魔法科高校のアイとま!   作:無淵玄白

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stage.13『襲撃』

「ケイタ―――!! ヘルプミィイイ!!!!」

 

風紀委員会本部に駆け込んできた金髪の美少女。一瞬にして啓太の胸に飛び込んできたことで、何事かと思う。

 

「どうしたい? アンジェリーナ?」

 

「じ、実を言うと緊急で大使館の方に行かなくちゃならなくなったわ」

 

「良かった。健じいちゃんに何事かあったかと思ったよ」

 

「エンギでもない! けど―――マァしばらくは大丈夫だと信じてるワ―――じゃなくてかくかくしかじか」

 

「まるまるうまうまと……成程、委員長。申し訳ありませんが、今日はちょっと早退させていただきます」

 

その言葉で、事態の推移を見守っていた渡辺摩利は、少しばかり虚を突かれた気分ではあるが、それを……『断腸の思い』で良しとした。

 

「で、では行って構わないぞ……」

 

失礼しますと2人して頭を下げた男女が居なくなると、溜息を突く渡辺委員長。

 

「そりゃまぁ……親戚だってんならば、分かるし、何かと要領が分かっているんだろうけどさ。別に一人で行ってもよくないかー……」

 

イジケているとしか言えない態度を取る渡辺委員長に苦笑しつつ、その原因は……浦島を連れて行ったアンジェリーナ・クドウ・シールズに向けられていたのだった。

 

「姐さん、浦島と見回りしたかったんですか?」

 

「まぁ……そうだな。正直、一緒にいて悪い気分はしない後輩だからな」

 

その少し顔を赤くしながら辰巳鋼太郎に返した摩利の姿に、ざわつきが広がる。

 

マジかと思いながらも、乙女チックな摩利と一緒の空間。恋わずらいなのかどうかは分からないが、それと一緒の空間にいるのは気まずいと思ったのか、全員が何も言わずとも―――巡回に出るのだった。

 

(今日で新入部員勧誘期間は終わり。俺への襲撃は浦島の触手プレイならぬ触腕プレイでだいぶ落ち着いた)

 

このままいけば、何事もなく終わるか。それとも―――。

 

波乱を望むような心地を持っている自分に内心でのみ苦笑してから、巡回していた。

 

何だか光井ほのかと北山雫―――あの帰路以来あんまり関わっていない子たちが、何かをしているという事を何となく認識していた。

 

(別に害意を持っているわけではないようだが、どうにも……)

 

大抵の危難は切り抜けられる達也にとって、それは決して必要と言えるものではなかったのだが―――。

 

(サイオン―――)

 

魔法が茂みの向こうから放たれるかと思った時には―――

 

「?」

 

何も起きない。何であるかすら分からない。

 

どういうことだ? そう思ったあとには―――。

 

「!!!!」

 

直感。そうとしか言えないものが、達也をその場から大きく離脱させていた。周囲に人がいなかったからいいが、それでも、次の瞬間には足元の地面が隆起して、切り立った『石槍の華』とでも言うべきものが、出現した。

 

あのまま立っていれば達也の体は、見るも無残な串刺しになっていただろう。

 

だが、そんな空中に逃れた達也は、圧を感じる。

 

痛みだ。身体を強かに打ち付ける圧は―――。

 

「黒い―――錐!?」

 

柄と言える部分が殆どないそれは、投擲用のダガーにも似ていた。それが、達也の身体を何度も貫いていた。

 

(頭部への貫通が無いだけマシだが!!)

