魔法科高校のアイとま!   作:無淵玄白

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stage.20『女神来臨』

 

これはどういうことなんだろう?

 

壬生紗耶香は、眼下に広がる光景に怯えを持つ。あれだけ唾棄していた1科生たちが、JSDFよりも『未来的』な装備をしたブランシュのメンバーたちによって、圧されていく。

 

あれほど、恨みを抱いていた連中が、まるで狼熊に追い掛けられて逃げ惑う子羊のようだ。

 

自分たちの学校が戦場になったというのに……。

 

(何で私はここにいるんだろう……?)

 

「見てみなさい。日頃、2科生をあざ笑い、魔法師じゃない正常な人々を無能呼ばわりしていた連中が、狩りの獲物のように逃げ惑うわ」

 

「有子ちゃん……」

 

心底面白いと言わんばかりに、凶悪な笑みを浮かべて眼下の光景に対して感想を述べた友人は、それを消して朗らかな笑みでこちらに告白してくる。

 

「安心して紗耶香ちゃん。ブランシュが欲しいのは、魔法世界の安定の為に必要な魔法能力が高い人間のみ……『これ』はね。ある種のマーカー、識別だったの」

 

これと言って有子が示したのは、校章の有るべき場所。

 

自分と有子に無くて、いまスタンロッドで叩き伏されて、頭から血を流す1科生たちにあるもの……。

 

「―――生前(・・)の私が教師たちと備品部の連中を誑し込んで、こうするよう(・・・・・・)にした。

信じていた。こういう日が来るって、『あの御方』は、仰ったの!!! 全ての魔法能力者共を薪にして地獄を顕現してやる。お前たちを導くと 『いずれお前たちを救うために私は来臨しよう。そのために我が名を与えておこう』……そうして、私は『羽音 有子』になった」

 

「有子ちゃん……」

 

宗教的情熱を込めたその言葉が怖い。だが、どうしても引き込まれる。どうしてもその言葉が耳から離れない。

 

「けれど―――私ではあの方の御身体になれない……必要なのよ。現世で―――「旧世界」であの方が動ける身が……紗耶香ちゃんには、その資格があるわ。あの御方は、太陽系世界全ての嘆きと叫びと怒りを、一身に受けられる殉教者……」

 

その言葉と同時に、美しい女性が有子の背後に現れた。雪姫先生に少しだけ似ているその人は、まるで磔刑された主の御子にも見えた。

 

血の涙を流しながらもその眼を見開くことはない……金髪の美女は解放される時を待ち望んでいるかのようだ。

 

「お、おかあ―――お母さん……」

 

その時、紗耶香の目には亡くなった母親の姿を幻視した。

 

そしてその身体に駆け出し、縋り付いた時に抱きしめられる。優しい抱擁。どこまでも溶けるような感覚を覚える。

 

暖かなもの……。

 

「もう……いいのです。サヤカ―――アナタの嘆きと悲しみ、その全てを私が打ち払いましょう……」

 

優しい笑みだ。きっと、この人ならば―――けれど……。

 

 

―――俺はお前に、そんな風に……怖くなって―――

 

その時、少しだけノイズが走るが―――どうでもいい。あの男は、1科生だからチカラを持つことに何の価値も無いとか考える。ヒマな人間だ。

 

自分たち力なき2科生たちがどれだけ懊悩しているのか理解できない。だったらば――――。

 

 

―――こんな学校!! この学校に通う『優秀な魔法師』なんて全て死んでしまえばいい!!―――

 

その時、紗耶香の中に入り込むナニカ―――。

 

そして……。

 

「願いは聞き入れた。我が身はこれより『花』を持つ魔法師たちを摘み取ろう」

 

『変化』をした紗耶香が、その身に非ざるチカラを発する。まさしく本当にありえない魔法を発動する。

 

闇竜の息吹、闇竜の尾撃、闇竜の翼撃。

 

 

3つもの魔法。魔法師のランクで言えば戦術級魔法が3つ同時に放たれたようなものだ。

 

混乱が増える。混沌が渦巻く。混迷が増す。

 

黒いローブに身を包んだ壬生紗耶香は、全てを壊すべく動き出す。

 

 

 

