というわけで始まりました
全てが変わり果てた世界……という程ではないが、どうやら、望んだ世界とは少々装いが違っていた。
というのは、どうやら自分の爺さんの言葉であり、んなこたぁどうでもいいと想える。
どういったところで何も変わりはしなかったのだから、全ては……。
「無意味―――だったのかね?」
「それを論じるには少々、早いとは思うがな」
「俺は普通高校に行きたかった。愛し合う2人がトーダイに行けば幸せになれるというのに……」
「愛し合える女子なんて、お前にいたか?」
「いないですね」
目の前で茶をすする妙齢の美女に返しながら、我が身の寂しさに苦笑してから、自分も茶をすすって何百年もの伝統を持つ実家の和菓子を食べる。
寒冷化の時代を超えても、変わらぬ味―――もしくは時代に応じた『甘味』を見出してきた実家の菓子はやはり美味かった。
そんなわけで―――。
「なぁキティ。本気で俺に魔法科高校に行けっていってるの?」
最大の疑問をぶつけるのであった。
「ああ当然だ。―――それがお前の遠い『お婆ちゃん』との約束だからな。そして
両手で湯呑を持つ手に『光』を見た。恐らく冷気の刃が、作られつつあるのだろう。
マジで怖え。だが―――。
「しかし……お前が本当に、そういう風な生活を望まないならば、仕方あるまい……お前は
最後には優しさを見せる辺り……このヒトの苦難の人生―――その中で託されたものぐらいは、こなして見せようと想う辺り……自分はどうしても――――。
(おばあちゃんっ子なんだな……)
「分かりましたよ、雪姫婆ちゃん。ただ合格出来なくても怒らないでくれよ。マギクスの使うサイオンと、俺たちが使う『チカラ』は違うんだからさ」
「ああ、分かっているさ―――そしてお前は魔法科高校に合格するさ―――大丈夫だ……」
わたしたちは万能じゃない。全能でもない。
どれだけの理論・理屈・道理を詰め込んでも―――。
最後に必要なのは。
「わずかな勇気とすこしの優しさ―――それだけが―――」
―――本当の魔法なのだから―――
「では―――『浦島啓太』クン。受験勉強に励み給え!」
「そういう人格の違い、似合わないですよ……」
吸血鬼のいきなりな変化にツッコみながらも、吸血鬼は一家言あるようで、畳の上でだらけながらも返される。
「いつまでも師匠キャラなんてやってられるか。今生ではロリババァの師匠なんて流行んないだからな! 覚えておけ!!」
無駄な知識が入り込んだと想いながらも、とりあえず……受験勉強に身を入れようと思って寮にある自室に向かうことにするのだった。
そんな浦島啓太の姿を見送り、十分に距離が離れたと思ったところで―――雪姫、キティ……様々な名で呼ばれていた女は―――。
「サラ、私だ。ああ、あの子は元気か? 元気ならばいいのさ。それでだ……かねての懸案事項だった啓太の進学先は―――そうだ。ならば―――ああ、頼んだぞ……」
端末で呼び出した相手に、連絡すべきことを連絡してから通信を切ることに。
「さてさて、どうなるやら……しかし、『愛し合う2人が東大に行くと幸せになれる』か……」
妙なことを覚えていたものだと想いつつ、この部屋……かつて、その片割れが住んでいたところに想いを馳せる。
そして、部屋に居座る新しい『ぬいぐるみ人形』を手に取る。そのぬいぐるみには、尻の方に持ち主の名前として、『けいた』と『■■』と書かれており―――。
「………まぁいいさ。全ては―――
そうして既にいない。半世紀は前に亡くなった友人に言いながら、寝転がるのだった。
別に吸血鬼だから昼間が苦手というわけではない。ただこの『温泉付きの女子寮』というのは、とことんヒトを穏やかにしてしまうのだ。
そんなこんなありつつ……雪姫は啓太に指導をしたり、飯をたかったり、風呂磨き―――に関しては、全自動の機械を使ったりする世知辛い世の中を認識しつつも、なんやかんやと月日は流れて――――――。
「合格出来たはいいが、当然のごとく2科生だな」
「ククク、お前のことだ。めんどくさいから手抜きしたんだろ?」
「まさかと言いたいが……うん、まぁそういうことで」
横浜市街を歩きながら、隣を歩く啓太と『同年代』の金髪ロングの美少女に、疲れながら返しておく。
本当の姿は、これよりも下のロリロリな様態なのだが……まぁこうして歩く分には優越感も出てくる。
そんなこんなしておきながら、新生活の為の生活道具を揃えることが出来た。
まさかひなた荘から通うのではなく、東京の方の借家に住んで通うことになるとは……。
「お前、学友たちに『女子寮に住んでいます』なんて説明する羽目になったらどうするんだ? 変な目で見られること間違いなしだぞ?」
「別にそこは誤魔化すなりあるんじゃないかな……」
とはいえ、あまり怪訝な目を向けられるのもマズイかな。
