ソード・ダンジョン・ワールド2.5 作:魔剣(槍)ちゃん
感想は全部読ませてもらってます。返信にはもう少々お時間いただきます。
私は罪から逃げていた。
惰性のままに生きていた。
これは贖罪だと言い聞かせて、傷つく自分を肯定した。
私を見て神は言った。
「背負った荷物、私にも少し預けておくれよ」と。
その言葉にどれだけ救われただろう。
眷属たちは私を害さないし、特別に扱ったりもしない。
やってくれたことといえば背中を押してくれたくらいのものだけど、たまらなくそれが嬉しかった。
おざなりな向き合い方でなく、ようやく罪と正対できた気がした。
きっと、昔の私にはできなかった決断だ。
ならば、私は変わるべきだ。
切っ掛けをくれた彼等に報いるべきだ。
それが為すべきことで、彼等のためにできることで、初めて自分の意思でやりたいと願えたことだから。
●
レイヴンは地を這うように駆けた。
烏のように、猟犬の如く、己の得物を振りかざす。
「──!」
カッティングトーチは溶断の刃を攻撃軌道に
速度には勝てないと踏んだためか、はたまた偶然の産物か。
加熱され歪む空気に押されるようにレイヴンは双刀をローリング二回で回避。
アレとまともに切り結ぼうとした瞬間、己は骸に、武器は副葬品と化すだろう。
「──仕切り直しだ」
回避の勢いを殺さず跳ね起き、そのままカッティングトーチの周囲を旋回する。
「ちょいちょい、セレナーデちゃん」
「レイヴンについて解説がご入用でしょうか」
すすすすと不自然な近寄り方をしたヘルメスにセレナーデは接近にNOサインで答える。
君たちだいたい話が早いよねぇ。頼めるかな?と問われた彼女はレイヴンを見やりつつ前置きした。
「まず、彼女の出生については我々の個人情報保護方針及び守秘義務によりお話することは致しかねます。よって現時点で判明している彼女の種族及びその特徴についての解説となります」
ヘルメス・ファミリアであれば調査も不可能ではないでしょうが、と釘を刺して簡潔に説明を行った。
彼女は産まれながらに穢れを背負った『ナイトメア』という種族であり、その性質を表出させたものがあの姿であると。
「“穢れ”、ねぇ。
「主たる機能は魔力の起こりの察知、微力ながら身体能力強化、そして──」
ここまでに幾度かの攻撃と回避の応酬を重ねたレイヴンは一度距離を離すと片方の剣に指を這わせた。
か細いながらも淡い光を纏ったそれを携え、再びカッティングトーチへと立ち向かっていく。
振り絞った呼吸と共に叩き込まれた一撃は今までよりも重い。
魔動機の姿勢制御が狂い、駆動アタッチメントの一部が脱落する。
苦し紛れに放った攻撃はレイヴンの髪を掠めるも、彼女の動きを止めるほどの脅威はない。
再び回避の推進力を利用して跳ねたレイヴン。
剣士らしいインファイトでなく、敵から距離をとるように離れる。
そして、跳躍の狙いは直ぐに明かされた。
「貫け」
短く発したたったの二文字。
されど言葉に威は宿り、空に雷が迸る。
「──魔法の詠唱破棄、並びに予備動作省略。ナイトメアの真髄と言っても過言ではありません」
前触れもなく放たれた稲妻がカッティングトーチの身体を貫通した。
黒煙を吹き散らす魔動機は両手をやたらめったらに駆動させ始める。
「……あんまりに上手く立ち回れてたもんだから加勢するの忘れてた」
遠目にレイヴンの戦舞を鑑賞していたフロムは想起した。
「この調子ならいける……!」と優勢の流れにタカをくくって
(かばうは単体物理オンリーしか対象じゃないのに相手は全体攻撃&魔法攻撃ばっかりだったしな……じゃなくて!)
