ドールズフロントライン ~テレコ・メンタル~   作:弱音御前

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いよいよ過ごしやすい季節に入りました今日この頃、みなさま、いかがお過ごしでしょうか?
どうも、弱音御前です。

メンタル入れ替わり事件、テレコ・メンタル。本日で最終話となります。
アルケミストの逃亡劇後編からエピローグまで、どうか楽しんでいただけたら幸いです。
それでは、今週もごゆっくりとどうぞ~


テレコ・メンタル 9話

「・・・・・・」

 

 その筈なのに、メモリーの中でリフレインしている言葉が、アルケミストの判断に歯止めをかけている。

 忌まわしい人間と交わした、下らない約束だ。

 金輪際、顔を合わせることも無い相手。そんな奴との約束を守ることになんの意味があるというのか?

 分かっている。そう理解しているが、それでも尚、アルケミストは目の前の人形を破壊するような気にはどうしてもなれずにいる。

 

「41ちゃん? どうしたなの? もしかして、体調が悪いなの?」

 

「いいえ、平気です。急にお二人と出くわして、ちょっとビックリしちゃっただけなので」

 

 記録に残っている41の喋り方をできるだけトレースし、努めて明るく振る舞ってみせる。

 

「私達のメンタルを入れ替えるシステムに異常があったようで、修正をかけるというので少し時間が空いたのです。それで、このフロアにある売店で飲み物でも買おうかと思いまして」

 

「そうでしたか。しかし、わざわざここまで降りてこなくても、上のフロアにも飲み物くらい売ってますよ?」

 

「そこの売店にしか売っていない飲み物があるみたいで、それをどうしても飲んでみたいって思ったんです」

 

「それじゃあ、私達も売店に行って甘い物買うの。グロックちゃんもそれで良い?」

 

「あそこの売店は品揃えが良くないのですが・・・まぁ、ベレッタが良いのなら」

 

 普段からそれなりに仲の良い面々なのだろう、話が勝手に進んでしまってなかなか解放してくれない。

 今のアルケミストにとっては、迷惑この上ない状況である。

 

「いいえ、私は飲み物を買ったらすぐ戻らないといけないので、お2人は行こうとしていたお店でゆっくりして下さい」

 

「そう? じゃあ、引き留めてるのも悪いわね。行きましょうか、ベレッタ」

 

「は~い、なの。今度一緒にお食事に行こうなの、41ちゃん」

 

 笑顔で手を振って返し、無事に2人をやり過ごす。

 

(これで良い。実にスマートなやり方だ。決して、あの人間との約束に固執したわけではないぞ。決して、だ)

 

 自分に言い聞かせるよう、思考の中で繰り返し呟きながら足早に進んでいく。

 

「? 携帯端末に緊急連絡が来てるの。・・・大変なの! 鹵獲してた鉄血兵が脱走したみたい

なの!」

 

 背後、すれ違ったばかりの人形の言葉を聞いて、アルケミストに緊張が奔る。

 

「この鹵獲してた鉄血って、例のアルケミストでしょ? ・・・・・・待った。ということは、

今すれ違ったアルケミストって」

 

 瞬間、アルケミストは地面を蹴とばして全力スプリント。

 逃げたのがバレた今、身を潜めながらコソコソする意味は無い。鉄血でも随一の俊足を活かし、廊下を疾風の如く駆け抜ける。

 

(出口の扉は・・・そこか!)

 

 扉を蹴り開けた先は、外へと繋がるトンネル状の一本道。

 アルケミストと外界とを隔てるようにゲートが遮っている。

 当初の予定では指揮官のIDを使い、適当な言い訳で誤魔化して外に出る予定だったの

だが・・・

 

「あれ、41ちゃん・・・じゃなくて、脱走したっていうアルケミスト!?」

 

「まさか!? もうこんな所まで来てるの?」

 

 バレてしまっていては仕方がない。

 

「退がれ、グリフィンの人形! 痛い目を見たくなければなぁ!」

 

 強行突破あるのみだ。

 

「わ、わわわ私達2人じゃ無理ですよ、モスバーグ! ここは大人しく通してあげた方がいいの

では!?」

 

「なに馬鹿な事を言ってるんですか。とにかく撃ちまくって弾幕展開です、G3!」

 