そう考えてから、雪姫だか親族だか、巨大学園都市の妖怪の気遣いだか分からないものに感謝しながら、それでも……ひなた荘のみんなとの別れを少しだけ惜しんでおくのだった。
「大方の準備は終わったな。さて―――むっ……」
「何か嫌な『匂い』がするんですけど……」
などとおセンチ入っている時に、妙なものを感じた。啓太の言う『匂い』というのは、嗅覚が感じたものではなく脳、もしくは肌などの触覚が鋭敏に捕らえたものである。
俗に第六感というものだが、その感覚に間違いはなく―――。
『近くの建物』で火災が発生したようだ。
「啓太、事件のようだな?」
「放火か出火かすら分かっちゃいないでしょ。おまけにこの建物はマギクスたちの詰め所だ」
横浜ベイヒルズタワーという巨大建造物のフロアのどこかには、関東の魔法師たちの協会がある。いずれにせよ俺たちの出る幕ではないだろうと想いつつも、雪姫は意見を異にする。
「確かに、お前の言うことは『悪』の魔法使いとしてはもっともだが……足元で、こんなこと起こっているなど奴らにとっては失態だ」
「何かのマッチポンプだと?」
雪姫の言葉の裏を察するに、ややこしいことこのうえないと関わりたくなかったのだが……。
とりあえず野次馬根性だけは持ちながら、火災が起こっているというベイヒルズタワーに『転移』するのであった。
「私は協会本部に赴く、お前は現場に行け」
「ええ、『クレーム』の方は任せましたよ」
こと此処に至って『魔法師』が出動していないことが、啓太にも分かり、その意味を違えなかった。
どうやら本当にそういうつもりらしい。
自分と雪姫が出たのが六階―――火災は一階で起きているようだ。何であるかは知らないが、とりあえず―――。
現場に行ってみるか。そういう気持ちで浦島啓太は歩き出すのであった。
その歩みは五分ほど前に向かった少女とは違い、誰にも咎められることはなく、スムーズに歩みを進められるのであった。
向かった先、現場はすでに千秋楽に至っていた。ローブ姿の男性が放火魔であったようで、それと相対する少女の『魔法』が、それらを押さえていた。そんな現場であった。
が―――歪なナイフを取り出した放火魔が少女への凶行に―――及ぼうと思ったのか、細マッチョで鍛えているだろう少年が、割り込んできた。
少年とは言うが、かなり身長が高くておまけに『足音』がしていなかった。
こいつはヤバいなと想いつつも、放火魔が持つナイフが啓太の予想通りの代物だとしたらば、更にヤバいことになる。
「ならば見せてやるさ!! 俺を改造した連中よりも極まった『魔』の極みというものをな!!! 『闇の福音』と呼ばれた魔法使いの奥義を!!!!」
―――決定である。そして、自らの心臓にナイフを突き立てた男が変貌をする。ローブごと真紅に染まる身体。
啓太にとっては
領域干渉とかいっただろうか? それを以て魔法の発動を抑え込んでいた少女は驚き、少年もまたその変貌―――否、『変身』に面食らう様子だ。
「ひゃはははは!! これが、これが!!! しねぇえええ!!!!」
何であるかは分からないが、それでも状況は一変した。
先程よりも激しい勢いで炎が発生して、一階部分を燃やしていく。
酸素燃焼が激しすぎて、2階フロアにいる啓太も辛くなりそうだ。
(やれやれ、仕方ないか)
都合よく、立て掛けられていたモップを手に取り、剣に見立てて精神集中。放たれるべきはただの一斬。
その一斬は―――魔を断つ。
階下に向けて放たれたそれは―――放火魔の『炎精』と化した肉体を
「―――なっ!?」
「「―――」」
腕の一振り、身振り、手振り一つで戦術級魔法に類するだけの現象を起こされていた魔法師の男女は、その瞬間を狙って素の身体に戻った放火魔を取り押さえていた。
男の方は堂に入った取り押さえであり、武術の心得はあるのだろうと理解していたが……。
(これならば問題ないだろう)
長居は無用として、啓太はさっと翻すようにして立ち去るのであった。
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一時は危機的状況に陥った司波兄妹であったが、『誰か』の手助けを得て、何とか違法魔法師の類を取り押さえることが出来た。
(あの魔法は一体……)
兄―――司波達也も無策ではなかった。自分の魔法の一つ、術式解体などで相手の『魔法』を無効化しようとしたのだが、全く以て効かなかった。
いや、完全に効いていないわけではなかったのだが……。
術式の規模が
そんな中、2階フロアのどこかから放たれた攻撃。何かの刃のような一撃が、男を無力化したのである。
「お兄様……」
「後のことは叔母上と葉山さんがなんとかしてくれるだろう。ここは去ろう」
「はい――――」
煤と灰だらけになってしまった一階から退避することで、とりあえずは良しとするのであった。
だが……。
(あの『斬撃』―――を放ったのは誰だ?)
