に何も話しませんから、何をしたって無駄です」
「ガキのくせに度胸は一人前だな。お前のような下っ端が私達の欲しい情報を保存しているはずはないさ。ただ、モノは使いようだ。お前にももちろん、それなりの使用用途はある」
「使用・・・用途?」
「お前には見覚えがある。確か、グリフィンの〝傷顔姉妹〟と一緒の部隊だろう? 何度か交戦した時のデータを見返した限り、随分と可愛がられているみたいじゃないか」
45と9が〝傷顔〟という名で鉄血から呼ばれている、という事はグリフィンでは有名な話である。
この場にまだ2人が到着していなかったのは、アルケミストにとって幸運という他にない。
あの2人をそう呼んだ鉄血は、例外なく部品単位にまでバラバラにされるのである。
「私を人質にしても45さんと9さんは何も変わりません。私の事は気にせず、あなたを倒すだけです」
「どうかな? メンタルのバックアップは取っているのだろうが、お前たちにとっては、そういう問題でもないだろう。人間と深く関わるのはデメリットしか生まない。何度でも壊れ、その度に
再生できるのが私達、戦術人形の強みだというのに。それを躊躇うようになったら、私達にはもう存在意義など無い」
アルケミストが言うように、41達の指揮官は人形のロストに細心の注意を払っている。それは、戦術人形達を人間と同等に見てくれる指揮官の優しさ故であり、そんな指揮官の考えを、少なくとも、41は甘んじて受け止めてきた。
45の事だ、ロストという覚悟は持って戦場に身を投じているのだろうが、きっと、それがもたらす結果を考えて迷いが生じる可能性もゼロではない。
指揮官を悲しませるような事は、45が一番嫌いな事だと41はよく知っている。
45達を危険に晒したくはない。多少の損傷は止むをないだろうが、ここは、なんとしても独力で切り抜けたい状況である。
「? このエリアに侵入者が2人、か。どうやら、迎えが来たらしいな。お前が言うような結果になるかどうか、楽しみだ」
2人が到着するまで、あと1分ほど。
頭は押さえつけられているので動かせない。視界で捉えている中で、回生の手段を模索する。
「・・・そう・・・ですね。やっぱり、私の言ったようにはならないかもしれません」
「なんだ、命乞いでもしたくなったのか? 残念だが、私はそういうのには興味が無い性質なんだ。他でやってくれるか」
アルケミストの注意を引いている隙に、手首だけを動かし、握っていたライフルの銃口をずらす。
「命乞いなんてしません。私は、グリフィンの戦術人形です。ご主人様の為に戦って勝つことだけが私の目標です」
「・・・お前、何を考えている?」
41の言葉に何か不穏なモノを感じたのだろう、アルケミストの声色が変わる。
考えを悟られる前に、おおよその位置に銃口を向いたのを確認。41がトリガーを引く。
銃口はアルケミストの方には向いていない。弾丸の雨は明後日の方に向けてまっすぐに飛んでいき・・・その先には、アルケミストが蹴り飛ばし、外部パネルが大きくひしゃげたサーバー機が。
内部機器が剝き出しになったそこに、弾丸が直撃する。
(これで、あの機械が爆発するはず。その後、隙をついて脱出です!)
破損した電気回路が火花を伴い、ショートしているのが見える。
徐々に煙と火も上がり始めるが・・・そこまでだった。
「もしや、アレを爆破させて形勢逆転と考えていたのか? 可燃性の素材が使われているわけでもあるまいし。バカなのか?」
「そ、そんな・・・」
指揮官と見たことがある映像作品では、この方法で大爆発が起きていた。それを覚えていたからこそ、41はこの作戦を思いついたのだ。
現実と非現実の境界をしっかりと教えなかった、指揮官の完全なるミステイクである。
・・・・・・しかし、現実においては、時として思いもよらない出来事すらも起こりえる。
今回などは、まさにその典型だった。
「っ!? なんだ?」
「ふわぁ!?」
突如として、サーバー機が青い稲妻を纏い始める。
まるで、無数の蛇がのたうっているかのように見えるそれは、大気をも貫く超高電圧の証。
予期せずして発生した高電圧は、電気の流れに従い、サーバーから伸びているケーブル群へと
伝播する。
そして、そのケーブルの真上には、まるでお約束のように41とアルケミストの姿があり。
「づっ! ~~~~~!!?」
「きゃあぁあぁぁ~~~!」
規格外の電圧はケーブルのカバーを貫通し、2人の身体へと容赦なく流れ込んでいく。
視界が明滅する。
四肢が意思とは無関係に痙攣する。
メンタルすらも焼きかねない危険な電圧だが、すでにコントロールを手放してしまっている2人は、その場から逃げることもできない。
(ご、ごめんなさい・・・ご主人様・・・)
もう、この身体は無事では済まない。そう確信した41は、届くことのない指揮官への謝罪を
想う。
そうして、41のメンタルはブラックアウトを起こし、無音の暗闇へと落ちていくのだった。
「ぅ・・・ん・・・・・・」
前触れもなく目が覚める。
うつ伏せに横たわっている身体は、鉛で覆われてでもいるかのように重く、所々から刺すような痛みが襲い掛かる。
一体、何があったのか?
