ソード・ダンジョン・ワールド2.5   作:魔剣(槍)ちゃん

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口は災いの元。



迷宮

「お願いだ」

 

きゅ、と小さな手に力が入る。

もう枯れ果てたはずの涙腺が、思い出したようにぼたぼたと涙を生み出していく。

 

「君じゃなきゃ、ダメなんだ」

 

フロムには自分でなければならない理由が分からなかった。

神がこうまで自分を引き止める理由に、心当たりがまるでない。

 

しかし、涙を流す女神の懇願を断る理由もまた、彼の中にはなかった。

 

悲しむ女神一柱笑顔にできず、何故冒険者を名乗れよう?

彼女を無下にする行いに、自分は胸を張れるだろうか?

 

「じゃあ、教えてもらえませんか。その……家族(ファミリア)の一員として、あなたの涙のそのわけを」

 

小っ恥ずかしそうに頬をかき、「及ばずながら、僕でいいなら、力になりますから」と付け加える。

 

フロムの胸に小さく衝撃が走り、同時にすすり泣く声。

ダムが修復されるまでは相当の時間がかかりそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は流れて数時間、フロムはニュクスの本拠地(ホーム)にお邪魔していた。

 

「これを……1人で?」

「ううん、元々あったのを見つからないようにカモフラージュしただけ。確か、廃棄区画とかなんとか書いてあったと思うけど」

 

迷宮都市オラリオ北部、大通りに隣接する路地裏にそれはあった。

ニュクスが一定のリズムで幾つかある赤い敷石を踏むと、重苦しい音を立てて石畳がずり下がり、地下へ続く階段が現れた。

 

そのまま壁に埋め込まれた魔石灯の光が照らす通路を螺旋階段のようにぐるぐると回りながら降りていくと、こじんまりとした部屋に辿り着く。

部屋に続く扉には『クノッソス廃棄区画』と刻まれたプレートが打ち付けられていた。

 

「ここが私の──ううん、今日から私たちのホームだね。何にもないし、陰鬱なところだけど、私が君にあげられるものはこれと恩恵しかないからさ」

 

ドアの向こうにあったのは六畳ほどのスペース質素な居住スペースだった。

元々通路だったのか、打ちっぱなしの壁や床の部屋には机と椅子とベッドだけ。最低限、暮らせるだけの家具は揃っていた。

 

「ニュクス様……」

 

ワシっと後ろから肩を掴まれたニュクスは足先から頭のてっぺんまでさながら心電図のように身震いして、目だけを後ろへやった。

 

「お話より先に、恩恵(ファルナ)を刻んでください」

 

──有無は言わせませんので。

言外にフロムの眼はそう告げていたのを読み取ったのか、ニュクスは少々怯えの混じった顔色でコクコクと首肯した。

 

半裸になってベッドへうつ伏せになったフロムの背中と腰の中間あたりにペタリとニュクスは座り込む。

何か、そこはかとない背徳感のような、ほの暗い情念が浮かび上がろうとしたが、すんでのところで我に返り背に指を這わせようとした。

 

「……ん?」

 

その直前、背中に()()のような紋様が現れるが、指が接着するとすぐに消えてしまった。

 

「何かありましたか?」

「あいや!何にもないよ!何も!」

 

何だったんだ一体とため息を吐きながら、神の血(イコル)を垂らし、恩恵を刻み始めた。

 

「フロム君、ありがとうね。君がいなかったら私……私は」

「いいですよお礼なんて。泣いているあなたをそのまま放っておくなんて僕にはできなかった、それだけです。それに──」

「それに?」

 

うーん、とやや躊躇いがちに閉口したフロムはややあって口を動かした。

 

「ここで良かったです。最初から目立ちすぎるのはあんまり好きじゃないですし」

「それってどういう……?」

「すぐ分かると思いますよ、きっと」

 

