ドールズフロントライン ~テレコ・メンタル~   作:弱音御前

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久しぶりにちょっとだけ涼しい今日この頃。皆さま、いかがお過ごしでしょうか?
どうも、弱音御前です。

メンタル入れ替わり事件、今回は3話になります。
別段、大きな戦闘も発生しない作品になっちゃいましたが、暇つぶしにでも楽しんでいただけたらなぁ、と思います。
それでは、今週もごゆっくりとどうぞ~


テレコ・メンタル 3話

 16Lab出張ラボラトリー

 

 

「今回のメンタル入れ替わり事件。これは、数年でもトップレベルのレアケースだと言えるだろうね。いやぁ、本当キミの周りには面白い事件が纏わりつくね。きっと、そういう星の下に生まれているんだろうさ」

 

 いつもよりもやや高いテンションで饒舌に振る舞うのは、グリフィンお抱えの技術部門研究員

ペルシカ。

 そんな彼女の前で席に付き、はぁ、そうですか、と気の無い返事で返し、指揮官は手にした

マグカップの中身をクピリと一口。

 砂糖とミルクたっぷりの甘いコーヒーが指揮官の気分を少しだけ和ませてくれる。

 

「恐らく、キミたちはこんな風に考えていることだろう。戦術人形の素体はゲーム機で言うところの〝ハード〟でメンタルは〝ソフト〟。入れ替えなんて、そう難しいものじゃないんだろう、と」

 

 ペルシカが言う通りの事を思っていた指揮官は、その言葉に自然と頷いて返す。

 それに対し、ペルシカは立てた人差し指を左右に振りつつ。

 

「甘いね。甘々だよグリフィンの指揮官クン」

 

 やたらと腹立たしいアクションでペルシカが返す。

 それを受け、指揮官はまたマグカップの中身をクピリと一口。

 

「2人の身体と精神が入れ替わる、なんていうのが昔の娯楽映像や書物であるのを知っているだろう? 仮にだよ? キミがそうなってしまったとしたら、まともな思考で居続けられるかな?」

 

「そう・・・ですね。極度の混乱は起こすでしょうけど、落ち着いてくれば、まぁ、それなりには、と思います」

 

 指揮官とて、なんとなしに答えたわけではない。今の短い時間でも、自分なりに

 想像を膨らませ、シミュレーションした結果の答えである。

 

 対し、ペルシカは今度はチッチッ、などと口で言いつつ指を振って切り捨てる。

 コーヒーをもう一口クピリ。

 

「無理だろうね。アレは所詮は創作世界だからこそ成り立つ構図であって、現実であんなことがあったら人間は崩壊する。総べからくね」

 

「言い切りますね。どれだけ精神が強い人間だったとしても?」

 

 もちろん、とペルシカは迷い無く返す。

 

「人間というのはね、〝自分であるからこそ我たりえる〟んだよ。身体と精神、そのどちらか一方が欠けてしまった時点でもう自分では居られない。自我とはまさに読んで字の如くなのさ」

 

「話としては実に尤もらしいですけど、研究員であるペルシカさんにしてはやや説得力に欠ける話な気もしますね」

 

「あはは、キミも中々言うようになったじゃないか。人類史が始まって以来、肉体と精神が入れ替わってしまうなんて事が実際に起こった記録は存在しない。人為的にそれを引き起こすなんてのも土台無理な話だからね。いくら私だって、こればかりは限りなく事実に近い推論で言うしかないってものさ」

 

 それでも、自分の推論に絶対の自信を持っている辺り、実にペルシカらしいと指揮官は妙に納得してしまう。

 

「ただ、戦術人形の素体とメンタルを入れ替えるという実験は過去に何度か行われている。戦術

人形は人にとても近しい存在になりつつあるから、その結果はそのまま人間に当てはめても良いのかもしれないね」

 

「そうですか。ペルシカさんの話からすると、その実験の結果は悉く失敗だった、と考えて良さそうですね」

 

「一度定着してしまった素体とメンタルは挿げ替えることができなかった。キミの所の41ちゃんも鉄血人形も活動を開始してから随分と時間が経っているから、間違いなくその例に当てはまる筈だ」

 

「では、なぜ今回はこんなことに?」

 

「何事も例外というものは存在するものだよ。例えそれが一億分の一、一兆分の一なんていう途方もない確率だとしてもね。そして、それを解明するために創造主は私達人間に知恵を与えたのさ! さぁ、解明しよう! 今すぐやろうじゃないか!」

 

 どうやら、指揮官が思っている以上に今回の事件は珍しいケースだったのだろう、ペルシカは

探求心をくすぐられまくってテンション爆上りである。

 

