ソード・ダンジョン・ワールド2.5   作:魔剣(槍)ちゃん

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今回はダイジェスト気味でお送り致します。

前回の白兎にちょっとした脚注を追加しました。


奈落/家族

「コボルトだ!そっちに三体!」

 

残りはこっちで引き受けると告げてフロムさんは戦旗槍片手に同じくコボルト三体に向かっていく。

背中にもう一本槍を装備しているからてっきり二槍流なのかと思っていたけど「いや使うのは一本だけだが。これ、装備するのに条件があるんだよね*1」と行きがけに話してくれた。

その条件について詳しく聞きたかったけど、タイミング悪く僕ら二人はコボルトの群れと鉢合わせてしまったわけで。

 

ダンジョンに一人ぼっちで勇み足。そんな少し前の僕なら逃げの一手しか打てなかったけど、今は背中を預けられる人がいる。

それだけで、何だか勇気が湧いてくるような気がするのだ。

 

ここを任せてくれた信頼に応えるべく、僕は地面を踏みしめ、蹴った。

先陣を切って突進するコボルト一体の進路にナイフを置くように振るい、腹に刃を納刀。

獣の肉鞘から得物を抜刀し、その勢いに乗せて中衛の反応が追いつかないコボルトへ攻撃を見舞う。

脳天直撃。獣は灰に還った。

 

「その調子だ!」

 

見る余裕はないけどフロムさんの声援が聞こえてくる。

僕の見間違いじゃなければ──ベル・クラネルの手に握りこまれたナイフが一瞬、紅く輝いた気がした。

 

「はあああああああっ!!」

 

最後の一撃。

昨日までよりも感覚が鋭敏になり、モンスターの動きが遅くに感じる。

自分の攻撃が瞬間的強くなったと理解したのは、コボルトを魔石ごと切り捨てた後だった。

 

「か、勝てた……?」

 

呆然として、手のひらのナイフを見つめた。

二人になったとはいえ、この数を相手取って大立ち回り──自惚れでなければ、だけど──ができた。

ようやく、ようやく実感が伴ってきて、僕は下げた顔をバッと上げた。

 

「──あ」

 

油断していたかもしれない。

腹部に傷こそあるものの、まだ一番最初にナイフを突き立てたコボルトが生きていたのだ。

 

至近距離。目と鼻の先。後数秒で爪が頭を割いてしまう。

僕は逃げることも叫ぶこともできなかった。

 

「っらぁ!!」

「──フロムさん!!?」

 

瞬きの間にフロムさんが僕とコボルトの間に立ち塞がり、その背に爪を受ける。

顔が苦悶に歪みこそすれそれに耐えた彼は、裂帛の気合と共に握りしめた槍を突き放つ。

 

今度こそ、コボルトは全て灰に消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まあまあな距離があったのにベル君とモンスターの間に割って入ることができたのは、僕がいの一番に習得した戦闘特技──ここでは発展アビリティという扱いのようだが──【死守(かばう)】の効果だ。

事前に指定した味方への物理攻撃を近距離遠距離問わず一度だけ肩代わりすることができる。

インターバルは1ラウンド(10秒)。その間他の戦闘特技を行うことはできない。今は【死守(かばう)】以外ないから関係はないけど。

 

「痛っつぅ……」

 

ベルと同じく僕も一人でダンジョンに潜っていたから使う機会も全くなかった。まともに深手を負ったのはもしかしなくとも初めてだ。

 

「フロムさん、フロムさぁん!」

「大丈夫。意識は、あるから。なんだ、今生の別れみたいな雰囲気はやめてくれないか」

 

焦るベルの肩を叩き、壁を背に起き上がる。

めちゃくちゃ痛いが、HP1でも元気に動き回れるソード・ワールドを反映してか、行動に支障はなさそうだ。

 

「回復しなきゃだな」

「いやちょっと待ってください。何で煙草を……?」

 

懐から葉巻を取り出すと困惑気味にベルは僕の手を止める。

ち、違う。これはただのビタミン剤じゃ……ではなく、れっきとした回復アイテムである。

こちらの薬草とソード・ワールドでの救命草の互換性があるかないか不安だったが、軟膏にしようが葉巻にしようがお茶にしようが回復効果は変わらなかった。

自然観測(レンジャー)】の賜物かもしれないため他の人が真似しても効果があるかは分からないが。

 

安心してくれと言って葉巻に火をつけ煙を吸うと、背中に刻まれた裂傷は完治とはいかないまでも徐々に回復していった。

 

