魔法科高校のアイとま!   作:無淵玄白

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stage.1『開幕の時』

 

 

「ついに啓太くんが、この『ひなた荘』を離れちゃう時が来ちゃったのね……」

 

「まぁ、そもそも持ち主だからと管理人だからと―――男がいつまでも女子寮にいるわけにもいかないでしょ」

 

此処にいたのは、1年程度であった。色々あって実家から『学校』に通うよりも、こちらの方がいいと思っていたからだが……まぁ住人の殆どが『親戚』であったことも、受け容れられた原因だろうが、それにいつまでも甘えられていない。

 

ともあれ、引っ越し荷物は既に雪姫が用意した家に送られている。入学式と同時に荷解きとは、かなりのハードスケジュールだが……。

 

(家がどんなものかすら教えないとは、なにかありやがるな……)

 

「それじゃ、しのぶおばさん。お世話になりました」

 

「啓太くん――――――」

 

立つ鳥跡を濁さず、洗い物を済ませてから出ようとした所……しのぶおばさんが、啓太の肩に手を乗せてから何かを労るのかと想いきや―――。

 

「何度も言っているけど、しのぶ・お・ね・え・さん! でしょ!?」

 

ギリギリと啓太の肩を締め潰さん (しめつぶさん)とばかりに握ってくるのであった。

 

後ろで見せているだろう鬼面は絶対に見たくないのであった。

 

「あだだだだ! ご、ごめんなさい! 東京大学にて考古学を教えている新鋭の助教授にして女教授 浦島しのぶお姉さん28歳!! まだまだピチピチのギャルでした!!」

 

「うん。分かればいいのよ♪」

 

何か色々と頭が上がらないヒト。それが後ろにいる関係上は『叔母』である女性なのだった。

 

「何かあれば私の方にも一報入れなさいよ。私も魔法大学付属とは付き合いあるわけだから」

 

魔法大学付属とは、魔法師たち以外の人間の魔法科高校に対する呼称であったりする。

とはいえ、しのぶさんが、そちらと関わりを持っていたとは意外な話。

 

なにはともあれ――――。

 

「まぁ何もなければいいんですよ。平穏無事に、何事もなく過ごせればね―――出来ることならば、しのぶさんにも迷惑掛けないで学校生活送れれば、とは思っております」

 

そんな希望通り行くかな? という視線を向けてくる『親戚』の見送りを受けながら、長い長い階段を下る最後の道のりへ行く前に―――。

 

何かと想い出が多い、この女子寮にしてかつては温泉旅館であった場所を振り返る。

 

近代化されたスパリゾートに比べれば古臭いもの。ノスタルジーを感じる巨大な―――『家』。

 

そこは日常と非日常が交差する『誰か』のための楽園。

 

そこに無遠慮にも間借りさせてもらっていた事実に、本当の意味で感謝の一礼をしてから、本当にここを去るのであった。

 

 

 

 

妹を宥めてから新入生総代答辞のリハに送り出した達也は、適当な場所にて時間を潰そうとベンチを探していたのだが……そこには先客がいた。別のベンチに座ろうと想ったが―――めんどくさくて、何より自分と同じく『ウィード』である彼の横ならば何も言われないだろう。

 

どうやら、ワイヤレスイヤホンでお気に入りの音楽を絶賛ヘビリピ中のようだ。

 

達也が座ったことなど、何一つ気付いていない様子。

 

いつの時代のアイマスクだよとツッコみたくなるものを付けて、半ば睡眠しながらのミュージックヒアリング。

 

それがある意味では羨ましい。

在校生―――上級生たちのグループが、『紋無し』であることをあざ笑ったことすら気付いていない様子だ。

 

図太いとも言えるし、豪胆ともいえるし―――はたまた何も考えていないともいえるか。

 

なにはともあれ……読書には集中出来るのであった―――。

 

そうして時間を潰していると、見回りなのか上級生がやってきて―――入学式の時間が近づいたのを教えてくれた。

 

それに対して、隣を見ると『こちらの音が聞こえないぐらい』ジャカジャカと音を立てるイヤホンを外した様子。

『祝福の時は来る。手を伸ばし―――』という歌詞の一節が達也の耳に届いた。

 

「ありがとうございます」

 

と言って、伸びをする様子。どうやら身体を解すようだ。

 

その間、達也は現れた上級生・『生徒会長 七草真由美』と会話をする羽目に、どうやら自分のことは知られていたようだが―――。

 

(こいつのことは知られていないのか?)