「16Labの人でも見当が付かない案件に俺なんかの助力が必要なんでしょうか?」

 

「もちろんだとも。事件は研究室で起きているのではなく、現場で起きているのだからね。その

現場の状況は指揮官であるキミの権限がないと開示出来ないとくれば、どうしたって協力してもらわねばならない。例のモノは持ってきてるんだろう? 早く出したまえ。ほれほれ」

 

 急かしてくるペルシカにデータメモリを渡す。

 このメモリには、41とアルケミストが入れ替わったとされる、鉄血拠点のサーバルームの写真が入っている。

 すでに拠点はグリフィン側が制圧しているので、現場写真は克明に何枚も撮影してある。

 

「ふむふむ・・・なるほど。報告を受けて大まかな推測はしていたけど、大幅な修正が必要になったな。規模も機材の質も推測より相当デカいじゃないかこれは」

 

 カタカタとキーボードを弄りながら、楽し気な口調のペルシカ。

 普段の何考えてるんだか分からない、いやらしい笑みを浮かべている時とは大違いな彼女の横顔を見て、少しドキリとしてしまったのは内緒の話である。

 

「41ちゃんがサーバー機を撃つ。サーバー機がショートする。2人して感電する。その後、気が付いたら入れ替わっていた。証言はその順番で良かったかな?」

 

「はい、そう言ってましたね」

 

「おっけーおっけー。過電流による相転移と見て良さそうか。プロトコルもロジックも違うIOPと鉄血製のメンタルが上手く相転移するなんて馬鹿げた話だけど、いま目の前で起こっている事こそが現実だ。確率の話は今は置いておこう。うん」

 

 何度か頷き、自分を納得させた様子のペルシカ。

 どうやら、彼女なりにもう事の次第は纏まってしまったようである。

 

「まず説明しておくと、人形のメンタルっていうのはデータの集合体によって成り立ってる。人間の精神やら魂なんていう得体のしれないものは人間には作れないからね。そして、そのデータは、今、このPCの中で行われているように、電気信号によってイロイロと出来るわけ。今回の入れ替わり事件は、十中八九、サーバー機のショートに巻き込まれたのが原因だ」

 

「はぁ・・・でも、感電でメンタルが入れ替わるなんて、あまりに簡単すぎるというか呆気なさすぎな事実というか」

 

「感電って言えば簡単に聞こえるだろうけど、実際はそんな生易しい電気量じゃないんだぞ、これは。この写真を見てみなさい。床に這っているケーブル、こことここが他と比べて酷く焼け焦げているだろう?」

 

 ペルシカがディスプレイに映し出された現場写真を指さす。

 言う通り、その部分だけケーブルの被覆も本線もダメージが酷い。

 41の証言からすると、ちょうど2人が居た位置と合致しそうだ。

 

「このケーブルは見た目の太さからも予想できると思うけど、工業用の高電圧対応ケーブルで、その中でもトップクラスの耐久性を誇るモデルだ。そのケーブルがこれだけ焼け焦げているときたら、並大抵の電力じゃあない」

 

「それって、どれくらいの電力なんでしょうか?」

 

「う~ん、そうだなぁ・・・・・・1.21ギガワットくらいかな?」

 

「ギガワットって、単位が大きすぎてどれほどのものだか想像もできないですね。そんなのを浴びてよく無事でいてくれたものです」

 

「・・・1.21ギガワットだよ? 1.21ギガワット」

 

「? はい、ですから、とてつもなく高い電力・・・ですよね?」

 

「もういいよ。張り合いの無い男だね、キミは」

 

「??」

 

 大きくため息をつくペルシカの意図が全く分からず、首を傾げる指揮官。

 

「実を言うと、電気の流れにメンタルデータを乗せて相互入れ替えを行う、という方法が最も成功率が高いんじゃないか、という試算は出ていたんだ。けれども、問題はどれだけの電気を流せばいいのか、という点でね。これまでシミュレーター上で設定していた電気量じゃあ上手くいかないわけだよ。記録された唯一の成功例がこんな桁違いの電気量なんだもの」

 

「シミュレートまでしているという事は、入れ替えが出来る方法もペルシカさんなりに確立されていると?」

 

「まぁ、いつか試してみたいな~、くらいの気持ちで準備していたものはあるけどね。ただ、成功までのハードルは幾つか残ったままだよ」

 

「41を戻す為なら協力は惜しみません」

 

 ペルシカの事である。これはあくまでも実験の一環であり、最悪、41になんらかの被害が及んでも知らん顔をして通す可能性も十分に考えられる。

 しかし、グリフィン側の技術部門がお手上げ状態のこの案件を解決できそうな人物といったら、指揮官にはもうペルシカ以外の名前は思い浮かばない。

 信用はしつつ、でも、警戒は怠らずな心持ちである。

 

