先程の達也と
その姿をつぶさに見ておく。準備運動のように何か身体を解している浦島は……。
「―――?」
何かの違和感を感じた。何であるかは分からない。しかし―――。
致命的なものを見逃していることを理解して、それでも戦いは始まる。
「では両者―――用意はいいわね? でははじめっ!!!」
会長の合図と共にCADから起動式を読み込む渡辺会長。速い。流石は一科生であり、三巨頭と呼ばれる一人。
そこから魔法が襲いかかるまで一秒もかからないはずだ。
しかし、ソレに対して浦島が選んだのは高速移動ではなく―――。
魔法による迎撃であった。
浦島が手を動かす。その動きはいわゆるCADのキーを叩くというものではなく、虚空にあるものを練り上げるような―――有り体に言えば、手品師の
「――――」
幾多もの煌めきを作り出して整然と列を成していた。
「エーミッタム」
ラテン語で解放を意味する言葉で、輝きは矢となって飛んでいく。
摩利はそれでも攻撃―――服部と同じく、移動魔法を―――とは行かなかった。即座にキャンセルして障壁魔法を発動。
壁を作り出して40本はあろうかという矢を防いでいく。
「リク・ラク・ディラック・アンラック―――
その間にも浦島の術は、摩利を穿とうと苛烈を極める。
人間一人を丸呑み出来るだろう爆炎に包まれそうになる摩利。防御していても熱波が襲いかかるのだろう。
しかし、ソレ以上に達也は気になることがあった。
「
「ああ、魔法師がヤツの『玄武陣』を超えることはまず無理だが、最近、『ウザい羽虫』が増えてきたからな。出来るだけ右腕・左腕をそれに回すように鍛えてきた」
「
「そこは今後次第だな」
シールズと雪姫先生の会話。少しだけ深刻そうなシールズと違い、嘆息気味の雪姫先生が印象的だ。
余人には伝わらぬ会話。
しかし達也にも分かることがある。
(CAD無しの古臭い呪文詠唱型魔法師……だが―――)
魔法の息継ぎがうまい。というよりも、呼吸と魔力の流れを一致させているようなものだろう。
何より、その呪文魔法の殆どは、摩利に必死な防御と回避行動を取らせている。
即ち三巨頭の一角が反撃出来ないほどに浦島の攻撃はスゴイということだ。
「―――会長、止めなくていいんですか?」
「微妙なラインなのよね……けれど―――」
まだ見ていたい。というか全容が知りたくなる―――。
起動式も魔法式も必要としない魔法師―――いや、魔法使い―――それは歴史の彼方に消えていった存在だと達也は伝え聞く存在。
(マギステル、あるいはマギステースなのか……)
「
最後の術のつもりなのか、水場でないところからこれだけの水量をどうやって―――という勢いの流水が渡辺委員長を直撃。そして出来上がるは―――。
「水柱だと……?」
これは不味いと想い術を解体しようとした瞬間。
「―――もしかして呼吸が出来ているんですか?」
一瞬だけ口を閉じて目を瞑って水の中で凌いでいた摩利だが、その水柱には、酸素が満たされており、どうやら普通に呼吸が出来るようだ。
「そうだ。水精だけでなく風精のチカラも使っての術だからな。そもそもウンディーナの水が、簡単にヒトを害するわけがないんだがな」
達也の疑問に答えた雪姫先生。しかし、摩利はどうやっても脱出出来ないようでいて、諦めて白旗をあげて振るような手仕草をして―――。
「そこまで! 解除してあげて」
「エーミッタム!」
瞬間、水柱が解かれて……水濡れの渡辺摩利が出来上がるのだが―――。
特にそれに性的興奮を覚えることもないままに、浦島は魔法を少しだけ変化させた。
「あれ? すぐさま乾いていく?」
「エラ呼吸の出来ない生物も生け捕りにする術なもんで、高濃度の酸素を収縮して乾燥に使うことも出来るんです」
要は、水の中にあった酸素原子を利用して摩利の衣服を乾かしたようだ。現代魔法の原理的には色々あるのだが、ともあれ―――随分と……。
(現代魔法の定理を超えているな)
成程、これならば紀藤とかいう教諭の文言を、しちめんどくさいと称するのも理解できる。
彼の直感的な術の使用方法は、現代魔法の
言うなれば、バッターが自信を持って見逃した
もしかしたらば、ある程度のルールがあるのかもしれないが、それは現代魔法とは別種のものなのだろう。
「啓太くん、さっきから使っていた魔法って、アナタや雪姫先生のオリジナル?」
「ワタシも使えますよ。セリエス・フルグラーリス!!」
瞬間、シールズもまたマジックアローとでもいうべきものを何本も発生させて、浦島に放つが。
「いきなり撃つなよ」
どうということもないように、それを同数のアローで打ち消す浦島。
「受け止めてくれると信じていたワ♪」
「基本、俺の属性は水気だから効いちゃうんだよ。アンジェリーナのは」
嘆息するように言うが、その手並みは並ではない。
シールズが詠唱したのに合わせて『無詠唱』で、しかもCADないし呪具の類も無しに同数の矢を作り出した浦島は―――。
(規格外だ……!)
