「以上が全ての経緯です」
「成程、剣術部に関しては理解した。司波が無力化したあとに這い起きた剣術部員のそれに関しては……お前がやったのか? 浦島」
「ええ、ハリセンでスパーン!と一発ぶっ叩いて正気に戻しました」
そんな説明で巌のような十文字会頭が納得するだろうか。浦島の横に居て説明をしていた達也は、その端的な説明だけで終わらせようとする浦島の態度をどうなんだ? と想っていると―――。
「なるほど、ならば問題ないな」
その言葉に浦島と会頭以外の全員が少しだけ瞠目するのであった。
「風紀委員会としては、この件で特別大きな処分を求めないんだろう。ならばそれに感謝しておく。今日はもう遅いし、2人を帰していいんじゃないか?」
その言葉が『まとめ』だと気付くも、あれこれと探りを入れるには、何というか……『おそすぎた』。よって―――。
「そ、そうね。では帰っていいわよ」
「「失礼します」」
一礼してからの退室を、一年2人はやるのだった。
そんな一年2人がいなくなってから三巨頭は話し合う。
「ハリセンで一発殴れば、心身トランス状態だった人間を正気に戻せるものなのかしら……?」
「やろうと思えば出来るんだろう」
はぐらかされている気分になる真由美だが、克人は平素の限りだ。
「……十文字、浦島が時々出すカード―――何だか古くさいアイドルブロマイドのようなアレは、何なんだ?」
目敏くも、啓太の行動を見ていた渡辺摩利の言葉に克人は、ほほぅと少しだけ感心する。
「渡辺がまさかそれに気付くとはな。まぁ俺から言えることは―――我々の認識だけならば、アレは『レリック』に類するものだ」
「―――カードから器物を出す。いわゆる有質量物体瞬間移動をたやすく行えるもの、それが浦島の術理の正体か?」
一度目は扇―――扇子であり、二度目はハリセン。
紙類という点で言えばまだそこまで……というか、それにしたって、色々と意味不明すぎるのだった。
「……お前たちだって薄々気付いているんじゃないか? 浦島啓太はマギクスではなく、時代の裏に消えていった、マギステルに類する存在だと」
「―――」
それは想像していなかったわけではない。だが、彼らが消え去った理由、代わりに自分たちが出現した理由……全てが不明であった。
しかし、そのチカラだけは、口伝で伝わっている。
それは……ある意味、魔法師にとって『世界でもっともふざけた人間能力だ』とのこと。
「あとに生まれた我々こそ彼らからすれば『亜種』なのかもしれないが……」
我々にも培ってきた年月があるはずだ……などと勢いごんでも、何も出来なかった時を思い出すのだった。
「そして七草、ひとつ訂正だ。マギステル、あるいはマギステースというのは……別に消えたわけではない。
彼らは『隠れている』だけだ。そして―――俺たち魔法師の前に出てきた時、それは―――」
―――魔法師と魔法使いとの戦いが始まる合図なのだ。
そう言われた時に、冷たい汗が2人の女子に流れるのであった。
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「と―――そんな俺の自慢しい根性な話を終えたわけだが……」
「ケイタ、アーンして♪」
「アーン」
「……口を開いて、ワタシのケーキを食えと言っているのヨ!」
「むぐぅ!!!」
無理やりスポンジケーキ(大)を突っ込まれる浦島。突っ込んだシールズ。
その2人を見ながら―――どうしたものだろうと思う。
「浦島、シールズ―――俺の話は退屈だったか?」
自慢屋な話ではあっただろう。だが、人が話したことに全く以て興味なさげに他のことをされると、流石の達也もむかっ腹が立つのだが、それに対して返答が出される。
「イエ、別に。ただ特定魔法を『瞬時に判別出来る』―――
「杉田―――じゃなくて桐原とかって先輩は、あからさまにエンチャントした剣を使っていたから分かりやすかったんだろうが、剣術部相手に無双したとかいうアレは、司波だけが出来ることだろ?」
「ソレで社会基盤が
同意を求めるように浦島に向けて言うシールズの姿。流し目を寄越す姿が印象的だが……ソレ以上に……すごく『もっともなこと』を言われたからだ。
「まさか起動式を読み込んだ段階で『俺は振動系魔法を使うぞ』『私は荷重系魔法を使わせてもらう』とか口頭で言っているわけじゃないしなぁ……」
「―――まぁ言われてみればその通りだが……」
達也としても困った話だ。これを切っ掛けに、浦島の持つ術理……というか美月が見たカードとやらの秘密を暴露してもらいたかったのだが……。