記憶を少しだけ巻き戻して、そこでようやく状況を把握できた。
(サーバー機の電気ショートで感電したんだ。すごい痛かったけど、ひとまず、無事みたいで良かったです)
痛みを堪え、身体を起こそうと試みる。
しかし、感電の影響なのか四肢は思うように動かず、四つん這いになるので精一杯だった。
(敵は・・・アルケミストはどこにいるんでしょうか?)
周囲を見渡してみると、部屋の端、41が入ってきたものとは別の扉が開け放たれているのが
目に付いた。
41よりも先に目が覚めていたはずなのに、トドメを刺さずに撤退した。感電したことで何らかのダメージを負っていたと考えるのが妥当なところか。
「41ちゃ~ん、いる~?」
「馬鹿9。敵地でそんな大声出すんじゃないの」
「大丈夫だよ。41ちゃんの腕ならアルケミストくらいわけないって」
「それでも、よ。連絡が取れなくなった以上、何かあったんだと考えておきなさい」
覚えのある声が入口の方から聞こえてくる。
後続の45と9が来てくれた。その安心感だけで、今は涙が出そうなくらいな気分になってしまう。
「4・・・けほっ! けほっ!」
声を出そうとした途端、喉に違和感を覚え、思わず咳き込んでしまう。
(なんだろう? 声帯がいつもと全然違う感じ?)
これも感電によるダメージなのか。今の声帯の感触に合わせた声の出し方に調整してみる。
「41ちゃん、そこに居るの? もしかして、ケガしてる?」
サーバー機の向こう側、41の存在に気づいてくれた9が照らしているのだろう、フラッシュ
ライトの明かりが近づいてくる。
1秒でも早く2人の顔を見て、心から安心したい。その思いで、41は四つん這いのまま、
サーバー機の角から這い出る。
「45さん、9さん、私は無事です。データの奪取には成功しましたよ」
声帯異常のせいで、およそ自分のとは思えない声になってしまっているが、姿を見せれば2人を驚かせることも無い。
・・・そのはずだったのに、45と9は安堵するどころか、一瞬にして表情を凍り付かせ。
「クソ! 待ち伏せか!」
下げていた銃口を41に向けるや、2人して躊躇うことなくトリガーを引いたのである。
「え!?」
思わぬ展開に呆気にとられる41。しかし、身体は正直なもので、サーバー機の影に反射的に
飛び込み被弾は免れる。
(な、なんで? なんで?)
銃声と火花を傍らに、41の思考はパニックに陥る。
仲間に撃たれた。それも、基地で一番信頼し、大好きな人形である45と9に。
冗談でやってるにしては、明らかに度が過ぎている。
そもそも、日常生活の中であればまだしも、あの2人は任務中にこんなおふざけをするような
性格の人形だっただろうか?
ならば、何か2人の気に障るような失態を犯してしまったのか?
