ドールズフロントライン ~テレコ・メンタル~   作:弱音御前

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涼しくなったのは良いですが、雨っぽい日々の続く今日この頃、皆様、いかがお過ごしでしょうか?
どうも、弱音御前です。

終盤に差し掛かりました今作、相変わらず盛り上がりに欠ける感じのお話ですが、何かの片手間にでも楽しんでいただけたら幸いに思います。
それでは、今週もごゆっくりとどうぞ~


テレコ・メンタル 7話

 グリフィン基地B棟2階 通気ダクト内部

 

 

(ククク。今夜こそいただいたぞ、グリフィンの指揮官)

 

 昨夜とほぼ同時間、アルケミストは今夜も今夜とて、脱出の機会を窺うために狭い通気ダクトを這っていた。

 今夜は、別方向への分岐に進んでみたのだが、どうやら、それが功を奏したらしい。

 ダクト口から覗く下の部屋は、これまで並んでいた部屋の間取りと明らかに違う。

 この特別感。すなわち、上の階級である指揮官の部屋と見て間違いない。

 他のグリフィン職員の部屋かもしれない、という悪い方の考えはこれっぽっちも持ち合わせていないアルケミストである。

 部屋の照明は落ちている。薄いオレンジ色の間接照明を頼りに、室内の様子を見降ろしてみる。

 

(人影は無い・・・か。ダクト周りにセキュリティが敷かれている様子は無い。相変わらず、

不用心な人間だ)

 

 音をたてないよう、慎重にダクト蓋を開ける。

 ちょうど良さそうな着地点を見定め、意を決してダイブ。41の小さな素体という事もあり、

ほとんど音をたてず着地に成功した。

 蜘蛛のように床に身を屈め、改めて周囲の状況を確認。

 やはり、誰かが居るような気配は無い。

 その代わりに、寝床が膨らんでいるのを確認できる。

 人間の身体と同じくらいの大きさの膨らみだ。

 

(私を軽んじたのが仇となったな、人間)

 

 声を出して笑いたいのを堪え、ターゲットの元へゆっくりと歩み進む。

 衣装の中から取り出したのは、拘留室に置いてある家具を加工して作った小さな刃物。戦闘に

使えるような代物ではないが、無防備な人間に使うには十分すぎる凶器である。

 何事も無くベッド脇へと到達。手にした刃物を振りかぶる。

 人間の体構造を思い浮かべ、ベッド上の膨らみの形と照合。致命傷を与えられる箇所に狙いを

定める。

 

(今度こそ、死ね!)

 

 一度、二度、三度、と立て続けに刃物を突き立てる。

 狙いは間違いない。人間であれば、絶対に助からない箇所を刺した。

 ここでようやく、大声を出して笑い転げたい気分というのが今の本心。

 しかしそれはできず、アルケミストは表情を凍り付かせてその場に立ち尽くす。

 刺した手応えが、アルケミストの知る肉を切り裂くようなものとは程遠い。

 そして何より、刺してから数秒経った今でも、真っ白なベッドはその清潔な色を保ったままだ。

 ハメられた。その事実にアルケミストが気が付いた、その直後だった。

 

「寝込みを襲うとは、感心しないね」

 

 背後から届く男性の声。

 そして、頭部に奔る例のヤバい感覚。

 

「ふやぁうあうあぅあ~~~!!?」

 

 頭に生えた大きな耳をニギニギされ、途端に身体がコントロールを失ってしまう。

 その場に膝から崩れ落ちそうになる身体を背後の人物が抱えてくれるが、それを振りほどく力はすでにアルケミストには無い。

 

「き、きしゃまぁぁ。にゃぜ、わらしのはいごにゅいぃぃ~~」

 

「そりゃあ、天井から変な音が聞こえてきたら誰だって警戒するよ。それが例え自分の拠点であってもね」

 

 耳に乗せていた手が離れたところでベッドの上に飛び乗り、背後へ向き直る。

 そこには想像の通り、グリフィンの指揮官の姿があった。

 

(くそっ。音が聞こえていただと? 特に気を付けていた筈だが・・・)

 

 他の戦術人形達は、アルケミストの存在に気づいた様子が無かった。指揮官発見、という事につい舞い上がってしまったのか。

 何にしても、人間に後れをとるなど、アルケミストにとって致命的な失態である。

 暗かった室内に照明が灯る。

 目の前の指揮官は以前に見かけた制服姿などではなく、緩い感じの私服姿。

 ここにアルケミストが襲撃に来る、その寸前まで休んでいたというのは間違いないのだろう。

 

