ソード・ダンジョン・ワールド2.5 作:魔剣(槍)ちゃん
死に体と白兎の正面、ミノタウロスから彼らを庇うように彼女は──【ロキ・ファミリア】が第一級冒険者、アイズ・ヴァレンシュタインは現れた。
Lv.5にとって鈍重極まる肉体へ幾重もの線が走る。
夜空裂く流星のように、煌めいた剣閃が赤銅色の巨体に鋭く線を輝かせる。
星の軌跡を刻んだ狂牛の肉体は、その名残に沿って赤き血潮を噴出させた。
腱は断たれ、腕は落ち、袈裟に斬られた上半身は外気に内蔵を晒す。
牛頭は汚らしい咆哮を最期に倒れ伏し、魔石を残して塵と消える。
「あの……」
大丈夫ですか、などと言えるはずもなかった。
意義を喪失した鎧をぶら下げた人間に、そんな彼を抱えて肩を震わせる少年に、アイズはかける言葉を見失った。
大丈夫なわけがない。
全く、大丈夫ではない。
辛うじて浅い呼吸を繰り返しているが、その命は風前の灯火だ。
後一瞬持つかどうかの身体がひゅうひゅうと空気を入れては吐くを繰り返す。
早く手当をしなければ。早く彼を救わなければ。
しかしベルには彼を運ぶ力も、体力も残ってはいなかった。
フロムの手首から指を離し、彼をそっと地面に横たえたベルは幽鬼のごとく立ち上がる。
被った狂牛の噴血を拭うこともなく、緩慢な足取りでアイズに近づいた。
「たっ──」
「た?」
差し出す相手を見失い、中途半端に前で揺れる華奢な手が、ベルの真っ赤な両手に包まれた。
赤い瞳が涙を湛え、少々の驚愕が混じる金の瞳と交錯する。
この時ばかりはベルの恋心もなりを潜める。
いや、この女神と見紛うような美しい女剣士に対して何一つ
自分の趣味趣向を優先している暇は彼に許されていない。
悔しさと情けなさと、諸々の激情を綯い交ぜに、やっと懇願を吐き出した。
「助けてください、僕の──仲間を……!」
⚫
生きていたならダンジョン(の地面)と土臭い接物を交わして目が覚めると思っていたが、ありがたいことに清潔なベッドの上らしい。
「──お」
「わぁっ!!?」
横たえられた身体はポーションを口に含まされた途端、弾かれるようにはね起きる。
立ちくらみか、半分ほど遮られた視界が点滅するも、すぐに持ち直す。
「生きて、たぁ」
視界が狭いのは頭に巻き付けられた包帯のせいだった。
光を確保しようと手を伸ばしたが、頭に触れたのはガーゼのような感触。手は指一本動かせないほどガチガチに包まれていた。
先ほどポーションを飲ませてくれた職員さんは遠くに響く足音を残して病室から消えてしまっている。
目覚めた患者の様態をチェックするのは最優先のはずだと思うけど……何かあったのだろうか。
「失礼するよ、具合はどうかな。フロム・ヘル君」
「貴方は……えーと」
「フィン・ディムナ。よろしく頼むよ」
程なく一人で暇をしていたところに入室してきたのはレプラカーンではなく、グラスランナーでもない。金髪の
迷宮都市オラリオに来てから日が浅い僕でも分かる。
記憶に間違いがなければ自分を尋ねに来るような立場の人間ではなかったはずだが、僕はモンスターに身体をシェイクされたばかりだ。イマイチ自分の頭に自信が持てない。
「そうだ、【ロキ・ファミリア】の団長さん、ですよね?あの、ベルは、僕と一緒にいた白髪の冒険者は無事ですか?」
「大丈夫、傷一つ負ってないよ。君が身を呈して時間を稼いでくれたおかげでアイズが間に合った。けど、君がそうせざるを得なかった原因を作ったのも、また僕らなんだ」
ヘロヘロと安堵のため息を吐き出した僕にフィン団長は重苦しく口を開いた。
曰く、17階層にて【ロキ・ファミリア】が討ち漏らしたミノタウロスの群れが上層へ駆け上がってしまい、あろうことか第五層にまで到達してしまった最後の一匹が僕らを窮地に追い込んだそうである。
「団員の落ち度は団長の責任だ。すまなかった、君たちを僕たちの不手際で巻き込んでしまって」
「大丈夫ですよ、生きて帰ってこれたんですから。なので頭、上げてもらっても?」
ちゃんと上司が頭を下げに来るのはいい