 警備にあたっている人形は目前の2人。指揮官からの情報の通り、裏口ということで警備はかなり手薄だ。

 アサルトライフルを装備している、気弱そうなブロンドの人形はさほど気にかける必要はない。突進するアルケミストとの距離は100メートルも無いというのに、極度の混乱でまともに狙いも付けられていないような有様。

 問題はもう一方、銀髪のショットガン持ちだ。

 

「・・・・・・」

 

 ばら撒かれる弾丸を蛇行して躱すアルケミストの動きを、落ち着いて観察し、射程に入るその

瞬間に備えている。

 相方とはまるで正反対な手練れの風格。戦場で何度かやり合った人形だったか、その時もそれなりに苦戦したのをアルケミストは覚えている。

 

「・・・まったく。相手は壊す気でいるというのに、私ときたら」

 

 ゲートまでの距離50メートル。

 ショットガンの射程に入ろうかというそのタイミングで、アルケミストはようやくの全力疾走。

 

「っ! 消えた!?」

 

 目標の姿を失ったショットの戦術人形が狼狽える。

 左右に銃口を振りつつアルケミストの姿を探すが、言葉の通り、まるで消失したかのようにも

見えたのだろう。

 

「ど、どこに行ったんでしょうか? もしかして、光学迷彩とか?」

 

「そんな装備を搭載してるなんて聞いた事ありませんよ」

 

 2人の視界から完全に外れるポジション。

 トップギアに叩き込んだアルケミストの脚力をもってすれば、湾曲したトンネル内の壁を利用して、2人の真上天井まで瞬時に駆け上がることなど造作もない。

 

「マヌケめ。どこを見ている」

 

 まず狙うはショットの人形。天井から落下する勢いを乗せ、銃をピンポイントで叩き落した。

 

「なっ!!?」

 

 驚きのあまり固まったままの人形の真正面に着地。

 

(足を蹴り折って機動力を奪う。次いで、腕を潰したらじっくりと料理だ)

 

 そう手順を組み立てながらも、身体には別の指令を下す。

 目の前の人形を放っておき、隣に突っ立っている片割れが持っている銃を掴む。

 

「ひいぃいぃぃぃ~~~!?」

 

 恐怖に引き攣った人形の表情と悲鳴がアルケミストの加虐性を掻き立ててやまない。

 でも、今はそんな誘惑も超我慢。

 アサルトの人形の腕と後ろ襟を掴むと、片割れの人形に向けて全力で放り投げる。

 

「「きゃあぁぁあ!?」」

 

 巻き込まれ、地面を転がる2人。派手に転んでいるが、地面はよく手入れされているコンクリートなので、大したダメージは無いだろう。

 

「加減はした。これぐらいは許せよ」

 

 2人を無力化した事を確認すると、アルケミストはゲートを華麗に飛び越えて外界へ。

 吹きすさぶ風と仄かな陽気が、アルケミストの脱走成功を祝福してくれているかのようだ。

 

「指揮官・・・か。おかしな人間だったな」

 

 グリフィン基地から離れるほどフツフツと湧き上がってくる寂しさを紛らわせるように、

アルケミストは仲間の鉄血部隊が駐留する拠点までの数百キロを全力で駆け進んでいくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 SIDE/グリフィン

 

 

「はぁ~あ。まだ耳がキンキンしてるな、くそぅ・・・」

 

 手で耳をグリグリと揉み解しながら、ウンザリとした面持ちで指揮官ようやくの帰還である。

 

「そりゃあ、指揮官が付いていながらあれだけの失態をかましたんだもの。ヘリアンもライトニングを落とすのも当然よ」

 

 本日残りの執務をこなしていた副官45は、そんな指揮官を労う様子まるで無し。

 副官、というか誓約を交わした相手だというのに、少しだけ悲しくなってしまう指揮官である。

 

「はいこれ、始末書の下ごしらえしといたから。あとは指揮官の方でタイプし直してから提出してね」

 

「ん、ありがとう」

 

 デスクの上に置かれたのは、厚さ50ミリに迫ろうかというほどの始末書の束。

 冗談にしか思えないほどの量だが、これはグリフィン内でやり取りされる始末書一件あたりの平均量を完全にブッチぎっている。

 つまり、今回はそれほどのコトをしでかしてしまったということだ。

 

「あ~ぁ、これまでガチの始末書を書いたことが無いってのがうちの自慢だったのになぁ」

 

「ホントすいませんでした。以降、気を付けますのでどうかお許しください」

 

