ソード・ダンジョン・ワールド2.5   作:魔剣(槍)ちゃん

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秘伝覚えさせたいけど誰がそんなもの教えてくれるんやろなって感じのオラリオ。
規模のでかいファミリアなら後輩に伝えるものとかあっても良いかもしれんのだが……。


救済/舞空

幼いボディに凡人と変わらぬ能力では、恩恵(ファルナ)を刻んでいないとはいえ穢れを宿したナイトメアに降りた神が敵う道理などない。

己の体力の少なさを恨みながら肩で息をして壁に寄りかかったニュクスは、息一つ切らさず自分を見下ろす少女へ視線を向ける。

 

「なんで、追ってきたんだ。私、何もしてな、ぃ……」

「気になった」

 

自分でもよく分からないと首を傾げた。

ただ、額に生えた穢れが強く反応している。魔法以外で角がここまでの衝迫を宿主に見せるのは初めてだった。

まるで逃がすなと訴えるように、今も角はチリチリとした痛みに捕らわれている。

 

身も蓋もない理由に気が抜けた女神はまたも咳き込んで、私はそんなことで君とチェイスをする羽目になったのかと嘆息をつく。

それから「あ」とうなじから額にかけて何かを被るような仕草をやってみせた。

 

「被れてないよ、フード」

「えっあっ──」

 

額と、その周りに触れる。確かに布が被っていない。赤黒い一対の角が少女の目に映ってしまっていた。

急いでボロ布を被ろうとして、はたと手を止める。

 

恐れていないのか。

私の全てを狂わせたこの双角を。穢れの証を。

 

「怖くないのか、これが」

「怖くないよ。望んで生やしたわけじゃないんだろう?その濁った目を見ればよく分かる」

 

だって前の私にそっくりだからとニュクスは笑う。

全てがどうでも良い、どうせ思うようにいくはずもない、世界が自分を嫌っている。

それでもひと握りの希望を捨てきれずに惰性で生きていた自分と、目の前の少女が重なった。

見て見ぬふりなどできない。あまりに彼女は自分だったのだから。

 

「そんな子を知らぬ存ぜぬなんて言うほどね、私は神として落ちぶれたつもりはないんだ。君のような子なら、尚更ね」

 

自分に言い聞かせるように女神は呟き、ようやく呼吸が安定したところでよっこいせと腰を上げる。

 

私は救われた。彼に救われた。

ならば私も──誰かの救いになれるだろうか?

 

それは彼女にとっては望まなしくない結果かもしれない。

報われること、手を差し伸べられること。そんなものに期待などしていないかもしれない。

 

「私はニュクス。世界の裏側(マイナス)を司る神」

 

神とは気まぐれで、悪ノリが酷く、愉しいと思ったなら平気で場を掻き乱す。

下界に生きる人類など、面白い読み物程度にしか思っていない。

 

「名も知らぬ君、一つ頼まれてくれないか」

 

私も同じ口だ。

人の歩んできた道のりなんて知ったことか。

何を成して、何を背負っていたって、関係ない。

私がむず痒くて我慢ならないから、そうするのだ。

 

「その背負った荷物、私にも少し預けておくれよ。君はもう十分、頑張ったじゃないか」

 

自分で自分を許すことができなくて、これからも贖罪を続けようというのなら、ご生憎様だね。

バッドエンドが嫌いな神の横暴に巻き込まれたと思って、大人しく幸せになってくれたまえ。

 

 

 

 

「さて、フロム。軍師、ひいては状況を俯瞰して指示を出す者が必要なことはなんだと思う?」

 

市壁から朝も賑やかな街を見下ろす小人族(パルゥム)は後ろに控えた新米に問を投げかける。

 

「彼を知り己を知れば百戦危うからず、でしょうか。本の受け売りですが」

 

最後以外はそれらしく述べた彼に苦笑を返し、フィン・ディムナは向き直った。

 

「基本的にはそうなる。自陣の状況と敵の手の内、地形等を鑑みて速やかに指示を出す。これは君の場合も変わらないけど──」

 

フィン・ディムナはフロムに教えるにあたり、何故統率者としての知識を欲したのかと尋ねた。

技能(スキル)によって声そのものが周りに魔法のような強化(バフ)を与えると伝えられた時、この少年をどうにか【ロキ・ファミリア】に取り込めないかと、フィンは考えてしまった。

もちろん彼に対して礼を失する行為だと理解しているが、団員二名のファミリアで遊ばせておくにはあまりに惜しい人材だ。

強化が制限するのは範囲だけであり、頭数に対して制約はない。特にファミリア対抗の戦争遊戯(ウォーゲーム)では無類の強さを発揮する彼はある程度の眷属が在籍するファミリアであれば引く手数多だろう。

 

「僕と違うのは君の声に魔法のような力が伴うことだ」

 

フィンの持つ訓練用の槍がぼんやりと赤い光に包まれていた。

鼓咆が発動すると対象者の物理攻撃が可能な武器は僅かな発光を伴ってバフがかかる。

 

「だからこそ仲間に出す指示は殊更慎重にしなければならない。このスキルは指示の的確さに関わらず、実際に力が伴ってしまうからね」

 

技能(スキル)の弊害として仲間が効果の発動=その指示は正しいと信じきってしまうことがまず挙げられる。

解決するには予め仲間に言い含めておくか、フロム本人の戦術眼を鍛えるしかない。

 

「フロム、あそこが見えるかい?」

 

フィンは街角の定食屋を指し示した。

店主と思われるドワーフの男が『CLOSE』になっていた看板を『OPEN』にひっくり返している。

 

「もうすぐ店が開店しますね」

「うん。では、あれは?」

 

花屋に駆け込んだ少女が花を吟味している。

青か紫か、悩んだ末に紫を取って代金を支払った。

 

「親御さんにプレゼントするかもしれないし、自宅の花瓶に挿すのかもしれない」

「そう、行為の後には必ず結果が生じる。迷宮(ダンジョン)でも同じことだ。壁が盛り上がればモンスターが産まれる兆候で、いつもより気温が高いと感じたら近くに炎を使うモンスターがいるかもしれないし、他の冒険者が魔法で戦っているのかもしれない」

 

五感を通して得た情報から結論を弾き出す。

言葉にすればそれだけだが、それを自らも戦線に立って戦いながらとなると途端にハードルが跳ね上がる。

 

「肝心なのは“観察”、そして“把握”。まずはこの二つを戦いながらできるようになることだ」

「あー……病み上がりなんですけど?」

 

何となく気がついていたが当たって欲しくなかったので努めて気にしないようにしていたが、無駄な足掻きだったようだ。

槍を構えたフィンは薄く笑った。

 

「はは、まさか座学だけで終わるなんて予想を立てたわけじゃないだろう?僕らは冒険者だ。全てを出し切った最後は腕っ節がものを言うからね」

 

市壁の上で数日、叫喚が響いた。

鍛えがいのある将来有望な冒険者に年甲斐もなく勇者(ブレイバー)の心は躍った。

フロムの身体は宙を踊った。

 




舞空(吹っ飛ばされる意)

ニュクスが使っていた謎通路については次で書きます。
ダイダロス通りに存在するかもしれない通路なんて一つくらいしかないわけですが。

万事を尽くした上で最後に頼れるものはやはり己の“力”。
フィン団長の効率的で適切な扱きでフロム君のステイタスもまあまあ上がることでしょう。
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