ドールズフロントライン ~テレコ・メンタル~   作:弱音御前

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すっかり秋らしくなってすごしやすくなった今日この頃、皆様、いかがお過ごしでしょうか?
どうも、弱音御前です。

テレコ・メンタル、お話もいよいよ佳境に入りました。
残り2話、どうか楽しんでいただけたら幸いです。
それでは、今週もごゆっくりとどうぞ~


テレコ・メンタル 8話

 グリフィン基地 研究区画実験室

 

 

 必要な情報が揃って、それからの対応は速かった。

 目当ての電力を出力できる安定器。両者のメンタルの入れ替えを行う接続機器。それらを基地の研究区画に搬入し、ペルシカがほとんど一人でセッティングを済ませ、いよいよ処置が出来るようになったのは、指揮官がアルケミストとやりとりを交わした日から三日後の事だった。

 相変わらず、何を考えているか分からない不思議な女性だが、こういう仕事の速さと確実さには定評があるので、指揮官も信頼せざるを得ないのである。

 

「これで準備完了だ。41、身体の調子はどうかな?」

 

『少し緊張していますけど、大丈夫ですぅ』

 

 分厚い強化ガラス越しに、実験室の寝台に横たわる41に話しかける。

 体中の至る所にケーブルが繋がっているその様子は、見るからに物騒な光景だが、マイクを通じて返ってきた声色から察するに、無理をして答えてはいないようだ。

 

「アルケミストの方は、何か異常は?」

 

『どうという事はない、気にするな』

 

 アルケミストは41の隣、少し離れた位置の寝台に。

 一応、捕虜という身の上なので、手足は拘束具で寝台に縛られた状態だ。

 

「心配しなくても平気だよ。なんたって、この私が組んだシステムなんだからね」

 

「その根拠の全くない自信が不安だってのよ。ねぇ、指揮官」

 

「うん、まぁ・・・いつも言うだけの事はしっかりやってくれるからさ。今のところはね」

 

「そうだろうとも、私は失敗しないことが取り柄の女なのさ! それじゃあ、無駄話を続けるのもなんだから、早速処置を始めるとしよう」

 

 ペルシカがコントロールパネルを操作すると、ブザー音が鳴り響き、実験室との仕切りガラスに黒色フィルターがかけられた。

 処置の間、2人の様子が見れないのは不安だが、これは通常ではありえない超高電力を用いるものだ。戦術人形の45はまだしも、指揮官とペルシカにとっては必要な防御措置である。

 

「そのまま大人しく身体を横たえていてくれ。時間はおよそ3分。万が一、どこかに異常をきたした場合は手元にあるスイッチを押すように」

 

「・・・返答ありませんね」

 

「今、むこうの部屋は電磁波が荒れている状態だから、マイクは使えないんだよ。出来るのは、こっちから一方的に話すことだけ。部下想いなのはいいが、キミは心配性が過ぎるぞ? 45クンを見習って、大人しく座ってくれたまえよ」

 

「は、はい、そうします」

 

 ペルシカにからかわれ、指揮官は言われた通り45の隣へ腰を降ろした。

 

「ねえ、これが成功して2人が元に戻ったら、アルケミストはどうするの?」

 

「捕虜としての扱いは継続で、このまましばらく拘留になるかな。まぁ、今回の件もあるから、

そのデータサンプルとして研究部門に送還するかもしれない」

 

「ふ~ん。それさぁ、41は無事だったけど、アルケミストのメンタルだけロストしちゃいました、ってことにできない? 私も含めて、アイツに痛い目にあわされてるのって結構いるからさ。みんなでちょっとカワイがってあげたいな~、なんて」

 

「こらこら、そんな物騒な事を言うんじゃないの。いくら鉄血とはいえ、捕虜への不当な扱いは

許さんぞ」

 

「ちぇっ、分かりましたよ~だ」

 

 指揮官に諭され、頬を膨らませ拗ねてみせる45。

 2つの部屋を仕切る壁はしっかりと防護されており、今まさに、雷にも迫ろうかというほどの

電力をうねりをあげているとは思えないほど管制室は平和そのものだ。

 お約束のように持っているマグカップを煽ったり、別の案件なのだろうファイルに目を通したりと、平然としたペルシカの様子をからしても処置が順調に進んでいるのは見て取れる。