 

「石化作用を施していない黒曜の石錐だが、これを凌げないとは期待はずれだよ。ヨツバ・タツヤ」

 

「―――ッ!!!」

 

自分の素性を言ってきた相手。そいつは茂みから出てきた。

 

ローブを纏って素性を知らせない相手。見たままの背格好だけならば、自分たちと同じか、はたまた少し上の年齢だろうか……。

 

土を踏みしめながら、土を踏む音をイヤになるほどに響かせる、男か女か分からない相手は―――。

 

「ウラシマ君を学校から遠ざけたわけだから、目的の一つも達成させてもらおうか」

 

そんな言葉で、攻撃が再開する。

 

それは、達也ですら抗えぬ、デタラメすぎる暴力の嵐にして魔道の極みであった。

 

 

 

「エッ!? 大使館からの呼び出しはない!?」

 

「ええ、特に呼び出すこともないですからね。まさか恋人同伴で来るとは――――思っていませんでしたけど」

 

大使館付きの武官たるシルヴィアさん。知らない顔ではない相手が出迎えてくれたことで、妙な気分になる。

 

「ですが、確かに大使館からのメールなんですよね。間違いメールにしては文面は正しいものですし……」

 

アンジェリーナの端末に記載されたアドレスを見て、一同は狐につままれた気分としか言えない状況、頭を抱える前に一つの推理が生まれる。

 

「ここをハッキングして乗っ取りをすることは、『不可能』ではないはずですよね?」

 

「ええ、厳重なセキュリティを施しているとはいえ、そういうことはまず不可能ではないでしょう。サーティ、フォーティナンバーズによるそれも『絶対防御』ではないですし……」

 

『シルヴィア、こちらもそれを感知できていません。いまセキュリティチェックを開始しています』

 

「―――とのことです。恐らく、ステルスに長けたウイルスプログラムが入り込んだ可能性があります」

 

シルヴィアの言葉の途中で、彼女の端末から響いた『言葉』に、ふむと考え込む。

 

導き出されるべき推理は―――。

 

「……謀られたか?」

 

啓太とリーナ。そして雪姫も一高を離れた状況。『分断』されたと気付いた瞬間であった。

 

「ミス・マクダウェルも、どうやら違う所に行きましたからね。2人をよろしくと―――……!!!!」

 

「「!!!!」」

 

シルヴィアの説明が途中で遮られるほどの魔力の圧。響いたのは八王子方面。

 

それだけで何も言わずに駆け出すぐらいには、2人とも緊急時の対応は心がけていたのであった。

 

「気をつけてぇええええ」

 

シルヴィアの声がドップラー効果で遠ざかりながらも、またがった『ホウキ』というには剣呑すぎる得物は、一路一高へと向かうのだった。

 

 

ズガガガガ! マシンガンの連打かと勘違いするような拳の連続。腕っぷし自慢の連中がガードも出来ないほどの拳は、魔法で張った装甲をいとも簡単に崩して、内臓をしこたま痛めつける。

 

「があっ!! ぐぶっ!!!」

 

「やはり『彼』の因子を持たないデミヒューマンは脆いな。自己の身体強化すら出来ないのか」

 

ばきっ!!! その言葉と共に放ったローキックが、人体をサッカーボールのように跳ねさせながら校舎の方に蹴り飛ばした。

 

「このっ!!」

 

岡田という風紀委員がそのように無力化されたあとには、関本という三年の風紀委員が魔法を発動。

 

相手の身体を明後日の方向に吹っ飛ばす移動魔法。

 

流石は三年一科の生徒ではあるが―――現象は具象化した気配がない。

 

「―――か、かき消えた! 違う『圧し潰された』!」

 

「今のが攻撃魔法かい? 随分となめられたものだな。何一つ『恐怖』を感じないものだった。君たちの攻撃には、決定的に怖さが無い」

 

「!!!!」

 

バカにされたことで、関本のデバイスから読み込まれる魔法は強力だが―――

 

「本物の『攻撃魔法』とは、こういうものを言う」

 

フード男はそれを嘲るように、大振りな漆黒の片刃剣を、展開した数多の魔法陣から弾丸以上の速度で打ち出す。

 

まるで鳥の羽ばたきのように舞い落ちるような剣。回転しながらやってくるそれは、前時代的すぎる『物質的な魔法』だが―――。

 

明確に『刃物』が自分に向けられているという、身体を切り裂くものが高速でやってくるということに『恐れ』を覚えないものはいない。

 