その疑問だけは妹―――司波深雪の手を取りながらも、渦巻いているのだった。
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「はっ―――では、そのように……『そちら』に関しては、『専門家』がいらしているので、ええ―――それでは」
通信端末の相手。自分の『仮初の主人』に通話した後には、室内にいる相手との会話となる。
「―――いまの通話相手は『マヤ』か?」
「はい。此度の一件は脱走魔法師の捕縛でしたので、四葉家にお鉢が回ってきた形です」
「脱走魔法師ねぇ―――そいつには脱走してまでも『やりたかったこと』があったんだろうな」
「望んでもいないチカラを与えられれば、そうもなりましょう。『先駆者』としては同情しますかな?」
「当たり前だ。しかし……他の者にも破滅を与えようという考えは好かんな……」
悪の道を選んだわけではない。
だが、『邪悪』に落ちることだけは見逃せない。それだけだ。
「―――浦島の者を一高に入れるそうで」
「そうだ。文句あるか?」
「あなたにそれを言えるほど、私は耄碌しておりませんよ……若輩ゆえの、ただの疑問です。エヴァンジェリン様」
戯れを許してほしいという、先程まで話していた相手よりも畏まる葉山という老年の男に―――。
圧を放っていた妙齢の美女の答えは速やかだった。
「愛し合う男女がトーダイに行くと幸せになれるそうだ」
「―――――は?」
その答えに本当に虚を突かれた。
「まぁただのポン引きさ。企みなんてないんだ。疑問があるなら、トードウ、カシワだの辺りに聞いてみろ。じゃあなタダノリ。長生きしろよ」
闇の福音。そう数多の人間から蛇蝎のごとく呼ばれた存在は、そんな風に言ってから室内から出る。
その圧が十分に去ってから、直立不動がデフォルトである執事の中の執事、四葉家の家宰ともいえる葉山忠教は椅子を引いてから、そこに腰掛けるのだった。
息を突いてからどうしようもないほどに苦笑をしてしまう。
「全くもって気まぐれな不死ネコどのだ……」
浦島の人間の中でも、当代の浦島は、色んな意味で規格外だ。
そう聞いている。
だが――――――。
(いざという時に、達也殿を倒すファクターになるか)
主命あった時、いざとなれば命を賭してもそれを成し遂げるのが葉山の役目であった。
だが、かつての心は段々と薄らいでいったのも事実だ。他の組織の『犬』という意識が高かった頃と違い、葉山は長く四葉の人々と関わりすぎた。
喜びも悲しみも怒りも……共にしすぎた。
四葉が葉山をどう思っているかは分からないが、烏滸がましくも、自分は家族と思っているのだ。
果たして、どういうことになるのかを予想しながら―――。
全てを見届けるしかなかったのだ。
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「〜〜〜〜〜♪♪」
そんな風な猛火吹き荒れる横浜のことなど知らない体で、一人の少女が、鼻歌を歌いながら日本の地に降り立った。
その子は色んな意味で特例で、しかし、それでも他の受験生たちと同じくある高校の受験を突破して、その学校の生徒になることが決定したのである。
「フフフ、ケータは全く気付かなかったみたいネ。けれど安心しなさい―――この『祝福のリッドくん人形』にかけても、アンタをワタシのダーリンにして、甘やかな結婚生活送らせて
光る風を追い越したら―――愛しのキミに逢えると理解していたから。この国までやってきたのだ。
その少女はカートを押しながら、そんなことを不穏な笑顔で宣っていて、色んな意味で周囲の人間から
そして季節と時間は―――サクラサク。