どうも、弱音御前です。
テレコ・メンタル、今回は第6話になります。
416率いるTaros小隊と41との模擬戦、その後半からお話は始まります。
前回の最後に不敵な笑みを浮かべていた娘の正体とは・・・?
なんていう無駄な煽りを入れつつ、今回もどうぞごゆっくりとお楽しみください~
彼女が居るのは、中二階として設けられたキャットウォークの角。このフィールドの隅端であり、フィールドの全景を見渡せる絶好のポジションである。
彼女の名は〝SUPAR SASS〟。416が率いる小隊に所属する狙撃手だ。
「始まる前から所在を隠すのは後ろめたいところもありますが。これも狙撃手として当然の立ち回りですからね」
SASSは訓練が始まる前の顔合わせにも出なければ、この訓練の関係者みんな揃って彼女の
名前を口にしてもいない。
41はTaros小隊、4人との訓練だと思っている。
これは当然、指揮官も承諾した上での作戦。できるだけ、アルケミストの素体に関しての
スペックデータが欲しいので、本気で相手をしてもらいたいという話を受けてのものだ。
まぁ、もともと相手が誰だろう容赦の無い416隊長の事なので、指揮官が提案するまでもなく、こういう作戦になったのだろうが。
「それにしても、とてつもないスペックです。鉄血のアルケミストだって、あれほど俊敏には動いていないはずなのに」
腕の良い狙撃手ほど、優れた監視、解析能力を持つ。名手スプリングフィールドや女帝SVDと比べると影はやや薄いが、SASSの腕前も折り紙付き。敵個体の戦力に性能限界は全てメモリーに叩き込んである。
訓練開始直後から見せた41の動きは、普段相手にしているアルケミストのそれを確実に凌駕するものだ。
遠目に見て明らかなものだから、測定数値でもはっきりと出る事だろう。
「隊長は流石です。そんな規格外にちゃんと対処できるなんて」
スコープで2人の姿を追いながら、SASSは改めて416の性能の高さに感服してしまう。
近接戦にもつれ込むなど実戦ではほとんど無いことなのに、それでも416は確実に対処してのけている。
捕まえようと振るわれる両腕を躱し、その合間に牽制弾を撃ち込み、少しずつ後退していく。
防戦一方に見えるがそうではない。むしろ、攻勢に打って出ている41こそ、今、追い詰められている側に他ならない。
「・・・もう少し右手。30メートルほど先の少し開けたエリアへ」
通信機をオンにして、SASSから一方的に言葉を送る。
返事は無いながらも、416の動きは自然と右手へと進んでいく。
優秀な先鋒が居るからこそ、後方が活きる。
このコンビネーションこそが、まだ結成して間もないTaros小隊が先月のMVP小隊に輝いた
一番の要因である。
416の誘導で射線がクリアになった。
風や熱による気流の乱れも考慮する必要はない。
相変わらず41の動きは目まぐるしいが、そこは持ち前の腕と勘でカバーする。
「・・・・・・」
呼吸を止め、身体を凍らせる。
神経を通すのは、トリガーに乗せた指一本だけ。
スコープ内の十字レティクルと41の頭部が重なりかけた、その一瞬。
(今!)
一縷の迷いも無くSASSがトリガーを引いた。
機関内の撃針が信管を叩き、ガンパウダーの炸裂を以て弾丸が弾き出される。
狙撃手としての誇りにかけて、必中を確信した一発だった。
言い訳の余地があるとすれば、訓練用のビスケット弾だったというくらいのものだが、それでもハズレるほどの誤差は出ない見込みだ。
弾丸はSASSの思惑通りのコースを一直線に駆け抜け・・・けれども、41の目前数ミリの
地点を通過。コンベア機のコンソールパネルとの激突でオレンジ色の火花を散らした。
「っ!? うそ・・・」
必中の一撃の筈だった。少なくとも、SASS側のファクターは完璧。今の弾丸が空を切るなど、微粒子レベルたりとも存在しない計算だった。
そんな、あり得ない状況が起きたのは、SASSも予測できていなかった、相手側の性能が
要因。
スコープ越しにSASSは捉えていた。
41が発砲から着弾までの間に狙撃を察知し、弾丸を躱していた様子を。
「なんてデタラメ」
発砲音を聞いてから弾丸を避けるなど、現実に可能なのか?
いや、実際に目の前でやってのけたのだから可能なのだろう。今のは偶然の動きで躱したものでは絶対にない。
音が届いてから着弾までの時間差がどれだけあると?