恐怖が身体を縛る。身体を動かさない。

 

「関本!!!」

 

刃物から同級生を守るべく、遠隔型の『障壁』を展開した十文字会頭だが―――。

 

「そこから離脱しろ!! 俺の壁は持たん!!」

 

剣を三本ほど受け止めた時点で彼の壁は崩れた。間一髪、自己加速魔法を発動した関本は難を逃れた。

 

「接近戦など挑むな!!! 絶えず加重魔法や移動魔法で足元を崩すことに終始しろ!! 俺たちの魔法が効くと思うな!!」

 

「十文字!?」

 

渡辺摩利はその言葉に瞠目する。十文字は相手が何者であるか分かっているのか?

 

その質問をする前に状況は動く。

 

「―――ならば、こっちから近づくのみだ」

 

縮地、瞬動なんとでも言えるもの―――浦島啓太よりも『鮮やか』で、熟練の手並みを思わせる歩法で狙われたのは、森崎であった。

 

銃型を抜け目なく狙っていたことが災いしたか。連続の拳、接近戦を挑もうにも呆気なく懐に入られてのリバーブロー。宙に浮いた身体を掴み、それをボールでも投げるように、校舎側に投げた。

 

すぐさま誰かが慣性中和を施したのか、森崎は救出されるも、悶絶するような痛みは続いていた。

 

それにしても―――。

 

(現実離れしすぎている……これがマギステルだってのか?)

 

膂力のケタが違う。

魔法のスケールが違う。

障壁の分厚さが違う。

 

世界(ステージ)が―――違う。

 

今さらながら、八雲の言わんとしていたことが分かる。

 

結果として発生するエネルギー総量が同一であっても、そこに至るべき道中における『膂力』が違うと言うべきか。

 

適切かどうかは分からないが、あえて表現をすれば、自分たちの現代魔法が『発電所』が生み出した『電力』(エネルギー)をもらい、その電力を以て何かの器物を動かすのだとすれば、マギステルの魔法は『発電所』の『電力』(エネルギー)をそのままに叩きつけてくる。

 

エネルギーを作り出すタービンの回転すらも、彼らには利用すべきパワーなのだ。

 

そして何より、これが重要なことだが……。

 

(発電所から与えられる電力は、変電所など多くの配線を以て、ようやく各家庭に届けられる)

 

いくらか電柱ともいえるものの埋設場所が変わっていった現代ではあるが、その要諦だけは細かなことを除けば変わっては居ない。

 

その電力は『分かれたもの』『分散したもの』でしかないのだ。

 

それこそが、この『差』を生み出しているのだ。

そう断じつつも、状況が好転する兆しはない。

 

「深雪、頼めるか?」

 

「はい。お兄様!!」

 

状況を好転させるべく、妹に対して秘技の解放を願うのだった。

 

一年主席が何か巨大な魔法を読み込んでいると理解した周囲。

 

相手を牽制すべく、多くの魔法が放たれる。魔方式の重複をさせないように、一高の生徒全て―――主に1科生だろうが、それでも彼らが魔法を放つのだが。

 

全てが無為に変える。先程の関本と同じくである。牽制にすらなっていない。

 

(何か特殊な障壁でも――――ッ!!)

 

現象改変系の魔法とは違い、放出系魔法がフード姿を穿たんと放たれるも、全く通用しない。それどころかそれすらも消し去っていく中―――フードに変化が生まれる。

 

フード姿の後ろに巨大な魔法陣が出現する。先程の黒剣を打ち出したものとは段違いであり、それを元に、幾つもの巨大な柱の如き螺旋の大剣が整列をしていく。

 

まるで砲弾を装填するかのように作られたそれの意味―――。

 

(深雪が最大級の攻撃をしようとしているというのに、それに対して防御をしようとすらしないのか!?)

