この邪神に一目惚れした愚か者に祝福を!   作:ウォルバク教徒

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紅魔の里
この運命との会合に祝福を!


 

 その日、俺は運命と出会った。

 

「エクスプロージョン」

 

 静かな声で唱えられた爆裂魔法。その声量とは対照的に、放たれた魔法の威力は凄まじいの一言に尽きる。轟音が空気を震わせ、熱風が吹き荒れ、俺達の目の前に巨大なクレーターを発生させた。

 術者の顔を見ることは深く被られたフードによって叶わなかったが、俺たちを追いかけていた大きな黒い獣が為す術なく吹き飛ばされたのはしっかりと確認できた。

 俺の隣にいる幼馴染の()()()()は、そんな全てを薙ぎ払う圧倒的な魔法に目をキラキラさせている。事実、いくらあの()()()()でも俺はこんなに凄い魔法は見たことがない。

 

 フードの魔法使いはクレーターの中心にいる獣の頭に手を置くと、何かを呟いた。すると手が淡く輝き、それに合わせてあれほど大きかった獣がどんどんと縮んでいく。やがて仔猫くらいの大きさになると、姿を薄れさせ消えてしまった。

 彼(彼女?)は、一息ついてから俺たちの方に歩いてくる。

 

「大丈夫? 怪我はない?」

 

 先程とは違い、今度ははっきりと声が聞こえた。女性の声だ。その声色は幼子に語りかけるかの如く優しげなもので……と、()()幼子だったか。

 フードの女性は俺たちの前に屈み込み、ローブを取り払ってから顔を覗き込んでくる。

 

 瞬間、俺の脳裏に電流が走った。

 

 エルフのように長い耳、燃えるような赤髪、金色の瞳。野暮ったいローブで隠しているのに、その身体がとても豊満だというのは直ぐに分かった。陳腐だが、まるで女神のような美貌である。

 

──ん? 

 

 嫌な想像が頭をよぎったが、俺は『命の恩人に対して不躾な視線を送るのはイカン』と自分に言い聞かせ、咄嗟に視線をめぐみんの方へと移す。

 すると、めぐみんの視線は目の前の豊かな双丘に吸い込まれており、その目は爆裂魔法を目にした時よりも輝いていた。えぇ…(困惑)

 

「大丈b「どうやったらあなたみたいになれますか?」」

 

 生意気な幼馴染に俺の言葉は遮られる。拳を固く握りながら、未だに視線が固定されているめぐみんに抗議の視線を送っていると、それを見た赤髪の女性がふふっと笑う。美しい。

 

「あなた達、お名前は?」

 

「ルd「私はめぐみんです。これはルド」スゥー」

 

 落ち着け俺。こいつはまだ前世で言えば小学校低学年くらいの年齢だ。クソガキで当然なんだ。Be coolだ俺。

 

「えっと……あだ名かしら?」

 

「本名です」

 

 半分は合っている。だが、一般的に思われる方とは逆で、めぐみんが本名、(ルド)があだ名だ。紅魔族には名前も性格もイカれた人間しかいないのである。名誉の為に言っておくが、俺は半紅魔族なので違う。

 再びの沈黙。赤髪の女性は、やがて気を取り直したように言う。

 

「ええと、どうしたら私みたいに、だったわね? そうね……たくさん食べて、たくさん勉強して、大魔法使いにでもなれれば、きっと」

 

「大魔法使いになれば!!」

 

「ええ、きっとなれるわ。でも、この魔法はオススメしないわよ?」

 

 なにか致命的な行き違いが起きている気がする。

 具体的には、

『どうしたらお姉さんみたい(な巨乳)になれますか?』

『どうしたらお姉さんみたい(な魔法を使える様)になれますか?』といった具合に。

 

 まぁ、訂正する必要はないだろう。めぐみんの母親はとても慎ましい胸部装甲をしているのだが、彼女の家系は代々そうらしいので、めぐみんも恐らくその血の運命(さだめ)からは逃れられない。だが、残念ながらそれを言ってもどうにもならないし、それなら大魔法使いを目指して貰った方がいい。

 なに、魔法使いに必要なのは耐久より魔力。誇るべきは胸部の装甲より魔法の威力である。

 

 ちなみに、赤髪の女性は『この魔法はオススメしないわよ?』と言っていたが、これはマジでその通りだ。

 爆裂魔法は長い射程と圧倒的な威力が特徴だが、その威力はメリットと言い切ることは出来ない。オーバーキルになるためそもそも使い所がなく、標的と共に自分も吹き飛ぶため近距離では使えず、当然ながらダンジョンといった密閉空間でも使えない。更に消費魔力がとても大きいため、並の魔法使いでは使うことすら叶わず、もし使えても1日1回が限界。使った直後は魔力切れで地面とキスするはめになる。さらに、1度使うともう何も出来なくなるのに爆音で周囲のモンスターを引き寄せる。追い打ちをかけるように消費スキルポイントが全スキル中で最大。これらの使い勝手の悪さから、あらゆる人間から『ネタ魔法』と呼ばれているのだ。

 赤髪の女性がそうであるように、長くを生きレベルを極めスキルポイントが余った強者が気まぐれに取得する類のものだ。

 

「ねぇキミたち。あなた達の他に、ここに大人の人はいなかった? そこのお墓の封印を解いた人がいるハズなんだけれど……」

 

「それ、俺たちです」

 

「へ?」

 

「ここをこうして……「これ!」おっナイスだめぐみん」

 

