どうも、弱音御前です。
メンタル入れ替わり事件、今回は4話になります。
長かった一日も終わり、深夜の静けさ漂うグリフィン基地。そんな中での一幕からお話は始まります。
それでは、今回もどうぞごゆっくりと~
グリフィン基地B棟2階 通気ダクト内部
時刻は深夜1時。24時間で稼働を続けているグリフィン基地ではあるが、シフト人数の少ない深夜帯は人影もまばら。
明るいうちは姦しいフロア通路も時折、近くを通りがかる職員の足音が響くだけで静寂が優勢を保っている。
そんな通路の天井裏には、空調用のダクトが通っている。
フロア全体に、それこそ迷路のように張り巡らされたこの隠し通路は、人目につかないよう移動するにはおあつらえ向き。
捕虜とされている、今のアルケミストにとっては特に、である。
「ククク、アホのグリフィンどもめ。まさか、私がこうも簡単に脱走しているなどと夢にも思っていまい」
悪い笑みを浮かべながら、モゾモゾとダクトの内部を這い進むアルケミスト。
捕虜となっている時間を無駄に過ごし続けるほど、彼女は大人しい性格の戦術人形ではない。
「このチビと身体が入れ替わったことが貴様らの運の尽きよ」
拘留室の天井にも空調のダクトが設けられている。普通の戦術人形では入り込む事など到底できないほどの広さなのだが、アルケミストも言う通り、41の身体だからこそ、その小さなダクトに潜り込むことが可能となってしまったのだ。
「どこに居る、グリフィンの指揮官。予告通り、その首を掻っ切ってやるぞ」
このまま基地から逃げるのも難しいことではないだろう。しかし、敵の指揮官が近くに居るこの状況は攻勢に出る千載一遇のチャンスでもある。
手ぶらで仲間のもとに戻るよりは、指揮官の首ひとつくらい手土産にしたいものだ。
「また十字路か。ふむ・・・右かな」
とはいえ、敵基地は非常に広大でなかなかお目当ての場所にはたどり着けない。
時折、ダクト口から下の様子を覗いて確認しつつ居住区を目指して進んでいるが、あまり進みすぎると迷子になってしまいそうになる。
グリフィンは何日かに渡ってアルケミストの拘留を続けるに違いない。それならば、今夜は
下調べとして来るべきその日に備える、という考えも正解だろう。
「拘留室からおよそ200メートルは離れたか? 今夜はここまでにするか」
もしかしたら、進む方向が違っていたのかもしれない。そう判断し、引き返そうと体を反転させるアルケミスト。
その時、微かな話し声が耳に届いてきた。
すぐ近くではない。ダクトが伸びている先から、内壁を渡って響いてきている音のようだ。
「アタリだったか。私の運もなかなか捨てたものではないな」
引き返そうとしていた考えを取りやめ、再びダクトを這い進んでいく。
進めば進むほど、声はハッキリと聞こえてくる。
誰かと話をしているらしい。
そして、その話の内容には指揮官という言葉が含まれている事も聞き取れた。
この声の先にグリフィンの指揮官が居るという事か。
「まてまて、こういう時こそ慎重に落ち着いて動くものだ」
ぼぅ、と白い光が下からダクト内を照らしている。その光の彩は、これまで通ってきたエリアのモノとは明らかに違う。
どうやら、目的のエリアに到達できたようだ。
「どんな苦しみ方を見せてくれるか、楽しみだな、グリフィンの指揮官。フフフ」
戦術人形のような小物ではない。もっと柔らかく、脆く、良い声で派手に壊れてくれるであろう人間に手を付けられると思うと、自然と息が荒くなってしまう。
まずは視察だ。思わず手が出てしまわぬよう、身体の震えを堪えながらダクト口から下を覗き
見る。
「あの・・・指揮官。本日は折り入ってお願いがあるんです。私の我儘、聞いていただけないでしょうか?」
ベッドにちょこんとお座りしながらそう話すのは、銀髪に青い瞳の戦術人形。
〝9A91〟と呼ばれていた人形だったか。アルケミストは直接戦ったことが無いのだが、鉄血組織内での記録によれば、特に夜戦で驚異的な戦力を誇る強敵であるらしい。
しかし、ここは戦場などではなく、優位性は闇に潜んでいるアルケミストにある。
戦術人形もろとも、指揮官を手にかける事など造作もないだろう。