卓上の仕様にブーたれている場合ではなかった。
加勢してきますとフロムはレイヴンの付近へ急行する。
「レイヴン!こっちで一撃受け止めるから重いの一発かましてやれ!」
自らの前へ躍り出る盾を構えたフロムに当惑の表情を浮かべるが、彼の意図を酌んでレイヴンは後方へ。
前線に立つのはフロムのみ。カッティングトーチのターゲットは必然的に正面の対象へ変更される。
両手の刃が容赦なく振るわれるその瞬間、盾と槍を握りしめたフロムの脳裏につい数日前の経験が呼び起こされた。
●
フィンのスパルタ訓練によってウォーリーダー技能の習熟度が上がった時のことだった。
「魔法を使わずに、魔力だけを出す?」
首を傾げるフィンにフロムは何かが迸る槍の穂先を見せる。
そこには透明な焔が纏わりついており、火花を散らすようにパチパチと弾けていた。
「はい、なんか魔力っぽいの感じません?」
「ンー……」
言われてみれば確かに。
剣に宿るそれには魔力の気配が感じられた。
「とはいえ僕、そんなに打率高くないじゃないですか」
「まあ、そうだね」
槍でわざとらしい素振りをする
だが敵と切り結ぶ戦士としての才には現時点で底が見えていた。
凡人が努力で到達できる範囲には足がかかるだろうが、そこまでだろうと。
「あぁ、それを防御に転用できないか、と。そういうことかな?」
「……話早すぎて困っちゃいますね。ありがたいですけど」
アグレッシブに戦う為の要素は不足しているが、その反面防戦、継戦においてフロムは才を示していた。
細心の手加減をしているとはいえ、何度転がされても意識を飛ばさず、苦い表情はしつつも何とか立ち上がってくる。
根性やガッツだけではないだろう。恐らく無意識に致命打を避けているのだ。
ますますフィンはこの冒険者が自分のレベル帯に足を踏み入れた時が楽しみになってきてしまった。
「僕は防御より回避、どちらかと言えば魔法よりも物理だ。もちろん正面から防ぐ時、魔法で迎撃する時もあるけど、君のスタイルじゃ真似は難しいだろうし……」
しばし視線を彷徨わせたロキ・ファミリア団長はちょっと待っててくれと市壁から飛び降り、止める間もなく何処かへ向かった。
それから十分と少し、彼は深くフードを被ったエルフを連れて戻ってきた。
「すまないフロム。少し
「ティオネ以外はほぼエルフだったがな……」
彼女には見覚えがあった。ロキ・ファミリアの最古参にしてトップ3の一人。
「リヴェリア・リヨス・アールヴだ。言葉を尽くして話をしたいところだが、またの機会でも良いか?」
「構いません。あまり猶予はなさそうですし」
フロムは手早く挨拶を済ませて、フィンに見せた時と同じように槍先に魔力を灯す。
この魔力のみを外部へ放出させる技能をどうにか防御へ転用できないか、ということだ。
「どうだい?」
「……
戦闘特技《魔力撃》。
近接攻撃を行う際、任意の魔力を参照してダメージに上乗せするスキル。
この世界に即した表現をするならば、攻撃時に限りステイタスの『力』に『魔力』の値をそのまま加えて叩きつける──平たく言えば放出使い切り版『ヒルディス・ヴィーニ』である。
「そうだな、私が君に伝えられる指南としては……」
リヴェリアは二つ指を立てた。
真顔でピース……ではない。それは彼女が開示を許した魔法の数。
「私の魔法のうち二つの仔細を説明し、実践する。君に必要なのは恐らく──魔力の拡散と収束の感覚だ」
●
流派に入門し修行を経ることで獲得できる風変わりな戦闘特技や魔法のことだ。
しかし、当たり前のことだがこの迷宮世界にそれはない。
武術、技術としての流派こそ存在するだろうが、フロムが思い描くものは存在しなかった。
だから、彼は発想を変えた。
存在しないのならば、ありはしないのならば、今ある手札にて手繰り寄せればいい。
「──【アールヴ九魔導術】」
名付けるのはいいが口にしないように。
特にエルフの前では絶対に、口にしないように。
リヴェリアには厳命されたがフロムはつい口走ってしまった。
宣言特技は申告しないと効果を発揮しないので、さもありなん。
「遮れ──《森光の盾》ッ!」
武器に集っていた魔力が構えた盾へとなだれ込む。
それと同時にカッティングトーチが両刃を叩きつけた。
金属は溶かされず、響くは拮抗の音色。
この秘伝は『魔力』を『力』でなく、『魔力』を『
「征け、レイヴンッ!」
「任された!」
両翼で羽ばたく烏のように、勢いよくレイヴンはフロムの背後から飛び出した。
迸った魔力が片手の刃へ収束する。
『魔力』を『力』に加える《魔力撃》、その本来の運用だ。
一撃目で横一文字に浅く傷を入れた鋼鉄のボディへ、二撃目で重ねるように強化された魔刃が十字を刻むばかりか──内部回路を寸断した。
グラリ。大きくバランスを崩すカッティングトーチ。
しかし、まだ倒れない。軋むマニピュレーターがその機体を持ち上げ、そのカメラアイを侵入者へと向ける。
「……まだ、やるかよ」
秘伝によって大幅に防御力が高まったとはいえ、それでも攻撃は重いものだった。
それでもフロムは足を崩さず、もう一度地を踏み盾を構える。
しかし、不意に終わりは訪れた。
支えていたはずの四脚は全てが膝をつき、振るわれていたはずの両腕も重力に頭を垂れる。
カッティングトーチの光は、もう失われていた。
「──や」
「──いぃぃぃやったああああぁぁぁぁぁあ!!!!!」
異界に轟く勝鬨の声。
残念なことにまだはじめの一歩に過ぎないのだが、それでも。
──この戦いは彼らにとって、物語の始まりを刻む、大いなる一歩となった。
ああ、ジェネリックライロック。
おお、ジェネリック魔光壁。
ということでフロム君の戦闘特技二つ目は魔力撃で、ついでに秘伝も引っさげて来ました。
【アールヴ九魔導術】←クリックでちょっとした詳細に飛べます。
ちなみに前回のお話のあとがきにある『異貌レイヴンちゃん』と『作るだけ作った特殊神聖魔法ちゃん』もタップするとちょっとした詳細が確認できます。試してみてね♡