これは決して彼の自惚れでは無い。

転生した自分が見覚えありまくりの姿でいること、それ即ち何らかの意味があるはずという確信である。

培った経験を大いなる力へ変換する『恩恵』が自らに刻まれるならば────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「冒険者登録の受付ってここですか?」

 

ギルドの窓口に現れたのは年端もいかない少年だった。

そのあどけなさのある風貌に、つい先日冒険者になった同じくらいの年齢の彼(ベル・クラネル)の姿を重ねながら、ちょうど抱えていた仕事に一段落がついたエイナ・チュールは受付の席に腰を降ろした。

 

「こちらで大丈夫ですよ。では必要事項の記入をお願いしますね」

 

差し出された紙をどうもと受け取った少年は、特に迷うこともなく、対面する彼女と取り留めのない話をしながらさらさらと空欄を埋めていく。

そしてちょうど半分までいったところですっと少年の左手が、無駄に姿勢よく挙手をした。

 

「えっと……はい、フロムくん」

 

一瞬、郷愁に駆られた寂しげな表情を浮かべたフロムだったが、すぐに「この紙のことについてじゃないんですが」と前置きして質問を口にする。

 

「直近15年くらいでこう……球体型の闇が現れる現象の記録ってあります?オラリオでも、そうでもなくともいいんですが」

「……んん?」

 

本当に毛ほども関係なかった。

それにエイナの知る限り『球体型の闇』という現象について見聞きの一つもしたことがない。

さすがにギルドの記録の有無はエイナにも分からないが、当該現象が過去に起きた事例があるとは思えなかった。

 

「現象……スキルとか魔法じゃなく?」

「僕はそう聞かされました。ああこれ、僕の故郷にあった言い伝えでして。

その闇の中には小規模ながら摩訶不思議な世界──こちらで言うところの迷宮(ダンジョン)が広がっていて、最深部にある核?を砕かないと脱出できないとかなんとか」

 

そこまで言ってフロムがエイナの顔を見るとさすがに「そんなことある?」とでも言いたげな疑念が顔に現れていた。

 

「──僕の懸念は懸念のままで終わりそうですね。すみません、忘れてください」

「あっいえ、すみません!とんだ失礼を……」

「いえ、そんなものがあったとしたら世間一般に知られていない方が逆におかしいですし」

 

そうして残りの必要事項を書き上げて、よろしくお願いしますと提出。

晴れて冒険者となったフロムは「絶対初日は1階層より先に進んじゃダメですよ!」とエイナの念押しを背中に受けながら、迷宮(ダンジョン)の中へと足を踏み入れた。

 




フロム・ヘル
Lv.1
力︰I0
耐久︰I0
器用︰I0
敏捷︰I0
魔力︰I0

死守︰I

《信仰》
【奈落の盾神】
【虚夜の女神 ニュクス】

《魔法》
【】

技能(スキル)
剣創世界(ソード・ワールド)/運命変転(ファンブレイク)
・行為、威力、素材決定に対する因果律遡行権。
・再行使に二十四時間の間隔(インターバル)

鼓陣軍師(ウォーリーダー)
・戦旗槍装備時、発展アビリティ『先制』の一時発現。効果値は『魔力』に依存。
・使用鼓咆に応じて味方の各能力に補正。陣気を獲得、または消費。
・使用陣率に応じて自身の各能力に補正。陣気を消費。

『習得鼓咆・陣率』
【怒涛の攻陣Ⅰ】
・味方の攻撃力に小補正。
・陣気を1獲得。




僕は‌(早熟なしで)ついていけるだろうか。
原作主人公(ベル・クラネル)の(成長)スピードに。

読者の方にTRPGに馴染みない人もいると思いますんで、次回以降分かる範囲でちょくちょく解説を入れていきます。

今生での伴侶の種族は──

  • ヒューマン
  • エルフ
  • 小人族
  • 獣人
  • 魔物……!?
  • 神……!?
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