 

ペーパーテストぐらい『ギリギリ評点』ですり抜けておけば良かったと想いつつも、ある種の『悪目立ち』をしたことを悔やんでいた達也を置き去りにして、同級生は立ち上がり行こうとするのだった。

 

「そちらのお名前は?」

 

「いえ、自分も知らないです」

 

「田中太郎です」

 

「そう。田中くんも早く行ったほうがいいわね」

 

「―――自分も失礼します」

 

流石に達也だけに関心を示すのは『良くない』と思ったのか。言われた『田中』は、特に七草会長に何も言わずに去っていくようだ。

 

それの後を付いていく形になる達也。

 

(歩法が随分と……何かの『武術』『武芸』を嗜んでいる人間の歩き方だ)

 

この魔法科高校に在籍する以上、魔法能力が低かろうと、そういった荒事に慣れていない人間がいないわけではない。

 

何より……。

 

(こいつは……俺に何の興味もないようだ)

 

別に殊更、構ってほしいわけではないし、かといって理論テストで殆ど満点を取ったことを自慢したいわけではない。

だが、何一つ……こちらに関心を取らない態度に少しばかりムカつきを覚える。

 

何より……。

 

(姓名が、田中太郎だと? そんなあからさまに、低学年向けマンガで宇宙人が名乗るような偽名臭い自己紹介するなんて、こいつはなにか隠している……)

 

日本全国、あるいは全世界の『田中太郎さん』にすごく失礼なことを考える達也だが……。

 

その背中に―――話すキッカケは何一つ無かった。

 

 

しかし、大講堂でも入り込んだ順番の関係上……話しかけるキッカケをようやく手に入れる。

 

1科生と2科生の分かれた席の関係を読んだ。俗に空気を読んだ太郎と達也は2科生側の席に座る。

 

席を詰めるという体で太郎の隣に座る。かつて新型ウイルスでソーシャルディスタンスが必要になった時代とは違って、こういうことは普通だ。

 

だが、わざわざ自分の隣―――違う段に行ってもよかろうに、という険相は見せてきたことで、謝罪を入れつつ会話をしようと思う。

 

「すまない。何というかお前の聞いている音楽に興味があってな」

 

「それだけで知らぬ男子の隣に来るとか、色々とどうなんだか……」

 

再びイヤホンを掛けて、お気に入りの音楽を掛けようとした田中太郎に声を掛けた。

 

「半世紀は前に活躍した声優にして歌手の曲だよ。『閣下』と言って通じるか?」

 

「聖○魔IIか?」

 

「そっちの閣下じゃねぇ。声優っていったじゃないか」

 

「冗談だ。林原めぐみ閣下か」

 

随分とレトロなものを聞いていると想いながらも、ここから繋ぐ話は無いと手詰まりを覚えていた時に。

 

「あの、ここ座ってもいいですか?」

 

達也の隣に女子がやってきたのだった。その応対で、話を向けたはずの田中太郎は再び音楽聴きに入ったようだ。

 

(やられたな……)

 

そんなわけで―――。

 

 

 

「なに!? あのバカは、七草への自己紹介で偽名を名乗ったのか!?」

 

「そのようデスネ……証言から察するに……」

 

「はー……まぁ出来るだけ『出自』を隠せと教えてきたのは私だ。そういう対応をするならば、仕方ないが……」

 

「ケレド……ワ、ワタシに会っても田中太郎(タナカタロウ)なんて名乗られたら―――」

 

呆れ果てた金髪―――スーツ姿で長身の美女は、少しだけ泣きそうな妹か娘のような短躯の金髪の頭をなでながら、大丈夫だと言っておく。

 

「まぁアイツは……少しいじけているからなぁ。ただ、それを矯正するためにも―――お前がいなければならないんだ。アンジェリーナ。啓太のことが好きなんだろ? 幻滅することだってありえ―――」

 

「ナイですよ! エヴァ―――ユキヒメマスターが、繋げたんです―――この縁を……」

 

「そうか」

 

運命など信じない雪姫でも、年端も行かぬ少女のこの子の想いぐらいは信じてもいいかな? そう想いながらも―――ステージ裏から遠見で見ると。

 

(林原閣下のメドレーでも聴いているか?)