そんなの分からない。
前例がないから、データなんてある筈ない。
(余計な事はいい。次で仕留める)
自分がパニックに陥りかけていた事に気づき、思考をリセット。再びスコープで41の動きを
追いかける。
動き回る41をスコープに納め、狙いを定めていたその最中、41と目が合う。
これも、決して偶然に41がSASSの方向を向いていたわけではない。
41は屈託のない笑顔をSASSに向けているのだ。
「見つかった!!?」
背筋が凍り付く。
たった一発で、撃ってきた方角どころか場所すらも特定してしまう規格外の性能を前にして、
さしものSASSも今度は動揺を抑えきることはできなかった。
(逃げ・・・否、逃げ場は無い。撃ち取るしかない)
居場所がバレるというのは狙撃手にとって致命的な事態だ。冷静な状態の彼女であれば、間違いなく撤収を選んだだろう。
思考が荒れると判断を見誤る。訓練だからこそ許される、良い教訓である。
『何やってるのSASS! 早く逃げなさい!』
416からのお叱りが無線でとんできたのは、射撃姿勢もそのままに、ムキになって41の姿を探していたところ。
今、襲われている筈の416が自分に注意を促してきている。それが何を意味するのか気づいたころにはすでに手遅れだった。
「SASSさん、捕まえました~」
聞き慣れない声で言われ、背中をポンと叩かれる。
やられた、ということを受け入れ、SASSは大きくため息をつく。
「いつのまに私の所まで来てたの?」
「えへへ。この素体、私が思っている以上に速く動けて凄いんですよ」
機械設備が迷路のように林立する数百メートルを駆け抜け、SASSの背後へと周りこんだ。
SASSと目が合ってから、五秒と経ってない間にである。
「あのフィールド内をすり抜けて? それにしたって速すぎだよ」
「それだと時間が掛かっちゃうかなって思ったので、あそこに飛び移ってピョ~ンって来ました」
言って、41が指さすのはフィールドを囲っている外壁。
三角飛びの要領でここまで飛び上がってきたということだろう。
あまりの滅茶苦茶具合にSASSは頭が痛くなってきてしまう。
「もうお手上げだなぁ。あと1人、頑張ってね41ちゃん」
「はい、ありがとうございました、SASSさん」
ペコリと、容姿に似合わぬ可愛らしいお辞儀を見せると、41は再び階下へと飛び降り、金属の
迷路の中へと姿を消していった。
「申し訳ありません、隊長。テイクダウンです」
『油断したわね。この経験をちゃんと活かして頂戴』
「肝に銘じておきます」
通信を終え、ライフルを片手に歩きだすSASS。
「はぁ~・・・ベテランへの道は遠いな」
溜息と一緒にひとりごちて、SASSは重い足取りでフィールドから退場する。
キャットウォークから一階フロアへと降り、西側の壁沿いに設けられた出入口を目指す。
操作パネルでIDをスキャン。扉が開いたその先が、この訓練場を管理している管制室である。
「お疲れ様、SASS」
まず、真っ先にSASSを労ってくれたのは指揮官だった。
大好きな上司から嬉しいお言葉を貰い、さっきまでの陰鬱な気分も少しだけ晴れてくれた。
「不甲斐ない所をお見せしてしまいました。恥ずかしくて、穴に隠れたいくらいですよ」
「そんなこと言わずに。性能が未知数の相手だったんだからさ。あれだけ狙いを正確に絞れたんだから、それだけでもいい戦い方だったと思うよ」
「そうですよ! 私達なんか、全く狙いも付けられずにやられちゃったんですから。ねぇ、
モスバーグさん」
「ええ。少なくとも、私達よりは416隊長からのお仕置きが軽いのは確実でしょう」
指揮官の傍でモニター観戦していたMP5とモスバーグの表情がどんよりと曇る。
常に完璧を求める416は、ミスをした者への制裁に容赦はしない。
今回のように一太刀すらも浴びせられなかったとなれば、相当熾烈な仕置きが予想されるところだが。
「そんなに青ざめなくても大丈夫だよ。416だってこれだけ苦戦してる相手なんだ。キミたちを責めるような事はしないだろうし」
管制機器に接続された幾つものモニター。そこには、エリア分けされたフィールドの様子が映し出されている。
416は押され気味ながらも孤軍奮闘。まだ41に指一本触れさせてはいない。
「アルケミストの素体に入った41と実際に戦ってみてどうだったかな?」
「凄すぎてよく分かりませんでした、というのが正直な感想ですね」
そっか、と指揮官が苦笑い。
きっとMP5とモスバーグも、今のと同じく参考にもならない感想を述べたのだろう。
