勝てるか不安になりながらも、それを表情に出さずに『マジックボム』を発動し、前方に放つ。
「ガアッ!?」
通常種を除く他の3体は回避するが、元より大ダメージを受けていた通常種のヒューデットは避けるのに間に合わず、『マジックボム』が直撃し、息絶える。
ヒューデットを1体倒したが、喜んでいる暇はない。
指揮官のヒューデットが何かを叫ぶと、左右から筋力変異種が俺を狙うように回り込み、右側の個体がすぐ横にあった木の一部を殴って木片を俺の方に飛ばしてきた。
「〈守りし水膜よ〉!」
とっさに目の前に『ウォーターフィルム』を発動するが、『ウォーターフィルム』で守れない足の部分にいくつかの木片がぶつかる。
幸運にも突き刺さることは無かったが、大きめの木片がぶつかり、足に痛みが広がる。
「ガァァァァッッ!!」
そのうちに左側から近付いていたヒューデットが、拳を引き絞り、俺に向かって放つ。
「ぐっ……ふ!?」
発動していた『ウォーターフィルム』が一瞬で破れ、俺の腹に拳がめり込む。
グレイトウルフの防具に、レザーアーマーを着ていても、強化された筋力変異種の拳の威力だと、完全に防ぐことは出来ないようだ。
『ウォーターフィルム』を発動していたことと、レザーアーマーを着ていたため、初めて筋力変異種と出会い、リーフを庇った時に受けた攻撃よりはまだマシだが、それでもかなりのダメージをくらい、痛みに顔をしかめる。
「なんとか…………重症状態にはなってないな。」
ステータスを確認するが、あの時になった重症状態にはなっていないようだ。
「〈我は力を求む〉〈輝け光よ〉!」
再度デュアルアクションを起動しながら、両足を『パワーライズ』で強化し、『フラッシュアウト』で光を発して隙を作り、痛む足を無理やり行使ながら後ろにジャンプしてヒューデットの拳の射程から離れ、腰袋から中級ポーションを一気飲みする。
「〈更なる力を求む〉、〈不可視の刃よ・鋭く切り刻め〉!」
片方の筋力変異種の首を狙って、『マジックチャージ』で強化した『エアブレード』を放つ。
風の刃は『フラッシュアウト』で視覚を鈍らせたため、回避が間に合っておらず、直撃する。
「ガァァァ!!」
「半分しか切断できないのか!」
『無の領域』内で『マジックチャージ』を使ったことで『マジックチャージ』の魔法の効果を上昇させ、さらに『無の領域』で威力を増した真・無属性の『エアブレード』は魔法攻撃力だけで言ったらC--……『ライトソード』と同じくらいの魔法攻撃力を誇る。だが、それでも首を半分切断するまでしかいかず、距離を詰められてしまう。
これより後ろに行けば、『無の領域』の効果範囲外だ。
「はっ!」
さっき攻撃した筋力変異種がお返しのように拳を振るうが、『無の領域』で効果の増した『パワーライズ』を使っているため、軽くその場でジャンプするだけで回避する。
上を見上げた筋力変異種の頭に勢いよくかかと落としを喰らわせようとするが――
「いっ……っ!」
隣にいたもう一体の筋力変異種が俺の足を掴む。
「ガァァァァァァッッ!!」
「がっ……はっ……」
その場で思いっきり振り回され、何度も地面に叩きつけられたあと、投げられる。
地面に激突し、全身に痛みが走り、口内に鉄の味が広がる。
「こ……れは、……やばい……な。」
ステータスを確認なくてもわかる。おそらく重症状態だ。
しかも、『無の領域』の外に投げられた。
痛みで視界がまともじゃないし、立つことも出来ない。
中級ポーションを使おうとするが、手に力が入らず、腰袋から出すことも出来ない。
ドスッ、ドスッと大きな足音が近づいてくる。
ここで俺は死ぬのか?
べシールからの役目も果たせず、リーフと一緒に学園に行く約束も守れず、リーエンや子供たちも守れずに?
そんなことってないだろう……立てよ俺。
こんなとこで死ぬなんてダメだ。
ここで死んだらこの世界はどうなる?大勢が不幸になるんだぞ。
立て、腕に力を入れろ……足に力を入れろ……
立ち上がるべく体に力を入れる。
しかし……
「くっ……ぅ」
負けたくない、死にたくないと、現実に打ち勝とうと俺の意思は死んでいない。
だが、体が動かない。意思が死んでいなくても、体が立ち上がるのを拒絶する。
「ガァ」
足音が目の前でなり止む。少しだけ頭を動かすと、拳を引き絞るヒューデットの姿が見える。その狙いは俺の頭部。
この攻撃をくらえば絶対に死ぬ。
ヒューデットは無表情であったが、どこか笑っているような……そんな表情をし、拳を振り抜――
「やめろォ!!」
「ガァ!?」
剣を振り、トドメを刺そうとしたヒューデットにドリバーが斬りかかった。ヒューデットは、驚きの声を上げ、攻撃を止める。
「兄ちゃんに手出しはさせない!皆行くぞ!」
ドリバーがそう言うと、一緒にここまで来ていた子供達全員が頷き、攻撃し始めた。
「大丈夫ですか!?今治しますからね!