 

機械が苦手な自分では詳しくは知らないが、お気に入りのオーディオだかなんだか分からないが、音楽再生機器を使用しているアホの姿を確認。

 

隣には、■■のガキを発見。どうやら、何かしかを感づいたようだが……。

 

(まぁいい先ずは―――)

 

 

「教師として一発、喝入れさせてもらうか―――」

 

 

30分後……。

 

(―――教師として『此処』にいるなんて、聞いちゃいないんだけど)

 

古巣の『麻帆良』にでも行っていると想っていたのに、結果として悪目立ちさせられた。

 

キティの『教師らしい一喝』で、フェイバリットミュージックプレイを中断させられた啓太は、その後に主席答辞で同時に紹介された次席の姿にも人知れずため息をつく。

 

別にどうでもいいことだ。知らない人間ではない。

 

だが、彼女は俺と関わるべきではないだろう。

 

親しくない知り合い。

 

そういう関係の方が波風立たないような気がする。

 

別に啓太は、カメを助けて龍宮城に行って乙姫と会いたい人間ではないのだ。

 

「……雪姫先生とか言ったか、田中の知り合いなのか?」

 

「ああ、惚れたんならば、やめといた方がいいとは言っておくよ。紹介してもいいが、その後のことは自己責任で」

 

素気無い言葉を理論主席サマに言ってから、この話を打ち切る。

 

「……」

 

「―――」

 

ウザい男だ。恐らくその後には、実技主席の名字との関係から、なにか話を膨らませたかったのだろうが、お喋りしたくないオーラを出して、男の視線を無視するのだ。

 

そして、入学式のあとのIDカードの受け取りを終えて帰ろうとした時に―――。

 

「田中―――いや、ウラシマなのか? お前は何組だ?」

 

入学式終わっても、自分から離れず後ろから姓名確認及び、虹彩認証まで覗き見ていた司波達也なる男(ストーカー)に―――。

 

「人の後ろに張り付く君に言う必要あるのか?」

 

若干、後退りしながら問いかける。流石に司波達也も、自分の行動のアレさを認識したのか、咳払いをしてから口を開く。

 

「まぁ無いかも知れないが……生徒会長に偽名を名乗るほどだからな」

 

「俺の名前なんて別にいいんじゃない。あの会長さんは、理論主席の君に興味があって近づいたわけで、なにかヒトに誇れる能があるわけじゃない俺は、特に絡む話題もないしな」

 

啓太の言葉で近くにいた千葉と柴田が『理論主席!?』と驚きを発していた。

 

「そう。その顔だよ。俺の名前は『浦島 啓太』ってな。

音だけとは言え、昔から字が足りないことを詰られたり、半端な名前だと言われたりと、散々だったわけだ。今の君が浮かべているような顔ばっかり浮かべる羽目になる―――ドゥ・ユー・アンダースタン?」

 

苦虫を噛み潰したような顔をする司波達也に返してから、ため息を吐きつつ、不承不承納得はしたようだ。

 

「悪かったよ……俺が不躾だった。申し訳ない。けれど―――偽名なんて名乗ったってすぐバレるだけだぞ?」

 

「んなもの分かってるっての、別に今後あのヒトと絡むことが無ければ、それで終わりだろ。そして―――あの総代サマと兄妹であり、待ち合わせをしているというキミの近くにいると、否が応でもやってきそうで嫌だ」

 

「未来予知か?」

 

「ただの推測だ。んじゃな」

 

別に待ち合わせをしている相手がいるわけではない啓太は、とっとと帰って引越し荷物を開けなければならないのだ。

 

踵を返して校門へと向かおうとした所に『ドドドドド!!』とアホらしい擬音を伴いながら『何か』がやってこようとしていた。

 

理解したので、早歩きでその音から遠ざかろうとする。もう、トラブルの匂いしかしないので、背中を見せて小規模な『■動』で、擬似的に競歩のフォームのまま徒競走の速度を再現。

 

だが――――。

 

「ケェエエエエタアアアアアア!!!! ウエイトウエイト!!!! 待ちなさいよ―――!!!!」

 

――――そんな術理は、少女の怒りの前では無力だった。

 

どう見ても顔見知りが鬼の形相で迫ってきていたのだった。だが顔見知りとは―――顔見知りでいたくないからこそ!!

 

「―――な、なんなんだアンター!? 知らない人間から下の名前で呼ばれ―――」

 

「―――ワタシにもその態度か―――!?」

 

「あべぽっ!!!」

 

涙を目に溜めながら殴りかかる『アンジェリーナ』の一撃。躱そうと想えば躱せたかもしえないが、それは男気がなさすぎる―――ということで甘んじて受けることにしたのだが。

 

浦島の男は、不死身にして絶回復。覚えられていなかったことが色々な意味で混乱を招くのであった。

 

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