「ただ、私が戦った鉄血部隊のアルケミストと比べて、スピードもパワーも上昇しているというのは確かでした」
「うん、キミの言う通り。測定値はいずれも、こちらで把握している鉄血エリートのアルケミストのスペックを超えている。初めは、ちょっとした身体測定くらいの気分で提案した実践訓練だったんだけどね。まさかの結果で驚いてるよ」
笑顔交じりではあるが、指揮官の声色からは微かな動揺を感じられる。
この結果によって、グリフィンが41の処遇をどうするのか? それは、SASSのような末端の戦術人形には与り知らぬことである。
「確かに、今の41の戦力が高いのは事実なのですが・・・ここは是が非でも隊長に勝ち残ってもらいたいです」
「私もそう願っています! いますけど、少しずつ押されているのは見てもあきらかですよ~」
攻撃の手を緩め、416は距離をとりはじめている。
涼し気な表情の中に、時折、渋い表情が垣間見えるところからも、416の苦戦の度合いが伺い知れる。
SASSも2人と同じ気持ちではあるが、このままでは敗色濃厚なのは間違いない。
「あれが、アルケミストの素体に入ったっていうG41? 普段のアルケミストよりも強いじゃない。Taros小隊〝如き〟じゃあ荷が重いわね」
「そういう物言いをしない。只でさえ、アナタは周りからヒンシュク買ってるんだから。同じ部隊の私達まで肩身が狭くなるじゃない」
「私は自分の身の丈に合った振る舞いでいるだけよ。それを認めたくなくて影口叩くっていうのなら、ソイツらはその程度ってだけの話」
背後からの言葉に、驚き振り返る。
歯に衣着せぬ物言いに超強気な口調。
恐らくは、このグリフィン基地の中でトップクラスに恐れられ、ヘイトを集めまくっているだろう人形。
Valkily小隊隊長FALのお出ましである。
そんな彼女を傍らで窘めるのは、同部隊の副隊長57。FALと出身を同じくする戦術人形ながら、性格は全く正反対の常識人である。
「ご苦労様、FAL、57。長期任務で疲れてるだろうし、まずは休んできたらどうかな?」
「冗談。こんな面白そうな事、この基地最強の私の部隊が出なくてどうするってのよ」
難易度の高い任務を請け負う比率が高く、かつ、今までに一度も任務を失敗したことのない彼女の部隊は、誰もが最強と認めることだろう。
そんな大それたセリフを自分で言うくらいの気概がなければ、最強部隊の隊長は務まらないと
SASSも思う。
「え~!? ちょっと様子見に来るだけって言ってたじゃない! もう、シャワー浴びてご飯食べて寝たいんですけど。ねえ、ファマタボもそうでしょ~?」
「その呼び方、おやめ下さいと何度も言ってますでしょう! とはいえ、57さんの意見には私も賛成ですわ。今回の任務はさすがに疲れましたもの。ファマスさんはどうですの?」
「まぁ、疲れているのは私もそうですが、あの41と手合わせできるというのは実に興味深いですね。隊長の指示とあらば、すぐにでも」
「ですわよね~。ストイックなファマスさんでしたら、そう言うと思ってましたわ」
今期、同部隊で活動しているファマスとタボールがひょっこりと姿を現す。
この2人もかなり優秀なアサルトコンビだ。現Valkily小隊の戦力ならば、悔しい事だが、Taros小隊よりも多くのサンプルデータをとれることだろう。
「ん~、そうだね。協力してもらえるのは嬉しいんだけど、416の性格を考えると・・・ねぇ?」
そう言って同意を求めてくる指揮官。詳しく言わずとも、察するのは難しくない。
太陽に届くが如くプライドの高い416の事だ。自分達の後にValkily小隊が出てくると知ったらどれだけ拗ねる事か。
その被害を部隊員以上に指揮官が受けることになる、というのは基地内ではあまり知られていない事実である。
「ったく、ホント面倒な奴よね」
お前が言えた事か。この場に居る全員がFALに対して心に思った言葉である。
「さすがに、完璧にやられちゃえばヤツも文句言えないでしょう。ってか、私が言わせない。ほらほら、さっさと負けちゃいなさい、416」
「はぁ~、やっぱりやる羽目になるのね。じゃあ、416が頑張ってくれている間に少しでも休憩しておきましょうか、ファマタボ」
「だから! その言い方はおやめになってと!」
「いいじゃないですか、タボール。愛称というのは友好の証です。一体どこが気に入らないんですか?」
「それはもちろん、ファマスさんの名前が先なところですわ。タボファマならばいつでも好きな時に呼んでいただいてよくってよ」