「なんなのよ……これは……!?」

 

あちこちで火が上がり有毒だろう煙が立ち込める。世界が灰色になっている。そうとしか言えない状況だ。

 

七草会長の言葉も遠い。入り込んだ連中は、相当なプロのようだ。

まるで実際の戦場跡のようにとんでもない惨状が広がっていた。

 

「いたぞ!!! 魔法師だ!!!」

 

「捕らえろ!!!」

 

どうやらアブダクション狙いの様子。現れたアーマー装備の兵隊たちは、重装備でこちらを狙ってくる。

 

すかさず達也は分解魔法を放つも、相手方のアーマーは硬すぎて何よりただの『銃器』でもないことが理解できた。

 

狙いを放たれた弾丸の方に向けて消失させたあとには、深雪が広範囲に冷気を放とうとするが―――。

 

それを嫌ったのか、すかさず脱兎のごとく走り去る兵隊たち。

 

アーマーの機構なのか、自己加速魔法以上のそれで、こちらの目の前からは去っていった。なにかに気づいたらしきその後には強烈な『チカラ』の発露。

 

そして、それを感じ取りながらも走り出すこと数分して―――ソレ以上に強烈なものを感じる。

 

それは『魔法師』が触れてはならない禁忌の力。

 

顕現を果たすはじまりの力。

 

それが手始めにやったことは、魔法科高校の校舎全てを圧潰して、ねじり潰すことであった。

 

強烈な圧に晒されて、紙でも引き千切るように、校舎が崩れ去っていった。

 

「校舎が!!」

 

「残っている生徒だっている! 何なんだこれは―――」

 

圧倒的なまでの暴力であり暴威。黒い……暗黒の物質とでも言えばいいものが、全てを崩壊させていく。

 

「お兄様!!」

 

「くっ!!!」

 

深雪の願いは理解している。暗黒を砕け。そうなのだろうが―――。

 

「そういう邪魔しないでもらえる?」

 

逡巡していた達也の前にいきなり現れたのは羽音有子。危険・脅威・凶悪・悪寒―――全てのアラームを鳴り響かせて。

 

手を一振りしただけで、強烈な電圧の刃が飛んでくる。

 

マギステルの魔法の種類で『雷の黒斧』(ディオス・テュコス・メラン)というものなのだが、突如走ったそれを前にして対応が遅れた。

 

直撃する前に、どうにか深雪だけでも―――だが……。

 

風紀委員長と会長が―――。

 

 

そうして起こり得る悲劇を前にして、それを防ぐものが。

 

剣を横にして、槍を縦にして割り込んだ影2つ。

 

浦島とシールズだ。

 

何かの障壁を発生させた武器を前にしての防御行動のあとには、こちらの安全確認など二の次で、羽音に突っかかる。

 

「はははっ!! 私の相手などしていていいの!? 本物の『ヨルダ様』が来臨してくださったのよっ!? アナタの相手は紗耶香ちゃんを憑坐にしたヨルダ様よ!!」

 

「ふざけるな!! 俺の敵は―――俺が定めるのみだ!!貴様のようなレブナントに気付けなかった俺の失態だ!!!」

 

「ならば私がヨルダ様の元に行くだけよっ!!」

 

その言葉で黒色のローブを羽織った羽音は、その動作のままに、いくつものマジックアローを叩き込んでくる。

 

それはまさしく拡散レーザービームかと紛うもので、こちらを塩漬けにしてくるものだ。

 

その数571―――。

 

「無詠唱でここまで出来るなんて、グランドマスタークラス!!!」

 

「ヨルダの使徒とはいえ、詠唱もなしでここまで出来るなんて、よっぽどだな」

 

言いながらもそれを防御しきった浦島とシールズ。熱波と粉塵漂う中でも、平然と立ちあがる2人。その間に羽音は消え去り、その上で先に行こうとする2人を止める。

 

「ちょっと待て! 浦島、シールズも!! 何が起きているのか!! そして、校舎で生き埋めになっている人間たちを―――」

 

「校舎の方にいた生徒たちは無事です。予めあちこちにびっしり張っておいた転移魔法符で『全ての生体を安全区域に移せ』としておきましたから」

 