えっと、〈負いし傷にて苦しむ者に・安らぎの光・照らしたまえ〉」
俺のすぐそばまで来たリリィが焦ったような表情をしながら、『ヒール』を俺に使ってくれた。
かなりの重症だが、僅かに……ほんの僅かにだが、傷が癒えたような気がする。
「こ、これじゃ回復しないの?……ど、どうしよう」
「『ソードリッパー』!そして、『ブレードスラッシュ』!」
「『アローショット』!」
あまり効果がなかったのが分かったのか、さらに焦るリリィより少し離れた場所でドリバーとラウが戦技を使用している声と戦闘音が聞こえてくる。
まだあの子達はヒューデット……しかも変異種の相手は厳しい。
「もう……いちど……」
「え?」
「もういちど……『ヒール』を……頼む」
声を発する度に全身が痛むが、それを無視して必死に口を動かす。
「わ、分かりました!〈負いし傷にて苦しむ者に・安らぎの光・照らしたまえ〉!」
再度『ヒール』による癒しの光が俺を包み込む。
先程よりも痛みが抑えられる。しかし、全快にはまだ遠く及ばない。
「ありがとう……これで中級ポーションを使えば」
動くようになった手を動かし、腰袋から中級ポーションを取り出し、飲み干す。
これでも痛みは残っているが、体は動かせるようにはなった。
「大丈夫ですか?」
「あぁ、リリィのお陰だ、サンキュ」
リリィが『ヒール』をかけてくれなかったら、戦線復帰することは出来なかっただろう。軽くリリィの頭を撫でたあと、戦闘している方を見る。
「もう盾が……『クロスバリア』!」
首が半分ほど切れているヒューデットがランディに向かって拳を振るうところだった。
何度も攻撃を受け止めていたのか、ランディがボロボロになった盾を投げ捨て、両腕をクロスさせる。すると、魔法のバリアが展開され、ヒューデットの攻撃を受け止める。しかし、流石に筋力変異種の攻撃なだけあって、『クロスバリア』は消滅し、ランディにダメージが通り、その場で膝を折る。
「はぁぁぁぁっ!『ボディエンハンス』、『ナックルアタック』!!」
レンリがランディの横を走り、『ボディエンハンス』により強化した拳で、ヒューデットに殴り掛かる。
先程からの戦闘でダメージが蓄積したのか、ヒューデットは僅かに怯み、1歩だけ足を後退させる。
「リリィ、あいつが狙い目だ。魔法で倒すぞ!」
僅かな隙を見逃さず、俺は隣のリリィにそう言って『エアブレード』を詠唱する。
「はい!〈自然に満ちし緑の風よ・我が敵の行く手・阻みたまえ〉!」
リリィが『ウィンドブロウ』を放ったあと、ワンテンポ置いて、俺は『エアブレード』を放つ。
「ガ……ァ」
『ウィンドブロウ』がヒューデットに直撃し、さらに1歩後退したところに『エアブレード』が首に直撃し、完全に切り飛ばした。『無の領域』ないでもないが、元から切れかかっていたため、魔石を使用したデメリットで魔法の効果が低くてもなんとか倒すことが出来た。
「ググ……ガァ!」
指揮官は流石に人数不利と思ったのか、最後に残った筋力変異種1体に向かって何かを言い、俺達に背を向けて歩き出した。
声をかけられたヒューデットは近くの木を殴り倒し、俺たちの元に投げてくる。
「っ!?」
子供達を庇おうと、前に出ようとしたが、その手前で地面に激突し、土煙が舞って視界が確保できない。
「〈風よ阻め〉」
『ウィンドブロウ』で土煙を払い、ヒューデットのいた方を見るが、そこには何もいなかった。
「逃げたか……。」
俺のその言葉に子供達は緊張が解けたかのように、地面に座り込んだ。
今回使用した戦技・魔法
ソードリッパー 初級戦技
戦技制御力 F+
消費魔力量 F+
戦技発動速度 E--
効果時間 F++
説明
剣に魔力を付与し、一定時間剣の切れ味が上昇する。
ナックルアタック 初級戦技
戦技攻撃力 F
戦技制御力 F
消費魔力量 E--
戦技発動速度 E
説明
魔力を込めた拳で敵を殴る。
ブレードスラッシュ 初級戦技
戦技攻撃力 E--
戦技制御力 F
消費魔力量 F
戦技発動速度 E-
説明
魔力を刃に込めて、敵を斬る。
アローショット 初級戦技
戦技攻撃力 F+
戦技制御力 F-
消費魔力量 G+
戦技発動速度 E-
説明
矢に魔力を込めて、敵を射る。
クロスバリア 中級戦技
戦技防御力 E++
戦技制御力 E+
消費魔力量 E
戦技発動速度 E+
説明
両腕をクロスさせ、バリアを作り出し、攻撃から身を守る。