まだ危険性があるか、そもそもこちらを害するつもりがあるのかとか、何も見えていないが―――。
「……!?」
瞬間、ぞわっ!とする『殺気』が達也に放たれていた。
それは明確に達也だけに向けられたものであり、思わず2歩ほど後ずさりをしてしまった。
「雪姫先生……」
「まぁお前さんがどうであろうが、構わんがな。ただ一つだけ言っておく。世界はお前の道理だけで動いているわけじゃないんだ。それを違えれば決定的に邪悪に堕ちるぞ」
「―――」
自分の内心を見透かしたような、それでいてボカしたような発言。だが、それだけで分かった。
この雪姫と名乗っている女は―――普通ではないということを……。
・
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「で、僕に聞きに来たと?」
放課後、風紀委員としての最初の業務『清掃活動』を終えて帰宅。そこから夜中に、妹のCADの調整をしてから深夜に寺に赴く。
到着早々に案内された庵の縁側にて―――僧にして忍者『九重八雲』に、聞きたい名前を言った瞬間。
「達也君、悪いことは言わない。逆らうな。抗うな。ついでに言えば関わらない方がいいとも言っておこう」
担任であるならば無理なんだろうけどと付け加えた八雲は、こころなしか焦ってるように見える。
「雪姫ねぇ……まぁ『子ネコ』だの『汎用人型決戦兵器』みたいな名前よりはいいんだろうが―――、僕から言えることは―――彼女や浦島啓太はマギステルということで間違いないということだ。それじゃおやすみ」
「先生、それはちょっと無情にすぎませんか? お兄様の聞きたいことが何一つ……ッ!!」
同行者である深雪が言い募った瞬間、八雲はいつになく、気を漲らせて深雪を睨んでいた。
「師匠―――」
「……いや、申し訳ない。ただ―――いいだろう。けどやはり、雪姫女史の詳細は僕には言えない。
しかし、君たちや僕らのような広義の意味での『魔法師』……マギクス。そして歴史の裏に埋もれていったマギステルとの違いぐらいは教えよう」
そこが最低ラインということか。コレ以上は、関係を切るぞという所まで踏み込んでいたようだ。
だが縁側に腰を落ち着けると、話を進める。
「マギステルの術というのは、君たちとは
「それはスピリチュアルビーイングというものとは別なのですか?」
「大いに違う。君たちの認識力では見きれない世界の在り方が、彼らには見えていた。そしてそれは、様々な精霊を定義づけて存在させていた。
彼らの言う魔力が『自然のエネルギー』を精神力で従えたものであるならば、その効果は大自然のエネルギーを指向性を持って変更できる巨大なものだ」
そう語る八雲の言葉は熱を帯びていた。要は―――興奮しているのだろう。
「例をあげれば、かのマギステルの『親子二代の英雄』の得意技には、広範囲に何条もの雷撃を30秒以上も降り注がせるものがあったそうだ。それが、どの程度の範囲かは分からないが―――まぁ話に聞く限りでは、戦術級魔法のレベルではあっただろうね」
「それぐらいであれば、自分たちも同じようなことはできそうですが、更に言えば、マギステルには『呪文詠唱』というハンデがあったそうですが」
「そうだね。『結果としてもたらされる現象』だけならば、君たちでも再現は可能だろう。
けれど、そこにはどうしても……いや、コレ以上は実地で見たほうがいいだろう」