『私のセンサーにも、崩れ果てた校舎のガレキにフィギュア型は存在しません。ただ『ライフメイカー』が動けば、安全区域など、もはやほとんど存在してないでしょうね……』

 

「それでは」

 

そのホログラフAIの説明で終わりだと言わんばかりに、再び駆け出そうとする浦島を渡辺委員長は呼び止めるが。

 

「待て! 生徒の安全は信用するが――――」

 

「な、なにっ!?」

 

再び鳴り響く轟音。砕け散る学内施設の全て。どうやらタイミリミット付きのようにも感じる。問答などしている暇など無いと急かされている気分だ。

 

「あとで詳しく説明してあげますよ。ただ今は、壬生先輩にとんでもない化け物女が取り憑いて、悪さしている。そういう認識でいてください」

 

言ってからこちらが驚くほどの速度で去っていく浦島とシールズ2人。

 

そうしてから、達也は―――。

 

「追いましょう。この場で佇んでいても何も出来ませんよ」

 

「そうね……」

 

ここで退いて安全圏にいるという判断をしなかったのは、悪手かもしれないが、それでも……。

 

自分たちの無力を知らされるだけなど、はっきりとイヤなのだ。

 

 

「きゃははははは!!!!!! これがチカラ!!! これが全能のチカラ!!! これが想うままに力なきものを跪かせて自儘にしてきた連中の気持ちかぁ!!!」

 

「壬生……」

 

十文字はその哄笑にどうしても苦衷を覚える。ソレ以上に、これだけの惨状をもたらした『はじまりの魔法使い』のチカラに恐ろしさを覚える。

 

十文字の周囲で五体満足に動けるものなどいない。それどころか五体を『欠損』させられて、魔法の行使を不可能にされたのだ。

 

(確かにCADを操るには、どちらであっても基本的に『指』が必要だが……)

 

まさかその指を切り落とす、腕を斬り落とすなど想像できようか。

 

影の槍剣……明らかに鉄以上の硬度と鞭のような使用法なのに、鞭ではあり得ぬ張力で以て、数多の魔法師を無力化してきたのである。

 

「くああああ!!」

 

「ひっ!ひっ!!ひあああああ!!!!」

 

「いてぇ……いてぇぇえええ!! ああああ!!」

 

 

自分の腕や足―――更に言えば眼が潰されたものたちもいる。如何に現代の医療が再生治療に特化していたとしても、果たして回復可能なのか……。

 

そもそも脳が受け止めきれる痛みの許容量を越えたものが、総身を渦巻いているのだ。

 

魔法能力にすら影響を及ぼすかもしれない。

 

自身も足に影槍を深々と突き刺された克人は、浦島を送り出したことを悔やんでしまっていた。

 

こっちの方が最悪なのだと……。

 

「この―――バケモノがあああああ!!!!」

 

その時、この中では怪我の度合いでは運を拾っていた方である森崎が、魔法を放とうと特化型の引き金を引こうとした。

 

だが、その眼前にいきなり現れたサヤカは、その特化型CAD―――銃を掌中から『飛ばして』、同時にその空になった両掌を掴み、握手する形で。

 

 

握りつぶした。

 

 

五本の指が全て一纏めの糸束も同然に成り、その後に指を90度に『折りたたむ』ことで、CADを使うことを許さなくした。

 

万力のようなチカラで一方的に人体を破壊できる。これがマギステルというもののチカラの一端である。

 

やられた森崎は、その現実味の薄さと、痛みの無さから一瞬だけ茫然自失していたが、しかし遅れてやってきた痛みと、認識した現実を前にして最大級の悲鳴が上がる。

 

「壬生ぅうう!!!!」

 

もはや何の容赦もないままに、魔法を解き放つも―――その身体に到達することもなく掻き消える。

 

「それで?」

 

もはやどんな抵抗も無意味である。勝者の笑みを浮かべるサヤカに、歯ぎしりをしてから恨みを込めて言う。

 

「……何故、壬生紗耶香を憑坐に選んだ!? 彼女のポテンシャルは、決して優れたものではなかったはずだ!!!」

 