いや、うん。確かに自分でも色々紛らわしいし、褒められた所作じゃないとは思う。

でもやめられないんだよねぇ吸うのをさぁ!*2

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人にとって初めてのパーティは幸先の良い結果と締めくくることが(一応)できた、と思われる。

健闘を称え、次もよろしくと互いに拳を突き合わせ、各々帰路につく。

 

「ニュクス様、帰りましたよ」

 

赤い敷石でステップを踏んで出現した螺旋階段を降り、ドアを開ける。

いつもならトテトテと擬音が着きそうな歩みで扉に近づいてくるはずが──その気配がない。

出不精の彼女が自分の同伴もなしに外に出ることがなさそうなのは今までの傾向からフロムは理解している。だからなおのこと解せないのだ。

 

ベットの下、机の下、棚の中、天井……開けたり見上げたりしてみたが、少なくともここにいないのは確からしかった。

 

「壁が回転とかしたりしてな」

 

壁に扉が備えてあるなんてありえません。忍者屋敷や歌舞伎座じゃあるまいし。

苦笑しながらも打ちっぱなしの壁に手を走らせてみる。

 

途中でメコっと壁が沈む。

それがスイッチだったのか、隣接する壁が観音開きのようにその口を開けてしまった。

 

「マジか……」

 

マジだった。

まさかこの中に入ってしまったのではなかろうか。心配しながらフロムは槍にカンテラをぶら下げて暗闇の中へと足を踏み入れる。

 

暗闇は坑道のようで、長く長く続いている。

上下左右に道がブレているせいで気を張りながら通路を辿らなければならない。

 

そうして十数分ほど耳を澄まして歩いていくと暗い闇が見えてきた。

カンテラの灯りさえ届かない──()()()()()()

 

「……」

 

予想していなかったわけではない。

だが、今の今まで見たこともなかったし、聞いたこともなかったのだ。

奈落の魔域(シャロウアビス)*3がこの世界にあるなどと──

 

本来ならばギルドに届出を出し、万全を期して突入するべき異界だ。しかし今この時に限っては火急の件である可能性が極大である。

 

──ニュクスが、あの頼りない主神が、この暗闇へと飲み込まれてしまったかもしれない。

後先考えずに奈落へ飛び込むには、十分すぎる理由だった。

 

 

慣れ親しんだが体験したことのない浮遊感が数秒続き、フロムは黒球の内部に吐き出された。

地の代わりに鋼のパネル、ひしめく鉄骨が天井を支え、蛍光灯のような明かりが薄暗い空間を点々と照らしている。

 

「やっぱり、奈落の魔域(シャロウアビス)か……」

 

クリティカルが通らない魔導機に分類されるモンスターにフェンサー*4の仲間が涙目になっていたフロムの脳裏にて思い起こされる。

 

だが彼が周囲を見回してもそれらしい機械はその断片しか転がっていない。

何かが動く音さえも聞こえてこなかった。

 

「……行くか」

 

カツン、コツンと足音だけが響く。

主を失った魔導機たちの破片を拾い集めながら、前へ前へ。

 

物音は自分だけ。誰の息遣いも、駆動音も、何もない。

随分と昔に作動して意味を失ったトラップや崩れ掛けの廃材の山を眺めながら、奥へ奥へ。

 

そうして、ついに最深部にまで辿り着いてしまった。

巨大な鋼の扉の横にはご丁寧に開閉ボタンらしきものがある。

ポチとそれを押せば重苦しい音を立てて鋼の壁はその口を開けた。

 

中にはここを維持する核である漆黒の剣を象った形の奈落の核(アビスコア)と、広間の半分を占有するポッドのようなものが備えられた魔導機、そして──

 

「ふ、ふ、フ゛ロ゛ム゛く゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ん゛!!

「ニュクス様!!よく、ご無事で……」

 

泣き腫らした女神様がいた。

セミのようにしがみついて離れないニュクスをもう大丈夫です、僕が来ましたからと抱っこする。

頭を撫でて背中をさすれば、涙の勢いは弱まっていった。

 

「けど、どうして入っちゃったんですか」

「その、勢いで」

「左様で……」

「こんなことになるなんて、知らなかったし」

 

落ち着いたニュクスはフロムと片手を繋いで終点の大広間をふらふらと歩く。

くず鉄を拾っては袋に入れ、一人と一柱で巨大な魔導機をペタペタ触り、奈落の魔域(シャロウアビス)について話した。

 