文句は言いつつも、Valkily小隊の面々はすでに銃器の手入れや給弾を始めたり、とヤル気な様子だ。
「完全にお株を奪われた、というヤツですねこれは」
「仕方ないよ。向こうの方が実力も経験も上なんだもの」
「これを教訓として成長しましょう。いつまでも隊長の足を引っ張ってばかりではいられませんから」
結局、自分たちの不甲斐なさを思い知らされただけの実践訓練だったが、良い機会になったというのはMP5の言う通り。
いつまでもしょげていないで、先を見据えて考えをスイッチできるというのも、プロには必要な心掛けである。
「・・・ところで、USPさんはまだ戻っていないみたいですね」
まったく面倒なことだが、こういう細かい気配りもチームには大切な事。
指揮官に一言断りを入れ、SASSはMP5をお供に、再びフィールドへと迷子を迎えに踏み込んでいくのだった。
グリフィン基地 購買エリア
現在、この基地には100名近くの戦術人形が在籍している。
基地の運営メンテナンスを請け負う職員の数を合わせれば、総員200名を超える大所帯である。
そのほとんどが、この基地で部屋を借りて住んでいるともなれば、当然、それなりの設備が必要になってくるものだ。
衣食住、生活必需品のほとんどが手に入るというのがこの購買エリアの優れたところ。
利用者達が〝モール〟と呼んでいるここも、業務終了直後は大勢の人出でごったがえす。
外部のマーケットにも負けず劣らずの賑やかさである。
「♪~~~~♪」
そんな中で、本日、行き交う皆の視線を集めるのは、ご機嫌な鼻歌を奏でながら歩く見慣れない長身の戦術人形、G41。
そんな彼女に横並びで腕組みまでされている指揮官は、41に向けられている視線の流れ弾を
浴びまくり、気が散って仕方がない。
ついでに、見ようによっては41にどこかへ連行されているかのようで、少しだけ恥ずかしかったりもする。
「さっきからずっと歩き周ってるけど、どこか覗きたいお店があるんじゃないの?」
普段から指揮官はこのように41とショッピングに出かけているわけではない。
数時間前の実践訓練兼スペック測定で好成績を挙げたご褒美として、41にしては珍しく、指揮官とのお買い物を要求してきたのである。
てっきり、何か欲しいモノでもあるのかと思っていた指揮官だったが、このエリアに来てからすでに30分あまり。エリアを三周くらいしても41がどこかの店に入るような素振りは全く見せていない。
「欲しいモノがあるわけではないんです。ただ、ご主人様とこうやって並んでモールの中を歩いてみたいって思っていたので」
一緒に歩くだけでいい、とはまた41にしては趣のある要求である。
もしかして、アルケミストの素体に入れ替わったことで41のメンタルにも影響が出て、趣味
趣向が変わったり・・・
「45さんとご主人様、お休みの日はこうやって楽しそうに歩いていました。だから、私もやってみたかったんです」
なんていうことはなくて安心する指揮官。
業務時間外なのに、仕事の内容に考えを回してしまったことを少し反省する。
「それなら、いつでもそう言ってくれてよかったのに」
「普段のままじゃなくて、こうやってご主人様と同じ高さで並んで歩きたかったんです」
「そっか。それじゃあ、普段は叶わないお願いだったよね」
今のは、子ども扱いされたくない! と遠回しに言われたのか。
どう判断するかは指揮官のお気持ちひとつといったところである。
「でも、だからといっていつまでも歩きっぱなしというのもどうかと思うんだ。だから、あそこのお店でいつもの飲もうか?」
指揮官が指差す方向へ41が視線を向ける。
そこは、41はもとより戦術人形にも職員にも、特に女性を中心に人気のある飲食店だ。
レジの前には常に十人くらいの順番待ちが絶えず、談笑に花を咲かせながら進んでいく。
並んでいる間、前後に挟まれた娘達から41の事やらなんやらの質問責めに合うも華麗にいなし、自分と41の注文を無事にゲット。
隅っこで空いていた二人掛けのテラス席に腰を落ち着けた。
「いっただっきま~す」
屈託のない笑顔で41がストローに吸い付く。
カップの中身は、このスイーツ店の一番人気のはちみつミルクだ。
甘いもの好きにはたまらない一品なのだろうが、指揮官にとってはいささか甘味が強すぎる。
指揮官は温かいコーヒーで仕事の後の一服を満喫だ。
今はこうして穏やかな時間を過ごしているが、実は、非常に危うい局面に立たされているという事を41は知らない。
今回、41とアルケミストのメンタルが入れ替わってしまったというのは、IOPでも前例が無い特級のレアケースである。