「私、指揮官をお慕いしています。とてもとても、それはもう筆舌には尽くしがたいほどに。
指揮官様が45副官と誓約を交わしている事は知っています。副官以外の戦術人形とは誓約をしない、という事も」
もじもじと、むず痒そうに身体を揺らしながら語る9A91。
今のアルケミストの角度からでは、彼女の前に居るだろう指揮官の姿は見えない。
このままステルスキルをかますにも、まずは対象の姿を捉えるのが先決。
体をよじり、視点を変えてみる。
そうして、ようやく戦術人形の正面に居る人物・・・というか〝モノ〟を視界に捉え、そして
「な、何やってんだアイツは・・・」
アルケミストが戦慄する。
「でも、私、頑張っているんですよ? 前回の作戦だって、何回もMVPをとってきました。だから、ご褒美をいただきたいんです。45副官も誰もいない、この時に」
9A91が語り掛けているのは、人型を模した布製のクッション。その頭部には指揮官の顔写真が張り付けられている。
室内の様子をよく見てみれば、四方の壁やデスク、床にまでも指揮官の写真が所狭しと貼り付けられている。
自分たちの上官だ。恨んでいるわけもないのだろうが、その光景には狂気じみた気配をひしひしと感じる。
「指揮官さん」
甘い声をあげ、9A91は指揮官、基、布クッションを押し倒して馬乗りになる。
「私の事、いっぱい気持ちよくして下さい。45副官には及ばずながら私も指揮官様にご奉仕いたしますので」
潤んだ瞳で妖しい笑みを浮かべ、9A91は自らの胸元に手を差し込み、太腿に手を這わせて・・・そこで、アルケミストはそっと視線を外した。
「・・・ったく、キ〇ガイ人形の自慰を眺めてなどいられるか、次」
やたらと色っぽく激しい喘ぎ声を背後に、アルケミストは再びダクトの中を進んでいく。
ここが居住区画なのは間違いない。
ほんの少しだけ進んだところで、次のダクト口が見えてきた。
「声は聞こえない、か。しかし、なんだこの音は? 鼻歌・・・か?」
ご機嫌な歌、のようなものがダクト口から響いてくる。
声の感じからすると、戦術人形のものか。成人男性である指揮官ではありえない。
目標は指揮官なので本来はスルーすべきところなのだが、アルケミストは、つい、興味本位で下の様子を覗き見してしまう。
「♪~~~~♪」
ふわふわもこもこの可愛らしいパジャマ姿で鼻歌を口ずさんでいるのは、銀髪赤目の戦術人形。
一見して無邪気な見た目の戦術人形だが、侮ることなかれ。彼女は鉄血組織内でのデータベースでトップクラスの危険度を誇る有名人形であり、アルケミスト本人も、何度か苦汁を呑まされている存在なのだ。
「ちぃ、よりによって〝壊し屋〟の部屋か」
壊し屋、悪魔、死神。呼び名は様々であるが、そのどれもが末恐ろしいものである事に共通している。
アサルト〝SOPMODⅡ〟。
悪魔が住む部屋は、やはり、悪魔が居るにふさわしい様相を呈していた。
「うちの下っ端共に、ハンター、エクスキューショナー、それとあれは・・・私のダミーのパーツか? 部屋に並べ飾るとは、悪名は伊達ではないな」
戦術人形を痛めつける事に大きな喜びを感じるアルケミストは、彼女に対して少なからずシンパシーを覚えていた。
だがしかし、それでもこの光景はさすがにヒク。
おそらくは、鉄血人形の現行モデル全てのパーツがその部屋には所狭しと置かれている。部品庫みたいな綺麗なものではなく、その雑多な様子は、まるで、小さなジャンクヤードのようだ。
「ディナゲートの身体に~♪ リッパーの手足~♪ デストロイヤーの頭を乗せて~ふふ~ん♪」
そんなジャンクヤードの中からSOPⅡは部品を抜き出すと、歌を口ずさみながらそれらを組み合わせていく。
同じ鉄血製人形の部品とはいえ、サイズも互換性もない部品群だ。もちろん、そんな簡単に組み合わさる筈はない。
「このジョイント2つは、こうして、こうやれば、嵌るんだよね~」
サイズ違いのジョイントをグリグリと力づくで嵌めこみ、SOPⅡは組み立てていく。
「アイツは私達、戦術人形をなんだと思ってるんだ? まったく」
アルケミストの小声でのツッコミはもちろん届いている筈もなく、SOPⅡの魔改造は着々と進んでいく。