「せっかく来てくれたんだ。ちょっとお茶でも飲みながら、俺の話に付き合ってくれるかな」

 

「・・・・・・は?」

 

 てっきり、警報を鳴らしたり拘束したりという先行きを予想し身構えていたものだから、指揮官の呆気ない態度に面食らってしまう。

 敵が自分の部屋に居るというのに、気にした様子も無く、背を向けて隣の部屋へと消えていく

指揮官。

 これ以上にないアタックチャンスだというのに、アルケミストはついそのままベッドの上で大人しくお座り状態。

 

(これは、何か罠でも張られているのか? 油断した姿を見せておいて、私が動いた瞬間にバチ

バチ、と・・・なるようなモジュールは周囲に見当たらないが。いや、あの人間は侮れない。しばらく流れに乗せられながら様子を見るのが賢明だ)

 

 どう見ても危険物の類が見当たらない室内。そこで超警戒状態のまま過ごすこと、数分、指揮官がカップを両手に部屋へと戻ってきた。

 

「はい、どうぞ。熱いから気を付けて飲んでね」

 

 ベッドサイドの小物置きに、コトリとカップが置かれる。

 白い湯気が仄かに昇るカップの中には、乳白色の液体が緩やかに揺れている。

 

「自白効果か、催眠効果でもある飲み物か? 易々と手を付けると思うな」

 

「そんな物騒なものじゃないよ。飲めば気分が落ち着くし、美味しいよ」

 

「さて、どうだろうな。だったら、お前が飲もうとしているそのカップを寄こせ。それなら飲んでやってもいい」

 

「うん、いいよ」

 

 指揮官が口を付けようとした寸前のカップを要求する。

 アルケミストのカップだけに何かを仕込ませているのだろう、という考えだったが、予想に反して指揮官はあっさりとカップを入れ替えてみせた。

 そうして、手にしたばかりのカップを一口煽り、美味しいよ、と目配せ。

 そんな指揮官の仕草を挑戦と捉えてしまったものだから、アルケミストも飲まざるを得なくなってしまう。

 カップを口に近づけると、甘い匂いがアルケミストの嗅覚を優しく撫でる。

 グリフィン基地に捕虜として連れてこられてから、ずっと張り詰めっぱなしだった気分をほぐしてくれる。アルケミストにとって初めての、何とも形容しがたい奇妙な感覚だ。

 カップを傾け、程よく温かい液体を一口含む。

 途端に口内に広がる、甘さとまろやかさのハーモニー。

 その味わいに驚きつつ、喉へと流し込んだところで・・・

 

「美味しい」

 

 思わず、言葉が口をついて出てしまったアルケミストを見て指揮官はさも嬉しそうに微笑む。

 負けたような気分で悔しいのは山々だが、この味わいにはもう勝てない。

 コクコク、とカップの中身を堪能するのにアルケミストは夢中だ。

 

「それ、この基地で人気の飲み物なんだ。鉄血には、美味しい食べ物とかあるの?」

 

「大したものはない。居住区から流れてきた食料とか、軍が廃棄したレーションとか、泥や砂を

食べるよりはマシなくらいだ。・・・もう中身が無くなった。お前のカップを寄こせ」

 

 もう空っぽになったじぶんのカップを置いて、指揮官が持っていたカップを受け取る。

 

「さて、随分とご機嫌になってくれたところで、本題に入ろうか」

 

「ん、聞いてるから勝手に話せ」

 

 普段のアルケミストなら、聞く耳すらもたず一蹴していただろう。

 すでに指揮官の術中に陥っている事に、美味という感覚に支配されたアルケミストは全く気付いていない。

 

「キミと取引がしたい」

 

「敵と取引か? グリフィンにしては随分と軟弱な考えだな」

 

「グリフィンは鉄血との勝手な取引を認めない。だから、これは俺とキミの個人的な取引だ。ここなら、他の人に聞かれる心配も無いから」

 

「そうか、そいつはご苦労なことだ」

 

 今のやり取りも、少しだけ考えれば思い至る筈である。

 アルケミストが拘留室からここまで、ダクトを通じてやってくるように指揮官が仕組んだという事に。

 メンタルが完全にお花畑になってしまっているアルケミストには、まぁ、どうしたって考えも

回らないのだろうが。

 

「キミが居た鉄血の拠点。そこに配置されていたサーバー機のスペックを教えてもらいたい。引き換えに、キミをここから逃がす」

 

 取引の内容を耳にして、ここでようやくアルケミストが手を止める。

 さすがに、この場面においてまで美味にうつつを抜かすような鉄血エリートではない。

 