グリフィン、IOPの研究部門ともにそんなオイシイ研究サンプルを野放しにしておくはずもなく、指揮官の元には両名を引き渡すように要請が来ている状況だ。
その要請にすんなり応えたが最後、41はもう二度とこの基地に戻ってくることはないだろう。そして、送った先の施設でまともな扱いをしてくれるという可能性は、指揮官の見立てではかなり低い。
何かと理由を付けて、今はその要請に応えるのを先送りにしている状況だが、それもいつまで続けられるかは分からない。
ペルシカが指揮官の考えに賛同してくれたことで、大きな助力が得られている今のうちに、決定的な打開策を打ち出さなければならない。
(とはいえ・・・なかなか上手くいかなくてな)
成果が出ていない今の状況に頭を痛め、小さくため息が出てしまう。
「あの、ご主人様? 私はこれからもずっとこのままの姿で過ごすのでしょうか?」
ため息に気づかれて話を振られたのかと思えば、そうではなかったようだ。
せっかくの憩いの時間なのに、仕事の事を考えてしまった迂闊さを反省する。
「いや、そんな事にはならないよ。今、グリフィンの技術部門で解決にあたってる。ペルシカさんも協力してくれているから、じきに元に戻れる」
「それなら良かったです。いつまでもこのままだと、どこか知らないところに連れて行かれちゃうよ、って言われたのが心配だったので」
この基地には察しの良い娘もいるだろう。41がそんな話を耳にしても、なんら不思議はものではない。
「ん・・・確かにそうだね。今の41の状態はすごく特殊なケースなんだ。別の部署から、引き渡してもらいたいっていう話も来ている」
ウソをついて41を慰めるような事はしなかった。
素直で子供っぽい41だが、けっこう勘の鋭いところもあるのだ。ウソを見抜かれて余計に不安を煽ってしまうのは避けたい。
「でも、キミがここに居たいと思っているのならば、好きなだけ居て構わない。キミの意思を邪魔するようなマネは俺が許さないから」
「はい! ご主人様は、以前もそう言って私の事を守ってくれました。だから、今回もご主人様の言う事を信じています」
言われて、少し記憶を掘り返してみて、41の言う通りだと思い至る。
あれは、この基地に41を招いた日の事だったか。
一語一句漏らさず、同じ言葉を言ってしまっていた自分が少しだけ恥ずかしい。
「あの頃はツライ記憶ばかりでしたけど、それがあった事でご主人様と出会えました。だから、私にとってはとても大事な記憶だから、私はあの時の事、ずっとずっと忘れないんです」
グリフィンには、IOPの工場でラインアウトされて着任する人形はもちろん、すでにどこかで別の任に就き、紆余曲折を経て着任する人形も存在する。
41は後者であり、所謂〝いわく付き〟な過去を持つ人形だった。
指揮官の事を少し変わった呼び方で呼ぶのも、その過去に起因するものなのだが・・・それは
今回の件とは関係のない、また別の話である。
「そっか」
そんな41を影ながら見守ってきた指揮官は、まさに親のような心境といったところか。
我が子の想像以上の成長が嬉しくてたまらず、もう上手な言葉すらも出てこない。代わりに、
少しテーブルから身を乗り出して41の頭をナデナデすることで誤魔化してみせる。
「えへへ。・・・・・・ぅ~、やっぱりこの身体は不便ですぅ」
指揮官のナデナデに一時は至福の笑みを浮かべる41だったが、次の瞬間には一転の曇り顔。
「不便って?」
「この素体、元の身体と感覚が違うんです。ナデナデされてもあまり気持ち良くないし、せっかくのはちみつミルクも美味しく感じないし。私、元の素体の方がいいです」
大好きなはずだったのに、コップにほとんど口を付けていないのはそういう理由だったのか、とようやく合点がいく。
「元に戻った時にまたご馳走するよ。今日はもう少しだけ散歩して、それから帰ろうか」
「はい。ありがとうございます、ご主人様」
席を立つと、2人並んで歩きだす。
ただお喋りをしてフロアを歩き周るだけだったが、そんな時間も、これから指揮官が夜を徹して解決法の模索するための活力となってくれたのは言うまでもない事である。
SASSはレアリティも普通でちょっと地味なキャラですが、個人的には結構好きなキャラだったりします。MOD3で化けましたね。あの動物耳っぽい感じの髪型がたまらなく好きです!
FAL率いるValkily小隊共々、今後のお話で使っていけたらな~、と思っています。
佳境にはいってきました今回のお話、次週もどうぞお楽しみに。
以上、弱音御前でした~