 そうして、ペルシカが宣言した通り3分を経過したところで再びのブザー音。同時にガラスのフィルターが解除され、隣の部屋の様子が見通せるようになる。

 隣の部屋に変わった様子は全くない。

 寝台に横たわる2人は目を閉じたまま、まだ意識が戻っていないようだ。

 

「よしよし、波形を見たところでは、2人のメンタルはちゃんと入れ替わったようだね。無事に

処置終了だよ」

 

 ペルシカからお墨付きをいただき、ひとまずは安堵の息をつく指揮官。

 

「ありがとうございます、ペルシカさん。41の様子を確認したいので、隣の部屋に入っても良いですか?」

 

「今すぐにかい? ん~・・・電気系は完全にシャットダウンされてるから安全だろうとは思うけど。メンテナンスルームに運んでからでもいいんじゃないか?」

 

「そうよ。指揮官に万が一のことがあったらどうすんの?」

 

「41、かなり不安がっていたので一刻も早く安心させてあげたいんです。少しだけですから、ね?」

 

 両手を合わせ、おねだりして見せる指揮官。

 ペルシカと45はお互いに顔を見合わせ、そこまで言うのなら、ということで渋々ながらも了承してしまう。

 一番の難関は突破、と指揮官は心の中でつぶやく。

 扉が開き、指揮官は実験室へと足を踏み入れる。

 

「41、聞こえるかな?」

 

 41が横たわる寝台に歩み寄り、拘束具を外してあげながら顔の横で小さく語り掛ける。

 

「ぁぅ・・・ん・・・ごしゅじん・・・さまぁ~・・・」

 

 寝言で返答する器用な様子を見て、自然と笑みが零れる。

 頭を軽く撫でてあげてから、次に指揮官は隣のアルケミストの方へ歩を進める。

 

「ちょちょ、指揮官クン! そっちは気にしなくてもいいんじゃないかとお姉さんは思うぞ!?」

 

「そうよ! 危ないからやめなさい、指揮官!」

 

「一応、捕虜は大切に扱うって方針だからさ。ちょっと様子見るだけ。ほんの少しだけだから」

 

 思わぬ指揮官の行動に焦りまくる2人を尻目に、アルケミストとの距離が確実に縮まっていく。

 そうして、手を伸ばせる距離まであと2歩というところまで迫った・・・その時だった。

 自力で拘束具を外したアルケミストは、爆ぜるような勢いで起き上がり、次の瞬間にはすでに

指揮官の背後へと回り込んでいた。

 

「油断したな、人間」

 

 腕で指揮官の首を抱え、両腕を後ろ手に捉えて完全確保。

 

〝処置が完了したら、俺が不用意を装ってキミに近づく。そうしたら、俺を人質にとって。拘束具は緩めておくから、目覚めたばかりで身体が動きづらいだろうけど頑張って〟

 

 台本に書いた通りの目にも留まらぬ早業である。

 

「し、しまった、油断した~!?」

 

 ややわざとらしいセリフ回しの指揮官だったが、幸いなことに、ここに居合わせた方はそれどころではないご様子だ。

 

「バカ指揮官! だから言ったのに!」

 

 銃を構え、45が処置室に踏み込む。

 その表情は真剣そのもの。普段、この基地で見せるような余裕など微塵たりとも存在しない。

 

「指揮官を放しなさい。大人しく言う事を聞けば、脚の一本くらいで勘弁してやる」

 

「番犬らしく威勢だけはいいな。だが、お前は撃てないよ。私を無力化するよりも先に、この人間の首がねじ切れるという事くらい、お前にはわかるだろう?」

 

 45の射撃の腕がどれだけ優れていようと、45口径弾にはアルケミストを瞬時にダウンさせられるだけの威力が無い。

 45は負けじと表情には出さないが、核心を突かれ、内心で歯噛みしているに違いなかった。

 苦汁を舐めさせられ続けたグリフィンの人形を手玉にとれて、すこぶるいい気分になったアルケミストは、口元を妖しく釣り上げる。

 

「それにしても・・・ふむ、お前達が心酔するのも分からなくはない。この人間、近くでよく見ればなかなかに端正な顔立ちじゃないか。人質ついでに連れ帰って、愛玩用にしてやるのもいいかもしれんな」

 

 そんな甘い言葉を呟き、アルケミストは目の前の45に見せつけるように、指揮官の首元を

カプリと一噛み。

 