「今回は運良くほとんど被害がなかったから、ゴメンなさいで済むけどさ。捕虜にしてた鉄血

エリートが逃げ出すなんて、本来はあり得ない事なんだからね?」

 

「はい」

 

「それも、指揮官の失態で。し~き~か~ん~の~し~った~い~で~」

 

「もう、夢に出てくるくらいヘリアンに言い聞かされたので、勘弁してください」

 

 人差し指でおでこをネジネジされながら、指揮官は肩をすくめて言われるがまま。

 でも、そう言われても仕方ないのは指揮官自身、よくわかっている。

 41の身体を元に戻すことが目的だったとはいえ、アルケミストの脱出計画を立案して、実行に加担したのは指揮官なのだから。

 気分を切り替え、始末書の作成を開始する。

 今日と明日で仕上がるかどうかの長丁場になりそうだ。

 

「・・・チラっ」

 

 指揮官という立場上、やらなければならい事は他にも山積みだが泣き言は言っていられない。

 ついさっき、ようやく収まってくれたヘリアンの怒りも、提出が遅れるほどに再燃しかねない

のだ。

 それを回避できるのなら、不本意だが、時間外勤務も辞さない。

 

「じ~~っ」

 

 だというのに、なかなか仕事に集中できないのは、露骨な視線を感じるから。

 書類整理を行っている45が、明らかに何か言いたげな目で指揮官の方を見ているのだ。

 

「えっと・・・さっきから何か言いたそうにしてるけど、何かあった?」

 

「べっつに~。私からは何もないけど、指揮官の方から私に言う事があるんじゃないかなって

思ってさ」

 

「言う事?」

 

 全く心当たりが無く、首を傾げる。

 謝り足りない、ということならいくらでも謝るつもりだが、45はそれならそうとハッキリ言うだろう。

 

「アルケミストの脱走の件でさ。なんか私に隠してることがあるんじゃない?」

 

 指揮官がアルケミストと取引をしたことは45にも話をしていない。

 

「偶然、アルケミストに近づいた指揮官が人質にとられて。偶然、指揮官のIDの使い方をヤツが知ってて。偶然、警備にあたっていた娘達が手薄な日だった? 偶然も三つ続けばそれは必然だって、私の上司が言ってた言葉だったはずなんだけど?」

 

 万が一、その事がグリフィンにバレでもしたら、さっきのお叱りどころの騒ぎではなくなる。

 それに、45を巻き込みたくないという考えであえて話さないでいたのだが、当人はそんなことお見通しらしく、話してくれないことが不満で仕方ないのだろう。

 

「アルケミストと結託して脱出を手助けしたって? さすがに、そんなリスキーな事をする理由も無いと思うけど」

 

「指揮官、戦術人形にはとことん甘いからさ。その癖がアルケミストにも出ちゃったんじゃないの?」

 

「まさか。いくら俺でも、そこまで甘い考えは持たないよ。まがりなりにも、この基地の指揮官なんだから」

 

「はぁ~・・・まぁ、いいわ。そこまで言い張るなら、そういうことにしといたげる。いつか、

気が向いたら本当のこと話してね」

 

 渋々、といった様子ながらも45が引き下がってくれて、この話はひとまず終了。

 執務室内は再び、お仕事モードの静かな空気が流れる。

 

(甘い、か。確かにその通りなんだよな)

 

 自分で実行した策ながら、改めて思い返すと、随分思い切った事をしたものだと感じてしまう。

 結果として、アルケミストは破壊工作を行うわけでもなく、出くわしたベレッタ達とモスバーグ達には負傷させることもなく躱して脱出。指揮官との約束を守ってくれたということになる。

 初めからそのつもりで指揮官の提案を受けたのか、単なる気まぐれが良い方に向いてくれたのか、指揮官には与り知らない事だ。

 

(それでも、俺の事を信じてくれたっていうのは良い傾向、なのかな)

 

 いつまでともなく続く鉄血との戦いだが、傷つけ合わずに済むのならば、そんなに嬉しいことはない。

 今回、戦い以外の解決を見いだせた事を一つの大きな収穫として、次に活かす事としよう。

 

「お仕事中失礼します、ご主人様」

 

 コンコン、と控えめなノック次いで、恐る恐ると41が部屋に入ってくる。

 

「ん? どうしたんだ、41?」

 

「えと・・・何かお手伝いできることが無いかと思って」

 

「お手伝いって、アナタ、今日は仕事お休みなのよ? 部屋でゆっくりしてればいいのに」

 

「そうなのですが、先日、皆さんにご迷惑をかけてしまったので、何もしないでいるのが申し訳なくて」

 

 件のアルケミスト脱走事件は自分にも責任があると思っているらしく、最近の41は何かと

指揮官の手伝いをかってでてくれる。

 気にすることはないと何度も言い聞かせているのだが、それでも一向に引き下がる様子を見せない頑固さは誰に似たのか?