「・・・サーバー機のスペックにどれだけの価値があるというのだ? 正直、私を逃がすという

デメリットに釣り合うとは思えん」

 

「それで、キミと41のメンタルを元に戻せそうなんだ。だから、キミを元の素体に戻す、っていう条件もオマケで付けられるよ」

 

 この、訳わからない状況の打開策をもう見つけられるとは、グリフィンの技術もなかなか侮れない。口には出さないが、アルケミストは密かに感心する。

 

「ふん、確かに対等な交換条件にはなるだろうな。しかし、それを保証できるものは何もない。仮に、私がその話に乗ったとしよう。まず、私とチビの素体が元に戻る。そうなってしまえば、その

時点でそちらの条件はクリアだ。私の条件など、守る必要もなくなる。私が貴様の立場だとしたら、間違いなくそうするね」

 

「なるほど、それはキミの言う通りだ。警戒するのも無理ないよね」

 

 うんうん、と頷きながら思案顔の指揮官。

 その様子を見て、アルケミストは言い負かした優越感に浸る。

 

「でも、最悪の場合、キミはここから脱出できなくてもいいんじゃないのかな?」

 

「・・・貴様、ふざけた事をサラっとぬかしてくれるな」

 

「もちろん、初めから約束を破ろうなんて考えてはいないよ。ただ、考え方次第ってこと」

 

 一体、どんな言い訳が飛び出すのか、アルケミストは知らず身を乗り出して指揮官の話に耳を

傾ける。

 

「キミの目的は、グリフィンを倒すことでしょ?」

 

「そうだ」

 

「そして、ここはその敵の拠点なわけだ」

 

「おう」

 

「敵陣の真っ只中で自分の素体に戻れるんだから、約束を破られたと分かったら、そのまま大暴れして打撃を与えてやればいい。そうすれば、キミの目的にも繋がるんじゃないかな?」

 

「ん~? ・・・まぁ・・・・・・そうなる・・・か?」

 

「なるよ。たぶん、基地中枢の技術区画で行うだろうから、そこをやられたらこっちとしてはかなり痛い」

 

「そうか? じゃあ、そうなんだろうな」

 

 相手に悟らせず、自然にイニシアティブを引き寄せる。これぞ指揮官マジック。

 ・・・決して、アルケミストがチョロすぎるとかいう核心を突いてはいけない。

 

「貴様の話も一理あるかもしれんな。私本来の素体に戻れれば、グリフィンの人形など物の数ではない。最悪、自力での脱出も可能性は十分に見える」

 

「そうだよ。保険としては十分だと思うけど」

 

「十分・・・か。いや、しかしどうだ? そんなに上手く進むような話なのだろうか? 何か落とし穴があるような気も」

 

 と、ここでアルケミストは踏み留まり、情報を整理し始める。

 しかし、それを指揮官は許さなかった。

 

「ここで決めてくれたら、いま飲んでる飲み物の作り方も教えてあげる」

 

「仕方ない。そこまで言うのなら交渉成立だな」

 

 一度追い詰めた獲物には、例え一秒であっても回復の猶予を与えない。熟練ハンターの心得というか、ベテランセールスマンのような執念がアルケミストのメンタルにトドメを刺した瞬間である。

 

「一つだけ約束してもらいたい事があるんだ。条件を守ってキミを逃がす時は、基地の人形達は

傷つけないでほしい。守ってくれるかな?」

 

「条件を守ってくれるのならな。しかし、そちらが攻撃をしてきた時は応戦せざるを得ないぞ。

第一、私を逃がすというが、そんなに簡単に出来るものなのか?」

 

「作戦は考えてある。これも、グリフィンに正式に提案できるものじゃないから、俺とキミで示し合わせて遂行する必要があるんだけどね」

 

 つまりは、味方をも欺いての策ということである。

 

「どうやるんだ? 示し合わせるなら、私も把握しなければなるまい」

 

「うん。まずは、準備に数日かかると思うから、それまでは大人しくしてること。んで、当日の

動きは・・・」

 

 作戦遂行時の細かな動きと手順を指揮官からレクチャーされる。

 大人し気な見た目にそぐわず、随分と狡賢いものだと、それを聞いたアルケミストは内心で少し関心してしまう。

 まぁ、鉄血をてこずらせるグリフィン部隊の指揮官だ。これくらいやってくれなくては、

アルケミストとしても張り合いがないというものである。




あまり頭のよろしくない感じのアルケミストになってしまった今作ですが。
まぁ、一見して頭良さそうな女性がおバカっていうのも、一種のギャップ萌えという事でどうか
ひとつ。

次週の更新もどうぞお楽しみに~。
以上、弱音御前でした
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