「おわぁあ!? んななな、何してんの!?」

 

「どうした、変な声を出して。気持ち良かったのか? フフフ、可愛い奴め」

 

 そうして愛おしそうに頬擦りまでしてくるアルケミストに、指揮官の混乱っぷりも最高潮。

 ついでに、その光景を真正面から見せつけられている45の怒りはとうに限界突破である。

 

「お前にくれてやるぐらいなら、私が今この場で指揮官をコロしてやる!」

 

「スタァァップ! 落ち着け45! これはアルケミストの罠だ! 冷静さを欠いたら敵の思う

ツボだぞ!」

 

「っ~~~~! あぁあぁあ~~~もう! ペルシカ、警報は! 指揮官が人質に取られたってのに、他の奴らはまだ来ないの!?」

 

「いや、それが・・・ちょっと妙な事になってて・・・」

 

 アルケミストに悟られないようペルシカは詳しく言わないが、警報システムに高権限のロックがかけられ、作動しないようになっている。

 

〝セキュリティは俺がロックをかけるから鳴らせない。でも、担当する技術者はかなり優秀な人だから、長くはもたないだろう。ここからの流れは手早くね〟

 

 ここまで、ほぼ台本通りに事は進んでいる。

 

「要求はなんだ? まさか、いつまでもここで籠城したまま、なんてことはないんだろう?」

 

「もちろんだ。私だって、壊されたくはないからな。おい、番犬。私との距離を保ったまま壁際を伝って部屋の奥に行け」

 

 45と互いの位置を入れ替え、アルケミストが部屋の出口側へと移動する。

 

「この部屋から出れても、基地の中には人形達が何人も残ってる。無事に脱出できるとは思わない事ね」

 

「ご忠告どうも。おい、そこの白衣もこちらへ来い。番犬の隣に並べ」

 

「くっそ~、納得いかないな~。納得いかない」

 

 アルケミストに反撃を受けた、ということよりも警報のロックを解除できなかった事が気になって仕方がないペルシカ。

 腕組みで頭を傾げながらも、言う事に従うペルシカが指揮官のすぐ目の前を通り過ぎる。

 最中、目が合った彼女が何かに気づいたように見えたのは、きっと指揮官の気のせいではないだろう。

 

「ほら~、キミのダーリンが連れて行かれちゃうぞ。何とか出来ないのかい?」

 

「うっさいわね。できるなもんならとっくになんとかしてるわよ」

 

 壁際に並び立つ2人を尻目に、アルケミストと指揮官は管制室側に移動して扉を閉めた。

 

「俺、ちゃんと言ったよね? できるだけ45を刺激しないでくれってさぁ。あの時、間違いなく言ったじゃんかよぉ~」

 

「これまでの借りを返したまでだ。ヤツは直接痛めつけるよりも、こういう間接的な方が効くだろうと思ってな」

 

 指揮官の抗議もさらりと受け流すアルケミスト。この後、指揮官が45からどんな仕打ちを受けるかなど、彼女には知ったこっちゃないのである。

 

「ここに居るのがそんなに憂鬱なら、本当に私と一緒に来るか?」

 

「もう冗談は結構。IDカードは上着のポケットに入ってるから、それ持ってさっさと次に行って」

 

 ウンザリした表情でお断りを返す指揮官。

 そんな彼を見て、アルケミストは僅かに寂しさを覚える。

 

(? メンタルが入れ替わったばかりで調子が戻ってないのか?)

 

 なぜそんな感覚を抱いたのか全く理解できないていないだが、今はそんな事に思考を割いている場合ではないので後回し。

 言われた通り、指揮官のジャケットを探ってIDカードをゲット。

 入口まで指揮官を捕まえたまま移動したところで、正面に向けて突き飛ばしてやる。

 加減したらガラス越しに見ている2人に怪しまれるかもしれないので、それなりの力で、だ。

 

「いった~!?」

 

 デスクやらイスやらを巻き込んで倒れる指揮官だが、アルケミストの読みでは軽い打撲で済む。

 心配する必要はない。

 

「・・・達者でな、グリフィンの指揮官」

 