 

「指揮官、いま、すごく失礼な事を考えてる顔してるわね」

 

「キノセイジャナイカナ~」

 

 ともかく、言って分からないのなら、本人の好きにさせてやるのも良いだろう。

 

「それじゃあ、こっちにきて始末書の作成を手伝ってもらおうかな」

 

「はい! お任せください!」

 

 指揮官が横に椅子を置くと、41はそこに嬉しそうにお座り。

 メンタルの入れ替わりなんていう事件が起きたのがウソのように、41の体調は良好のようだ。

 

「大変に仲がよろしいようでなによりね~」

 

「妬くな妬くな。お前もこっちに来るかい?」

 

 指揮官の煽りにプイッとそっぽを向いて返す45。

 やきもち焼きなところのある45だが、いくらなんでも41にまで妬くことはなかろう、と

指揮官は思う。

 

「ご主人様、あのアルケミストさんは無事でいるでしょうか?」

 

「ん? そうだね。この基地から脱出できるくらい優秀な人形なんだ。そう簡単にやられはしないんじゃないかな」

 

 書類の作成の手は止めず、互いに言葉だけを交わす。

 

「今度会えたら、逃げる時みなさんにケガさせなかったことをお礼したいなって思うんです。でも、アルケミストさんは各区にいますから、会っても、同じアルケミストさんかどうかは分からないでしょうか?」

 

「いや、分かると思うよ。そう遠いエリアの鉄血部隊じゃないだろうし。近いうちに会えるんじゃないかな?」

 

「そうなんですか? ご主人様がそう言うのなら、私、楽しみにしていますね!」

 

 近々、〝融合勢力〟というシステムが実装されるという話が指揮官同士のネットワークで流れている。

 運が良ければ、またあの素直じゃない鉄血人形と相まみえることも出来るだろう。

 まだ見ぬ未来を楽しみにしつつ、指揮官は今日も今日とてお仕事をこなし過ごすのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 SIDE/鉄血

 

 

「キャハハハハ! 何さアルケミスト、その恰好! グリフィンって随分と面白い拷問をするんだね!」

 

「黙れ、アーキテクト。私だって、好きでこんな格好してるわけではない」

 

「その見た目、グリフィンの部隊で見かけたチビに似ているな。直さないのか?」

 

「直すと言ったって、余分な交換部品も無いだろう。損傷しているわけでもないのに、貴重な部品は使いたくない」

 

「今度出撃するときには周りに気を付けなよ? グリフィンのヤツだと勘違いして攻撃しちゃうかもしんないからさ~」

 

「忠告どうも。まったく、無事に戻ってきたは良いが、とんだ土産をもらってきたものだ。

ズズズ・・・あまり美味しくないし」

 

「その白い液体は? 珍しくなんか食料を持ってきたと思ったら、そんなものを作ったのか?」

 

「ああ、エネルギーの補給に良いかと思ってな。飲んでみるか、ハンター?」

 

「貰おうか。ズズズ・・・美味しいじゃないか! なるほど、補給効率の観点から見ても便利な飲み物だ」

 

「私も飲む~。ズズ・・・おお!? こりゃ美味しいね! もう、あんな腐りかけのレーション

とか食べる必要ないじゃん。なのに、なんでそんな浮かない顔してんのさ?」

 

「どうやら、足りないみたいでな。色々と・・・・・・ね」

 

 END

 




テレコ・メンタル、最後まで読んでいただいてありがとうございます。
グリフィンと鉄血の絡みを書いてみたいな~、という思いがあって書いてみた今作。
G41とアルケミストを選んだのは、見た目に対照的な雰囲気の2人というのもありましたが、
大人な見た目の41っていうのも非常に良い! と気付いたっていうどうでもいい裏話なんかもあったり。

ほぼ思い付きで書き続けた今作でしたが、改めまして、最後までお付き合いいただいて本当にありがとうございます。
次回作もしばらく間を空けてから公開の予定ですので、そちらもどうかお楽しみに。
以上、弱音御前でした~
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