 俺とめぐみんは協力しつつ欠片を組み合わせていく。そして、爆裂魔法の余波でどこかに飛んで行った3つを残してパズルを完成させる。

 

「いやいやいや! おかしいから! こんな簡単に欠片を合わせられるのはおかしいから! 賢者級の大人でも中々解けないはずなんだけど……どういうことなの……」

 

 これは『転生特典で無双するの気持ちよすぎだろ! 』とかそういうわけではなく、紅魔族だからだ。つまりエボンの賜物だな(大嘘)。

 この世界にはステータスがあり、その中には知力がある。その補正のおかげだ。紅魔族は全体的に高水準なステータスをしており、その中でも知力と魔力はとんでもなく高い。なぜなら紅魔族は例外なく学校に入学する12歳で上級職である大魔術士(アークウィザード)になるのだから。純血でありその中でも特に才能に溢れる、正直に言えば魔法方面なら俺より優秀なめぐみん。半分とはいえ紅魔族の血を引き、そして()()()である俺。2人いればこの程度は遊びついでだ。

 大人の紅魔族なら誰でももっと簡単に封印を解けるだろう。なんたって1度封印された邪神を『邪神が封印されてる土地とかカッコイイじゃん』等と言って解放し、ボコボコにしてから里に再封印するような輩の集まりなのだから。全員が異世界転生系Web小説のチート転生者の力を持っているようなものだ。実際、魔王軍だって裸足で逃げ出すのが紅魔族である。こいつらヤバくね? 

 

「ねぇ、キミたち。この封印された地には、大人の人達に近付いたらダメだって言われてなかった?」

 

「入っちゃダメだ、ここには何もないぞ、近付いちゃダメだ。そんなふうに言われている場所には、たいていお宝が眠っているものだってお母さんが言っていたので、毎日ここに通っていました」

 

「と、どういうことなの……?」

 

 ナイスだめぐみん。戸惑っている顔も美しい。

 

「よく分からないけれど、感謝しなくちゃならないのは私の方みたいね。ねぇキミたち、なにか願い事はあるかしら? こう見えて、お姉さんは凄い力を持った謎の大魔法使いなの。なにかひとつ、願いを叶えてあげるわ?」

 

「世界征服!」

 

 めぐみんがノータイムでそう言った。

 

「ご、ごめんね、それは無理だわ。どういうことなの、この子……意外と大物なのかしら……ええっと、他にはない?」

 

「それじゃあ、わたしを巨乳にしてください」

 

「そ、それも無理かなぁ。というかお嬢ちゃん、今いくつ? まだそんな心配する歳じゃないでしょうに」

 

「なら……わたしを魔王にしてください!」

 

「ご、ごめんなさいね? さっき言った事は訂正させて? 大物なあなたと比べて、お姉さんはそこそこの力しか持たない魔法使いだから、そこそこの願いしか叶えてあげられそうにないわ……」

 

「……じゃあ、おもちゃの欠片が3つほど足りないので、それを探してくれればそれでいいです」

 

「待って! 違うの! 流石にもっと大きな願いを叶えてあげられるから!! というか、その欠片をおもちゃにしちゃダメよ?! あくまで再封印しただけで、また解かれたら大変なことになっちゃうからね!? それよりほら、もっとなにかない? もうちょっと大きなお願いは……!」

 

 もはや縋るようにめぐみんを見ているそこそこの魔法使いさん。最初に圧倒的な力を見せた威厳はどこへやら、今や一筋の汗を流し口元を引きつらせている。

 ずっと困り顔を見ていたい(歪んだ愛)ところだが、俺は助け船を出すことにした。このままでは俺の願いが聞き届けられる前に日が暮れてしまう。

 

「めぐみん、さっきの魔法を教えて貰ったらどうだ?」

 

「……仕方ないから、そうする」

 

「あ、ありがとう、坊や。助かったわ……」

 

 ずっと願いを拒否されためぐみんだが、その機嫌は悪くなさそうだ。つまり、お姉さんは幼女に弄ばれたってわけだな。

 おやおや、素晴らしい。お姉さんは可愛いですね(|)

 

「坊や、あなたはどうするの?」

 

「怠惰と暴虐の女神ウォルバク様、俺を教徒にしてください」

 

「ええぇ?! し、知ってたの……? 」

 

 そりゃ知ってるとも。ここは女神が封印された地だって紅魔の里の不滅目録(エターナルガイド)(観光パンフレット)に書かれてるし。まさか巨大な黒い獣が飛び出してくるとは思わなかったが。

 

「そんなことより、出来るんですか?」

 

「……私は、邪神なのよ? 」

 

 嗚呼(ああ)、語るに落ちてますウォルバク様。邪神が信者以外、いや、人間を心配するわけないじゃないですか。

 それに、ウォルバク様を邪神などと認定したのはあのアクシズ教徒だ。黒光りするGと同じくらい嫌われている彼らの認定を覆すくらいイージーである。

 

「一目惚れなんです」

 

「え?」

 

「世界で1番あなたのことを愛しています」

 

「ちょ?!」

 

「その豊満に実った肢体にむしゃぶりつきたい」

 

「あなた本当に見た目通りの年齢なのかしら?! 本当はインキュバスの(たぐい)じゃないわよね?!!」

 

 失礼な。俺は正真正銘、ただの人間だ。

 

「あなたが望むなら、世界だって征服してみせましょう。巨乳にはなれませんが、魔王になって天界だって堕としてみせましょう。」

 

「ちょ、ちょっと、覚悟が決まりすぎて怖いのだけれど……」

 

 これは記憶。遠く、俺が運命と会合した日の。

 

 

 

 

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