これ以上は話せないという態度が見えたので、兄妹としてもそこはツッコめなかった。
「ただ一つだけ言わせてもらうよ、ご兄妹―――極まった魔法師であればあるほど、『マギステル』には君たちの『セオリー』は通用しないよ」
―――それは警告。
―――それは危機。
―――それは崩壊。
僧侶の言葉は、どうしても不吉なものを孕んでいるのだった。
どこかで真夜中には珍しい『鳥の嘶き』が聞こえてきたことすら、遠くに感じるのだった。
・
・
・
「結局、こうなるわけか」
「ソーリーィイイ!! まさかニホンの古い時代のモーレツサラリーマン並の書類仕事をやらされるなんて、思ってなかったモノ!!」
「まぁいいけどさ。俺だってしのぶさんの論文発表の手伝いしかやったことないから、手伝いをそこまで出来るわけじゃないけど」
二人して向かい合って端末を動かす度に、そんな会話が生まれる。結局の所―――そういう業務に関わったことが無いアンジェリーナでは、四苦八苦するしかなかった。
仕事を家に持ち帰っての業務とはいえ、その大半は練習であり、今年度の次席を成長させたいというあずさの想いもあった。
「雪姫……キティは、何のために俺を魔法科高校に入れたんだ?」
「ワタシと同棲させるために♪」
「夢あふれるお言葉―――しかし、信じられないな」
「やっぱり『裏火星』に関することなんじゃないカシラ?
ケド、ワタシはアナタと一緒のハイスクールに通いたかった。ソレだけよ」
流されそうになる感情を抑えながら、真面目なことを考える。そして―――。
(横浜で見たアレは『マギア』の疑似魔法具……それを使っていたのは、国防軍の強化魔法師)
のちに教えられたことを考えるに、もはや何かは始まっている。そう、魔法世界のやわらかな侵略が、ついに始まって、そして耳元で囁くような甘い吐息が―――。
「って! 何やってるんだよ!?」
いつの間にか、自分のそばに半裸で寄ってきたアンジェリーナにツッコミを入れる。
「ケイタを誘惑しているの♪ なんていうか昨日の会長と風紀委員長のアレは! ムカついたわ!!」
「なんでだよ」
「ケイタのカメは、いずれワタシを貫く『雷の槍』だからヨ! むしろ今からでもイイぐらいだわ」
浦島の張った心理障壁をいともたやすく打ち破って、自在に誘惑を施すとは……これがアメリカンガールの本気、やはり『プレイメイツ』の本場は侮れないといった所か。
「真面目な顔して、アホなことを考えている感じネ、けれどそういうのは逃げヨ」
「たまには逃してくれよ。俺が裏切れないことは理解出来ているだろうに」
「ムー……!」
アンジェリーナの不機嫌の具合が上がる。
どうやら今日は一緒の布団で寝るようだ。当たり前だが、寝るだけである。ソレ以上はしない。
だから―――。
「いい加減、服を着てくれよアンジェリーナ」
「やーよ! モウ……ママ直伝のエサを撒いたアプローチに食いつかないなんて……」
「別に俺だって何の衝動も覚えてないわけじゃない。というか、事務作業しないならば俺はもう寝るぞ」
その言葉で危機意識を持ったのか、向かいの席に着席をする。
そうしながらも机の下の見えない場所。
足先でヒトのカメを弄ろうとするアンジェリーナに、いたずら好きな天使めと、悪罵を内心でのみ吐くのである。
そして――――――。
「今年もまた、あのバカ騒ぎの一週間がやって来た」
止まっていた針を再び動かすかのように―――世界は動き出す。