 

ナメられたものだ。ならば―――。

 

その障壁を砕くのみ。一度は怒涛の攻撃でやられた達也だが、既に回復は終えている。

 

効き目が悪かったが、それでも―――壁を砕く魔法は存在している。

 

術式解体を解き放つも。

 

「達也君! それは!?」

 

達也が放った術を悟って、近くに居た七草会長が驚くも―――。

 

「―――ッ!!」

 

その結果に対して達也は驚いた。壁は崩れない。『眼』を凝らしてよく見れば……何層もの障壁を展開しながら、いままで戦闘を行っていたようだ。

 

人間業では無い魔法の展開に吐き気を覚える。

 

「僕の障壁の『一層』にヒビを入れたのは称賛しよう。しかし―――」

 

四方八方に、上下―――あらゆる場所に装填された大剣が―――。

 

「何もかもが『虚弱い(よわい)』!!!」

 

――――――猛烈な勢いで放たれた。

 

当然、その動きを止めんと、深雪の『ニヴルヘイム』が、運動を停止させんと、氷漬けにせんと動いたのだが。

 

その魔法による『鎖』を食い破って、ロケットミサイルも同然にあちこちで着弾。直撃を食らったものはいるか。

 

不安がよぎった瞬間、影が差す。時刻としてはまだ日は登っている。沈むにはまだ速い時間である。

 

ならば、この影は――――――――。

 

「おおおお、お兄様!!!!!」

 

「ウソだろ………!?」

 

上を見上げた瞬間、深雪が尻を突かんばかりに驚く。

 

達也ですら驚きの声を出すしか無いものが、現実を脅かしていた。

 

高層ビルほどの高さも幅も―――重さも再現しているとしか言えない巨大な『六角柱』が、空気を引き裂くように、段々と一高全てに落下せんとしていたのだ。

 

その数、5つ。幻術ではありえぬ『圧』のリアルなイメージが、タツヤを恐怖させる。

 

そして―――。

 

「さて、進退窮まったね。ヨツバタツヤ君、ヨツバミユキ君」

 

「「―――!!!!」」

 

こちらの動揺を理解してか、壊乱・混乱したところに踏み込まれた。

 

足を止めて撃ち合うしかない。しかし、そうしている間に柱はこちらに降り注ぐ。

 

消去しようにも、その隙を与えてくれる手合ではない。

 

そして深雪では、あれをどうこうすることは不可能だ。

考えている間にもフードの攻撃は苛烈を極める。

 

一撃ごとに退かざるを得ない膂力。達也の拳をいなした後に放たれる『黒剣』。

 

認めざるをえない。戦闘力において、こいつは完全に全ての魔法師を上回っている。

 

「深――雪!! は――ッ―しらを!!!!」

 

殴られながらも実妹に頼む。破滅・大破壊を防ぐためにも、柱の無力化を妹に託さざるを得ない。

 

安定した落着させるだけでもいいのだ。それが出来るのは、深雪だけのはず―――だが。

 

「ごっ!!!」

 

「お兄様!!!」

 

彼女の精神的支柱たる自分が折られた状態では、彼女は平静を保てない。

 

いまも柱ではなく、自分を助けようと、高速で動くフードを狙おうとしているのだが―――。

 

(ダメかっ!!!)

 

もはや1も2もなく―――達也の秘奥を放とうとした。身体を何度も揺さぶる衝撃の中でも、それを行おうと集中する。防御行動を取れないことで、黒剣が両耳を引き千切ったかもしれない。

 

それでも―――。

 

瞬間、地上の大気を押しつぶすように柱が遂に落ちようとした時に、それら全てがバターのような流体の真っ白なものに変わる。

 

「あまりスマートとは言えんが、俺はアスナさんみたいに『白』を受け継いじゃいないんだからな」

 

「ケレドやるべきことではあるでしょ?」

 

「そりゃそうだけどさ」

 

そのバターのような流体に乗る形で、2人の男女が降りてきた。同時にその流体が自分たちに降り注ぐのだが……。

 

(傷が癒やされていく……)

 

達也の自己再生ではなく、この流体が作用した形であり、他のメンツもそれでなんとか回復する。

 

そして―――。魔法使いの戦いが始まる

 

 

 

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