「撃たないで下さい! 私です! G41ですよ!」
もう、泣きそうなくらいどうしようもなくなってしまったので、自分であることをとにかく叫んでみる。
「そんなツマラナイ冗談を言うタマだったかしら? 命乞いになんか興味は無いわ。アンタの行く先はジャンクヤードって決まってるのよ」
そんな41の慟哭に、しかし、45は耳を貸そうともしない。
彼女は敵にはとことん容赦の無い性格であることを41はよく知っている。
そして、今、彼女が41に向けている目は紛れもなく、敵に向けているそれである。
「うぅ・・・冗談なんかじゃないのに。なんでそんなことを・・・ヒドイですぅ」
45がどれだけヤル気でも、大好きなお姉さん分に牙を剥くなど41には到底できない。
サーバー機に背中を預けたままどうしようもなくなって、ついに涙がジワってきたところで
「45姉、さすがにちょっとおかしくない?」
助け船を出してくれたのは、もう1人のお姉さん分、9の方だった。
「おかしいって、何がよ?」
「私達を油断させるにしても、こんなお粗末なウソをつくかな? よりにもよって41だ、なんて」
「まぁ、らしくはないけど。でも、実際にそうほざいてるのは事実だもの。気にすることなんかないわ」
「ん~・・・でも、流石にこれは納得いかないかな。45姉、ちょっとだけ時間ちょうだい」
「ちょ、9! ったく、噛みつかれても知らないわよ?」
「その時は45姉がしっかりフォローしてくれるから、大丈夫だよ」
9がサーバー機の角から姿を覗かせる。
パニック状態で今の2人の話など聞こえていなかった41はビクリと身を震わせるが、9が銃を手にしていないことを見て、少しだけ安心。
「えと・・・41ちゃんなの?」
コクコクと何度も頷いて肯定の意を返す。なんだか、喋れば喋るだけ悪い方向に進んでいるような気がして、声を出したくない気持ちなのである。
「そうなんだ? じゃあ、いくつか質問をするよ。本当に41ちゃんなら、全部判って当然の質問だからね」
やや警戒している様子こそ伺えるが、9は優しく対応してくれている。
片や、その後ろに控えている45は訝し気な表情で、しっかりと銃を構えている。
9からの質問に正答できなければ、間髪入れずにトリガーを引く事だろう。
さすがに、この距離では銃撃を回避することはできない。まさに、生きるか死ぬかの局面である。
「じゃあ、うちのValkily小隊を率いている隊長と副隊長は誰?」
「FALさんと57さんです」
「うん。次は、そうだな~・・・昨日の夜、私達3人で何を食べに行ったかな?」
「昨日の夜ですか? 確か、私と9さんでパスタを食べに行って、45さんはご主人さまとお食事をしていたはずです」
「お~、正解だね」
今の引っ掛け問題に正解できたのはポイントが高かったのだろう、45と9揃って驚きの表情を浮かべている。
目の前の2人がなぜこんな事をしているのか、その理由が分かっていない41は2人のリアクションが不思議でならない。
「それじゃあ、これが最後の質問。これが分かったらもう、41ちゃんだと認めるしかないね」
最後の質問、と聞いて41も思わず息を呑む。
「45姉のプライベートストレージのアクセスコードは?」
「〝sikikan@love45〟です!」
「ちょっとぉ! なんでアンタ達がそれ知ってんのよ!?」
思わぬとばっちりを食らった45が声を荒げる。
しかし、いつの間にか銃口を下げてくれていたところを見れば、もう45としても事実を認めてくれたのだという事が分かる。
「けれども45姉。これは一体、どういう事なんだろうね?」
「けれども、じゃないわよ、全く。・・・そうね、トンデモ事態すぎて見当もつかないわ。ひとまず、状況の把握から始めていくしかない」
2人とも、敵意を潜めてくれて41も一安心。そこで、ようやく41は最大の疑問を問いただしてみることにする。
「あの~、なぜ2人とも私を攻撃しようとしたのですか? 私、何かいけないことをしてしまったのでしょうか?」
「なんで、って。アンタもしかして、自分のその姿に気づいてなかったの?」
「私の姿?」
言われて、そこで初めて自分の身体に目を向ける。
肌は、まるで石膏のように白く、両手両足とも細く長くしなやか。
頭に手を持って行ってみれば、いつもあったはずの大きな耳は無くなっていて、鮮やかなブロンドは色が抜けたように真っ白に変わっている。
そして視線を落とせば、すぐ目の前には丸くてたわわな膨らみが2つ。
それを何となしにニギニギとしてみて。
「お胸が大きくなっちゃってますぅ~!?」
「よりによってそこに驚く!?」
45のツッコミはさておき、ここでようやく41は理解できたのである。
自分のメンタルが〝アルケミスト〟の中に入ってしまっている事を。