そうして出来上がったのは、ディナゲートの異様に小さな胴体に人型の手足が生えたツイン
テール頭の戦術人形、という悪夢のようなクリーチャーである。
「でーきた! さてさて、動くかな~っと」
「おいおい、そんなクリーチャーが起動するわけがなかろう」
デスクに置いた魔改造デストロイヤーのポートに、SOPⅡがケーブルを差し込む。こうして、メンタルに起動データを流し込み、戦術人形は起動シークェンスを完了するのである。
そのほとんどが適合性の無い部品で組んだクリーチャーは、しかし、アルケミストの予想に反し、デスクの上で僅かずつ動きだす。
「な!? マジか・・・?」
思わず大きな声が漏れそうになったのを寸でのところで抑える。
カタカタと、四肢が痙攣するような動きを見せる魔改造人形。
「ォ・・・ォああ・・・おおあぁ」
震える唇から漏れるのは、地獄の底から響くかのような怨嗟の声。
顔は白目を剝いたままというのが、またなんとも気味の悪さを引き立てている。
立とうと動くが、身体のバランスがとてつもなく悪い為、すぐにまた転倒してしまう魔改造
人形。
何度も何度も。それしか知らないかのようにデスクの上で繰り返し藻掻き続ける歪な人形を前にして。
「アハハハ! もうちょっとで立てそうだね! ほら、頑張って頑張って!」
SOPⅡは手拍子を交えて囃し立てる。
決して蔑んでいるのではない。ただ、無邪気である故の行動なのはアルケミストにもなんとなく理解できる。
ただ、これはあまりにも残酷な純粋さだと、アルケミストをしてそう思わせるほどの光景である。
「ぅう・・うぅぅ・・・シテ。コワ・・・して・・・コワし・・・てぇ・・・」
自分という存在がどれほど惨めか理解できてしまっているのだろう。魔改造人形が拙いながらも言葉を発する。
そして、恐らくはその声がトリガーとなったのだろう。
眼下の部屋の至る所から、小さな声が聞こえはじめた。
コワして こわして こわして コワシテ コワして
壊して コワシテ 壊して コワシテ こわして 壊して
コワシテ壊して壊して壊してお願いします壊してくださいもう終わりにして下さい
陽が沈むにつれ、影が世界を支配していくように。あっという間に室内は苦しみの怨嗟に塗りつぶされた。
その声の出所は、部屋の四方壁に置かれているラックから。
金属製のラックには、よく見れば、いま出来たばかりの魔改造人形の同類が所狭しと並べ飾られていた。
それらが一斉に発する怨嗟の大合唱が、部屋に響き渡っているのだ。
(ヤバいヤバい! コイツのイカレ具合は度が過ぎている!)
もう、これまで自分がやってきた行いを忘れるくらいにドン引きしているアルケミスト。
見つかったら何をされるか分かったものではない、と本能的に察し、自然と後じさり。
背後を見てもいなかったものだから、つい、ダクトの壁に足をぶつけてしまった。
「マズイ!?」
それほど強くぶつけたわけではないので、音は小さかった。よもや、聞こえてないという可能性を信じたいアルケミストだったが・・・相手は鉄血エリートですら不覚をとりかねない精鋭である。
「あれ~? 今、何か音が聞こえたような・・・」
ぐりん、とSOPⅡが顔を天井に向ける。
音の出所へピンポイントで送られるその視線と、ダクトフィン越しに視線が合ってしまった。
「!!?」
声を上げることも忘れ、その場から急速離脱。
でも、音だけは絶対に出さないその様子は、この荒廃した世界においても尚たくましく生き残り続ける、黒くて平べったくて艶っとした昆虫に瓜二つだ。
(クソっ! グリフィン基地は魔窟か!? 今夜はこれくらいにしといてやる!)
あの悪魔の事である。ダクト内に侵入者が居ると判断すれば、確実に追いかけてきただろう。
それが無かったということは、気のせいで済ませてくれたのか。
自分の部屋に戻り、その事に安堵の息をついたところで、アルケミストの一日は無事に幕を降ろせたのであった。
人形達の自室でのひととき、いかがでしたでしょうか?
特に癖のある2人だったので、まぁ、アルケミストじゃなくたってヒクでしょうね。
次週も投稿予定ですので、お暇潰しに見に来てやって下さいな。
以上、弱音御前でした~