「別に出来の良し悪しで、私は来臨するものを選んでいるわけではないからな。だが、サヤカ=ミブの憎悪及び劣等感は素晴らしい……これだけの憎悪を作り上げて、育んできたことで、この娘の魔素の受け入れはとてつもない。この学校に残る『負の感情』の残留思念が極上の魔素となりて、この娘に集まる」

 

「………その為だけに!!」

 

これだけの騒ぎを起こしたのか!? もはや十文字とて理解した。

1科と2科での校章の有無など、全てはこの為だけに存在していたのだ。目に見える分断・区別が須く、この女を来臨させるための土壌になったのだ。

 

「羽音有子を名乗るあの子も、この学校に絶望した人間であった。いずれ短き定命を与えられた彼女の絶望を癒やす『復讐』を為させるために、この学校にて多くの奸策を行わせた」

 

誰か1人ぐらいは、校章の有無がただの備品部のミスでしかないというのを告発してもおかしくなかった。

 

そうだというのに、ここまで来てしまったのだ。

 

「ここで発生した憎・怨・恨・怒・忌・滅・呪・殺―――あらゆる負の感情が我が身に流れ込む。実に心地よく―――貴様らも味わうがいい!!! 敗北したものたちの『この世全ての悪を』!!」

 

全てが灰燼と帰した世界にて、傷つき打ち拉がれたものたちへの追い打ち。

 

サヤカ=ヨルダの周囲で黒い水とも泥とも言えるものが噴水のように湧き上がり、物理法則を乱す形で克人たちを直撃しようとする。

 

以前、フェイト=アーウェルンクスが見せた石蛇。浦島が見せた水蛇を思わせるものだ。

 

その泥から感じる怖気は克人の見た通りならば……「人間の顔」も見えていた。顔と言っても、しゃれこうべのようなものすら見えていた。

 

それらが、克人たちを直撃しようとする前に、その眼前に立ちふさがるものが現れる。

 

「太陰道・全吸収!!!」

 

そいつは怨念の集合体を全てその身に取り込んだ!

 

「ケイタ!!!!」

 

次いで現れたアンジェリーナの心配するような声。しかし、全ての怨念を取り込んだ浦島は―――構わずに怨念の集合を元に術を解き放つ。

 

「甲種術式兵装・愛憎怨水!!!」

 

そして、以前に見た時と同じくその姿を異にする男の姿が、克人の眼前にあった。

 

それは―――魔法世界において英雄と呼ばれた存在の御業。

 

偽悪的な偉い魔法使いの御業……。

 

闇の魔法(マギア・エレベア)―――術式兵装(アルマティオーネ)……!!」

 

 

―――禁忌の術式が解き放たれるのであった。

 

 

 

「ぐふっ、やはりここまでだったか……しかし、あれですな。何故、私から狙ったので?」

 

「なぁに、単純な優先順位の差でしかない。お前さんの石化魔法なんてのは『近衛木乃香』ぐらいにしか解呪出来ないからな。お前さんから仕留めようと思うのは当然だろ?」

 

その身を断罪の刃で磔にされた子爵級悪魔は『■■の使徒』の答えに成程と納得する。

 

「だが、しかし―――そのために『ヨルダ』殿を自由にしてしまっていいのですかな?」

 

「自由ねぇ。まぁ安心しろ―――状況が動けば、『フェイト』も変わらざるをえないだろうさ」

 

「全ては計算ずくか、この惨状すらも……」

 

流石は■の福音と、賞賛をしながらも皮肉を込めるが、それすら彼女はなんとも想っていない。

 

「一度は、魔法師たちにも危機感を持ってもらわなければな」

 

だが怪我人の数は多すぎた。重傷のものは多すぎる。

すぐさま麻帆良の方から回復術者を派遣してもらわなければならない。

 

あるいはカリンかシスター・村上に……。考えながらもまずは雪姫は、やるべきことをやることにした。

 

「まぁいい。お前は―――とりあえず果てろ!」

 

首を刎ね飛ばしたところで、『死』は与えられないと分かっていても、ヘルマンという悪魔にはご退場願うのであった。

 

そしてから自分には馴染みの闇の波動を感じながら―――雪姫は、もはや幻術に回していたリソースを解放してから、元の童姿に戻って一番熱い戦場へと赴くのであった。

 

 

 

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