【ロキ・ファミリア】にとっても不測の事態だったようだし、僕も生きてるし、特に責める気にもならなかった。
ぐるぐる巻きにされた包帯をフィン団長に手伝ってもらいながら解いてもらう。
「まだ動ける状態じゃないと聞いていたけど」
「ほんのちょっとの
SW2.5の冒険者はHPがミリ残りだろうと満タンだろうと基本的に彼らが発揮するパフォーマンスが崩れることはない。
それを反映してかこの身体は『気絶していない』『
「今はそうして元気でも、君は第5層で、僕らのせいで生死の狭間をさ迷った。【ロキ・ファミリア】は君に償う理由がある。可能な限り、君の望みに沿うことを約束しよう」
「うぇっ、えっちょ、あー、えー…………あ、あのぅ……こういうこと、初めてで……その、作法とかよく分からなくって……」
「非常に図々しいお願いだとは自覚しているけど、僕らとしては君と遺恨を残したくないんだ。難しく考えなくていい。金銭だとか、装備だとか」
【ロキ・ファミリア】はオラリオでも一二を争う大派閥だ。
それがヘマをしでかして、新人冒険者を再起不能にしてしまったとなれば、積み上げてきた多くの名誉を失ってしまうだろう。
そうだね……不名誉点は嫌だもんな……。秘伝とか専用武器とか作れなくなるもんな……。
人の命が手から滑り落ちてしまうのは仕方のないことなので、助かった以上彼らに責任を追求する気は僕にはないし、なれない。
だけどそちらがそう言うのであれば、頼まないのも無作法というものだろう。
⚫
「そうですね、じゃあお願いを一つ二つ、いや三つ……」
「増えるね。とりあえず、話してみてくれないか」
苦笑するフィンにそんな大層なもんじゃないのでと前置きしてフロムはお願いを語る。
「もうすぐ、僕の近くで良くないことが起こります。具体的には新しく
「──!」
思わず
フィンのそれは危機や希望に対しての遭遇を知らせるブザーだが、フロムのそれは危機に遭遇する確定された運命である。
「それは球形の闇──異界に続く孔です。僕はそれを
「……それがあるとして、君は何を望む?」
決まってますよ。
イーブの信者は決意の表情を浮かべた。
「もし一般人に被害が出なかったなら、他の誰にも魔域の踏破を邪魔させないでください」
これは盾神から託された神命である。
アレは、お前が抗するものであると。
巻き込まれるものがいないのなら、できることなら自分で決着をつけたかった。
「
「ンー……その危機の予感はスキルによるものかな?」
「スキル、というか神託です。とある神様に託されました」
「神ニュクスではなく?」
「はい、ニュクス様ではありません。神に誓って、嘘はつきませんよ」
神に誓ってとまで言い切られてはさしものフィンも引くしかなかった。
きっとあるのだろう。気まぐれな神が彼に託した何かが。
「そこについては分かった。他のお願いも聞いておこうかな」とフィンは次を促す。
フロムは貴金属の融通だとか、成果はまだ未知数だとか、
「フィンさん、確かウォーリー……ンンっ、指揮官の経験、ありますよね?」
「確かに武勇よりかはそちらで名を挙げてきたつもりだけど、それが?」
「教えてくれませんか、現場指揮官の技術ってものを!」
死人が出かけたのとベル君が悲鳴を上げて逃走しなかったので豊穣の女主人でのストーリーイベント()は起こりません。
アイズとの出会いも状況がまるで違うので、彼に生まれたスキルもまた別なものになります。
それはそうと良かったねフロム君!
団長多忙だからどんくらい時間取れるか分かんないけど!
ここ、神が来るか団長が来るか結構悩んだんですが、
【最終的に締結された契約】
・奈落の魔域の出現時は一般人に被害がない限り、ニュクス・ファミリアの潜入及び踏破を優先する。
・フロム・ヘルに指揮官としての技術を伝授する。
・
アンケートは①で確定すね。
お辛い→幸せ路線でいきたいと思います。
ほな、最初から十字架背負わせるから……。
大丈夫ですって後でちゃんと降ろしますよ勿論(多分)