 聞かせるために言ったわけでもない。小さく、呟くようにお別れの言葉を送ると研究室から

外へ。

 扉を閉めると、傍のコンパネにカードを読ませる。

 指揮官権限を利用した隔離モードを起動し、中からは開かないよう設定。

 警報は依然として鳴らされておらず、指揮官達3人は中に閉じ込めた。

 これで、アルケミストの脱走は少なくとも数分間は悟られない。

 とはいえ、まだ予断を許さぬ状況なのは変わらない。ここは敵拠点の中枢だ。無事に脱出するには、予定調和の僅かなズレが命取りになる。

 

〝いま教えた脱出ルートは他の娘達が巡回警備にあたるんだけど、この日は別配置の指示を出して手薄にしておく。曲がり角とか、空き部屋に潜んでやり過ごせば無事に抜けられるだろう〟

 

(とことん、あの人間の言った通りだな。気味が悪いくらいだ)

 

 左右に伸びる長い廊下には、人影ひとつ見当たらない。まるで、この施設には自分以外誰もいないかのよう。

 しかし、聴覚を研ぎ澄まして音を探ってみれば、実際、誰もいないなどという事は無かった。

 このフロアの行く先にいくつかの足音を確認。

 事前に聞かされていた情報によると、この研究区画には武装した人形はいないとの事。雑な足音からも、戦闘の心得を受けたものでないことは間違いない

 フロアの状況を把握したところで移動開始。足早に向かうのは、下のフロアへと降りる為の非常階段だ。

 道中、行き来している白衣の研究員達の目をやり過ごし、無事に目的の場所へ到達。

 再び、指揮官のIDカードで扉を開けると中へと潜り込む。

 

(3分か。予定よりもやや遅い)

 

 折り返しに下る階段の手すりを飛び越え、そのまま一気に下層へと垂直落下。

 4フロア分の高さもなんのそので、1階フロアに華麗なヒーロー着地を決めてみせる。

 

「っと・・・やはりこの着地は膝にクルな」

 

 ひとりごちて、非常扉から外の様子を探る。

 1階は通常フロアなので、先ほどのようにはいかない。

 確認できる範囲では人の気配はそれほど多くなさそうだが、ここをうろついているのは、普段

相手にしている戦術人形達だ。より慎重に立ち回る必要がある。

 意を決し、フロアへ足を踏み入れる。

 敵の気配を察しながら、しかし迅速に。指揮官に見せてもらっていた見取り図をメモリーに描きながら、ルートを辿っていく。

 

(あと2ブロック。楽勝だな)

 

 棟の外へ出る裏口まであと少し。ここまで誰にも見つからずグリフィンを完璧に出し抜けたことについ笑みが零れる。

 ・・・そんな、あと少しで覗かせてしまった油断が仇になった。

 

「あれ、41ちゃんなの。こんな時間にここに居るなんて珍しいの」

 

 先をロクに確認もせずに角を曲がってしまったものだから、向かいから歩いてきていた戦術人形と鉢合わせしてしまう。

 

(マズイ! 私としたことが)

 

 飛び出そうになってしまった声を寸でのところで抑える。

 姿を見られてしまったのは大失態だが、救いは、目の前のブロンドのチビッ子が、アルケミストのメンタルが戻っているのを知らない事だ。

 

「私達、これから甘い物を食べに行こうと思っていたの。41ちゃんも暇なら一緒にどうなの?」

 

 戦場で見た事はあるが、名前までは知らないこのウザカワ系人形をどう躱したらいいものか、

アルケミストの思考は現在フル回転中。

 と、そこへ。

 

「あれ? 今日は確か、メンタルを元に戻す処置を行う日では? この時間だと、ちょうどそれを行っている筈・・・」

 

 ブロンドのチビッ子と一緒に居た、黒髪に黒いジャケット姿の人形がツッコミを入れてくる。

 こちらも名前は知らないが戦場で見かけた、二丁拳銃の戦術人形だ。

 

(どうする? 見つかった以上、やむを得ないところではあるが)

 

 相手は完全に油断しきっている非武装の人形が2人。

 騒がれる前に始末するのは難しいことではない。

 やってしまおう。

 完膚なきまでにバラバラに。

 残忍なまでにメチャクチャに。

 それが普段の鉄血エリート人形、アルケミストだ。




指揮官と鉄血人形とのやりとりというのも個人的にはやってみたいシチュエーションだったので、今回の展開は面白くできたお話でした。
今後もこういうのやっていけたらいいな~、などというとこで今回は締めようと思います。
それでは、来週の更新もお楽しみに。
以上、弱音御前でした~
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