「君がどうして相手の術に対して正確な対抗呪文を放てるかは、眼というよりも『脳髄』の処理が速いからだからだろうけど―――まぁ君と同じように分かる人間ならば、意味があるんじゃない」
「ぐうの音も出ないぐらい正論だ……こうなれば、レオの言う通り公表して、金子を得たほうがいいだろうかな?」
「ざーとらしいセリフだな。大根役者、入りと掴みがなっていないぜ」
「浦島君」
あからさまに悪態をつく啓太に対して、少しだけ文句を言うように、名前を口にしてくる司波深雪。
別に怖くもなんともないが、とりあえず面倒なので、秘密の欠片だけでも答えることに啓太は決めた。
「お前が聞き出したいのは、『こいつ』に関してだな?」
言いながら制服の内側から取り出した、カードデッキのようなものを丁重に、まるで宝物でも扱うかのように―――。
ハンケチを敷いてから、その上に置くのであった。
「―――そうだ。俺の出した秘密の提供は、お前の売値に全く届かなかったようだな……」
「まぁそうだな」
あっさり言われて達也としても、何となく『来る』ものもある。しかし、今はこれの正体を知るべく口をつむぐ。
「で、コレは何なのよ? 一番上の―――この赤毛のツインテールの子……これ麻帆良女子中の制服じゃない。それにこんな身の丈を越えた大剣を構えて―――」
「けど可愛い女の子ですね……啓太くんの知り合いなんですか?」
「いや、全然―――ただ名前と容姿は当たり前のごとく知っている。端的に言えば―――これは、とある『立派な魔法使い』と呼ばれた少年と、その従者にして恋人だか友人だか、まぁ色んな関係で結ばれた少女たちとの絆の体現―――そういうもんさ」
エリカと美月の疑問に、答えたようで答えていない。
ただ、それを言った時に……少しだけ尊いものを見たように、浦島とシールズは眼を眇めたのであったのは間違いない。
「で、これが、お前がハリセンを出したり扇を出したりのトリックということか?」
「そういうことだ。で、いいか?」
「理屈ぐらいは教えてほしい」
「そのカードが『武器』を召喚する。アデアットと言えば、武器が来るし、アベアットと言えば退去する。それだけだ」
それは達也からすれば『理屈』ではなかった。ただの機能説明でしか無かったのだが、実演が為される。
デッキ先頭の『KAGURAZAKA ASUNA』と印字されたカードを手に、「アデアット」と唱える浦島。
確かラテン語で『来い』とか『来る』だったか―――適当な日本語表現で言えば『来たれ』というところの『呪文』で、その言葉通りに『器物』が―――『ハリセン』が、武場の時のごとく握られていたのだった。
そして、その際のあらゆる式が達也には見えなかったのだ。
この現象、現代魔法的に言えば『有質量物体瞬間移動』という、現代魔法では再現不可能と研究を諦めた分野なのだが……それをいとも簡単にやる―――それがマギステルなのかと驚く。
「古の魔法使いからの伝統で、『魔法使い』には、前線での戦いをサポートする『従者』の存在が不可欠だった。まぁ、これとて時代が進むにつれて、はたまた魔法使い自体のレベルが高くなってくれば、例外もあったんだが――――」
「そんな魔法使いの従者―――ミニステルとなった人間に与えられる『アーティファクト』と、魔法使い―――マギステルからの魔力供給を受けられる
コレといった時にシールズが出してきたのは、己の姿が描かれたカードであった。それは10枚ほどはあろうかというものであり、それら全てに随分と魅力的なアンジェリーナ・クドウ・シールズの姿―――年齢がそれぞれ違うものが描かれていた。
「お兄様」
名前を呼ばれただけだが、どういう意味であるかは何となく理解できた。
よって、見るのをやめて説明を受ける。
「以上だ。理解できたか?」
「どうやってこんなものを作るんだ?」
「契約の魔法陣で、主たるマギステルと従者たるミニステルとが契約を結べば、それで完了だ―――当然、その儀式まで探るのは違反だがな」
だが、言葉少ななものだけでも推測できることはある。マギステルにとって、それは簡易すぎるものなのだ、と。
「まぁ俺としては明日ぐらいが怖いからな。姫巫女様ではなく、『このヒト』でシバタツ君のサポートでもしてやろうかね」
「なんかあるのか?」
「先輩方からいやらしい邪魔が入る可能性さ」
西城の質問に返して、未来への推測を話しておく。
そんな自分の鋭い指摘は―――。
「……まさか―――俺も――――カメを握られるのか?」
司波によって曲解されるのだった。