「キミは本当に部下思いの上司だね。うちのも見習ってもらいたいよ、まったく」

 

「まず、そこの施設がどこから電力を引いていたか。鉄血が建てた施設だから、どこか余所から

電気を拝借しているんだろう。これはグリフィンの情報網を駆使すれば簡単に分かる事だろうね」

 

「電気の出所・・・と」

 

 言われた内容を携帯端末に打ち込む指揮官。

 指揮官業務というのはマルチタスクでこなすことが多い。忘れないようにメモをとっておくこの習慣は、グリフィンに着任してからついたものである。

 

「次、というかこれが最後で一番の難題なのだけど。41ちゃんがショートさせたサーバー機の

モデルが知りたい」

 

「サーバー機のモデルですか?」

 

「うん。あのサーバー機がどれだけの電力を処理していたのか分からないと、こちらで準備しなければいけない電力が分からない。これは入れ替えの成否に関わると同時にあの2人の身の安全にも関わる事だからね。失敗は許されない重要な点だ」

 

 と、ペルシカの言葉を聞いて少しだけ反省。

 彼女とて、戦術人形の開発に深く関わっている身だ。人形達を蔑ろにするような人物ではなかったのだろう、指揮官の勘ぐりすきである。

 

「モデルとか製造番号とか、そういうのは本体に打刻されているものでしょうから、それこそ調べるのは大した手間ではないかと」

 

「無理だろうね。この写真を見た限りだと、本体は原型こそ留めているけど、中身はほぼ炭化してしまっているから」

 

 電子機器にはあまり詳しくない指揮官なので、写真を見ただけではそこまで分からないところだが、専門家が言うのならそうなのだろう。

 ここは素直に頷いておく場である。

 

「でしたら、このサーバー機の外観から製造メーカーを割り出して、メーカーに直接聞きましょうか」

 

「それも無理。このサーバー機、たぶん鉄血で組んでるカスタムメイドだから」

 

「また、厄介なことをしてくれたもんだな。そうなると・・・」

 

「彼女から聞き出すしかないんじゃないかな」

 

「そうなりますね。知っててくれればいいんですけど」

 

 仲良く意見が一致。

 ちょうど良く、この基地内に居候している鉄血の方に聞くのが一番である。

 

「彼女はそこの拠点のトップだったんだろう? それなら、拠点の隅から隅までを熟知しているはずだ。知らないなんてことはないだろうさ」

 

 実際にあのサーバー機を準備したのはアルケミストではないだろう。しかし、鉄血の部隊を率いる鉄血エリートは他の人形のメモリーとリンクしている。どの人形がどこで何をしていたか分かるので、それを探らせれば、サーバー機の情報もおのずと見えてくる幡豆である。

 

「それ以前に、こちらが欲している情報を彼女がそう簡単に話してくれるかどうかが私は問題だと思うんだが」

 

「まぁ、そこはどうにかしますよ。取り付く島もないほど、というわけでもなさそうでしたから」

 

「お、カッコいい事言うねぇ~。じゃあ、私は期待して待つとするよ」

 

 言い切ったのは、別段、見栄を張ってのものではない。指揮官なりに、あの狂犬をどうやって

懐柔しようか目途がついていての返答だ。

 順序だててコツコツと。強行手段を用いない場合は、少しずつ、確実に牙城を崩すことが大事なのである。

 

「ところで、件の41ちゃんの様子は変わりないかい? あの見た目のままじゃあ、少なからず

問題は付いて回ると思うんだけど」

 

「ええ、それに関しても、いま対処している最中ですので、ご心配なく」

 

 最後にペコリとお辞儀をしてラボラトリーをあとにする。

 これで解決に向けてのひとまずの方針は決まった。

 本日はあと、件の41の身の回りの問題を落ち着ければ、無事にタスク完了といったところである。




ペルシカさんのお喋り回でしたね。
当方の小説における師匠からの教えで、長話をさせていいキャラとダメなキャラを見極めなさい、というものがありました。
説明キャラというと分かりやすいでしょうか。当方の好きなタイプムーンの作品でいうと〝空の
境界〟の橙子さんとか・・・・・・細かすぎて伝わらなかったですかね。
ともかく、ペルシカさんはそんな立ち位置に置いているので、これからも長話が多くなっちゃうでしょうが、そこはどうか長い目で見ていただければと。

次週も定期投稿の予定ですので、お暇があれば見てやって下さいな。
以上、弱音御前でした~
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