「え? え? 私、なんで鉄血になってるんです?? あ、立つといつもより目線が高くて怖いです! なんか左側が暗いと思ったら、眼帯が・・・外したらちゃんと見えるようになりました!?」
「今更になってすごい驚きようね。おかげで、こっちの方が冷静になってきちゃったわ」
45が呆れた表情で呟き、9がクスクスと笑みを零す。ようやくいつもの2人の様子に戻ってくれたことで、41も少しだけ落ち着きを取り戻せた。
「んで、そんなになっちゃった原因、何か心当たりとか無いの?」
目の前の45が自分の事を見上げている、というのはとてつもない違和感だが、今はそれは置いておくとして、45の言う通りに自分なりに考えてみる41。
「・・・もしかしたら、あれが原因かもしれません。まずは、この部屋に入ったところからお話しますね」
目的のデータの回収に成功した事。アルケミストに待ち伏せされ、交戦した事。そして、高電圧を浴びて感電したことを順序だてて41は2人に話した。
「2人揃って感電した際、41のメンタルがアルケミストの素体に移行した? そんな事例、聞いた事ないんだけど・・・実際、そうなってるのなら、そういう事もあるんでしょうね」
「でも、そうなると私の素体はどうなったのでしょう? 確か、私とアルケミストはすぐ傍にいたはずなのに」
「そりゃあ、41ちゃんがアルケミストの素体に入ってるんだもの。41ちゃんの素体にはもちろん・・・」
「それ以上言わないで。今でさえ面倒な状況なのに、更にややこしくなるなんて、私は絶対に
ゴメンだから」
9の言葉を45が遮る。腕組みで難しい表情を浮かべて、本気で面倒くさがっている時の彼女の様子である。
「面倒な状況にしてしまってゴメンなさい、45さん」
「不可抗力だもの、謝る事じゃないわ。高電圧を浴びてアルケミストのメンタルはロスト。41のメンタルは抜け殻になったアルケミストの素体に流れ込んで事なきを得た。41の素体は、きっとスパークの衝撃で部屋の隅にでも吹き飛ばされたんでしょう。さぁ、そうと分かれば41の素体を探すわよ」
「45姉ってば、すぐそうやって自分の都合の良い方に考えようとするんだから」
とはいえ、45の言い分も可能性がゼロというわけではない。
さしあたり、室内の捜索にあたろうとした、その矢先だった。
45の持つ無線機からコール音が鳴り響いた。
ここに居る3人以外でこのチャンネルに掛けてくるのは、陽動作戦を担当しているドラグノフのX-ray小隊である。
「・・・・・・」
だが、45はコール音は聞こえている筈なのに手を伸ばそうとしない。
加えて、生ゴミの山を前にでもしているかのような、渋い表情まで浮かべている。
「45さん、ドラグノフさんからのコールですよ?」
「ヤダ。すごく嫌な予感がするから出たくない」
「ダメだよ、45姉。ちゃんと現実を見ないと」
さすがに無視はできないと諦めたのか、舌打ち交じりに45がコールを受け取る。
「こちらZephyr。陽動作戦は無事に終了したのね。ご苦労様。そのままランデブーポイントに
直行して頂戴。オーバー」
『こらこら、なに勝手に話を進めているんだ。作戦完了なのはその通りだが、ちょっとした問題が発生してな。その連絡だ』
「・・・・・・41絡み以外の問題なら聞く」
『なんだ、分かっていたのか? 今しがた41と合流したんだが、私は鉄血の~、とかなんとかわけのわからない事を喚きながら暴れ回るんだ。今はスパスが取り押さえているんだが。また、お前がおかしなことを吹き込んだんじゃないのか?』
ドラグノフからの報告を受け、がっくりと項垂れる45。
話の内容までは聞こえなかった41と9も、そんな45のリアクションを見て全てが理解できてしまう。
「ほらね。私が言うまでもなかったけど、これが現実なんだって」
「本当にゴメンなさい。私が変な事をしてしまったばかりに」
「もういいわよ。なっちゃったモノは仕方ないから。とにかく、データの回収には成功してるみたいだから、いちおう作戦完了。41とアルケミストの件は帰ってからどうするか考えるわ。指揮官がね」
・・・と、これが後に〝メンタルテレコ案件〟という表題でグリフィン本部に提出されることになる、今回の出来事のプロローグである。
テレコ・メンタル。メンタルが入れ替わる、という意味のタイトルですね。
仕事でテレコ(入れ違い)という言葉を使うのですが、言葉の発祥は関西のようですね。
あらすじにもあるように某映画"What your name?"とは似ても似つかないような内容ですので、どうか気楽に41とアルケミストの行く末を見守っていただけたらと思います。
相も変わらず、週連載を続けていく予定ですので、気が向いたときに足を運んでやって下さいな。
それでは、来週もどうかお楽しみに。
以上、弱音御前でした~