「握ってほしければ、妹に頼めば良いんじゃね?」
「ケイタのカメは、ワタシが管理するわよ」
変態は大変だと思いつつ、果たしてどうなるやらと考える。
そんな中、眼鏡を外して『パクティオーカード』を見ていた柴田美月の視線に気付かなかった。
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新入生勧誘活動の中で乱闘が起こるのは、聞いていた通りだった。しかし、ここまであからさまなものを目撃するとは思っていなかった。
しかし、こういう共謀をするとは、思っていなかった。
乱闘を起こした連中の片方のエアブリットが司波達也に向かい、それを躱すも逃走を助長するように、上級生が壁となって塞がる。
逃げられそうになっている。あんな卑怯な連中が校舎側に―――と思った時に。
「ヴァーリ・ヴァンダナ―――水妖陣」
上級生が逃走しようとした脇にあった木陰から、音が響く。
そして、その上級生たちは地面から出た無数の『手』に拘束されるのだった。
「なぁあああ!! な、なんだ!? なんだよ!!」
「ひいいいい!!! こ、これは!?」
非常識なチカラを行使する魔法師とはいえ、ソレ以上に摩訶不思議で不気味な現象に囚われれば、混乱する。
表れたのは無数の手である。しかも半透明の液体の手が、余計に生理的嫌悪感を催すのだろう。
「はいはい。あんたらの所業は既に撮影済みだ。ついでに言えば、そこの壁!! テメーらが共謀していることは、既に会話と映像から、全てまるっとお見通しだ!! おとなしく縛につきやがれ!」
その言葉で、いつぞや校門前で撮影していた『浮遊するカメ』が、20分前からの会話と映像を再生して、その中で『司波達也をハメるぞ!』という部分を再生して、達也の進路を妨害した相手の不実を糾弾した。
「ふ、ふざけんな! こんなの偽証はいくらでも出来るはずだっ! 証拠能力なんてないような―――ッ!!」
「―――じゃあもう……頼まねぇよ……」
言い返した相手に対してズボンポケットに手を入れた浦島の姿―――校門前でのことは既に多くの人間に知れ渡っている。
そして胆で押されたことで、慄いた瞬間に―――
「水妖陣」
同じく水の手で拘束されて、そして『全身をくすぐる』ことで、相手を無理やり笑わせることにした。
「て、てめぇ浦島あひゃあああああひゃひゃ!! こ、こんなことしていひひひひひひ!!!」
てっきり居合拳が来ると思って身構えていた紋付きの先輩方は、フェイントに引っ掛かった結果である。
啓太の技ありなのだが、そんなことはどうでも良かったりした。
「俺は木陰と同化して、お気に入りの
ニッコリ笑顔と共に指パッチンを行って、手の動きを加速させる浦島。無理やり作られた笑顔が四人の上級生に出来上がる。
「あひゃひゃひゃ!!!!あひひひひ!!! いひひひひ!!! うひゃひゃやひゃ!!」
ひでぇ……ソレ以上にぞわりと怖気を感じる。こんな異質な術を操る浦島啓太という存在に。
この全ての術理が不明な存在が……紋なし、ウィードであることに。実力を隠しているのかもしれないが―――
それでも、これに負けたらば現代魔法師としてのアイデンティティに関わると、『本能』で皆が悟るのであった。
「まぁ、あんたらのだみ声な笑い声で『まっくん』の美声は穢したくないしな。逝けや!」
そして昨日のように、転移魔法符で、笑い転げる上級生四人は閻魔大王の元に送り込まれたようだ。
一息突いて手を払った啓太に、達也は近づく。
「―――助かりはしたが、なんなんだあの魔法は?」
「水妖陣」
「誰が名前を言えと言ったんだよ……」
原理を教えてほしいのに、それはシークレットだと聞かない男である。
「ならばこういっておくか、『太陽系世界最強の大魔法使い』が、『黄昏の姫御子』にセクハラした際の魔法」
相手を煙に巻く言動をされて、それでも何というか……助けられたことに恩は覚えつつ、囮にされた恨みは忘却することにした達也なのであった。
そんな2人の様子を見ていた1年1科の美少女3人は―――。
「ほほぅ! やっぱり浦島君はマギステル―――それも西洋と和式の2つに精通しちゃっている術者! これは要チェックだね!!!」
「浦島君よりも、達也さんの方を注目してよエイミィ!」
そんな風な、かしましいのとは別に、一人の男が離れたところから連絡をとった。
「私です。ええ、やはり推測通り―――では、機を見て『お貸しします』。はい―――存分に、アナタに拾われた命ですから、ええ……それでは―――」
そうして、 災厄が訪れることになる―――。