「あくまで僕の知る御伽噺ですが、まさかこうして現れるなんて……」

「『奈落の盾神』とも、関係ありそうだけど」

「大いに関係してると思います。ごめんなさい、ニュクス様。僕のせいで巻き込んでしまって」

「ううん、いいんだ。フロム君になら巻き込まれたって構わない。またその時は、私を守ってくれる?」

「もちろん。貴方のために、全力を尽くしましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「めぼしいものは特になし。このデカい魔導機の文字は読めないし」

 

セージ*5かマギテック*6でも取得しておけば良かったか?などと独りごちるが、あいにくフロムはそのどちらも取得した覚えがない。今後成長しても獲得することはないだろう。

 

魔導機の欠片は今後有用に使えるので可能な限り採取したが……もうここでできることはなさそうだった。

立ち直った神様を見遣れば大きな魔導機を不思議そうにペタペタ触っている。

神から見てもあの未知の技術は珍しいものなのだろうか。

 

「そろそろ帰りましょうか。ニュクス様」

「うん!でもどうやって?」

「それはですねぇ」

 

奈落の核(アビスコア)を槍で叩き割ろうとした瞬間、先程まで沈黙を保ち続けていた巨大魔導機が嘶くようにノイズを吐き出した。

 

「ぅひゃあ!!?」

「う、動いた……!?出ますよ、ニュクス様!」

 

異音と警告音を絶えず発し続ける魔導機に付き合っている意味もない。

一息に奈落の核(アビスコア)を破壊して破片を回収したフロムはニュクスを小脇に抱え、崩れゆく魔域に出現した脱出孔たる『綻び』を目指して一目散に駆けて行った。

 

それでも魔導機は駆動を止めない。

限界を超えて焼き切れた配線から漏電しようとも、求められた『結果』に出力が追いつきそうになくとも。

 

彼に──故意ではなかったとしても──託された最期にして一世一代の役目を果たそうと、煙と共に魔域崩壊の間際まで、その機能を全うしたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、危なかった」

 

何とか脱出できた僕らは元々奈落の魔域(シャロウアビス)があった場所に戻ることができていた。闇の球体は欠片もなくなっている。それが在ったと証明できるのは僕らの経験と、袋に入った魔導機の破片──ん?

 

視線の先、もう闇はどこかへと消え去り、何も残っていない。

残っていない、はずなのに。

 

「誰だ、お前は……?」

 

地面に蹲る黒いシルエットにランプを照らす。

()()()()に覆われた腕のシスターが、目元にかかった銀の長髪をどけ、眩しそうに赤い目を細めた。

 

「──パパ?」

 

*1
・フロムの筋力が武器が要求する必要筋力(以後必筋と呼称)に達していない。

・命中力が減少するが両手に別々の武器を装備し二回攻撃できるようになる【両手利き】、下がった命中力を補うことのできる【二刀流】の戦闘特技を習得していない。

・携行し続けているのは必筋を満たしたらすぐにこちらを装備したいから。

*2
※至って健全な回復行為ですが、ラクシアの民以外は真似しないようにしましょう。

後日重症の身体で葉巻を吹かす冒険者の噂が流れ、フロム君は弁明に走ることになりますが、身から出た錆なので弁護のしようがない。

*3
奈落の魔域(シャロウアビス)の前に、大本たる奈落(アビス)について説明しておこう。

奈落(アビス)はソード・ワールド2.5において、プレイヤーが冒険する現在から約3000年前の古代魔法文明時代に、魔神召喚の儀式が失敗したことで穿たれた異界へと繋がる門である。

魔法王と呼ばれた当時の実力者たちは死力を尽くして封印を施したが、それでもなお奈落(アビス)は小規模な奈落を──散発的に生み出し続けている。

それが奈落の魔域(シャロウアビス)である。

*4
ソード・ワールド2.5における戦士系技能の一つ。

武器や防具を装備する際の必筋が半分になる代わり、大きくダメージが増加するクリティカルを出しやすくなる特徴がある。

*5
ソード・ワールド2.5における探索系技能の一つ。

魔物に対して知識判定を行ったり、レベルごとに一つ、任意の言語の会話か読文を習得できる。

*6
ソード・ワールド2.5における魔法使い系技能の一つ。

射撃武器︰ガンを武器を使うために必要な技能の一つで、弾に様々な効果を付与し、射出することができるようになる。




また見直して修正するかもしれないのでご留意頂ければ幸いなんだな。

最後に出てきた謎の女性……一体何者なんだ……。
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